京太郎「パラダイス・ロスト」照「光齎す者の到来」

1 名前:555 投稿日:2015/02/08 21:57 ID:o6Ehszym
 遠くない未来、日本。

 まないた党とヘテロ党、おもち党と新党iPSによる日本の覇権を賭けた戦いは、

前者のその全ての構成員、及び関係者、後援者の全滅を以って終結した。

 敗走、及び囚われ、裏切りを働いたごく一部の幹部を除き、旧人類と

呼ばれるようになった人間達を新党iPSやおもち党から守り続けたヘテロ党、

まないた党は事実上消滅した。

 宮永照、龍門渕透華の二大巨頭が完全に歴史の表舞台から姿を

消したことにより日本は新党iPSとおもち党の支配下に置かれた。

 それから数年後、iPS細胞の研究により、既存の人類を遥かに超越した人間の

進化形たる新たな人類達が日本を完全に統治し、日本はiPS細胞によって両性を

備えた女性、同性愛者の巣窟と化していた。
2 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 21:59 ID:o6Ehszym
 旧人類は人間を遥かに超越した彼等を第三の性、iPS類と呼び、

いつ駆逐されるか分からない恐怖に怯えていた。

 しかし、日本の人口の約半分が新人類への移行を果たした頃、

旧人類に突如原因不明の病が襲い掛かった。

 死んだ人間が再び生き返り、怪物となる病だ。

 その病にかかった人間の大半は、理性を失い本能のままに人間を襲い、

ねずみ算式に仲間を増やしていくのだ。

 日本iPS合衆国大統領松実玄は、この新たな脅威にいち早く注目し、

厳重な情報統制網を敷き、研究を始めた。

 禁忌を超越したこの怪物達はオルフェノクと名付けられ、その正体は

研究によりiPS類とは異なる人間の純粋な進化の形と言う事が判明した。

 政府は極秘裏にオルフェノクを捕まえては研究を重ね、その結果、

オルフェノクの増殖のメカニズムをある程度解明することに成功した。

 またiPS類は唯一オルフェノクに殺されてもオルフェノク化

しないことが明らかになった。
3 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 22:00 ID:o6Ehszym
 政府は旧人類のオルフェノク化が新人類を滅ぼす最大のウイルスという

結論を出し、恐るべき計画、全人類がiPS類への完全移行を以ってオルフェノクを

絶滅させる計画、人類iPS類完全移行進化計画を発案。

 人工型のオルフェノクの量産に踏み切った。

 そのオルフェノクのベースとなったのが、捕えられた旧人類である

ということは言うまでもない。


 オルフェノクには二通りあり、一つは純粋な人類の進化形態で、人間が一旦

死を迎えた後に再度覚醒したオリジナルの存在が一つ。

 もう一つは松実玄大統領率いる日本政府がオルフェノクのDNAを解析し、

その因子を記号として埋め込まれた疑似的なオルフェノク及び、その素質と

新人類の特徴をを併せ持った後天的なオルフェノクとその予備軍の存在のことを

並行して指す。
4 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 22:01 ID:o6Ehszym
 数億人を残すのみとなった普通の人間達は、忘却の片隅に追いやられ、彼等に脅える

日々を過ごしていた。

 そんな状況を打破すべく反逆者は解放軍を結成。

 オルフェノク達もこの危機的状況を逆転させる手段として、秘密結社スマートブレインを創立。

 旧人類を遥かに超えた力を持つiPS類を完全に滅ぼす物質、フォトンブラッドの開発に成功する。

 更に、強化戦士デルタ、ファイズ、カイザを作り出すことに成功した彼らは反撃の狼煙をあげる。

 この状況を受けた日本政府首相、原村和は松実玄大統領から政権の全てを

譲り受け、大総統原村和として、日本が世界の中心となり、かつ世界の男女比の

バランスを打ち崩すことを全世界に宣言する。

 そして、時を同じくしてスマートブレインも対抗策として既存のベルトを遥かに凌ぐ、

二本の帝王のベルトを創造した。

 世界は混迷と戦乱の時代へと突入しつつあった...。
5 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 22:03 ID:o6Ehszym
 エピローグ


  ある女が力持つ者に尋ねた。

  救世主とは闇を切り裂き、光を齎す存在かと?

  力持つ者はそれに頷かなかった。

  だが、彼は己の真理に誓い、女に答えた。

  「救世の形が、巨悪を打ち倒すという方法以外にもある」

  「徹底的管理による戦争根絶で生じる99%確実な絶対恒久平和」

  「人と人が互いに慈しみの心を持ち、共存する世界」

  「お前は、何を望む?」


   人である彼女は、その答えを出せなかった。

  

   だが、彼女の目の前にいる男は、まごうことなきメシア

   傷つきながらも、彼は戦いの果てに遂に答えを得た。



  「だが」

  「そんなものはまやかしだ」

  「えっ?」

  「俺達は自由なんだ。だから何にだってなれる」


  「そう...だよね」

  「今までありがとう...。私は貴方のことが...」


  そして、彼等は世界を救う礎となる決意を固める。 
6 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 22:04 ID:o6Ehszym
 ある若者の生の軌跡は、戦いに彩られていた。


 2003年― 彼は「運命」を受け入れ、「戦い」を始めた。

 
 だが、戦いは彼の身体を蝕み、最大の敵は彼の愛する者に刃を向ける。


 ~その愛に殉じる覚悟を決めた。この身をたとえ死に委ねようと...俺は、戦う~
 

 2004年― 「運命」は彼を選ばず、彼の闘いには「終止符」が打たれた。


 そして、10年後


  
  戦いの果て、彼は『<セカイ>の真実』を受け入れた...




 「愛」を失い、「力」を失い、「自分」をも見失った。



 正義だけが正しき道なのか、偽ることが真実の愛なのか?



 挑まなければ越えられない壁を前に、彼は翼を手に入れる。




 自分との闘い 最後の闘い 究極との闘い 



  
 救世主<>はセカイを救い、その愛で運命を変えることができるのか?


 

   ~今こそ世界に立ちはだかる壁を、乗り越える時が来た~




            京太郎「パラダイス・ロスト」照「光齎す者の到来」


 
7 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 22:06 ID:o6Ehszym
 ウクライナ某所、20XX年6月3日

 京太郎「優希、今日から出張だからな」

 京太郎「優太郎にいい子にしておくように言っといてくれ」

 優希「分かったわ。あなた」

 京太郎「ああ、それじゃあ家の事を頼む」

 優希「できるだけ...」

 京太郎「できるだけ?」

 優希「ううん。なるべく早く帰ってきてね」

 京太郎「はいはい。それじゃあな。いってくる」

  俺の名前は須賀京太郎。

  三年前までは普通の高校生だった。

  塞翁が馬の例えのように、人生における転機というものは、

 その時にならなければ分からない。

  朝と昼は学校、放課後は部活、そして夜は自由。

  普通という特権を満喫しながら、子供はそのまま大人になる。

 そう考えながら俺は毎日を過ごしていた。

  だけど、そんな俺の癒しともいえる日常は

  あの日、完膚なきまでに壊された...
8 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 22:06 ID:o6Ehszym
  五年前、日本某所

 京太郎「クッソなんだこれ……全然外れねえ……!!」

  その日のことはよく覚えている。

  初めて俺に和が笑いかけてくれた日だったから。

 和「須賀君、デートに行きませんか?」

  部活が終わった後の部室で、頬を赤らめ瞳を潤ませながら、

 俺に話を切り出してきた彼女はとても緊張していた。

  今にしてみれば、それはきっと和が想い人である宮永咲を、

 いや、世界を手に入れる為の重要な作戦の分水嶺だった。

  和の唇が俺の唇に触れた時は幸せのあまり人間は気絶する。

  当時の俺は何の疑いもなく、その多幸感に身をゆだねた。
9 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 22:08 ID:o6Ehszym
   
 男A『いやぁ……今日暑いよね』
 
 男B『うん、すっごく暑い』

 男A『こういうときは海で泳ぎたくなるよね』

 男B『あぁ~。なるなる。それで可愛い男の子ナンパして』

 京太郎(な、何だコイツら……)

 京太郎(なんでこんな場所に海パン姿で……)

  気が付いた時には全てが手遅れ、和の手中だった。

  裸電球一つの真っ暗な地下室に閉じ込められた俺は

 ようやく自分の迂闊さと原村和の恐るべき本性に気が付いた。

  同性愛者の二人組の男に俺は犯されかけた。  

  気が狂いそうだった。  
 
  世界中の全てが崩れ落ちていきそうだった。

  更にショックだったのが、ウザイ女、別に好きでもなんでもなかった...

 部活のチームメイトで、俺をパシってた女が俺の事を好いていたことだった。

 (これは後で分かったことだったが、優希はイカレポンチな連中の集まる

 政党だか秘密結社のナンバー2の立場だった)

  この時俺は彼女が知っている機密情報を吐かせる為の道具、

 要するに体のいい駒として自分が利用されたことを知った。
10 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 22:09 ID:o6Ehszym
  恐らく優希が情報を和に伝えなければ、確実に俺は薬漬けにされ

 廃人にされていただろう。

  俺の命を救ってくれたことには感謝している。

  しかし、こうも考えられないだろうか?

  お前さえ、余計なことをしなければ良かったんだ...と
11 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 22:14 ID:o6Ehszym
  <須賀京太郎の追憶と深層心理>

 俺の人間としての何もかもが全て終わった後、俺達は日本政府の手引きにより、

国外追放の名目でアジアから遠く離れた東欧の日本人学校に転校させられた。

 文化の違いやら、体格の違いで毎日いじめられる日々が長く続いた。

 我慢して、我慢して必死に正気を保とうと努力した。

 結局、全部『あの日』に無駄になってしまったが。

  半年後、遂に俺と優希は結婚してしまった。

 優希『きょ、京太郎...あ、あのね』

 優希『こ、子供の名前を...京太郎に』

  世界で一番否定したい現実を、またしてもこの女が持ってきた。

  愛してるだの、名前は優太郎がいいなぁとか、しかもそれを幸せそうな

 笑顔を浮かべながら話してきやがった。

 『どこまで俺の人生を、狂わせれば気が済むんだよ』

  俺の好みは口やかましくてぺたんこ胸で居丈高な女じゃない。

  ましてやお前のせいで俺の人生が壊れたのに、どうしてお前のことを

 俺が好きになるというとことん自分本位な考えになるんだろう?

  だが、命を救ってくれた恩には報いなければならない。

  子供が欲しけりゃくれてやるが、絶対に愛をよこすことはない。

  そう決めた俺は、自分の人生を終わらせるためにさっさと道を踏み外した。

  その時から、俺は死に場所を求めいたのかもしれない。
12 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 22:16 ID:o6Ehszym
 傍から見れば若くして人生の絶頂を駆けあがっている若き成功者として

周囲からの尊敬と羨望を俺は集めていた。

 苦難から逃れさり、愛するものと新天地で愛を育む。

 はっきり言おう、そんなもんクソくらえだ。

 お前ら敬虔なクリスチャンか?

 だったら車裂きの刑とか、自分の持っている全てをドブに捨てても、

神の祝福だけで納得できんのか?

  俺はやだね。

  人が飢えている時、一人だけ齧りつけるパンがあるのなら

 生き血をすするように貪ってでも生きながらえたい。

  復讐の連鎖に身を堕とし、骨肉相食みながら死ぬまで相手に

 血と叫喚を与え続けることを望むのが人の本性。
 
  ご大層な考えかもしれないが、俺は悔しかったのだ。

  こんな目に合わせた元凶を殺せない自分の不甲斐なさが。
13 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 22:17 ID:o6Ehszym
  日本を狂わせた松実玄とiPS細胞の存在。

  そして俺と優希を玩び、人生まで狂わせた原村和。

  許せない。復讐してやる。殺してやる。

  そう思いながら俺はこの三年間、体を鍛え、外人部隊や犯罪組織で

 世界各国の紛争地帯に趣き、様々な事をやってきた。

  セックスも戦争も殺人もできるだけ楽しみながら続けた。

  しかし、麻薬や略奪行為だけはただの一度も犯せなかった。

  そんな日々に飽きてきて、死のうかと思ったとき...俺はスマートブレインからの

 オファーを受けた。

  喉にナイフを三本ほどブッ刺して、運び込まれたスマートブレイン系列の病院で

 奇跡的に生き返ったのが運の尽きだった。


  スマートブレイン。

  いまや世界の全てにおける最先端を驀進し続ける日本の急成長に

 歯止めを掛けるべく、世界各国からの多国籍企業が作り上げた秘密結社。

  その秘密結社が作り上げた外部装置ライダーズギア。

 それにより形成される戦闘用特殊強化スーツの装着適合者に

 俺は何の因果か選ばれたのだった。

  いや、それよりも衝撃的だったのが、その時に自分がオルフェノクという

化物の存在へと成り下がったことを教えられたことだった。
14 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 22:19 ID:o6Ehszym
 雌雄同性の自己増殖する化物と、死後復活した人と動物が一緒くたになった

キメラみたいな化物に差があるとも思えないが、その時、俺は全てを

支配したかのような全能感に包まれた。

 苛烈な運命の神の如き、全てを断ち切りし支配者の資格。

 iPSという万能の力を得た原村和という『神』

 オルフェノクという死を超越した須賀京太郎という『悪魔』

 足元から這い上がってくるこの震え。

 そう、これは歓喜だ。

  神と並び立てる存在はその真逆の存在でしかない。

  男と女、オルフェノクとiPS類、そして善と悪。

  遂に手に入れたのだ...俺が『神』を裁...殺す資格を!

  
  ~~~

  あの日から変わらない、俺の時計は...

  自分の死を経たあとも、未だに動くことはない。

  しかし、今俺が生きているのは運命だと断言できる。 
  
  そして、俺は全てが集う日本へと降り立つ。
15 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 22:19 ID:o6Ehszym
  京太郎が日本に来る前日、

 
 水原「おーし、全員準備は出来たか?」

 兵士A「すべて滞りなく準備は整いました」

 兵士B「兵士Aから兵士Uまで総員いつでも出動できます」

 水原「わかった。それじゃあこれから俺達は」

 辻垣内「ちょっと待て、アンタ達何しに行くんだ?!」

 水原「決まってんだろ。帝王のベルトを奪いに行くんだよ」

 水原「ハギヨシさんが殺され、デルタのベルトが奪われた」

 水原「それだけでも十分な損害なのに、それを模した量産型の

    兵士達が作られた」

 水原「現に今月に入ってから、解放軍の各支部の人間達が

    次々に殺され始めている。そいつ等にな」

 水原「だったらこのまま指を咥えるわけには行かないだろうが」

 辻垣内「どう考えても無茶だろうが!!」 

 辻垣内「忘れたのか?奴らは既に人間を捨ててるんだよ!」

 辻垣内「AK47やUZIでどうにかなる相手じゃない」

 辻垣内「今を耐え忍ばないでいつ忍ぶんだ!」

 水原「うるせえッ!」

 水原「だったらアンタ達も放り出してやってもいいんだぞ!」

 水原「デルタギアが奪われたのは彼女のせいなんだからな」

 水原「なんならアンタも一緒にいくか?!」

 辻垣内「くっ...」

 照「...」
16 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 22:20 ID:o6Ehszym
 水原「宮永総裁よぉ、アンタからもなんか言ってくれよ」

 照「智葉、謝って」

 辻垣内「な、ふざけるな!どうして私がッ!」

 照「水原さん、彼女の失言を見逃してください」

 照「どうかこの通りです」

 水原「だとさ、総裁サマに土下座までさせやがってよ」

 水原「流石ヤクザの娘、格が違う」

 辻垣内「く...ッ、も、申し訳ありませんでした」

 水原「分かればいいんだよ、分かればな」

 水原「よし、時間だ」

 水原「お前ら、全員行くぞ!」

 兵士達「イエッサー!!!」
17 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 22:21 ID:o6Ehszym
 首都、iPS合衆国首都軍事開発所

  水原率いる解放軍の面々は配達業者に扮し、順調に潜入を果たした。

 水原「情報によれば今から二十分後に護送車が来るらしい」

 水原「俺達は二手に分かれ、そのベルトを持ち運ぶ人間と
  
    運転手を襲い、ベルトを強奪する」

 水原「ベルト強奪隊は既に先行している]

水原「残りは俺と一緒に護送車を襲う」

    

  兵士達に指示を出した水原は懐にしまった小型端末を取出し、

 ボタンを押してトラックの経路と自分達の逃走経路を出した。

 水原「待ってろよ...帝王のベルト」

  舌舐めずりしながら獲物を今か今かと待ち構える獣のように

 彼等は待ち続けた。

  しかし、時間が経過しても一向にトラックとそれらしき

 人間が出てこない。

 水原「どうなってんだよ」

  焦る表情を浮かべる兵士達。それは水原も同じだった。

 ???「下の下だね。貴方達」

  困ったような表情を浮かべながら、音もなく兵士三人の

 首を一瞬の内に跳ね飛ばしたのは小柄な女性だった。

 ???「まぁ、帝王のベルトを盗みたい気持ちは分かる」

 ???「けど、残念な事に貴方達じゃ盗むことはおろか

     使いこなすことなど到底無理」

 ???「っていうか、帝王のベルトは今手元にないし」

  ぶつぶつと話しかけるようにして呟く女らしき生物。

 「らしき」と形容したのには下半身のある一点が過剰な程に

 膨れ上がっているからである。
18 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 22:22 ID:o6Ehszym
 清水谷竜華。

  原村和の懐刀にして、帝王のベルトに適合した『運命』に選ばれし『選民』。

 水原「舐めやがって...」

  野蛮な言葉とは裏腹に水原の足は徐々に下がった。

 水原「撃てーっ」

  恐慌をきたした兵士達は、竜華目掛けて一斉射撃を始めた。

 竜華「あーあ、はよ家に帰って怜とセーラ抱きたいな~」

  竜華は、腕の一薙ぎで兵士を五人ほど、真っ二つに切り裂いた。

 竜華「お返しや」

  次に、自分に打ち込まれた弾丸をそのままそっくり同じ速度で

 竜華は兵士達にまとめて返した。

  合計112発の弾丸は、竜華の手から離れた瞬間

 「ぎゃっ」

 「ぐげっ」

 「たすけっ」

  15人の解放軍の兵士達の全身を軽々と粉砕したのだった...
19 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 22:23 ID:o6Ehszym
 草加「遅いなぁ、何をしているのかなぁ?アイツ等は」   

  草加雅人は、本来なら合流する筈の地点で、それも計画との時間のロスが

 既に十分を経過している時点で水原の立てた計画が破綻したことに気が付いた。

  おそらく、iPSでもかなり高位の幹部クラスが出張っている。

  その予想は正しかったが、むしろその正しさが、雅人の苛立ちを

 さらに加速させる。

 草加「やっぱり、どいつも当てにならないな...」

  毒づきながら雅人は愛車であるサイドバッシャーに乗り込み、

 首都軍事開発所へと急行した。

  草加雅人、彼は一言で言うなら用心棒だった。

  日本の倫理と道徳が完膚なきまでに破綻した後、武道の心得と

 他人とは一線を画す蛇の如き狡猾さ、そして今は亡き心の底から

 愛した女への愛を秘め、彼はスマートブレインの社員として、

 この腐りきった日本政府とその配下であるオルフェノクと

 戦う事を選んだのだった。

  雅人自身はこれをオルフェノク撲滅の為の潜入活動と称すも、

 彼自身にもオルフェノクと言うものがどういう存在なのか

 あまりわかっていなかった。

  結論から言えば、真理の敵に最も近い場所を選んだのが

 取り敢えずスマートブレインだったというだけの話である。

 
20 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 22:24 ID:o6Ehszym
  雅人は水原よりかはましな程度の嫌な奴だったが、少なくとも

 今の日本がいかに異常かという事を正しく認識している数少ない

 本当の常識人だった。

  腐った世界が生み出したバケモノに愛する女を殺された雅人は、

 その時から自分の人生を復讐に捧げることを決意した。

  雅人の長所は自らに利する存在であれば、敵であろうと

 味方であろうとその長所も短所も自分に都合のいいように動かし、

 相手を陥れ、最大限に活用できる頭の良さを持っていることだ。

  彼から見れば、オルフェノクは愛した女を殺した敵で

 生きていること自体が許されない存在だ。

  しかし、オルフェノクをより効果的に殺す武器をオルフェノクが

 作ったのなら、誰の追随も許さずに自らの手中に収め、最終的に

 自分のものとしてしまえばいい。

  そう考えられる程に、草加雅人は徹底したリアリストなのである。

  自分の死を悲しむ人間が誰もいない雅人。

  そんな彼の死生観は実にシンプルだった。

 『命は紙屑同然だ。自分の命だけが死に瀕した際最も価値がある』

  故に、使う度に徐々に自分の寿命を削る呪われた武器とは...

  いや、彼の相棒『カイザギア』と雅人は最高に相性がいい。

  
21 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 22:25 ID:o6Ehszym
 雅人「真理...俺は、君の為に」

  雅人は忘れない。園田真理が目の前で殺された時の光景を。

  雅人は忘れない。殺された真理のことを。

  雅人は忘れない。その犯人がオルフェノクだったということを...

  首都軍事開発場に着いた雅人は、水原率いる兵士達が

 僅か三人になっていることに憐れみを覚えた。

  当然の事すら出来ない解放軍のリーダーである水原と

 その取り巻きを雅人はとっくに見限っていた。

  スマートブレインからの指令では、現在の解放軍のリーダーの命を

 最優先で護れと指示されている。

  命令とはいえ、雅人はプライドがとても高かった。

  無駄なことをして、大事な寿命を縮めたくない。

  しかし、命令は命令だ。守らなくてはならない

 Ⅹ「Standing by」

  カイザギアにカイザフォンを差し込み、雅人は変身する。

 雅人「変身」

 Ⅹ「Complete」
 
  静かにオルフェノクへの憎悪を燃やした雅人は猛然と駆けだした。
22 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 22:27 ID:o6Ehszym
 Ⅹ「Ready」

  ミッションメモリーをSB-913 C カイザショットへと挿入した雅人は

 そのまま兵士の一人に取りついたモスオルフェノクに精確な正拳突きを叩き込んだ。

 モス「ぐわあああああああ!!!」

  毒蛾のオルフェノクは黄色い閃光と共に粉々になった。


  カイザと交戦する竜華の護衛隊達。

  そして水原率いる敗残兵達は市街地へと逃亡を図る。

  既に竜華はピンクハウスに戻っていたが、後始末を上官から

 命じられた約20名程のオルフェノクの兵士達が上官の残した

 「おこぼれ」にあずかっていた。

 雅人「足手まといどもめ!」

  体内に使徒再生の触手を突っ込まれ、次々と灰化する兵士達。

  数人程使徒再生に成功しかけた「元」解放軍兵士達がいた。

  だが、救世主・カイザがそれを見逃すはずがなかった。
23 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 22:28 ID:o6Ehszym
  強化戦士カイザは挿入されているミッションメモリーを

 カイザフォンからブレイガンに挿入し、左腕の新装備、

 スマートメモリーを取り付けた。

  イーグルサットⅡから送られる量子に変換されたカイザの

 もう一つの姿、スマートフォームが姿を現す。

  ブレイガンに取り付けたツール、カイザチャージャーの

 貯蔵フォトンブラッドを全開放し、周囲にいる政府の人工オルフェノク達に

 ロックオンする。

 雅人「切り裂いてやるよ...真っ二つになぁッ!」

 Χ「Exceed Charge」

  舞うようにブレイガンのブレードで斬りつけ、距離を取っては

 通常の6倍の濃度を持った黄色のフォトンブラッド弾を

 連射し続けた雅人は数分でオルフェノク兵達を殲滅した。

  オリジナルのオルフェノクの使徒再生のメカニズムの6割程度しか

 再現できずにいる人工オルフェノク達のフォトンブラッド耐性は

 黄色のフォトンブラッド弾数発で灰化するほど脆弱である。

  あらかたオルフェノクを殲滅し終えた雅人は、水原達が

 逃げた市街地へ走り出した。

  チャージャーに溜まった残りのフォトンブラッドは周囲にいる

 オルフェノク達を消し炭にするのに使われたのはいうまでもない。
24 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 22:29 ID:o6Ehszym
 市街地


  逃げ惑う何の力も持たないオルフェノクの中には、当然子供の

 オルフェノクもいる。

 池田「キャプテン、逃げましょう!」

 美穂子「待って華菜!あそこに子供達が!」

  キャットオルフェノクとコーラルオルフェノクこと池田華菜と

 福路美穂子は争いを好まない平和的な性格のオルフェノクだった。

  雅人はイーグルサットで目の前にいる二体のオルフェノクの

 個人情報を読み取った。

  すると、ネコ娘の隣にいる雅人好みの金髪オッドアイの女...

 福路美穂子は政府要人を警護する近衛兵団の隊長だった。

 雅人(捕まえて、政府の情報を洗いざらい吐かせてやる)


 子供「ママー、パパ―!助けてー!」

  子供がインコのオルフェノクへと姿を変え、羽を広げて

 自分の父と母を探し回る。

 池田「キャプテン、逃げましょうよ!殺されますよ」

 美穂子「ダメッ!あの子を助けなきゃ」

  空を飛びながら、悲痛な叫びをあげるオルフェノクに

 駆け寄ろうとする二人の目の前で惨劇は起こった。
25 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 22:31 ID:o6Ehszym
 インコ「わああああーー!!熱い、からだがあついよー」

  光の弾丸が、それがカイザの主武装であるブレイガンと

 フォンブラスターのものであることは二人にとって知るよしの

 ないことだったが、それがインコオルフェノクを焼き鳥にしていく姿を

 彼女達は成す術もなく見るしかなかった。

 インコ「ママぁ...パパぁ...僕は、ここ」

  彼の最後の言葉はカイザの右足によって踏みつぶされた。

 池田「貴様ーーーッ!ニャアアアアア!!!」

  我を失った池田は人の姿を捨て去り、オルフェノクへと

 その姿を変え、カイザへと襲い掛かった。

 草加「フン、馬鹿な奴だ」

 草加「しぇあっ!」

  その一言を耳にする前に、キャットオルフェノクの首は

 綺麗に跳ね飛ばされていた。

 美穂子「かなああああああああ!!!!」

 絶叫しながらも美穂子は冷静さを失っていなかった。

 ほうほうの体で惨劇現場から離脱しようとするも...
26 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 22:32 ID:o6Ehszym
 草加「逃げられると本気で思っているのかなぁ?君は」

  力づくで車の外に引きずり出された美穂子は這いながらも

 なんとか目の前の悪魔から逃げ出そうとした。

 草加「おい水原。部下を乗せてとっとと逃げろ」

 水原「ひいいいいいいっ」

  情けない声を上げながら足にナイフが三本以上突き刺さった

 水原が生き残った兵士達、どうやら運よく生きのびた二人と

 合流した彼らと共に、カローラは走り去っていった。

 美穂子「人殺し!返してよッ!私の華菜を返して!!」

  騒ぎが大きくなりすぎた。

  これでは、折角の情報の宝庫を誘拐できない。

  とことん使えない水原に、苛立ちを隠せなくなった雅人は...

  死に物狂いになって挑みかかる美穂子の頭をがっしりと掴み、
 
 そのまま地面へと叩き付けた。
27 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 22:33 ID:o6Ehszym
  美穂子「ギャンッ!」

  命の灯が消える前...

  美穂子はカイザから漏れ出た怨嗟に恐怖した。

 

 草加「滅べばいい...オルフェノクも、新人類も」

 草加「俺は、オルフェノクと新人類を許さない」

 草加「一つ残さず、殲滅し尽くしてやる...」

  まず最初に感じたのは頸椎が轢断される感触。

  次に感じたのは眩いばかりの黄色い閃光だった。

 福路(地獄に、おちろ)

  沈黙。

  嫌なにおいがした。鉄の匂いがした。

  それは血の匂いなのか、仮面の戦士の匂いなのか、

  それとも...

  絶望の匂いだった。

  カチャリ、何かがあるべき場所へと嵌った音がした。

  ブウウウウーーーーーンと言う音が迫ってきた

  私の顔を覆った鉄が拳が黄色い光が...。

   思ったより、彼女の末期は派手ではなかった。

  重く鈍い肉を叩き付けた様な『バゴムッ!』という音が

  たった一度だけ鳴ったきりだ。

   一秒か二秒、まるで呆けたように立っていた福路美穂子。

   頭を失った身体がぐらりと揺れ、地面に倒れるまで僅か二秒半。

   飛び散った彼女の返り血が、カイザのフォトンブラッドに

  触れたことにより、灰化を始める。

   佇むカイザの仮面に、オルフェノクの灰がまとわりつく。

   雅人は煩わしげな表情でそれを祓った。

  

   

  非情な一撃が美穂子を灰へと変えた。


 

28 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 22:34 ID:o6Ehszym
 ~~~~
 
 <京太郎の初陣>


 京太郎「久しぶりだな...。日本に帰るのは二年ぶりか」

  汗ばむ陽気が春の終わりを告げ、初夏の訪れを歓迎している。

  空路を取れば必ず足がつく為、京太郎は慎重に一週間をかけ

 陸路と海路を経由しながら日本へと密入国を果たした。

  現在京太郎は大阪にある軍事研究所へと向かう途中だ。

  これは清竜会が統括管理する軍事研究所に囚われている

 愛宕洋榎と大星淡らを救出する為である。

  事前に知らされていた大阪府某所にある極秘研究所。

  これから自分は吹田区にある清竜会が管理する地下施設に潜入し、

 そこにある機密情報の一切を盗み出し、大星淡と愛宕洋榎の救出を

 一時間の間に済まさなければならない。

 京太郎「どちらにしろ」

 京太郎「彼女達が無傷だということは考えられないな」
29 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 22:35 ID:o6Ehszym
  連中の事だ。

  顔も声も知らない二人だがそれでも性格は強気な方だろう。

  余計な事を言って暴行を受け、精神が摩耗、挙句に既に人体改造を

 行われてしまっていれば一貫の終わりだ。

 京太郎「もしも、彼女達が...」

  スマートブレインからの指令では、二人がも新人類へと変貌を遂げていれば、

 殺害せよと命令には含まれている。

  だが、俺はそれでも彼女達を助けなければならない。

  俺の目の黒い内は、誰も奴らの、政府の犠牲にはさせない。
30 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 22:36 ID:o6Ehszym
 清竜会 軍事研究所 最下層

 
 洋榎「は~ぁ、もう何年経つんやろなぁ」

 大星「ヒロエ~、もうやだよ~。帰りたいよ...」

  大阪を牛耳る清竜会の軍事研究所の最下層36Fには日本の機密情報や

 オルフェノクに関係する実験施設がある。

  囚われの身となったまないた党幹部である愛宕洋榎と大星淡が

 臭い飯を食べ続けてから二年が経過した。

 洋榎「オカンも絹もウチの事を見捨てたんや...」

 洋榎「恭子も、漫も、由子も誰も助けてくれへんかった」
 
 洋榎「なぁ、大星。いっそのことiPS類になろか?」

 大星「やだやだぁあああ!!化物なんかになりたくない」

 大星「助けてよ~、テル―!セイコー!」

 菫「心外だな、ここにもお前を助けてやれる奴がいるんだぞ」

 大星「いやああああ!!!来ないで、来ないでえええ」

  これは地下施設で幾度も繰り返されてきた光景。
31 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 22:38 ID:o6Ehszym
 弘世菫はこの小生意気な後輩の事がとても気がかりで

