赤司征十郎「天照大神?」

1 名前:黛千尋 投稿日:2014/02/03 23:15 ID:???
 【このスレについて】

 このスレは黒子のバスケと咲のクロスssです。世界観は咲です。

  おおまかな粗筋としては未だ無敗の帝王赤司征十郎がインターハイ終了後、
 男子麻雀部インターハイ団体優勝校に勝負を挑み、完膚なきまで叩き潰す中、
 牌に愛された子の存在を知り、天照大神の面々と死闘を繰り広げるお話です。
  
  黒バス、咲-Saki-共にインハイ終了からの十月頃までの話です。

 突発的に書きたくなってしまったネタのため、色々と間違っているとは
 思いますが、そのたびに指摘していただけると大変助かります。
  誹謗中傷は勘弁してください。なにぶん豆腐メンタルなものでして。

  それでは、拙作ながら一人でも多くの皆様に楽しんでいただけるよう
 精一杯書いていきたいと思います。
2 名前:黛千尋 投稿日:2014/02/03 23:17 ID:???
 ~2013年 8月~ 
  
  高校総体男子バスケットボール決勝戦、洛山高校VS桐皇学園高校。
 スコアは87対61点、残り時間わずか二十四秒。
  両校ともチームの要であるキセキの世代を欠いた試合ではあるものの 
 やはり、新興のバスケ強豪校である桐皇がエース青峰を欠いたまま洛山に
 挑むのはやはり荷が重かった。

 若松「打たすかァッ!ゴラァッ!!」
 実渕「イヤねぇ、下品で粗野で、その上見苦しいったらありゃしない」

 蔑むような言葉とは裏腹に彼は笑っていた。

 実渕「しょうがないわねぇ、全く」
  別に今ここで若松のファールを誘い、四点プレイをするのも悪くないと
 考えた実渕ではあったが、流石にそれはどうかと考え直し、すぐ近くの
 根武谷永吉に素早くパスを出した。

 永吉「ナイスパァス!!」
 彼の咆哮は体育館を震わせ、
 永吉「どけどけどけどけぇええええ!!!!」 
 その進撃は諏佐と桜井と今吉のトリプルチームを以っても止められず、
 永吉「ウオオオオオオ!!!!!!」
 そして、その瞬間は至極当然のように訪れる。
 永吉「マッ、スル」
 剛力と呼ばれた洛山の鉄腕が
 永吉「ダンクッ!」
 雷撃の如き一撃をゴールに叩き落した。
 赤司「....フッ」

  その笑みが零れ落ちた瞬間、王者洛山はまた一つ当然の勝利を重ねた。
 無敗の帝王の背中、未だ敗北の兆しすら見えず。
3 名前:黛千尋 投稿日:2014/02/03 23:19 ID:???
 ~2013年 8月 女子麻雀高校総体団体決勝戦~

 照「今度こそさようなら、宮永咲さん」

 そして、ここにも無敗の帝王が存在した。

 咲「お姉ちゃん...」

 それは奇しくも自らと姉をつなぐ絆であった大切な宝物。

 照「ツモ、嶺上開花」

 過去の己にとってもそれは自らと妹をつなぐ証であった。

 照「小三元、三槓子、対々和、混一色、ドラ、役牌、ダブ東」

 東四局にて宮永照は妹との長きに亘る因縁に止めを刺した。

 場に出ているのは白、中、東の三槓子。カンを待つ8索。
 
 そして最後の欠片である發を見事彼女は引き当てた。

 照「よって、13飜。数え役満16000オール」

 宿願を果たした彼女の瞳に宿るのは、

 照「これから先も、私と貴女は二度と会うことはないでしょう」

 勝利への喜悦か、
 
 咲「いや、いや....いやだよぉ、お姉ちゃん」

 それとも虚無か、
 
 照「レスト・イン・ピース」

 過ぎた過去に背を向け、無敗の王はまだ見ぬ未来へと歩みを進める。 

 ただ一人、最後まで立ちはだかった最強の敵の嗚咽を凱歌に。
4 名前: 投稿日:2014/02/03 23:24 ID:???
 第一話 赤司征十郎「天照大神?」

  勝利とは何か?

  その問いに、赤司征十郎は生きていく上で当然の基礎代謝であると答える。
 彼はこの世は勝利が全てで、勝者は全てが肯定されると考えており、
 「全てに勝つ僕は全て正しい」と信じている。 
 
 影を自称する男は、勝利しても嬉しくなければそれは勝利ではないと考える。
 それは敗者の絶望を知り、そこから光明を見出した彼らしい答えだろう。

  だが結果の伴わない理想の末路として行き着く先が敗北であるのならば、 
 自らが今までに重ねてきた勝利がそれと同価値だったと判明したのならば、 
 果たしてそれは真の勝利と呼べるのだろうか?

 理事長「諸君、インターハイ優勝おめでとう」

 IH終了後、赤司征十郎率いる洛山高校の面々は京都へと凱旋を果たした。

 理事長「このメンバーの内、一人でも欠ければこの勝利はきっと無かった」

 二日間の休み明けの最初の練習は洛山高校理事長の一言から始まった。

 赤司「...愚問だな」

 その一言に秘められた意図は余りにも明確。

 つまり、赤司征十郎には敗北の二文字はないということである。

 笑みを浮かべながら等しく生徒を激励する理事長のスピーチも、 

 三年間、遂に一度も大会に出る事無く引退する最上級生の懊悩も、 
  
 敗北を知らぬ絶対の勝利者には何の価値も持たない無意味なものだった。

 白金「理事長、ありがとうございました」 
 
 白金「赤司、前へ」

 赤司「はい」

 監督の一言が自分を現実に引き戻す。

 体育館の壇上に上がる直前、白金監督が呟いた。

 白金「しっかり決めろよ」   
 
 赤司「分かりました」

  今まで部を牽引してきた三年生の大半が、今日を以って引退する。
 
  一年生とはいえ主将が担う役割は変わることはない。
 
  いかに彼が異例の主将であれど、たった四ヶ月しか務めていない赤司が、
 最上級生のプレッシャーや懊悩を完全に理解したスピーチをできるとは
 この時点において誰も思っていなかった。

  しかし、赤司征十郎という男はその予想を遥かに超えていた。

 赤司「部をまとめ、牽引してきた先輩方、三年間ご苦労様でした」

 赤司「連綿と続く洛山の勝利の背景には、'我々が常に勝者'この矜持に
    依るところが全員の心の中にあったでしょう」

 赤司「WC・IH開催時から連続出場、優勝回数全校最多はそれを証明する
    何よりの証明だと僕は考えています」

 赤司「さて、主将である僕から先輩方に伝えたいことがあります」

 赤司「それは常に上を向き、敗北を恐れるな。ということです」

 赤司「ここにいる全員が出場してきた大会や試合で敗北を恐れず、
    常に勝利を追い求め続けているように」

 赤司「この先自分達に待ち受ける困難に屈することなく」

 赤司「常勝の王者たれという自覚と熱さを持ってバスケットボールに
    打ち込んだあの日々を忘れることなく」

 赤司「全速前進で自らが思い描く勝利へと邁進し続けて下さい」

 赤司「卒爾ながら、これにて僕のスピーチを終わらせて頂きます」

  それは時間にしてわずか五分にも満たない、あまりにも短いものだった。
 しかし、それは最後まで洛山高校を牽引してきた最上級生にとってこの上なく
 心の底から同感できる内容であった。

  それが、彼の本心とは真逆であるとは誰も知らずに...

  賞賛と拍手を一身に受けながら、赤司征十郎は壇上を後にした。
5 名前:黛千尋 投稿日:2014/02/03 23:26 ID:???
 ~部活終了後~

 永吉「ふぃー、今日の部活も疲れたぜ、ゲェフ」

 実渕「ちょっと、毎度のことだけど汚いわよアンタ。それに臭い!」

 小太郎「ふぎゃっ!ちょっと何してんだよ永吉、自分の喰えよ」

  インターハイ終了後の最初の練習を終えたバスケ部のレギュラー陣は、
 そのまま京都の街へと繰り出し、少し早い夕食を取っていた。

 赤司「相変わらず、お前達と居ると退屈しないよ」

 永吉「だろ?赤司だってそういってんだからお前も少しは我慢しろよ」 

 実渕「この筋肉ゴリラは一体何を言っているのかしらね...頭痛いわ」

  自分が洛山に入学してから約四ヶ月が経った。その間に様々な人間に
 出会ったものの、その中でも特に良くつるむようになったのが目の前の
 三人だった。

  葉山小太郎、根武谷永吉、実渕玲央。かつて自分達に立ち塞がった相手と
 こうして同じ席を囲み、談笑していることに若干の微笑ましさを感じながら
 征十郎は何気なく店に備え付けられているテレビを見た。

 司会「昨日行われた第73回全国高等学校麻雀選手権大会・団体決勝戦では、
    白糸台高校(南東京)が優勝。団体戦三連覇を達成しました」
 
 小太郎「あーっ」

 永吉「どした?小太郎」

 小太郎「このインハイに知り合いが出てんだよ」

 素っ頓狂な声を上げた小太郎は、興奮した声で話し始めた。

 小太郎「高鴨穏乃っていうんだけど、その子が俺のハトコなんだよ」

 小太郎「何でも新設で麻雀部を立ち上げて、インハイに行ったんだよね」

 小太郎「まさか決勝戦までいってるとは思わなかったなぁ~」

 小太郎の話を聞きつつ、征十郎はニュースの内容に耳を傾けた。


 司会「決勝戦は阿千賀女子(奈良)、清澄高校(長野)、臨海高校(東東京)
    白糸台高校(南東京)で行われました」

 司会「白糸台高校は全ての選手のオーダーを変更。先鋒戦では一年、大星淡
    が東一局で大三元を、南二局では純正九蓮宝燈を和了。次鋒渋谷に
    つなぎます」

 司会「三位に転落した清澄でしたが、次鋒染谷が二連続緑一色を和了。
    広がった点差を詰め、二位まで追い上げました。しかしオーラス、
    渋谷の渾身の大三元が直撃。再びラスへと転落してしまいます」

 司会「中堅戦では二年生亦野が亜空間殺法で場を乱し、相手に一度も
    アガリを許さずトップを死守。続く副将、大将戦へとバトンを
    渡しました」
 
 実渕「へぇ~、じゃあアンタのハトコはどこに出てんのよ」

 小太郎「副将戦に出てるけど...あ~っ、ほらあのポニテの女の子」

 永吉「ほ~っ、何か無駄に活発な所がお前に似てるなwww」

 実渕「ごもっともwww」

 司会「副将戦、序盤は昨年インターミドル王者原村と阿千賀女子高鴨の
    激しい一騎打ちとなりました。東四局までに臨海、清澄、阿千賀の
    順番で熾烈な二位争いが繰り広げられました」

 小太郎「いいぞ~、穏乃!!そこだ、役満だ!」

 実渕「ばかねぇ~、そんなホイホイ出るわけないでしょうが」

 小太郎「スゲェ、東北新幹線グリーン車だ!」

 永吉「ゴミ手じゃねぇかwww、しかもルールで採用されてねぇし」

 赤司「全員静かにしてくれないか?」

 三人「「「はい」」」

 司会「満貫以上の和了の応戦となった二位争いに終止符を打ったのは
    副将弘世の流し満貫でした」

 赤司「中々渋いな」

 実渕「わかってるじゃない、征ちゃん」 

 司会「東場が二位争いとするならば、南場は完全に弘世の独壇場でした。
    持ち前のシャープシュートで阿千賀、臨海女子を狙い撃った結果、
    遂に白糸台は30万点に達しました」