 しょうがなかった。

  今の自分は軍の階級でいう所の将軍クラスだ。

  軍艦や一個大隊を率いることの出来る権限を与えられている。

  権限を最大限利用し、可愛い後輩に自分達のやっている事の

 素晴らしさをきちんと理解してもらえるように努力したのだ。

  ...厳しさをすべて取り除いた、無償の愛で。

  菫は淡の接し方について反省していた。

  だからこそ、次こそは間違うまいとしてストレートな

 感情表現と言葉のキャッチボールを心がけたのだ。

 『可愛いぞ淡。私の女になれ』

 『どうした淡、元に戻ってくれ?ハハハ、何を言っている』

 『これが私の本当の、ありのままの姿なんだ』

 『ゴメンな淡、だけどこれだけは誓って本当だ』

 『また、あのメンバーで麻雀がしたい』

 『今はしがらみや禍根がある。けど、お前の力があれば』

 『きっと照も...尭深も、亦野も...きっと』

 ~~~
32 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 22:40 ID:o6Ehszym
 菫「淡、もうあきらめろ」

 菫「宮永咲と天江衣は既に我々の手中に落ちた」

 菫「近いうちに原村首相が宮永咲と結婚をする」

 菫「同性婚による差別を厳罰化する法案がこの前漸く通過した」

 菫「私や清水谷組長の口添えがあれば、特別に恩赦を

   お前に与え、自由の身にすることだってできる」

  そうだ。

  コイツが原村首相の顔につばを吐きかけさえしなければ、

 とっくに私が引き取り、おもちカーストの名誉待遇法を

 適用させて、自由を与えてやろうとしたんだ。

  だが、私だけが知っている。

  大星淡の本質は、マゾだということを。

  私に逆らえば逆らうほど、コイツは私のことを求めてくる。

  だから、私は今日もコイツの涙に潤んだ顔を見て、

 股間を勃起させる。
33 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 22:41 ID:o6Ehszym
 大星「いやだよ!スミレ、元に戻ってよ」

 大星「テル―にフラれたからって八つ当たりしないでよ」

 菫「そうだな。三年前の荒川病院の侵攻は失敗に終わった」 

 菫「だが、次こそしくじらない」

 菫「辻垣内智葉を殺し、照とお前を手に入れる」

 菫「絶対に誰にも、何も言わせない」

  私の目に宿った今までに無い程の鈍い光。

  殺人に快楽を見出したら人として終わっているらしい...。

  だが、オルフェノクとiPS類のハイブリッドとして覚醒した

 私を止められる人間はいない。

  犯し、喰らい、殺す。

  快楽の三大原則を満たせる今の暮らしに、何の不満があろうか?

  受け入れろ、淡。

  お前も照も、直に私がそうなるように染めつくしてやる。

 大星「もう、殺してよ...。こんな世界で生きていたくない」

 菫「それは私だって同じだ。だが、変革に痛みはつきものだ」
34 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 22:42 ID:o6Ehszym
  嘘を言うな、淡。

  お前の両親の命を私が握っている限り、お前がそこで私を

 拒み続ける限り、彼等は何不自由ない生活を送れているんだぞ?

  とても優しいお前が、旧人類を裏切った憐れな人間達を

 我が身可愛さで見捨てられる訳がないじゃないか?



 

  さて、淡の方はこれでいいとして...

 洋榎「お、オカン...、絹...」

 雅枝「ヒロ、もうええんよ。はよウチ等の所に戻ってき」

 絹恵「お姉ちゃん、お母さんの言う通りやで」


  問題はむしろ、こっちの方だ。
35 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 22:42 ID:o6Ehszym
  愛宕洋榎。元まないた党関西地区ブロック長。

  彼女の母親は竜華君の母校で教鞭をとっていた。

  そして、彼女の妹である絹恵さんは私のSSS隊の隊員であり、

 新党iPSの選挙管理委員会の副委員長をしている。

  私はじきに彼女に自分の後を継いでもらおうと考えている。

  しかし、身内に政治犯...それも危険な思想に染まっている人間を

 栄誉ある我がSSS部隊で重用するのはいただけない。

  故に、私は最後の手段として家族の情を利用することにした。

 
 洋榎「うっさいわ、黙らんかい!この化けもんが」

 愛宕「股間にけったいなもんぶら下げた挙句、姉を襲う

    ど畜生なんぞ妹でもなんでもないわ!!」


 愛宕「オカンもオカンや!」

 愛宕「なんやねんおもち党って、そないなことに積極的に

    参加せんでもウチは別にこのままでもよかったんや!」

 愛宕「オトンとオカン、絹がいて毎日幸せに過ごせれば

    それでよかったんや!」

 愛宕「返せや!あの幸せだった日々を」

 愛宕「返せや!うちの家族を、絹恵をオカンを!」

 絹恵「お姉ちゃん...」

 雅枝「ヒロ...」
36 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 22:43 ID:o6Ehszym
 菫「残念だよ...、君達を殺したくなかった」

 菫「非常に残念だ」

  愕然とした視線を私に向ける親子。

  大丈夫だ、絹恵君。

  君のお姉さんを殺すつもりは全くない。

  ただ、ほんのちょっと怖がらせて前言撤回させるだけだ。

 菫「原村大総統。彼女達はもう末期状態です」

 携帯「...」

  絹恵君を安心させようと、ウインクをしたが逆効果だった。

  青褪めた顔をして、二人が檻の前に立ちはだかってしまった。

 絹恵「ちょ、ちょっと弘世さん!なんでウチの娘が」

 菫「雅枝さん、絹恵君」

 菫「そういう条件で私は貴女方を連れてきた」

 菫「彼女に私達が提示した条件を呑む意思がない以上、

   私も自分の本来の役目を果たすほかなくなる」

  眼つきが悪いというのも考え物だ...
37 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 22:44 ID:o6Ehszym
 雅枝「やめてください!娘を、娘を殺さないで!」

 絹恵「お姉ちゃん!お願いや、頷いて!」

 絹恵「私、お姉ちゃんを死なせたくない!いやあああ!」

 菫(ゴクリ...)

  そうだ、こういうのはどうだろう?

  自分の肉親を合意の上で私に引き渡させるというのは?

  誰も邪魔の入らない地下監獄。

  見せしめにはもってこいのシチュエーションじゃないか。

 菫「邪魔だ、どけ!」

 雅枝「お願いします!娘を、娘を」

  やめてくれ、そこまで必死になられたら...

今の今まで必死に抑え込んできた私の薄暗い本性が...

  溢れ出してしまうだろう?


 菫「変身」

 Δ「Complete」

  瞬間、白銀の処刑人がその姿を現した。

 菫「さようなら。淡、愛宕洋榎」

 菫「こんな狂った世界になった元凶を恨みながら死ね」

  まぁ、私もそこまで鬼畜じゃない。

  勿体無いと思う。が、

 菫「取り敢えず殺しておくか...」

 菫「Check!」

 Δ「Exceed Charge!」

  愛宕洋榎の胸に高濃度の三角錐状の青紫の光を放つ

 フォトンブラッドが穿たれた。

 愛宕「あがっ」

  さぁ、その体から命を撒き散らして...死んでもらおうか


 
38 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 22:45 ID:o6Ehszym
  清竜会の軍事研究所に潜入した京太郎はファイズに変身。

 iPS共の悉くを全て殲滅し、指令書にあった機密情報の奪取...

 デルタバスターと政府軍機密文書をスマートブレインの忠実な

 内部潜入工作員二条泉の手引きによって、難攻不落の軍事研究所の

 陥落はいともたやすく行われた。

  そして、京太郎=ファイズはこの任務の仕上げに掛かった。

 泉「はよ行け、GP-049ty6」

 泉「お前が捜してる人間達は最下層36Fに囚われている」

 泉「今から15分の間、ウチが時間を稼ぐ。その間に...」

 京太郎「分かった。潜入任務ご苦労」

  日本iPS軍事研究所所長、その正体は元ヘテロ党員二条泉だった。

 外部協力者として、彼女と俺達は上手くやってきたが、その関係は

 今日を以って終了する。
39 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 22:47 ID:o6Ehszym
  デルタバスターの変身に必要な人工衛星のメイン・プログラムを

 スマートブレインのものになるように書き換えさせ、更にブラックボックス

 と化していたデルタバスターの設計構造図やシステム・データの

 解禁とイーグルサット3の奪還。

  彼女が全てを果たした後、その命は遂に無価値となった。

 泉「それd...」

 京太郎「死ね」

  フォンブラスターを連射モードに切り替え、彼女の頭を吹き飛ばす。

  元々、iPSにもオルフェノクにもつかない中立者気取りの裏切り者

 だったからこそ二条泉にはスマートブレインの傀儡になる資格があった。

  俺が危ない橋を渡りきり、彼女の存在が政府にとって

 無視できなくなった時が彼女の命に最も価値がつく。

  つまり、今が最も泉の命が価値があるというわけだ。
40 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 22:47 ID:o6Ehszym
 京太郎「さて、メインコントロールをホストに全権譲渡させてと...」

  じきに泉とは違う、スマートブレインの潜入員たちがここにある

 必要な内部資料を全て掻っ攫うだろう。
  
 京太郎「そんじゃまぁ、要人救出と行きますかね」

  最下層にいるのは弘世菫だけ。

  情報操作に長けた泉を殺したのは、流石に失敗だったかな?

  そう考えながら京太郎は地下に続くエレベーターに乗り込んだ。 
41 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 22:47 ID:o6Ehszym
 
  京太郎がエレベーターを使って最下層に降りた時、愛宕洋榎は

 まさに絶体絶命だった。

  胸に穿たれた三角錐状の青紫の光に貫かれれば、人間は

 一瞬で灰になる。

 京太郎「させるか!そんなこと」

  大声をあげ、 ファイズエッジにミッションメモリーを

 挿入した京太郎はその出力をハイに切り替えたと同時に、

 彼女達を捉える牢の鉄柵を根元から切り裂いた。

 京太郎「でりゃああああああ」

  予想外の侵入者に面食らった菫は攻撃を取りやめた。

 菫「貴様はファイズか...」

 京太郎「そうだ。そのベルトは人類に残された希望の光だ」 

 菫「それは違うぞ?」

 菫「野望を叶え、敵を滅ぼす絶対の武器だ!」

  相容れない主張と主張がぶつかり合う。
42 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 22:49 ID:o6Ehszym
 京太郎「デルタのベルトは貴女には過ぎた代物だ」

 京太郎「使いすぎれば精神が崩壊するぞ!」

 菫「うるさい!欲しいものさえ手に入れられればな、

   こんな代物捨ててやるよ!」

  京太郎のファイズエッジがデルタに致命傷を負わせるべく

 恐ろしい速さで突き、払い、斬り、穿つ。

  しかし、デルタの力は凄まじく、京太郎の斬撃の殆どを

 まるであざ笑うかのように完全に見切っていた。

  もっとも、小手先の軽い牽制だ。

  互いに二手、三手先を読み切るまで本気を出していない。

  久々に殺し甲斐の有りそうな相手だ。

  今ここで、全力を出して殺すのは勿体無い。

  それに本気を出してしまえば、一回の交差で俺の方がきっと

 弘世の首を切り落としてしまう。

 京太郎「埒が明かないな...」

  奥の手のアクセルフォームを使うのであれば確かにデルタですら

 一瞬で葬り去れるだろう。

  しかし、ファイズのピーキーさも含めて、帰りの事も考えるとやはり

 出来るだけフォトンブラッドは温存しておきたい。

 京太郎「背に腹は代えられないな」

  任務上は、要人救出だが...
43 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 22:50 ID:o6Ehszym
 京太郎(それでも...コイツより俺の方が強い)

  勝利への確信を強めた俺は躊躇なくファイズアクセルを

 ファイズフォンに挿入した。

  菫は京太郎をただ見守る。

 Φ「Complete」

  赤い強化戦闘スーツが白銀の甲冑へと変貌を遂げる。  

 京太郎「相手をしてやるよ!弘世菫」

 京太郎「ただし、十秒だけだがな!」

 Φ「Start up」

  加速したファイズの時の流れにデルタは翻弄される。

  しかし、スペック上ではデルタのほうがそれでも上だ。

 菫は京太郎の斬撃を受けながら、必死に十秒間を耐える。

  しかし、菫が現在体感している時間はアクセルフォームの

 稼働時間の約3%でしかなかった。

 Φ「Exceed Charge!」

  ファイズエッジの百を超える斬撃がデルタを追い詰める。

  菫も己の身体の大半の自損はやむなしと腹を括り、絶え間なく

 降り注ぐ斬撃に己が肉を切らせ続けた。

  骨さえ残っていれば肉はいくらでも捕える。事実、現実は

 その通りになった。

  デルタのベルトが度重なるダメージの為に強制解除されたのを

 見逃さなかった京太郎は菫の無防備な腹を横一文字に切り裂いた。
44 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 22:50 ID:o6Ehszym
 菫「うぐうっ!」

  致命傷と成る一撃を間一髪で回避した菫の、しかし

 それでも大腿はその大腿骨の半分まで切り裂かれた。

  菫の幸運は、ミッションメモリーが挿入されていたのが

 ファイズエッジだったことである。

  これがファイズショットやファイズポインターであれば、

 自分の命は既にこの10秒で奪われていただろう。

  紙一重の幸運に感謝しながら、菫は自分の背中から羽を生やし、

 研究所としての体を成さなくなった軍事研究所から脱出した。
45 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 22:51 ID:o6Ehszym
 京太郎「大星さん!デルタのベルトで変身するんだ!」

 淡「う、うんっ!わかった」

  奪われたデルタギアは、ファイズ、須賀京太郎の手によって大星淡が

 囚われている牢屋に投げ込まれた。

  そして、淡はデルタの力を思う存分発揮し、自分を二年間閉じ込めた

 鉄の檻を易々とぶち壊し、洋榎の閉じ込められている檻も力づくでこじ開ける。

 京太郎「洋榎さん、早くこっちに」

 洋榎「お、おう。ありがとな...///」

  安堵の他に別の意図を含んだ眼差しが仮面越しに自分を見つめていた。

  京太郎はその意味するところに思い当たったが、取り敢えず、

 今はここから脱出することが先決と考え、敢えて自分の心の奥から

 湧き上がる感情を封じ込めた。

 京太郎「いきましょう。二人とも」

  こうして清竜会の軍事研究所を壊滅させた京太郎の初任務は

 政府に奪われたデルタギアの回収と、囚われていた反政府活動の

 要人である大星淡と愛宕洋榎の救出。

  そして日本iPS合衆国政府の重要機密情報の奪取という

 大金星という形でひとまずの決着をみた。
46 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 22:52 ID:o6Ehszym
  淡と洋榎を救出した京太郎は逃走経路の下水道を駆け続けていた。

 淡「ちょっと待ってよ...からだが動かないよ~」

 京太郎「死にたいのか?」

 京太郎「それともまたあの牢屋に戻りたいのか」

 淡「ど、どっちもやだよぅ」

  オートバジンに洋榎と淡を搭乗させた京太郎は刻一刻と

 迫るタイムリミットに焦りを覚えていた。

  二人を救出したまでは良かったものの、軍事研究所の

 最下層からの脱出に思った以上に時間を取られてしまった。

  オートバジンがエレベーターを引っ張り上げてくれなければ

 3人とも仕掛けられた爆弾の餌食になっていただろう。

  小型通信機から入った情報では、地上では既に戒厳令が

 敷かれており、蟻一匹通さない程の包囲網が敷かれている。

  それを見越した上で京太郎は下水道から海に出ることを決めた。

  しかし、物事は中々上手くいかないものである。

 京太郎「流石弘世組の精鋭部隊だな」

 京太郎「下水道の中まで隈なく探し続けるとは....」
47 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 22:53 ID:o6Ehszym
  圧倒的人数にモノを言わせた人海戦術が確実に自分達を

 追い詰めているという予感を京太郎は感じ始めている。

 洋榎「なぁ、須賀さん言うたっけ?」

 洋榎「いざとなったらウチ等を見捨ててもいいから...」

 京太郎「黙ってろ!」

 洋榎「ひっ」

 京太郎「愛宕さん。アンタこんな汚い下水道の中で

     一生を終えたくないだろ?」

 京太郎「愛宕さんも大星さんも俺に命を預けて欲しい」

 京太郎「俺は、俺達は...生きて帰るんだ」

  どこに帰るとまでは言いきれなかった。

  こんな時代に帰る場所を持っている旧人類はほぼ皆無だ。

  居場所が欲しければ、少なくともそれを与えてくれる庇護者が

 いなければ...誰かから奪い取ってでも、戦ってでも勝ち取るしかないのだ。

  自分の明日を、それを得るための力を...

  ようやく追っ手を撒いた京太郎は地上にある誰も来ないであろう

 7割程度安全な合流地点に到着した。
48 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 22:54 ID:o6Ehszym
 京太郎「増援が来る」

 京太郎「二人ともよく頑張った」

 洋榎「ホンマか?!地上に出られるんか?」
 
 京太郎「そうですよ。貴方達のボスである宮永照さんも

     二人の帰還を待ち望んでいます」

 淡「テル―に会えるの?」

 京太郎「このまま何も無ければ会えます」

 京太郎「だけど、ここからが正念場だ」

  俺の一言を掻き消すように、解放軍の救出チームが続々と俺たちのいる

 待機ポイントに駆け付けてきた。

 隊長「須賀京太郎様で間違いありませんね?」

 京太郎「その通りです。貴女は誰ですか」

 隊長「私は亦野誠子です。まないた党総裁宮永照付の

    SP兼諜報部隊隊長です」

 淡「セイコー!」

 亦野「淡...こんなに、こんなにやつれてしまって...」

 淡「うわああああん。会いたかった、会いたかったよー!!」

 亦野「よしよし、それじゃあ至急手筈通りに作戦を実行する」

  涙を流す後輩を抱きしめながら亦野は矢継ぎ早に

 指示を出し始めていく。

 亦野「須賀さんは愛宕さんと同じ車に同乗して下さい」

 京太郎「分かりました。それと途中の休憩時間に二人に

      シャワーを浴びせてやってください」

 京太郎「精神的なゆとりを取り戻させる為です」

 亦野「...あまり時間はとれませんが、考慮します」

 亦野「よし、全員ここから撤収するぞ!」

 亦野「撤退始め!」

  亦野の一声により、京太郎達を乗せた車は東京にある

 解放軍のアジトへと向かっていった。
49 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 22:56 ID:o6Ehszym
 <清水谷竜華の決意>


 竜華「なんやて?!清竜会の軍事研究所が壊滅した?」

  西日本iPSエリア統括委員会委員長清水谷竜華は、二代目

 清竜会組長、船久保浩子からの連絡を受け血相を変えた。

 竜華「嘘やろ!だって弘世菫が後れを取るなんて...」

 浩子「総代。泉も殺されました...」

  電話越しの後輩の声は、怒りに震えていた。

 竜華「そんな、嘘や、泉が殺されたなんて...」

 竜華「セーラは?捜索隊は?」

 浩子「江口隊長は私と一緒に戒厳令の陣頭指揮を」

 竜華「分かった。私は今から首都に出向いて原村首相に

    事態の説明と今後の対策を練ることにします」

 竜華「至急オスプレイの飛行準備をお願いします」

 浩子「了解しました。30分後には全て整っています」

 浩子「総代。お気をつけて」

 竜華「ありがとな。船Q」
50 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 22:56 ID:o6Ehszym
  一時間後、竜華を乗せたオスプレイはピンクハウスに到着した。

  元首相官邸の会議室の一室の扉を開けると、そこにはiPS細胞により

 徐々にその体が崩壊しつつある原村和が椅子に腰かけていた。

  菫からの報告では、ここ最近急激な進化が和の身体に起きており、

 そのせいで和は人前に出られない状態なのだ。

  自分の目と鼻の先で起きた電撃作戦のありのままを報告し、

 これからの対策を和の意に添うように練らなければならない。

 和「そうですか。わざわざ報告ご苦労様です」

  竜華の報告から3分後、和は閉じた目を開き口を開いた。

  西日本iPSエリア統括委員会委員長清水谷竜華は新人類の要となる

 重要施設の一つが完全に破壊された事を受けても眉一つ動かさない

 目の前の『神』に軽いめまいを感じた。
51 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 22:58 ID:o6Ehszym
 開口一番、和は竜華に残酷な事実を伝えることに躊躇いを覚えた。

 和「竜華さん、二条さんがどうしてあの施設の

   総責任者になったのか?その理由はお分かりですか?」

 竜華「仰ることの意味がよく分かりませんが?」

 和「彼女は裏切り者だったのです」

 竜華「そ、そんな...。嘘や、そんなん嘘や!」

  和はおもむろにデスクから分厚いファイルを取り出した。

  自分が作り上げた組織とはいえ、やはり裏切り者が出たことは

 想定範囲内であると、竜華も和も漠然と考えていた。

  しかし、それが自分に近しい存在であれば話は別だ。

  取り乱しながらも、竜華は泉の死を悼んでいた。

  死人に口なしであれば、あとでいくらでも可愛い後輩の名誉を

 回復することが出来る。

  情の深さは人一倍ある竜華は、この数年間で誰からも愛される

 美しい心の持ち主になっていた。

  菫と違いオルフェノクとiPS類の力に溺れなかったからだ。
52 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 22:59 ID:o6Ehszym
 和「二条さんはどちらかと言えば懐疑的な方でした」

 竜華「だからと言って彼女が裏切りを働くなんて...」

 和「竜華さん、彼女を推挙したのは貴女ですよね?」

  そうだ。

  泉なら絶対自分を裏切らないという、漫然とした根拠のない信頼で

 自分は泉に軍事研究所の所長代行を任せたのだ。

  そして、泉は竜華の期待に応えるように多大な成果をだし続けた。


 和「彼女のパソコンの中から、証拠が出てきました」

 竜華「まさか、泉...」

 和「新党iPSの幹事長である彼女の立場は決して低く

   ありませんでした」

 和「機密条項のAクラスまでの情報を閲覧できる権限が

   おもち党や新党iPSの上級幹部には与えられています」

 和「人類解放軍の水原という男と彼女は親類関係にありました」

 和「しかし、水原は私の子飼いの特殊部隊のスパイです」

 和「直属の上司である戒能さんとの巧妙な打ち合わせで私達は

   この日本における旧人類の反乱の芽を迅速に察知し、敢えて

   事態を誘導したのです」

 和「いうなれば彼女は二重スパイだった」

 和「ですが、彼女は必要最低限を遥かに超えた行動、つまり、

   我々の情報を反政府組織や諸外国に漏えいしたのです」

 和「余計な情報を、まぁ、食糧輸送者のルートや我々が

   捕えた旧人類を閉じ込めている場所の漏えいの痕跡が

   あちらこちらで見られました」

 和「竜華さん、貴女のお気持ちはお察ししますが

   貴女の部下が起こした責任は貴女が取るべきです」
  
 竜華「申し訳ありませんでした」
53 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 23:00 ID:o6Ehszym
  死刑とまではいかずとも、かなりの厳罰が自分に下ると

 竜華は想像していた。

  しかし、現実はその反対の結果を生み出した。

 和「西日本iPSエリア統括委員会委員長、清水谷竜華」

 和「貴女を今日付けで現職から解雇します」

 和「そして新党iPS副総裁宮永咲の護衛隊隊長を命じます」

  この事例が意味するのは、つまりあの計画が実行へと

 踏み切られたことを意味している。

 竜華「『プロジェクト・エデン』を実行すると?」

 和「私の『身体』が三日前に完成しました」

 和「竜華さんと菫さんを初めとするiPSオルフェノクにも

   私の体で臨床実験を行ったあとに、『種』を埋め込みます」

   打ち切るように、和は強引に話題を元に戻す。


 和「貴女の後任には、オルフェノク研究所所長の赤坂郁乃が

   就任します」

 竜華「あ、あの『色欲』の赤坂がですか?!」

  竜華の衝撃を意に介さず、和は更に話を進めた。
54 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 23:01 ID:o6Ehszym
 和「そして彼女の副官として末原恭子、愛宕絹恵の両名、

   貴女のSPですが、この二人が志願しています」

 竜華「はい、随意にしてください」

 和「分かりました。では竜華さん一週間後に首都で

   私と咲さんの住むピンクハウスに来てください」

  親しき仲間がこれから次々に死んでいくだろう。

  もしかしたら自分も死んでしまうかもしれない。

 竜華(怜...セーラ...)

  しっかりしなければならない。

  今の自分が背負っているものは、この地球上で必ず

 守りきらなければならない大切な人達なのだから...
55 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 23:02 ID:o6Ehszym
 

  会議室を後にする竜華。

  背中を向け、和に顔を合わすことなく彼女は去ろうとした。

 和「竜華さん」

 和「竜華さん、私からの勅命です」

 和「必ずや、美穂子さんの命を奪ったカイザを殺しなさい」

  和も背中越しに万感の思いを込め、竜華へと語りかける。

  優しい美穂子が死んだ現実を今になって思い知った竜華は

 遂にその現実に耐え切れなくなり、憚る事無く涙を流した。

  和もまた慈愛の塊であった美穂子に多大な影響を受けていた。

  多忙な自分に代わり、身重の咲の世話を一手に引き受け、

 更には自分の秘書として、望む以上の成果を出し続けた彼女に

 報いるため、和もまた美穂子に全幅の信頼を置いていた。

  
56 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 23:02 ID:o6Ehszym
 和「貴女と弘世さん、そして福路さんは新党iPSと

   おもち党が出来た時からの付き合いです」

 和「ですが、福路さんは先日カイザに殺されました」

 和「私はこれ以上、理想に殉じ、共に歩んでくれる

   仲間を失いたくありません」

 和「どうか...死なないでください」

 竜華「はい。原村首相...」

  菫、竜華、そして自分。
 
 竜華「この清水谷竜華、必ずや一命に変えても果たして見せます」
  
  死んでしまった仲間の無念は必ず果たす。

  和と竜華は改めて決意を固めた。

 和「私からは以上です」

  長い話が終わり、会議室から退出する竜華を見送った和と

 郁乃はこれからの予定について話しはじめた。
57 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 23:03 ID:o6Ehszym
 赤坂「ふ~ん、原村大総統は随分と甘々なんですね~」

 和「彼女にはまだ利用価値があります」

 和「少なくとも小鍛治健夜や松実大統領とやりあえるのは

   私達の陣営において『地』のベルトに選ばれた彼女だけです」

 和「そして貴女にもそれは当てはまることですからね」


 和「さて、西日本iPSエリア統括委員会委員長さんに

   早速お仕事にとりかかってもらいましょうか」

 赤坂「粛清かぁ~、ええで」

 和「遺物ども、つまり旧まないた党とヘテロ党の幹部を

   全員処刑してください」    
 
 和「これ以上、悪戯に彼女達を生かしておいても

   悪影響しかありません」

 和「ウクライナにいる片岡優希も例外ではありません」

 赤坂「他の連中はともかく、ええんですか?」

 和「ええんです。人質を取るという事はそれだけ無駄と

   反撃の時間を解放軍に与える事になります」

 和「運が良ければ何人かはオルフェノクになるでしょう」

 和「人質にするのであれば、その後です」

 赤坂「全員いっぺんにまとめて使徒再生っと」

 赤坂「わかったで~。ほなしばらく首相とはお別れやな」

 赤坂「なにかあったらすぐに呼んでください」

 赤坂「それでは首相、御武運を」

 和「ええ、万事滞りなく秘密裏に事を進めて下さい」
  

 赤坂「あは~、さっすがマッドなリアリストやな」

 赤坂「よ~し、いくのんも本腰入れるで」
58 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 23:04 ID:o6Ehszym
 赤坂「関西方面は任しとき」

 赤坂「使徒再生のメカニズムは大方解明しつくした」

 和「多めに見積もっても成功率62%と言う所でしょう」

  郁乃の持ってきたノートパソコンには、先ほどの戦いが

 雅人に一方的に殺されるだけのゴミが写っていた。 
 
 赤坂「まぁ、そうともいうなぁ」

  惨憺たる戦績に気落ちしながらも、郁乃はその真意を

 覆い隠した笑顔でかねてから目をつけていた『素材』の

 使用許可の是非を訪ねた。

 赤坂「オルフェノクと人間のハーフさえ使えれば一発やで」

 和「それは最後の最後までとっておきましょう」

  残念やなぁ~といいながら、郁乃は部屋から退出した。

59 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 23:04 ID:o6Ehszym
 和「ふぅ...『神』を演じるのも疲れますねぇ...」


  郁乃の提案を撥ね付けたものの、オルフェノクと人間のハーフを

 ライオトルーパーの素体に使うのを躊躇ったのには理由がある。

  オルフェノクと人間のハーフは『ヒューマンオルフェノク』と呼ばれ、

 オルフェノクの力を持ちながらオルフェノク化せず、更にオリジナルの

 オルフェノク以上の身体能力と超能力を身につけている傾向が多い。

  しかし、その発現率がかなり低く、本人が何らかの衝撃、

 特に精神的な衝撃を受け、自覚しない限り発現しないという

 兵器として用いるにはあまりにもピーキーな存在なのだ。

 実用化に踏み切れない最大の理由、それはオルフェノク化後の

 人間のDNAとオルフェノク化していない普通の人間のDNAが

 日本の現代科学でも解き明かせない難解なブラックボックスと

 化しているからだ。

  オルフェノクのDNAはオルフェノク因子というものが人間の

 死後にしか発露しない特殊な因子によって突然変異した
 
 人間のDNAと言い変えられる。
60 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 23:06 ID:o6Ehszym
  この場合、死んだ人間がどのようなオルフェノクになるのかという

 遺伝子内でのデザインが始まる。

  このプロセスの解明が既に不可能に近い。

  品種改良と同じ要領で同系統のオルフェノク同士の因子を抽出し、

 生きている人間に組み込んでも、キメラが生まれるどころか、全く別の

 オルフェノクが生まれるのだ。

  野牛と闘牛の因子を掛け合わせたものを組み替えたら、

 鱈のオルフェノクが生まれたり、鷲と隼の因子を掛け合わせると

 花のオルフェノクが生まれるというあんばいに、まるでその人間が何に

 なるのかが既に定められたかのように人間のオルフェノク化は科学に

 左右されないことだけがたった一つの成果として得られただけだった。

  世界の3割を掌握した和をしても、自然発生し、なおかつ完全に自分の力を

 制御できる個体を探り出すのは至難を極めた。

61 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 23:07 ID:o6Ehszym
  そして、日本に限定すれば『ヒューマンオルフェノク』は

 およそ1000人しかいないことを突き止めるに至った。

  そしてその1000人をふんだんに使った人体実験で生き残った

 超兵士がたった270人。

  しかもその270人は実験後に突如として消えてしまった。

  というより、その270人は『神』と『七大使徒』の体内の

 オルフェノク因子の活性化に用いられたのだ。
 
  その結果、和の体は崩壊を迎えつつある。

  しかし、元々がヒューマンオルフェノクだった菫、霞、

 竜華、セーラ、良子、はやり、そして宮永咲は更なる力を得、

 『神』と並び立つことのできる『七大使徒』として、

 人間を超越した力を手に入れたのだった。
62 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 23:08 ID:o6Ehszym
  和としてはこれ以上、解明できないものに時間を割くのなら

 いっそのこと自分の朽ちつつある肉体のDNAを抽出し、それを元にした

 バイオ兵器を作り出すことを考えていた。

  しかし、赤坂郁乃は自分の考えていることよりも遥かに多くのことを

 見通しているという錯覚を与えることにかけては誰の追随すらも許さない。

  だからこそ、和はいつかこの赤坂が裏切ると予見していた。

 

 和「62%じゃだめなんです」



  そして和の懸念はもう一つあった。

  それはライオトルーパーを作り出し、自分と松実玄にオルフェノクと

 iPSいう力を与えた花形という男だった。

  おもちカーストを世界の法として敷き、流出させたのは

 誰であろうあの男だ。
63 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 23:09 ID:o6Ehszym
  死に物狂いで日本を守ろうとする政治家や総理大臣の刺客や

 強引な領土の強奪、そして奇跡の勝利を収めた中国との戦争の最適解を

 導き出し、それを成功させたのはあの男の入れ知恵だったのだ。

 
 花形『私はね、オルフェノクを完全に絶滅させたいのだよ』

 花形『王が帰還すれば、地球は滅びる』

  花形の言うこと全てを鵜呑みにしたわけではない。

  しかし、和にも生態系の頂点に立った責任というものがある。

  今まで考えたり、知ることのなかった世界の真実。  

  人間が頂点として君臨する世界の均衡を守る。

  それが、『神』となった自分の使命だと和は自覚した。

  今は、そのついでとして世界の膿を絞り出しているだけに

 過ぎないが、じきに麻薬や環境汚染はガクンと減るはずだ。

 そして核兵器もこの戦いが終わるまでには地球上にある全てを

 宇宙の彼方へと葬りさることができる段階まで自分の支配力を強めることが

 できている。
  
64 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 23:12 ID:o6Ehszym
  人間の生態系のバランスを崩すオルフェノク化を食い止める為、

 最も人間が種としての自己保存を保てる形が人類のiPS類化なのだ。

  増えすぎた人口に歯止めをかけ、篩にかけて選別する。

  その為に今の高度な文明を徹底的に破壊し、他者を殺戮することで

 生きる糧を得る悪がこの世界に生じることのないようにする必要がある。

  そうして生き残った生物による新たな世界創造を始め、

 傷ついた地球を回復させる。

  これが、原村和の抱いた途方もなく遠大な真の目的。

  

  最後の審判をこの手で引き起こす覚悟は、今の和にはない。

  最終的に生き残る人間の数は10億人を切るだろう。 
65 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 23:13 ID:o6Ehszym
  その中にオリジナルの人間が何万人いるのだろう?

  しかし、和だけしか知らないオルフェノクの王の正体と

 その悪夢のような王の力を目の当たりにした以上、和は『計画』を

 完全な形で完遂させなければならないと強く思っている。

  全ては...『人類』のために
66 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 23:14 ID:o6Ehszym
 <宮永照の嘆き>   
 

 照「で?帝王のベルトを手に入れられず、むざむざと

   何人もの兵士達を見殺しにして帰ってきた訳?」

 水原「ちっ、違う!情報が悪いんだ。諜報班が悪い」

 智葉「この、野郎ッ!」

  任務に失敗して解放軍に戻った水原を待っていたのは

 宮永照を始めとする解放軍の幹部たちによる責任の追求だった。

 照「確かに諜報班の使っているパソコンは政府に

   比べれば性能に劣りがあるのは事実」

 照「だけど、そもそも帝王のベルトを奪取しにいくことに

   一番執心してたのは貴方だった」

 水原「じゃあ、いつもそこでふんぞり返ってるアンタは

    現場に出て戦えるのかよ?」

 水原「いつも現場に出て食料や武器の調達、実働の

    全部を担っているのは俺達じゃねえか!」

 照「民間人の、それも武器を取って戦ったことのない人を

   特攻兵器のように使い捨てる貴方に批判されたくない」

 照「そもそも女が戦場に出てくると士気が下がると

   ごねたのは貴方が最初に私に言った言葉」

  解放軍の象徴である宮永照は絶望していた。
67 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 23:15 ID:o6Ehszym
  三年前に荒川病院で妹と仲間のほぼ全てをを失った後、彼女と

 辻垣内智葉は伝手をたどり、関東で最も人数の多いレジスタンスの

 リーダーである水原と交渉し、組織に加入することが出来た。

  しかし、既に水原の私軍と化した解放軍の面々の大半は最早照の言葉に

 耳を貸さず、身勝手な行動を繰り返し、多くの犠牲者を出し続けていた。

  照が加入した当時は500人いた戦闘員が今では200人にまで

 減ってしまっていた。

  戦力差と言えばそれまでだが、オルフェノクに抗する術を持たない

 烏合の衆たちの集まりである解放軍は、明日の希望も見出すことの

 できない悲惨な状況になっていた。

  見苦しい言い訳をこの期に及んで続ける水原に、誰もが

 呆れ返ったその時、また一人解放軍の問題児がやってきた。
68 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 23:16 ID:o6Ehszym
 草加「スープのお代わり、貰えるかな?」

 水原「お、お前」

 水原「お前の食事が俺達の何日分だと思ってんだよ」

 草加「俺は君達の何人分もの働きをしている」

 草加「食事ぐらいまともにとってもいいだろう?」

  草加の持つスープ皿をひったくるようにして奪った水原は

 叩き付けるようにしてスープのおかわりを雅人へ渡した。

 水原「ほらよ!スープのお代わりだ」

 草加「汚い口を閉じろ。スープがまずくなる」

  忌々しげにスープを持って出ていった雅人を見遣った水原は

 苦し紛れに照に対して捨て台詞を吐いた。

 水原「あーあ、いっそアンタが救世主だったらな」

 水原「俺はもう疲れたよ」

  半ギレ状態で会議室を出ていこうとした水原は、しかし次の瞬間、

 血相を変えた。

 情報兵「み、水原さん。こ、これを見て下さい」

 水原「ああん、こりゃ電報じゃねえか」

  使われなくなった電報を実用的で安全な通信装置へと改造したのは

 元開発者である野村と言う男だった。

  色々な人間がいる中で野村もまた倦厭される類の人間だったが、少なくとも

 草加や水原と違い解放軍の為に日々貢献しているのはここにいる誰しもが

 認めている。水原でさえもだ。

  その野村の電報を好んで使う人間を照は一人知っていた。

 照「亦野...成功したんだね」
69 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 23:17 ID:o6Ehszym
  亦野誠子。

  自分の一つ下の後輩で解放軍では諜報を担当していた少女だった。

  三年前の副大統領の身内を誘拐に失敗した後、亦野は日本各地を

 逃げ回り続け、逃亡先での情報をずっと照と智葉の為に流し続けてくれた。

  その誠子が水原の顔面を驚愕に染める知らせを持ってきたことに

 照の頬はいつになく緩んでいた。

 水原「信じられん。あのハギヨシさんでも手を焼いた

    要人救出をたった一人でしてのけたなんて...」

 智葉「要人救出って...助け出されたのは淡と洋榎じゃないか!」

 照「更に誠子達は二日後に戻れるって書いてある」

  水原に手渡された文面を見た照と智葉は喜びのあまり

 抱き合った。

 水原「...救世主伝説か」

  誰もが事態の好転を期待している中、水原は一人だけ

 底知れない闇を瞳に宿らせながら傍観していた。
70 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 23:18 ID:o6Ehszym
 桜子「あっ、くさかさーん」

 草加「桜ちゃん。こんにちは」

  部屋に戻る途中、雅人は解放軍が預かっている身寄りのない

 孤児たちの集団に出くわした。

  雅人自身、自分と相通じるものがある子供達を邪険にすることなど

 出来るはずもなく、また彼等のことを解放軍の誰よりもずっと気にかけていた。

 草加「桜子ちゃん。今日も元気だね~」

 桜子「うんっ!おとーさんとおかーさんは元気が一番って

    元気にしてれば、みんな笑顔になれるって言ってた」

 綾「こんにちは草加さん。今日はどんなことがありましたか?」

 草加「あんまりいいことはなかったよ。だけどお菓子を

    いくつか買ってきたんだ」

 草加「他の子供達も呼んでおいで」

 ひな「わーい、草加さん大好き!」

 草加「ありがとう。じゃあ俺は部屋で待ってるから」
71 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 23:19 ID:o6Ehszym
  雅人は喜び勇んだ子供達が部屋に戻るのを見届けた。

  雅人は物心ついた時に親に殺されかけた。

  無理心中といえば聞こえはいいが、その真実は保険金目当てで

 自分を始末しようとした母親の巧妙な罠だった。

  鬼の形相で鉄パイプを振り上げては、全力で振りおろして殺そうとする

 母親が、結果として雅人の心の中に自分とは相容れないものは排除する

 というスタンスを構成することになってしまった。

  それは今になっても雅人を苦しめていた。

  だからこそ、雅人は自分に好意を寄せる人間に対して

 自分の醜さを見せてしまわないように仮面をつける。

  カイザと言う力を手に入れた時は流石に出来過ぎだと思ったものの、

 少なくともカイザとして、解放軍の用心棒としてここにいる間は、純粋に自分を

 慕う子供達に対して自分の心に素直になれた。
72 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 23:19 ID:o6Ehszym
 子供達「わーい、お菓子だ~」

  勢いよく扉を開いた子供達は早速雅人に群がり始めた。

 草加「はいはい。お菓子は逃げないからね」

 草加「ほらほら、まずは飴からだ。皆一列に並んで」

  彼等はこのお菓子を半ば強奪するようにして自分が奪った事を

 知ればどんな顔をするのだろうか?

  オルフェノクのいるコンビニに押し入り強盗をして自分の腹を

 満たすことは数え切れないほどしてきた。

  それこそ、眼の前の子供達が餓えている最中にも関わらずだ。

  罪悪感を偽善で覆い隠すのは自分の十八番だが、それでも純粋に

 ただのお菓子をまるで高級食品のようゆっくりと味わう子供達の顔を

 雅人は正視できなくなる。

  ここ最近はそうした罪悪感が自分を苛み続ける。
73 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 23:20 ID:o6Ehszym
 桜子「くさかさん?泣いてるの?」

 草加「あ、ああ。ちょっとね...大好きだった女の子の

    ことを思い出していてね...」

 草加「好きだったんだ...。ああ、心の底からね」

  おっと、いけない。

  今の自分は革命軍の用心棒ではなく、面倒見のいい好青年、

 草加雅人なのだ。

  年長者は年下を不安がらせてはいけない。

 ひな「くさかさん、大丈夫?」

 草加「ああ、大丈夫さ」

 草加「なんていったって、俺はみんなのお兄さんだから」

 少年A「俺、草加さんみたいな優しくて強い男になる!」

 少年A「そうすれば悪い奴らからみんなを守れるもん!」

 草加「そうか。だけど君はそのままでいいと思う」

 草加「俺のような生き方をすれば早死するよ」

 草加「力に溺れた男は惨めだぞ」

  自嘲を込めた皮肉を理解できず、きょとんとする子供達を見遣り、

 雅人は引き出しからとっておきを取り出した。

 草加「さぁ、今日は大盤振る舞いだ」

 草加「おせんべいもあるし、ポテトチップスもある」

 草加「小さいけれど、ショートケーキだってある」

  子供達の無邪気な笑顔を自分がこうして見ることが出来るのは

 果たしてあと何回あるのだろう?

  雅人を悩ますジレンマはまだ終わらない。
74 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 23:21 ID:o6Ehszym
 ~木場勇治の悪夢~

 海堂「木場―ッ!お前だけでも逃げろッ!」

 木場「ふざけるな、俺も戦うッ!」

 木場「君と長田さんを見捨てて逃げるもんか!」

 海堂「バッキャロウ!俺様はな、お前の事が大嫌いだったんだよ」

 海堂「妙に良い子ちゃんぶりやがって...何がオルフェノクと

    人間が共存できる道を模索してるだぁ?」

 海堂「おかげで、俺と結花はお前に出会えちまったじゃねえか!」

 海堂「行けよ!木場」

 海堂「最後までバカやって...テメェの理想を実現しやがれ!」

 結花「私も、木場さんに会えてよかった...」

 結花「海堂さんも、私も夢を叶えられなかったから...」

 結花「だから、借り物の夢でも木場さんと同じ夢に向かって

    一緒に努力した時間がなによりの宝物です」

 結花「夢を叶えられなかった人、夢のない人が夢を叶えられる」

 結花「そんな世界を作ってください...木場さん」

 結花「長田さん...海堂...」

 海堂「へへっ、ま、次あう時はギターを教えてやるからよ」

 海堂「また、この面子で何かやろうや...」

 ~~~
75 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 23:22 ID:o6Ehszym
 木場「海堂、結花...」

 木場「どうして、俺を置いて死んだんだよ...」

  オルフェノクの青年、木場勇治は深い絶望の只中にいた。

  生前の彼は資産家の子息として生まれ、婚約者も持つなど

 恵まれた環境に育った青年だったが、両親を乗せて車を運転中、

 不幸な交通事故に遭い、2年間の植物状態を経て死亡した後、

 ホースオルフェノクとして覚醒したことで人生が一変した。



 『やっぱり、生き返っちゃいけなかったんだよ...俺は』



  オルフェノクとなった勇治は死亡した両親の財産を奪った

 叔父を手始めに血祭りにあげ、更に恋人だった千恵が自分を裏切り、

 従兄弟の一彰と恋愛関係にあることを知り二人を殺害した。 

  人を殺すこと怪物となり果てた自分に嫌悪を感じた勇治は

 何度も死ぬことを試みた。
76 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 23:23 ID:o6Ehszym
  ガス中毒、練炭自殺、高層ビルからの飛び降り自殺。

  しかし、その全ては悉く失敗した。

  失敗した要因の一つはオルフェノクの頑健さが勇治の想像を

 遥かに超えていたこと、もう一つは死を恐怖する自分の心の弱さが

 最後の一線を越えるその決意を鈍らせたことだった。

  何もかもに絶望した勇治を救ったのは皮肉なことに日本の崩壊だった。

  松実玄と名乗る若干17歳の高校生がどのように国家を転覆させる力を

 手に入れたのかは不明だが、男女同性、詰まる所人間と言う種の

 雄と雌の一体化、即ち雌雄同体化を掲げ、実際にそれを無理矢理国民に

 強制する暴政を行ったことにより彼は自分の生きる意味を得てしまった。

  贖罪と自己救済。

  新たな生を受けた勇治を今も昔も、良くも悪くもつき動かしているのは

 この二つの精神だった。
 
  自分より悲惨な境遇の人を一人でも多く助けたい。

  自分と同じオルフェノクとその痛みや悩みを共有し、

 これからどう生きていくのかを模索したい。
77 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 23:23 ID:o6Ehszym
  理想としてはこれ以上に無い程に崇高な精神と言えるが、勇治の理想は

 それを遥かに超える現実との乖離によって疎外されてきた。

  終わりのない旅路で出会った二人の掛け替えのない仲間だった

 長田結花や海堂直也。

  共に現政府打倒を掲げる人間の解放軍にレジスタンスとして参加するも、
 
 結局はオルフェノクとしての正体がばれてしまい、逃亡する途中で

 結花と海堂は政府の人間に捕えられ、殺害されてしまった。

  生きる意味を失いかけた勇治は死ぬことを頑なに拒み続けた。

  どうして自分は死ぬことを拒むのか?
   
  答えを得るために、また彼の理想であるオルフェノクと

 人間の共存を探るべく、勇治は解放軍の門を叩いた。
78 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 23:24 ID:o6Ehszym
 解放軍アジト

 
  万全と慎重を期した京太郎たちの解放軍のアジトへの

 撤退は無事に成功した。

  千葉県の郊外にある廃遊園地の近くの廃ホテルに

 解放軍はその本拠地を構えている。

 兵士1「止まれ、身分証明書と所属部隊を言え!」

 亦野「亦野誠子。宮永照付のSP兼諜報部隊隊長だ」

 亦野「極秘任務に成功した須賀京太郎、及び要人である

    大星淡と愛宕洋榎を連れ戻してきた」

 兵士1「少々お待ちください」

 水原「亦野、久しぶりだな」

 亦野「ご無沙汰しています。水原さん」

 亦野「宮永総裁にお目通りを願いたいのですが?」

 水原「そうだな。それじゃあ旧まないた党の幹部の

    二人だけを連れて行こう」

 水原「そこの金髪の男は誰だ?」

 亦野「彼が私達の新たな希望です」

 水原「...亦野、その男を地下牢に連れて行け」

 亦野「しかし...」
79 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 23:24 ID:o6Ehszym
 水原「解放軍において新兵を新たに迎え入れる時の習わしだ」

 水原「ハギヨシさんも草加雅人もしたことだ」

 水原「例外は認められない」

 亦野「わかりました。ですが...」

 水原「ああ、手荷物だけは俺からの情けで持っていられる

    ようにしておくよ」

 水原「そういうことだ。救世主様」

 水原「悪いがここではこれが習わしなんでね」

 水原「シャワーは我慢してくれ」

 京太郎「分かった」

  京太郎はこの水原と言う男に少しの不信感を抱いた。

  今のところはその主張に一欠けらもやましい点は

 見受けられなかったが、彼個人が水原に抱いた第一印象は

 『気にくわないヤツ』だった。

  しかし、取り敢えず水原の信用は得られたようだ。

 京太郎「さぁ、早く俺を連れて行ってくれ」

  兵士たちは京太郎を地下牢へと連行した。
80 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 23:25 ID:o6Ehszym
 照「淡、洋榎...。よく、よく無事で生きて」

 淡「テル―、うわああああん、テル―」

 洋榎「ハハハ、夢やない。これは夢やないんや」

  あのハギヨシでさえ救出することが出来なかった仲間が、

 もう二度と生きて会う事は無いと思っていた仲間が眼の前に

 いることに照と智葉は感動の涙を流した。

  それは解放軍の面々も同じであり、彼等もまた希望を

 持てることに喜びを感じていた。

 照「さてと、じゃあ洋榎、淡。早速で悪いんだけど...」

 智葉「何でもいい、何か情報は手に入ったか?」

 洋榎「済まん。奴等はとにかく徹底しとった」

 洋榎「ただ、一回だけ天江衣と龍門渕透華がウチ等と

    同じ房に閉じ込められたことがあるんや」

 智葉「透華がか?!それで、透華はなんていってたんだ」

  捕えられた透華の行方は亦野の優れた調査能力を以って

 しても杳として知れなかった。

  思わぬところで出てきた仲間の消息に照と解放軍の

 幹部たちの眼差しに緊張が走る。
81 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 23:25 ID:o6Ehszym
 洋榎「戦況は絶望的で、宮永咲が新党iPSの幹部になった」

 洋榎「それに、胡桃と哩が陥落した」

 照「そんな...咲が、嘘だ」 

  洋榎の口から出た言葉にその場にいた全員が凍りついた。

 淡「テル、おもち党の党員のほとんど全てが新党iPSに

   鞍替えして寝返ったのは知ってる?」

 照「知ってる。菫、尭深もその一員だってことも」

 淡「それでね、菫はまだテルの事を諦めてないみたい」

 照「菫は?何を考えているの」

 淡「分からないよ...けど、もう菫はダメになっちゃった」

 淡「サトハを殺してテルを手に入れるって」

 照「終わりが、終わりが始まる」

 洋榎「ウチ等が手に入れた情報はそれだけや」

 洋榎「奴等徹底して淡とウチを管理しよった」

 洋榎「なぁ、照。ホンマにウチ等は勝てるんか?」

 照「分からない。けど、私達には戦う事しか残ってない」

  深刻な空気が漂い始めたその時、口を開いたのは

 草加雅人だった。
82 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 23:26 ID:o6Ehszym
 草加「で?わざわざ君達はそんな士気を下げるような

    ことを言うためにここに来たのかな?」

 草加「それに、ここにいる全員だって察している筈だろう?」

 草加「俺達が出来なかったことをいとも容易くしてのけた

    解放軍の救世主のことを」

  腹が立つほど爽やかな笑みを浮かべた雅人を睨む水原と

 照だったが、眼の前の二人を救い出した恩人を地下牢に

 閉じ込めているのは事実である。

 草加「加えて、彼女達がまだ精神的に落ち着いていない」

 草加「にも拘らず、こういうことを話させるのは流石に

    いただけないんじゃないのかな?」

  草加の婉曲な嫌味に気が付いた人間はごく限られている。

  しかし、悪質なことにその全てには一本の筋が通っていた。     


 草加「取り敢えず、彼女達のアフターケアは宮永さんと

    辻垣内さんにしてもらうとして...」

  水原を差し置いて、正論を滔々と述べる雅人を誰も咎める

 人間はいない。 

  雅人をそれを理解した上で、改めて自分の意見を通した。




 草加「彼を、ファイズをここに呼んで話を聞こうじゃないか」

  

 
83 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 23:27 ID:o6Ehszym
 廃ホテル ボイラー室

 
 京太郎「あまり衛生的とは言い難いな」

  京太郎が兵士達に連れられて一時的に監禁されたのは

 ボイラー室に簡易ベッドと机と椅子が置いてある部屋だった。

 京太郎「流石に一人部屋とはいかないよな...」

  京太郎が入れられたボイラー室には先客、一人デスクに

 向かって何かの本を読んでいる一人の青年がいた。

 ??「君はもしかして解放軍に志願した人なのかい?」

 京太郎「そうだ。俺は須賀京太郎。21歳だ」

 木場「そっか、俺は木場勇治。須賀君だね。よろしく」

  人当りのいい笑みを浮かべた木場と名乗る青年は迷うことなく

 右手を差し出して京太郎に握手を求めた。

 京太郎「どっちのベッドに座ればいいのかな」

 木場「右側のベッド」

  木場に促されるままにベッドに座った京太郎はシーツの

 汚れやマットレスの固さを確かめた。
84 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 23:27 ID:o6Ehszym
  流石に染みは残っているものの、レジスタンスの使う寝具にしては清潔感に

 溢れているな、と京太郎は感心した。

  シラミやダニが心配だったが、どうやらその心配はしなくていいことに

 京太郎は安堵した。

 木場「ところで須賀君、君はどうして解放軍に入ろうと

    考えたんだい?」

 京太郎「仕事でここに来てるんだ。私怨もある」

 木場「私怨?」

 京太郎「iPS類に自分の人生を滅茶苦茶にされた」

 木場「誰か...家族を失ったのかい」

 京太郎「誘拐されて男に犯されそうになった」

 京太郎「後、好きでもない女と結婚の真似事をして

     貴重な学生時代の青春を無駄にした」 

 木場「ゴメン...デリカシーのないことを聞いちゃって」

 京太郎「いいさ。大体ここにいる連中の大半が似たり

     寄ったりの境遇なんだ」

 京太郎「相手の墓穴や地雷を踏みぬいたことに一々

     目くじらを立ててたらきりがない」

 木場「...そっか、次からは気を付けるよ」

 京太郎「ところで、アンタはオルフェノクなのか?」
85 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 23:28 ID:o6Ehszym
  目の前の相手がどんな人間なのか?

  少なくとも解放軍に逗留するしばらくの間は、自分にとって

 誰が信用できるかを見極めるのが当面の課題である。
 
  そう考えた京太郎は質問を続けた。 

 木場「なっ、なんでそういう事を言うんだ」

 京太郎「少なくとも、俺が人間だったら今の質問に

     驚かずにむしろ喰ってかかる」

  カマを掛けたその直後に自分がオルフェノクだと

 認めてしまうその迂闊さには何とも言えない閉口感が

 否めないものの、木場勇治の場合は、それが彼の人柄の

 良さを際立たせるのに一役買っていた。

 京太郎(こいつは、信用できる)

  京太郎は、話を続けることにした
 

 京太郎「それに身なりが清潔感に溢れている」 

 京太郎「今日日こういう地下組織に潜入するスパイでも

     靴と服のくたびれ具合の演出には細心の注意を払う」

 京太郎「放浪の旅を気取っているんだろうが...」

 京太郎「オルフェノク法において」

 京太郎「不当な財産の略取を受けたオルフェノクは、裁判所に

     申し立てることによって、生前に相続できる筈の

     財産を9割取り戻すことが出来る」

 京太郎「キャッシュカードも使えるんだろ?」

 京太郎「さぞかし不自由しない一人旅だったんだろうな」
86 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 23:29 ID:o6Ehszym
 自分の経験論とオルフェノクでなければ今の時代に

 できないことを織り交ぜた軽い質問で京太郎は勇治が

 どういう人間か、今までどんな暮らしをしてきたのかを

 容易に把握することが出来た。

 木場「まいったな...どうしよう」

  知られたくないことを、それも今日初めて会ったばかりの

 人間に看破された勇治はがっくりと肩を落とした。

  流石にこれ以上の質問を続けると勇治が可哀想だと感じた

 京太郎は質問の内容を勇治の過去にすり替えた。

 京太郎「なぁ、アンタはオリジナルか?」

 木場「そうだよ。交通事故で死んだ後、二年間植物状態に

    なった後オルフェノクとして覚醒した」

 木場「鏡に映った自分は馬のオルフェノクだったよ」

 京太郎「ホースオルフェノクか」

 京太郎「なら尚更腑に落ちないんだが」

 京太郎「どうして政府の軍隊に入らなかったんだ?」

 京太郎「オリジナルのオルフェノクはこのご時世引く手

     あまただろう?」

 京太郎の質問に、勇治は言葉を選びながら答えた。
87 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 23:30 ID:o6Ehszym
 木場「清貧を気取るには、俺は恵まれた生活を送ってきた」

 木場「だけど俺は、iPS類や同性愛者達が旧人類を追いやって

    豊かな生活を享受している現実に耐えられなかった」

 木場「知ってるかい、京太郎君」

 木場「オリジナルのオルフェノク達が、しかも政府軍の使徒再生で

    作られたオルフェノク軍によって迫害されてることを」

 京太郎「なんでだよ?そんな必要ないだろ」

 木場「あるんだよ」

 木場「いいかい?今の世界には三つの勢力がある」

 木場「新人類、旧人類、そしてオルフェノク」

 木場「そしてこの三大勢力で一時的にとはいえ死を

    超越したのがオリジナルのオルフェノクだ」

 京太郎「おいおい、まさか大統領は本気で頭が狂ったのか?」

 京太郎「不死身を目指すなんて正気の沙汰じゃない」

 木場「そのまさかなんだよ」
88 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 23:33 ID:o6Ehszym
 京太郎「何者だ、お前?!」

  先程までは勇治に対するイニシアチブを京太郎が握っていたが、

 いつのまにかその立場が逆転した、

  いや、勇治によって誘導されていたことに京太郎は気が付いた。

 京太郎「くっ。まさかお前、スパイか?!」

 木場「違う!!俺はオルフェノクだけど人類との共存を

    模索しているんだ。政府やiPSの犬じゃない!」

 京太郎「変身!」
 
 Δ「Standing by」

  京太郎がデルタのベルトを装着したと同時に勇治もまた

 人間の姿をかなぐり捨て、オルフェノクとしての正体を
 
 あらわにした。

 京太郎「剣を下ろせ!」

 木場「君と戦いたくない!」

  睨み合う二人の膠着状態は長く続かなかった。
89 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 23:33 ID:o6Ehszym
 辻垣内「おい、お前達。解放軍のリーダーがお前達を

     呼んでいるぞ。早く出て来い」

  智葉の声が聞こえた二人は慌てて身なりを整え、開いた

 扉から外に出た。

 辻垣内「須賀京太郎って言うのはどっちだ?」

 京太郎「俺だ」

 辻垣内「そうか、照からの命令だ。先にそのケースと

     情報を預からせてもらう」  
 
 京太郎「そうはいかない」

 辻垣内「なんだと?私達を信用していないのか」

 京太郎「情報公開は解放軍の幹部たち全員がいる前でする」

 京太郎「生憎、俺はまだアンタ達を疑っている」

 辻垣内「わかったよ...。取り敢えず二人ともこっちだ」
90 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 23:34 ID:o6Ehszym
 ~解放軍、会議室~

 辻垣内「連れてきたぞ」

  智葉に連れられて京太郎と勇治がやってきたのは

 廃ホテルの最上階のホールだった。

 照「ありがとう。それじゃあ二人ともそこの席に座って」

  照が指差した席には既に五人の青年たちが座っていた。

  草加の事を知らない京太郎にとってはどうでも

 いいことだったが、ホールの隅で草加雅人が苦虫を

 噛み潰した表情で彼等を見遣っていた。


  京太郎、勇治の二人が席に着いたのを見計らった照は

 早々に本題を切り出そうとした。

 照「須賀京太郎君」

  しかし、その前に京太郎はどうしても目の前の女に聞いて

おかなければならないことを聞くことにした。
91 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 23:35 ID:o6Ehszym
 京太郎「アンタは、咲の姉か?」

 照「その通りだよ。私の妹は宮永咲。貴方の同級生」

 京太郎「アンタの事、咲はずっと気にしてた」

 照「今となっては後悔してるけど...それでも私は」

 京太郎「アンタの後悔なんて今はどうでもいい」

 照「そう、だよね」

 照「じゃあ、始めよっか」

  照の一声と共に強烈な電流が京太郎の身体を襲った。

 京太郎「ぐううぅっ、な、なんのつもりだ!」

 水原「炙り出しだよ」

 水原「オルフェノクやスパイが解放軍の中に上手に潜入して、

    紛れ込んでいることがここ数年間、何回もあった」

 水原「そしてこれがてっとり早く、一番効果のある方法だ」

  必要最低限の説明をしたリーダー格の男はその後30分に

 渡って京太郎達に電流を浴びせ続けた。

  気を失うまいと京太郎は必死に歯を食いしばった。

  隣の勇治もまた京太郎同様に自分を苛む電流の責め苦に

 必死に耐え続けていた。
92 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 23:35 ID:o6Ehszym
 洋榎「な、何してんねん!いますぐやめーや!」

 淡「そうだよ!!どうして仲間を信じないの!」

 淡「ねぇ?!聞いてるのテル―!!」

  眼の前で起きている光景をみた洋榎と淡はショックを

 隠せなかった。

  こんな仕打ちは、少なくともこれから互いの命を預ける

 仲間に対してされてはいいことではない。

  そう思った二人は何とか水原からスイッチを奪おうとした。

 草加「...無駄な事を」

  雅人は自分が酷い表情をしていることに気が付いた。

  きっと今の自分は普段のシニカルな佇まいから

 かけ離れたような苦虫を噛み潰した表情なのだろう。

  その理由がかつて自分と同じ釜の飯を食べ、共に育ってきた

 流星塾の同窓生が情けなく失禁していることにあるのは

 誰も知らない。 
93 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 23:35 ID:o6Ehszym
 水原「よし、取り敢えず今回志願してきた

    新入りの中にはスパイはいないとわかった」

 水原「宮永、後はお前がやれ」

  吐き捨てるように照へとスイッチを渡した水原は

 そのまま部屋を出ていった。

 照「須賀君と木場君以外のメンバーを例の場所へ

   連れていきなさい」

  照の一声で兵士達が気を失った五人を抱え上げ、

 そのままホールを出ていった。

 京太郎「随分な歓迎だな、おい...」

 照「ほかに手段があれば私もその手段を使う」

 照「だけど、この世界には正直者よりうそつきの

   方が遥かに多すぎる」

 木場「嘘つきは自分の命には嘘をつかない」

 木場「つまり、そういうことだろう?」
94 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 23:36 ID:o6Ehszym
 照「ごめんなさい」

 照「疑心暗鬼の種は早めに一つでも摘み取っておきたい」

 京太郎「分かったよ。それじゃあとっとと話を始めてくれ」

 照「分かった」

  勇治は自分にされた仕打ちの理不尽さに諦めすら感じ始めて

 いたが、かつて海堂や結花が受けた痛みに比べればましだと

 思い直し、何とか怒りだしたい気持ちに歯止めをかけた。

  電流を流し、自白を強要させるのはお世辞にもいい方法とは

 言えないが、少なくとも前時代的な、ある種の野蛮さを秘めた

 この類の方法は、少なくとも痛みを知らないゆとり世代には

 抜群の効果があったようだ。

  京太郎は照と幹部にデルタとファイズのベルト、そして

 敵側の機密情報の紙媒体の書類の全てを引き渡した。

  デルタバスターはあの部屋のベッドの下に隠してきた。

  今この場でデルタバスターの存在を明るみに出すわけには行かない。

  帝王のベルトすら凌駕する、デルタバスターを...
95 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 23:36 ID:o6Ehszym
  照と智葉が書類を、そして兵士達にとっては重要な意味を持つ

 三本のベルトの残り二本を彼等は食い入るように覗き込んでいた。

 京太郎「もういいだろ、早くベルトを返してくれよ」  

 照「...分かった」

  疲れ果てた様な表情を浮かべた照は京太郎の持つファイズギアを

 返したが、デルタのベルトを返すのは拒んだ。

 京太郎「おい、デルタギアを返してくれよ」

 京太郎「アンタ達じゃそれに振り回されておしまいだ」

 照「悪いけど、これは元々私達革命軍のもの」

 京太郎「はぁ?!なに言ってるんだ」

 京太郎「そのベルトは、俺の雇い主であり、アンタの組織を

     支援しているスマートブレイン社の最重要機密だぞ」

 照「嘘じゃない。これを見て」

  照が懐から引っ張り出した書状に書かれている文面を見た

 京太郎は忌々しげに照を睨みつけた。
96 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 23:37 ID:o6Ehszym
 照「スマートブレインが送り込んできたハギヨシという

   エージェントがこのベルトの所有者」

 照「その文書に書かれている通り、その所有者が死んだ

   場合、このベルトを革命軍に貸与する」

 照「これはスマートブレイン社則、第三百六条にもある」

 照「三本のベルト及びその保有者は一人一つ以上の

   ライダーズギアを保管してはいけない」  

 京太郎「要するに慢性的な戦力不足を補う為にベルトを

     最大限利用する為の方便っていうことだよな」

 照「なんとでも言って」

 照「今日はもう遅い。だから手短にこれからの用件を話す」
97 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 23:37 ID:o6Ehszym
 照「須賀京太郎君、木場勇治君」

 照「君達は三日後に強襲班のチームに入ってもらいます」

 照「それまでは自由に過ごしてもらって結構です」

  最初から最後まで失礼な女だ。

  それが京太郎が宮永照に抱いた第一印象だった。

  そしてその女はやりたい放題言いたい放題と理不尽だけを残し

 俺と木場の目の前から立ち去った。

 京太郎「...しょうがないな」

  デルタのベルトはとられてしまったが、まだ手元には

 あの地下施設から奪ったデルタの専用モジュールと

 メモリースティックに保管した機密情報のファイルがある。

  当分の間は、少なくともこれから訪れる三度の機会が

 訪れる日までは慎重に動かなければならない。

 京太郎「おい、木場」

 木場「なんだい、須賀君」

 京太郎「後で話がある。凄く大事な話だ」

 木場「奇遇だね。僕も君に聞きたいことが山ほどあるんだ」

  どうやら当分の間、俺はこの隣にいる親愛なるオルフェノクと

 共に行動をすることになりそうだ。

 
98 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 23:38 ID:o6Ehszym
 <三原修二の後悔>


  新兵達の身体調査を終えた草加と水原の部下の兵士達は

 彼等に割り当てた部屋へと一人一人を運んで行った。

  最後に残った三原修二と言う男を運ぶ役を買って出た

 雅人は部屋に着くなり、気絶した三原を踏みつけて起こした。

 三原「や、やめてくれよ...。だから俺は君達とは関わり

    合いになりたく無かったんだ...ふぁぁ」

  こんな時にもなってあくびをかみ殺そうとする三原に殺意を覚えた

 草加はやり場のない怒りを爪先に乗せ、無抵抗の三原を蹴り続けた。

 草加「三原ァッ!なぜ、何故キサマが生きている」

 草加「真理を見捨てた挙句、多くの流星塾生を死に

    追いやった貴様がッ!」

 草加「クソッ、まぁいい」

 草加「お前にはあの日の事を何もかも話してもらう」
99 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 23:39 ID:o6Ehszym
 誰にも愛されなかった自分の事を掬い上げてくれた

 真理を殺したのはオルフェノクだ。今目の前にいる

 三原修二と言う同級生ではない。

  それが分かっている雅人は、やり場のない怒りを

 なんとか押し込め、平静を取り戻した。

 三原「草加...。真理の事は本当に悪かったと思ってる」

 草加「ごたくはいい。一体流星塾の同窓会の日に何があったのか」

 草加「お前はそれを俺に今すぐ話すべきだ」  

 三原「...分かったよ。だけど草加」

 三原「今から俺が君に話すことは残酷な真実がある」

 三原「今更格好つけようとは思わないけど...」

 三原「それでも、君には伝えなきゃいけないことがある」

 草加「さっさと話せ。真理の仇は一体誰だ」

  危ういほどの激情を迸らせた草加のあまりの形相に

 三原は恐れをなし、草加の知らない真実を話しはじめた。

100 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 23:39 ID:o6Ehszym
 三原「草加、俺達がいた流星塾は孤児院だったよな」

 草加「ああ、同じ境遇の子供達を集めた施設だった」

 三原「真理も君も俺も、何らかの形で両親を亡くした」

 三原「で、その直後に流星塾の先生が来て身寄りのない

    俺達を流星塾に引き取った」

 草加「そうだな。で?それが今更なんだっていうんだ」

 三原「率直に言わせてもらえば、あそこはオルフェノクを

    人工的に作り出す、いわば政府の秘密組織だ」

 草加「何だと!しかし、どうしてお前がそれを知っている!?」

 三原「澤田と沙耶が...そう言ってたんだよ」

  何かをこらえるように、質問に答えた三原は堰を切ったように

 雅人へと流星塾の真実を語り始めた。

 三原「俺達は十歳を過ぎた頃に里親の元に引き取られた」

 草加「ああ、だけどお前や犬飼、澤田、沙耶を始めとした

    殆どの塾生がまた流星塾に舞い戻ってきた」

 三原「俺の場合は里親がヤクザだったからね。へへっ」

  三原のへつらいの笑みをスルーした雅人は考え始めた。
 
  雅人は13歳の頃に、スマートブレイン系列の全寮制の

 中高一貫校に入学していた。

  真理や沙耶を覗く流星塾生とはそれきり疎遠になったものの、

 年に一度は年賀状をやりとりする程度の親交は保っていた。
101 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 23:40 ID:o6Ehszym
 草加「どうしてだ...少なくとも、里親がわざわざ

    引き取った子供達を再度放棄するのはありえない」

 三原「そこなんだよ。草加」

 三原「俺達流星塾生を引き取ったその殆どの里親が

    何者かに殺されたんだよ」

 草加「殺された?!い、一体誰が殺したんだ」
 
  真理の親も、三原の親も二人が引き取られてから一ヶ月と

 経たないうちに遺体すら残らない酷い死に方をしたと聞く。
 
  犯人の正体が三原の口から語られる。

 三原「その犯人は...澤田と沙耶だ」

 三原「知らなかったのか草加?」

 三原「彼女とあんなに仲の良かったお前が、彼女が

    その実、心身共に恐ろしい化物だったってことを」

  そんな馬鹿な...