 永吉「コイツ知ってるぞ。白糸台のSSS、シャープシュータースミレだ」

 小太郎「うわぁ、この試合、色んな意味で強烈だなぁ」

 実渕「まるで帝光中との試合そっくりじゃない」

 赤司「...へぇ」

 司会「そして、大将戦」

 その帝王の双眸が見つめる先には、

 司会「高校生一万人の頂点にして、無敗の女王」

 他の追随を許さず、勝利の彼方に雲外の巓を求めた孤高の天才、

 司会「白糸台高校、女子麻雀部大将」

 そのあまりにも自らに似た彼女の在り様に彼は獰猛な笑みをこぼす。

 司会「宮永照」

 黛「赤司が笑っている、だと...」

 その時、彼の左眼の光彩が右眼以上に輝いていたことを黛は見た。

 だが、それはほんの一瞬の事だった。

 司会「清澄高校の宮永咲は得意の嶺上開花でチャンピオンに果敢に
    挑むも、悉く運に見放され上がることが出来ません」

 司会「それどころか、臨海女子の満貫に放銃するなどのミスが
    目立ち、残り9000点にまで追い込まれました」

 司会「それでも何とか体勢を立て直すも東四局、なんと宮永照が
    嶺上開花で数え役満を上がりました」

 司会「これが白糸台の三連覇の決め手となり、東四局一本場、
    今度は海底ロンで上がり、清一色で跳満を和了。対戦相手
    全てをトバし、三連覇を達成しました」

 実渕「ちょっと、これなによ...いくらなんでもダメよ。これ」

 永吉「完全に公開処刑だろ...。咲ちゃん泣いてるじゃねーか」

 小太郎「しずのおおおおおお!!!!」

 司会「また、男子団体戦優勝校は洛山高校で五年ぶり二度目の優勝です」

 司会「なお、チャンピオンは試合終了後インタビューに対して」

 照『三連覇という偉業を達成できて本当に嬉しいです。このメンバーで
   全国を戦い抜けたことは本当に私の誇りです』

 照『個人戦が二日後に始まるので、万全の状態で優勝を狙っていきたいと
   思います。勝って兜の緒を締めよ。です』

 司会「個人戦団体戦共に三連覇が期待される宮永照。果たして彼女の
    大進撃を止めることが出来る選手は現れるのでしょうか?」 

  十五分にわたるニュース中継がようやく終わったものの、彼等の間には
 気まずい沈黙が流れていた。

 小太郎「なぁ、赤司~」

 この一言が後にキセキの世代、赤司征十郎と

 小太郎「赤司ってさぁ、今まで負けたことがないんだよな?」
  
 牌に愛された子、天照大神との

 小太郎「だったらさぁ」

 小太郎「あの怪物、宮永照とガチンコで勝負したら勝てる?」

 未曾有の死闘の開戦の狼煙となる。
6 名前:黛千尋 投稿日:2014/02/03 23:31 ID:???
 ~8月21日~

 赤司「やぁ、失礼するよ」

  午前十一時、赤司征十郎は洛山高校の東館二階にある麻雀部の
 部室を訪れていた。

 部員A「あ、赤司君。今日は一体何の用かな?」

 赤司「いや、昨日男子麻雀部が優勝したのをニュースで見てね」

 赤司「おめでとうを言いに来たんだ」
 
  洛山高校男子麻雀部、部員数二十名。
 
  比較的最近になって設立されたこの部は、洛山の文化系の部活の中で
 唯一の全国大会の常連校だった。

 部長「チッ、お前か」

  目の前にいる三年生の麻雀部部長とは、入学した際に将棋、囲碁、
 チェス部を相手取り完封勝利を収めた際、面識があった。
 
 赤司「おはようございます。先輩、個人戦、団体戦お疲れ様でした」

  確か、囲碁部の道場破りをした際に完封された後、その相手を自分が
 完膚なきまでに叩き潰したのが気に食わず、喰ってかかってきたのが
 彼だった。と征十郎は回想する。

 部長「それで?学校一の秀才様が一体麻雀部に何か用事でもあるのかよ」

 赤司「ええ、少しだけお話を聞かせてもらいたくて」

 部長「まぁ、いいか。立ち話もなんだ。入れよ」

  麻雀部の部室はとても簡素な構成だった。
 雀卓、引き出し、トロフィー。机と椅子。それだけだった

 部長「で、一体何が聞きたいんだ?」

 赤司「部長と宮永照、プレイヤーとしてはどちらが強いんですか?」

 部長「本当にイヤな奴だな...。宮永照だよ。アイツが高校生最強だ」
 
 赤司「へぇ、」

 部長「宮永照に勝とうって思ってんのか?やめとけ、いくら
    お前でも逆立ち、いや天地がひっくり返っても勝てねぇよ」

 赤司「無駄だとわかっていますが、あえて聞きます。何故?」

 部長「....天照大神って知っているか?」

 赤司「まさか、宮永照が神だとでも?」

 部長「そのまさかだ」

 そして、麻雀部部長は滔々と宮永照について語り始めた。

 部長「俺達の代の女子高校生の麻雀部、それも全国クラスになると
    牌に愛された子っていうのがでてくるんだよ」

 部長「長野の天江衣、東京の宮永照、同じく大星淡、鹿児島の神代小蒔」

 部長「この四人の化け物じみた強さを発揮したプレイヤーの名前から取って
    天照大神ってんだ」
 
 赤司「確かに運に任せる一面が強調される麻雀ですが、そんなオカルト
    本当にあり得るんですか?」

 部長「あり得る。お前もニュースで見たんだからわかるだろう?」

 部長「役満、必ず嶺上、海底で上がる。九蓮宝燈。俺達ですら
    数え役満、四暗刻が限度だ。はっきり言って奴らは規格外だ」

 赤司「ちなみに、部長はその天照大神の高校と団体でやりあえば
    勝てる自信はありますか?」

 部長「永水女子と龍門渕なら絶対に飛ばせる」

 赤司「そうですか。なら話は早い」

 赤司「率直に言おう」

 赤司「僕はお前達麻雀部に勝負を申し込む」

 部長「へぇ、随分と嘗めたもんだな。お前」

 部長「俺はお前の事が入学した時から大嫌いだったんだよ」

 部長「特にその人を見下し、蔑むような眼がな」

 赤司「べらべらと喋るな。その劣等感の正体は単なる格の差だろう」

 赤司「ハンデをやろう。お前達の好きなルールで僕を倒しに来い」

 赤司「僕が負けたら、洛山のウィンターカップ出場を取り下げる」

 部長「で、俺らが負けたら麻雀部は廃部ってか?」

 赤司「まさか。それに何故だ?」

 赤司「取るに足りない賭け事に対して僕がお前達に本気になる必要がある?」

 赤司「答えを聞かせろ。やるか、やらないのか?」

 部長「やってやるよ。今に見てろ」

 部長「ルールは25000点の東風戦2回と半荘戦一回だ」

 部長「一戦が終わるごとに最下位の奴が脱落する」

 赤司「敗者らしいもっともな戦略だな」

 部長「更に、お前にはハンデを負ってもらう」

 部長「お前の勝利条件は俺達全員を四回戦の間に全て飛ばす事だ」

 赤司「いいだろう。受けて立つ」 

 赤司征十郎の進撃、ここにはじまる。
7 名前:黛千尋 投稿日:2014/02/03 23:38 ID:???
 ~半荘一回戦目~

 東 部員A  25000点 5679萬、33688筒、5索、北白白東

 南 部員B 25000点 34萬、14筒、345788索、南白發

 西 部員C 25000点 122399萬、789筒、16索、南發

 北 赤司 25000点 345萬、27789筒、157索、東西

 部長「最初の一回戦目はお前が親だ」

 赤司「そうか」

 手牌を確認した赤司は呟き、最初の牌をツモした。
 
 赤司(中。字牌か、手牌としてはあまり良くないな)

  この東一局をどう乗り切るのかをしばし考える。
 
 赤司(大物手をわざわざ和了る必要はないな)

 征十郎、まずは自牌から安牌である北を捨てる。

 赤司手牌 345萬、27789筒、157索、東西

 序盤を見に徹するのは、勝者の戦略において極々普通の事だ。

 赤司(この半荘で気にすることがあれば、僕自身の聴牌の速さだな)

 赤司(状況が動くとすれば、恐らく十順目以降だ)

  自分が東を捨てたのを皮切りに試合が始まった事を感じた征十郎は
 五感をフル動員させ、どのようにこの初戦を終結させるのかに自らの
 思考をシフトさせ始めた。

 ~六順目~

 捨て牌
  東家 北東白白①中
  南家 發西白南①東
  西家 南發6六六中⑥
  北家 東中東⑦②9①

 赤司(字牌はあらかた出尽くしたな)
 
 赤司(全員が今の所、何も鳴かないということはつまりツモ狙い)

 赤司(おそらく南家が満貫以上を狙っているのと考えるのが妥当だ)

  麻雀も六順目以降となると、対戦者がが何を狙い和了るのかが
 朧げながらわかり始めてくる。それが何を意味するのかも

 赤司(まだ誰もリーチをかけていない)

 赤司(中がまた捨てられた)

 赤司(間違いない、全員が3飜以上を狙っている)

 部員C「ポン」

 その時の赤司の手牌、3458萬、27789筒、3577索
 
 対して赤司の注目した南家の手牌は345萬、365筒、2245789索

 手牌を一見すれば索子がある程度削がれている征十郎が有利である。

 赤司(捨てられた牌を占めるのは萬子や筒子の3~6以上)

 赤司(このままいけば誰かが十順目までに手牌を整える可能性がある)

 赤司(ならば、)

 赤司(それより早く和了るのみだ)

 自らの牌が完全に通るように万全を期した赤司が捨てたのは一筒。

 部員C「チー」

 再び部員Cが鳴く。彼の場には中中中と一二三筒子が出揃った。

 赤司「へぇ、」

  それが自分の有効牌を流す為の苦し紛れの算段ということをすぐに
 看破した征十郎はこの時点で自らの勝利を確信した。

 ~十順目~

 捨牌
 
 東 北東白白①中919⑧⑧
 南 發西白南①東①91三⑥北7
 西 南發6六六中⑥③北西中二二
 北 東中東⑦②9①西七萬リーチ五四

 赤司「リーチ」

 部員Cの無意味な副露が結果的に自らの和了を速める結果となった。

 手牌は345588萬789筒34577索。あと一つ七索が出ればその時点で和了。

 ドラが七萬でありリーチをかけている以上、三飜は手堅い。

  全国大会の団体戦メンバーを差し置き、最初にリーチをかけた征十郎に
 部員達にも緊張と動揺が走る。

 部員A「リーチ」

 遅ればせながら団体戦で次鋒を務めた部員がリーチをかけた。

 赤司「僕の手牌には六萬はないぞ」

 部員A「なっ、」

 赤司「大方ドラで4飜くらい乗せて満貫以上の手を和了する算段だろう?」

 赤司「だが、絶対は僕だ。お前の和了の芽は既に絶たれている」

 動揺した部員Aはそれでも気丈に振る舞い、九筒を切った。

 赤司「なるほど、七対子狙いか」

 部員B「カン」

 見計らったように部員Bが九筒を槓した。

 恐らくこのカンは嶺上開花ではなく、単なるドラの上乗せだろう。

 七萬の隣の牌がひっくり返される。そこから二筒が姿を現した。

 ぎりりと歯軋りをしながら彼が何気なく捨てたのは八筒。

 その捌き方は流石に全国区のプレイヤーと言った所だった。

 十一順目の僕の捨て牌は五萬だった。

 赤司「ロン。リーチ、ドラ。三飜5200点」

 十二順目を迎え、南家の自滅により東一局は終了を迎えた。
 
 終了時の各家捨て牌

 東 北東白白①中919⑧⑧
 南 發西白南①東①91三⑥北7索リーチ
 西 南發6六六中⑥③北西中二
 北 東中東⑦②9①西七萬リーチ五

 赤司和了時手牌

 34588萬789筒345777索
 ドラ七萬、二筒

 点数、一位赤司 30200点
    二位部員A 25000点
    二位部員C 25000点
    四位部員B 19000点
8 名前:黛千尋 投稿日:2014/02/04 00:44 ID:???
~東3局1本場~

 手牌

 東 部員B 29000点 2456萬、56筒、114索、東東西白中
 南 部員C 18200点 269萬、11223889筒、8索、北
 西 赤司  29200点 999萬、999筒、666索、發發發白
 北 部員A 23000点 23萬、2245筒、133579索、西

 ドラ、八萬

 赤司(妙な手牌だな。イカサマか?)