  自分のことを実の弟のように可愛がってくれた沙耶とは

 流星塾を出たあとも、沙耶を引き取った家族と家族ぐるみで

 付き合いをしていた。

  その彼女が...一体何故?

  雅人の疑問は、三原の答えにより絶望へと変わっていった。 
102 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 23:41 ID:o6Ehszym
 草加「ま、まさか...じゃあ、真理も他の流星塾生も」

 三原「このことを知っているのは流星塾生では俺だけだ」

 三原「他は同窓会の日に全員沙耶が殺した」

 草加「真理、すまない...。俺があの時君を助けて

    やれなかったせいで...」

 三原「...草加、同窓会の日の事はどこまで覚えてる?」

 草加「同窓会の日、流星塾生が午後六時に集まって
 
    バーベキューをして楽しんでいたところまでだ」

 三原「ああ。草加はその時買い出しに行ってたんだよな」

 草加「そうだ...。真理を誘おうとしたのに澤田の奴が

    邪魔して、結局俺だけで行くことになった」

 三原「話を戻すけど。草加、君がいなくなった後に

    沙耶が皆に一緒にずっと暮らそうって話をしたんだ」

 三原「シェアハウス?みたいな共同生活をしないかって」

 三原「最初はまぁ、みんな沙耶だから話を真剣に聞いた」

 三原「彼女は俺達の憧れのマドンナだったから、それに

    賛同した生徒達は結構いた」

 三原「だけど、真理がそれに真っ向から反対したんだ」

 草加「真理が?一体どうしてだ」

 三原「...おかしいよ、沙耶って真理はそう切り出した」

 三原「ニュアンスとしては私達はいつでも会える。

    そんな必要ないってことを伝えたかったんだろう」
103 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 23:42 ID:o6Ehszym
 三原「彼女の一言で、まるで皆が目覚めたように彼女の

    意見に反対し始めた」

 草加「そして、それに耐えきれなくなった沙耶が

    本性をあらわにしてオルフェノクとなった」

 三原「話の前後としてはあってるけど、実は澤田も

    オルフェノクだった」
 
 草加「アイツ...真理にしつこく絡んでいたと思ったら」

 三原「真理は人気者だったから..その分お前以外の

    男子にも結構人気があったんだよ」

 三原「草加、沙耶がどうして流星塾に来たのか知ってるか」

 草加「...知らないな」

 三原「生まれながらにしてのオルフェノクだったんだよ」

 三原「母親が死んだ後にオルフェノクとなって、その時に

    胎児だった彼女も一緒に死んで蘇ったんだ」

 草加「信じられん...オルフェノクは遺伝するのか...」

 三原「心技体ともに彼女は優れたオルフェノクだった」

 三原「だけど、彼女は他のオルフェノクと異なっていた。

    人間性がぽっかりと欠如していたんだよ」

 草加「それを見抜けなかった俺達は更に間抜けだがな」
104 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 23:44 ID:o6Ehszym
それから十分ほど、三原は色々なことを話しだした。

  雅人はそれが三原の悪い癖だということを知っていたが、

  三原も、それを自覚していた。

  意を決した三原は、草加に伝えなければならない真実を話した、

 三原「君のプライドを傷つけるのは心苦しいけど、

    君をいじめた生徒達の主犯は澤田と沙耶だった」

 三原「澤田は真理にべったりだった君を疎しく思っていた。

    沙耶は君を永遠に独占したいと言っていた」

 三原「そして同窓会の幹事も澤田と沙耶だった」

 草加「ちょっと待て、それじゃあ真理はどうしてあの時

    お前と一緒にいたんだ」

 草加「オルフェノクとなった沙耶はともかく澤田の奴は

    真理を真っ先に捕まえるはずだ」

 草加「なのにどうしてお前は真理と一緒にいた?」

 三原「沙耶はまず手始めに先生を殺した」

 三原「澤田は蜘蛛のオルフェノクだったから皆を拘束して

    森の中の木に吊り下げていった」

 草加「それで?沙耶の要求を聞いた奴はどうなったんだ?」

 三原「手足をもがれて殺された」

 三原「当然だよな。ショック死だよ」

 三原「俺を助けてくれたのは里奈だった」

 三原「トイレに行ってた里奈は興奮状態にあった二人を

    出し抜いて森に火を放ったんだ」

 三原「当然沙耶は皆を逃がした」

 草加「追いかけながら一人ずつ殺すためにか?」

 三原「その通りだよ」
105 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 23:46 ID:o6Ehszym
 三原「澤田と沙耶が標的にしたのは真理だった」

 三原「俺は里奈と一緒に他の塾生を助けて何とか

    逃げ出そうとした」

 草加「俺が戻ってきた時に森が火事だったのは、そういう

    理由があったんだな」

 三原「君が記憶を失ったのは多分、沙耶が君を見つけて

    吹き飛ばしたからだと思う」

 三原「君が戻ってきたを確認した俺と里奈は足を怪我した

    真理を担いで君の所に急いでいった」

 三原「だけど、澤田は...大きな手裏剣で真理の両足を、

    切飛ばしたんだ」

 草加「澤田ぁ...」

 三原「真理が崩れ落ちた後、里奈が頭を握り潰された」

 三原「俺は死を覚悟した。だけど...」

 澤田『ふん、情けないな三原』

 三原「それで、それでお前の事を殺しはしないって...

    高笑いしながら真理をオルフェノクの姿になって

    リンチし始めたんだ」

 三原「気が狂いそうだった!」

  今まで自分が苦しんできたすべてを吐き出した修二は、ボロボロと涙をこぼし

 草加はそんな三原に憐れみを覚えた。

  三原でなくても、あの場所に自分がいたら何もできなかったことだけは確かだ。

  
106 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 23:49 ID:o6Ehszym
  三原「草加、君の気持はよく分かる!俺は我が身可愛さに

    真理を押し退けて逃げ出した卑怯者だ」

 草加「それで...真理はお前になんて言ってたんだ?」

 三原「俺が逃げ出す時に、一言だけ」

 真理『草加君、ごめんね』

 真理『できるだけ、私は早く死ぬから』

 草加「ま、り...なんで、何で君がこんなひどい目に...」

  酷薄な表情を崩すことなく今まで話を聞いていた雅人だったが、最愛の真理の最後を

 聞いたとたん、こらえきれずに涙を流した。

 三原「ゴメン、本当にゴメン草加!」

 三原「何一つできなかった俺が生き残ってしまって!」

 三原「俺を許さないでくれ!」

  三原の心からの懺悔は、確かに冷酷な雅人の心に響くものがあった。

  だが...
107 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 23:55 ID:o6Ehszym
 草加「ああ、許すもんか」

 草加「望み通り、俺はお前を絶対に許さない」
 
  今ここで三原を許してしまえば、雅人は自分が今までのように

 戦えなくなることを理解していた。

  里奈を救えなかった修二

  真理を救えなかった雅人

  生きているからこそ、人は誰かを自分の中の善意で許すことができる。

  だが、死んでいった最愛の人たちの無念はどうなる?

  だから、雅人は彼女達の、無念の死を遂げた流星塾生の敵を

 取らなければならない責任がある。

  その為には、許しも懺悔も後回しにしなければならない。

 草加「お前には俺の復讐に手を貸してもらう」

 三原「ああ、俺は澤田を殺さなければ気が治まらない」

  修二の心にも、里奈を殺した沢田への復讐心がメラメラと燃え上がった。

 三原「できることなら沙耶にも一矢報いたい」

 草加「決まりだな」

  決意も新たに、雅人は修二を利用することを改めて決意した。
 
 草加「三原、もう一度言うが俺は貴様を許すつもりはない」

 草加「だが、帰る場所を無くしたお前にとってはおそらく

    ここが最後の居場所になるだろう」

 草加「贖罪なんて生ぬるい言葉で自分を美化するな」

 草加「戦え!戦うんだ三原」

 三原「ああ、やってやるさ!恐怖のあまり逃げ出しても

    何が何でも生き延びて、二人の仇を取ってやる!」

  二人の男のあまりにも悲痛な決意を見届けたのは...

  空に掛かった満月だけだった。
108 名前:名無し 投稿日:2015/02/08 23:56 ID:o6Ehszym
 今日の投稿は、これでおしまいです。

 続きは火曜日の夜に投稿します。
109 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 21:05 ID:zuTac0y2
 東京都某所、首相官邸

 
 玄「それで?おねーちゃん?」

 玄「全人類iPS類完全移行進化計画の最終段階は一体全体

   どこまで進んでいるですか?」

 宥「現状では地球上の全人口、大体四割くらいの男女が完全な

   iPS類への移行を果たしたみたい」

 玄「うむうむ、この調子なら十五年と掛からずに人類全てがiPS類に

   なることは間違いないですのだ」

 穏乃「玄さん。今年の日本iPS合衆国の食料自給率は史上初の

八割を超えました!」

 玄「高鴨穏乃農林水産省大臣。よくやったのです!」

 ゆみ「元大統領」

 ゆみ「雲南、広西、広東、江蘇、福建、浙江、山東」

 ゆみ「更にエリア満州と新疆、チベット、モンゴルからなる」

 ゆみ「中ロ侵略包囲網が整いました」

 玄「私が総指揮官として一週間後に行くのです」

 玄「ゆみさんはお姉ちゃんと穏乃ちゃんと一緒に先に行くのです」

 ゆみ「かしこまりました」
110 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 21:07 ID:zuTac0y2
 
  かつて世界の男女比のバランスを崩壊させた元凶である

 松実玄元大統領、今は諸々の(なんだか国防長官になりたい

 というその場のノリ的な)理由で国防長官となった彼女は腹心である姉と

 名誉iPS類である高鴨穏乃と国政について話し合っていた。

  かつて副大統領であった石戸霞は現在外国との交易を一手に引き受ける

 外務貿易省の全てを取り仕切っていた。 

  iPS類という人類最大の禁忌、それを作り出した(つもりの)本人達は

 それを人類の革新と捉えていた。

  世界でも類を見ない程に自由を保障している日本の最大の欠点は

 既に保障されている自由だった。
111 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 21:11 ID:zuTac0y2
  まず玄は年々減り続ける日本の若年層の労働人口の増加や

 慢性的な人手不足に陥っている第一次産業や第二次産業の

 労働人口の増加へと腐心した。

  彼女は権力を乱用し、労働の自由の範囲を狭めることから始めた。

  第三次産業の抜本的な改革という名の粛清。

  即ち大手企業の取り潰しを圧倒的武力を以って、
 
 (その大半はオルフェノクというiPS類にとっていずれは解決しなければ

  いけない脅威ではあるが)

  それを背景に、怪物軍団である彼等に日本iPS軍特殊部隊という

 隠れ蓑を与え、彼女達日本iPS合衆国政府は未だに旧人類の支えと

 なっている大財閥をあっというまに経済的に、物理的にも粉々になるまで、

 『ドゥームズデイ』の力を使いながら世界中のパワーバランスをめちゃくちゃにすべく

 まずは『世界の秩序』アメリカから順に取り潰していった。。

  その影響は日本はいうに及ばず、世界にも幅を利かせる

 大企業の半分に大きな影響を与えた。
112 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 21:18 ID:zuTac0y2
  当然失職者で日本は溢れた。

  職が無ければ誰も生きて行けない。 

  就職先を失った人間達は我先にと脱サラを始め、農業や漁業へと

 その生活の糧を求めた。

  原村和と石戸霞の奇天烈な発想、第一次産業の国営により、

 一気に日本は安くて、馬車馬のように働く労働力を最大限

 大量に手に入れることができたのだ。

  だが、ここで問題がひとつ起こった。

  職を求めて殺到した国民に、払う給料が不足したのだ。



 咏「とりあえず海を支配すればいいんじゃね?知らんけど」 


  この時、和達の脳裏によぎったのは、手にした瞬間アジアの

 パワーバランスを崩壊しかねない宙ぶらりんの日本の元領土を

 武力介入により全部日本のものにするという悪魔じみた発想だった。 

  自国の排他的水域をさらに拡張すべく、かねてから

 放置されていた国際問題を速攻で解決しにかかったのだ。
113 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 21:20 ID:zuTac0y2
  ロシアに奪われたままの北方領土を取り戻し、そこから取れる

 天然ガスを自国の第一次、第二次産業に優先的に回し、更にそれから一週間と

 経たないうちに竹島に駐留する中国と韓国の軍隊を血祭りにあげ、竹島を奪い返した。

  当然これを世界が看過するはずもなく、日本もまた国際連合を脱退するぞと

 脅しをかけ、領土を奪われた中国と韓国の両国は敵愾心もあらわに日本に

 戦争を仕掛けてきたのだった。

  しかし、松実玄率いる日本iPS軍は数の不利をものともせず、

 さらに恐るべきことに核兵器すら使わせることなく、一方的に

 両国の全ての主要軍事施設を破壊し、三ヶ月で日本側の死傷者は

 僅か千人弱という圧倒的戦果を上げ、楽々と勝利した。
  

 (正確に言えば、三億人全てが戦火によって死んだというわけではなく、

  iPS合衆国政府のある実験により、灰と化し、大半の人間が

  死んでいったというのがこの戦争の奇跡的な勝利の正体だが...)

  この第一次アジア戦争により、中国側は人口の三億人を失い、韓国は寸での

 ところで宣戦布告を取り消し、なんとか戦禍の飛び火を最低限に抑えることに

 成功し...なかった。
114 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 21:23 ID:zuTac0y2
  終戦後、原村和大総統と石戸霞副大総統は日清戦争を軽く超える

 世界も真っ青な不平等条約を敗北者達に突きつけた。

  手始めに中国に対して満州国の復活を求め、日本にはなかった

 南アフリカにある中国が幅を利かせている市場や中国企業の工場や

 マーケットを日本にそっくりそのままただで譲渡する。

  そして、ただでさえ殆どない両国の経済的排他水域や海軍のほぼ全ての

 軍艦を丸々全てを力ずくで奪ったのだ。

  更に極めつけが『平和への抑止力』として中国が製造した

 核兵器を全て取り上げるなどなどetcetc...

  とにかく数え切れないほどの悪逆をアジアに押し付けたiPS類は奪い取った

 領土を手始めに全アジア征服を視野に入れた外交政策に打って出た。

  世界の敵に成り果てた日本に対し、アメリカ、EU、ロシアは同盟を結び

 核兵器を打ち込んで、日本をぶっ壊そうとしたが...
115 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 21:24 ID:zuTac0y2
 霞「ふふっ♪」

 霞「そんなことしても無駄よ」


  副大統領、石戸霞はこれを読み『青い薔薇』を応用した猛毒のiPS細胞を

 内包するナノマシンの雨を降らせるロケットを秘密裏に四機宇宙に打ち上げていた。


  そして、誰にも解明できていないオルフェノクの使徒再生は適応力のない人体に

 著しい影響を及ぼす猛毒のウイルスと化し、軍事施設やホワイトハウスに投下され、

 何十万人もの軍人や政治家、果ては国を担う大臣や将軍、大統領の命を

 一瞬にして奪い去った。

  中国の一件に比べれば、随分と甘く感じられるようだが、

 核兵器による放射能汚染を伴う大量虐殺に比べ、あまりにも

 日本が作り出した殺人兵器は洗練された美しさを誇っていた。

  痕跡を一つも残さず、浴びた人間が灰になるだけの空前絶後の

 超戦略兵器は「ドゥームズデイ」と呼称され、世界中から

 恐れられるようになった。

  核兵器より恐ろしい兵器を、世界でただひとつ持つ日本は

 遂に軍事的な弱点と領土の拡張を果たし、世界へ反旗を翻した。
116 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 21:25 ID:zuTac0y2
 玄「世界には偉い人が多すぎるのです」

 玄「偉い人が自分たちの利益ばっかり重視する政策を

   今までしてきたのが悪いのです」

 玄「だからこれからは私が神様になって、世界を支配します」

 玄「ということなので、私は大統領を辞めるのです」

 玄「次のiPS合衆国大統領、いえ大総統は」

 玄「最強のiPS類である原村和さんになるのです。パチパチパチ」

 玄「世界が平和になる時は、すぐそこまで来ています」

 玄「さぁ、『人類』よ」

 玄「死に物狂いで足掻くのです!」


 ~~~~   
117 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 21:27 ID:zuTac0y2
 玄「おお、原村大総統。ご結婚おめでとうですのだ」

  上機嫌の玄とは対照的に、冷静な和が遅れながら到着した。

 和「まだ式は挙げてませんよ。入籍しただけです」

  挙げることができるかどうか疑わしい結婚式だが、それでも

 隙を見てなんとか開きたいと思う和であった。

 和「しかし、私たちは敵を作りすぎましたねぇ」

 和「流石に現時点で『ドゥームズデイ』を全機破棄したのは

   やりすぎでしたかね?」
 
 霞「せめて一機は残して欲しかったわ」

 霞「余力を残しながら投降する国への牽制に用いようと

   私は考えていたのだけど...」

 和「それじゃあダメなんです」

 和「恐怖による支配は、平和とは言えません」

 和「私たちが『神』として君臨するのに」

 和「私たち自身の手に余るものは置いておきたくありません」

  女たちは自分たちのしていることが必ず世界を変える

 ことができると心の底から信じていた。

  人類にとって最悪なことは、悪法、おもちカーストが男にとって依存性の

 高い麻薬になっていたことと、iPS類の手元に『ドゥームズデイ』がなくても、それに

 取って代わる世界を変えるうる超兵器が続々と結集していたことだった。

  
118 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 21:28 ID:zuTac0y2
 霞「世界の約四割がiPS類とオルフェノクへと変貌を遂げた為に

   残りの旧人類が猛反発を掲げ、半ば暴徒と化しています」

 和「世界が平和になる事のどこに不満があるんでしょうね」

  悪政、暴虐、支配欲。

  しかし、玄は思う。

  この三つを兼ね備えた自分でさえ、霞と和には敵わないと...

 霞「玄さん」

 霞「スマートブレイン社の存在はご存知ですか?」

 玄「知っています。彼等の存在が今の日本の最大の懸念です」  

 霞「報告書にあるように、オリジナルのオルフェノクの

   集団である彼等は短命である代わりに旧人類と動物との

   パワーが合わさった存在です」

  霞もまた和の右腕として心から彼女の理想に殉じている。

  和が本心を打ち明けられる数少ない存在である彼女は、

 当然和の計画を熟知している。

 霞「例外的な特権階級と言えば聞こえはいいですが、

   彼等は厄介な事に殆どが死人です」

  故に、霞は殆どの人間がオルフェノク化により、一定周期で

 大量死する未来を極めて正確な精度で把握できている。

  おもちカーストの暴走と男の物理&経済的な 『去勢』化について

 思うことはあるものの、彼女の研究は無事に実用化までこぎつける

 段階まで来ていた。

 宥「そして最近になって飛び交う救世主伝説」

 宥「未だに徹底抗戦を続ける旧人類のレジスタンス」

 宥「将来的には日本が地球の半分を牛耳る盟主になるのは

   当然として、彼等をどう扱うのかが問題です」

  そして、今の霞の懸念は松実玄だった。

  権力に味を占めた彼女は愛すべきバカを通り越し、暗愚な暴君へと

 成り下がりつつある。

  排斥しようにも、霞には和ですら知りえない真実を花形から齎されていたため、

 どうすることもできない。
119 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 21:29 ID:zuTac0y2
 玄「うーん。色々考えたのですが放置が一番ですな~」

  そう、どのみち邪魔になる連中は殺してしまえばいいのだ。

  ここまでは、霞も玄も同じ考えだ。

  一応、iPS類よりもオルフェノクの方が人間らしいと思う人間が

 多いのが、現在の世界の旧人類の視点である。

  しかし、これを面白くないと思うかそうではないかという点で霞と和、

 そして玄ははっきりと道を違えている

 玄「ふっふっふ~、別に私はなにも手をこまねいている

   というわけではありません」

 玄「全人類iPS類完全移行進化計画は既に成果を出し、

   確実に成功していると言えます」

  王者たるものなら、威厳を保ちながら足元の蟻を踏み潰して歩く。

  自分達は勝者なのだ、故に勝利は私たちを裏切らない。

  彼女達の覇道の前には、旧支配者であったアメリカでさえ

 なすすべもなく崩れ落ちたのだから...

  玄は世界の支配後、支配者として君臨する。

  和は世界の支配後、地球を再生する。

  表にはまだ出ていないが、徐々に亀裂が生じ始めている。
 
 和「玄さん、久しぶりに麻雀やりませんか?」

 和「この前、咲さんの嶺上開花破りを見せてくれるって」

 玄「おお、そうですそうです!」

  ...大丈夫、計画の修正はまだ効く。

 玄「霞さんもやりませんか?」
 
 霞「そうねぇ...また今度にするわ」

 霞「今日は仕事早く終わったし」

 霞「はっちゃんのとこにいきたいの」

 玄「ねばりますね~、まだ抵抗してるんですか?」

 霞「そんな感じよ。ごめんなさいね、また今度にするわ」



 ~~~~~~~
120 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 21:30 ID:zuTac0y2
  京太郎が日本に来てから一週間後

 
 照「少なくともこのぶんだとジリ貧になる、か」

  元まないた党総裁の宮永照は解放軍の現状と京太郎から齎された

 政府軍の資料を照合し合わせていた。

  機密情報の中にはオルフェノクに関する詳しい報告書や各地方の旧人類の

 アジトやその活動内容についてが書かれてあった。

  そしてこれは解放軍の、正確に言えば絶望的な確率だが、旧人類が形勢逆転

 することのできる僅かな可能性が三回ほど残されていることが分かった。

  一つは来月に日本初となる原村和と宮永咲の同性結婚。

  二つ目は三ヶ月後、日本で開かれる六ヶ国協議。

  そして最後は松実玄の3月15日の誕生日。

  京太郎が齎した資料は解放軍にとって、天からの救いに等しかった。

  照は水原にこの資料を見せていなかった。

  水原がここのリーダーではあるものの、照はここ最近水原が

 怪しいと思い始めていた。

  解放軍にとって失敗が許されない計画の大半は政府の手により

 失敗に終わっているものの、その大半の闘いで多くの兵士達が

 死んでいく中、水原だけが大なり小なりの負傷を負いながらも

 必ず生き延びている。

  それはハギヨシが立案した彼の主人である龍門渕透華と

 天江衣を救出するための作戦でも同じことだった。
121 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 21:31 ID:zuTac0y2
 なので、照はともかくその副官である智葉はいざとなれば

 水原を始末し、照を解放軍のリーダーに就ける事を考えていた。

 智葉「照、そんなに疲れるなら私が代わるぞ」

 照「いや、これは私がやる」

 智葉「須賀京太郎には悪いことをしてしまったな」

 照「彼は私達にとって最後の頼みの綱」

 照「ここで彼に最大限働いてもらわないと困る」

 智葉「そうだな。だが、水原の部下が見せてくれた

    カメラの映像に映っているのは新型の強化戦士だ」

 智葉「照、今の私達に出来ることは限られている」

 智葉「宮永咲が旧人類のままだという保証はどこにもない」

 照「理解してる。咲があの原村和の魔手に落ちていたら

   きっとまた多くの解放軍のメンバーが殺される」

 照「もう嫌だよ...誰かが死ぬのは。何もできない自分が」

 智葉「大丈夫だ。お前には私がいる」

 智葉「だから、私を信じてくれ照」

  かつての仲間達が戻ってきたにも関わらず、宮永照の

 抱える心の闇は測り知れないほど深かった。

  それは涙を流す照を抱きしめる智葉も同じだった。
122 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 21:31 ID:zuTac0y2
 三原「ハハハ、直助君。そっちにボール行ったよ~」

 直助「うおおおおお!」

 桜子「なおすけく~ん。パスパス」

  解放軍に入った三原修二に与えられた最初の仕事は

 孤児達の遊び相手だった。

  ただでさえその数を減らしていく仲間達の死に直面する解放軍の

 兵士達にはそんな精神のゆとりがないため、半ば無理矢理

 草加雅人にそのお鉢が回ってきたのだった。

  しかし、草加は予想外の働きを見せ、子供達は自分が孤児ということを

 自覚し、前に進もうと試行錯誤を繰り返しながら毎日を生きている。

  ひどい時は朝昼晩の食事が缶詰一つをつつくような解放軍だ。

  そんな中でも彼等はよく明るさと前向きさを失わずに、生きる

 努力を欠かさないものだと三原は感嘆した。

 淡「私は高校百年生!だからシュートするのだ!」

  そして、解放軍に自分と時を同じくして戻ってきた

 大星淡という少女に三原は心惹かれる物を感じた。

  彼女は二年間政府軍の地下施設に囚われていたらしい。

  しかし、そんな苛酷な環境で二年間囚われてなお、彼女の

 明るさは消えていなかった。

 淡「ダイビングボレー!」

  元気のいい淡の掛け声と共に三原の顔にボールが激突した。
123 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 21:32 ID:zuTac0y2
 綾「み、三原さん、大丈夫ですか?」

 三原「ああ、大丈夫だよ」

 淡「ミハラ―!なにやってんだー!」

 子供達「ミハラ―!なにやってんだー!」

 三原「ハハハ、ごめんごめん」

  淡の明るい声に合わせて子供達が三原をからかう。

 三原「よーし、それじゃあ今度は俺も攻めるぞー」

  キーパーであるにもかかわらず、三原はドリブルで子供達を

 躱しつづけ、あっという間に点を取り返した。

 淡「ずっるーい、ミハラがずるしたー」

 三原「ずるじゃないぞ。これはキーパーの反逆だ」

 淡「ギバ子ー!ミハラにマイナス百点」

 桜子「あいよー!」

 三原「そ、そんなぁ」

  理不尽な点数調整を受けた三原は涙目になった。
124 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 21:33 ID:zuTac0y2
 草加「ぐっ!」

  修二が子供達と遊んでいる中、雅人は自室に一人籠っていた。

  カイザギアの副作用で体の至る所に様々な欠陥が生じ始めている。

  食事以外の気晴らしがない解放軍での唯一の慰めである子供達と

 遊ぶことが出来なくなったことに、雅人はますます機嫌を悪くした。 

 草加「カイザギアの高出力に俺の身体が適応できていない」

 草加「くそっ!俺は、俺はまだ何も...」

  少なくともカイザのベルトを三原に託し、自分はファイズか

 デルタギアを装着して戦えば、少なくとも今の状況が打開できると

 雅人は踏んでいた。

  しかし、それは雅人のプライドが絶対に許さなかった。

 草加「俺は、真理の敵を討つまで止まらない」

 草加「解放軍はそのための手段だ」

  自分に言い聞かせるようにその発言を何度も反芻する。

  それが革命軍の用心棒、草加雅人の本音だった。

  自分が愛した女は、その愛を彼に与える事無く次々に死んだ。

  もしかしたら、自分にも仲間と呼べる存在がいたかもしれない。

  だが、孤独を恐れた自分に残るものがあるとすれば、

 それはきっと死そのものだけだ。
125 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 21:33 ID:zuTac0y2
 草加「だから、俺の存在証明は俺がしなければならない」

  何もかもを失って、それからカイザギアを手に入れ、

 ようやく雅人の人生は輝き始めた。

  初めて自分の存在を肯定してくれる存在に出会えた。

  だが、雅人が本当に欲しいのは無機物ではなく、

 ありのままの自分を受け入れてくれる、血の通った

 人と人との間で育まれる真実の愛だった。

  それを最初に教えてくれたのは真理だった。

  だから、真理と言う拠り所を失った雅人はその精神の

 拠り所をカイザのベルトに求めた。

 ??「草加さん?のお部屋でいいですか」

  聞きなれない若い男の声がした雅人はのろのろと身体を起こし、

 自室のドアを開けた。

  目の前には木場勇治と須賀京太郎がいた。
126 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 21:34 ID:zuTac0y2
 草加「初めまして、でいいのかな?」

 草加「俺は草加雅人。草加って呼んでくれ」

  突然の意図せぬ来訪客に面食らいながらも雅人は部屋の椅子を勇治と

 京太郎に勧めながら、自分は窓際に腰かけた。

 草加「ところで、君達二人は須賀君と木場君でいいのかな」

 木場「はい。僕は木場勇治といいます」

 木場「日本がこうなる前は建築家を目指していました」

 草加「そうか...。災難だったね」

  目の前にいる二人のうちの木場と言う男は、狡猾な雅人から見れば、

 純粋で自分を騙した人間を何度も信用しそうな、いかにもな人の良さが

 表れていた。

 (まぁ、問題はもう一人の男だ)

  一応、木場勇治と言う男の有用性を認めた雅人はもう一人の男、

 須賀京太郎に向き直った。
127 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 21:34 ID:zuTac0y2
 京太郎「自己紹介は一応しておく」

 京太郎「俺は須賀京太郎。二十一歳だ」

 草加「そうか、木場君も同い年なのかい?」

 木場「そうです」

 草加「ま、二十歳も二十一歳もそんなに変わらないな」

 草加「これから背中を預けて戦う同志になるわけだから」

  ごく自然な形で草加はまっさきに京太郎に手を差し出した。

 京太郎はそんな雅人を見つめて微かに笑った。

 京太郎「こちらこそ、よろしく」

  短い言葉と同じくらいの時間で握手を済ませた京太郎は

 照れ隠しなのか、その端正な横顔をそむけた。

  対照的に勇治はがっしりと草加の手を掴み、しきりに

 一緒にがんばろうと言っていた。

  握手を終わらせた三人の間には奇妙な静寂が漂っていた。

  今まで旧人類の希望の一つであるカイザとして、人類解放軍の

 戦闘を担ってきた雅人だったが、これからはもう少しだけ自分の

 負担が減りそうだとらしくない楽観を抱き始めていた。

  だが、そんな希望的観測が壊されるのは次の瞬間だった。

  京太郎の持ってきたファイズギアケースの中から、

  照の手元にあるデルタフォンから、

  そして雅人の手に持っているカイザフォンから、

  彼等の運命を左右する一本の電話がかかってきた。

128 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 21:36 ID:zuTac0y2
 ??「もしもし」

 ??「誰か聞こえている人がいたら返事をしてください」

 草加「貴様、何者だ」

  真っ先に電話の主に喰ってかかったのは雅人だった。

 小鍛治「あー、君はカイザの草加雅人君でいいのかな?」

 小鍛治「私は小鍛治健夜。君達スマートブレインの
 
      日本支社の社長だよ」

 草加「小鍛治健夜...。スマートブレインはいつから

    貴様のように政府に媚びるようになったんだ?」

 小鍛治「違うよ~?」

 小鍛冶「どうして私達がiPS類なんてわけのわからない化け物の

      傘下におさめられなきゃいけないの?」

  理由にはなっていないが、筋の通った答えを返す小鍛治。

 小鍛治「私達の方がずっとずっと強いのにさ」

 小鍛治「ねぇ、そう思わない?宮永照さん?」

  ふざけたスタンスを崩さずに冷静にこちらの出方を窺っていることが

 話し方一つで理解できる。

 照「私達は誰の手も借りずに、残された人類を救い出し、

   世界を変えて見せる」

  こわばった声音ではあるものの、照は自分の意志を電話先の相手へと伝えた。

  しかし、それが力なき者の見る都合のいい夢想であることに違いないのは

 明白だった。
129 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 21:37 ID:zuTac0y2
 小鍛治「ふぅん。獅子身中の虫を使って政府をボロボロに

     する考え方はないんだ?」

  確かに後天的なオルフェノクとは異なるオリジナルの高い能力を持つ

 オルフェノク達の集団の助けを得ればこれから俺達が成そうとしている

 現政府への革命がかなりの確率で成就することは間違い無いだろう。

 照「少なくとも貴女が政府の援助を受け、オルフェノクの
 
   牙城を作った事実がある以上」

 照「私はオルフェノクを信用できない」

  照の切り捨てる一言に、勇治はオルフェノクと人間の間に

 生じた深い闇を垣間見たような気がした。

 小鍛治「そこはさ、ギブ&テイクって奴だよ」

  このままだと埒が明かないと判断した俺は、前から気になっていた

 ある人の消息を尋ねることにした。

 京太郎「お取込み中済まないが、そっちにハギヨシさんは

     いないのか?」

 小鍛治「うん。いるよ~」

 京太郎「電話に代わってくれないか?」

 小鍛治「いいよ~。ハギヨシさーん」

 小鍛治「ハギヨシさんが言ってた京太郎君から電話だよ」

  能天気に電話に代わることを約束した小鍛治に代わり、もう二度と

 聞くことができないと思っていたハギヨシの懐かしい声が聞こえてきた。
130 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 21:37 ID:zuTac0y2
 ハギヨシ「京太郎君ですか?」

 京太郎「お久しぶりです。ハギヨシさん」

 京太郎「衣さんや透華さんはお元気にしていますか?」

 ハギヨシ「お嬢様と衣さまは未だに囚われの身です」

 ハギヨシ「私も三度目の脱走の時に絶命し、小鍛治社長と

      同じオルフェノクとして覚醒しました」

 京太郎「そうですか...」

  聞きたくなかった答えが開口一番帰ってきた。

  更に最悪だったのが次の一言でハギヨシさんが完全に

 オルフェノクの側へと落ちていたことが分かったことだった。

 ハギヨシ「京太郎君。今からでも遅くありません」

 ハギヨシ「これは私の個人的な願望ですが、オルフェノクと

      旧人類軍が手を携えることは可能でしょうか」

  ハギヨシさんの言いたいことは分かる。

  人間とオルフェノクの共存。

  しかし、現実ではオルフェノクの方が人間より強い力を持っている為、

 その提案は空々しく聞こえるだけだった。
 
 草加「ふざけるな!」

 草加「貴様等の手口は見え透いているんだよ!」

 草加「オルフェノクは全て敵だ!化けモンなんだよ!!」

  病的なまでに、忌避の一言で片づけられない程の嫌悪感を

 剥き出しにした雅人は電話越しのハギヨシに怒鳴り散らした。
131 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 21:39 ID:zuTac0y2
  草加のオルフェノクに対する異常なまでの嫌悪は、きっとコイツが

 過去にオルフェノクに殺されかけたことによる根源的な恐怖に根差して

 いるものだろう。

  しかし、それでも奴らは数段草加よりも上手だった。

 ハギヨシ「では、草加雅人さん」

 ハギヨシ「私どもの誠意として、貴方にまつわる因縁に

      片をつけるお手伝いをさせていただけませんか」

 小鍛治「うんうん。確かにオリジナルのオルフェノクは

     貴重だけど、それでもヒト殺しはいけないよね」

 小鍛治「一応、君の事を知っているオルフェノク達を

     私は個人的に匿っているけれど一応、今の一連の

     会話だけは特別に聞かせているんだ~」

  電話越しに聞こえてくる小鍛治とハギヨシのやりとり。

  仮にもオルフェノクを束ねる集団のリーダーであれば

 末端のオルフェノクにまで気を配る必要はない。

  にも拘らず、社長室には後何体かのオルフェノクが

 存在している気配がする。

  そして、そのオルフェノクは並のオルフェノクを遥かに凌駕する

 力を持った上級オルフェノクである可能性が高い。 

 草加「なにぃ!」
  
  草加の追求を遮るように、小鍛治と代わった声の主は電話先でも

 分かるような程の冷たく透き通った声をしていた。
132 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 21:40 ID:zuTac0y2
 沙耶「雅人?雅人なのね!」

 草加「沙耶...俺の質問に答えろ」

  電話越しの相手との会話を聞かせたくないのか、草加はメモに

 『出て行ってくれ』と書かれたモノを見せ、俺たちを部屋から追い出した。

  俺と木場は素直に従って草加の部屋を出た。

  俺は盗み聞きなんて事はしたくなかったが、耳に当てたファイズ

 フォンから漏れ聞こえてく草加の過去に耳を澄ませざるを得なかった。

 草加「流星塾の同窓会の日、真理を殺したのはお前か?」

 沙耶「いいえ、澤田君よ」

 沙耶「正確に言えば手足をもがれて、彼専用のラブドールに

    なって今はどうしているのかしらね?」

  悍ましいことをさらりと言ってのける沙耶と言う女は草加が思いを

 寄せていた女性を殺した澤田と言う男に電話を替わった。

 澤田「くっくっく、久しぶりだな草加」

 草加「澤田ァッ!貴様、貴様よくも真理をおおおお!」

  激高する草加。

  この時、俺は何故草加が人類解放軍の用心棒をしている

 理由を理解することが出来た。

  復讐。

  草加雅人は人生の全てをオルフェノクの撲滅に捧げるつもりだ。
133 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 21:42 ID:zuTac0y2
 澤田「真理には感謝してるんだ。俺」

 澤田「彼女のお陰で俺は完全にオルフェノクの力を

    制御することが出来たんだ」

 澤田「今はさ、こんな時代だから俺みたいな完全な化け物でも、

    幾らでも引く手があまたな訳なんだよ」

  あまりにも....これじゃあ草加が報われなさすぎる...

  外道な発言をし続ける二人組に俺は怒りで手が震えた。

  木場もそれは同様で、俺の手からファイズフォンをむしりとり、

 まるで親の仇が目の前にいるかのような面立ちで、草加達の

 やりとりに聞き入っていた。

 澤田「で?どうするんだ。俺達スマートブレインの力が

    必要なんだろう?んん~?」

 草加「お前の、お前達のボスと代われ...」

 沙耶「雅人...だから言ったでしょ?」

 沙耶「貴方は私の元に帰ってくる」

 沙耶「貴方の隣には私しかいないの」

  草加の感情を押し殺した声の中に、恐怖がありありと濃くにじみ出ていた。

 草加「いいから早く代われ!」
 
 小鍛治「はいはい、もういいでしょ沙耶ちゃん」

 小鍛治「私の貴重な時間を取らせないでほしいな」

  草加の祈りが通じたのかどうか分からないが、沙耶と呼ばれた女性は

 耳に残るような笑い声を残して小鍛治健夜に電話を代わった。
134 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 21:43 ID:zuTac0y2
 照「さっきの草加さんの話は本当なの?」

  静かな声で宮永照が今までのやり取りの真偽を問いただす。

 小鍛治「ん~?そんなの知らないよ」

 小鍛治「仲間なんでしょ。さっきの彼みたいに威勢よく

     『私は信じる!』とか言わないの?」

  聞きたいことをはぐらかしながらも、小鍛治健夜も電話に出た

 二人のオルフェノクには嫌悪感を隠せていないようだった。

 照「草加さんは解放軍に必要な人」

 照「私は彼を同志として認め、最後まで責任を持ちます」

  ...まぁ、少なくとも新参者の俺がここに来るまでは

 草加が解放軍の『正義』の象徴だったんだろう。

  裏表のある人間性はともかく、今まで貢献してきた

 そしてこれからも貢献するであろう忠実な駒を宮永照、いや解放軍は

 重大なリスクを払ってでも手元に置いておきたいのが充分理解できた。

 小鍛治「ま、カイザの適合者がどうなろうと知った

     こっちゃないんだけどね」

 小鍛治「話を戻すけど、組むの?組まないの?」

  終始、気楽な口調を崩さなかった小鍛治健夜だったが、彼女が

 聞きたかったのは今の一言に対する明確な答え。

  即ち、オルフェノクの走狗となるか、オルフェノクと

 iPSの二大勢力を敵に回すか。という二択だった。
135 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 21:43 ID:zuTac0y2
 照「私個人とその副官、そしてライダーズギアの適合者」

 照「貴方のお話に同意を示し、手を貸すのはこの面々です」

  淀みなく、ギリギリの最適解を瞬時に出した宮永照。

  最悪、このやりとりが漏洩したとしても、オルフェノクを

 利用する為の交渉に赴いたと言えば、解放軍の他の幹部達にも

 まだ説明のしようがある。

  少なくとも今の俺達にとって、小鍛治健夜からの

 申し出は渡りに船だった。

 照「近いうちに私達はスマートブレイン社に赴きます」 

 照「その時に利害の一致をはっきりさせましょう」

 小鍛治「うん。いいよー。じゃあ二日後の朝十時にね~」

  ケラケラと笑いながら小鍛治健夜は電話を切った。 
136 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 21:44 ID:zuTac0y2
  スマートブレイン日本支社長、小鍛治健夜は電話を切った後、

 面白そうな表情を浮かべ、ハギヨシにもたれかかった。
 
 健夜「ねね、ハギヨシさんはどう思う?」

 健夜「旧人類の解放軍は私達と手を組むかな?」

 ハギヨシ「小鍛治様の思い描くように全ては進むでしょう」

 健夜「んもう、ハギヨシさんは上手いんだから」

  デレデレと鼻の穴の舌を伸ばした健夜は、思い立ったように

 社長室の奥にある個室にハギヨシを伴って入った。

  自分の手を引く女の笑顔を無感情に見つめるハギヨシ。

  そんなハギヨシの心の機微などお構いなしに健夜はベッドの上に

 ハギヨシを横たわらせ、一つ一つ丁寧に彼の執事服のボタンを

 取り外していった。

 ハギヨシ「ですが、ここで僭越ながら一つ」

  あっという間に上半身をはだけさせられたハギヨシの乳首を巧みに

 右手で愛撫しながら、同時に甘噛みする健夜の頭をやんわりと

 ハギヨシは離した。
137 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 21:45 ID:zuTac0y2
 ハギヨシ「彼等は恐らく、私達に幾つかのおねだりを

       してくるでしょう」

 ハギヨシ「我々スマートブレインへと所属しているオリジナルの

       オルフェノクは、日本政府の庇護下に置かれ、

       自由な経済活動並びに権利が保障されています」

 健夜「例えば、政府要人を警護しているオルフェノクの

    勤務時間帯、あるいは宮永咲の居場所とかかな?」

  ハギヨシの弱弱しい反抗にくすりと笑った健夜は、無防備な彼の唇を

 己の唇に重ね合わせ、ゆっくりと舌を絡ませた。

 ハギヨシ「恐らく、彼等の最大目標はiPS類という存在を

      この世から完全に撲滅させることでしょう」

 健夜「う~ん、じゃあこうしよっか」

 健夜「私が直接宮永照と護衛を伴って、彼等を宮永咲に

    合わせてあげる。うん、一石二鳥♪」

 ハギヨシ「それは...いけません」

 健夜「どうして?」

 健夜「旧人類達が私達との話を聞くってこと自体が

    急所を掴まれているのと同じことなんだよ」

 健夜「それともハギヨシさんは政府の人たちと組んでいて

    良からぬことをたくらんでいるのかな?」

 健夜「そうだったら、いくら私でも見逃せないよ」

 ハギヨシ「...」
138 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 21:46 ID:zuTac0y2
 健夜「ハギヨシさんは、ぜーんぶ私に任せておけばいいの」

 ハギヨシ「...お嬢様は...衣さまは?」

 健夜「...彼女達は宮永咲同様の待遇をうけてるよ」

 健夜「...もっとも、これが私がハギヨシさんへの

    最大の信頼の証だっていうのは、自覚してるよね?」

 ハギヨシ「はい...自覚しています」

 健夜「嘘はいけないなぁ...」

 健夜「馬鹿にしてるの?」

 ハギヨシ「めっそうも、ありません」

 ハギヨシ「執事たる者、公私混同はできません」

 ハギヨシ「今、私がお仕えしているのは健夜様唯一人です」

 ハギヨシ「ですが、健夜様は私を近侍と認めて下さらない」

 健夜「ハギヨシさんを認めないつもりなんて、そんなこと

    微塵たりとも私は思っていないよ?」 
  
 健夜「ただ、私の事をハギヨシさんが仕事相手としか

    見てくれないことに凄い反感を覚えているだけ」

 健夜「そろそろ私のことを真のご主人様としてみないと」

 健夜『ハギヨシさんの大事な龍門渕透華、壊しちゃうよ?』

 ハギヨシ「...透華様にもしものことがあれば...っ」

 健夜「冗談だって、そんなに怖い顔しないでよ~」

  ハギヨシは決意する。

  愛する女の為に...己の心を修羅に堕とすことを。

 ハギヨシ(精々、首だけになって夢を見ているがいい)

  ヘドロのような健夜のヴァキナにペニスを突っ込みながら

 来るべきその日のために、ハギヨシは復讐の刃をとぎ続ける。

  
139 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 21:49 ID:zuTac0y2
 <解放軍の亀裂> 

 
 水原「で?どうするんだよ宮永」

 水原「聞いてないぞ、スマートブレインは俺達と

    協力体制にあるんじゃなかったのか?!」

 水原「奴等はiPSと今まで密通していた。そしてiPSの

    連中がアンタをおびき出す罠を張ったんだよ!」

  照と京太郎を含めた三人は、事の次第を水原に報告した。

  スマートブレインの真の姿を知る人間はここには殆どいない。

  それは旧人類に取って代わった新人類も同じである。

 草加『今、解放軍の幹部達に真実を話しても無駄だろう』

 草加『重要なのは俺達はスマートブレインに何が何でも

    俺たちはいかなければならないという事だ』

  勇治と京太郎はオルフェノクの存在を解放軍のメンバ-に正しく

 公表すべきだと考えていたが、草加の言うとおり、解放軍の

 士気を下げかねない行動は回避しなければならないと照は判断した。
140 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 21:50 ID:zuTac0y2
 京太郎「だけど、いままで何も接触を図ってこなかった

     スマートブレインがこうして行動を起こした」

 京太郎「危険はあるがそれを冒す価値はある」

 水原「うるさい。新参者であるお前達に何が分かる」

 水原「大体な、スマートブレインに俺達が要求しているのは、

    武器と政府の連中がどう動くかの正確な情報なんだ」 

  水原の言いたいことは分かる。

  解放軍に入って日が浅い京太郎は知らないことだが、スマートブレインは

 解放軍に多大な援助を惜しまなかった。

  それは水原によるものが大きかったわけではなく、iPS類との

 シーソーゲームを制する為の先手を打ったにすぎない。

  水原の解放軍には宮永照がいる。

  他の解放軍の物資の援助をおざなりにしても、照に恩を売るだけ売り、

 iPS類へと残りの旧人類がこれ以上流れさせない意図が明確に存在していた。

  アメリカやロシアはともかく、現在iPSとオルフェノクの戦争が

 一番激しいのが日本である。

  日本を制した存在が、次の世界へとその野望の翼を広げ

 征服の凱歌を上げて、進軍することが出来るのだ。

  それを踏まえた上で、iPS類に抗しうる旧人類の希望の星となった

 宮永照の存在の大きさは計り知れない。

  しかし、水原は何を勘違いしているのか、いつのまにかスマートブレインが

 解放軍のバックであると頑なに思い込むようになっていた。
141 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 21:53 ID:zuTac0y2
 草加「冗談がうまくなったな、水原」

 草加「スマートブレインから支給された武器も、人間も

    うまく使いこなせなかった間抜けに、連中が無能な

    お前に苦言を呈したいと思ったことはないのか?」

 水原「なんだと?!」

 幹部A「おい、草加。この解放軍の和を乱し続けると

     本当に出て行ってもらうことになるぞ」 

  火に油を注ぐ草加の発言に、照と智葉の二人の頭が悩まされるのは

 いつものことだったが、その一言に過剰に反応した他の幹部達が、

 一斉に騒ぎ出した。

 幹部D「そうだ。お前生意気なんだよ」

 幹部D「自分専用の武器を会社に作ってもらって満足か?」

 幹部C「俺は選ばれた人間だぁ?」

 幹部C「ふざけんな!お前なんか役立たずだ!」

  草加雅人の人間性には大いに問題がある。

  自分が利用できると思った人間の前では仮面を被るが

 敵とみなした人間は徹底的に排除するのが彼の性格だった。

  そして、彼の『排除』には、明確な意図の抹消も含まれている。 
      
142 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 21:54 ID:zuTac0y2
 草加「へぇ、じゃあ分かったよ」

 草加「そんなにこのベルトの装着者になりたければ、ほら」

  幹部連中の前にカイザギア一式を放り出した雅人は

 傲慢な態度を崩さずに言葉を続けた。

 草加「今まで俺がこういう態度を取ることが出来たのは

    ひとえにこのベルトのお陰だ」

 草加「この中に勇気のある奴がいるなら、この組織の

    和を乱す不穏分子を排除するべきだ」

 智葉「おい、何言ってるんだ、草加!」

  怒りの表情を浮かべた雅人は、カイザギアを食い入るように

 見つめる幹部達を睥睨しながら、彼等が次にどう動くのかを

 じっと観察していた。

 草加「どうした?怖気づいたのか?」

  雅人の煽りに顔を歪めた一人の幹部。

  彼はそのまま前に出てきて、雅人を睨みつけ、カイザのベルトを

 腰にまわした。

 草加「そうそう。そういう風に使うんだ」

 草加「変身コードは913だ」

 幹部D「て、ててテメェ、ぶぶぶ、ぶっ殺してやる」

  一番最初に雅人に喰ってかかった幹部が怒りもあらわに

 雅人の指示通りにカイザフォンに変身コードを打ち込んだ。

 Ⅹ「Standing by」

 幹部D「変身」

 Ⅹ「Complete」

  震える手でカイザフォンのエンターキーを押した彼は、

 カイザギアにそのままそれを差し込んだ。

  全員が見守る中、幹部Dは黄色い光に包まれ、カイザへと     

 その姿を変えた。
143 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 21:56 ID:zuTac0y2
 幹部D「よ、よっしゃー!」

 幹部D「こ、これでお前はこの組織に不要になった」

  幹部Dがカイザに変身できたことに、水原を始めとする

 古参の解放軍の幹部達は、草加雅人を合法的に排除できることに

 歓喜し、手を叩き喜んだ。

 木場「ひどい...どうしてそんなことが出来るんだよ」

  皮肉なことにこの場において、ただ一人オルフェノクである

 木場勇治だけが、この状況の異常性を正しく判断できる存在だった。

 須賀「...木場、お前はこの無駄な話し合いが終わるまで

    口を閉じていた方がいい。絶対にだ」

 木場「それは?どういうこと...」

  京太郎の諦観に満ちた表情の理由を勇治は理解した。

 Ⅹ「error」

  カイザギアから放たれた不適合の音声に続き、

 再び黄色い光がカイザを包み込む。

 幹部D「あ、れ?どうして俺の変身が解けたんだ?」

  きょとんとした幹部Dはまず自分の手を見た。

 幹部A「おい、お前...どうして」

 幹部D「え?え、ええ?」

  事態が把握できない幹部D。

  だってそうだろう?

  自分の身体の至る所が灰化し始めている。

 幹部D「俺は、一体、何を」

  その一言だけを残し、哀れ幹部Dはその命を散らした。

144 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 21:56 ID:zuTac0y2
 水原「お、お前は一体何者なんだ?」

 草加「だから言ったろ?俺もまた『選ばれし者』だって」

  仲間が一瞬にして灰になって散った様に誰もが言葉を失う中、

 ただ一人平然と雅人は水原に話しかけた。

 草加「このベルトを着ける資格の持ち主って言うのは

    旧人類にはそんなにいない」

 草加「旧人類をベースにしたiPS達でもその数は限られてくる」

 草加「分かっただろ?」

 草加「俺や須賀君がどれだけ危険な状況に置かれ、

    命がけで戦っているのか?」

  論より証拠。

  先に雅人に仕掛けた解放軍の幹部達はこれ以上何もいう事が

 出来ずに黙る事しかできなくなってしまった。 

  灰塗れのベルトを雅人は水原に差し出した。 
145 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 21:57 ID:zuTac0y2
  水原も今の光景を見ていなければ、いつか雅人を秘密裏に殺害して

 カイザのベルトを奪おうと目論んでいた。

  しかし、あれでは呪いのベルトではないか?

  それに耐える体を持つ草加や須賀もまた敵の仲間ではないのか?

 というあらぬ予想が頭の中に渦巻き始める。   
 
 水原「わ、わかった。疑って悪かったよ、な?」

  ガシャンとベルトが自分のデスクの上に落とされた音で

 我に返った水原は慌てて手をこすり合わせて雅人に

 殺されないように必死に哀願を始めた。

 草加「フン」

  先程までとは一変した情けない水原を含めた連中を一瞥した

 雅人はそのまま会議室から出ていった。

 水原「わ、わかったよ...」

 水原「宮永は自分の好きな護衛を伴って二日後に

    スマートブレインとか他の場所に行けばいい」

 水原「ほら、お前達も解散だ!」

 水原「聞こえなかったのか!解散だ!」
 
  水原は怒声と共に立ち上がり、会議室にいる全ての

 人間達を外へと追い出したのだった。
146 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 21:59 ID:zuTac0y2
 <愛宕洋榎の初恋>


 洋榎「はぁー。オカン、絹...」

  愛宕洋榎は一週間前の事を思い出していた。

  二年もの間、自分を鉄の牢獄に閉じ込めた新党iPSの

 連中はとてもではないが許せない存在だ。

  しかし、日本の何もかも全てが変わってしまった時に自分の身を

 挺してまで助けてくれたのが血を分けた母親と妹だけだったという真実が

 彼女の心に今も強く突き刺さっている。

 洋榎「なんでや...なんで、なんにも間違っとらん

    ウチ等がこんな目に遭うんや」

  一応、名目上では自分は解放軍の幹部待遇だ。

  行動の自由や外出の制限は一応、他の解放軍が匿っている

 旧人類の一般人よりかは遥かに軽い。

  なので洋榎は解放軍のアジト近くにある廃遊園地、旧人類の

 数少ない人間達が閉塞的なコミュニティを形成して暮らしている

 居住区へと足を延ばしていた。
147 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 22:01 ID:zuTac0y2
 八百屋「いらっしゃい...今日はねぎとレタスだけだよ」

 靴屋「靴はいらんかね~、一足、えーと一万円だよ」

 魚屋「干物だけなら何でもそろってるよ~」

  大阪生まれの洋榎にとって、この光景は到底耐えられる

 ものではなかった。

  元来お祭り騒ぎが好きで輪を掛けて活発だった彼女は、ここが子供が

 消えた後の活気がうせたハーメルンの街のように思えてならなかった。  

  もっとも笛吹きは子供と一緒に残された大人たちの生きる希望すらも

 共に奪い去っていったのだが...。

  既に何もかもを失ったような瞳をしている人間たちの死んだ魚の様な目に

 見続けられるのに耐えられなくなった洋榎は靴だけを買い、解放軍の

 アジトへと戻っていった。

 洋榎「はぁっ、はぁっ」

  まだ全力疾走が出来るだけの体力が戻っていない洋榎には

 精神の強さも戻っていなかった。

  その理由はもはや言うまでもない。

 洋榎「もう、いやや...」

 洋榎「誰も、なんも悪くないのに...どうして?」

  廃ホテルに帰る途中にある川の近くに腰を下ろした

 洋榎は膝を抱えて蹲り、涙を流し始めた。

  これだったらいっそのことiPSの奴隷になった方がまだマシだと思えるほどの

 悲惨な状況に洋榎の心は早くも折れかけ始めていた。
148 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 22:02 ID:zuTac0y2
  今からでもここを抜け出し、最寄りの警察署や軍隊にこの場所を

 タレこめばすぐにでもカタが付くだろう。

 洋榎「アカン...でも」

 洋榎「絹...オカン...、会いたい」

  あの時差し出された手を掴んでいれば...。

  瞼を閉じると浮かび上がる家族の笑顔。

  それは、世界で一番尊くて...。

 木場「大丈夫ですか?」

  どうやら新入りの兵隊の一人が自分を見つけたらしい。

 洋榎「ん、ああ。なんや自分?」

  洋榎の前に立った男は、人間が持つべき美徳や善性の

 全てを兼ね備えた容姿をしていた。

  清潔感がある。確かにそうだ。

  誠実そうな感じがする。それもしっくりくる。

  よくわからないけど、何故か胸が高鳴る。

  それを初恋と理解するには、洋榎はまだ幼すぎた。

 木場「ああ、昨日付で解放軍に入った新兵なんだ」

 木場「木場勇治。貴女は?」

  木場勇治と名乗った青年は、恐らく自分と歳の差は

 殆ど変らないだろう。

  二十歳を越えた洋榎だが、その振舞いや言動には

 未だに青臭さや、彼女の持つ無邪気さが残っている。

  だが、勇治にはその年齢に似つかわしくない程の落ち着きがあり、

 それが初心で奥手な洋榎の心へと絶対的な安心感をもたらしているのだ。
 
 洋榎「ぁ、うぅ...」

  かあっ、と頬に鮮やかな赤が差した。
149 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 22:02 ID:zuTac0y2
 洋榎「洋榎、愛宕洋榎や」

 木場「そっか。よろしくね洋榎さん」

  勇治は目の前で恥じらうように顔を赤らめる洋榎へと笑いかけた。

  洋榎はただその笑みに魅入られていた。
150 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 22:04 ID:zuTac0y2
 <勇治の戸惑いと洋榎の現実> 


  勇治と洋榎は解放軍のアジトへ戻れなかった。

  川沿いを二人で手をつなぎながら歩きながら、周囲を見回した時、

 勇治は森の中に小屋を見つけた。

 洋榎『な、なぁ...。ちょっと雲行きが怪しないか?』

  洋榎が指差した空はいつの間にか雨雲が立ち込めていた。

 勇治『うわっ!雨だ』 

  ざああああと降り出した豪雨にびしょ濡れになりながらもなんとか

 廃屋に駆け込んだ二人はそのまま雨が止むのを待つことにした。 

  服が濡れ、びちゃびちゃに雨水が全身を濡らしている。

  随分と人がいなくなって久しい廃屋だったが、幸いにも居間には

 囲炉裏が設置され、埃を被り湿気ていたもののマッチがあった。

  勇治が囲炉裏の中の炭に着火する間、洋榎は床に落ちていた

 ハンガーに勇治の服と自分の服を掛けていた。

  ようやく火が付いた暖炉に下着姿で腰かけた二人。
151 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 22:05 ID:zuTac0y2
  勇治は上下とも黒のタンクトップとトランクス。

  洋榎は対照的に白のブラとショーツ。

  気負うことなくごく自然に互いの視線が交差する。

 勇治「ん?どうかしたの」

 洋榎「恥ずかしい...」

  消え入りそうな声で顔をそむけた洋榎。

  勇治は火箸で炭をかき混ぜながら、そっぽを向いた洋榎の

 背中に目をやった。

  薄れてはいるものの、所々に裂傷や噛み傷、そしてタトゥーか何かが

 彫られていた皮膚を乱暴に切り取った痛々しい痕跡が見受けられた。

 木場「洋榎さん、寒くない?」

 洋榎「...なんや、変なこと考えてるんか?」

 洋榎「ええで、処女やないけど一発ヤるか?」

  寒さとは別の、思い出したくもない程の最悪の過去に身体を震わせ、

 洋榎は何の脈絡もなく、勇治を押し倒し、そのまま唇を押し付けた。

  熱く滴る唾液が勇治の唇をこじ開け、その隙間から

 洋榎の舌が勇治の口腔に侵入する。

  勇治はなされるがままに洋榎のキスに応じた。

  洋榎は嬲るように勇治の舌や唇を甘くを噛み、対して勇治は

 自分の厚い胸筋に僅かばかりの膨らみをグイグイと押し付ける洋榎の

 下半身に自分の下半身を絡めながら、徐々にゆるやかな蠕動を開始する。
152 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 22:05 ID:zuTac0y2
 木場「少しは温まった?」

  これ以上は自分の理性が保てそうにないと判断した勇治は

 洋榎の全身を抱きしめ、そのまま彼女と一緒に寝転がった。

 洋榎「なんや、もう終りかいな...」

 洋榎「やっぱり男は巨乳が好きなんやな」

 木場「それは否定しない。けど」

 洋榎「けど、なんや?」

 木場「もう少しだけ君を温めたい。いいかな?」

 洋榎「変わってんなぁ。じゃ、お願いしますわ」

  ふふっ、と母親譲りのたれ目をゆるませた洋榎は

 勇治の左胸に頭を押し当て、彼の心臓の鼓動を聞いた。

 洋榎「あ~ぁ、凄く落ち着くなぁ」

 洋榎「昔は絹の胸に抱かれることが今まで、この世で

    最高のぬくもりやと思っとった」

 洋榎「けど、待ってくれなかったんや...」

 勇治「もしかして、ご家族に何があったの?」

 洋榎「アホ、勝手に死なすな」

 洋榎「まぁええわ。ちょっと聞いてくれるか?」

  瞳を閉じながら、洋榎はゆっくりと口を開いた。

153 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 22:06 ID:zuTac0y2
 ~洋榎の独白~

  世界が変わる前はな、ウチと妹、絹恵っていうんやけど姉妹揃って

 仲良く大阪の高校に通ってたんや。

  オカンがプロ雀士ってこともあったから、当然ウチも絹も麻雀を子供の

 時からずーっとやってきた。

  けどな、人には必ず秘密の一つ二つがあるんや。

  誰にも言えない性癖、心に秘めた破滅的な願望。

  
  それらは本来秘めるモンであって、表に出しては決してアカン

 存在なんや。

  心の中に檻をしっかり作ってその中に全部をぶち込むしかないんや。


  三人寄れば文殊の知恵。

  そこから更に派閥や似た者同士の同好会やグループができる。

  今、日本の政権を握ってる新党iPSやおもち党。

  その前身がなんなのか分かるか?

  そう、一部の異常性癖者が日本国憲法を使って団体とは名ばかりの

 自分達の馬鹿げた望みを叶える為の結社を作ったんや。

  今の日本を支配している二大巨頭。首相の原村和はレズで、

 大統領の松実玄は無類の巨乳好き。

  人倫に縛られる事なく性の解放の為に立ち上がる。

  それが妹が所属していた新党iPSのスローガンやった。

  信じられへんやろ?

  僅か17かそこいらの女子高校生があっというまに共感者や

 大金集めて、爆発的に一大勢力を築きあげたんや。
154 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 22:07 ID:zuTac0y2
  iPS細胞がコテンパンに叩かれた時期があるやろ?

  実はアレ巧妙なカモフラージュやったんや。

  それが公表された時、既に秘密裏に実用化が完全に終わってたんや。

  適合者の体内にあるDNAの解析や、染色体の調整、被験者となった

 デザインベビーのその受け入れ先まで何から何までぜーんぶ

 整ってたんや。

  絹はその中でも最も適合率の高かった被験体で、完全に後遺症もなく

 iPS類への移行を果たしてた。


  いつやったかな?ウチが処女を無くしたのは。

  あー、そうそう卒業式の前の日の夜やった。

  そん時はオカンがな、おばあちゃんが危篤っちゅうことで

 実家に戻ってたんや。

  オトンは物心ついた時には死んどった。
155 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 22:08 ID:zuTac0y2
  まさか妹にレイプされるとは思わんかったから、ウチはその夜一緒の

 部屋で二人で寝たんや。

  夜の三時くらいに、何か胸騒ぎがして目が覚めた。

  そしたらすっぽんぽんの全裸で手足がな、頑丈な鎖でベッドに

 がっちり拘束されてた。

  押し入り強盗やったら、まだ憎む程度で済ませられたんや。

  けど、その犯人が自分の血を分けた妹やったらどうや?

  悪夢やろ?お姉ちゃんずっと大好きやった。愛してる。

  ゲームじゃあるまいし、何言うてんねん。

  けどな、パジャマの一点が異常な程にもっこりとすんごく

 盛り上がってるのに気が付いてもうた。

  普通レイプ魔っていうのは目が完全に性欲に溺れているっちゅう話や。

  けどな絹は狂ってなんかいなかった。正気のままやった。  

  正気のまま道を踏み外したんや。

  こう、な。ウチの股をぐいっとおっぴろげた後、絹はパジャマを乱暴に

 脱ぎ捨てて裸になった。

  その間ずーっとぶつぶつ何かを呟いてるんや。

  「お姉ちゃん、なんであかんの……」
  
  「お姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃん……」

  ブツブツが聞き取れなくなった後の一言、
 
  「ねえ、お姉ちゃん……私と、付き合って……」

  あの一言でウチはもう逃げることを諦めた。
156 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 22:09 ID:zuTac0y2
  絹に覆いかぶさられて、ウチは何度も必死に抵抗した。

  けどダメやった。ウチも絹の事が大好きやったから。

  心の奥底では絹が正気に戻って謝ってくれると信じてた。

  けどな、でっかいアレの先走りが凄い量でウチの下腹部を

 濡らし続けてたんや。

  身体中の至る所を舐めつくされて、吸われ続けて

 ウチはもうなんも考えられなくなった。

  愛してる、結婚して。

  アホ抜かせ、ウチはレズやない。ノーマルや。

  そう言ったらな、絹がガチでキレたんや。

  お姉ちゃんは何もわかってない。世界は変わる。

  どうして愛し合う二人が引き裂かれなければならないの?

  だったら、どないするっちゅうんや?

  ...お姉ちゃんに私の子供を孕んでもらう。
157 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 22:10 ID:zuTac0y2
  絹が鎖を外した時にはウチは既に駆け出した。

  部屋から出ようとしたんや。

  けど、部屋を出る前に絹に腰を掴まれて、そのまま...そのまま

  ズブリと合体させられてもうた。

  必死に足掻いて足掻いた。けど、けど...。

  絹はそのたんびにウチの首筋に噛みつきまくった。

  血がタラタラ~って首筋を伝う感触があれほど悍ましい

 とは思わんかったわ。
    
  駅弁の体位でぬぷぬぷと出し入れされる絹のアレで

 ウチは何回も何回もイッてもうた。

  絹は結局夜が明け、朝になるまでずーっとウチをレイプし続けた。

  その後は、よう覚えておらん。

  精液でドロドロになって気を失いそうな体に鞭打って家から

 逃げ出したんや。

  助けてくれ、助けてくれって何度も叫んだ。

  おまわりさんは助けてくれへんかった。
    
  結局、精液塗れのウチを保護したのは龍門渕のお嬢様だった。

  なにやら不穏な動きをする同性愛を推進する集団が財政界に

 強い悪影響を及ぼし始めている。

  iPS細胞を作った人間達が次々に殺害される中、その技術が悪用された

 痕跡を持つ人間達が数ヶ月間に爆発的に増加している。

  で、聞いたんや。

  悪用される人間にはどんな共通項があるんですかって?

  そしたらな、貧乳や被害者と一番親しかった人間がそいつに対して友情以上の

 感情を抱いているケースが七割を超えてるんやと。

  もう、どーでもよかったんやけど...
158 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 22:11 ID:zuTac0y2
 もし貴女が協力してくださるのでしたら、自分をひどい目に

 遭わせた連中に懲罰を与える力と組織を与えましょう。

  幸いにも日本のメディアはまだ正常に機能しています。

  故に手段の合法性を問わず彼等に対してありとあらゆる

 対策手段を講じることができます。

  日本の秩序を守る為です。協力を願います。

  一も二もなくその話に飛びついたわ。

  そっからやったな、ウチがヘテロ党に入党したのは。
159 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 22:11 ID:zuTac0y2
 うん?ヘテロ党とかまないた党が一体何をやってたのか?

  そうやなぁ、一言で言えば狂ったiPS類をとっ捕まえ、

 尋問して、その被害者を保護し続けたんや。

  iPS類の走り、まぁ、プロトタイプみたいなもんや。

  そいつらはな、えーっと、男性ホルモンの異常分泌やったか...、

 とにかく脳やら身体に変調をきたした奴等は、手当たり次第

 身近な女どもを襲い始めた。

  とにかく勃起が治まらない。

  ムラムラすると見境なく誰かを犯したい。

  まぁ、年齢制限があったのがせめてもの救いや。

  

  で、これはおもちカースト制度が出来た後の話なんやけど...

  ヘテロ党はiPSの連中によって引き裂かれた男女の無念を

 晴らすべく動いていた政党。

  まないた党は貧乳女子や年端もいかない子供達が愛玩動物の

 代用に取って代わる風潮により、性的に虐げられた彼等を

 助けて保護し、精神のケアにあたった政党やった。
160 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 22:13 ID:zuTac0y2
  けど、iPSやおもち党はなりふり構わず己の力を得るために

 ありとあらゆる手段を講じたんや。

  血で血を洗う争いの幕開けや。

  殺し殺され、遺恨が祟ってはまた殺しあうんや。

  修羅道の世界に日本が徐々に染まり始めた。

  次の世紀の覇権を賭けた闘いの火蓋が切って落とされた。

  iPS細胞とナノテクノロジーを組み合わせた最強最悪の

 ウイルス兵器を搭載した人工衛星を宇宙に打ち上げ、手始めに

 アメリカの半分、カナダ、ヨーロッパを陥落させた。

  当然、その中には各国の要人が含まれてん。

  朝起きたら自分のチンコが消えてた。顔と体つきは

 そのままなのにどうしてこうなったんだ?

  そんなの恐怖以外の何物でもないやん。耐えられる訳ない。

  彼等が原因を突き止めるのにはそう時間がかからなかった。

  元凶となった日本に犯人がいると断定した各国政府は

 日本に宣戦布告をしたんや。

  けど、そのナノテクノロジーの副作用がその死の雨を浴びた連中に

 突発的に起きたんや。

  ふふっ、愕然とした顔をしてるなぁ。

  そう、人間のオルフェノク化や。

  いきなり自分の見知った人が灰になったり、灰褐色の

 化けもんになって襲い掛かるんや。

  世界崩壊のプレリュードや。

  今にしてみれば、そん時の日本政府の首脳陣は全員iPSの

 魔の手に囚われてたんやろな。

  軍備も金も労働人口も周辺諸国に劣っていた極東の

 死につつある黄金の島、ジパングがようやく世界の全てを

 掌握したんや。
161 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 22:14 ID:zuTac0y2
  それから日本の首脳陣達は、今の日本を支配しているトップに

 原村と...その取り巻き達に全政権を譲渡し灰になった。

  ウチ等も負けじと政界進出を果たしたんや。

  けどな、どうしても後手に回ると反則や禁じ手を使わざるを

 得ない状況に陥らざるを得なかった。

  闇討ち、暗殺。

  命令を出すのもしんどいし、出された側もいややろ?

  離反、裏切りは日常茶飯事。それで四年は保った方や。

  だけど、第一回掃討作戦と称されたiPS側からの一方的な

 大虐殺でパワーバランスが大きく傾いてもうた。

  旧人類の矛と盾、その大半を担っていた辻垣内組が手始めに

 血祭りにあげられ、次に日本に住む男達の大半がおもち党と

 新党iPSに懐柔された。

  そりゃそうや。

  奴らに頭を擦り付けてへつらえば一人に一人ずつ、

 必ず性奴隷が付くんや。

  ペドフィリアやロリコンには堪らん世の中やろ?

  エロゲメーカーも真っ青や。

  中世に行われた魔女狩りを凌ぐ密告と裏切りの嵐が

 常識や倫理が崩壊する前の日本を席巻したんや。

  マシュー・ホプキンスなんて目やないで。

  そんな世紀末の嵐が吹き荒れる中、ウチと淡は遂に

 捕まってもうた。

  淡は一時的に菫のペットになり、ウチは幸か不幸か

 わからんけど、一時的に家族の元に戻された。

  保護監禁処分や。

  処分が下されてから三ヶ月後、恐れてた事態が

 遂にウチに起きてしもうた。
162 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 22:14 ID:zuTac0y2
 妊娠や。同性の近親相姦による子供をウチは身籠った。

  オカンはその知らせを聞いた時に、泣き崩れたわ。

 『ごめんな。洋榎』

 『絹の暴走もお前の悲しみを知って尚、助けて

  受け止めることが出来ない自分が凄く情けない』

 『贖罪としてアンタ達の子供は必ずウチが育てる』

 『洋榎、洋榎...』



  それから九ヶ月後、ウチは女の子を出産した。

  父親?はウチの初めてを奪った他ならぬ絹や。

  生まれたばかりの我が子と早々に離されたウチを

 待ち受けていたのは地下軍事研究所の収容施設への

 無期限収容の刑やった。

  そっから後は須賀が来るまで人体実験されとったわ。

  今の自分は人間やけど、あまり長くない。

  死んだあとは灰になるんかな?


 ―――

 ―
163 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 22:16 ID:zuTac0y2
 洋榎「ふぅ、大体一時間でウチの転落人生の

    ほとんど全部を語り尽くしてもうた」

 木場「...子供の名前は、なんていうの」

 洋榎「決める前に、取り上げられてもうたからな」

 洋榎「男やったら勇人って名前にしたろかと思ってん」

 木場「そっか...」

  性行の後のような、奇妙で気だるげな余韻が二人の間に流れていた。

  洋榎のあまりにも凄惨な過去を期せずして聞かされてしまった勇治。

  己の境遇とは異なった悲しみを背負う洋榎に対して、彼の

 心の中には憐憫の情と、そんな彼女を自分が必ず守らなければ

 いけないという強迫観念めいた義務感が生じ始めていた。

 洋榎「さてと、雨も止んだ。服も靴も乾いた」

 洋榎「こんなかび臭い所にいたら、気が滅入ってまう」

 洋榎「ありがとな」

 洋榎「出来ればな。また寂しくなったときにウチをさっき

    みたいに抱きしめてくれればありがたいんやけどな」

 木場「ああ、いくらでも俺が胸を貸すよ」

 木場「だから、そんな辛そうな顔をしないで...」

 洋榎「そりゃ無理や。けど」

  服を着て、靴を履いた洋榎は勇治の背中に抱き着いた。

 洋榎「折角だから、解放軍のアジトまでおんぶして」

  勇治は黙って洋榎を背負って歩き出した。


 ――

 ―
164 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 22:16 ID:zuTac0y2
 首都、ピンクハウス内部の一室


 咲「京ちゃん...お姉ちゃん」

 和「須賀君に会いたいですか、咲さん?」

 咲「和ちゃん...。ううん、もういいの」

 咲「今の私には和ちゃんが全部だから」
 
 咲「お腹の中の子供の遺伝子には、京ちゃんは

   一片たりとも入っていない」

 和「そうですね。今の咲さんは須賀咲ではなく」

 和「原村咲なのですから」

 咲「でも...」

 和「先程、スマートブレインの小鍛治さんから

   連絡が入りました」

 和「二日後にお義姉さんと須賀君が秘密裏に貴女に

   会う手筈が整っています」

 咲「ありがとう。和ちゃん」

 和(咲さんは今、臨月を迎えている)

 和(出産予定日は一ヶ月を切り、いつ私との子供を

   咲さんが出産してもおかしくない状況です)

 和(出来る事なら、須賀君とお義姉さんに私達のことを

   認めて貰いたい)

 和(そして彼等をオリジナルのオルフェノクに抗する

   先兵として、我々の陣営に引き込みたい)

 和(後戻りができない程、私達は地球の生態系を

   変革し過ぎた)

 和(世界最強のアメリカの掌握と牽制がようやく

   ここに来て実を結ぼうとしている)

 和(全世界に残存する大量破壊兵器を全てまとめて

   宇宙の彼方に廃棄する計画も大詰めです)

 和(咲さん...貴女と、私達の子供は絶対に私が守る)

 和(だから安心してください)

 和(その上で立ちはだかるというのであれば...)

 和(私は誰であれ、殺す)

 和(必ずどんなことをしてでも、私の愛と希望を守りきる)

 
 ―――
165 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 22:17 ID:zuTac0y2
 咲が子供を産む一週間前  鳥取県地下施設

 

 花形「都道府県ライオトルーパー部隊兵士諸君」

 花形「これより、諸君らには国防の任についてもらう」

  開口一番、原村和のブレーン、花形は鳥取県の政府の秘密研究施設にて

 自分と赤坂郁乃が主導したプロジェクトの一応の完成体を集め、激励の

 スピーチを行った。

  自分の左右の傍らには、かつて『自衛隊』という名前の国防を担った

組織の上級幹部達が憎悪の篭った目で自分とその『子供』達を睨み続けている。

 東西日本iPSエリア統括委員会。

 これは、iPS類が自分達の反対勢力の反乱の芽を潰し、円滑に

 自分達の支配力を強める為に作り出された組織である。

  どちらかといえば、王を守る近衛兵団にそのシステムはきわめて

 似ているが、一つだけ一線を画している点がある。

 権力の座を握っているのが全て『女』みたいな人類なのだ。

 花形「今現在、日本を主導として人類のiPS類化を推進する

    国は喜ばしいことに年々増え続けている」

 花形「マレーシア、カザフスタン、カナダ、サハリン」

 花形「アメリカでは先週末に5州が我々の活動に賛同し

    協力関係と相互不可侵条約を結んだ」

  松実玄が大統領を退いた真の理由は、日本国内における

 自分の影響力の限界を知っていたからではない。

  花形が玄にそうするよう提案したから、大統領の座を退いたのだ。
166 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 22:18 ID:zuTac0y2
 花形「我々人類のiPS類化の真の理由、それは」

 兵士達「オルフェノク!」

 花形「そう、我々iPS類もオルフェノクも人間なのだ」

 花形「だが、オルフェノクというのは病であり、

   その治療法は未だに確立すら困難だ」

 花形「そして、オルフェノクは人を襲い、仲間を増やす」

 花形「彼等が仲間を増やすメカニズムはいたって簡単だ」

 花形「オルフェノクの因子を人間の心臓に埋め込む」

 花形「だが、その因子に適合できる人間はあまりにも少ない」

 花形「我々政府はその因子のメカニズムを解析したものの、

    ネズミ算式に増えるこの病の増加を抑えるのは難しい」

 花形「今現在、私に出来ることはオルフェノク化をを研究し、

    その病をいかに抑制し、これ以上増加させない方法を

    確立させる研究だけだ」

 花形「その為には、我々政府に快く協力してくれた諸君等の

    人生が、命が必要不可欠だった」

 花形「君達の体には、『オルフェノク』の人工因子が遺伝子

    レベルで組み込まれている」
167 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 22:19 ID:zuTac0y2
 花形「男性でありながら、iPS類にシフトし、オルフェノクの

    記号に適合した君達は『選ばれた存在』だ」

 花形「これから世界は激動の時代へと突入するだろう」

 花形「オルフェノク、旧人類、我々iPS類の三つ巴戦だ」

 花形「彼等には、我々の目的を理解しながらも歩み寄ろうとする

    心が殆どない、交渉の余地がないのだ」

 花形「彼らは我々の存在を悪と断じる」

 花形「だが、悪にこの身を落としてでも成し遂げたい何かがある」

 花形「我々の続く世代に、核兵器や大量殺人兵器は必要か?」

 兵士達「断じて否だ!」

 花形「その通り!」

 花形「しかし、その平和の尊さを誰よりも知っているのは誰だ!」

 兵士達『人間だ!』

 花形「そう、この世界の支配者である人間だ」

 花形「諸君らは誇るべきだ!」

 花形「誰も核兵器や大量殺人兵器、そして目の前で行われている

    人種差別に気がつきながらも目を背けている『人間』とは」

 

 花形「一線を...画したことに」


168 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 22:19 ID:zuTac0y2
 花形「恐らく、オルフェノクも旧人類も我々の動きを敏感に察知し、

   死に物狂いで戦いを挑んでくるだろう」

 花形「死ぬのが怖いか?戦うことに意味を見出せないか?」

 花形「だが、安心したまえ...」



 花形「我らが神が、私達の大義となり、正義となるからだ」



 花形「時が来れば、君達と共に私も戦う!」

  高々と天高く突き上げた花形の拳に、兵士達はその名の通り、

 騒乱と共に彼に殉じた。

  その兵士達の名は、騒乱の兵士、ライオット・トルーパー。

 花形「ゆえに、君達は常に迷う事無く大義の為に生きろ!」

 花形「敵前逃亡も許す!寝返りも、戦闘放棄も許す!」

 花形「だからこそ最後まで、自分の未来を諦めるな!」

 花形「私の話はこれで以上だ」

 花形「我々が目指すのは失われた楽園<パラダイス>ではない」

 花形「真の楽園<エデン>だ」

  真紅のマントを翻した花形は堂々とした足取りで

 兵士達の元へと降り立った。

  そしてそれを見た兵士達は、モーセに道を明けた海のように

 真っ二つに割れ、彼の進む道を作った。

 

 
  この後、原村和は半年の間、世界から姿を消すことになる。




 ――

169 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 22:20 ID:zuTac0y2
 東京、スマートブレイン社


  俺と宮永照を始めとする六人は革命軍のアジトを朝早くに

 スマートブレインが用意した車両に乗り込み、iPS類がはびこる

 首都圏内に潜り込んだ。

 雅人「...真理」

 勇治「海道、結花...やっと」

 辻垣内「照、お前顔色が悪いぞ?唇が真っ青だ」

 照「気にしないで、智葉」

 照「ようやく反撃の狼煙を上げる切っ掛けを手に入れた」

 照「武者震いが止まらないだけ」

  宮永照と辻垣内智葉と対照的に草加と木場はトレーラーに

 揺られながら眠っていた。

  時々聞こえる彼等の寝言は、きっと彼等にとってかけがえのない

 大切な仲間達の名前なんだろう。

 水原「おい、本当に大丈夫なんだろうな?」

 水原「この車はスマートブレインにちゃんと向かってるのか?」
    
 京太郎「ああ、大丈夫だ」

 京太郎「仮に山奥や海に廃棄されても、その時はその時だ」

 京太郎「ただ、俺達の人生が終わるだけだ」

  青ざめた表情を浮かべ、しきりに唇を舐める水原。

  揉めに揉めたが、結局俺達は水原をスマートブレインの

 交渉会議へと伴う事を決めた。
170 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 22:21 ID:zuTac0y2
 
  解放軍のリーダーを差し置いて、新参者が今後の解放軍の

 中心になることを阻止する為と言う名目で亦野が強引に周囲を

 納得させ、最終的に智葉が嫌がる水原を強引に連行したのだ。

 

 運転手「皆様、スマートブレイン日本支社到着まで

     あと三十分ほどです」

 運転手「皆様の席の下にスーツをご用意してあります」

 運転手「小鍛治社長のご意向です。必ず着用をお願いします」

  考えを遮るようなアナウンスに全員が座席の下を探る。

 雅人「これは、須賀のスーツか...」

  草加が立ち上がり、俺の名前が書かれたスーツケースを手渡し、

 俺の席の下にあった自分のスーツケースを持っていった。

 辻垣内「中々上等な仕立てじゃないか」

  クスリと笑いながら、スーツに袖を通した智葉は久々に

 晴れやかな笑顔を浮かべていた。

 辻垣内「フォーマルスーツも中々悪くない」

 照「智葉、ネクタイ締めて?」

  仲の良い姉妹のように世話を焼きつ焼かれつ服を着替える

 照と智葉のやりとりが何故だか無性に悲しさを誘った。
171 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 22:22 ID:zuTac0y2
  スマートブレイン日本支社社内

 ??「はーい、皆さんこんにちは~」

 ??「今日はぁ、このスマートレディがみなさんのガイドを

    一日務めさせてもらいまーす」

 京太郎「部長...アンタもか」

 竹井「久しぶりね~。須賀君」

  トレーラーから降りた俺達を待っていたのは、かつて俺がいた

 高校の麻雀部の先輩だった。

  青いタイトなヘビータイプのレオタード服に身を包み、甘ったるく

 鼻にかかるような、人を小馬鹿にした話し方は、俺の知っていた竹井久とは

 完全に別人だった。

 水原「とりあえず早く案内しろよ」

 水原「お前達のようなバケモノがいつ襲ってくるかも

    分からない状況に俺達はいる」

 竹井「ひっどーい。ぷんぷん」

 竹井「お姉さんはショックを受けました。えーん」

 竹井「でもでもぉ、優しいスマートレディちゃんは 
   
    こわーい人間達を小鍛治社長の元へと送ります」

 竹井「さ、みんなこっちに来て~」

  ひらひらと蝶が舞うようにエレベーターに案内するスマートレディの

 後姿を見ながら、俺は衝動的に部長に声を掛けようとした。

 辻垣内「やめろ、余計につらくなるだけだ」

 須賀「人のプライバシーに土足で入りこむな」

  その優しさを払いのけた俺は、一番最後にエレベーターに

 乗り込んだ。

  全員がエレベーターに乗り込んだのを確認した

 スマートレディは、ドアを閉め、最上階のボタンを押した。
172 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 22:25 ID:zuTac0y2
 ―――

 ――


 スマートブレイン日本支社、社長室

 
 竹井「失礼しま~す。スマートレディです」

 竹井「人間解放軍の六名の代表を連れてきました」

  鋼鉄の扉に閉ざされた社長室。

  スマートレディが用件を手短に告げると、ゆっくりと重量感あふれる扉が

 音を立てて開いた。

 小鍛治「ほんとに来たんだね。まぁ来ると思ってたけど」

  社長室の中央にあるデスクに深く腰かけている女が

 スマートブレイン日本支社のトップ、小鍛治健夜だ。

 小鍛治「草加君、またまた男前になったね~」

 草加「...貴様、澤田と沙耶はどこにいる?」

  カイザギアを腰に巻き付け、餓狼の如き殺意の波動を

 健夜に叩き付ける草加。

  その表情には、人間性の欠片もなかった。

 小鍛治「そんなに慌てないでよ~。会いたいんでしょ?」

 小鍛治「沙耶ちゃん。澤田君。草加君きたよ~」

  その一言に草加を除く全員に緊張が走った。

  辻垣内智葉と木場は宮永照を後ろに庇い、俺は腰の

 ファイズギアに変身コードを入力済みのファイズフォンを

 ガッ、と勢いよく差し込んだ。
173 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 22:28 ID:zuTac0y2
 小鍛治「あれ?あれ?どうしてこないの~?」

 ハギヨシ「健夜様、彼等は今LEO様と共に戦闘訓練中です」

 ハギヨシ「草加様、須賀様。どうかここは穏便に願います」

  瞬時に姿を消したハギヨシさんは、即座に草加の背後をとり、

 カイザギアからカイザフォンを抜き取ろうとした。

 草加「貴様ッ!」

  間一髪カイザへと変身した草加はハギヨシの右足甲を踏みつけ、

 そのまま十分な距離をとった。

 草加「須賀ァッ!何をしている?変身しろッ!」

  草加とて百戦錬磨の経験を持つライダーズギアの適合者。

  にも拘らずハギヨシさんとの直接勝負を避けたのは...。

 京太郎「変身」

  分かりきったことをわざわざ考える事は無駄だ。

  俺はファイズに変身し、睨み合う草加とハギヨシさんの

 間に割り込み、仲裁に入った。

 京太郎「草加、俺達は話し合いに来たんだ」

 京太郎「自衛の範囲で今なら済ませられる」

 京太郎「変身を解け」

 草加「そこをどけぇ!」

 草加「奴等には最初から話し合う気などさらさらないッ!」

  草加はブレイガンをホルスターから抜き、俺に詰め寄る。

 沙耶「雅人、雅人なの?」

  俺のすぐ真後ろから甘い金木犀の香りが漂っていた。

  慌てて瞬時に後退すべく、足を撓めるが、まるで強力な

 接着剤に地面に張り付けられてしまったかのように、足が 

 動かない。

 澤田「くっくっく。同窓会以来だなぁ。草加」

  電話越しの声の主達がその姿を遂に俺達の前に晒す。
174 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 22:28 ID:zuTac0y2
 沙耶「こら雅人、誰かを困らせることをしちゃダメでしょ」

 沙耶「罰としてカイザギアは没収します」

  目にも止まらぬ速さで沙耶はカイザギアを毟り取った。

  黄色い光に再び包まれた雅人は生身に戻った。

 LEO「The man who has no imagination has no wings.」

   (想像力のない奴は、翼を持てない)

 LEO「さよならをいうのなら、少しだけ死をみつめるべきだ」    

 LEO「指をさして人を非難する前に、

 君のその手が汚れていないか確かめてくれ」

 LEO「クールになれよ、早とちり君」

   

  鋼鉄のドアを力ずくで押し開けた最後の一人。

  彼は何者にも囚われることのない悠々自適さを、

 漲る自信と共にその全身から発散している。

  それは発散と言うより、王者の風格だった。
175 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 22:29 ID:zuTac0y2
 LEO「社長、彼らは些か以上に自分達が直面している

    事態を性急に運びすぎている」

 小鍛治「んもう、言われなくてもわかってるよ!」

 小鍛治「ほら澤田君は蜘蛛の糸を解く!沙耶ちゃんは

     元彼だか何だか知らないけどとにかく離れて!」

  パンパンと手を叩き、手下のオルフェノク達を控えさせた

 小鍛治健夜はここでようやく俺達を直視した。

 小鍛治「全くもう、みんな聞かん坊なんだから」

  苦笑いを浮かべながらも、沙耶が手渡したカイザギアを

 力を込めて圧し折ろうとするその姿に改めて全員が緊張を

 隠すことなく、彼女を見守る。

 澤田「社長、俺もカイザに変身して良いっすかぁ?」

 澤田「泣き虫雅人の大事なものを久々に穢してやりたい。

    今はそんな気分なんですよ」

 ハギヨシ「澤田君、これ以上下衆な事を言わない方がいい」

 ハギヨシ「木村さんに殺されたいのですか?」

 ハギヨシ「社長。スケジュールも大分押しています」

 ハギヨシ「お戯れに興じるのも、ここが潮時かと」

 小鍛治「ハギヨシさんがいうならしかたないか」

 小鍛治「草加君。カイザギア返すね」

  無造作に小鍛治はカイザギア一式を草加に放り投げた。

  それを動じる事無く掴んだた草加の表情は屈辱と憤怒に

 染まっていた。

 小鍛治「さーてと、それじゃあお話を始めますか」


 ――

 ―
176 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 22:30 ID:zuTac0y2
 照「単刀直入に言う。iPS類は一体何を企んでいるの?」

 健夜「へぇ、いきなりそこから突いてくるのかぁ...」

 照「政府と結託して例外的な特権階級のトップである

   オルフェノクの長である貴女なら知っている筈」

 健夜「オルフェノクの絶滅と貴方達残りの旧人類を

    完全にiPS類に変化させるつもりだよ」

  解放軍のトップとオルフェノクのトップの会談は最初から

 トップギア全開で始まった。

  照の質問に当然のように、俺達が恐れている最悪の結末をすらすらと

 紙を読むように伝える小鍛治。

  隣にいる木場が息をのみ、水原はがたがたと震えていた。

 健夜「先月の終わりごろ、日本が完全な同性婚可能な国に

    なったのは知っているよね?」

 健夜「今まではiPS類の結婚は認められていなかったけど

    来月の中頃からは、同性同士の結婚ができるようになる」

 健夜「そこはもう、須賀君が研究所から盗んできた資料に

    詳しく書いてあると思うんだけどな」

 照「6月14日に私の妹と原村和が結婚する」

 照「その前に咲を救い出したい」

 健夜「無駄だと思うよ」

 照「どうして?」

 健夜「人間を捨てた怪物に魅入られた人間の末路なんて

    殆ど決まったようなものじゃない」

 照「まだ、そんなことになったと決まった訳じゃない...」

 健夜「ま、幾つか条件を呑んでもらえれば、妹さんに

    確実に会えるように取り計らってあげる」
177 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 22:30 ID:zuTac0y2
 辻垣内「照、耳を貸すな!」

 京太郎「黙ってろ!」

 照「話の内容を聞かせて」

 健夜「まず一つは、人間解放軍がオルフェノクとiPS類の

    戦いにおいてオルフェノクの味方になる事」

 健夜「スマートブレインの正体を知ってるでしょ?