 赤司(それとも手加減されているのか?)

 この時、赤司征十郎の手牌はまさに悪魔の所業だった。

 天江衣、宮永照、大星淡、神代小蒔らが牌に愛された子ならば、

 赤司征十郎はその真逆の頂に位置する者である。

 即ち、赤司征十郎は牌に愛された子に非ず。

 之、万象を支配する王者也。

 逡巡も躊躇いもなく、至極当然のように牌をツモする征十郎。 

 部員「嘘だろ、ありえねぇ」

 部員「赤司様ぁ、素敵...///」

 四暗刻白単騎待ち。この時点で赤司征十郎は己の勝利を確信した。

 東3局1本場西家、赤司征十郎の第一ツモは...一筒。

 征十郎は躊躇いなくそれを捨てる。

 部員A「ポ、ポォン」

 へなへなと今にも崩れ落ちそうな声を上げた先鋒がそれを副露する。

 その後、彼は東を捨てたと同時に果てた。

 部員B、何故かそれをポンする。

 手牌は123456789索東東南北から123456789索南北 東東東となる。

 ツモは四萬、当然それを切る。

 部員Cは後にこの対局をこう語る。

 ~回想~

 部員C「ええ、いたんですよ。僕の高校に牌に愛された子以上の
     実力を持つ化物が」

 部員C「そりゃあ僕らだって全国区のプレイヤーですからね」

 部員C「自分達の実力がプロに届くという自負も少なからずありました」

 部員C「僕が一年生の時、たまたま永水女子と練習試合をしたんです」

 部員C「副将戦まで僕ら勝ってたんです。トータルで3万点差をつけて」

 部員C「だけど大将戦、神代小蒔に全部の点数を毟り取られたんですよ」

 部員C「絶望しましたね」

 部員C「えぇ、狙いすましたようにトリプル役満されましたよ」

 部員C「その後、彼女はインハイでベスト4まで行きました」

 部員C「部長、その時の負けがショックで未だに永水女子に勝ったって
     思い込んでいるんですよ」

 部員C「だけど、あの経験が皮肉な事に僕達を全国一位まで押し上げました」

 部員C「話を戻します」

 部員C「赤司征十郎はおそらく彼女達より遥か上の次元にいるでしょう」

 部員C「牌に愛されているのではなく、牌を統べる帝王として君臨している」

 部員C「あの対局で僕等麻雀部はそれを嫌ってほど思い知らされましたよ」

 ~回想終わり~

 赤司「ツモ、四暗刻単騎待ち、ダブル役満」

 赤司「これで一人脱落だ。次の人に入ってもらおうか」

 部長「待て、まだ最後まで終わってないだろう」

 部長「残り一局、最後まで打て」

 赤司「そうか。ならば僕は抜けさせてもらうよ」

 赤司「二位以下の争いは三麻で決めればいい」

 赤司「その間僕は少し休ませてもらおうか」

 赤司「それと、君達に要求するペナルティを思いついたよ」

 赤司「僕の好きな時にここを天照大神の攻略シュミレーションの場
    として使わせてもらおうか。勿論、僕の納得がいくまで」

 部長「...」

 赤司「沈黙は肯定と受け取るが、それでいいな」

 部長「俺は、お前を...」

 赤司「それじゃ、次の試合が始まるときにでもまた呼んでくれ」

 部長の口から飛び出した悪罵を軽く受け流し、征十郎は教室を出た。
9 名前:名無し 投稿日:2014/02/04 01:04 ID:???
読んでる
10 名前:名無し 投稿日:2014/02/04 07:43 ID:???
支援
11 名前:名無し 投稿日:2014/02/04 18:51 ID:???
絶望的おもんねぇ・・・
12 名前:黛千尋 投稿日:2014/02/05 20:13 ID:???
 ~東風戦 二回戦目~

 東家 部長  25000点 手牌  267萬、123筒、3467索 東白發
 南家 部員B 25000点 手牌  9萬、12457筒、128索 北白中中
 西家 部員A 25000点 手牌  168萬、38筒、1699索 東西發中
 北家 赤司  25000点 手牌  1247萬、1499筒、188索 南北

  一回戦目から30分後、麻雀部の一人が隣の教室に待機していた
 征十郎に二回戦の準備が出来たと告げた。

  気だるげな表情の中に微かな興味を浮かべ、再び彼は卓に着いた。

 赤司「なるほど、今度はそちらから打って出るというわけか」

  着いた卓には既に飛ばされた部員に代わり、部長が座っていた。

  先程の失態を受け、大将自ら打ってでるというのは理解できなくも
 ないが、それにしては出陣のタイミングがあまりに早すぎた。

  別に自分が負けているとは微塵も思っていないが、残り二人の
 表情を見る限り、相当動揺しているようだ。

 赤司(さては、鼓舞に失敗したな)

  成程。それなら合点も納得もいく。

 部長「舐めてんじゃねぇぞ、赤司」

 部長「おいそれと役満ばかり上がれると思ったら大間違いだ」

  顔をまるでトマトの様に真っ赤に染めた部長の一言一言は怒りに
 震えていた。これが全て自分を嵌める為のブラフなら大した役者だ。

 部長「さっきの役満がまぐれだってことを教えてやる」

 赤司「それについては認めよう。あれは流石に上手くいきすぎだ」

 部長「て、手前ェッ!」

 赤司「さて、時間は限られている」

 赤司「僕もまた、再度ビギナーズラックに期待するしかないか」

  自分の優位性が未だに揺らいでいないと確信した征十郎は東家の
 部員にツモを促した

  部員Aが牌をツモる。彼は自分の牌の中から發を河に捨てた。
 続いて部員B、部長が牌を順にツモしていき、それぞれ北と一萬を
 河に捨てた。

 赤司(ドラは三萬、手牌の状態は即聴牌には程遠い)

 赤司(七順で七対子は...、流石に過信が過ぎるな)

 征十郎、前半戦は見に徹することを決意する。

 赤司(となれば)

 自分がツモした北をそのまま河へと捨てる。

 二順目、三順目と牌が河に積み重ねられていく。
 
 赤司(牌に愛された子か...)

 赤司(先程の東風戦の牌譜を見直していたが)

 赤司(僕の河に捨てられている牌の多くが字牌や一九字牌)

 赤司(あの対局の内、僕が副露されたのはたったの二度だけ)

 赤司(正確さを図る上においてはこの対局は全く当てにならない)

 赤司(だが、この偶発的な配牌をもっと突き詰めれば...)

 赤司(その果てにある、牌に愛された子以上の力を)

 赤司(僕は手に入れられるだろう...!)

  僅か一回戦の対局の間に自らの打ち筋や特徴をほぼ独力で完全に
 見極めた征十郎の顔は少しばかり緩み始めていた。
13 名前:黛千尋 投稿日:2014/02/05 20:14 ID:???
 五順目、南家が中をポンした。
 南家の手牌はこれで赤ドラ五萬の対子、2457筒、1288索となる。
 
  しかし、赤司征十郎の眼中にはそのポンは映っていなかった。

 赤司(この時点で僕の捨て牌は北南一索、一筒、一萬が二つ)

 赤司(この持続性、半荘戦を何度も繰り返しても、最後まで
    保つのかが目下の課題だな)

  頭の中で自分が引き当てる牌の分布の特徴を考えながら何気なく
 ツモした第七順目の牌は南だった。

 赤司(手牌にはあと九筒が二枚残っている)

 赤司(後は相手が何を張っているかを考慮し、打たなければ)

  静寂と共に河には捨て牌が積み上げられていく。
 しかし、未だに中以外の副露は出てこない。

 赤司(これでは流石に疑われるな...)

 十順目、自分の河を見遣った征十郎は思わず苦笑してしまった。

 赤司(未だに副露されていないとはいえ、これでは露骨すぎる)

 赤司(麻雀は確率と長期戦の競技だ)

 赤司(巧妙に、かつ狙いを悟らせないように正確に打たなければ)

  この時点で赤司は朧げながらにして考えていた流し満貫を放棄。
 手牌から三索を河に捨てた。
14 名前:黛千尋 投稿日:2014/02/05 20:16 ID:???
 部長「リーチ」

 十四順目。部長、初リーチ。

 手牌の構成は567萬、123345筒、2345索の一発狙い。
 
 八萬を捨て、南家の動向を見守る。

 部長「ロン」

 手牌を倒し、淡々と全員に告げる。

 部長「立直、一発3900」

  ドラ三萬、裏ドラ7索ではあるものの十順目にかけた西家の
 リーチで5900点。これにて一躍首位に躍り出る。

 部長「次だ。次」

  ちらりと赤司の捨てられた牌をみようとするも、既に牌は
 大きく口を開けた自動卓に全て吸い込まれた。

 赤司「....」

 部長(焦るな、焦るな)

 部長(コイツみたいなタイプは絶対に自分が優位だと思えば序盤は
    見に回るタイプだ)

 部長(絶対に上がらせないし、聴牌させない)

 部長(アイツが油断している隙に、連携して摘み取ってやる)

 部長(奴が勝利する可能性を)
15 名前:黛千尋 投稿日:2014/02/05 20:18 ID:???
 ~東一局 一本場~

 東 部長 29900点
 南 部員B 21100点 
 西 部員A 24000点 
 北 赤司  25000点

 一本場時、赤司の手牌は赤ドラ5、7萬、33445筒、16899索である。
 
 赤司(何となく読めてきたぞ)

 赤司(恐らく僕の力は、内向的な種類だ)

 赤司(天帝の眼のように相手の先を読み、断ち切るのではなく)

 赤司(堰を切った暴流の如く、必要な牌が流れ込んでくる系統の力だ)

 赤司(端的に言えば場の支配。だがまだまだ天帝の眼のような完全な
    精度には程遠い)

 赤司(違う!!もっとニュートラルに考えろ。先入観を捨てろ!)

 赤司(場を支配する?字牌が優先的に集まるだと?!)

 赤司(否定しろ、修正しろ)

 赤司(易の思想と同じだ。様々なパターンと役の組み合わせの複合)

 赤司(完全を求めるな。99%の確実な絶対を確立させろ!)

 赤司(残り1%の未確定要素をこの対局で特定するんだ!!)

  目まぐるしい思考の渦に身を投じていても、得点を得ることは叶わない。
 
 部員B「リーチです」

 点棒のカラン、という音でようやく征十郎は我に返る。

 今の自分の手牌は57萬、33445筒、116899索。

 七対子を作ろうにも最短でもあと五順は確実に欲しい所だ。

 赤司(全員の不要牌をみると改めて筒子が少ないな)

 赤司(一筒が半分出ている所を見ると、彼の待ちは7か8筒)

 赤司(なら、次は5筒をきれば確実に通る)

 赤司の左目の眼光が部員Aを鋭く捉える。

 部員Bが二度瞬きし、歯が三度カチカチとなる。

 無意識化に発動した天帝の眼が次の一手を正確に予測する。

 部員A、六索をあっけなく放銃。

 部員B「ロン。リーチ一発タンヤオ 5200は5500」

 固唾を呑んで見守る麻雀部員達に安堵の溜息が漏れた。

 部長「油断するんじゃねぇ!隙を見せるな!」

 その一声で我に返った部員は素早く牌を崩し、次局に備える。
16 名前:黛千尋 投稿日:2014/02/05 20:20 ID:???
 ~東二局~

 東家 部員B  26600点  手牌 3579萬、7筒、12389索 南西中北
 南家 部員A  18500点  手牌 8萬、48筒、3456679索 東白發
 西家 赤司 25000点  手牌 12334468萬、78筒、4索 西
 北家 部長  29900点  手牌 12239萬、1234筒、2索 東東北

 部長(ドラは5索、上手くいけば倍満手だ)

 部長(赤司は今の所、静観を決め込んでいる)

 部長(いや、多分見極めているんだろう)

 部長(赤司、おそらくお前はこの局を絶対に降りるだろう)

 部長(忌々しいがここまでアイツに直撃を喰らわせた奴はいない)

 部長(開局時から点数は±0のままだ)

 部長(なら、ここで主導権を握らせてもらおうか!)

  東家の最初のツモは八索。しかし西を捨てる。南家、赤司は八萬、
 一筒を捨てる。

 部長(二筒か。とりあえず四筒を捨てるか)

 こうして部長の倍満手を和了る為の決死行が始まった。
17 名前:黛千尋 投稿日:2014/02/05 20:21 ID:???
 ~5順目~

 部長(よし、来てるぞ。引く牌引く牌が上手くひっかかる)

 部長の手牌、1239萬、123筒、23索、東東北北。

 部長(赤司の狙いは恐らく役満、あるいは清一色)

 部長(そろそろここらで動くんだろうが、そうは問屋が下さねぇ)

 部長(ここで俺達の内、誰かを飛ばすにはそれ位しかねぇだろう)

 赤司「お察しの通りですよ。部長」

 赤司「最低でも6飜は欲しい所です」

 部長「うるせぇ、黙ってろ」

  もし自分が倍満を上がれば、誰かが必ず一万点以下となる。
 そうなれば必然的にソイツは狙われ、最終的に次の局で勝敗が
 決する場合もあり得る。

  そうなれば、赤司だって半荘戦で残り四人を相手取り、
 全てを飛ばすことは不可能に近い。ただでは済まないのだ。

 部長(今の発言はブラフだ)

 部長(おそらく、心理的動揺を誘う挑発だ)

 部長(それでも、コイツはまだ和了ろうとはしないだろう)

  相手が何を狙っているのかが全く読めない。故に麻雀は恐ろしい。

 部長(お前の手の内は分かってるんだよ。萬子の清一色)

 部長(だったら、ここで一気にリーチをかける)

  部長、このツモが天王山と直感で理解する。
 
 部長(来い、当たり牌!)

 引き当てたツモは東。

 部長「リーチだ!」

 九萬を即座に切り、完全に臨戦態勢に入る。

 部員A、部員B。即座に部長の狙いを汲み取る。

 しかし、二人とも一索をツモれず、遂に赤司のツモを許す。

 赤司「オープンリーチ」

 全員がその一言に愕然とする。

  赤司征十郎は気が狂ったのか?
 それともここから戦局をひっくり返すつもりなのか?

  帝王の両眼が赫光を帯び、爛々と輝く。そして、遂にそのベールに
 包まれた己が手牌を衆目に曝け出した。

 部員達「ひ、ひぃっ!!」

  それは、逃れようのない恐怖そのものだった。

 赤司「123萬、123筒、123索、南南西西」

 赤司「さぁ、これで条件は五分と五分。いや貴方の方が有利か...」

 赤司「残り一枚をどちらが早く引き当てるか」

 赤司「早撃ち勝負と行きましょうか」
18 名前:名無し 投稿日:2014/02/05 20:31 ID:???
 ~東四局0本場~ 

 東家 赤司 29600点 ???
 南家 部長 45900点 1379萬、24779筒、2245索 
 西家 部員B 23000点 2245568萬、28筒、1789索 
 北家 部員A 1500点 ???
 
 部員B(無理だよ...何なんだよコイツ。もうどうすりゃいいんだよ)

 部員A(...)

 部長(駄目だ。もう、心が折れた)

  苛烈な展開を辛くも、いや見事制したのは部長だった。
 部員Aの捨てた一索をあの赤司征十郎より早くロンしたからだ。

  しかし、結果的にこれがこの卓に着く部員達の士気を著しく欠き、
 更には彼自身の心をズタズタに切り裂いた。
 
 赤司(終わりを迎えてみれば、存外あっけなかったな) 

  東3局、得体の知れない恐怖の影を抜き去るべく、部長、部員Bが
 それぞれ満貫と七対子へのリーチをかける。しかし、手中から零れ
 落ちた勝利は必然、赤司征十郎へと転がりこみ...ロンされた。

 赤司『ロン、タンヤオ、ドラ。2600点』

  赤司征十郎の裂心の計略、ここに完成したり。

 部長「まだだ。まだ勝負は終わっちゃいねぇ!」

 部長「しっかりしろよ!この勝負は絶対に勝てる」
 
 部員B「ぶ、部長...お願いします...頼みますよぉ」

  何とか折れそうな心を必死に矜持で押し留め、仲間を鼓舞する
 麻雀部部長。

  だが、彼は知らない。

  一度猜疑という黒い墨を垂らされた心は、例え自らが優勢で
 あろうと、物事の真贋を見極める事すら困難に成り果ててしまうのだ。

 赤司「特に心を打たれるわけではないが、感動的な台詞だな」

 赤司「大根役者に対する半畳打ちと同程度なのが少々残念だよ」

 部長「赤司ィイイイイ!!!」

 赤司「沈黙は金、雄弁は銀だ」

 赤司「頭が高いぞ」

  親の和了の点数は子の1.5倍。当然親が5飜以上で和了れば、
 この卓の誰かが必ず飛ぶ。それだけは確定している。

  だが、彼等には勝機がある。流局だ。
 
  いくら赤司征十郎が牌を支配していようと、和了できなければ
 何の意味もない。むしろ、その瞬間彼等はほぼ確実にこの窮地を
 乗り越えられるのだから。

  それでも、赤司征十郎は規格外だった。

 赤司「予告しよう。僕は6順目以内に必ずロン和了する」

 赤司「もし和了出来なかったら、僕の敗北でいい」

 赤司「ハンデをつけてやろう」

 赤司「何なら10飜縛りでも構わない」

 赤司「それ以下の役で僕が和了れば、それも僕の負けでいい」

 部長「よくも、俺達を...ここまで虚仮にしやがって」

 部長「皆聞いたな!!」

 部長「コイツが負けたら全員で袋叩きだ」

 部長「やってやろうじゃねぇか...」

 部長「引けや、テメェの親番だ」
19 名前:黛千尋 投稿日:2014/02/05 21:20 ID:???
  部長の恫喝を聞き流し、第一ツモをする時、赤司征十郎の脳裏に
 ふと浮かんだ光景はロシアンルーレットだった。

  賭けるのは自らの命、即ち勝利だ。
 
  自分が込めた弾丸はたった六順の間に拾うツモ牌と刹那の時。

  命と引き換えに勝利を得るのではない。

  何故なら、今の彼の心中には「赤司征十郎は赤司征十郎」という理屈にも
 なっていない自負、自分が自分であり続ける限り敗北することは皆無。
 という自己の全肯定が漲るように溢れていた。

  故に、

  彼は天帝の眼を持ち、

  故に、

  彼の進む道は曙光に照らされる。

  赤司征十郎の第一ツモ、北。
 
  手牌より、五索を切り捨てる。

 赤司「リーチ」

 部長「ポォンン」

 最早、体裁も面子もかなぐり捨てた麻雀部部長が捨身の特攻を仕掛ける。

 部長、第一ツモ六萬。

 手牌より北を切り捨てる。

 部員B、もはや諦観と共に第一ツモ、3筒を引き当てる。

 部員B「....」

 部員Bが手牌より切り捨てたのは....二索。

 部長「おいおいおい、俺達が負ける?冗談だろ?嘘だろ」

 部員A「部長、まだですよ」

  この卓に着きながら、今一番絶望的な状況に面している男が、
 無敵の帝王に挑む決心を遂に決めた。

 部員A「僕達は洛山高校男子麻雀部代表メンバーです」

 部員A「確かに、洛山のバスケットボール部に比べれば役者不足も
     いいとこです」

 部員A「僕のミスで何回も負けそうになりました」

 部員A「永水女子との練習試合の時も、僕があの神代さんに
     東を振り込み、トリプル役満を和了されちゃいました」 

 部員A「たった一度でもいい、牌に愛された子に勝ちたかった」

 部員A「だから、」

 部員A「だから僕は」

 部員A「勝利の神に愛された赤司征十郎を今ここで倒す!!」

 部員A「勝負だ、赤司征十郎!!」

 部員A「オープンリーチ!!」

 それは、見紛う事なきキセキの結晶だった。

 赤司「美しい...」

 赤司「君のその闘志、俺は敬意を表するよ」

 赤司「国士無双十三面張とは....」

 赤司「だが、残念だよ」

 赤司「君が手の内を終盤で全て晒したとしても」

 赤司「それでも僕には届かない」

  土壇場で役満手を引き当てるという時点で、この勝負は既に尋常な
 麻雀から完全に逸脱している。

  常軌を逸した勝利を目前に部員Aが冷静さを欠くのは至極当然である。
 赤司征十郎は一巡目からの役満手オープンリーチの理由をそう看做した。

 赤司「勝ちに拘っているという時点で君達は既に敗北している」

  銃口をこめかみに当て、撃鉄を起こす。

 赤司「王は常に、孤高と共に頂の上に座し、全ての勝利を得る」

  しかし、最後まで帝王の表情は絶対に揺らぐことはなく、

 赤司「君のその蛮勇が結果的に身を滅ぼす最大の決め手となった」

  既に確定した筈の、彼等の勝利の予定調和を

 赤司「ツモ」

  その天帝の眼が、瞬く間にその運命を塗り替える。

 赤司「字一色、役満だ。16000点オール」

  赤司手牌 東東南南西西北北白白發發中中

 赤司「勝利とは常に絶対者に共にあり、冠される称号だ」

 赤司「虚飾が剥がれたな。偽りの王よ」

  最早、この場にいる麻雀部員は言葉も、視覚すら失っていた。

 赤司「さて」

  洛山高校男子麻雀部、ここに総ての雀士斃れることと相成り候。

 赤司「最後の半荘戦といこうか」

 