    そしてベルト適合者が何者なのかも」

 草加「おい、それはどういうことだ!」

 健夜「二つ目に現政府の重役達の暗殺。わかるよね?」

 健夜「私達が貴方達にターゲットを依頼する。その度に
  
    確実に、完全に殺してほしい」

 健夜「勿論、オルフェノクの側からもちゃんとした

    腕を持つエージェントを送る」

 照「続けて」

 健夜「第三に...」

 健夜「宮永照、貴女がオルフェノクになること」


 ―――

 ――
178 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 22:31 ID:zuTac0y2
  小鍛治健夜が出してきたあからさまな数々の条件。

  その最後に出された条件は、俺達『人間』にとって到底

 受け入れがたいものだった

 辻垣内「馬鹿な、そんなこと許されるはずがない!」

 辻垣内「照、耳を貸すな!」

  そう、今ここで宮永照が頭を縦に振れば、その瞬間ここにいる俺達は

 全員iPS類と同じような、いや、それ以下の存在に成り下がってしまう。

  救世はあくまでも人の手によってなされることだ。

  それは決して人の尊厳を棄てた怪物には成し得ない。

  だが...怪物は俺達の尊厳を毀す為の甘言と毒を常にその手の中に

 隠し持っている。

 辻垣内「お前まで人間を捨ててしまったら...私は」

 照「...」

 健夜「オルフェノクが手を指しのべる相手は同胞だけ」

 健夜「今、私が人間である貴女に対し、どうして

    こんな話をしていると思ってるの?」    

 健夜「貴女の後ろに私達の同胞が控えているからだよ」

 健夜「そうだよね?須賀君、木場君...」

  ....。

 木場「僕は、俺は...人間だ」

 水原「おいおいおい聞いてねぇぞ!そんなこと」

 水原「なんだよなんだよなんだよ!」

  遂に精神の限界を振り切った水原が発狂した。
179 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 22:32 ID:zuTac0y2
  ぼさぼさの髪の毛を頭皮から思いきり引き剥がしては

 泣き喚いて、照を掴み揺さぶり始めた。

 水原「じゃあ、お前等は本当は人間じゃなくて、バケモノの

    オルフェノクのスパイだったのかよ!」

 辻垣内「黙れ水原!」

 辻垣内「照に向かってそんな口を叩くんじゃない!」

  宮永照の首を絞め始めた水原の鳩尾にデルタギアの入った

 ケースをぶち込んだ辻垣内智葉は、怒りの眼差しを俺達に

 向けてきた。

 辻垣内「お前達...、やっぱりそうだったんだな」

 辻垣内「あの日地下室から漏れ聞こえてきた諍いは

     嘘なんかじゃなかったんだな!!」

 木場「...」

 京太郎「...」

  最早、オルフェノク達との対談は阿鼻叫喚の様相を

 呈し始めてきた。   

  俺も木場も正論に何も言い返すことは出来ず、草加は

 ここにいる全員に憎悪の眼差しを向けている。

  水原は奇声を上げながら、床を転げまわり、辻垣内智葉は

 必死に泣き出しそうになる宮永照を抱きしめていた。

  そんな人間達を横目に、ハギヨシはかつて自分がまだ

 人間だった頃に己を慕ってくれた青年に視線を向けた。
180 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 22:33 ID:zuTac0y2
 LEO「ハギヨシ」

  ハギヨシの怪しい視線に気が付いた彼の上司、現存する

 オリジナルのオルフェノクの中でも選ばれた存在、

 ライオンオルフェノクのLEOがハギヨシに声を掛ける。

LEO「ファイズのベルトの隣にいる男、

    彼は上級の、それも伝説種のオルフェノクだ」

 LEO「更に、君の気にかけている青年も、我々の仲間に入って

   くれれば心強い限りなんだがね」
       
 ハギヨシ「LEO、貴方の言う通りです」

  元々のポテンシャルが高かったハギヨシは死後、蝙蝠の

 特質を備えたオルフェノクへと変成した。

  彼は生前密かに銃や飛び道具を愛好していた。

  その名残なのか、彼の武器は二挺拳銃やブーメラン等の

 飛び道具だった。

  オルフェノク化によって更に向上された身体能力。

  傍から見れば「適当に撃ってる」とも思えるほど無造作に連射した

 多数の弾丸を、跳弾すら利用して全てのターゲットの急所に的確に

 命中させることが可能となった。

  ダブルアクションによる射撃ながら、その腕はまさに非凡の一言に尽き、

 高い命中精度を誇る。

  それはハギヨシを史上最強の魔弾の射手たらしめた。
  
  彼もまた最初の内は、iPS類やオルフェノクに襲われる人間達をその圧倒的な

 強さで救って回ったのだが、LEO率いるスマートブレインの精鋭部隊に囲まれ、

 三日三晩戦った末に、ハギヨシはLEOに敗北した。

  その後ハギヨシはスマートブレインに拾われることになった。 
181 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 22:34 ID:zuTac0y2
 
 ハギヨシ「しかしながら、彼等には私と同じように

      守るべき理想や尊ぶべき愛に殉じています」    

 ハギヨシ「君を完全に満足させた彼はともかく、京太郎君が

      我々の側に靡く可能性は皆無でしょう」

 LEO「随分と余裕だな?君には時間がない筈だぞ?

この好機に彼を説得したらどうだ?旧知の中なんだろ?」

 LEO「社長の性格は分かっているだろう?
  
   彼女は交わした約束は絶対に破らない。絶対にだ」  

 LEO「社長が提示した好条件と自分を引き換えに

そこの女は自分の妹を救う機会を絶対に得られる」

LEO「俺は彼らが何を躊躇しているのかが理解できないな」

 ハギヨシ「LEO、そろそろ社長が口を開きます」

 ハギヨシ「我々はただ黙して待ちましょう」

 LEO「全く、お固いねぇ」


 ――

 ―
182 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 22:34 ID:zuTac0y2
 オルフェノクの理念はオルフェノクによる世界征服。

  iPS類の理念は同性愛者にとっての楽園を作りたい。

  両者共にあまりにも単純明快である。

  オルフェノクは旧人類の特徴を残す種である。

  人間の中から半ば自然的に発生する存在であるため、

 種全体として組織化されているわけではない。

  スマートブレインはオルフェノクとして覚醒した者が

 現れると、いち早く接触を図って同種として受け入れ、

 オルフェノクに関する知識と援助を与える一方で、

 管理下に置こうとする。

  しかし、スマートブレインの情報収集能力や統制力は

 その強大な権力とは裏腹に限定的なものに留まり続けている。

  なぜか?
183 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 22:35 ID:zuTac0y2
  それは、オルフェノクには理性が残っているからだ。

  いずれ人間に自分の正体が露見し、殺害、あるいは研究材料として

 解剖されたとしても、痛覚もあれば、他人の痛みに共感することが出来る。

  最も、人間性を保ったままオルフェノクとして過ごせる

 人間は圧倒的に少ない。

  理性が本能に凌駕され、殺されるからだ。

  命、形、姿がたとえ異形と化しても尚生きたい。

  だが、人間は同種と異なる存在を管理、淘汰する。

  我々を殺す?やってみろ。

  お前たちが我々を淘汰するのなら、我々もお前達から

 全てを奪い、その立場へと成り変わってやる。

  かくしてスマートブレインは歴史の表舞台へと躍り出た。

  新たな種であるiPS類の台頭前は闇に埋もれながらも、

 来るべき王の帰還を待つため。

  そしてiPS類の台頭後は理性を保ちながらオルフェノクと同等の力を

 手に入れ、更に同胞達をiPSの走狗と化させるその卑劣さに激憤しながら、

 iPS類と競うようにして爆発的にその数と勢力を増やしていった。  
  
  現在iPS類とオルフェノクには、これは旧人類の殆どが

 知りえないことだが、停戦同盟が結ばれている。
184 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 22:35 ID:zuTac0y2
 スマートブレインが管轄する、あるいは死後覚醒した

 オルフェノクや襲われてオルフェノクになってしまった人間達に

 日本政府がかつて旧人類に保障されていた経済活動や

 生存権、自由権を全面的に保障すると言う内容だ。

  勿論、iPS類はその見返りとしてスマートブレインの技術と

 オルフェノクを裁く権限の譲渡などを迫り、スマートブレインは
 
 見返りとして、これから爆発的に生まれてくるであろう

 オリジナルのオルフェノクが過ごすことのできる領土と

 その領土における治外法権を現政府に要求した。

  これが松実玄を含めるiPS類の逆鱗に触れた。

  松実玄や原村和が数の暴力で押し通した人権の不平等を

 覆い隠す上で必要な制度、おもちカースト制度を根底から

 ひっくり返すからだ。

  人権を無視した奴隷制度でありながら、それを支持する

 奴隷が減らない理由は彼等の行動全てを是認する事で

 得られる優遇措置が目当てである。
185 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 22:35 ID:zuTac0y2
 iPS類の大半は女性である。

  かつてとある歌人が歌ったように、かつて月だった

 女性が太陽になったことにより、その座を追われた男達を

 待ち受けていた現実は、生きる場所も権利すらも剥奪された

 烙印を押される毎日の到来だ。

  しかし、おもちカーストにただ頷き、一部の条件を是認し、

 実行に移すだけで、カーストと見做された不適合者、貧乳や

 ノーマルな性癖の持ち主である『異端者』を自分の所有物に

 できるのだ。

  裏を返せば、どんな人格破綻者や容姿に著しい問題を

 抱えている男達でも、歪んだ形であれこそすれ、人並みの

 幸せを手に入れられるのだ。

  かつて太陽だった頃の時代のように自分の家庭を持ち、

 絶対者として振る舞う事ができるのだ。

  その対価として、おもちカースト恭順者となった男達には

 兵役や食糧生産などの苛酷な労働を強いられるが、その点に

 おいても、しっかりとした福利厚生やきちんと出る高額な給料、

 週休二日制、そして過労死や残業が殆ど皆無とあれば誰だって

 命や時間を惜しんで働くだろう。

  それが侵略した領土の民を虐げることになろうと...

  世界征服を目論むiPS類とオルフェノク。

  かたや数の暴力と技術力。

  かたや質の向上と団結力+αのオルフェノク軍団。

  しかし、死せる人間の数は徐々に激化の一途をたどりつつある。
  

  
 ―――

 ――
186 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 22:36 ID:zuTac0y2
 沈黙、憎悪、惑い、猜疑、叫喚、そして決断。

  人類が答えを出さなければならない時が遂に来た。

 照「私は...まだ、オルフェノクになることは出来ない」

 健夜「うん。それは保留にしてあげるよ」

  照の苦悩が凝縮された一言をいとも容易く肯定した

 小鍛治はにこやかに笑って、俺達に意見を求め始めた。

 健夜「そうだねぇ、他のメンバーの意見も聞きたいかな」

  草加雅人は忌々しげに全員を一瞥した後、真っ先に口を開いた。

 草加「...不本意極まりないが、俺は賛成する」

  意外な事にこの中でオルフェノクを一番憎悪している筈の

 草加が同意を示したことに全員が驚いた。

 草加「そこのバケモノどもをアンタ達が今すぐ殺してくれれば」

 草加「後は、解放軍の子供達をオルフェノクにしなければ」

 草加「俺はアンタ達の策に乗ってやる」

 辻垣内「草加...お前」

  呆然としながらも、改めて智葉は雅人の意志の強さに瞠目した。
187 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 22:37 ID:zuTac0y2
  最初から嫌な奴だとは思っていた。

  雅人の事を端的に現すのならば「もの凄く嫌な奴」だ。

  それと同時に智葉は雅人が嫌な奴にならざるをえなかったのは、

 幼少期に多くの傷・トラウマを負ったからだろうと推測していた。

  ウエットティッシュで手を拭く癖もその名残なのだろう。

  だが、それでも草加雅人は過去から抜け出せずとも、今も必死に

 抗い続けているのだ。

  自分をこんな目に遭わせた世界やオルフェノクを憎悪しながらも...。

  善悪や感情の起伏が激しく、卑屈なまでに攻撃的な男であっても、

 それは彼が確かな信念のもとで進み続けているれっきとした証拠なのだ。

  その心の在り方は、雅人が人間を捨てることは天地が逆転しても

 絶対に有り得ないという不動の証を如実に表している。

 健夜「へぇ...。君の過去を調べさせてもらったけど、

    うん、宗旨替えにはまさにぴったりのタイミングだね」

 健夜「分かったよ。沙耶ちゃんと澤田君と君の因縁には

    私達がしっかりと責任を持つ」

 健夜「子供達は、まぁ、必ず悪いようにはしない」

 健夜「私の目の黒いうちはね」

 健夜「譲歩はここまで。いいよね?」

 草加「ああ」

 草加「アンタの提示した条件に賛成するよ」

  心なしか智葉は雅人が僅かな安堵にホッとしたように思えた。

  次に口を開いたのは水原だった。
188 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 22:38 ID:zuTac0y2
 水原「おっ、おっ俺はオルフェノクになるぞ!」

 水原「iPSになっても、オルフェノクになっても俺は生きたい!」

  水原の顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃだった。

  ストレスの蓄積が祟ったせいか、もはや水原には

 精神的な余裕が残されていなかった。

  そろそろガタがきてもおかしくなかっただろう。

 健夜「ふーん...。私もオルフェノクだけどさぁ」

 健夜「君、犬にも劣るね」

 水原「へ、へ?」

  健夜が掛けた言葉の意味を理解する間もなく、水原の耳と

 口へと触手がするりと入り込んできた。

  いつの間にか降りてきたプロジェクターには、水原がiPSの

 手の者と思われる奴等と取引している映像が映し出されていた。
  
 澤田「甘いなぁ、リーダーさんよぉ」

 澤田「お前、本当にスマートブレインを舐めてるよ」

 澤田「こっちはな、一枚岩じゃないんだ」

  オルフェノクの姿になった澤田亜希は俺達に向かって

 朗々ともだえ苦しむ水原のプロフィールを読み上げた。

 澤田「尾山豪。iPS軍徴兵部隊東海支部、実働隊隊長」

 澤田「直属の上司は戒能良子であり、iPSのおもちカーストに

    恭順を誓った後は、日本各地に散分した人間達を集め、

    烏合の衆の解放軍を組閣した」

 澤田「もっとも、諜報活動に長けてたアンタは自分の

    都合のいいように勢力や人間達を解放軍にプールし、

    定期的にiPSへと引き渡した」

 澤田「ま、水原って名乗り始めたのは、こいつが最初に

    潜入した人間解放軍の男と入れ替わり作戦で

    水原と言う男になりすましたからなんだとさ」

 水原「あ、あああぁ」

  水原と名乗った男の最後は、オルフェノクの触手によって

 全身を穴だらけにされた上での失血死だった。

  スカスカに干からびた水原の目元には、一筋の涙が伝っていた。
189 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 22:38 ID:zuTac0y2
 健夜「ま、可哀想だけどしょうがないよね?」

 健夜「裏切り者には死の制裁あるのみ」

 照「水原さん...」

  
  人間に与する者たちの意見をあらかた求め終わった

 健夜は今度は俺達にその食指を向けてきた。

 健夜「さてと、それじゃあ次は木場君の返事が聞きたいな」

 健夜「見た所、君はオルフェノクみたいだけど」

 健夜「どうして君はそんなに人間に固執するのかな」

 木場「...僕からも聞きたいことがあります」

 健夜「いいよ、答えてあげる」

 木場「どうしてスマートブレインはオルフェノクを

    増やそうとするんですか?」

 木場「僕達オルフェノクにだって、自分の人生を

    決める権利はあります」

 木場「それはオルフェノクになった後でも、捨てることの

    出来ない尊厳として、心の中に根付いています」

 木場「貴方たちのやっていることはiPSとなんら変わりない」

 木場「だから僕は貴方達を信用できない」
190 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 22:42 ID:zuTac0y2
 健夜「ふーん。共存共栄がお望みってわけね」

 木場「貴方だってれっきとした人間だ」

 木場「例え姿形が変わったって、オルフェノクも人間と何も

    変わらないじゃないですか!」

  この場にいる全員にとって、これから木場の出す答えの

 去就は重要な意味を持つ。

  以前彼が俺に語って聞かせた、オルフェノクと人間の共存。

 それはこの世界でも類を見ない程の愚かしい夢物語だ。

  認めたくない気持ちと裏腹に、オルフェノクもiPS類も、

 種としては旧人類の遥か上の存在だからだ。

  種としての優劣がすでに明確になっているにも拘らず、

 なお木場はオルフェノクでありながら人間との共存を

 模索しつづけている。

  俺を除く、この場にいる全員にとって木場は爆弾なのだ。

  いつその理想に絶望して、心を失うのか分からない。

  だからこそ、彼の理想はこれから先成就しない。

したとしても、長くは続かないだろう。
191 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 22:42 ID:zuTac0y2
 健夜「なんとまぁ、幼稚な考えなんだろ」

 健夜「でも、だからこそ君みたいなオルフェノクが必要なんだ」

 健夜「ねぇ、木場君?」

 健夜「オルフェノクの最後はどうなるのか知ってる?」

 木場「...青い炎に包まれて灰になります」

 健夜「違う違う。その前に心にガタが来て怪物になるんだ」

 健夜「オルフェノクになりたての時に、人間を殺せって

    頭の中にガンガン響く声がしたでしょ?」

 健夜「大抵のオルフェノクはそれで理性を失う」

 健夜「だけど、スマートブレインの研究でね...。全人類は

    遅かれ早かれオルフェノクになることが分かった」 
  
 京太郎「どういうことなんだよ...それ」

 健夜「猿が人間になったように、人間が種としての新たな

    進化を遂げる時期に入ってるの」

 健夜「だけど、その進化はあまりにも急激すぎる」

 健夜「今はまだ偶発的にオルフェノクになる人間が出る
  
    程度だけど、その内爆発的に増える筈」

 京太郎「だから、そのメカニズムの研究と解明の為に

     罪もない人間達を攫っては殺すのか!」

 健夜「まぁ、私達が仲間を増やす方法は傍から見れば

    そう見えるんだけどね」

 健夜「話を戻すけど、まぁ、研究の甲斐あって人間の

    オルフェノク化のメカニズムが解明され始めた」

 健夜「それを遅らせる具体的な療法も、君の言うように

    荒療治ながら確立させている」

 健夜「だけど、私達オルフェノクにも誤算があった」

 健夜「iPS類がオルフェノクの存在に感づいた」
192 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 22:43 ID:zuTac0y2
 健夜「おかしいと思わない?どうしてiPS類なんてのが

    爆発的に十年にもならないうちに出てきたなんて?」

 木場「ま、まさか...。オルフェノクのDNAとかを」

 健夜「その通り。私達でもiPS類のプロトタイプとなる

    存在を作り出した創造主はわからない」

 健夜「けど、iPS類とオルフェノクに変成した後の

    人間のDNAパターンと塩基配列がほぼ同じなの」

 健夜「わかる?iPSがこのまま数を増やせば、旧人類は

    あと二十年かそこいらで本当に絶滅する」

 健夜「旧人類のオルフェノク化はエイズのように、

    なってしまった後には進行を遅らせるしかない」

 健夜「今までは時間があったけど、今は政府が全世界の

    旧人類をiPS類へと移行させる計画を始めている」

 健夜「時間がないのよ!このままいけば君が共存を望む

    旧人類が滅ぶの」

 健夜「貴方達にもわかるでしょう?iPS類となった人間が

    果たしてちゃんとした種を存続できるのかどうかが」

 健夜「ここにいる全員は、少なくとも分かっている筈」

 健夜「世界を滅ぼそうとしている悪は一体誰なのかを」

 全員「......」

  時ここに至って、俺達は今更ながらとんでもない事態に

 直面している事に気が付いた。

  木場の言う人間との共存なんていう甘い夢に浸り、

 夢想する時間すら俺達には残されていなかったのだ。
193 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 22:44 ID:zuTac0y2
 健夜「今、地球上の人口は約64億人」

 健夜「iPS類はそのうちの20億人を完全に掌握しました」

 健夜「対するオルフェノクはスマートブレインが

    確認出来る範囲でおよそ16億が現存しています」

 健夜「だけど、彼等は必ずしもスマートブレインに

    恭順を誓っている訳でもないし、奴隷でもない」

 健夜「政府側についているオリジナルのオルフェノクを除けば

    スマートブレインに忠誠を誓うオルフェノクなんて」

 健夜「ほんのひと握り、1000万いるかいないかだよ」

 健夜「でも、世界がこうなった以上、一部のオルフェノクが

    悪い奴になってでも、人間に手を差し伸べなければ」

 健夜「人類側からもオルフェノク側からも更なる犠牲者が出る」
 
 健夜「そして、残りの28億人が普通の人間」

 健夜「だけど、そのバランスも徐々に崩れてきてる」

 健夜「日本に至っては、今までと同じような暮らしができている普通の

    人間の人口が今日の時点で2000万人しかいないからね」

 健夜「だけど、その残りの大半ですらiPSの走狗として

    恭順を誓い、iPS類の世界征服を幇助している」

 健夜「近いうちに第三次世界大戦が起きる」

 健夜「国と国との利害関係で引き起こされた戦争じゃない!

    人と人とが滅びの道へと歩む地獄の窯が開くのよ」

 健夜「今ここでアクションを起こさなきゃ、絶対に人類の

    未来は閉ざされてしまう」

 健夜「木場君、共存共栄どころの話じゃないの」

 健夜「私達オルフェノクのように進化を受け入れ、

    種の保存を望む存在とiPS類のように種の繁栄を望み、

    結果的に滅びの道を歩む勢力が人間をモノとして

    奪い合うのが今の世界なの」

 木場「...はい」

 京太郎「人類崩壊の序曲か...」

  俺達は何も言えなくなってしまった。
194 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 22:44 ID:zuTac0y2
 確かに人類がiPS類へと移行すれば、慢性的な人口不足からは

 解放されるだろう。

  だが、変質してしまったDNAが引き起こす未知の病や、

 有限資源である天然資源の枯渇はますます加速するだろう。

  その点、人類がオルフェノク化を運命として受け入れたの

 ならば、いつか滅びるとわかっていても、iPSとは異なり

 『普通』の人間であり続けることができる。

 
 『愛』を取るか『未来』を取るか。

 そして、ここにいる俺達が出す結論で未来が変わる。

  その重責が俺達の双肩にかかった。
195 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 22:45 ID:zuTac0y2
  ~木場の視点~


 木場「俺は...」

  俺は今までオルフェノクとして生きていたけれど、

 肝心な現実は何一つ知らなかった。

  いや、目を背けていたのかもしれない。

  いつか醒めない悪夢が覚め、きっと人間に戻れるかも

 しれない砂粒よりも小さな希望にすがりながら生きてきた。

 

  だけど...。

 健夜『わかる?iPSがこのまま数を増やせば、旧人類は

    あと二十年かそこいらで本当に絶滅する』

  だったら、俺の掲げた理想は一体なんだったんだ?

  あと二十年で旧人類が滅ぶ?

  じゃあ、何のために海堂と結花は死んだんだ?
196 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 22:46 ID:zuTac0y2
 健夜「今までは時間があったけど、今は政府が全世界の

    旧人類をiPS類へと移行させる計画を始めている」

  今の解放軍にたどり着くまで流離の旅を続けていた時、

 人間を襲わないオルフェノクとも沢山出会ってきた。

  襲われたり、あるいは不慮の事故で亡くなってしまった彼等でも、

 それでも一生懸命生きてきた。

  そんな彼等に何度も俺の理想を語った。

  怪物みたいな人間になってしまったけど、歩き続ければ、きっと俺達に

 辿り着ける場所がある。

  そこが果たしてどんな場所なのかは分からないけど。

  だけど、彼等はそれは不可能だと泣き笑いを浮かべた。

 『ごめん、それはできない』

 『人を襲いたくないし、怪物となった自分が受け入れられない』

 『頑張ってくれ。応援しているよ』

 健夜『時間がないのよ!このままいけば君が共存を望む

    旧人類が滅ぶの』

  俺が共存を望んだ旧人類の姿も旅の途中で見てきた。

  おもちカーストとなった女性を助けようとして、危うく

 捕まりかけたこともあった。

  また、交通事故を引き起こした犯人がiPS類だからと言う理由だけで、

 無罪放免になった、あるいは刑が減刑されたケースも見てきた。
197 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 22:46 ID:zuTac0y2
 理不尽を正す事だけが、本当の正しさではない。

  だけど、その理不尽を取り除くべく必死になった先人達が

 作り上げてきた蓄積を、権利を、時間に対して、その理不尽が

 取って代わるとしたら?

  だったら、一体『俺達』は何を道標にすればいいんだ?

 健夜『私達オルフェノクのように種の保存を望む存在と

    iPS類のように種の繁栄を望み、結果的に滅びの道を

    歩む勢力が人間をモノとして奪い合うのが今の世界なの』

  iPS類、オルフェノク。

  共に人とは相いれない存在だけど、それでも彼等は人なんだ。

  同じ人であるならば、倫理もまた同じ。

 健夜『近いうちに第三次世界大戦が起きる』

 健夜『国と国との利害関係で引き起こされた戦争じゃない、

    人と人とが滅びの道へと歩む地獄の窯が開くのよ』 

  俺の夢がもし叶うとしたら?

  絵空事ではなく、本当に実現できるのだとしたら?

  俺は...

 ―――

 ――
198 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 22:47 ID:zuTac0y2
 雅人の視点


 木場「小鍛治さん。わかりました」

 木場「俺は...」

  長いこと何かを考えていた木場が遂に口を開いた。

 木場「俺は、オルフェノクとして生きます」

 照「それは、心から言っているの?」

 木場「そうです」

  そうか...なら、コイツもまた俺の敵だ。

  俺がスマートブレインに手を貸すのはあくまでも私怨の為だ。
 
  真理を殺したオルフェノク。

  人を襲い、化け物に次々と変えていくオルフェノク。

  そんな奴等は野放しにできない。

  全部残らず滅べばいい。

  その為の拠点として、俺はスマートブレインを利用するんだ。

  眼の前の女はオルフェノクを人間に戻すための治療法が

 確立されたと言っていた。

  取り敢えず、奴らを信用させるためにiPS類と戦い、

 スマートブレイン内での自分の立場を確立させる。

  恨みはないが、iPS類もオルフェノク以上に危険な存在だ。

  俺の計画の邪魔になる奴は出来るだけ排除したい。

199 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 22:48 ID:zuTac0y2
 木場「だけど、俺はできるだけ人間を守りたいんです」

 小鍛治「はぁ?!なにそれ」

 木場「自分でも...!これが甘い考えだとわかっています」

 木場「勿論、最低限のけじめはつけます」

 小鍛治「ふうん、エゴイスティックな主張だね」

 小鍛治「自分のエゴだけで、守りたい存在を簡単に殺すんだ」

 木場「俺自身、何が出来るのかは正直分かりません」

 木場「だけど、俺は理想を捨てられないんです」

 木場「人間とオルフェノクの共存を...」
200 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 22:50 ID:zuTac0y2
 LEO『俺はそんな馬鹿な考え方は嫌いじゃない」   

 LEO『社長』

 LEO『一人くらい馬鹿みたいに純粋なやつがいたって
      
   悪くないと俺は思うな』


 LEO『たとえ百回裏切られても、裏切られた回数の分だけ、誰かを

   信じるという言葉を心から言える人間はごく稀にしか現れない』

 LEO『俺は彼を歓迎するよ』

 健夜「はぁ、ちゃんと責任を持ってね」

 LEO『はいはい』

  フン、怪物は怪物同士仲良く分かりあったという訳か。

  だが、これで少なくとも俺がスマートブレインを利用できる

 足がかりは整ったわけだ。

  須賀京太郎は俺と同類だ。iPSとオルフェノクの違いはあれど、

 復讐の為に生きている。

 LEO『ファイズ、君の意見も聞きたい。我々に迎合するのか  

    それともしないのか?』

 京太郎「If it becomes as man.(人間としてならばな)」

 京太郎「Association as a cooperator and

    (協力者、よき隣人としての付き合いを望むよ)

     a good neighbor is desired.」

 LEO『問題解決だな』

 木場「よ、よろしくお願いします」

  木場がレオと呼ばれたオルフェノクの握手に応じたのと同様に

 須賀も執事服を着た小鍛治の秘書と握手を交わしていた。

 小鍛治「さてと、それじゃあ宮永さんの意見を聞かせてほしいな」
  
  さて、宮永照。お前はどう出る?

 
 ―――

 ――
201 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 22:50 ID:zuTac0y2
 智葉の視点

 
  ライダーズギアの適合者の二人とオルフェノクはあっさりと

 スマートブレインに迎合した。

  私としても思う所がないわけではない。

  彼等は元々スマートブレイン側の人間だった。それは事実だ。

  だが、水原の裏切りの発覚後、続け様にあちら側に迎合されると

 とてもではないがやりきれない気分になる。

  何の為に私達は戦ってきたんだろう?というふうに。

  照、お前もまた私のところから離れて行ってしまうのか?

  なぁ、照...。


 ―――

 ――
202 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 22:51 ID:zuTac0y2
 照の視点

 照(智葉、ごめんね...)

  荒川病院襲撃後、私と智葉は成す術もなく多くの罪なき

 人間達がiPSの魔手に掛かるのを黙って見るしかなかった。 

  誰もが自分の幸せを追い求めた結果が、今の世界を
 
 作り出してしまった。
 
 照(もう、これ以上人間解放軍にいたって何もできない)

  私のせいで、解放軍の多くの人達が命を失った。

  水原だって、幹部Dだって、何の罪もない人達だって、

 私が解放軍に匿われたせいで、私を守ったがために

 死んでしまった。

 照(だから、ここから先はもう誰も死なせない)

  あんなに凛々しく、美しかった智葉が今では焦燥と

 度重なる精神的疲労によってやつれ果ててしまっている。

  自分の操と同じように大切にしていた艶やかな黒髪も、

 いまでは傷み、褪せてしまった。

 照(智葉、ごめんなさい。貴女をこれ以上私のわがままに

   付き合わせることは出来ない)

 小鍛治「どうしたの?返事してよ」

 照「みんな、よく聞いて」

 照「人類解放軍の総意として、私達は...」

 照「オルフェノクと協力し、iPS類を滅ぼします」
  

 ―――

 ――
203 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 22:51 ID:zuTac0y2
 小鍛治「言質はとったからね」

 小鍛治「一応、ここにサインしてもらおうか」

 照「ペンを頂戴」

  俺達が固唾を呑む中、宮永照はサインを終えた。

  これにより、俺達はオルフェノクと共闘することになった。

  この判断が果たして正しいのか、それはわからない。

  だが、少なくとも前に進むことは出来た。

 智葉「ああ...っ」

  グラリ、身体を傾かせながら辻垣内智葉は地に倒れた。

 ハギヨシ「精神的ショックによるものですね」

 沙耶「ハギヨシさん。私、彼女を連れて行きます」

 ハギヨシ「いえ、私が責任を持って彼女を見ています」

  ハギヨシさんは俺達を一瞥した後、どこかへと消えていった。

  ふて腐れた沙耶は澤田を伴って、ハギヨシさんの後を

 追っていった。

 小鍛治「宮永さん。貴女の英断は間違っていません」

 小鍛治「良く決断してくれました」

 照「智葉を、スマートブレインで龍門渕透華と天江衣と

   一緒に預かってほしい」

 小鍛治「どうしてそんなことを知っているの?」

 照「須賀君が持ってきた軍事研究所の重要書類の中に

   書いてあった」

 小鍛治「同じ待遇でいいのかしら?」

 照「あと、ハギヨシさんに智葉の管理を頼みたい」

 小鍛治「彼女が餓える事無く、自殺することなく?」

 照「あとは他のオルフェノクから虐げられないように」

 照「貴女からも」

 小鍛治「うん。いいよ」
204 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 22:52 ID:zuTac0y2
  ...辻垣内智葉はここでリタイヤか。

  これはきっと、まじめで融通が利かない彼女を今まで

 自分に付き合わせてきた宮永照なりの優しさなんだろう。

  辻垣内智葉は自戒と規律を自分にとても強く強いる女だ。 

  摩耗した心と体が壊れる前に、宮永照がこの世界で

 最も安全で信頼できる場所に彼女を預けたのはきっと

 正しい判断だったんだろう。

 小鍛治「さてと、草加君と木場君は別室で待機しててね」

 小鍛治「私は宮永さんと須賀君に重要な話があるから」

  デスクの上のボタンを押してから数秒後、草加と木場の前に

 スマートブレインの社員たちが現れ、二人を連れ去っていった。

 小鍛治「大丈夫、草加君は人間のまま返してあげるから」

  今日は色々な事があり過ぎた...。

  だが、まだ運命は俺達に休息を許さなかった。


 ―――

 ――
205 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 22:52 ID:zuTac0y2
 首都・ピンクハウスの一室


 咲「京ちゃん、お姉ちゃん...まだかなぁ」

 和「今しがた連絡が入りました。咲さん」

 和「スマートブレイン社を抜けて、後十分ほどでこちらに

   到着するそうです」 

 咲「うん...」

 和「やはり、緊張しますか?」

 咲「それは...そうだけど」

 和「咲さん、もし咲さんが望むのなら、お義姉さんと

   須賀君の元へ行ってください。今すぐに」

 和「ハルシオンデイズはもう終わりです」

 和「まないた党とヘテロ党が滅びた後は、人類の大半が

   私達iPS類の次の敵です」

 和「世界を変革した私の責任は非常に重い」
 
 和「ですが、咲さんは今でも解放軍の象徴です」

 和「命を賭して、お義姉さんは貴女を守ろうとしました」

 和「だからこそ私は、貴女との愛を交わす時以外、

   一片たりともその体に手を出していません」

 咲「和ちゃん!それはいくらなんでも言いすぎだよ!」

 咲「もう私は腹を括ったんだよ!?」

 咲「確かに今でも私は和ちゃんが憎い」
 
 咲「けど、それ以上に愛しちゃったんだもん!!」

 咲「馬鹿なことしたうえで、私の何もかもを破壊した癖に

   私のことを最後まで愛するなんていっちゃってさ!!」

 咲「だから、私は京ちゃんやお姉ちゃんの元には戻らない」

 和「咲さん...」

 咲「なんでも、ひとりで...背負わないで、よ」

 和「咲さん?咲さん!!」

 咲「うーっ、うううーっ!お腹、お腹痛い...」

 和「嘘...よりによって、こんな時に」

 和「誰かーっ、誰かーっ!」


 ―――

 ――
206 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 22:52 ID:zuTac0y2
 ピンクハウス移動中・車内


 京太郎「なぁ、宮永」

 照「照でいい」

 京太郎「照か、まあいいか」

 京太郎「照...アンタは、咲に会って何がしたいんだ?」

 照「もう一回抱きしめたい」

 照「できることなら説得して、連れ帰りたい」

 京太郎「無理だな」

 照「さっきのは建前。本当は決別を言いに行くため」

 照「咲が私達を捨て、iPSの側に与したとなれば一刻の

   猶予も残されていない」

 照「あの原村の事だから、iPS類と人類の和解の印です。

   とか言って結婚式を挙げるつもり」

 照「そうなれば、少なくとも世界から日本に向けられる

   注目度は今まで以上になる」

 京太郎「俺達の行動に今まで以上の制限が付くってわけだな」

 照「これが終わったら人間解放軍とスマートブレインとの

   二足のわらじ生活が待っている」

 照「今までとは比にならない程のハードな日々が待ってる」

 京太郎「それでも俺はやる」

 京太郎「俺達しか立ち上がる奴がいないんだ」

 京太郎「これ以上、iPS類に人類の未来を勝手にさせない」

 京太郎「そして、全部を元通りにするんだ」

 照「咲...」 


 ―――

 ――
207 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 23:02 ID:zuTac0y2
 俺達がiPSの牙城である首相官邸、通称ピンクハウスに

 到着してから既に20分が経過していた。

  あの後、小鍛治健夜は俺と宮永照に『咲に会わせてあげる』と

 伝え、首相官邸へと連れてきた。

  これも仕組まれた罠の類だが、少なくとも肉体的な苦痛を

 伴う類の罠ではないだけ随分とましだ。

  しかし、手続きにしては随分と掛かるな...。


 小鍛治「ちょっと、貴方達私を誰だと思っているの?」

 戒能「ソーリー。宮永副総裁は只今出払っています」

  日本iPS合衆国軍ハイテクノロジー部隊長、戒能良子。

  俺達の前にいるiPS類は、かつて原村和とともに難攻不落の荒川病院を

 攻め落とした地上最強のiPS類に数えられる存在だった。

  見た目こそ二十そこいらの女に見えるが、俺と小鍛冶は全く体温の感じられない

 奴の底冷えするようなオーラに気圧され始めた。

 小鍛治「へぇ、随分と私を軽く見てるんだ」

 戒能「否定します。貴女は私達にとって想像ができない程の

    計り知れないお方です」

 戒能「蔑ろにするなどとんでもない」
 
  慇懃な口調は、俺たちに厳然たる事実を突きつけてくる。



  お前らなど、いつでも殺せる。
 
 
 小鍛治「ふーん。随分とぞんざいに扱うんだね」

 戒能「...WHY?」

 小鍛治「いいのかな?貴女如きの一裁量で明日から

     日本ががらりと変わっても?」

 戒能「火のない所に煙は立ちません」

 戒能「最も、蛇足に習うなら余計な詮索は控えるべきです」

  バチバチと相いれることのない化物同士が火花を飛ばす。

 戒能「自分から墓穴を掘りたいのならどうぞ」

 小鍛治「へぇ~、シラ切って見逃されるなんて思ってるんだ」

 小鍛治「いいからとっとと出せよ?ん~?」

 小鍛治「さもないとテメェの部下全員皆殺すぞ?」

 戒能「FUCK OFF!」

  遂に、恐れていた事態が起きてしまった。

  先程とは打って変わり、俺達に接したような困り顔で

 慇懃な態度だった小鍛治健夜はいきなり豹変した。
208 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 23:03 ID:zuTac0y2
 ノーモーションで応接室にある上等のオーク材のデスクを

 全力で蹴り砕いた健夜。

  戒能良子とその部下もそれに呼応するように、阿吽の呼吸で

 一斉に俺達を包囲する。

 小鍛治「つーかーまえた」

  その一言が聞こえたか否や、SS部隊の隊員達が糸の切れた

 マリオネットのように床へと倒れた。

  耳朶や口からごぼごぼと血を噴出しながら...。

 戒能「チッ、念動力とは小賢しい」

  忌々しげな一言には、倒れ、意識を失っている部下たちに

 対する憐憫の情は一切含まれていなかった。

 小鍛治「へぇ、水剣とは随分と器用な真似をするんだね」

 戒能「貴方方が動植物の力を手に入れたように、iPSへと

    進化した私達にも力が宿ったんですよ!」

  部下の身体から一瞬にして水分を吸い取った戒能は

 レイピアと自分の背後に十五の水球を造作もなく作り上げた。
  
 小鍛治「噂には聞いてたけど、厄介だね」

 戒能「右手だけで十分ですよ」

  その一言の後に、戒能良子の右腕は消えた。

 戒能「?!どういう事ですか小鍛治さん!」

 小鍛治「あちゃ~、ばれちゃったか」

  俺の隣にいた宮永照の全身を鎌鼬が襲った。

  切り裂いたフードから現れた宮永照の顔を見た

 戒能良子はその瞬間、攻撃を止めた。  
  
 小鍛治「これでもまだシラを切るつもり?」

 戒能「...一度目の過ちは誰かのせい」

 戒能「二度目の過ちは己の愚かさのせい」

 戒能「次はありませんからね」

  再び能面のような無表情に戻った戒能は部下を

 助け起こし、部屋のドアを開いた。

 戒能「引き返すなら、今の内ですよ」

  憐れみの表情を浮かべた戒能は、部下を部屋に残し

 俺達を咲のいる部屋へと連れて行った。


 ―――

 ――
209 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 23:03 ID:zuTac0y2
 照の視点

 和「頑張って、頑張ってください!咲さん」

 咲「あーっ、あーっっううううううううう!!!」

  な、なにこれ?

 医者「よーし、これで体の半分が出たぞ!頑張れ!」

 菫「咲君、今日から君はお母さんなんだぞ!」

 菫「しっかり気を持て!原村咲!」

 咲「うん。うんっ!頑張る、頑張るからああああああ」

  咲?いつから妊娠してたの?

  咲?あそこにいるのは私の咲なの?

  咲...いつから原村咲になっちゃったの?

  ねぇ、咲...。股間に生えているそれは何?

 和「遂に、遂に私と咲さんの愛の結晶が生まれる...」

  愛の結晶?

  ああ...。

  ああああ......。

  わああああああああああああああああ!!!!!!!


210 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 23:04 ID:zuTac0y2
 <京太郎の視点>


 京太郎「小鍛治さん...アンタこれが狙いだったのか?」

 京太郎「なぜ、黙っていたんだ?」

 小鍛治「私に聞かないでよ。流石の私もこれは予想外だよ」

 小鍛治「うーわ、出てきちゃったよ」

 小鍛治「さしずめ、あれはニューボーンって奴かな?」

 小鍛治「エイリアン4を思い出すなぁ~」

 京太郎「和...そうか、お前それほどまでに咲を愛したのか」

 京太郎「原村咲、ね」

  原村さんよ、おまえ、俺と優希の人生を滅茶苦茶にしといて、

 自分と咲だけの幸せな結婚生活を夢見てやがったのか...。

 京太郎「人の人生を狂わせといて、なに...やってんだよ!」

  本当に、とことん、俺と優希のことを軽く見てたんだな。

 京太郎「あの二人ともさよならだな」

  だけどな、それは和、お前も同じなんだよ。

  傲慢なお前は知らないだろうが、お前の事をかけがえのない

 存在だと思っている人間は、世界に三人いるかいないかなんだよ。
211 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 23:04 ID:zuTac0y2
 京太郎「全面戦争だ。覚悟しろよ、和、咲」

  かけがえのない和ちゃんって、心の底からお前にはっきり

 言えるのは、お前の親と咲くらいなんだよ。

  地球の総人口から見れば、たった二十億分の一程度の

 そんな価値程度の存在なんだ、お前は。

 京太郎「お前達の身勝手な愛が成就することは、ない」

  たまたま無量大数分の一の超奇跡を手に入れたお前は

 自分の事を神のように思って、そのちんけで矮小な脳みそに

 都合よくインプットしたんだよな?

 京太郎『優希、俺は...当たり前のことをすることにしたよ』

  悲しみを知らない他の誰にも、この復讐は譲らない。

  このクソッタレな世界に俺は宣戦布告する。そして勝つ。

  iPS類を作った元凶達に必ず罪を償わせる。

  奴等を無意味に生きながらえさせるような贖罪は絶対にさせない。

  だから―――

 京太郎「帰りましょう、小鍛治さん」

  お前達を見逃すのは今日で最後だ...。

  精々、幸せな夢でも見てろ。


  

 
 ―――

 ――
212 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 23:05 ID:zuTac0y2
  再びスマートブレイン社内にて


  呆然自失となった照をスマートブレインに連れ帰ったのは

 午後六時だった。

 小鍛治「悪いけど、今日はスマートブレインタワーに泊まって」

 小鍛治「謝罪で済む問題じゃないけど、本当にゴメン」

 京太郎「...宮永照が自殺しないように拘束具で拘束してくれ」

  咲、咲。私の世界でたった一人の妹。

  譫言の様にブツブツと呟く宮永照に草加も木場も事態が

 ただならぬ状況に転がり始めたことを明確に認識した。

  取り敢えず、俺と木場は草加の意見を採用し、宮永照が

 落ち着くまでスマートブレインに逗留することにした。

  失念していたが、解放軍のリーダーである水原は既に

 殺されてしまっていた。

  物事の流れからして、水原亡き後の解放軍の束ねる次の

 リーダーに宮永照はなる筈だった。

  だが、

  あの光景のショックは計り知れない程、俺の心にも

 大きな傷を植え付けた。拭いきれない程のトラウマとして。
213 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 23:06 ID:zuTac0y2
 草加「全く、君は一体何のために一緒についていったのかな」

 草加「最初の時点で不自然さに気が付いても良い筈だろう?」

  呆れ返ってもののも言えないという草加の態度に対して、既に怒る気さえ

 失せた俺は、うなだれたまま事の次第を木場にも話すことにした。

 京太郎「その通りだ」

 草加「...ま、気持ちは分かるよ」

 草加「自分の心を占めるかけがえのない大切な人が、

    知らないうちに変わり果てた姿になってた」

 草加「痛い程、共感できる」

  不遜な態度と言動はそのままだったが、草加の目は俺と

 宮永照と同じくらい真っ赤になっていた。

 木場「草加君、まさかさっきのオルフェノクの二人組に

    何かひどいことを...」

  俺と草加の出す沈痛な表情に堪りかねた木場は草加の身に

 何が起きたのかを聞き出してしまった。
214 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 23:07 ID:zuTac0y2
 草加「ああ、好きな女の子の死の瞬間を見せられたよ」

 草加「三時間かけて殺されたんだ。俺の好きな女の子は」

 草加「そのせいで俺は余計にオルフェノクが好きになった」

 草加「ありがとう。木場君」

 木場「...」

  後悔先に立たず。

  草加もまた表だって表情には出してはいなかったが、

 俺と同じくかけがえのないものを失ってしまったのだ。

 木場「ご、ごめんっ!」

  慌てて逃げ出した木場だったが、草加はそれを咎める事無く

 ただただ執拗に自分の手をハンカチでぬぐっていた。

 草加「で?一体ピンクハウスで何があったのかなぁ?」

  木場が完全にいなくなったのを見計らった草加は、

 俺に先程起きた出来事の子細な説明を求めた。

 草加「ふぅん。なるほどねぇ」

 草加「要するに宮永照の妹がiPS類に鞍替えしたわけか」

 京太郎「ああ、信じられない」

 京太郎「そうなった原因が目の前にいたんだ。ファイズの

     ベルトもちゃんと腰につけていた」

 京太郎「殺意も沸いていたのに、殺せなかった」

 草加「それは、単に君が甘いだけだろう?」

 草加「どうして君は自分を美化するのかなぁ?」

  悪魔のような笑みを浮かべた草加はじわじわと嬲るように

 俺の耳元でささやき始めた。
 
 京太郎「どういう意味だ?それ」

 草加「まだ未練が絶ち切れていないんだろう?」

 草加「人を殺す覚悟もない。守るべきものもない」

 草加「そんなんだから女一人守れないんだよ」

 京太郎「テメェ!」

  瞬間、俺の感情が振り切れた。

  草加のみぞおちに思い切り拳をぶつけ、馬乗りになりながら

 所構わず無抵抗な草加の体を殴り続けた。
215 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 23:10 ID:zuTac0y2
 草加「気が済んだか?」

 京太郎「草加...どうして避けないんだよ」

  草加に股間を蹴り上げられ、ようやく奴の体から離れた俺は冷静さを

 取り戻しながら、草加に疑問をぶつけた。

 草加「もしかしたら、君の全力の力が籠ったパンチで運よく

    記憶喪失になれるかもしれないと思ったからかな?」

 草加「正直、今の俺も参っているんだ」

 草加「可笑しいと思うか?」

 草加「好きな女がとっくの昔に殺されて、それでもそんな現実を認めたくない」

  他人に弱みを絶対に見せることのない男が、これほどまでに憔悴し、

 涙をぼろぼろと流している。

 草加「真理は生きている、必ずな」

 草加「それだけを支えに今まで戦ってきた」

 草加「だけど、もう真理は...殺されたんだ」

 草加「もういないんだよ...」      

 草加「許してくれ...許してくれぇ...何もできなかった俺を...真理...」

  行き場のない悲しみをまき散らしながら、草加は俺を一瞥し、

 あてがわれた部屋に戻ろうとした。

 京太郎「もういい」

 京太郎「とにかく、明日だ」

 京太郎「明日、どうするのか皆で話し合おう...」


 ――――

 ―――
216 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 23:11 ID:zuTac0y2
 雅人の視点


  須賀がいなくなった後、俺はスマートブレインから宛がわれた

 一室に戻り、そのまま横になった。

 雅人「真理...真理...」

  世界中で一番自分が真理に相応しく、真理の事を

 誰よりも知っていた、愛していた。

  自分の本当の人生の始まりは流星塾に入ってからだと雅人は思っている。

  自分を殺したと思っていた父親と母親が自動車事故で死んだ後、

 様々な児童施設をたらい回しにされた挙句、巡り巡って雅人は

 流星塾へと引き取られた。

  中学に上がるまでの雅人は喘息もちで、両親の悪影響もあり

 自分に振るわれる暴力に対して過敏な程に怯えていた。

  大きな物音がするたびに、殺し損ねた自分を再び殺しに両親が

 地獄から舞い戻ってきたと言う被害妄想だけでひきつけを起こし、

 精神病院入院一歩手前になるほど、心身共に重傷を負っていた。

  真理が助けてくれなければ、今頃自分は死んでいただろう。

  泣き虫だった自分をいつも励ましてくれた真理。

  五歳も年下だった真理が、自分を守る為にモップやバケツ、

 時にはバットや鋸まで持ち出して自分を守ろうとしてくれた真理。

  そんな彼女の姿にいつの間にか恋をしていた自分がいた。

  もう手に入ることは二度とないと諦めていた理想の未来が見えた。
217 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 23:12 ID:zuTac0y2
 真理が自分を慈しみ、その無償の愛の中に優しく包まれる。

 雅人はそんな彼女の手を引いて、いろんな場所へと旅をする。

  愛し合って、子供が生まれ、孫が生まれる。

  家族の愛に飢えた雅人にとってこれ以上の幸福はない。

  何だっていい、真理の幸せに必要なものがあれば全部手に入れる。

  宝石やマイホーム、車、高級ブランド。

  金はかかるが、真理が望むもの全てをきっと自分は

 手に入れて見せる。

  真理の幸せは雅人の幸せ、雅人の幸せは真理の幸せ。

  だが、真理は果たしてそう思ってくれているのだろうか?  