 
20 名前:黛千尋 投稿日:2014/02/05 23:31 ID:???
 ~8月24日 東京、白糸台高校~

  第73回目のインターハイを終え、宮永照と広世菫は引退し、

 白糸台高校は新部長に亦野誠子を、副部長に渋谷尭深を据え、

 新たな体制へと移行した。

  白糸台一軍メンバーに与えられる個室にはもうあの二人はいない。

  無双の実力を誇り、最後まで敗北せずに勝利し続けた宮永照。

  最後まで白糸台の女子麻雀部を牽引した大黒柱、弘世菫。

  この二人が後半年もしないうちに、白糸台高校を卒業してしまう。

  そう考えると淡の心にはいつも穴が開く。

  けれど、

 照『淡。先に行って待ってるから』

 照『白糸台の伝統と伝説を引き継げる存在は淡だって私は信じてる』

 照『間違っても阿千賀や永水に負けないようにね』

 菫『大星、来年からはお前も二年生だ』

 菫『どうせお前の事だ。調子に乗って必ずどこかでポカをやらかす』

 菫『先輩としての自覚をもてとは言わない』

 菫『だが、最後まで大星淡が誇れる意地と在り様を貫き通せ』

 菫『最後に、亦野と尭深を精一杯しごいてやれ』

 菫『それじゃ、大星』

 照『淡』

 菫・照『白糸台の大黒柱として頑張れ』
21 名前:黛千尋 投稿日:2014/02/05 23:33 ID:???
 淡「ほんとに二人ともいなくなっちゃったんだね...」
 
 淡「だけど・・・」

  宮永照と弘世菫と過ごした日々はたったの三ヶ月だった。

 けれどその日々は自分の背に、この胸に一つとなって生き続けている。

 あの日々に交わした想いは今、自分が受け継いでいる。

  だからこそ、彼女、大星淡は決意する。

 淡『テル―もコマキもコロモもその他大勢も』
 
 淡『私の前に立ちはだかるなら、全部ゴッ倒す!』
 
  そんなわけで、彼女は今日もまた天真爛漫に振る舞う。

  陽に照らされて星は輝く。

  そして輝ける星はこれから続く白糸台の栄光の道程の先達となる。
 
 誠子「...」

尭深「...」

  淡がゴッ倒しの決意を固めたと同時に、誠子と尭深が浮かない
 
 顔をして虎姫専用の個室に入ってきた。

 淡「おっはよー。セーコ、タカミ~」

 尭深「...おはよ」

 誠子「おはよう。大星」

 淡「なに~、どうしちゃったの、タカミ?」

 尭深が不安げな表情と共に誠子を見遣る。

 誠子の表情は無表情ながら、何故かその瞳の奥に悲壮感が溢れていた。

 誠子「大星、今週のWeakly麻雀を見てないのか?」

 淡「?見てないよ」

 誠子「私達がインターハイの団体戦の優勝直後に書かれた記事だ」

 誠子の苦悩の理由を知らないままに大星淡は記事を読み始めた。
22 名前:黛千尋 投稿日:2014/02/05 23:36 ID:???
 ~長野の超新鋭、清澄高校瓦解か?!~

  
  今年も暑い夏が終わった。

  白糸台高校の三連覇、宮永照の個人戦連覇を以って幕を下ろした女子

 高校麻雀界は来年の夏に向けてまた再び特訓の日々が始まる。

  しかし、彼女達の取った行動が再び大波乱を巻き起こす。

 淡「ちょ、ちょっとこれなんのつもりなの?!」

 誠子「最後まで読みなさい」

  記事を目で追っていくうちに今自分が目にしている内容を疑う淡に、
 新部長亦野誠子はただ続きを読むように促した。   

  長野県インターハイ出場校にして期待の新鋭を要する清澄高校の
 二翼の去就が王者白糸台の盤石を脅かす。

  次のページには大々的にあの二人の見出しが組まれていた。

  宮永咲、原村和。飽くなきまでの勝利への追求

  昨年のインターミドル個人戦覇者の原村和はインターハイ終了後、
 長野から両親の仕事の都合で東京へと引っ越した。そして、なんと
 先日まで鎬を削りあった臨海高校へ転入した。

  本誌の極秘インタビューにて原村はこう答えた。

 和「私が清澄で麻雀を続ける為には、あのインターハイ団体戦で
   優勝するしか方法はありませんでした」

 和「宮永咲さん、中学からの親友である片岡優希さん、そして、
   清澄高校麻雀部を設立した染谷まこ先輩、部長の竹井久先輩、
   唯一の男子部員の須賀京太郎君」

 和「彼等と離れたくなかった。だから私は死に物狂いで戦った」

 和「でも、それが結局実を成すことはありませんでした」

 和「あのインターハイで私が得た結論は一つ」

 和「勝利への渇望こそが勝負の全てに帰結するという事です」

 和「私のインターミドル覇者の肩書は所詮、金メッキだったんです」

 和「一つだけあの試合に感謝することがありました」

 和「どうやら私って負けず嫌いだったようです」

 和「だから、」

 和「来年のインターハイで白糸台を倒します」

 和「例え、その道に親友が立ち塞がることになったとしても」

 和「刺し違えてでも必ず勝利をもぎ取ります」

 和「白糸台も右に同じです」
 
  鬼気迫る般若の如き様相にはかつての理知的な冷静さはどこにもなく、
 ただその心の中には噴火寸前の煮えたぎるマグマのような熱さが
 あった。 

  圧倒的な原村のインタビューの三日後、宮永咲も遂に清澄を
 去った。彼女が転入したのはなんと龍門渕高校だった。

  宮永咲の転校についての詳細は目下調査中だが、同校は清澄に
 敗れるまで県下一の高校にしてインターハイ常連校だった。

  この一件について天江衣選手は『転校の仔細については
 個人のプライバシーなので自分が答えるわけにはいかない。
 だが、来年も面白くなりそうだ』と回答した。
23 名前:黛千尋 投稿日:2014/02/07 22:46 ID:???
 淡「へぇ、要するに逆恨みってことね」

 淡「ま、それも勝負の形としてはありなのかも」

  かつて戦った相手が、今度は形振り構わずただ勝利だけを
 追い求める貪欲さを剥き出しにしたことは、少なからず
 淡にもかつて無い程の緊張感を齎した。
  
 淡「で?セーコはこんな記事をタカミと二人で顔突き合わせて
   辛気臭くなるまで読みふけってたんだ」

 誠子「...」

 尭深「淡ちゃんがうらやましいな、私」

 尭深「いっつも飄々としてて、自信に溢れてて」

 尭深「なんだかんだ言っても最後はちゃんと勝つんだもん」

 尭深「誠子ちゃんより、ずっと部長に相応しいよ」

 淡「それは、テル―とスミレへの侮辱って事でいいのかな?」
 
 尭深「誠子ちゃんがさっき私に打ち明けたことだよ」

 淡「...」

 誠子「...」

 尭深「...」

  その沈黙は持つ者と持たざる者の決定的な溝だった。
 
  常勝不敗の白糸台の看板を新たに背負う事になった亦野誠子は
 ずっとインターハイ終了日から悩み続けていた。

  準決勝での大量失点を始めとして、常に二軍上位メンバーから
 追い続けられる恐怖、そして一度もチーム虎姫の面々と戦っても
 勝利できなかったことへの引け目。

 そして遂には蓄積された不安が、疑心暗鬼を己の心の中に生じさせた。 

 誠子「怖いんだよ、大星」

 誠子「私はお前より負けのキャリアがあるんだ」

 誠子「積み重なった敗北が私の中では未だに晴れることがないんだ」

 誠子「私抜きでもあのインターハイは戦い抜けたんじゃないか?!」

  ボロボロと涙を零しながら声が枯れるまで怒鳴り続けた誠子は、
 徐に淡の胸ぐらを掴みあげ、目を血走らせながら詰め寄った。

 誠子「宮永先輩の様に化け物じみた強さがある訳じゃない!」

 誠子「弘世部長みたいに皆を引っ張る力がある訳じゃない!!」

 誠子「尭深のようにオーラスで役満を和了し続けられない!!!」

 誠子「そして、大星」

 誠子「お前のように、私はなりたかったんだよ!!!!!」

  嗚咽交じりの激しい独白が豪雨の様に淡の身体に叩き付けられる。

 誠子「何とかいえよ!!」

 尭深「誠子ちゃん!」

 誠子「うるさいっ!お前らに何が分かるんだよ!!」


 誠子「私より強いお前達に、私の何が分かるんだ!」
24 名前:黛千尋 投稿日:2014/02/07 22:47 ID:???
 淡「分かるわけないじゃん。そんなこと」

  激情を迸らせる誠子とは対照的に眉一つ動かさない淡。
 それが、より一層誠子の心の闇を深くする。

 誠子「ハッ、やっぱりそうだったんだな。大星ィ」

 誠子「そうだよな。そうやってお前は勝ってきたんだよな」

 誠子「自分より弱い相手を蹴り落としてなぁ!」

 淡「それが勝負じゃん」

 淡「それに」

 淡「セーコが私やタカミ、テル―やスミレに勝ってる所があるよ」

 誠子「ッ?」

 淡「さっき言ってたじゃん。負けのキャリアが多いって」

 淡「今から言いたいこととはちょっとずれちゃうけど」

 

 淡「それが、セーコの強み」
25 名前:黛千尋 投稿日:2014/02/07 22:49 ID:???
 未だに強い眼光で淡を睨みつける誠子。

 何もできずにただ立ち尽くす自分に歯噛みする尭深。

 そして...

 淡「この際だから本音をぶっちゃけちゃうとね」

 淡「セーコが弱いのは今に始まったことじゃないじゃん」

 淡「準決で振り込みまくったのとか」

 淡「インハイの個人戦予選で私に負けて出場を逃したのとか」

 淡「誰のせいでもない。それがセーコの実力だよ?」

 淡「おまけに、いっつもギリギリで二軍との降格昇格争いで
   勝ったり負けたりも繰り返してるし」

 淡「でもさ、」

 
 
 淡「それでもセーコは、今ここに立ってるじゃん」

 淡「ごまかしっぽく聞こえるけど、それもセーコの真の実力じゃん」

   この時大星淡は初めて眼前の二年生達、亦野誠子と渋谷尭深へと

  対等に向き合った。

   後輩の口から出た偽らざる本心が二人に与えた影響は大きかった。

 淡「私もテル―も負けた事なんか片手の指で数える事しかないけどさ」

 淡「正直、その負け位だよ。セーコの様に悔しいって感じることが
   出来たのは」

 淡「だから、セーコのその苦しみや心の闇の深さが分からない」

 淡「ただ勝つだけなら、そんなのポンコツコンピュータと同じだよ」

  自分でも驚くくらいに言葉が衝いて出る。
 
  真っ赤に泣きはらした眼を誠子はこすり、淡の次の言葉を待つ。

  生まれてこの方ろくに反省もしていなかった彼女が、誰に言われる

  までもなく自分の今までを振り返っている。

  それが未曾有の成長を大星淡の精神面に齎している。
26 名前:黛千尋 投稿日:2014/02/07 22:50 ID:???
 淡「テル―と私の麻雀は横綱相撲。勝者が当然の如く勝つ為の麻雀」

 淡「スミレ、タカミ、セーコの麻雀はチームプレイ。皆で勝つ為の麻雀」

 淡「反発する二つの個性が上手くマッチしたのが今までの虎姫の麻雀」

 淡「前者に合わないセーコの麻雀が馴染もうとしても土台無理だよ」

 誠子「じゃあ、どうすればいいんだよ!」

 誠子「勝たなきゃ、白糸台の看板を背負うからには」

 誠子「誰よりも勝たなきゃいけないんだよぉ....」

 淡「じゃあ、皆で勝とうよ」

 淡「その為の土台を、チームを作ろうよ」

 淡「スミレが引退するときに教えてくれたことがあるの」

 淡「嬉しさは掛け算のように増えるものだって」

 淡「テニスとかマラソンで金メダルをとっても」

 淡「努力したのはその人のみ。その過程を共有する人は誰もいない」

 淡「だけど」

 淡「野球やサッカーは勝てば、レギュラー分嬉しさが倍になる」

 淡「それが、私が先輩達から教えて貰った事」

 淡「今まではテル―が太陽で、私はその光で輝いていた星」

 淡「星は雲に隠れても、その輝きは決して消える事なんかない」

 淡「今でもテル―は私のことをずっと照らし続けてくれている」

 淡「だから」

 淡「今度は私が」
 
 

 淡「皆を照らす道標になる」
27 名前:黛千尋 投稿日:2014/02/07 22:51 ID:???
 淡「麻雀の団体戦は三セット先取じゃないんだよ?」

 淡「皆の一人一人の稼いだ点数が勝利への架け橋になるんだよ」

 淡「誰よりも負けに対して、あらゆる感情を知るセーコが」

 淡「部長に相応しくないなんてことは絶対に有り得ないんだから」
 
 淡「スミレとテル―はそれを踏まえてセーコを部長にしたんだよ」

 
 誠子「ぶ、部長...、宮永先輩ッ....」

 尭深「セーコちゃん」

 尭深「私だって宮永先輩や天江さん、神代さんに勝てないよ」

 尭深「同じ虎姫でも全国の個人戦にでれば、二、三回戦目で
    負けちゃうんだよ?」

 尭深「でも、淡ちゃんの言うとおりだよ」

 尭深「やってみよう。セーコちゃんの新しい麻雀を作ろうよ」

 尭深「ゼロからのチャレンジャーとして」

 誠子「うんっ、うんっ」
28 名前:黛千尋 投稿日:2014/02/07 22:53 ID:???
  
    ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~
 
 照「淡、よくやった。よくやったよ」

 菫「大星~!お前ってやつは最後まで、最後まで」

 菫「あ~っ、もう何も言えないな!うん、大丈夫だ!」

 長い長いやり取りをずっと聞き耳を立てて聞いていた菫と照は

 三人に気付かれる事無く、部室を静かに去っていった。

 照「私にはあんな考え方は出来なかった」

 照「咲との因縁を断ち切るために打ち込んできた麻雀だったから」

 菫「そうだったな。だけどそれでもお前は勝ったんだ」

 菫「自分にも、咲ちゃんにも」

  後輩達の立派な姿を見届けた二人の眼には涙が浮かんでいた。

 照「でも、」

 菫「でも?」

 照「私はまだ淡に伝えていないことがある」

 菫「それはなんだ?」

 ふと立ち止まり、それを聞こうとした菫の視線が右の階段に注がれた。

 ?「お久しぶりですね。宮永さん、弘世さん」

 照「貴女は...」

 和「そうです。白糸台に敗北した負け犬、原村和です」

 菫「何をしに来た」

 和「王者に対する反逆です。といえばお判りでしょう?」

 そのまま麻雀部の部室へと向かおうとする和を菫が止める。

 菫「勝手な狼藉はやめてもらおうか?」

 和「勝ち逃げですか?」

 菫「いいや」

 照「負け癖の付いた麻雀を打つような下手の横好き程度が」

 照「虎姫の極みの麻雀を崩す事なんて笑止千万」

 菫「つまり」

 照・菫「顔を洗って出直して来い!」

 和「くっ」

 和「いいでしょう。今日は引き返します」

 和「ですが、これだけは覚えていなさい」

 和「私と咲さんは形は違えど必ず貴女達の前に立ち塞がります」

 和「その時、貴女方の大切な後輩達がどこまで正気を保っていられるか」

 和「楽しみにしていますね」

 和「フフフフ、アーッハッハッハ」

 優雅な身のこなしで再び階段を下りていく和を見つめる菫。

 照「大丈夫だよ。菫」

 照「あの子たちを信じよう」

 菫「ああ、淡、誠子、尭深の行く先に勝利の女神の加護を」

 照「そして、菫と私の想いがいつもあの子達の傍にあらんことを」

  肩の重荷を一つ下ろした白糸台の大黒柱と無敗の女王。

  階段を下りる二人の手は固く固く、絆の如く結びついていた。
29 名前:黛千尋 投稿日:2014/02/07 22:58 ID:???
 永水
30 名前:黛千尋 投稿日:2014/02/07 23:06 ID:???
  どーも、作者です。一応、書き溜めた分が尽きたんでこれからの話の
 展開についての予定だけ上げときます。

  白糸台に続いて、永水女子のインハイその後について書いた後くらいに
 赤司が咲と衣に勝負を挑む所まで書こうと思ってます。

  それから後は、まだ考えていません。精々が霞ちゃんが小蒔ちゃん
 以上に強くなるとか、照の第三の能力が解放されるとか、そんなとこです。

  たぶん、更新は一週間後くらいになります。それでは
31 名前:名無し 投稿日:2014/02/08 19:46 ID:???
頑張れー
32 名前:名無し 投稿日:2014/02/08 22:19 ID:???
みてる
33 名前:名無し 投稿日:2014/02/09 09:07 ID:???
このスレはちゃんとしてるな
他のSSスレだと途中から逃げ出すチキンがいて つまらん
34 名前:黛千尋 投稿日:2014/02/09 20:58 ID:???
 コメントを書いてくださった皆様、ありがとうございます。

 今、女子インハイの決勝戦のくだりを書いています。淡、小蒔、照、咲の

四人で決勝戦をしています。ネタバレですが、最終的に照が優勝します。

 それらを踏まえて、咲ちゃんを完全な堕ちた魔王キャラとして今後

書いていこうかな~。と思っています。

 これを不快だと思われる方は、ご意見のほうを宜しくお願いします。
 
35 名前:名無し 投稿日:2014/02/10 12:04 ID:???
読みずらい
もうちょい区切って書いて欲しい
36 名前:黛千尋 投稿日:2014/02/10 21:19 ID:???
 35さん、ご意見ありがとうございます。今までの一スレに投降した半分程度
の文の量で今度から投稿していきます。

37 名前:名無し 投稿日:2014/02/11 05:41 ID:???
麻雀とか知らねえけど真面目に書いてくれてっからしえんしたるわ
頑張れやこの野郎
38 名前:黛千尋 投稿日:2014/02/11 23:31 ID:???
 37さん、ありがとうございます。うれしいです
39 名前:名無し 投稿日:2014/02/13 11:04 ID:yiVNB5ps
∧∧
|・ω・`) そ~~・・・
|o④o
|―u'
 

| ∧∧
|(´・ω・`)
|o   ヾ
|―u' ④ <コトッ
 

| ミ  ピャッ!
|    ④
40 名前:名無し 投稿日:2014/02/13 21:38 ID:yBQicdlx
(`・ω・´) シャキーン
41 名前:黛千尋 投稿日:2014/02/13 21:42 ID:yBQicdlx
 ~8月14日 鹿児島 霧島神宮~

 霞「終わってしまったわねぇ。インターハイ」

 巴「そうですねぇ、私達の青春の日々もあっという間でした」

 初美「振り返ってみればとても楽しかった日々だったのですよー」

  葉月の日々も中旬に差し掛かる頃になると、向日葵の花が咲き誇る。

  神代生依の姫巫女を補佐し、奉る役割を担う分家の四巫女達は、

  今日の昼頃から薄墨本邸にて、めいめいが思い思いに花を活けていた。

 春「皆がいなくなるのは凄く寂しい」

 春「母性溢れる霞さん、眼鏡をかけた巴さん、元気一杯の初美さん」

 霞「ちょ、ちょっと!まだ私は十七歳よ」

 巴「眼鏡をかけたって...。まぁ、春ちゃんらしいわね」

 初美「まぁ、それが取り柄ですからねー」

  剪定鋏が枝葉の節々をパチン、パチンと切り落としていく度、

 茶室の畳上には切り落とされたの枝葉がはらはらと舞う。

 霞「枝葉舞いて 過ぐる日々かな 蝉しぐれ」

 霞「涼風吹きて すすき揺れんと」

 物思いに耽りながら、ふと霞は徒然なるままに今の自分の心情を吐露した。

 巴「はっちゃん。芙蓉の花をとってくれない?」

 初美「はいですよー」

 初美が手渡された二つを霞が活けた芙蓉に合わせるように形を整える。

 巴「かんばせを 芙蓉に似せて 日照雨(そばえ)かな」

 初美「二人ともどうして、そんな辛気臭いことしか言えないんですか?」

 二人「...ッ!」

 霞「そうね、姫様と皆と一緒に過ごした日々が私の一番の宝物よ」

 霞「でもね、はっちゃん」

 霞「石戸の天倪はどうしても宿命には抗えないのよ」

 霞「結局、私は姫様の力になってあげられなかった」

 霞「本家と分家の垣根を越えた、本当の友達にはなれなかったのよ」

 その一言が意味する所は、あまりにも残酷すぎる現実だった。

 春「友送り 昔日彼方に 春を待つ」

 春「ひともひとなれ はなもはななれ」 

  泣き崩れる霞を抱きしめながら終の句を詠んだ春は、自分達の大切な
 
 存在である神代小蒔の身に降りかかった出来事を思い出していた。
42 名前:黛千尋 投稿日:2014/02/13 21:44 ID:yBQicdlx
 ~インターハイ個人戦 準々決勝終了後~

 初美「ちっくしょー、あと一局あれば逆転できたんですけどねー」

 小蒔「惜しかったですね。はっちゃん」

 個人戦準々決勝終了後、小蒔と初美はホテルへの帰途へと着いた。

 小蒔「後、二百点差まで宮永さんを追い詰めたのに」

  やはり団体戦決勝での敗北が応えたのか、準々決勝一回戦では
 
 かつての異常な程のツモ運が振るわず、不調に陥っていた。

 初美「それでもやっぱり強かったですねー。魔王宮永咲は」

  しかし、南場に入ると前半の不調が嘘のように消え去り、怒涛の如く
 
 今までの失点を取り戻し始め、オーラス時にはトップの初美に200点
 
 差まで迫ってきたのだった。

 小蒔「最後に宮永さんが海底で上がるなんて予想できませんでしたよ」

  勝負の明暗を分けたのは最後の一牌だった。

  初美の切った四筒を海底ロンで和了した宮永咲は辛うじて準決勝へと
  
  進出したのであった。

 初美「でも、気を付けて下さいね姫様」

 初美「姉の宮永照に決勝戦でボコボコにされたときから、あの人

    なんだか様子がかなりおかしくなってます」
43 名前:黛千尋 投稿日:2014/02/13 21:45 ID:yBQicdlx
  最後のオーラスで対峙した宮永咲の様子が団体戦で見えた時と