  いつか自分を捨てるのではないのだろうか?

  他の男を求め、自分を裏切るのではないのだろうか?

  耐えられない。嫌だそんなの、想像するのも悍ましい。
  
  じゃあ、俺はどうすればいい?
218 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 23:12 ID:zuTac0y2
 

  だから雅人は強さを求めた。

  真理は雅人にとってのマリアだったが、同時に雅人の人生を

 あらゆる意味で網羅していた。

  雅人は真理の物であり、同時に真理は雅人の物だった。

  それは、雅人にとって世界中のどんな律法よりもはるかに

 重大で遵守しなければならない、聖母の意志でもあった。



  流星塾の同窓会で、雅人は真理を失った。

  雅人はあの日、真理に告白するつもりだった。

  その為の予行演習として、沙耶との月四回の予行演習は

 欠かさなかったし、自分を磨くことを絶対に怠らなかった。

  昔日の泣き虫雅人を殺し、新たに生まれ変わった愛する

 真理を守れるほど強くなったヒーロー、草加雅人として

 彼女と一緒に生きていこうと思っていたのだった。

  
  だが、雅人の懸念は最悪の形で現実になった。 
 
 
 ―――

 ――

219 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 23:12 ID:zuTac0y2
  京太郎と照が健夜にどこかに連れて行かれた後、雅人は

 スマートブレインの社員たちにある部屋へと連れて行かれた。

  そこは小会議室のようであり、既に何かを映し出す

 準備が整っていたのだ。

  スピーカーから聞こえてきた、せせら笑う澤田の声。

 澤田「おーい、真理。聞こえてるかー」

 雅人「澤田アアアッ!真理はどこだ、何処にいるんだ!!」

 澤田「おーい、真理。聞こえてるかー」

 雅人「澤田アアアッ!」

 澤田「おーい、真理。聞こえてるかー」

 澤田「おーい、真理。聞こえてるかー」

 澤田「おーい、真理。聞こえてるかー」

 澤田「おーい、真理。聞こえてるかー」

  延々と五分もの間、澤田の声を聞き続けた雅人が会議室を

 出ようとしたその時、プロジェクターに真理が映し出された。

  そこはアリーナの様な場所だった。
220 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 23:14 ID:zuTac0y2
 観客席は満員の状態であり、ざわめきの中に混じって

 巨大な動物の吠える声が聞こえてきた。

  そしてアリーナへ沢山の人が解き放たれた。


  アリーナの中央にある赤い檻の中に真理はいた。

  両足には義足をつけていたが、目は死んでいなかった。

 
  雅人は画面を凝視した。

  加工が施してあったが、真理の檻の真正面に全長10mを超す

 怪物がいたのだ。

  その施された加工はゲームの始まりと共に消え失せた。

  加工が消失した箇所には巨大なサイのような怪物がいた。

  そいつを閉じ込める鉄のポールが収納された後は、一方的な

 大虐殺、人間やオルフェノクを襲っては貪り喰らう衝撃的な

 場面が雅人の目に飛び込んで来たのだった。

  どうやらオルフェノク達は人間を使った賭けをしていたようだ。

  一人、また一人と殺されていく人間達。

  真理のいる赤い檻を全力で護る人間がいるあたり、

 どうやらこれは棒倒しを模したゲームのようだ。

  真理がオルフェノクに殺されたらゲーム終了。

  逆に真理を時間まで守りきれたら囚われた人間達は

 めでたく解放されるというシステムなのだろう。
221 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 23:14 ID:zuTac0y2
 残り十五分を切った後、真理を守る檻の近くには

 五人の人間と三体のオルフェノクがいた。

  最初の一時間の間に参加した200人の半分以上が

 食い殺されたことを鑑みれば、大善戦している方だろう。

  このままいけば真理は助かるかもしれない。

  雅人はそんな希望を抱いていた。

  しかし、幕切れはあっけなかった。

  残り七分の時点で、真理を守っていた檻が壊れた。

  そして三体の内の鳥のようなオルフェノクがあっけなく

 踏み潰され、喰われた。

  残り五分、サイの様なオルフェノクが口から吐き出した火球で、

 一体のオルフェノクを除く全てが焼き尽くされた。

  残り二分、真理の身体は消し炭になった。

 雅人「真理―ッ!」

  絶叫と共に、映像は途切れた。


 ―――

 ――
222 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 23:15 ID:zuTac0y2
 雅人「わああああああああ」

  絶叫と共に跳ね起きた雅人は、極度の興奮状態にあった。

 雅人「ガアアアアア!!!!」

  部屋の中にある全ての物体を叩き壊し始め、目立ったものが

 無くなると、今度はカイザギアを収納したケースに自分の拳を

 叩き付けはじめた。

 雅人「こんなっ、こんなものがあるせいで...ッ!」

 雅人「俺は、俺は―ッ」

 雅人「何のために強くなったんだ―ッ!」

 雅人「真理―ッ!真理ぃぃいいいいいい!!!」

 雅人「ちくしょう、ちく、しょ...う」

  興奮が冷めた後、雅人は生まれて初めて悲しみの

 涙を流した。

  この心の痛みを忘れないように、真理遊び半分で殺した

 オルフェノク達への復讐心を絶やさぬように...。

  零れ落ちる涙の数だけ、雅人は自分の信念をこの世の

 何にも勝る強さで固め、鍛えていった。

  最早、自分には守るべき聖母はいない。

 彼女は善であるがゆえに、悪に囚われ殺されたのだ。

  自分にあって、真理にはなかったもの。

  それは■■だ。

  正義も悪も何もかも破綻したこの世界で、雅人は

 自分の正義を再確認した。
223 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 23:16 ID:zuTac0y2
 オルフェノクは滅びるべき悪だ。故に滅ぼす。

  自分にとって悪であるものを滅ぼすのは生ある者として

 当然であり、己が殺した存在に罪の意識など持たず、

 持ってはならない。

  故に自分は正義である。


  己の心に悪を宿せ。

  己だけで滅ぼすことが出来ぬ巨悪を討つのなら、己の心に

 宿る正義に、何もできない善を守るための必要悪を求めろ。

  悪なる者に一欠すらの善を求めるな。

  奴等がどう変わろうと過去に犯した罪の清算は必ずさせる。

 罪には罰を、オルフェノクには苦痛を超えた凄惨な死を...。
 
  もはや、止まることは、許されない。


 ―――

 ――

224 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 23:19 ID:zuTac0y2
  照の部屋

 
 照「わあああああああああああ」

 照「私は、今まで何のために、何の為に戦ってきたんだ―ッ」

 照「咲―ッ、菫―ッ」

 照「えっぐ、ひぐっ」

  宮永照は泣き叫んでいた。

  実の妹を守る為に、多大な犠牲を払って戦ってきたのにその宿敵の魔手に

 既に落ちていたことは照の心に大きな悲しみを生んだ。

  宮永咲は何一つ不自由なく生きている。
 
  だが、照は咲を妹としてみることが出来なくなっていた。
 
 照「やだよぅ、戻ってきてよぉ...」

 照「咲~、菫」

 照「私を助けてよ...」

 照「ねぇ、どうして私を助けてくれないの...?」

 照「こんなに、こんなにも苦しいのに...。二人のせいで

   凄く心が苦しいのに...、ねぇってば...」

  世界が変わる前、まだ彼女が普通の学生だったときの一番の親友と

 血を分けた唯一の妹が照にとっての全てだった。

  世界が終わっても、きっと崩れる事は無いと信じていた。

  だが、その絆はあっけなく崩されてしまった。

  これから先、生きていてもしょうがない。

  照は、自分の頚動脈にカッターナイフを押し当てた。

  強く首にぶっ刺せば、もうこれ以上の現実を見ずに楽になれる。

  だが、それが許されるほど...世界は甘くなかった。
225 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 23:20 ID:zuTac0y2
 雅人「...甘ったれるな!」

  答えの出ない照の自問自答に終止符を打ったのは、 

 あの草加雅人だった。

 雅人「奴等はなぁ、既にお前の知ってる人間じゃない!」

 雅人「人の心を失ったバケモノに成り下がったんだ!」

  雅人は、一言一言照に言い聞かせるようにして、自分の心の中から

 必死に言葉を絞り出した。

 照「ぞんな、ごどっ、ない!」

 照「ざぎもっ、ずみれもッ!」

 照「バケモノなんかじゃない!」

  拘束から抜け出した照は、自分の肩を強く握る雅人を跳ね除け、

 部屋の隅へと駆けこんだ。

  雅人は耳を塞ぎ、縮こまった照をそこから引き剥がし、その顔面に

 全力のパンチを叩き込んだ。

  吹っ飛び、仰け反る照。

  余りの痛みに悶絶し、起き上がることの出来ない照を雅人はガッ、と

 襟首を掴みあげ引き起こした。
226 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 23:21 ID:zuTac0y2
 雅人「だったら、奴等が今までお前にしてきたことを

    思い出してみろ!」

 雅人「お前の親友はお前を力づくで手に入れて、所有物の

    ように束縛しようとした」

  違う、菫は...本当は違うの...!

 雅人「お前の妹はお前に守られながらも、結局は仲間や

    肉親のお前を裏切り、iPSに寝返った」

  咲、咲は原村に脅されて...それで、それで寝返ったんだ!」

 照「草加さんは嘘をついてる!」

 照「認めない、認めない、私は絶対に認めない!」

 照「咲も菫も、私を...裏切ってなんかいない!」
 
 照「だってぇ...だってぇ...えっぐ、ひっぐ」


  そうだ、きっとこれは悪い夢に決まっている。

  女と女が愛し合って、子供を産むことなんて...


 『なぜだ、照!』

 『私はお前を愛しているのに!どうして受け入れてくれないんだ』

 『私は、私はお前との愛の証が欲しいだけなんだ!!!』

 『嘘だと言ってくれ!頼む、私を見捨てないでくれぇ!』



  照が今まで封じ込めてきた最悪の記憶が蘇る。

  それによって、半狂乱に陥った照はますます泣き叫ぶ
227 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 23:22 ID:zuTac0y2
 照「私は間違ってなんかない!間違ってないんだぁああああ!」

 照「うわああああああああ!うわああああああああ!」

  照は懸命に狂おうとした。

  そうすれば、幸せな思い出の中で愛する者たちと愛を育みながら

 またあの懐かしい日に戻れると信じていたからだ。

  しかし、目の前にいる復讐の鬼はそれを許さなかった。

 雅人「それが全部わかってたから、お前は今まで叫んで

    いたんだろうがッ!」

 照「いやぁ、やめてぇ...やめてよ」

  雅人の絶叫が照を追い詰める。

  照とて理解していた。

  菫の気持ちも、咲への愛が必ず自分に通じていた

 訳ではないということを。

  それでも照は二人の事を嫌うことは出来なかったし、いつかきっと

 和解できる日がくると信じていた。

  そうだ、その為に私は戦っていたんだ。

  全てはこんな狂った世界をあるべき正しい姿に戻し、帰るべき

 居場所に戻ることの出来る幸せをこの手に抱く為。

 雅人「いいか、よく聞け!」

 雅人「世界はこれから三つ巴の闘いになる」

 雅人「iPS類、オルフェノク、そして俺達人間だ」

 雅人「いざ戦う時になって、力のない人間は真っ先に死ぬ」

 雅人「だが、それ以上に守るべきものを守らずして死ぬ

    人間はオルフェノクやiPS以下なんだよ!」
228 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 23:23 ID:zuTac0y2
 雅人「お前は一体誰だ?どうしてここにいるんだ」

  耳を塞ぎ、心を閉ざした照。

  だが、それでも雅人は執拗に照へと激を飛ばす。

 雅人「お前の後ろには誰がいるんだ!」

  その一言が、琴線に触れた。

 照「解放軍の、みんな...」

 照「こんな世界はおかしいとそう思っている人たち」

  その瞬間、照は悟ってしまった。

  そうだ、もう自分が好きだった親友と妹はどこにもいないんだ。

  菫は、咲は、もう自分より遥か先に行ってしまった...。

  彼女達がこの先、自分と手を携えようとしても、

 その心の中にある本性は、人とはかけ離れた悍ましい
 
 独占と性欲の塊欲でしかないのだ。

  いつの間にか、流れ出した血は止まっていた。

  心からも、身体からも。

 雅人「いるんだよ。誰にだって守らなければならない存在が」

 雅人「戦わなければ、明日は来ない」

 照「草加さん...」

  この時、照は雅人がどれだけの想いを背負いながら

 戦いに望んでいるのかを垣間見たような気がした。
229 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 23:24 ID:zuTac0y2
  自分や智葉のような善悪の捉え方とは異なりながらも、

 ただ一つの譲れない信念のためだけに草加雅人は生きている。

  全てを知りながら、それを隠し続け、全てを一人で背負い

 自分の中にある宿命と草加雅人は今も戦い続けている。

  誰にも理解されず、誰も理解しようとしない。

  だから、草加は自分のように迷いや躊躇いがなく、

 いかなる状況でもその強さを発揮できるのだ。

 雅人「だが、時には涙を流すことも必要かもしれない」

 雅人「誰かの胸の中でな...」

  雅人は何を想ったのか、照を自分の腕の中に抱いた。

  それは雅人にとっても、意外な行動だった。

  突き動かされるままに、雅人は照のことを強く抱きしめる。

230 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 23:25 ID:zuTac0y2
 照「え、なに?どういう事」

 雅人「黙って立っていてやる。気が済むまで待ってやるよ」

 雅人「家族や恋人が死ねば、誰だって、辛い...」

 雅人「泣けよ、ここで全部吐き出してしまえ」

 雅人「そして、明日からまた戦うんだ」
 
  その時、ようやく雅人は今の照が真理を失った自分に

 重なったが故に発作的に抱きしめたのだと気がついた。

  照の中にある何かに徐々に雅人は絆されつつある自分に

 気がつき始めた。 

  それは、仲間など不要と断じた雅人の大きな進歩だった。
231 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 23:26 ID:zuTac0y2
 照「ありがとう...草加さん」

 照「頑張るから...だから、力を貸して下さい」

 雅人「俺は、お前達の味方になったつもりはない」

 雅人「俺は、俺の復讐の為にお前達を利用しているだけだ」

 雅人「利用価値がある限り、俺はお前の下にいる」

 雅人「だから、お前がそんなことを言う必要はない」

 雅人「最大限、お前も俺を利用しろ」

 照「優しいんだね...」

 雅人「黙っていろ...」   

  今日は余りにも失ったものが多すぎた。

  だけど、喪失に浸っている暇はない。

  今こうしている間にも、世界は刻一刻と変わり始めている。

  だから、私も戦わなければいけない。

  失われた世界を偲びながら...。

232 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 23:27 ID:zuTac0y2
 ―――

 ――

  次の日の朝、スマートブレイン

 
 TV「速報です。昨日未明、新党iPS副総裁の宮永咲様が

   女の子を出産しました」

 TV「まだ詳しいことは判明しておりませんが、母子ともに

   健常であると原村大総統はコメントしました」

 TV「松実玄国防長官は『おめでとうございます。名付け親は

   ぜひ私になりたいです。早く彼女達の所に行かなくては』と

   コメントしました」

 
 ハギヨシ「健夜様」

 健夜「...分かってる。あと二週間の内に全部済まさなきゃね」

 健夜「宮永照とその他はどうしてる?」

 ハギヨシ「草加雅人が、宮永照に接触を図ったようです」

 健夜「ふーん、同類相憐れむってことでいいよね?これ」

 ハギヨシ「はい。辻垣内智葉は如何様になさいますか?」

 健夜「沙耶ちゃんと澤田君に持っていかせた方がいいかな?

    どのみちあの二人、出向組だもん」
233 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 23:27 ID:zuTac0y2
 ハギヨシ「差し出がましいことなのですがこれ以上、禍根の種に

      肥料をお与えになられるつもりですか?」

 健夜「面子の問題だよ。一応、政府の面子があるからね」         
 
 健夜「ま、厄介払いができるんだったらどうでもいいんだ」

 健夜「草加雅人から目を放さないでね。ハギヨシさん」

 健夜「いざとなったら、殺して」

 ハギヨシ「御意のままに」

 ハギヨシ「それでは、私は彼等の元へと向かいます」

 ハギヨシ「木場勇治はやはり、LEOが担当するのですか?」

 健夜「草加雅人より、彼は危険だからね」

 健夜「ああいう爆弾みたいなのにライダーズギアを持たせたら、 

    何をしでかすか分からないもん」

 健夜「まぁ、草加雅人みたいに非情になりきれていないだけ

    改心して良い方向に進む可能性も捨てきれないけど」

 ハギヨシ「須賀君に彼の事を頼んでみます」

 健夜「随分と高く信用してるんだね」

 ハギヨシ「解放軍の中で、彼が唯一の希望です」

 ハギヨシ「私では成し得なかったことを、きっと彼は

      やりのけるでしょう」

 健夜「まぁ、ハギヨシさんがそういうならいいけどね」

 健夜「種子島と関西方面の侵攻のメンバーの隊長は

    ハギヨシさんとLEO君だからね」

 健夜「LEO君には木場君、ハギヨシさんには草加雅人と

    須賀京太郎君を伴って施設を壊滅させてもらう」

 健夜「『ライオトルーパー・プラント』の拠点破壊、

    『青い薔薇計画』の奪還」

 健夜「どちらもスマートブレインの財産だからね」

 健夜「そろそろ返してもらわないと」
 
 健夜「ま、そういうことだから」

 健夜「行っていいよ。ハギヨシさん」

 健夜「透華お嬢様のところに」

 ハギヨシ「ありがとうございます。では」 

 
234 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 23:28 ID:zuTac0y2
 煌「これからの日本は一体どうなってしまうんでしょうねぇ」

 煌「いや~、すばらとは言い難いですね」

  スマートブレイン社内の4Fに花田煌はいた。

  彼女はオリジナルのオルフェノクではなく、使徒再生によって

 オルフェノクへと転生したオルフェノクだった。

  彼女がオルフェノクになったのは、高校生になりたての頃で

 時期は覚えている限りでは四月の中頃だったはずだ。

  その時、自分は同じ部活の同級生と帰る途中に襲われた。

  煌にとっての不幸は、それがひったくり犯ではなく、怪物だった

 ことだった。いや、ひったくり犯と言っても差支えないだろう。

  自分の命をひったくられたのだから。

  死せるものが生き返ったとしても、生者の世界には

 二度と戻ることは出来ない。

  それから紆余曲折の末、彼女はスマートブレインに引き取られ、入社した。

  オルフェノクになった煌の唯一の自慢は、今に至るまで

 人を殺めていないことだ。

  スマートブレインの面接官に土下座をした甲斐があったと

 今でも煌は思う。
235 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 23:35 ID:zuTac0y2


 『人を殺さなくても、私は御社に貢献できます』  


  
  それから煌は延々と十五分に渡り、自分の考えたことを

 熱情と共に面接官に話しはじめた。

  自分が子供好きな事に始まり、オルフェノクであっても

 人を襲わない生き方は出来るし、スマートブレイン程の大企業ならば

 子供たち向けの教育教材を作ったり、絵本を書いたり、ピアノを弾いて、歌を歌って

 一緒に笑いあえるような職場がある筈だ、と。

  いつか生まれてくるオルフェノク同士の子供達にまで何かを殺して生きることを

 教えたくはない。

  だから私は人は殺さない。オルフェノクになったからには

 後に続く世代の子供達に『優しさ』を教えてあげたい。

  この主張が偽善であったとしても、それはきっと誰かの為の

 善であると私は信じているからですと主張し続けた。
 

  これが結果的に面接官の心を動かし、煌は見事にスマートブレイン本社の

 教育部門の内定をゲットした。

  勿論、オリジナルのオルフェノクより能力で劣る煌は最初の内はいわれのない

 迫害を受けたものの、持ち前の根気強さと粘り強さで着々と仲間や友達を増やした。
236 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 23:38 ID:zuTac0y2
 そして、入社から五年後の22歳。

  遂に彼女は念願叶い、オルフェノクの子供達を集めた日本全国に点々と

 存在するスマートブレインの児童施設のエリアチーフに抜擢された。

  やりがいのある仕事だと煌は思っている。

  人を襲い、殺害したオルフェノクにも家庭はある。

  ジェノサイダーとなったオルフェノクは政府の特別収容所に

 収容され、モルモットにされた挙句、廃棄処分される。

  煌が任されたのは、オルフェノク化を受け入れられない子供達の

 精神のケア、何も知らないままにオルフェノクの力に溺れた子供達の

 心の闇を照らし、社会に溶け込める子供を一人でも多く作ることだった。

  極端なオルフェノク化とiPS類化が進んだ日本に残存する

 旧人類は推定でおよそ2000万人いる。

  しかし、これはおもち党のおもちカーストや兵役や

 優先国営化事業従事対象者となった一部の政府に恭順する

 旧人類を加えると、およそ5800万人にまで膨れ上がる。

  そして残りの四割の内、2500万人はiPS類、1000万人から

 1500万人弱がオルフェノクなのだ。
237 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 23:38 ID:zuTac0y2
 日本におけるスマートブレインの影響力は確かに巨大だ。

  だが、数の暴力と国民の統制においては遥かに現政府の方が

 上手であり、オルフェノクを自由に好き勝手出来る権利の

 大半を握っているのだ。

  それでも、100万人を超えるスマートブレインに所属する

 オルフェノク達の結束力は強いと煌は信じている。

  例え自分達が生ける屍だとしても、生還を果たしたのなら

 きっとその生には何か意味があるに違いない。

  いつかその中からiPS類や旧人類、オルフェノクが仲良く

 暮らせる未来への懸け橋となる存在が現れるはずだ。

  その架け橋に自分はなることが出来ない。

  精々なれたとしても、一本のねじか鉄骨程度だろう。

  知らないうちに運命の歯車に組み込まれたのなら、

 自分の果たせる全てを果たさなければならない。

  それが自分の使命なのだから。

 
 ―――

 ――

 
238 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 23:40 ID:zuTac0y2
  考え事をしながら、自分に宛がわれた職場の一室を歩いて

 いると、誰かにいきなり肩をポンと叩かれた。

 LEO「Hey SUBARA!(ヘイ、スバラ!)」

 煌「わわっと、これはレオ様ではありませんか」

 煌「きょ、今日は一体どういったご用でしょうか?」

 LEO「いや、君が久々にこっちに戻ってきていると聞いてね、

    長期任務の前に君と話がしたくなったんだ」

 LEO「大丈夫かな?」

 煌「ええ、どうぞ!すぐにとります」

  ニヤリと笑いながら、独特のアクセントの英語で自分に

 語りかけてきた相手はLEOだった。

  自分の意中の相手が眼の前にいることに、すっかり

 舞い上がった彼女は急いでお茶を入れ始めた。

 LEO「そんなに急ぐなよ。今日は休みなんだ」

 LEO「君も簡単な書類整理だけだろう?」

 LEO「それとも、お邪魔だったかな?」

 煌「い、いえ、そんなことは滅相もありません」

  上下共にスマートブレインのトレーニング用のウェアに

 身を包んだLEOはソファーにどっかりと腰を降ろした。

 LEO「自分でウーロン茶を入れられればいいんだけど、  

    生憎、君ほど上手に入れられないんだ」 

   
239 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 23:41 ID:zuTac0y2
  前にLEOから教えられた通りの手順で茶葉を蒸らし、容器から湯呑に

 熱い烏龍茶を注ぐ煌の手はいつになく震えていた。

 LEO「あーあ、こぼし過ぎだよ」

  湯呑を乗せた盆がびちゃびちゃになったことにLEOは苦笑しながら、

 それを応接机の上に運んで行った。

 LEO「相変わらず堅苦しいなぁ、そんなに緊張するなよ」

  LEOの対面に座ろうとした煌だったが、それを察知され、次の瞬間には

 隣に座らされていたのだった。

 煌(人の気持ちを少しは考えて下さい!)

  好意をストレートにぶつけてくれるのは煌にとって嬉しくはあるものの、

 やはりどうしても自分の自信の無さから無自覚の内にLEOを

 遠ざけようとしてしまう。

  加えて、LEOがモテることも煌の女としての劣等感を煽る

 一因となっている。

 LEO「久しぶりに会えたんだ」

 LEO「君の話を聞かせてくれないか?」

 煌「そうですねぇ、どんな話が聞きたいですか?」

 LEO「じゃあスマートブレインの施設にいるオルフェノクの

子供達の様子について聞きたい」
  
  朗らかに煌に話しかけるLEOの笑顔には煌は勝てない。

  清々しいまでに無邪気な笑みを自分に向けてくれる彼は

 自分にとっての太陽だ。

  ただ、その輝きに自分が焼き焦がされてしまうことが

 煌の一番の懸念だった。

  このままいけば、抑えきれずにLEOに自分の想いを

 告白してしまいそうだった。

  iPS類とオルフェノクの熾烈な戦いの最前線に立つ彼の様な存在に、

 愛憎がらみのしがらみは絶対に背負わせてはいけない。

  ましてやそれが元で命を落としてしまえば、その原因が

 自分だったら、きっと煌は耐えきれない。
240 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 23:54 ID:zuTac0y2
 ―――

 ――

 
 煌「それでですね、今度スマートブレイン系列の体育館を

   借りて合唱コンクールをしようと思うんですよ」

 煌「関東地区と関西地区のオルフェノクの小学生達が

   全国一位を競うんです。スバラですよね?」

 煌「審査員の先生達にようやく当てが出来たんです」
   
 LEO「その時は俺も特別審査員で呼んでくれよ? 」

  LEOもまた花田煌という女性に、尊敬の眼差しを向けていた。

  自分より何もかも劣る彼女をLEOが尊敬する理由は、自分と全く真逆の方法で

 人間とオルフェノクの共存を模索して、少しずつちゃんとした成果を出しているからだ。

  また、彼女の語る夢物語にはきっと自分も何かできるという魔力が含まれている。

 それが村上社長の私兵であり、命令以外に生きる意味を見いだせなかったLEOの

 人生の導になりつつある。

  血の色で染まった自分の人生に、新たな可能性を見せてくれた煌。

  そんな彼女に出会い、LEOはいつの間にか一番の協力者になっていた。   

 LEO「もっとも、それまで俺が生きていたらだけど」

  オルフェノク側の『救世主』として、LEOは今まで政府とスマートブレインの間に立ち、

 天のベルトの装着者として、孤独な戦いを強いられてきた。   

  いつまで自分の寿命が持つかわからない。

  けれど、煌や彼女が救ってきた子供たちの笑顔を見るたびに、たとえ自分の戦いが

 薄汚れた世界の支配者の陣取りゲーム以外の何物でもなくても、この手で守るべきものを

 守りながら戦えることに、LEOは自分の生きる意味を見出していた。

 煌「...そんなこと、言わないでください」 
   
   煌の顔が、今にも泣き出しそうだったのでLEOは話題を変えた。
 
  LEO「君はどちらかと言えば穏健派だったね」

 煌「ええ、スマートブレインから見れば私は異端です」

 煌「だけど、あの時自分が言ったことは間違ってないと思いたい...」

 LEO「悲しみを知らない識者の理想論は、時として最悪の

    結末を更に引き寄せやすくなる」

 LEO「だが、君のお陰で、徐々にだけどスマートブレインの

    活動に理解を持ってくれるオルフェノクが増えているんだ」

 LEO「俺は物事を暴力で解決するのが仕事だけど、暴力だけじゃ

    成り立たないんだよな。この仕事は」

 LEO「だからこそ、君は自信を持っていいんだ」

   
241 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 23:59 ID:zuTac0y2
  しばらく見つめあった煌とLEOだったが...

 LEO「時間だ。行かなくては」

  LEOのポケットから鳴り響く携帯の着信音がそれを阻む。

   短すぎる休憩時間にため息をつきながら、二人は午後の仕事に取り掛かる。

 煌「あの、レオ様...。次はいつ会えますか?」

  ほんの短い逢瀬だが、煌はこの時間がいつまでも続いて欲しいと願う。

  未練がましい言葉でしか、自分の本心を伝えられないのなら、いっそのこと

 彼とともに戦えればいいと切に思う。

 LEO「分からない。だけど、その気持ちを忘れないでくれ」

 LEO「俺も同じ気持ちだから)」

  そういってLEOは煌の部屋を後にした。

 煌「...///」

  
 ―――

 ――
242 名前:名無し 投稿日:2015/02/10 23:59 ID:zuTac0y2
 透華「起きて下さいまし!起きなさい、辻垣内智葉!」

  ゆさゆさと自分を揺さぶる誰かの大声が、眠りから智葉を

 無理やり起こす。

  寝起きの良い智葉でも、耳元で大声で叫ばれるのはあまり

 いい気分はしないし、不愉快である。

 智葉「ん...うるせぇぞ...!朝から」

 透華「ようやく起きましたわね!辻垣内智葉」

  寝ぼけ眼をこすりながら、自分を叩き起こしたヤツの正体が

 二度と会えることのないと思っていた、かけがえのない

 仲間だったなら話は異なってくる。

 智葉「透華、透華じゃないか!」

 透華「そうですわよっ!まったく、貴女と言う女性は...」

 透華「よく、よくぞ御無事で...。会いたかったですわ」

 智葉「バカ、そんなに易々と私と照が死ぬと思ったか?」

 透華「スマートブレインに拘留されてから、一切外部からの

    情報がシャットアウトされて...」

  よくもまぁ、ここまで騒がしくなれるもんだ。

  苦笑いを浮かべた智葉はボロボロと大粒の涙を流す
 
 透華をゆっくりと抱きしめた。

  色々と話したいことはあったが、彼女にとっての妹分が

 いないことに智葉は得体の知れない不安に襲われた。
243 名前:名無し 投稿日:2015/02/11 00:00 ID:losLv5ei
 ここでようやく、智葉は自分がいる部屋を見回した。

  白とベージュを基調にした簡素な部屋だった。

  最低限の退屈を紛らわすための、テレビやコンピューター、

 文庫本、冷蔵庫、シャワールームそしてベッド。

  窓はなく、部屋の住人を外に結び付ける接点がドア一つ。

  たったそれだけしかない。

  圧迫感を感じるし、なによりも時計がない。

  並の人間なら、一ヶ月で正気を失い始めるだろう。 
 
 智葉「それより、衣はどうした?」

 透華「...衣は、別の病棟にいますわ...」

  発芽を始める不安の芽を何とか取り除こうと智葉は

 ここにいない衣の居場所を透華に聞いた。

 智葉「...透華、一体お前達に何があった?」

 透華「長い話に、なりますわよ」

 智葉「ああ、私もお前以上に長い話をするつもりだ」

 透華「でしたら、ベッドに腰掛けて下さいませ」

 透華「貴女達と別れた後に何があったのかをお話します」


 ―――

 ――
244 名前:名無し 投稿日:2015/02/11 00:01 ID:losLv5ei
 透華「貴女と宮永照が水原に渡りを付けている間、私は国内の

    龍門渕グループのシェルターに一時避難しました」

 智葉「奴等の目をかいくぐるのにどれだけかかった?」

 透華「二ヶ月ですわ」

 智葉「そうか...それで?」

 透華「その二ヶ月間で龍門渕グループはある巨大企業へと

    全て合併されてしまいました」

 透華「そう、このスマートブレインにです」

 智葉「何だと!じゃあ、龍門渕グループは?」

 透華「はい。一部の裏切者と私だけになってしまいました」

 透華「他の社員はiPSかオルフェノクになりましたの」

 透華「お父様もお母様もこの戦いの中で、反政府勢力の首魁と

    見做され、アメリカのどこかにある収容所に収容されました」

 透華「貴女の言うとおり、私は次期総帥の立場にありましたが...

    iPSの犬となった古参がこぞって龍門渕の株やら財産を

    あちこちに売り払い、最後には私を売り払おうとしました」

 透華「衣もハギヨシもいない。帰るべき家もない」

 透華「結局、私は御先祖様やお父様が受け継いできた龍門渕を

    何もできないまま潰してしまうところでした」

 智葉「苦肉の策だな...。私でもそうしただろう」

 透華「仕方なかったのです...。私は龍門渕透華なのですから」

 透華「それで、それで...。私の会社を乗っ取ったにっくき

    スマートブレインの村上に...取引を持ちかけたのです」

 智葉「村上?取引って一体何を取引したんだ?」

 透華「ハギヨシと衣をスマートブレインが取戻し、龍門渕

    グループを裏切った社員どもに止めを刺す」

 透華「それに応じれば、私と龍門渕グループを差し出す、と」

 智葉「一はどうしたんだ?」

 透華「オルフェノクの使徒再生に失敗して...死にました」

 透華「それで、スマートブレインは約束を守りました」
245 名前:名無し 投稿日:2015/02/11 00:02 ID:losLv5ei
 透華「衣とハギヨシは私の元に戻り、裏切り者たちは

    全てスマートブレインに処分されました」

 智葉「そうか...」

 透華「それで、それで...それから後はずーっと貴方達の

    消息を三人で探していました」

 透華「そして、スマートブレインのホストコンピューターから

    政府軍の軍事機密をハッキングした時に、貴女達の

    居場所を探り出しましたの」

 智葉「水原...いや、尾山豪だな」

 透華「貴女と照が入った人間解放軍の正体は、人間に成りすました

    オルフェノクやiPSのエージェントが、政府に残りの旧人類を

    差し出すための巧妙な隠れ蓑だったのですのよ?」

 智葉「それじゃあ...あそこにいる解放軍の幹部達は...?」

 智葉「おいおいおい!!!じゃあ、お前それを知ってて...?!」

 透華「話せば!」

 透華「貴女と宮永照は真っ先に『青い薔薇』の餌食でしたわ」

 智葉「青い、バラ?」

 透華「政府もスマートブレインも貴女と照を重要視していました」

 透華「ですが、既に自分達の基盤が出来た以上、さほど価値が

    あるとは思わなくなっていたのですわ」 

 透華「貴女と照が気が付かなければ、そのまま泳がし、

    気が付けば如何様にもしろ。尾山の指令にはそう

    記されていました」

 智葉「じゃあ、何もかもお前は知ってて...私達を」

 透華「貴女はともかく、宮永照にはまだまだ価値があります」

 透華「第二の日本iPS合衆国大統領にという案もありましたのよ?」
246 名前:名無し 投稿日:2015/02/11 00:02 ID:losLv5ei
 智葉「どこまでも...極悪な真似を...」

 透華「ええ、ですが衣は政府の息がかかったオルフェノク軍に

    人間解放軍のアジトが焼き討ちにあった時、再び

    攫われてしまいました」

 透華「そこから先は、あの日と同じですわ」

 透華「私と貴女と照が取り残され、殿となったハギヨシが

    私達を逃がして戦死した」

 透華「それが私の今までです」

 
 ―――

 ――
247 名前:名無し 投稿日:2015/02/11 00:03 ID:losLv5ei
 智葉「済まないな」

 智葉「お前だってキツイのに、更に負担を強いてしまって」        

 透華「それはお互い様ですわよ」

 透華「貴女の髪、あんなに艶やかで流れるように美しかったのに」

 智葉「まぁそのうち、元に戻るさ」

 智葉「それで?私からもいくつか聞きたいんだが」

 智葉「村上っていうのがスマートブレインの社長なんだよな?」

 透華「ええ、そうですわよ?」

 智葉「私達もな、用あって昨日からスマートブレインに来てるんだ」

 智葉「だけど社長室に座ってたのは、小鍛治健夜って女だ」 
    
 智葉「スマートブレインで何かあったのか?」

 透華「おそらく、派閥争いですわ」

 透華「詳しくは知りませんけど、村上社長は前社長の花形と

    なにかと意見の対立を頻繁に起こしていたらしいですわ」     
 
 透華「結果は、村上の敗北」

 透華「花形は自分の息のかかったオルフェノクの中で特に

    高い戦闘力を持つオルフェノクを据えたらしいですわ」
248 名前:名無し 投稿日:2015/02/11 00:03 ID:losLv5ei
 智葉「じゃあ、今その二人はどこにいるんだ?」

 透華「村上は政府直轄の施設のどこかに葬られたと聞きました」

 透華「花形社長も、今は行方知れずらしいですの」

 透華「それより、今度はこちらが貴女に聞く番でしてよ?」

 透華「なにがあったのか、洗いざらい教えて下さいまし」

 智葉「ああ、分かったよ」

  智葉はハギヨシが死んだあとの事を洗いざらい話した。

  ハギヨシと入れ替わりに草加雅人と言う男が用心棒として

 解放軍に入ったこと、それから一年後、ファイズのベルトの

 適合者である須賀京太郎が解放軍の幹部を救い出し、デルタの

 ベルトを奪還した事。そして照がオルフェノクと手を組み

 iPS類との全面戦争を視野に入れたことを丁寧に、端的に話した。

 透華「草加雅人、須賀京太郎」

 透華「その二人は信用できるのですか?」

 智葉「出来ると思うがな...性格に大分難がある」

 智葉「しかし、それでもあの二人はとても貴重だよ」
249 名前:名無し 投稿日:2015/02/11 00:03 ID:losLv5ei
 透華「今は一人でも多くの味方が欲しい」

 透華「ハギヨシがいれば...、きっと今頃」

 智葉「え?だってお前、ハギヨシさんがお前の身の回りのことを

    してるんじゃないのか」

 透華「それは一体どういう事ですの?!」

 智葉「え、ああ...だって、ハギヨシさんがいたんだよ」

 透華「嘘、嘘...そんな、ハギヨシがオルフェノク...」

 智葉「まさか、お前ハギヨシさんが戦死したままだと...」

 透華「ううっ、その...通りですわ」

 透華「ハギヨシ...ああ、なんてことなの」

 透華「また、貴男は私を置いてどこか遠くに」

  ここにきて智葉は小鍛治健夜がハギヨシとただならぬ関係に

 あるのだと推測した。だからこそ透華は涙をボロボロと流し、

 譫言の様にハギヨシの名前を連呼しているのだろう。

 智葉「お、おい...。じゃあ、なんだ?お前とハギヨシさんは
  
    一緒の場所にいたけど、囚われの身となってからは?」

 透華「スマートレディがずーっと私を監視し、身の回りの

    世話をしていました」

 透華「事あるたびに、ネチネチとずーっとハギヨシが死んだと

    呪文のように私に...私に...」

 透華「そうですわそうですわ...。ハギヨシはきっとあの女に

    誑かされて、ああ、私なんかの、私のせいで...」

 智葉(照...早く来てくれ)

  智葉は自分の不用意な一言で精神のバランスを崩してしまい、

 泣きじゃくる透華の背中をさすりながら、ただただ照が来るのを

 待ち続けるしかなかった。
250 名前:名無し 投稿日:2015/02/11 00:04 ID:losLv5ei
 二日目の朝 スマートブレイン社 京太郎の部屋

  朝の八時に目を醒ました俺は、スマートレディの持ってきた

 豪勢な朝食に舌鼓をうった後、草加と木場。そして照を

 呼び出し、これからの俺達の身の振り方について話し合っていた。

 京太郎「で、これから解放軍に帰った俺達がなにをすべきか?」

 京太郎「まずは水原の死を解放軍のメンバーに話す」

 京太郎「だけどよく考えてみれば、腑に落ちない」

  澤田に殺された水原だが、親切な事にスマートブレインは

 水原がiPSのスパイだとわざわざ教えた。

  それを視野に入れた上で、現在の解放軍の上層部、あるいは

 解放軍が匿っている一般人をもう一度洗い直す必要がある。
251 名前:名無し 投稿日:2015/02/11 00:05 ID:losLv5ei
  木場「そうだね、水原が一人で今まで俺達を監視するのは

     流石に不可能だ」

 木場「だけど、こういってはなんだけどさ、宮永さんは

    解放軍では『君臨すれど、統治せず』を貫いているだろ」

  木場の指摘はもっともだ。

  旧人類、それも現政府の体制に抵抗する勢力にとって宮永照の

 存在は無視できない程に大きい。

  解放軍など、iPS軍やオルフェノクから見れば烏合の衆の集まりだ。

  しかし、それでも人が怪物を倒す時に必要なのがシンボルだ。

  世界が崩壊する前、地球を支配しつつある現政府の二大巨頭と

 互角に渡り合い、熾烈な鍔迫り合いを繰り広げた宮永照はこの世界で

 虐げられているカーストや旧人類が一様に思い浮かべる救世主の条件に

 ぴたりと合致する。

 木場「それを考えてみれば、水原さんが死んだ後にいきなり宮永照が次の

     解放軍のリーダーだって言っても彼等を刺激するだけだと思う」

 草加「だからこそ、仕方なくスマートブレインに辻垣内智葉と

    デルタギアを置いていくんだよ」

 草加「水原はあれでも先陣を切って戦っていた」

 草加「帰り道に政府軍の連中に俺達は襲われた」

 草加「デルタギアでようやく変身して戦っていたものの、何体もの

    オルフェノクに智葉が捕まり、それを助けようとして戦死した」
 
 草加「言い訳としてはかなり苦しいが、それでもこれが一番いい」

 草加「なんだったら、デルタギアで変身した途端に灰になった」

 草加「カイザギアの一件がある以上、奴等は黙るしかないさ」

  草加の提案に一様にうなずく照と木場。
252 名前:名無し 投稿日:2015/02/11 00:09 ID:losLv5ei
  しかし、それはあくまでも辻垣内智葉の合意を得なければ

 成立しえない。

  彼女の性格からして、照と離れることを拒絶するのは目に見えている。

 照「みんな、聞いて」

 照「私は智葉をスマートブレインに置いていきたくない」

 照「できることなら、草加さんの二番目の案を使っておきたい」

 草加「だが、他の解放軍のメンバーが危ないんじゃないのかなぁ?」

  照の気持ちと意見は俺達にとっても同感だった。

  仮に最悪の事態に解放軍が見舞われた後に、照が一人だけで

 解放軍をまとめるのは既に無理がある。

  それにスマートブレインとの同盟関係がある限り、必ず

 ライダーズギアの適合者は解放軍を開けることになる。

  政府軍に襲われたら、ひとたまりもない。

  だからこそ、一人でも多く味方が欲しい。

  俺達の秘密を共有できるほどの信頼がおける頼もしいヤツが。

 草加「仮に校舎の案が上手くいったとして、ストッパー役の

    水原がいない解放軍の中で一番権力を持っているのは

    あの水原の取り巻き達だ」

 草加「仮に水原があの無能ぶりを意図して演出していたら、

    他の部下達も、既に水原の死後に進めるべき計画を

    実行している筈だ」

 
 
 草加「宮永照の不在中に解放軍を壊滅せよ、とかね」


253 名前:名無し 投稿日:2015/02/11 00:12 ID:losLv5ei
 草加「俺も須賀もスマートブレインの社員と言えば聞こえは

    いいが、その実、体のいいモルモットの様なものだ」 

 草加「運よくライダーズギアに体が適応しただけの人間さ」

 京太郎「ライダーズギアも、元々はオルフェノク専用に作られた

     専用ツールに過ぎないからな」

 京太郎「しかし、スマートブレインだってバカじゃない」

 京太郎「彼女の事だ。一つでも多くのスマートブレインの機密条項を

     俺達の為に持って来ようとするのは目に見えている」

 京太郎「敵陣で、しかも自分の持つ秘密すら隠すのに覚束ない

     場所であっても、彼女はきっと無理を押してやるだろう」

 京太郎「タイミングはいつになるか分からないが、そろそろ政府軍が

     俺達に対して何かアクションを起こすだろう」

 京太郎「取り敢えず、智葉も後から合流する筈だ」

 京太郎「その時に彼女に今の会話を説明する」

 京太郎「この話の落としどころとしては、水原の死因は

     カイザギアの持ち逃げでいいよな?」

 草加「中々面白いじゃないか...」

 木場「だったら、行方不明っていうことでいいとおもうな」

 木場「死人の名誉に泥は塗りたくないんだけど...、カイザギアで

    不適合者が灰化する時間は結構差があるんだろ?」
 
 草加「まぁ、変身を解いた後で三日間っていうのが最長の記録だ」

 草加「灰になれば、身元の特定はほぼ不可能だ」

 草加「我ながらいい案だ。素直にそう思うよ」

 草加「よし、辻垣内智葉は連れて帰ろう」

 草加「水原が『行方不明』ならリーダーが『不在』のままだ」

 草加「宮永照の専横はならず、解放軍のオルフェノクどもも

    迂闊に手を出すことはまずありえない」

 草加「その間に俺達は密通したオルフェノクを炙り出す」

 草加「ただでさえ乏しい解放軍の戦闘力と旧人類の人間の数が

    少なくなるが、それでいいか?」

 照「また眠れなくなりそう...」

 木場「俺は...覚悟を決めたよ」

 京太郎「残りの旧人類を、国外に出すことを考えなきゃな」

  草加、木場、照、そして俺も引き返すことが出来ない場所にいる。

  木場のように俺はオルフェノクを肯定はしないが、少なくとも

 これから一方的に解放軍に潜むオルフェノク達を殺すことに

 躊躇いを覚えてしまう。

  だが、それでも自分が人間であり続けたいなら、絶えず

 止まることなく前に進むしかない。  

  俺には護るべき存在は居ない。

  だが、木場や草加、照の三人にはまだそれが残っている。

  自分のエゴで誰かを殺すのなら、その引き金は最後まで

 引き続けなければならない。

  たとえ俺達のせいで解放軍の全員が皆殺しにされても...。 
  
 草加「時間だ、小鍛治健夜の所へ行くぞ」

 照「分かってる」

  正午を知らせるチャイムが俺達を次の段階へと進ませる。
254 名前:名無し 投稿日:2015/02/11 00:13 ID:losLv5ei
 今日はこれでおしまいです。

 また明日の夜に投稿します
255 名前:名無し 投稿日:2015/02/12 20:33 ID:Ae4D24cm
 スマートブレイン社内 社長室

 
 健夜「宮永さん。昨日の事はごめんなさいね」

  社長室に俺達が足を踏み入れるなり、開口一番、小鍛治健夜は

 照への謝罪を始めた。

 照「気持ちの整理はつかないけど、どのみちそうなることは

   薄々予想してた」

 照「むしろ彼女達に気が付かれる事無く、何事も起きないうちに

   退却できたのは、むしろ僥倖だった」

 健夜「そう...」

  小鍛治健夜は照の表情を見て、安心した表情を浮かべた。

 照「それで、智葉を返してほしい」

 健夜「いいよ。ハギヨシさん」

 ハギヨシ「はっ」

 健夜「辻垣内智葉をここに連れてきて」

 ハギヨシ「畏まりました」
256 名前:名無し 投稿日:2015/02/12 20:34 ID:Ae4D24cm
 懸念していたことが起きずに、一息ついたのも束の間、

 息せき切ったハギヨシさんが智葉を伴い、社長室へと慌てて

 駆け込んできた。
 
 ハギヨシ「た、大変です。社長」

 健夜「何?一体どうしたの?」

 ハギヨシ「政府の方がッ、LEOを今すぐここに」

  取り乱すことのないハギヨシさんが、我を忘れて取り乱している。

  緊迫した状況下の中、ドアがノックされた。

  ドアを押し開け、社長室に入ってきたのは...。


 和「失礼します」


  俺たちの世界を狂わせた元凶だった。


 
257 名前:名無し 投稿日:2015/02/12 20:35 ID:Ae4D24cm
 和の視点


  咲さんが私との子供を産んでから、まだ一日と経過していません。

  しかし、昨夜遅くに戒能さんがお義姉さんと須賀君がピンクハウスに

 赴いたことを私に知らせてくれました。

  ふふっ、これで話が早くなりました。

  きっとお姉さんも須賀君も、考えていたことは私と同じだった。

  故に私は菫さんと竜華さんを伴い、スマートブレインにカチコミをかけ、

 二人をさらおうと決断したのです。 

 照「原村―ッ!よくも、よくも咲をーっ!」

  激情したお義姉さんが私に掴みかかってきた。

  須賀君も表情一つ変える事無く、腰に回したベルトで変身を遂げ、

 私に素早く切りかかってきました。

 菫「照ッ!もう二度と離さないからな!」

  ですが、小鍛冶さんもまだまだ甘いですね。
  
  まさか私自身が大胆不敵にお義姉さんを誘拐しに来るとは予想だにしていなかった

 ことでしょう。

  後は手筈通り、弘世さんがお義姉さんを無理矢理にでもピンク

 ハウスに連れ帰れば計画は完遂です。
258 名前:名無し 投稿日:2015/02/12 20:36 ID:Ae4D24cm
 照「いやああああっ!!はなしてぇええええ!!!」

 草加「くっ!変身ッ!」

  須賀君は、まぁ仕方ないとして...。

  残り二人の男は邪魔ですねぇ...

 木場「はぁっ!」

  ホースオルフェノクが弘世さんに切り込む。

 竜華「貴男如きじゃ菫は止められへんよ?」

 木場「ぐわあああああッ?!」

  無極の力が、ホースオルフェノクの力を簒奪する。

  ばたりと倒れ伏したホースオルフェノクを横目に...

 竜華「総員、掛かれ―ッ!」

  部屋の外で待機していた竜華さんと彼女が率いる精強なSS部隊が

 瞬く間に旧人類を包囲した。

 草加「小鍛治ッ!これはどういうことだ」

 小鍛治「言われなくてもッ!分かってるよ」

 小鍛治「ハギヨシ!やれッ!」

 ハギヨシ「変身ッ」

  チッ、厄介すぎる相手が出てきましたね。
259 名前:名無し 投稿日:2015/02/12 20:36 ID:Ae4D24cm
  ですが、デルタの装備はデルタ―ムーバー一つだけ。

  そんなに恐れることはありません。

 Φ「Start up!」

  ほぉ、アクセルフォームですか...。

  随分と小癪な真似をしてくれますね、小蝿如きが。

 和「随分と調子に乗っていますねぇ...」

 和「キャンキャン吠える犬は、去勢してしまいましょう」

  弘世さんからお義姉さんを引き剥がすことは許してあげます。

  ですがこれ以上、蝿如きが私の視界に入ることは許せません。

 京太郎「和―ッ!死ねえええええ!!!」

  お義姉さんを後ろに庇った須賀君は、私に多重のポインティング

 マーカーを合わせ、アクセルクリムゾンスマッシュを放った。

 和「25t程度じゃ、私は灰になりませんよ?」

 和「私が法です。黙して従いなさい」

  最初に放たれた、こめかみへの一発を難なく避けた私は

 その後に続く二撃目を避け切り、三撃目でようやく右腕を動かして、

 須賀京太郎を地面に叩き付けた。

  蹴り足を掴み取り、そのまま床に叩き付ける。

  咲さんの愛が私をここまで強くした。

  故に、私はその愛を超える愛でしか死ぬことが出来ない。

 京太郎「ぐふっ!」

  這いつくばる須賀君、いえ優希のように『駄犬』とでもいえば

 いいのでしょうか?

  とりあえず、彼の腰に巻かれているファイズギアとか言う

 カッコいい変身ベルトを今の内に叩き壊してしまいましょう。
260 名前:名無し 投稿日:2015/02/12 20:46 ID:Ae4D24cm
 竜華「大総統、逃げて下さい!」

  強化戦士オーガへと変貌を遂げた竜華さんの声で我に返った

 私は慌てて須賀君を盾にし、様子を伺った。

  どうやら潮時が来たようです。

  せめて弾除けにはなって下さいね?須賀君。

 Δ「9453 FLASH!」

 菫「ぐうっ!」

 竜華「きゃあああああっ」

  白銀のフォトンブラッドが強烈な閃光となり、私達の網膜を一瞬で

 焼き尽くす。

   

 Δ「Exceed Chrage!」

 Ψ「Exceed Chrage!」

 和「え?!」
  
  我に返った時、私の身体はデルタとサイガのフォトンブラッドに

 焼き尽くされ、首から下は真っ黒に焦げ付いてしまった。

  結論としてiPS細胞の超細胞分裂もフォトンブラッドの前には

 著しくその超活性化を阻害される。

  しかし、これで私の欲しかったデータが全て揃った。

  灰化した私の肉体は、オルフェノクのように粉々にならずに

 実態を保ちながら直立不動を崩さない。

  これは、iPS類がオルフェノクよりもフォトンブラッドに対する耐性があると言う

 まごう事なき現実。

  オメガストリームに次ぎ、高出力のブライトストリームとファイズとカイザを凌ぐ出力の

 フォトンストリームVer.2を受けてなお凌いだ。

  つまり、私の目論見は大成功のようだ。

  現に、私の脳は直に切り離されるであろう私の肉体が猛烈な速さで

 自己再生を始めていることを絶え間なく感じている。

 和(そろそろ撤退しましょうか)

  始まりのベルトと『天』のベルト。

  やはり、せめて後一つくらいライダーズギアは必要ですね...

 和(撤退です。速やかにラボへお願いします)

  ここでの様を果たした私は部下達に撤退を命じた。
261 名前:名無し 投稿日:2015/02/12 21:01 ID:Ae4D24cm
 京太郎「待て!逃がすかぁッ!!」

  信じられん...
  
  ゼロ距離で上級オルフェノクの致死量相当のフォトンブラッドを

 しこたま流されたっていうのに...まだ生きてやがるのか?!  

  焼け焦げるも、灰化せず未だに直立不動を保つ和の肉体は

 信じられないほどの回復力で、全身を駆け巡るフォトンブラッドを

 中和し、その体内に取り入れようとしている。  

 ハギヨシ「京太郎君!草加君!」

 ハギヨシ「次は君達の番です!」

  ハギヨシさんの声で我に返る。

  そうだ、攻撃の手を緩めればまたアイツは蘇る!

  なんとしても、あの驚異的な回復力と和の頭部だけでも

 一時的に切り離しておかなければ....

 草加「奴の息の根を止めるまで、攻撃の手を緩めるな!」

 草加「須賀ァッ!合わせろぉっ!」

  ブレイガンの重厚かつ金色の拘束が和を捕縛する。

 京太郎「任せろッ!」

  草加の考えを読み取った俺はLEOに目配せし、正面と背後から

 奴の不意を付くことにした。

  ファイズエッジから放たれた斬撃が数秒間和を拘束する。

  出し惜しみはなしだ。最高出力でいく。

  その間にカイザはミッションメモリーをカイザポインターに

 装填し直し、デルタも新たな装備であるデルタポインターを

 足元に括り付け、再度和を攻撃しにかかった。

 竜華「二度も同じ手が通用すると思うてか!」

 Ω「Exceed Chrage!」

  ハギヨシさんと草加の攻撃を食い止めるべく、政府の切り札...

 強化戦士オーガが和の前に立ちはだかり、オーガストランザーを

 展開し、オルフェノク陣営最強の二人を迎え撃つ。

 草加「でぃいいいやあああああああ!!!!」

 Χ「Exceed Chrage!」

 ハギヨシ「おおおおおおおおお!!」

 Δ「Exceed Chrage!」

  僅かな拮抗はすぐに打ち破られた。

  くっ、同じライダーズギアでもここまで圧倒的質量と性能差があるのか...

 京太郎「だが...」

  だが、時間はできた。

 京太郎「行くぞおおおおおおおお!!!」

 竜華「し、しまっ?!菫ェ!はよ、」

  草加、ハギヨシさん

  二人が作り出したこの好機、無駄にはしない。
262 名前:名無し 投稿日:2015/02/12 21:43 ID:Ae4D24cm
 LEO「Do I place the bottom and have it performed from a head?」

   (首から下は、置いて行ってもらおうか?)

 和「しまっ!」

  最後まで言い終える事無く、和の両腕は身体から切り離された。

  驕れるものも久しからずってか、ザマぁねぇな和さんよ

 和「まっ、待って」

  ファイズエッジの最大出力は、5m圏内の全てを切り裂く高濃度の刃だ。

  身動きできずに、頭だけが生き残っている和の肉体を俺はだるま落としのように

 切落しにかかった。

  完全に焼き付いた腹にXの切り込みを入れ、その中身を一斉に床にブチまける。

  さらに空っぽになった胴体を横薙にし、還す太刀で逆袈裟に切り上げる。

 頑丈な肋骨が全て切り裂かれたあと、ゴロゴロと心臓と肺が焼け萎れた胸の中から

 転がり落ちてきた。 

 和「あっ...がぁああああ!!」

  そうだよ、その目なんだよ。

  俺が見たかったのは、その目なんだ...

 和「うぐうううううううう!」 

 和「やっ、やめて....」

  蚊の泣くような声での哀願。

  それを無視して、奴の心臓と肺を一息に握りつぶす。

 和「あ...ああああ」

  何もできないままに、世界で一番軽蔑した相手に生殺与奪を握られ

 指一本動かせずに、好き勝手される恐怖感。

  かつて俺に味わわせた屈辱を、今度は俺にやられる気分はどうだ?

 京太郎「優希の痛み....思い知れ!」

  肉を切られ、骨を断たれながらもまだ和の肉体は再生を始めている。

  優希と咲がいない。それだけが残念だ。

 京太郎「頭のてっぺんからつま先まで細切れのミンチにされてもよぉ...」

  ダメだ...もう、もう自分の中の獣を抑えることが、できない!

 京太郎「果たしてお前が生きていられるか、楽しみで待ちきれねぇなぁッ!」
 
 LEO「なんてバケモノだ...いくらなんでもこれでは」

  愕然としたLEOが呆然と立ちすくむ。

  誰か!誰でもいい、俺を止めてくれ! 

 京太郎「取り敢えず、俺を舐めたツケを払って貰おうか...」
  
   だが...俺の心は既に理性では制御できない段階まできてしまった。 

 京太郎「折角の再会なんだ、もっとゆっくり...していけやぁっ!」

  ダメだダメだダメだ、止めろ止めろ止めてくれええええええええ!!  
 
 φ「Exceed Chrage」

 菫「だっ、大総統ぉおおおおおおおおお!!」

  そして、

  遂に、

 京太郎「あああああああ!!!!!!」

  俺は、和を...殺し、

 ―――

 ――

 ―
263 名前:名無し 投稿日:2015/02/12 22:20 ID:Ae4D24cm
 ~京太郎が意識を失ったあと~

  理性を失い、極度の興奮状態にあった京太郎が振り下ろしたファイズエッジは

 和の首を真っ二つにすることなく、その寸前でまるで縫い止められたように静止していた。

 セーラ「これ以上、ウチの本尊に触らせるわけにはいかんなぁ」

  雅人、勇治、そして照は竜華と菫を相手取り戦うも、オーガの力の前に成す術なく倒れ、

 残る日本最強のオルフェノク達...ハギヨシ、LEO、そして小鍛冶健夜もオメガスプリームによる

 フォトンブラッド被爆により、身体機能に著しい障害を負い、新たな敵が迫っていることを

 見抜くことができないほどに消耗していた。

 良子「ミス竜華、ミス弘世...よく頑張りましたね」

  口を聞くことができないまでに消耗している竜華と菫を抱きかかえながら、

 良子は殺意にあふれた視線を京太郎に向けた。

  しかし、

 はやり「こらこら☆大総統の首を早くラボに運ばなきゃ☆ね?良子ちゃん」

  iPSの三大巨頭の一人に命令されては、引き下がるしかない。  

 はやり「あとは私たちに任せて、大総統をラボに連れて行ってね☆」

 良子「分かりました。では、大総統の頭を...こちらに」

 咲「和ちゃん....」

  和の切り離された頭部を悲しげに見た宮永咲は、特殊な溶液に最愛の人の

 頭をいれ、良子に和を託した。

 咲「ラボ12に」

  そう呟いたとたん、竜華と菫、良子の体は一瞬にして消えた。

 霞「ふふっ、これ以上のおイタは見過ごせないわねぇ...」

  後に残ったのは、明確な勝者と敗者。

  即ち、

  日本iPS合衆国副大統領、石戸霞。

  日本iPS合衆国オルフェノク軍総司令、江口セーラ

  日本iPS合衆国首都防衛隊司令、瑞原はやり

  そして、

 小鍛冶「はぁーあ、潜入任務っていうのも楽じゃないよ」

  日本iPS合衆国参謀、小鍛冶健夜
 
  そして、オルフェノク側には立つ者は誰もいない...かに思えた
264 名前:名無し 投稿日:2015/02/12 22:32 ID:Ae4D24cm

 照「ま、待て」

 霞「あら?」

  全身を恐怖に震わせながら、たった一人宮永照が立ち上がった。

 照「お前たちの...がはっ、好きには、させないっ!」

  吹き飛ばされたデルタギアを腰に巻きつけ、照はなんとか変身しようとするも...

 Δ「Error」

 照「きゃぁっ!?」

  オルフェノクの因子を持たない照は、デルタギアに拒絶された。

 照「くっ、な、なら!」

 セーラ「やめといたほうが身のためやで」

  今度はカイザギアに変身コードを打ち込み、照は戦おうとした

 Χ「...」

 照「どうして...どうして、動かないの!!!!!」

  これは照の知りえないことだが、雅人は竜華のオーガストランザーに対抗するために

 カイザに内蔵しているフォトンブラッドをあの拮抗の際に全て使い切ってしまったのだ。

  カイザギアが呪いのベルトと呼ばれようと、変身に必要なフォトンブラッドが尽きていれば

 装着者がいくら返信コードを押そうと、変身することは不可能なのである。

 はやり「ねーねー、かすみん。どうするのさ、これ」

  ファイズギアに弾き飛ばされ、涙を浮かべる照は呆然と立ち尽くすしかなかった。

  
265 名前:名無し 投稿日:2015/02/12 22:38 ID:Ae4D24cm
 健夜「ふへへへ、つ、遂にハギ、ハギヨシさんが....うへへ」

  気持ち悪い深海魚のような笑みを浮かべる健夜。

  しかし、霞は...

 霞「撤退よ、何も手をつけないで撤退するの」

  なんと、あろうことか撤退を全員に言い渡した。

 
266 名前:名無し 投稿日:2015/07/06 23:14 ID:QGkU1QG7
続きはマダカ
267 名前:名無し 投稿日:2015/12/05 18:14 ID:SSsvP6h7
めでけ
268 名前:名無し 投稿日:2016/07/23 00:37 ID:bjfzpFwl
 霞「撤退よ。これは大総統からの直々の勅命」

 セーラ「は?ちょっと待てや、いくらなんでもおかしいやろ」

 健夜「そうだよ~、霞ちゃん先帰っててよ」

 はやり「そうすれば、私と健夜ちゃんで『片付ける』からさ」

  霞の発言に残された三人は倒れふすオルフェノク達を

 見下ろしながら、和の命令が承服できないと霞に詰め寄った。

  霞は三人に対して事情を説明しようという気になった。

  だが、霞は一歩も退くことなく三人の意見をねじ伏せた。

 霞「いい?ここで私達が彼等を殺すと、オルフェノクという

   化物の統制が取れなくなる恐れがあるのよ」

 霞「考えてご覧なさい。私達iPSにとって原村和が神であるように

   オルフェノクにとってはスマートブレインが神なのよ」

 霞「そして、咲ちゃんと大総統が結婚した今、旧人類側の

   象徴である宮永照は、私たちの敵なの」

 霞「旧人類を滅ぼすにしろ、和解するにも彼女とその部下を

   今殺すのは好ましくないの」

 霞「どう?分かった」

  霞の発言にセーラは概ね賛成の意を唱えた。

  しかし、はやりはそれを詭弁と断じ、霞に対し、辛辣な

 言葉を返しはじめた。
269 名前:名無し 投稿日:2016/07/23 00:39 ID:bjfzpFwl
 はやり「はやー。じゃあさ、宮永照を連れ帰っちゃおうよ」

 はやり「どっちにしろ、人間もオルフェノクも私達の手中に
     収めるなら今ほどいい機会はないって思えるんだ」
 はやり「はやり的に、せっかく健夜ちゃんっていうオルフェノクと
     スマートブレイン殺しの切り札が今揃ってるんだよ?」
 はやり「咲ちゃんも姉を裏切ったまま、照ちゃんも妹に
     裏切られたまま、っていうのが寝覚めが悪い」
 はやり「現状で宮永照の戦意を一番削ぐことができるのが...」
 はやり「私たちが彼女と咲ちゃんの話し合いの場を設け」
    ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 はやり「なるべくしてなるように取り計らうことだと思うんだ」
  はやりの意図がわからないものは誰もいなかった。

  宮永照の心の闇と彼女が戦いに身を投じて尚、迷いを
 見せているのが、血を分けた妹と情熱を燃やしあって
 愛し合った菫との決別なのだ。

  はやりの主張は霞と和の決定を充分覆しうる説得力を
 持ち合わせていた。
  合理的ではないにしろ、図らずも和解の機会を自分達で
 潰してきているのだから、今回の一件の落としどころとしては
 充分な成果を挙げられる見込みが一番ある。

  だが、それはあくまでも宮永照が、あの二人と対等な立場で
 あればの話だ。
270 名前:名無し 投稿日:2016/07/23 00:39 ID:bjfzpFwl

 健夜「はやりちゃん、やっぱりそれはぼろが出るんじゃない」

 健夜「確かに話し合いの場を設ければ、咲ちゃんと菫ちゃんと

    宮永照が同じテーブルにつくことは可能だと思うよ?」

 健夜「けどさ、もう菫ちゃん...末期に入ってるじゃない」


  健夜の一言ではやりのうすら笑いにヒビが入った。


 健夜「こっちでもスマートレディを使えば影武者程度は

    完璧にこなせる自負はある」

 健夜「けど、菫ちゃんはもう自分の意志で暴れ狂う

    オルフェノクの破壊衝動を制御できてないじゃない?」

 健夜「咲ちゃんも昔ほど、宮永照に固執してないんじゃないのかな」

 健夜「この前、ピンクハウスに行ったけどさ」

 健夜「原村咲って呼ばれて、まんざらでもない顔してたしね」

  健夜の言葉にはやりは反論することができず、困った顔をした。

 それを見たセーラは霞に裁決を仰ぐ。

 セーラ「決まりやな、二対一で副大総統に従うで」

 セーラ「それじゃあ帰りましょうか、大総統」

  霞は無言で頷きながら、倒れふすオルフェノク達の記憶を

 部分的に抜き取り始めた。
271 名前:名無し 投稿日:2016/07/23 00:40 ID:bjfzpFwl

 咲「霞さん、はやりさん、健夜さん、セーラさん」

  見計らったかのように宮永咲がスマートブレインタワーの

 社長室に出現した。

 咲「竜華さんから和ちゃんの伝言を預かってます」

 咲「全て良し。私のいない間はよろしく頼むと」

 霞「わかったわ」

 霞「それじゃあ、健夜さん」

 健夜「分かった。うまく取りなしておくから」

 健夜「人間解放軍の殲滅戦の指揮も私が取る」

 霞「では、私たちは一足先に戻ります」

 霞(大総統が復活するまで、あと二ヶ月)

 霞(その間に、さて...いくつの国を落とせるかしらね)

    
  一つの計画が佳境を迎え、物語は新たな局面へと

 突入することになる。

  戸惑いながら戦い続けるのは人間もオルフェノクも同じ。

  ただ、こんなにも似通っているのに彼等を隔てる闇は

 未だに晴れることなく、抜け出す道はほとんどない。

  たった一つ、彼らができることは

  戸惑いながらも、前に進み、戦うことのみ...
272 名前:名無し 投稿日:2016/07/23 00:40 ID:bjfzpFwl


 ラボ12にて

 菫「申し訳ない、大総統」

 菫「計画の要でありながら、貴女の身体に傷をつけてしまった」

 和「いえいえ、別に大丈夫ですから」

  空中に待機していたジェットスライガーに乗り込んだ菫さんは

 大急ぎで政府の極秘施設へと移動を始め、私は暫し目を閉じた。

 和「私の強すぎる力に、今までの肉体が耐え切れなくなっていました」

 和「私の身体一つで貴方達が助かったのなら安いものです。ところで」

 和「竜華さんは私の体を例の場所へと持って行ってくれたでしょうか?」

 菫「ええ、先ほど私の通信端末に任務成功と...」

  

 ―――

 ――
273 名前:名無し 投稿日:2016/07/23 00:40 ID:bjfzpFwl
 <京太郎の視点>


 健夜「ハギヨシさん!一体これはどういう事なんですか!」

 ハギヨシ「私ですら、状況を掴みあぐねている所です」

  嵐の様な十二分が過ぎ去った後の社長室はボロボロになっていた。

  怒鳴り散らす小鍛治健夜と苛立ちを隠せずに頭を捻るハギヨシさん。

 ハギヨシ「LEO、澤田君と木村さんは?」

 LEO「裏切りやがった」
 
 LEO「奴等、スマートブレインのセキュリティを無効化しやがった」

  LEOもまた怒りに身を震わせながら、事態の報告を始めた。

  聞き取れた範囲では、あの澤田と木村とかいうオルフェノクが

 スマートブレインを裏切り、政府に寝返ったという話らしい。

 健夜「ああもうっ!どうしてこうなるのかなぁ!」

 健夜「悪いけど、須賀君たちは帰って」

 健夜「iPSのトップが直々に出張ってくるなんて予想外すぎだよ」

 健夜「ハギヨシさん!今からシステムチェックと緊急会議の準備!」

 ハギヨシ「分かりました!」

 健夜「それとLEO君は全国各地のスマートブレインの戦闘部隊を

    関東地方に結集させて!」

 健夜「ここまで虚仮にされたら、報復しかない!」

 健夜「何してるの?!二人とも早く取り掛かりなさい!」

  小さな体を怒りにわなわなとふるわせながら、小鍛治健夜は

 俺達に帰れと手振りで指図した。

  吹き飛ばされ、気を失った木場を助け起こした俺は、草加の後ろで

 ぶるぶると震えている照と智葉に目配せをし、急いでスマート

 ブレインから脱出した。


 ―――

 ――
274 名前:名無し 投稿日:2016/07/23 00:41 ID:bjfzpFwl
 
 帰りの車内にて


 草加「....」

 木場「....」

 京太郎「....」

 照「....」

 智葉「....」

  先程起きた衝撃的なiPS襲撃のショックで誰もが口を閉ざしている。

  ファイズとカイザに変身した俺達ですら、歯が立たなかった。

  ハギヨシさんとLEOのコンビネーションが無ければ、きっと今頃

 照は弘世菫に連れて行かれてしまっただろう。

 草加「しかし、iPS類っていうのは随分としぶといんだな」
 
  ようやく口を開いたのは草加だったが、心なしか純然たる

 実力差を見せつけられて、しおらしくなっていた。

  だが、草加以上に俺もショックを受けていた。

  殺す気で和へと切りかかった。

  アクセルフォームを使って仕留められない程の何かがiPS類に

 あるとは考えたくないが、現にピンクハウスで戒能良子が

 部下の血液を用いて作り出した水の剣と言い、原村和の驚異的な

 生命力は、やはりこれから先、俺達の脅威となって立ちはだかるだろう。
275 名前:名無し 投稿日:2016/07/23 00:41 ID:bjfzpFwl
 草加「体に大穴を開けられてなお平然と佇み、首を切り落とされても
 
    生命活動を完全に停止していなかった」

 草加「上級オルフェノクでさえ、あの二撃を受けたら一たまりもない」

 草加「おい、宮永。お前何か知らないのか?」

  考え込む俺を余所に、草加は照をジロリと睨みつけた。

 照「私がiPS類について知っているのは、世界が変わる前まで」

 照「その時のiPS類達は、あんな超能力なんか使っていなかった」

 照「例え、iPSで一番強いのが居ても、精々が人に毛の生えた位の

   頑丈さ程度の存在だった」

  照の答えに不満げな表情を浮かべた草加は、天を仰いだ。

  そんな草加を見た木場は遠慮がちに自分の意見を述べ始めた。

 木場「あのさ、智葉さん」

 智葉「ん?なんだ」

 木場「もしかして、スマートブレインの誰かが政府の誰かに
 
    手を貸しているという可能性はないのかな?」

 智葉「続けてくれ、少し私にも思い当たる節がる」

  そして木場は俺達に自分の仮説を話しはじめた。    
 
 木場「俺が日本を放浪していた時、スマートブレインの社長は

    村上峡児って三十代の男だった」

 木場「そのことはここにいる全員は知ってるよね?」

  木場の確認に草加と照が相槌を打つ。
276 名前:名無し 投稿日:2016/07/23 00:42 ID:bjfzpFwl
 草加「ああ、だがソイツは半年以上前、社長を依願退職した」

 草加「亦野が調べ上げられる範囲で調べた所、前社長との確執が

    原因でスマートブレインが瓦解まで追い込まれたらしい」

 照「亦野の報告の正確さはここにいる誰もが知っている」

 照「問題は、草加さんの言ったその確執の内容」

  そうなのだ。

  オルフェノクにとっての砦であるスマートブレイン程の会社が

 社長同士の確執程度で瓦解寸前まで追い込まれたのはおかしい。

  確かに、二年程前に日本で最後までiPSに抵抗していた龍門渕

 グループがスマートブレインの強引な買収により、その傘下に

 収められたことは日本国民の記憶に新しい。

 草加「で?君が言いたいことはスマートブレインがiPS類と

    グルになって俺達を罠に嵌めるってことなのかな?」

 木場「いや、それはないと思う」

 木場「iPS類とオルフェノクの関係って言うのは国とマフィアに似てる」

 木場「オルフェノクは個人や会社に圧力をかける事ができるけど、

    国や軍隊に真っ向から勝負を挑まない」

 木場「これはもしもの話だけど、オルフェノクがiPS類と同じ土俵に

    立てたとするなら?皆は一体どうする?」

 京太郎「その『切り札』をチラつかせ、権力の座から引き下ろす」
277 名前:名無し 投稿日:2016/07/23 00:42 ID:bjfzpFwl
  木場の質問の意図に誰もがハッ、と息を呑んだ。

  オルフェノクは人間の急激な進化の形だと、木場は以前俺に話した。

  そしてその急激な進化のせいで身体が灰化し、最後には一気に

 灰となって崩れ去る。

  しかし、その急激な進化に順応できる細胞が僅かな期間であれ

 オルフェノクにも存在したら、果たしてどうなるのか?

 

 草加「まさか、iPS細胞がオルフェノク化と密接にかかわっていて、

    何らかの影響を与えているのか?」

 木場「うん。多分そうだと思う」

 木場「スパイダーマンって知ってるよね」

 木場「主人公のピーター・パーカーは、遺伝子を組み換えられた

    スーパー・スパイダーに噛まれた事によって蜘蛛の力を得た」

 木場「人間のオルフェノク化のメカニズムは解明されていないけど」

 木場「スーパー・スパイダーに噛まれたのと同じようなDNAの

    組み換えが人体で自動的に行われたって俺は考えている」

 京太郎「じゃあ、オルフェノクが人間から馬になったりするのは?」

 木場「多分、DNAの中にそういう因子が混じっていて、死んだ後に

    その因子が俺達に強く働きかけて、オルフェノクを作り出す」

 木場「多分、その因子が人間のDNAを破壊するような癌細胞だったり、

    進化の過程で生じる適応の途中なのかは分からないけど」
278 名前:名無し 投稿日:2016/07/23 00:43 ID:bjfzpFwl
  木場の仮説は恐らく正解だろう。だが、まだ何かが決定的に足りない

  小鍛治健夜もあの時、俺達二人を庇う時に念動力を使った。

  木場の仮説に基づけば、和の化け物じみた不死身の正体が

 おのずと判明する。

 智葉「木場、話の腰を追って悪いんだが『青い薔薇』って

    知ってるか?」

 木場「青い薔薇?」

 智葉「実はな、言いそびれたことがあって...」

  ここでようやく智葉が自分の話を切り出した。

 智葉「透華はスマートブレインに囚われている」

 智葉「彼女が私と照に合流したのはハギヨシさんが死ぬ

    半年前、まだ村上が社長だった頃だった」

 智葉「私達と合流する前、透華はハギヨシと一緒に政府の

    コンピューターにハッキングを仕掛けた」

 智葉「それで運良く水原の正体、及び照の処遇について書かれた

    書類を見つけたんだ」

 照「私はどういう風にしろって?」

 智葉「松実玄の後釜、日本iPS合衆国大統領に就任させると言っていた」

  奴等、相変わらずえげつないことを考えやがる。

 智葉「解放軍の幹部達は、恐らく全員がiPS類の手先だ」

 智葉「そして透華が口にした青い薔薇」

 智葉「政府はおそらくオルフェノクの使徒再生のメカニズムを

    完全に理解して、実用化に踏み切ったんだ」
279 名前:名無し 投稿日:2016/07/23 00:43 ID:bjfzpFwl

 草加「何てことだ...じゃあ」

 智葉「ああ、恐らく近いうちに解放軍は必ず襲撃を受ける」

 智葉「そうだな、私はお前達と一緒にいなかったから分からないが、

    スマートブレインと共同任務に出た直後とかに

    政府軍は急襲を掛けるんじゃないのか?」

 京太郎「有り得る話だな」

  となると、事態はかなり予断を許さない状況になってくる。

  政府の連中は俺達の思っている以上に、オルフェノク化の

 メカニズムを完璧に理解し、実用化している。

  スマートブレインもオルフェノクに関する研究の大半を政府に

 引き渡したがために、後手後手に回ってしまっているが、

組織としての質の高さでは政府に勝っている。

 京太郎「あと少しで、俺達のアジトに到着する」

  高速を降りて、アジトから3㎞離れた場所でスマートブレインの

 運転手は俺達を下ろした。
280 名前:名無し 投稿日:2016/07/23 00:45 ID:bjfzpFwl

 京太郎「これから俺達がするべきことは、幹部達のいない機を

     見計らってこのメンバーだけで話し合おう」

 京太郎「木場、このことは絶対に誰にも言うなよ」

 木場「分かった。けど、大星さんと愛宕さんはどうする?」

 照「私があの二人を説得しておくから大丈夫」

 照「多分、これから私と智葉の監視が強くなると思うから

   私の代わりに亦野が皆と一緒に行動すると思う」

 照「私と智葉は幹部達を見張ることにする」

 草加「ドジを踏むなよ」

 草加「もし木場や辻垣内の言う通りだとすれば『青い薔薇』は

    触れただけで人間を死に至らしめる究極の毒だ」

 草加「絶対に一人になるな」

 草加「スマートブレインからまた連絡が入るまでは、徹底して

    この方針を守るぞ」

 草加「いいな?」

 全員「わかった」

 
  朧げながらもようやく掴んだ敵の力の正体、

  そして、いつ俺達に牙を剥くか分からない水原の部下たち。

  解放軍に帰った後も、俺達にはやることが沢山ある。

  取り敢えず、今日の一番の課題はいかに解放軍の幹部達に

 水原の死を上手く説明するかということになりそうだ。

  長い夜になりそうだ...。
281 名前:名無し 投稿日:2016/07/23 00:45 ID:bjfzpFwl
 解放軍のアジトにて

 幹部A「嘘をつくな!お前たちが水原さんを殺したんだろ!」

 草加「ああ、半分程はあっているがな」

  俺たちがスマートブレインから帰ってきたのが午後八時。
 
  そして照と智葉が解放軍の幹部達に緊急招集を掛けてから

 既に二時間半が経過していた。

  集められた幹部達は、水原の姿が見えないことに対して

 不審も露に俺たちを睨み付けていたが、まがりなりにも解放軍の

 中心的存在だった水原がいなくなったことに殆ど動揺していない。

  おそらく、こちらの出方を既に予測していたのだろう。

  限りなく黒に近いグレーだ。   

 草加「奴は恥知らずなことに、政府に寝返り、あまつさえ

    重要な戦力であるライダーズギアを持ち逃げした」

 草加「だが、俺達とスマートブレインが水原を見つけた時、

    そこには奴の灰に塗れたカイザギアがあった」
282 名前:名無し 投稿日:2016/07/23 00:46 ID:bjfzpFwl

 幹部A「お前ッ...!」

 幹部B「じゃあ水原さんが生きているって証拠はあるのか?」

 幹部E「水原さんは先陣を切ってオルフェノクとiPS類との

     戦いに臨んでいた」

 幹部A「その水原さんが俺達を見捨てて一人で逃げ出すなんて

     到底考えられない」   

  照が話したことを二度も三度も繰り返し説明させられた

 草加の虫の居所は最高に悪かった。

  このままだと自制の聞かなくなった草加が余計なことまで

 口に出すと考えた俺は木場とアイコンタクトを取り、
 
 草加と交代することに決めた。

 幹部U「あーあ、お前たちは救世主でもなんでもねぇよ」
 
 幹部U「単なる疫病神そのものだ」

  草加と同僚の会話をさえぎるように口を開いたのは、

 水原の副官でありサブリーダー的な幹部だった。
283 名前:名無し 投稿日:2016/07/23 00:47 ID:bjfzpFwl
 幹部U「アンタだよ、宮永照」

 幹部U「お前とその仲間のせいで、解放軍の秩序が乱れた」

 照「秩序が乱れた分、貴方達の私腹は肥えたはず」

 幹部U「仮にそうだとしても、マイナス分がはるかに多い」

 幹部U「穴の開いた袋に沢山の物資を詰め込んでも、そこから

     ボロボロ物がこぼれりゃまったく意味ねえし」

  普段なら言わない照の相手の神経を逆なでする発言は

 解放軍の幹部達と俺たちの間に亀裂を生んだ。

  妹の裏切り、利用関係とはいえ今まで自分達を襲ってきた

 オルフェノクとの同盟の盟主。そして今、政府との密通者を

 あぶりださなければならない重責に晒されている。

  ボロボロの精神に鞭を打ち、気丈に振舞っているものの

 照に掛かっているストレスは相当のものだ。

  彼女の持ち味の冷静さがここにきて剥がれかけている。
284 名前:名無し 投稿日:2016/07/23 00:49 ID:bjfzpFwl
亦野「お言葉ですが、そういう言い方はないと思います!」

 亦野「スマートブレインに宮永総裁や智葉さん、草加さん以外に

    同行を願い出た幹部の方は誰もいないはずです」

 亦野「貴方方の利害の一致不一致でスマートブレインとの

    同盟を結んだ総裁の判断にケチをつけるのはいささか

    無責任ではありませんか?」

  机を思い切り叩き、勢いよく自分の主張を話した

 亦野のお陰で幹部達は 一様に苦い表情を浮かべながらも、

 自分達の不満矛先を照から逸らした。  

 亦野「いいですか?」

 亦野「宮永照や草加雅人、そしてその取り巻きが大嫌いな

    人達でも耳の穴をかっぽじってよく聞いてください」

 亦野「今現在私達がここを根城にして、オルフェノクやiPSに

    襲われたことは数え切れないほどありますよね?」

 亦野「暴動の真似事をしてiPSやオルフェノクのいる建物に

    放火や爆発物を仕掛けては逃げ、報復を受ける」

 亦野「そんな事を続けて、私達が生き延びる機会が本当に
 
    あるとお思いですか?」

 亦野「仲間家族が敵になる世界なんですよ?」

  亦野誠子。宮永照付のSPであり旧まないた党の懐刀。

  ここに来て日が浅い俺でも、彼女が切れ者であることは

 一発で理解できた。

  現実を理解しいかなる時も任務遂行の為、柔軟で中立的な

 思考をしている彼女が、オルフェノクやiPS政府の情報を

 かき集めているからこそ、今日の解放軍は成り立っている。

 その証拠にあれだけ草加と照に対してわめき散らした

 幹部達が渋々ながらも亦野の発言に耳を素直に傾けている。
285 名前:名無し 投稿日:2016/07/23 00:50 ID:bjfzpFwl

 亦野「幹部Dさんは警察学校の教官だった」

 亦野「水原さんは警備会社のチーフだった」

 亦野「今まで死んでいってしまった幹部や兵士の方々も

    それぞれの人生があったじゃないですか!!」

 亦野「ここにいる全員がかけがえのないものを失い、涙を

    流してきました」

 亦野「だから、そうした人達が立ち上がって人類解放軍を

    結成したはずです」
 
 亦野「ですが、水原さんも死んでいった仲間達も死の際には

   何もそんなことを気に掛けず、まるで生き急ぐかのように

   死んでしまいました」

 亦野「今必要なのはいったい何なんですか?!」

 亦野「何か大切に思える『希望』が欲しかったからこそ」

 亦野「皆さんは宮永総裁や智葉さん、草加さんを諸手を

    挙げて迎え入れ今日という一日の大切さを噛み締めて

    生きてきた筈です!!」
  
  

  彼女の一言に幹部達は何も言えず、押し黙ってしまった。

286 名前:名無し 投稿日:2016/07/23 00:52 ID:bjfzpFwl

  草加みたいに性格や生い立ちがアレな奴ならともかく、

 世界がiPSの手に落ちるまでは、宮永照が奴らとの戦いの

 第一線に立って戦っていたということを知っていたからこそ、

 解放軍の幹部達は何の力も持たない非力なジャンヌダルクを

 迎え入れたのだ。


 亦野「iPSと戦ったらここにいる全員が死ぬかもしれません」

 亦野「だけど、今まで私達が戦ってきた二大勢力の内の

     オルフェノクがiPS類に対して牙を剥いたんです」
 
 亦野「この機に乗じて、私達が、人間が確かに今を

    生きている証を世界に刻み付けず、一体、誰が、

    いつ人類を開放するって言うんですかーッ!」 

  絶叫。

  沈黙。

 幹部V「じゃあ」

 幹部V「俺達はこいつ等を信用しなけりゃならないのか?」

 亦野「信用したくなければ、しなくてもいいのです」

 亦野「ただ、これからiPS合衆国政府と戦う彼らが」

 亦野「私達に齎す光を、」

 亦野「光を見失わなければ...きっと奇跡は起こせます」

  亦野の言葉は、俺の心に勇気をくれた。

  こんな状況下、明日への展望が分からない中、ひたすらに

 俺達を信じてくれている人間がいるのがこんなにも嬉しいとは

 想像だにしていなかった。

 幹部U「はぁ...亦野にはかなわねぇなぁ」

  亦野の渾身の説得により、頑なに心を閉じていた解放軍の

 幹部達が一様に俺達を見てきた。

  その眼差しには、未だに根強く猜疑が残っていたものの、

 もう一度俺たちに賭けてみようという気持ちがあった。 
287 名前:名無し 投稿日:2016/07/23 00:54 ID:bjfzpFwl

 幹部U「分かったよ...俺達は宮永照に従えばいいんだな?」 

 亦野「その言葉に偽りはありませんか?」

 幹部B「俺達は、まだ宮永照を信用したわけじゃない」


 幹部B「亦野誠子の口から語られた、あの熱情にほだされて

     もう一度、誰かを信じてみようと思っただけだ」

 幹部F「それを踏まえてもう一度聞くぞ、亦野」

 幹部全員「俺達は、信じていいんだな?」

 亦野「はい」

 その瞬間、名実ともに宮永照が解放軍の新リーダーへと
決まった。

 幹部U「宮永総裁サマよぉ」

 幹部U「俺達を押しのけてリーダー張るんだったら」

 幹部U「ここにいる何の力もない奴等を守ってやれよ」

 幹部U「流石に捨て駒にされるのは勘弁だが」

 幹部U「俺達のやることは変わらない」

 幹部U「きちんと俺達を使ってくれよ?」

 そう言った幹部Uは席を立ち、部屋から出て行った。

 それに習い、他の幹部たちも照に期待の言葉を一言ずつ
 掛けてから部屋を出て行った。
288 名前:名無し 投稿日:2016/07/23 00:55 ID:bjfzpFwl
照「亦野...本当になんていったらいいのかわからない...」

照「怖かった...怖かった...」

亦野「宮永先輩、今日はもう休んでください」

 しゃくりあげながら、亦野の胸で泣きじゃくる照の背中を

 智葉が優しく撫で、木場も照れくさそうに微笑んでいた。

 亦野「スマートブレインから連絡が来るまで休み、

    心を整理して、そこから再び始めましょう」

  亦野の言葉に頷いた俺達は、このめそめそと泣き続ける

 解放軍の新リーダーに一言ずつ言葉を掛けていった。

 京太郎「その通りだ」

 草加「懸念もあるが、取り敢えず、今はお前が名実共に

    旧人類の希望の象徴だ」
 
京太郎「金もない、武器もない、食い物もない」

 智葉「だけど、希望はまだ尽きてはいない」

 木場「それだけで、俺たちは戦える」

 木場「戦うことができるんだ」

  俺の言葉を草加が引き継ぎ、その次に智葉、そして木場が

 綺麗に締めくくった。

  何も言わずに各々の言葉が一つのメッセージになった事に

 俺達は一様に心が通じ合ったことを感じていた。 

 草加「フンッ」

 草加「フッ」

 京太郎「はぁ、やれやれ...」

 智葉「いい笑顔じゃないか、草加」

 木場「違うよ、皆がすごくいい笑顔を浮かべてるんだよ」

 草加の照れ隠しをからかう智葉に木場がフォローを入れる。

  照はそんな俺達のやり取りを見ながら、泣き笑いの表情を
 浮かべていた。

 京太郎「もう、十二時か...」

  腕時計に目をやると、後一時間ほどで今日が終わるところだった。
289 名前:名無し 投稿日:2016/07/23 00:57 ID:bjfzpFwl

 <決意>


 照「ありがとう。みんな」

 照「頑張るから...。私、頑張るから」

  満面の笑みを浮かべた照は、前に進むことを決意した。

 草加「さてと、俺は疲れたから先に失礼しようかな」
 
 草加「といいたいところだが...」

  怪訝に思う俺達を尻目に草加はホールの床を空けなにやら

 袋に包まれた物を取り出してきた。
 
 草加「新リーダーの就任祝いがただの激励だけじゃ

    物足りないだろう?」

 草加「解放軍の幹部連中の目を盗むのは大変だったが...」

  草加が包みから取り出したのは一本の白ワインだった。

 智葉「草加にしちゃ、随分と小粋なことをするじゃないか」

 草加「俺がここに来た時、水原の部屋に隠されてた一本だ」

 草加「安物だが、誰か飲みたい奴はいるか」

 京太郎「そういえば、グラスは...済まない、野暮だったな」

 草加「早くしろ、折角冷えてるのにぬるくなるだろうが」

 照「おっ、紙コップの入ってる袋発見」 

 コルクを栓抜きで抜いている草加を全員が固唾を飲んで見守っている。

 手慣れた手つきでワインを均等に紙コップへ注ぐその手順があまりにも

 普段の草加と異なっているのが、なにかとても奇妙な事のように思えた。 
290 名前:名無し 投稿日:2016/07/23 00:59 ID:bjfzpFwl

 木場「なんかさ、こうしていると楽しいよね」 

 照「そうだね」

 照「子供の時、秘密基地で悪いことをしてる自分に酔う?」

 照「そんな感じかな」

 草加「実際、俺達も色々な悪事に手を染めているんだがね」  

  かすかに笑う草加を見ながら、俺は昔を思い出していた。

 ケラケラと笑いながら素直に自分の本音を言い合えたあの幸せだった日々。

  ずっと続いていくと思った幸せは、俺達の手のひらから滑り落ちていった。

  咲がいて、和と優希、そして染谷先輩と部長。

 木場「京太郎君?」 

  掛けられた声に気がついた時、俺は紙コップの中に涙を
 こぼしていた。

 京太郎「お前達を見てたら、昔を思い出しちまった...」

  一瞬の間だが、清澄にいたときの自分を思い出していた。

  あの時がおそらく俺の人生で最も幸せだった時期だろう。

  一息に飲み干した安酒は、絡みつくような甘さと擂り潰され

 大切な何かをなにも思い出せなくなった自分の味がした。

 草加「なに格好つけているんだ?馬鹿どもが」

 智葉「その割にはお前が一番上等こいているじゃないか」

 智葉「安酒だが、誰か飲むか?」

 智葉「嫌われ者の自称救世主サマも随分イタいぞ?」

  その瞬間耐えきれなくなった照と木場が盛大に笑い始めた。

 草加「そうかそうか、お前らそういう奴だったんだな」

 京太郎「ハハハ、図星突かれてやんの」

 照「早くしろ、折角冷えてるのにぬるくなるだろうが」

 木場「実際、俺達も色々な悪事に手を染めているんだがね」

  調子に乗った俺達をあきれた目で見た草加は意外なことに、

 全員の空になったコップに残りのワインを注ぎ始めた。
291 名前:名無し 投稿日:2016/07/23 01:00 ID:bjfzpFwl

 草加「はぁ、お前らを相手にしていると本当に退屈しないな」

 草加「どいつもこいつも阿呆と馬鹿ばかりでなにも分かっちゃいない」

 智葉「そうだな。私達もお前のことを嫌な奴だとしか思えなかった」

 智葉「でもさ、お前」

 智葉「変わったよ」

 照「今の草加さんは前に比べて子供のような感じで笑ってる」

  照と智葉の眼差に背を向けた草加の姿は、確かに三人の間に 
 温かな絆が結ばれていた証の証明だった。
 
 木場「よし、じゃあこの際だ」

 木場「夜も遅いけど本音を皆で言おうよ」

 木場「俺達がこれから何を考えて、どうしたいのか?」

 木場「色々あるけど、俺は皆のことを信じたい」

  木場の言葉に草加を除く全員が頷いた。

  照に小突かれた草加も、渋々ながらその提案に同意した。

 京太郎「そうだな」

 京太郎「じゃあ最初はリーダーから行くのが当然だよな」

 照「えっ、私?」

 とぼけながら智葉に順番を譲ろうとした照を草加がネチネチとした視線で窘めた。

  気恥ずかしさからもじもじしていた照が口を開いたのは五分後だった。
 
292 名前:名無し 投稿日:2016/07/23 01:02 ID:bjfzpFwl
 照「私は、私たちは必ずこの国を変えてみせる」

 照「皆のことを私は心から信用しているし、裏切られても

   絶対に責めたりはしない」

 照「だからこの五人で絶対に」

 照「何があっても最後まで戦い抜こう」

  照の言葉は『信』に重きを置いていた。

  誰かを信じるのはとても勇気がいる行為だ。
 
信じた人間を失い続け、裏切られ続けられた照にとって、

それはなによりも重んじなければならない重要なことだ。
 
  眼差しに強い光を宿した照は、次に智葉へと瓶を渡した。

 智葉「そうだな、私は照のことが好きだ」

 智葉「ポンコツで間が抜けているけど、私たちを束ねるのに

    コイツは相応しいリーダーだ」

 智葉「だから、私はその日が来るまでコイツをどんな敵からも守る」

 智葉「コイツを助けて、最後まで戦うさ」

 智葉「照の意志が私の意思、私は照とお前たちのために戦う」

  正々堂々と自分の気持ちを臆すことなく打ち明けた智葉。

  おそらく今の彼女はiPS類達と本質的には殆ど同じだろう。

  だが彼女が奴等と決定的に違うのはその思いの質と深さだ。

  体を重ね、互いの想いを確認するのも愛の一つだろう。

  しかし日本を支配するiPS達やおもちカースト恭順者達が、

 手元に置き、その好意を向けた対象に抱いている感情は、

 愛ではなく欲望に過ぎないのだ。

  言葉で思いを伝え、形にして確かめ合うのが恋。

  だけど、本当の愛の姿すら分からない俺達にはそれが

 果たしてどちらなのか分からない。

  だからこそ、今の智葉の発言は何よりも重いのだ。

 智葉「さぁ、次は木場。お前だ」

  
293 名前:名無し 投稿日:2016/07/23 01:04 ID:bjfzpFwl

 木場「俺は...オルフェノクと人間が共存する未来を作りたい」    

 木場「オルフェノクは怪物で、化け物かもしれない」

 木場「だけど、化け物になってもちゃんと人の心はある!