 大分異なっていたことと、終始、得意の嶺上開花を使わずに

 安上がりで連荘したことといい、宮永咲は何かがおかしかった。

 初美「あの人が清らかさを失った分、陰の気がその器に大分

    溜め込まれています」

 初美「そのとんでもない気に当てられて、悪い神様が降りて

    来てしまわないかが、目下の所の私の心配です」
  
 小蒔「大丈夫ですよ」

 小蒔「皆がいたから私はここまでこれたんです」

 小蒔「団体戦では、先鋒の御役目を果たすことが出来ませんでした」

 小蒔「だから、個人戦では絶対に優勝旗を永水に持って帰ります」

 初美「姫様...」

 小蒔「大丈夫ですよ」

 小蒔「神代の姫巫女はそんなに軟ではないってことを見せてあげます」

 初美「ファイトですよー。姫様」

 初美「団体戦とは違いますけど、観客席で皆で応援しています」

 初美「魔王も大魔王もぶっ飛ばせ、ですよー」

 小蒔・初美「えいえいおー」
44 名前:黛千尋 投稿日:2014/02/13 21:49 ID:yBQicdlx
 ~インターハイ個人戦 決勝戦~

  女子麻雀高校総体、個人の部決勝戦の開始一時間前、

 神代小蒔は仲間からの激励を受けていた。

 春「正直、宮永姉妹と大星淡を相手取るのは厳しいけど...」

 春「それはそれ、困った時の神頼みってやつで」

 黒糖をポリポリとかじりながら、満面の笑みを浮かべる春。

 巴「こら、春ちゃん。なんていう事を言うの!」

 巴「そんな畏れ多いことを軽々しく口にしちゃだめよ」

 苦笑と共に、春の失言を窘める巴。

 初美「はるる、巴さんの言うとおりですよ」

 初美「でも今日ばかりは、はるるのいう事も間違っちゃいませんね」

 茶々を入れつつもさりげなくフォローを忘れない初美。

 霞「小蒔ちゃん」

  盛り上がる三人をよそに霞は小蒔を連れ、隣の個室に入った。

 小蒔「どうしたんですか?霞ちゃん」

 きょとんとした顔で霞を見つめる小蒔。

 純真な瞳は穢れや悪意を知らず、その心は未だに無垢なままだった。

 霞「私は正直、あの三人の相手は小蒔ちゃんには重すぎると思う」

  長い間姉妹同然に暮らしてきたからこそ分かる小蒔の心の内を

 慮りながら霞は自分の本心を告げていく。

 霞「貴女の事だから、皆の期待に答えなきゃダメって思っているでしょう?」

 霞「でも、宮永咲は絶対に相手にしちゃダメ」

 霞「あの子は正気を失いかけている」

 霞「それに、昨日の準決勝、あの子が会場に入った途端に空気が

   濁りだした」

 霞「九面を降ろす時には、必ず注意してね」

  小蒔に次ぎ、霞の神を降ろす力は強力なものがある。

  石戸霞が生きた天倪と言われる所以がその血の中には宿っている。

  故に、彼女は神代小蒔を超えることが出来ない。

45 名前:黛千尋 投稿日:2014/02/13 21:50 ID:yBQicdlx
 小蒔「霞ちゃんは本当に心配性なんですね」

  自分のそんな心中を知ってか知らずか天然気味の回答を返す小蒔。

 小蒔「大丈夫です。何にも心配する事なんてありませんから」

 小蒔「だって、霞ちゃん、巴ちゃん、はっちゃん、春ちゃん」

 小蒔「皆が応援してくれる以上、私が負ける理由なんてありません」

  神代本家の娘でありながら、分家筋の格下の家の娘達と分け隔てなく

 付き合い、対等に見做してくれる小蒔の存在は霞にとって一番の支えだった。

 小蒔「宮永咲がなんだっていうんですか?」

  小さい時から愚直で、言い出したら聞かない性格だけれど

 小蒔「皆の応援に比べれば、彼女の圧力なんて屁の河童です」

  そんな彼女の愚直さが何よりも大好きな自分がいた。

 小蒔「だから、霞ちゃんはどんと構えていてください」

 小蒔「小蒔は絶対優勝しますから」

 霞「小蒔ちゃん...」

 霞「わかったわ。そこまでいうんなら私はもう何も言わない」

 霞「いってらっしゃい、小蒔ちゃん。大好きよ」

 小蒔「はいっ!いってきます」

  ひょっとしたら、この子なら奇跡を起こせるかもしれない。

 そんな期待に胸を膨らませながら、ドアを勢いよく押し、
 
 会場へと向かおうとした小蒔を霞は静かに見送った。
46 名前:黛千尋 投稿日:2014/02/13 21:51 ID:yBQicdlx
 ~女子麻雀個人戦インターハイ決勝戦~

 淡「よろしく~」

 照「よろしくお願いします」

 小蒔「よろしくお願いします。いい試合になるといいですね」
 
 咲「....お願い、します」

 最後の戦いに挑む彼女達の表情は一様にその心境を表していた。

  喜色を満面に湛え、この最終決戦に臨む大星淡。

  怒りの表情を浮かべ、宮永咲を睨みつける宮永照。

  哀しみを湛え、光を失った双眸で実の姉を見つめる宮永咲。

  楽しげな表情を浮かべ、勝利を目指そうとする神代小蒔。

 そして、苛烈なまでに激しい彼女達の戦いが始まる。
47 名前:黛千尋 投稿日:2014/02/13 21:54 ID:yBQicdlx
 ~東一局目~

 大沼「さぁ、始まりましたインターハイ女子麻雀個人決勝戦」

 大沼「実況は私、大沼と」

 健夜「小鍛治健夜でお送りいたします」

 大沼「さて、実況に入るまでに決勝戦に駒を進めた選手の紹介を

    小鍛治プロ、よろしくお願いします」

 健夜「はい。まずは東家、大星淡選手の紹介です」

 健夜「彼女は今年白糸台高校に入った一年生ですが、麻雀部に入部後

    僅か一ヶ月で団体戦の大将に抜擢されたようです」

 健夜「そして、その実力はまさに一騎当千。前年度の天江衣や神代小蒔、

    荒川憩を遥かに凌ぎ、白糸台の三連覇の一番の立役者となりました」

 健夜「決勝戦では宮永照との同校対決が実現。最初で最後のこの戦いは

    一体どちらが勝つのでしょうか?」

 大沼「いつもながら小鍛治プロの解説は端的で分かり易いですね」

 健夜「ありがとうございます」

 大沼「さて、次に西家には宮永照が入っています」

 大沼「言わずもがな全国高校生一万人の頂点に君臨する絶対女王です」

 大沼「彼女の麻雀の特徴は何と言っても連続和了と打点上昇です」 

 大沼「和了率が極めて高く、しかも連続で上がる度に打点が上昇する

    彼女の麻雀を止めるのは至難の業」

 大沼「大星、神代、宮永咲選手が優勝を狙うのであればこの連続和了を

    どのように攻略するのかがカギとなってきます」

 健夜「そうですね。彼女の実力は現時点でプロでも世界戦で戦う選手と

    互角、もしくは凌駕しています」

 健夜「私が戦っても、多分苦戦するでしょう」

 大沼「珍しく弱気な小鍛治プロの発言が飛び出した所で後二人行きましょう」

 健夜「さて、南家に入っているのは宮永咲選手です」

 健夜「去年まで無名の清澄高校麻雀部を全国区にまで押し上げた

    紛れもない高実力者です」

 健夜「昨年の長野県代表、天江衣が在籍する龍門渕高校から代表の座を

    勝ち取り、団体、個人戦共に駒を進めました」

 健夜「団体戦決勝戦では力及ばず白糸台に敗北するも、未だに個人戦では

    その実力は衰えておらず、臥薪嘗胆の日々を重ね、遂にここまで

    やってきました」
 
 健夜「ダークホースという意味では四人の中でも最も注意しなければ

    ならない選手です」

 大沼「確かにそうですね。彼女の麻雀が他の三人と一線を画して

    いるのは、その特異な打ち方、±0です」

 大沼「これは宮永咲選手の真骨頂である技術です。簡単に説明すると

    終局時に自分のスコアが±0になるよう点数を調整することです」

 大沼「これまで彼女の出場した試合の戦績を見ると、団体戦二回戦で

    その痕跡が見られました」

 大沼「私も長いこと麻雀をしていますが、このタイプの選手は初めて見ます」

 健夜「そうですね。仮に私が彼女の打ち方をしようと思っても、

    絶対にできませんね」

 健夜「ハッキリ言って彼女の±0を狙ってやることは普通に勝つより

    遥かに難しいです」

 健夜「もしも咲選手みたいに狙っての±0をリアルで3連続以上達成できる

    なら、その人はプロをも超えた史上最強の雀士になれるでしょう」

 健夜「不可能が可能になった奇跡、果たしてこの戦いで通用するのか?」

 大沼「さて、長くなった選手紹介も後一人ですが、ん?」

 健夜「なにやら宮永姉妹が揉めているようですね。未だに着席していない

    模様です」

 大沼「やはり、あの二人には何か因縁があるのでしょうか?」

 健夜「分かりませんね。ただ」

 健夜「久々に私も本気で打ちたくなってきましたよ。麻雀」

 大沼「えー、最後の選手は北家の神代小蒔選手です」

 大沼「彼女の所属する永水女子は団体戦2回戦で清澄に敗れましたが

    彼女は危なげなく順当に駒を進め、決勝まで上り詰めました」

 大沼「この場にいる4人の中で唯一、打ち方にバラつきが散見されます」

 大沼「しかし、その予測不可能な打ち方が彼女の最大の特徴です」

 大沼「団体戦の雪辱をすすぎ、優勝に王手をかけるのか?!」

 大沼「これで選手全員の紹介が終わったわけですが、どうやら会場で

    なにやら動きがあったようですね」

 健夜「どうやら神代選手が最初にリーチをかけた模様です」

 
48 名前:黛千尋 投稿日:2014/02/13 22:00 ID:yBQicdlx
 ~東一局目10順目~

 東家 大星  25000点  手牌  167萬、679筒、67索 東白發南

 南家 照   25000点  手牌  9萬、12457筒、128索 北白中中 
 西家 咲   25000点  手牌  12368萬、33筒、99索 

副露(東東東東)

 北家 小蒔  25000点  手牌  78萬、789筒、789索、西西西發發

 ドラ 6萬、8索

 
 淡『嘘でしょ...なにこのクズ配牌』

 淡『絶対安全圏はまだ破られていない...はず』

 淡『今までの経験と照らしあわせても、こんな待ちが悪いのは無かった』

 淡『流れを崩されかけているのかな?』

 淡の絶対安全圏が今、小蒔のリーチによって打ち破られようとしている。

 彼女の能力、絶対安全圏は他家の配牌を悪化させ5~6向聴にするもの。

  現に照と咲の配牌はリーチには程遠い。

  しかし、何故小蒔には絶対安全圏が効かないのか?

  その答えは余りに明白。

  神代小蒔は体に宿る九面の力を同時並行して使用しているからである。

 咲「大星さんのツモの番だよ」

 淡「あー、うん。分かった」

  内心の動揺が顔に出やすい淡の微細な心境の変化を咲は見逃さなかった。

 淡『五萬かぁ、けっこうビミョーかも』

 淡『三色狙うにもなぁ、サッキ―が既に東を槓してるし』

 淡『平和と一発を狙うにもなぁ...』

 淡『決めた。この局は降りよう』

 大星淡、七索を河に捨てる。

 淡が牌を捨てたのを確認した照は静かに自分の牌を引いた。

 照「....」

  自分の手牌は恐らく淡と同様ずたずただろう。

 その原因である本人は言うに及ばず、得意の槓で東を副露した咲も

 自分達と多少の差異はあれ、リーチをかけて和了するのに3向聴くらいは

 かかる筈である。

  ならば、現時点でわざと失点してその原因である神代小蒔を照魔境で
 
 丸裸にすればよいと熟考の末に結論を出した。

  もし、失敗しても保険は掛けてある。 

  ある種の暗い決意を秘め宮永照、九萬を放銃する。

 小蒔「ロンです」

 咲「え、ちょ、ちょっとなにしてるの...?お姉ちゃん」

 淡「嘘でしょ?!テル―」

 小蒔「え―と、三色同順、全帯、ドラ2で12000点です」
49 名前:黛千尋 投稿日:2014/02/13 22:02 ID:yBQicdlx
  東一局目で宮永照の12000点の放出はインターハイ出場校全校を

 驚愕させた。

 大沼「この展開は誰も予想していませんでしたね」

 大沼「東一局目、最初に上がったのは神代選手です」

 健夜「そうですね。びっくりしましたけど、宮永選手の事です。

    きっとこの手も何か考えあっての事でしょう」

 健夜「しかし、何かが違いますね」

 大沼「といいますと?」

 健夜「神代選手が寝ていません」

 大沼「はい?」

 健夜「団体戦の対局中でも彼女いつもうとうとしていましたが、

    今日はパッチリ目が覚めていて、普通に打っていました」

 健夜「好調不調の落差が激しい分、今日は神代選手にとって最高の

    コンディションの日なんでしょうね」

 大沼「確かにそういう捉え方もできますね」

 大沼「大星の親が流れ、次は神代選手の親番です」

 大沼「さぁ、このまま流れは変わらないのかそれとも変わるのか?」

 大沼「早くも運命の岐路の東二局目が今、始まります」
50 名前:名無し 投稿日:2014/02/13 22:06 ID:yBQicdlx
 ~東二局~

 東家 小蒔  37000点  手牌  124萬、1499筒、188索 南北北

 南家 大星 25000点  手牌  445566筒、123索 北白中中

 西家 咲  25000点  手牌  368萬、169筒、569索 東西發中

 北家 照   13000点  手牌  222469筒 23456789索

 ドラ 9筒

 
 照『さっきのはまぐれ?』

  自分の手牌をさらりと一見した照は首をかしげた。

 東一局にて跳満を上がられたことは大変な痛手だったが、たった3順で

 照は小蒔がまだ本調子ではないことを看破していた。

 照『去年神代さんとあたった時は、天江衣とは比較にならない位弱かった』

 照『私が連続アガリする前に他家の子に振り込みすぎて自滅する位に』

  だけど、今の自分の手牌は一、二向聴くらい待てばリーチができる手だ。

 自分の麻雀の特徴は自分が何よりもわかっている。 

 連続和了とそれに伴う打点の上昇。

 和了率が極めて高く、しかも連続で上がる度に打点が上昇していく。

  しかし、今日ここに至ってはそんな悠長な事を考える余裕はない。

 鯉の滝登りの例にもあるように、どんなに勢いがあろうといつかは

 その勢いも必ずどこかで消滅させられる。準決勝の阿千賀がいい例だ。

 照『だったら...』

  結論は一つ、取られたら取り返す。即ちラン&ガンの乱打戦だ。

 照『私の麻雀に弱点があるとすれば、打点を上げ続けることで前回より

   安い手で上がることができず、段々と手役が狭く遅くなっていくこと』

 照『同じような点数のラインで打点を上げず、残留し続ける』

 照『さっきの放銃で淡と宮永咲の無意識下では、この局かその次あたりに

   私のセオリー通りの麻雀が来ると頭の中にインプットされている』

 照『淡の星の引力が炸裂し始めるのは、おそらく南場』

 照『その間に様子見に徹している宮永咲を、神代小蒔と連携して潰す!』

  僅か一局の間に今までの自分の麻雀を大否定し、この決勝戦で新たな
 
 打ち方を考案し、実際に実践に移そうとするその胆力はやはり尋常ではない。

  宮永照、自身に反旗を翻し、自己革命を起こす。

 宮永咲の捨て牌が七筒であることを確認した照は勢いをつけ、牌を引く。

 照『5筒、そしてまだ5順目』

 河に捨てられているのは、2萬4索1筒9萬、8萬西東北、東西發7筒

 照『三、四順目の神代と宮永の4筒と中を淡がポンした』

 照『多分、淡の絶対防御圏は未だに有効だけど、それも不完全』

 照『あくまでも私に挑む気なんだね。淡』

  決勝戦前日に打ち明けられた後輩の宣言を思い出しながら、照は
 
 9筒を捨てた。

 小蒔「ポンです」

 照「...」

  この時、照は神代小蒔がどのような状況にあるのか知らなかった。
51 名前:黛千尋 投稿日:2014/02/13 23:49 ID:yBQicdlx
 小蒔『ううう、なんだかとっても厭な気分です...』

  これ以上に無い程の快調とは裏腹に、神代小蒔は徐々に自らが何者かに

 束縛されて行くのを如実として感じ取っていた。

 小蒔『最初に和了したときは小さかった不穏な気配』

 小蒔『だけど、いままで九面を降ろした時とは全く異なるこの重圧...』

  思えば、最初の自分の親番の時に宮永照から放銃された九萬を

 ロンした時から己の身体が思い通りに行かなくなり始めたのだった。

 小蒔『まだ一局しか終わっていないのに、身体が凄く、疲れている』

 小蒔『でも、今の私は負ける気が全然しません』

  体に力を入れ、弱気になった自分の心に喝を入れたその瞬間、小蒔の

 頭、胸、腹、女陰、左手、右手、左足、右足に突如、強烈な雷が迸る。

 ??『サア、ソノ身体ヲワレニ差シ出セ』

  突如として体に迸った電流のような衝撃が小蒔の魂を身体から引き剥がす。

 それと同時に、小蒔の魂は別の空間へと引っ張りこまれた。

 小蒔「はぃ。はっ?!嫌です。そんなの絶対に嫌です!」

 ??『逆ラウナ、小娘フゼイメ』

 ??『神代トハ、神代ワリノ器。自ラニ課セラレタ役目ヲ全ウセヨ』

  悦に入った声の中に微かな苛立ちが含まれたその瞬間、小蒔の身体に

 激しい痛みが走った。

 小蒔「やめて、やめて下さい!」

  自分の身体の八箇所から生じた雷は、瞬く間に小蒔の肉を食み骨を溶かし、

 魂の一欠片までもを爛れ落とし、陵辱の限りを尽くした。

 ??「愚カナ。口ヲキクナ、人形フゼイガ」

  小蒔に憑りついた存在はその魂と肉体とを全て把握し、乗っ取る準備を

 始めた。

 小蒔「やだ」

 小蒔「やだやだやだやだやだ、死にたくない、死にたくないッ!」

  薄れゆく意識の中で必死に死の恐怖に抗った小蒔だったが...

 ??「この器、しばしの間借り受けよう」 

  何もない虚無から現れた、自分そのものの姿をした存在。 

 晴れやかな、まるで自分と同じ笑みを浮かべた彼女の口から出た

 言葉が最後まで抗っていた小蒔の意識を深い泥濘の底へと沈めた。

 小蒔『霞、ちゃん....』

 最後に大切な親友の笑顔を思い出しながら、小蒔の意識は途切れた。
52 名前:黛千尋 投稿日:2014/02/13 23:50 ID:yBQicdlx
 ~東二局 四順目~
 
 照「神代さん、神代さん。起きて」

 微睡から覚めた彼女は少しだけ周囲を見回した。

 照「寝不足?貴女のツモ番だよ?」

 小蒔?「ごめんなさい」

  ペロリと舌を出して謝った小蒔の仕草に何故か照は、とてつもない

 得体のしれない怖気が自分の中に一瞬で浸透したのを感じた。

  しかし、それは一瞬の間の出来事であり、照がたった今感じた

 怖気が単なる武者震いと考え直すのも致し方のないことだった。

 照『照魔鏡、発動ッ!』

  小蒔の殆どの意識がツモ牌に集中するその僅かな隙を突き、照は

 遂に小蒔へと照魔鏡を発動させた。が、しかし...

 ??「人風情が神に対し、生猪口才な真似をするとは不敬千万」
 
 ??「が、妾は今、機嫌がとても良い」

 ??「其の不敬、鏡一つで贖える僥倖を噛み締めるがいい」

  音もなく自らの後ろに出現した宮永照の必勝の能力を小蒔、

 否、小蒔の体を乗っ取った何者かは、煩わしげに片手を振るい、

 たった数秒の間に照魔境を粉微塵にして、二度と使えなくした。

 照「そ、そんな....照魔鏡が破壊された?」

  これほどの実力をなぜ今になるまで神代小蒔は隠していた?!

 動揺を隠せなかった照は思わず、小蒔へとその真意を問いただした。

 照「照魔鏡をいとも容易く打ち砕くなんて、貴女、一体何者?」

 ??『女、貴様ほど蒙昧な愚物は神代の世にも数は少なかったぞ』

 言葉を介さず、直接照の脳裏に何者かの思念が流れ込んでくる。

 ??『答える義理はないが、神代七代の末、とでもいえば分るかの?』

 その一言を聞いた途端、照の顔から一切の血の気が引いた。 

 ??「フフフ、今生の神代の生依の器は途方もなく大きいのぉ」

 ??「まさかこの体に乗り移った途端、もれなく御子神と醜女までをも

    彼岸にまで呼び出し、更には今まで現世に出るにも邪魔だった

    道返しの大岩まで退かすとは...」

 ??「さすが神代の生依、褒めてやろう」

 ??「目覚めた場所が此処ではなく、淡路の多賀であれば神代の

    意趣返しもできたものを...。つまらぬ」
 
  つまらなそうに照から目を離した彼女は、少しだけこの人間達の

 遊びに興じてやろうと考えた。

  その表情に、最早神代小蒔の面影は微塵も残っていなかった。

 伊邪那美命「さて、どう遊んでやろうか?」

  まさしくそれは正真正銘の伊邪那美命の黄泉返りだった。

  そして、最初に彼女が思いついた遊びに翻弄されるのは照だった。
53 名前:黛千尋 投稿日:2014/02/14 00:01 ID:FgStHRnl
 ~東二局10順目~

 東家 小蒔  37000点  手牌  1167萬、188索 南

   副露(9筒、北ポン)

 南家 大星 25000点  手牌  66筒、117索 

  副露(4筒、5筒、中ポン)

 西家 咲  25000点  手牌 666萬、1119筒、333678索


 北家 照   13000点  手牌  66筒 23456789索、白

                副露(2筒ポン)

 ドラ 9筒、
 

 淡「残り五巡以内に誰かが絶対に和了する」

 淡『今、河に捨てられている牌で見当たらないのは一索』

 淡『ダブロンはこの個人戦で認められてない』

 淡『だから私が和了するには自分で一索をツモらなきゃならない』

 淡『残り二枚の一索の一枚はコマキが絶対に持っている』 

  この時点で親である小蒔の手牌はノーテン。
 
 どっちにしろこの時点で小蒔は和了することを既に放棄していた。

  しかし、そんな事とは露知らず淡はえいや、と牌をツモる。

 引き当てた牌は、9筒だった。

 淡『うーわ。このタイミングで9筒かぁ~』

  勿論、このタイミングで淡の和了のイメージは既に構築済みだった。

 6筒をポンし、7索を捨て、1索でフィニッシュ。

  ドラは4筒。この時点で五萬が場にあるからドラは三つ乗る。

 更に6筒をポンすれば対々子は確実になり、結果、跳満になる。

 淡『この時点で1筒を切れれば楽なんだけどな~』

 だが、果たして先程のような宮永照の凡ミスが罷り通るのだろうか?

 淡『テル―の九萬放銃は囮で真の狙いは別にある。これは確実』

 淡『だったら、このタイミングで攻めを取るより見に回ろう』

 淡『放銃で一万点なくすより、ノーテン罰符ですませちゃお』

 結果的に淡のこの決断が、彼女をピンチから結果的に救った。 
 
 この時点で最も和了に近かったのは宮永咲だった。

 既に手牌は666萬、1119筒、333678索となっており、ドラが

 三つ乗っていた。

  もし、淡が9筒を考えなしに手から切っていたら満貫の直撃は

 免れなかっただろう。

  目の前の和了を崩し、淡は六筒を立て続けに捨てた。

  その間にも小蒔は一索を捨てる事無く、宮永照は一索を引かなかった。

  そして、遂に誰も和了することなく、東二局は小蒔の親流れで終了した。

 
 ~終了時の点数~

 小蒔、35500
 
 大星、26500

 照、 14500

 咲、 26500

54 名前:名無し 投稿日:2017/04/07 11:51 ID:dNfcUOmU
こんだけ(・・?
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