    自分の未来を決めるための手足だってちゃんとある」

 木場「だから俺は戦いたい。未来のために」

  木場は言わずもがな、『夢』に重きを置いていた。

  先程の智葉と同じ様に、木場も自分の気持ちに迷いが

 生じていて、それを振り切ることができず、迷っている。

  人間の視点から見れば、草加のしていることは絶対とは

 いえないが、正義に殉じているのだ。

  事実を俯瞰している第三者の物の見方が特別なだけで、
 
 人間にとって草加雅人は頼もしい味方であり、仲間を殺された

 オルフェノクの視点から見れば、カイザは悪なのだ。

  今の木場のものの見方は、彼自身の生来の生真面目さと

 何の意味もなく殺されていったオルフェノクの無念、そして

 自己否定からくる後ろ向きでネガティブな考えが一緒くたに

 ごちゃごちゃと入り混じった複雑なものだ。
294 名前:名無し 投稿日:2016/07/23 01:06 ID:bjfzpFwl

  オルフェノクが人を襲わない世界。

  人がオルフェノクを殺さない世界。

  木場の理想が叶う時が来るとしたら、それは一方が

 もう一方に敗れ、全滅するときだろう。

  だが、木場が望んでいるのはそんな未来ではない。

  第三の選択肢である、流血を伴わない最も難しい
 平和的解決なのだ。

  その実現は難しいと思う。

  途方もない大業を成し遂げるための意思の強さが
 
 木場勇治にあるかと問われればここにいる全員がNOと

 答えるだろう。

  だけど、スマートブレインとの協力関係ができた今、

 彼にも 自分の夢が絵空事ではないと思える希望が生まれた。

 俺に出来る事があるとすれば、木場が自分を見失なった時、

 助けの手を差し伸べることくらいだ。

 

  
295 名前:名無し 投稿日:2016/07/23 01:10 ID:bjfzpFwl
木場「次は京太郎君だね」

 京太郎「ああ」

 京太郎「俺の目的は、現政府の打倒だ」

 京太郎「照のようにこの国の未来を真剣に憂いているわけでもない」

 京太郎「草加の様に目的の為に突き進んでいる訳じゃない」

 京太郎「だから俺は、俺自身が前に進む為に...」

 京太郎「原村和と決着をつける」

  俺の決意は木場や照、智葉とは異なった考えではある。

  復讐の為に力を使った人間の結末には破滅しか訪れない。

  だが、俺はその『破滅』という形で自分の人生を終わらせようと思う。

  俺は原村和のことが好きだった。

  宮永咲は俺のことを好きだった。


  俺と敵対するあの二人が、昔も今も俺に対して抱いている

 気持ちが果たしてどういうものなのか、知るすべはない。

  だけど、知ったところで過去に戻ることは出来ない。

  だから俺は未練を自分の胸の中に秘め、俺を信じてくれる

 仲間の為にファイズとしてiPS類との戦いを始めようと思う。
296 名前:名無し 投稿日:2016/07/23 01:11 ID:bjfzpFwl
 草加「ようやく俺の番が回ってきたな」

  草加は退屈そうな口調で、瓶に残った 中身を飲み干し、

 真剣な表情で語り始めた。

 草加「俺は、オルフェノクを撲滅する」

 草加「人間解放軍はそのための手段だ」

 草加「ただ自分の仲間を増やすためだけに人を襲い、殺害する

    存在はこの世界に必要ない」

 草加「復讐が俺の戦う動機だ」

  そして草加の戦う理由は相変わらずぶれることが無い。
  
  ここにいる誰もが草加の過去を何一つとして知らない。

  それは、俺たちが踏み入ってはならない領域だからだ。

  俺と違い、草加のオルフェノクに対するスタンスは
  
 とても明確ではっきりとしている。

  事実オルフェノクの外見も行動も怪物そのものであり、

 木場のような人間性を喪失していないオルフェノクがとても

 貴重でマイノリティなだけの話だ。

  何もない一般人から見れば、ファイズよりもカイザの方が

 余程明確な大義も正義も兼ね備えている。
297 名前:名無し 投稿日:2016/07/23 01:14 ID:bjfzpFwl

 草加「俺は死ぬのは御免だが、死ぬよりも悲惨な環境で
   
    生きるのはさらに御免だ」

 草加「正直な話、俺は真理と自分の敵さえ取れれば世界が

    どうなろうと知ったことじゃない」
 
 草加「だが、それ以上に真理に起きた悲劇と同じ目に遭う

    子供たちを一人でも減らしたい気持ちは確かにある」
 

 草加「だから、オルフェノクを撲滅させるより先にiPS類を

    片付けなければならない」

 草加「奴らを野放しし続ければ、第三次世界大戦が起き、

    人類の半分以上は確実に死ぬだろう」

 草加「スマートブレインと政府にある帝王のベルト」

 草加「そして人類には三本のベルトが残された」

 草加「現状でiPS類とオルフェノクに対抗できるのは俺たちだけだ」

 
 草加「ここにはオルフェノクでありながら人の皮を被った化け物がいる」

 草加「お飾りで頼りないリーダーとその腰巾着もいる」
    

 
  

 草加「だが、そんな奴らと一緒に俺は戦うことにした」

 

298 名前:名無し 投稿日:2016/07/23 01:15 ID:bjfzpFwl
照「草加さん...」

智葉「草加...」

木場「草加君...」

  この場にいる全員がありえないものを見るような表情で

 草加雅人を見つめた。

  自分勝手に動き時には命令違反まで犯してオルフェノクに

 憎悪をむき出し、滅ぼす事を優先してきたあの草加が自分の
 
 節を曲げたことに誰もが絶句した。

 草加「勘違いするなよ」

 草加「俺は真理の敵を討ったら独自に動かせてもらう」

 草加「それまではお前達と一緒に行動する」

 草加「ただそれだけの話だ」

  いつもと全く同じ口調にもかかわらず、草加の発言を聞いて

 気を悪くする奴はこの場にはいなかった。

  流石に普段と異なる反応をされた草加は、バツが悪そうに

 鼻の頭を掻き、ボソボソと付け加え始めた。

 草加「敵は甘くなかったしな,,,」

  珍しく弱音を吐いた草加。

  そんな彼を見た俺達は、大分心が軽くなった気がした。
299 名前:名無し 投稿日:2016/07/23 01:16 ID:bjfzpFwl
 照「なんだか私たち、友達みたいだね」

  涙ぐみ、泣き笑いの表情を浮かべた照の言葉に、思わず

 俺と木場は胸にこみ上げる熱いものを抑えきれなかった。

 木場「ぐすっ、そ..そうだね」

 木場「俺、俺,,,その言葉、本当に信じていいかな?」

  涙と鼻水を垂らしながら、木場は照の胸に顔をうずめた。

 智葉「何言ってるんだよ、勇治」

 智葉「嬉しいのはこっちもだよ。バカヤロウ!」

  バシバシと木場の背中を叩いた智葉も今までのクールさが

 嘘のように声を上げて泣き出し始めた。

  ただ、草加だけが冷めた視線でそのやりとりを見つめていた

 草加「お熱い青春ドラマのワンシーンを見せられる身にもなれよ」 

  付き合ってられないな、と吐き捨てた草加は肩をすくめ、

 背中を向けてこの場から立ち去ろうとした。

 京太郎「草加、お前もっと素直になれよ」

  その瞬間、草加の足がピタッと止まった。
300 名前:名無し 投稿日:2016/07/23 01:17 ID:bjfzpFwl
木場「そうだよ草加君。俺たちは...仲間なんだからさ」

  ゴシゴシと涙をワイシャツの裾で拭いながら、木場が笑う。

 智葉「ああ、だから私は遠慮することなくお前のことを信用するぞ」

 智葉「それが友達、それが仲間なんだからな?なぁ、草加」

 草加「何を言っているのか、さっぱり意味不明だな」

 草加「いきなりそんなことを...いわれても」

  予想外の出来事に面食らった草加だったが、数秒迷った末に

 観念したように俺たちの輪の中に加わることにしたようだ。

 照「なぁんだ、草加さんって案外純粋なんだね」

  どうやら、照は酔っているみたいだ。

  フラフラとおぼつかない足取りで、ニヤニヤと笑いながら

 あの草加の肩に手を起き、馴れ馴れしく頭を撫でているのだ。

  照の迂闊な発言よりも、目ん玉をひん剥いた草加の表情が

 余りにも面白すぎた為、俺たちは一斉に吹き出してしまった。

 京太郎「ブハッ!?」

 木場「て、照ちゃん!早く逃げるんだ!」

 智葉「アハハハハ!こりゃ傑作だ」

  照の放った余計な一言で、珍しく心から素直になりかけた

 草加がいつもの人を見下したような仏頂面に戻ってしまった。
301 名前:名無し 投稿日:2016/07/23 01:18 ID:bjfzpFwl
草加「宮永ァ...お前、死にたいんだってなぁ」

照「ち、違う。今のは草加さんのお酒のせい」

草加「よくないなぁ、そういう嘘は...」

 慌てて草加から離れようとした照だったが,,,

 馬鹿にされた事を根に持つ草加に数秒で捕まってしまった。

 照「お願い、だからっい、痛いのはやめてっ?!」

  手加減なしの全力のヘッドロックをかます草加。
  
 照「イダダダダダ!」

 照「やめてストップ!拳骨で頭グリグリしないで!」

 照「助けて!京太郎、智葉、勇治君!」

  滅多に見ることのできない珍しい光景を収めるべく、俺は

 ファイズショットを取り出し、この珍しいツーショットを

 撮影することにした。

 京太郎「いいぞ~、もっとやれやれ!」

 木場「照ちゃん頑張れ!ほら、智葉さんも」

  悪乗りした木場も草加を煽り始めた。

 智葉「もういいだろ草加!ほら、お前らも笑ってないで」

  俺と木場は笑いながら草加を煽ったが、智葉の鋭い一瞥で

 しょうがなく草加に捕まった照を助け出したのだった...

302 名前:名無し 投稿日:2016/07/23 01:19 ID:bjfzpFwl

  
  ひとしきり笑いあったあと、俺たちは円陣を組んだ。

 京太郎「さて、それじゃあ」

 その一言と共に、草加は照の肩に右手を回し、左腕を前に突き出した。

 俺たちも草加に習い、同じように前に突き出した。

 照「仲間に裏切られても、何度でも手を差し伸べることができるように」

 智葉「私は、最後まで宮永照を守り抜く!」

 木場「俺達の叶えたい夢の為に!」

 京太郎「和と咲と俺の関係に決着をつける為に!」

 草加「人が人らしく生きられる世界の為に!」

 互いの決意と夢を共有した俺達は拳を重ね、付き合わせた。

 照「私達は誰一人死ぬ事無く、この戦いを戦い抜く!」

 全員「全員死ぬな!戦いぬけ!そして生きろ」

 草加「未来の為に!」

  こうして俺は生まれて初めて、心が通じた仲間に出会うことが出来た。

  たとえ、この先悲惨な目に遭おうと、今日このときに交わした誓いを

 忘れることはきっとないだろう。

  だから...俺もそろそろ前に歩き出そう。


 
303 名前:名無し 投稿日:2016/07/23 01:20 ID:bjfzpFwl
 草加の視点

 
 
  宮永がリーダーに就任した後、スマートブレインから

 俺に一本の電話が入ってきた。

  電話の主は、須賀の旧知の仲であるハギヨシと、あの帝王の

 ベルトの持ち主であるLEOというオルフェノクだった。

  ハギヨシと名乗る執事は内密の用件とだけ一方的に告げ、

 電話を切った。

  このことをあの四人に伝えようかどうか迷ったものの、

 再びiPSのはびこる大都会へと行くのは危険だと判断した。

 
  幸い、亦野が新宿に出向く用があると聞いていたため、

 彼女に同行する形で、俺はこの二日間スマートブレインの

 連中と顔突き合わせ、この二日間俺と奴等は粛々とある計画を

 進めていたのだった。

304 名前:名無し 投稿日:2016/07/23 01:21 ID:bjfzpFwl
種子島ロケット発射場

 
 セーラ「日本IPS合衆国オルフェノク軍総司令江口セーラ」

 セーラ「只今を持ちまして、この種子島宇宙センターの

     総司令の任に就きます」

 赤坂「うん。ご苦労様~」

 赤坂「セーラちゃんはともかくとして...」

 姉帯「日本IPS合衆国軍混成特殊部隊准佐、姉帯豊音です」

 姉帯「江口隊長と同じく、この種子島宇宙センターの

    護衛任務に只今を持ちまして着任しました」

 赤坂「ん~、まぁアンタ等のことやから無駄なことを

    一々説明せんでも分かってると思うけど...」

 赤坂「ここはな、オーガとライオトルーパーの変身システムを

    司っている宇宙衛星の統制管理をしている基地やねん」

 赤坂「人間解放軍の宮永照とスマートブレインが手を組んだら、

    真っ先にここを潰すッちゅう程にここは重要な場所や」

 赤坂「原村首相の計画の要がここに詰まってるといっても過言やない」

 赤坂「それで二人にとその部下達、3400人にはこの基地の

    守りを任せたいんや」

 赤坂「ここまではOKやな?」

 姉帯「はい、ですが...」

 セーラ「赤坂委員長、スマートブレインは本当にその...」
305 名前:名無し 投稿日:2016/07/23 01:23 ID:bjfzpFwl
 赤坂「うん?政府を裏切るかって?」

 赤坂「まぁそれは本人達がここに来たときにしか分からん」

 赤坂「原村首相が弘世さん達諸々と、スマートブレインに

    カチコミかけたんは知ってるやろ?」

 姉帯「まさか、小鍛冶健夜がその報復に来ると?」

 赤坂「うん。オリジナルのオルフェノク達が、東京に続々と

    集結してるんや」

 セーラ「...フェイクでしょうか?」

 赤坂「ん~」

 赤坂「ま、種子島にいく飛行機と連絡船はこの一ヶ月運行を

    取りやめ、人っ子一人立ち入れないようにする手筈に

    なってる」

 赤坂「仮に潜水艦で来たとしてもな」

 赤坂「海上自衛隊の潜水艦が即迎撃。

    不審な連中は海の藻屑やで~」

 

 赤坂「要の宇宙衛星のコントロール制御システムは既に
 
    つくばにある宇宙センターに譲り渡してある」

 赤坂「ええか?」

 赤坂「あんた等のやるべきことは、作戦通りに種子島から

    誰一人本土へと戻らせないこと」
 
 赤坂「それが侵入者であってもや」

 姉帯「わかりました」

 姉帯「それで?その侵入者達は如何様にしても?」

 赤坂「うん。何しようがかまへん」

 赤坂「楽しんだ後に、必ず殺せばな」

 セーラ「分かりました。赤坂委員長」

 姉帯「了解しました」

 ―――

 ――
306 名前:名無し 投稿日:2016/07/23 01:24 ID:bjfzpFwl
 絹恵「失礼します」

 末原「失礼します」

 赤坂「いや~ん、そんなにかたくならんといてや~」
 
 赤坂「二人ともウチの下で働くのがそんなにいやなん?」

 末原「いやではありませんが、それ以上に...」

 赤坂「ん~、お姉ちゃんのことは大丈夫。任せなさい」

 絹恵「ほ、ホンマですか?」

 赤坂「絹ちゃん。よくきくんやで」

 赤坂「お姉ちゃんはな、解放軍に軟禁されてるんや」

 絹恵「な、軟禁?!」

 赤坂「それでなぁ、お姉ちゃん、わっるーい男に誑かされて

    骨抜きにされてしまったんや」
 
 絹恵「う、ううう嘘や!そんなん絶対に嘘や!!」

 赤坂「なぁ、お姉ちゃんとにゃんにゃんチュッチュして

    切望してたわが子を産んだってな」

 

 赤坂「お姉ちゃんは、絹ちゃんの事を受け入れてないで?」


307 名前:名無し 投稿日:2016/07/23 01:25 ID:bjfzpFwl


 末原「代行、いえ...郁乃さん」

 末原「貴女、最低ですよ?」

 絹恵「うっ、うううううう~」

 赤坂「ま、二人には東京の菫ちゃんの所に飛んでもらう」

 赤坂「解放軍の強化戦士達がアジトを留守にしている間に、

    そこの人間達を殆どさらってしまう作戦があるんや」

 赤坂「末原ちゃんと絹ちゃんはそこで一番槍を務める」

 赤坂「絹ちゃん。話変わるけど、お母さん元気にしてる?」

 絹恵「はい。監督の取り計らいによってニュージーランドで

    娘と一緒に暮らしています」

 赤坂「まぁ、共々息災なのは、なによりなにより」

 赤坂「まさちゃんだっけ?絹ちゃんによう似てるわぁ~」

 末原「郁乃さん、雅と書いて『みやび』と読むんですよ」

 赤坂「うわーん、末原ちゃんが人の揚げ足取った~」

 赤坂「絹ちゃん、罪悪感に苛まれる位ならいっそのこと

    こんなところにいないほうが遥かにマシやで?」

 絹恵「罪悪感って、何ですかそれ!」

 絹恵「私のことを半端者だって馬鹿にしてるんですか!」

308 名前:名無し 投稿日:2016/07/23 01:28 ID:bjfzpFwl

 赤坂「絹ちゃんは死にたいんか?」

 赤坂「お姉ちゃんとお母さん、そして娘と幸せになりたい」

 赤坂「せやろ」

 絹恵「ぐっ」

 赤坂「でもなぁ自分で姉貴をレイプして孕ませて、
    無理矢理ひりださせた子や」

 赤坂「お姉ちゃんだって、絹ちゃんのこと好き好き
    大好きって今でも 思っているって、
    本当にそう思ってるの?」

 絹恵「じゃあ、謝ればいいんですか?それとも...」

 赤坂「人生の先輩として一つアドバイスしたる」

 赤坂「自分が傷つけた人に対して償いをしたいのなら、
    その人が受けた痛みと全く同じものを自分に課して
    それ以上に苦しまなければいけないんや」

 赤坂「絹ちゃんの言ってることには重みがない」

 赤坂「レイプされ、中絶できず結局ずるずると生んだ子供に

    いったい誰が親として愛情を注げるっていうんや?」

 絹恵「だまれええええええええええ!!」
309 名前:名無し 投稿日:2016/07/23 01:28 ID:bjfzpFwl
赤坂「はぁ、本当に世話の焼ける姉妹やね~」

 赤坂「ふぅ。ま、せいぜい頑張りや」

 赤坂「けど、絹ちゃん」

 赤坂「最後にこれだけは覚えとき」

 赤坂「絹ちゃんがお姉ちゃんに抱いている『愛』は」

 赤坂「絹ちゃんが『女』になったときに、木っ端微塵になる」

 絹恵「意味分からんこと言って、ウチの決心を鈍らせないで!」

 末原「あっ、待ちなさい、絹ちゃん」

 赤坂(ふぅ、あんたら今いくつや?二十歳過ぎてるやろ?)

 赤坂(はぁーあ、そろそろウチも寝返ることを考えておこうかなぁ)

 赤坂「これも末原ちゃんに惚れた弱みって奴なんやろな?」

 赤坂(松実前大統領はともかく、問題は花形の奴や)

 赤坂(あいつをどうにかして出し抜かなアカン)

 赤坂(じゃないと、末原ちゃんも絹ちゃんも確実に殺される)

 赤坂「結局ウチは、女としても教育者としても半端者やなぁ...」

310 名前:名無し 投稿日:2016/07/23 01:32 ID:bjfzpFwl
 ウクライナ、キエフ


 優希「優太郎~、帰ったよ~」

  片岡優希、今は須賀優希となった彼女が仕事先から自宅に

 戻ったのは午後八時だった。

 自分の息子である優太郎は今年で二歳になる。

 好きだった同級生と、少々事情が異なる形での海外逃亡は、

 片岡優希を失意のどん底に突き落とした。

  優希はこれを仲間を見捨てた自分への罰だと捉えていた。

 しかし、神様はこんな罪深い自分に宝物をくれたのだ。

  京太郎からの愛が貰えなかった代わりに、かけがえのない

 一人息子を神様は自分に与えたのだ。

  強くて優しい男になって欲しい。

  だから優太郎と名づけた。

 
 優希「あれから、もう五年たつのか...」

  激化するiPS類とオルフェノクと人類の争い。

  京太郎は、日本の裏事情など何も知らないごくごく普通の、 家がちょっとお金持ちなだけの男の子だった。

  だけど仲間と京太郎を天秤にかけたせいで、 世界で最も
 平和な国、日本が壊れてしまった。

  京太郎を見捨てていればこんな事にはならなかったと

 優希は今でも悔いている。

  だけど、そんな事をした後に自分が生きていられるのかと

 問われれば、断固として優希は死を選ぶだろう。

  それほど京太郎のことを優希は愛していた。
311 名前:名無し 投稿日:2016/07/23 01:34 ID:bjfzpFwl
 うとうとと眠りかけたとき、息子のぐずる声で目が覚めた。

 優太郎「オギャー、オギャー」

 優希「よーしよし、いいこだからね~」

  どうやら、おっぱいが欲しくて泣いていたようだ。

  京太郎との結婚生活は愛のない冷淡なものだった。

  だけど、その原因が自分にある以上、この先自分を

 京太郎が受け入れることがないと分かっていても、優希は
 
 京太郎の愛が欲しかった。

 優希「痛ッ!」

  そんなネガティブな考えを読み取ったのだろうか?

  優太郎が生えかけの乳歯を優希の乳首につきたてていた。

 優希「痛いじゃないか、ん~、優太郎」

 優希「なあ、優太郎」

 優希「お前のパパはな...世界で一番カッコイイ男なんだぞ」

  自分の罪も、京太郎がどうして危険を犯して日本へと

 戻ったのかを知っている優希は、だからこそ自分の息子に

 その心情を吐露するしかなかった。


 優希「仲間を裏切って、敵に屈服した裏切り者のママをな、

    ずーっと支えてくれたんだ」

  ウクライナの日本人学校に来て、慣れない英語で周りの
 高校生や大人に嘲り笑われても、京太郎は自分を見捨てる事
 無く身を挺して守ってくれた。

  だけどその度に京太郎の瞳から自分の存在が消えていく。

  時が経つにつれ、自分の京太郎に対する思いに確信が持てなくなる。

 
312 名前:名無し 投稿日:2016/07/23 01:36 ID:bjfzpFwl
  幸い日本政府から寄付金という形で、右も左も分からない

 二人が異国の地で豪遊できるだけのお金を和は欠かさず

 毎月振り込んでくれた。

  そして、京太郎は和から渡される金で生きていかなければ
 ならないことにとても苦痛を感じていた。

  京太郎を追い詰めた責任を取るために、優希は死に物狂いで 努力をした。

  嫌いだった運動をがんばった。

  英語のほかにロシア語とフランス語を勉強した。

  自分の口癖を矯正し、笑顔を絶やさないようにした。

  そんな事をしても、京太郎の顔に清澄で過ごしていた時の

 あの笑顔は取り戻せなかった。

  けど、それでも自分の過去を完全に振り切るために、優希は 出来ないことを一つずつ克服していった。

  本当は、須賀京太郎という自分が愛する男に心の底から
 愛して欲しかっただけだった。
  愛していると言われたかったのだ。

  それこそが、裏切者の片岡優希の心の支えだった。

 
  柄の悪いマフィアとつるみ始め、家に寄り付かなくなった

 京太郎がいない事をいいことに、優希は個人経営のダイナーで

 アルバイトを始めた。

  学校を卒業するころには、新しいメニューの開発を

 任されるようになり 金回りも大分よくなっていた。

  異国の地で稼ぎに稼いだ貯金を全額はたき、アメジストと

 ダイアモンドの婚約指輪と結婚指輪を二つずつ買って、遂に

 優希は京太郎に 一世一代のプロポーズをした。

  京太郎は、何も言わずに優希を抱きしめただけだった。
313 名前:名無し 投稿日:2016/07/23 01:37 ID:bjfzpFwl
優希「結婚もプロポーズも私からしたんだ...」

 優希「京太郎は...黙って指輪をはめてくれた...ッ」  

 優希「そんな、そんな資格もない私を...抱いてくれた」

 優希「わ、私がお、お前のふるさとを滅茶苦茶にしたんだ!」

 優希「何とか言ってよ...京太郎」

 優希「京太郎より、タコスを作るのがうまくなったって...

    しょうがないんだよ...」

 優希「京太郎より、優太郎のことを好きになったってしょうがないんだ」

 優希「寂しい、寂しいんだ...」

 優希「ねぇ...京太郎」
  
  思い通りにいかない自分の人生にとって、優太郎が

 最後の希望だった。

  だから、今日も優希は涙を流しながら神に祈る。

  願わくば、京太郎が自分と自分の息子を愛してくれるように...。

  どうか、京太郎が無事に戻ってこれますように、と。

  


  
314 名前:名無し 投稿日:2016/07/23 01:37 ID:bjfzpFwl
 二日後 


 照「お帰りなさい。草加さん」

 智葉「お疲れ様、草加」

 木場「お疲れ様」

 京太郎「二日間、ご苦労様だったな」

 草加「ああ、ただいま」

  しかし、自分が帰ってきたときに笑顔で出迎えられるのも

 悪くはないものだと実感している自分に、俺は少し驚いた。

  用心棒としてオルフェノクやiPS類の施設をたった一人で襲い、

 命からがら帰ってきても、誰も俺を労う人間はいなかった。

  だが、今は違う。

  信用できないオルフェノクがいるものの、腹を割ってきちんと

 自分の考えを伝え合い、コミュニケーションが取れる仲間がいる。

  信用できる相手がいるととても気が楽になる。

  
 
 京太郎「悪いな、草加」

 京太郎「早く眠りたいところなのに」

 草加「別に気にしてないさ、君達の配慮のなさは元からだろう」

  コーヒーを人数分入れた須賀の言葉を軽く受け流し、

 俺は宮永と辻垣内に幹部達の挙動について聞くことにした。

 草加「それより、宮永」

 照「なに?」

 草加「幹部達の様子はどうなっているんだ?」

 照「ダメ、ぜんぜん尻尾を出さない」

  時刻は午前一時。

  古ぼけたアルコールランプの明かりが全員の表情を照らす。
315 名前:名無し 投稿日:2016/07/23 01:39 ID:bjfzpFwl
草加「まぁ、あの水原でさえ自白するのに五年以上は掛かったんだ」

 草加「水原が死んだ所で、その部下達がぼろを出すとは到底思えん」

 智葉「すまないな、草加」

  辻垣内の報告も同様に、幹部達は常に忙しく動き回り、

 各地の人間解放軍と密に連絡を取り合っている。

  ボロを出すどころか、積極的に宮永に協力しているために、

 全く連中のことを疑うことが出来ない。

  ま、これも想定範囲内だ。

  だが連中が全員人間であれば、政府側にとって

 これほど動かしやすい駒はない。

 智葉「ああ、そういえば」

 智葉「お前がいない時に変なものを見たという人がいるんだ」

 木場「変なもの?」

  スマートブレインにて俺が一足早く聞かされた、旧人類を
 
 一掃する恐るべき二つの計画、『青い薔薇』計画、そして

 『都道府県一万人ライオトルーパー計画』

  どちらも秘密裏にこの計画を進め、成果を挙げたいのは

 目に見えている。

 智葉「ああ、なんだか青い蝶が青い花に止まっているって...」
316 名前:名無し 投稿日:2016/07/23 01:40 ID:bjfzpFwl
青い薔薇、それはあるオルフェノクの使徒再生の方法を

 完全に解析した政府が更に改良を加えて、日本にいる残りの

 旧人類を殆どiPS類へと完全に移行させる計画の重要な要だ。

  ハギヨシとLEOが言うには、俺と須賀と木場の三人で

 その薔薇の使徒再生のメカニズムを持つオルフェノクを

 救助しなければならないらしい。



  万が一ということもある。

  宮永照と辻垣内智葉は、iPS類と同じように関係が親密すぎる。

  辻垣内は日本刀のような女だ。

  切れるうちはいいが、今の奴は情や連帯感で徐々になまくらに

 成り下がっている、ただの腕っ節の強い女でしかない。

  木場がいつ心変わりをするか分からない可能性がある以上、

 智葉と木場を懇ろの仲にして、この二人の行動原理を常に

 人間寄りにしておく必要がある。

  

 草加「辻垣内、お前は明日の朝にその発見者と一緒に俺達に

    その場所を案内しろ」

 草加「もしもの場合がある。それに」
317 名前:名無し 投稿日:2016/07/23 01:41 ID:bjfzpFwl
草加「東京の奥多摩にはそんな蝶はいない」

 草加「そいつの言ったことは、印象に残るほど鮮やかな色、

    かつ日本ではお目にかかれない綺麗な色をしたチョウ」

 智葉「そう、そんな感じのことを言ってた」

  辻垣内の証言の元となった数人の子供達が目撃した蝶は

 全部で三匹ほどだった。

  濃い水色、エメラルドみたいな色の蝶、鮮やかな赤い蝶。

  そんな極彩色をした蝶は日本にはいない。

  確かに蝶のテーマパークは日本にもあるが、関東近辺だと、

 一番近くて栃木県、距離に直せば200km以上離れている。

  仮に一匹か二匹が運よく逃げ延びても、逃亡の途中に鳥や

 蜘蛛に食べられて一貫の終わりだ。

  だからこそ、この蝶はオルフェノクの何らかの能力だと見て

 間違いない。  

 

 京太郎「やはりオルフェノクの超能力か?」

  オルフェノクの持つ能力は主に形態変化が主になる。
 
  鳥類に属するオルフェノクであれば、飛行能力。

  動物に属する能力を持つオルフェノクであれば、スピードや

 パワー、極まれに強い毒を得る傾向がある。

  植物は再生能力と毒、そして超能力。

  それぞれが変成したオルフェノクの元となった生物の利点や

 弱点を補う能力を一つないし二つほど宿す。

 草加「俺の倒したオルフェノクに、蝗の群れを操るオルフェノクがいた」

  幹部達、あるいは解放軍がかくまっている人間達の中には

 まず確実に蝶を操るオルフェノクがいる。

  今はそれが分かっただけでも幸先がいい。
318 名前:名無し 投稿日:2016/07/23 01:42 ID:bjfzpFwl
草加「おそらく、そいつと同じ能力だろう」

 草加「辻垣内、よくやった」

 智葉「お、おう」

  辻垣内が素直な奴で本当によかった。

  怒りの矛先を収めた辻垣内は、ようやく静かになった。

 草加「取り敢えず、この話はここで打ち切りだ」

 草加「今から俺がお前達に話す事は、正直かなり重大な事だ」

 草加「同盟を組んだ初っ端から、俺達は大博打を打つことになる」

  ハギヨシとLEOが持ちかけてきた情報が果たしてどれほどの

 正確さと信頼性を持つのか、正直に言えば理解できない。

  だが、それでもやるしかない。

 京太郎「...取り敢えず、話してくれ」

  誰もが口を閉じている中、須賀が重い口を開いた。

  俺は事の顛末を話すことに決めた。

319 名前:名無し 投稿日:2016/07/23 01:43 ID:bjfzpFwl


 草加「俺がこの二日間、一体何をしていたのかというと」

 草加「スマートブレインに呼び出され、ある取引を持ちかけられた」

 木場「取引?」

 草加「そうだ。取引を持ちかけてきたのはハギヨシという執事」

 京太郎「は、ハギヨシさんが?!」

 草加「そして『天』のベルトの持ち主であるLEO」

 木場「なっ、一体何を彼らは...」

  須賀と木場に因縁のある相手からの個人的な取引。

  ショックを受けたように固まる二人とは反対に、

 宮永と辻垣内は至極冷静に構えていた。

  ここまでくれば、もう言うしかない。


 草加「お前達に分かるように、説明するとだな...」
 

 草加「スマートブレインの社長の首を挿げ替える」

 草加「そういうことだ」


 ――――

 ――
320 名前:名無し 投稿日:2016/07/23 01:45 ID:bjfzpFwl
照の視点
 

 京太郎「草加、お前自分が何を言ってるのか」

 京太郎「そこんとこ、きっちり分かってるのか?」

  京太郎君が草加さんの口から飛び出した発言に眉をひそめ、

 明らかに疑いの目を向けた発言をした。

  ハギヨシさんのことは私と智葉がこの中にいる誰よりも

 よく知っている。

  須賀君もハギヨシさんが信頼した人間の一人だろうけど、
 
 それはハギヨシさんの表の顔だと思う。

  解放軍にいた時のハギヨシさんは、素敵な執事ではなく、

 粛々と冷酷にオルフェノクと政府の人間を殺して回っていた。

 草加「ああ、お前の知り合いだったんだっけな。あの執事」

 草加「その執事が、俺にこの話を持ちかけてきた」

  草加さんは何一つ表情を変えずに、懐から三つの封筒を取り出した。

  木場君と須賀君には緑色の封筒。

  そして、草加さんから手渡された封筒を見た私たちは

 思わず声を失った。

 京太郎「要人救出、及び政府重要機密施設の破壊...」

 草加「そうだ。木場とお前、そして俺の三人で一週間後に

    スマートブレインの特殊部隊と政府直轄の施設に

    殴り込みをかける」

  私と智葉は二人に許可を取り、それぞれの封筒を見比べた。

  書いてあることは殆ど同じだったけど、須賀君と草加さんが

 ハギヨシさんと一緒に種子島宇宙センターの衛星施設の破壊、

  木場君とスマートブレインの『天』のベルトを持つLEOが

 鳥取県某所にあるライオトルーパー生産プラントの破壊を

 担っていた。
  
  スマートブレインとの同盟に何も裏がなければ、この作戦は

 至極真っ当な作戦だと思う。

  けど、草加さんも須賀君も解放軍の特記戦力である三本の

 ベルトの持ち主であり、木場君はオルフェノクの中でも

 特に高い戦闘力を持つオルフェノクだとLEOが言っていた。

  それは残りの三人も同じ考えのようで、木場君は早速

 草加さんに私の懸念していることを話し始めた。  
321 名前:名無し 投稿日:2016/07/23 01:45 ID:bjfzpFwl
木場「草加君、悪いけど罠って可能性が拭いきれないよ」

 草加「ああ、だがお前の意見を聞いても須賀の表情は一向に晴れないぞ」

 京太郎「.....」

  木場君も解放軍に立派に貢献してくれている。

  だけど、彼自身はあまりにも私達のことを知らなさすぎる。

  ハギヨシさんがどういう人で、まないた党やヘテロ党を

 結成したときに、何を失ったのか...。

  こういうときに何も言うことが出来ない自分が恨めしい。

 照「草加さん、もう引き返せないところまで私達は来ている」

 照「これがバレたら、私たちは一貫の終わり」

  草加さんの言った『社長の首を挿げ替える』

  おそらくLEOとハギヨシさんは目的こそ違えど、なんらかの

 利害の一致で手を結び、小鍛冶健夜の作戦に自分達の思惑を

 かぶせたのだろう。

  
  おそらく、草加さんと須賀君から木場君が離されたのは、

 救出する予定の要人を信用させるため、あるいは木場君を

 本格的にスマートブレインに引き込もうとする魂胆が確実にある。

  その事に木場君を初めとする四人は全く気がついていない。

 
322 名前:名無し 投稿日:2016/07/23 01:45 ID:bjfzpFwl

 智葉「草加、社長の首を挿げ替えるってことは...」

 木場「やっぱりスマートブレインは政府の手先、なのか」

 草加「ああ、小鍛冶健夜は黒だ」

  

 智葉「どういうことだ?」

 草加「ハギヨシの話を聞いた限りでは、奴は花形子飼いの

    オルフェノクだ」

 京太郎「それは本当なのか?」

 草加「本当だ。更に言えば社長の交代劇のときに、村上峡児を

    罠に嵌めて、更に龍門渕グループを強引に買収したのが

    小鍛冶健夜だったらしい」

 智葉「おいおい、らしくなさすぎだぞ草加」 

 智葉「スマートブレインの企業買収については、あの時に

    私が透華からはっきりと聞いたんだ」

 智葉「龍門渕グループの全部を奪ったのは、村上だったってな」

 草加「そうか、まぁどっちにしろ透華のことは保留しておこう」

  小鍛冶健夜は前社長を追い出した花形社長の派閥に属していた。

 

  それは智葉が透華から聞いたことを私に話してくれたことで

 知っていた。

  だけど、草加さんの話と智葉が透華に聞いた話には

 大分齟齬が生じていた。

  草加さんが嘘をつくはずもないし、ここは一つ、私が

 聞かなければならないことを聞くことにしよう。
 
323 名前:名無し 投稿日:2016/07/23 01:46 ID:bjfzpFwl
 草加「さて、話は変わるが」

 照「草加さん、聞きたいことがいくつかある」

 草加「なにかな?」

 照「一週間後のスマートブレインとの合同任務なんだけど、

   任務の中に要人救出が含まれていた」

 照「その要人って、もしかして...」

 草加「ああ、村上社長だ」

  苛立たしげに足を踏み鳴らした草加さんは歯を食いしばり、

 全員にその要人の名前を告げた。


 ~~~

 ~~
324 名前:名無し 投稿日:2016/07/23 01:46 ID:bjfzpFwl
京太郎の視点

  草加は何かを躊躇うようにして、ポツリポツリと

 俺達にスマートブレインでのやり取りを聞かせ始めた。


 草加「まず最初に、お前達に俺がスマートブレインで今まで

    何をしていたのかを最初から話す必要がある」

 草加「スマートブレイン、いやオルフェノクの当面の活動目標は

    政府が隠しているある機密情報を奪取することにある」

 照「その機密情報って、須賀君が持ってきたあのデータのこと?」

 草加「ああ。だが、須賀のデータは閲覧許可A+ランク、

    つまり、特級の最上機密までは書かれていないんだ」

 草加「須賀、お前の持っているあのデータを貸せ」

  草加の差し出した手に、俺はいつも持ち歩いている小型の

 メモリースティックを渡した。

  草加はそれを自分のノートパソコンに差込み、パスワードを

 打ち込みながら、説明に必要な項目を探し出した。

 草加「いいか?このページをよく見ろ」

  草加が俺達に見せたページは、日本各地にいる上級オルフェノクの個人情報と所属先のページだった。

  その中にはハギヨシとLEO、スマートブレイン前社長だった
 
 花形と村上の名前、そして小鍛冶健夜の名前もあった。

 

 草加「花形は日本で最も初期に生まれたオルフェノクだ」

 草加「村上も、LEOもオルフェノクの中ではずば抜けて強い。

だが、花形は更にその上を行く」

  苦々しげに顔を歪める草加。

 木場「まさか現存するオルフェノクの中で一番強いとか?」

 草加「...忌々しいことだが、それが正解だ」

  

  
325 名前:名無し 投稿日:2016/07/23 01:47 ID:bjfzpFwl
草加「スマートブレインが日本に出来たのは丁度今から

    20年前程だった」

 草加「花形はその時既に、オルフェノクに関する研究の

    第一人者としてオルフェノクの中でも高い地位にいた」

 草加「そして、奴はスマートブレイン本社が見つけた、

   ある存在を守るための装備、つまり今、俺達が持っている

    ライダーズギアの研究を任された」

  草加の口から明らかにされたライダーズギアのルーツ。

  花形が日本におけるオルフェノクの先駆けだということは

 よく分かった。

  徐々に明かされつつある、花形と言う男の全貌。

  だが、まだ足りない。

  なぜ花形はオルフェノクを裏切り、政府側について

 オルフェノクを迫害する立場になったのか?

  その理由がなによりも重要だ。

 智葉「ある存在?」

 智葉「オルフェノクが一体何を守るって言うんだ?」

  

 草加「全てのオルフェノクの支配者」

 草加「つまり、オルフェノクの『王』を守る」

 草加「それがライダーズギア本来の役目だ」    

  草加の口から放たれた衝撃の真実に、俺達は呆然とした。
326 名前:名無し 投稿日:2016/07/23 01:47 ID:bjfzpFwl
 京太郎「おいおい、じゃあ...」

  動揺を隠せなかったのは俺だけではなかった。

  木場も、照も、智葉も一様に絶望的な表情を浮かべていた。

  全員の動揺を見て取った草加は一旦口を閉じた。

 木場「じゃ、じゃあ」

 木場「花形とか、政府に組する一部の上級オルフェノクは

    全員、その『王』の忠実な腹心なのか...」

  

 草加「そろそろ頃合だな」

 草加「須賀にも、また他のメンバーにも俺の過去について

    話すときがきたようだ」
 
  木場の呟きに敏感に反応した草加は、何かを諦めたような

 表情を浮かべ、自分の出生についての秘密を明かし始めた。

  

 ~~~~

 ~~
327 名前:名無し 投稿日:2016/07/23 01:48 ID:bjfzpFwl
草加「花形の真の狙い、それをお前達が正しく理解できる

   ように簡単に噛み砕いて話してやる」

 草加「それにはまず、お前達は『流星塾』の存在を

    知らなければならない」

 智葉「流星塾?」

 草加「そう、流星塾はスマートブレインがかつて経営していた

    ある種の教育機関だ」

 草加「身寄りのない子供達を引き取り、英才教育を施しては

    何人もの優秀な人間達を世の中に送り出してきた」

 草加「だが、その『流星塾』に集められた子供達には

    ある一つの共通項があった」

 草加「『九死に一生を得た子供』」

 草加「それが流星塾生になるための必要条件だった」

 木場「九死に一生って...」

 木場「だって、何かの事故で仮死状態になった子供達が

    死んだ後にオルフェノクになっているかもしれない...」

 草加「まあ、黙って聞けよ」

 草加「スマートブレインは病院や警察の中にパイプを持ち、

    火災や水難事故、そして現代医学では治療できない

    難病から奇跡の生還を果たした子供達の存在を調べた」

 智葉「二束三文で買い叩いたわけだ」

 草加「ああ、俺は小学生のときに親に殺されかけた」

 草加「頭蓋骨が陥没し、心肺停止。仮に一命を取り留めても

    日常生活を送るのは困難だ」

 草加「俺が物心ついたときに担当医から聞いた話だ」

 草加「だが、俺は奇跡的に後遺症もなく無事に生還した」

 草加「仮死状態になってから二ヵ月半ほどで俺は目覚めた」

 草加「俺みたいな生徒をスマートブレインは日本各地から

    何かに取り付かれた様に集めまくった」

 照「でも、どうしてそんな意味の分からないことを?」 

 草加「...オルフェノクの『王』が九死に一生を得た子供達の中にいる」

 草加「流星塾にいたときに、花形がそれを部下に話していた」

 木場「え、花形って流星塾の創立者なの?」

 草加「そうだ奴はライダーズギアの研究上、その適合者となる

    オルフェノクを片っ端から捕らえ、実験台にした」

 草加「その中には、人工のオルフェノクの記号に関する研究も

    含まれていたし、ライダーズギアの実用化に必要な

    夥しいほどの実験体が必要だったからだ」
328 名前:名無し 投稿日:2016/07/23 01:49 ID:bjfzpFwl
 智葉「なぁ、草加」

 智葉「花形の言うことが狂言だっていう可能性もきっと

    無きにしも非ずってところだろう?」

 智葉「それに、オルフェノクの王ってどんな姿をしてるんだ?」

 草加「辻垣内の主張ももっともだ」

 草加「だが、オルフェノクの王によく似た『存在』の姿を

    俺達は飽きるほどにいつも見ている筈だ」

 京太郎「おい、それって...」

 草加「ファイズ、カイザ、デルタ」

 草加「俺達が身に着けて、オルフェノクを殺して回るための

あの強化戦闘ツールがオルフェノクの王を模した物だ」

 草加「ま、本物はもう少し格好悪い姿をしているらしいが...」




 草加「取り敢えず、話を戻そう」

 草加「オルフェノクの王は実在したらしい」

 草加「だが、何らかの理由で王は姿を消した」

 草加「どうしてオルフェノクの王が九死に一生を得た

子供達に宿る理由は未だに判明していないが...」

 草加「ハギヨシの話によると、オルフェノクの王は花形と

    あと一人の人間を自分に忠実な臣下としたようだ」

 四人「まさか...」

 草加「今のスマートブレインの社長である小鍛冶健夜だ」

 草加「ハギヨシが言うには、花形と村上の熾烈な争いの影には

    村上がオルフェノクの王を殺そうとしたことに端を発し    ている」
329 名前:名無し 投稿日:2016/07/23 01:52 ID:bjfzpFwl
 京太郎「理由は?」

 草加「その理由は分からない」

 草加「だが、結果として村上の目論見は大体成功した」

 草加「オルフェノクの王にフォトンブラッドをぶち込み、

    生命活動が困難になるまで追い込んだんだ」

 草加「そして、王は姿を消した」

 木場「それで、王に歯向かった村上は今どこにいるんだい?」

 草加「ああ、ライオトルーパー生産プラントの最奥にある

    地下牢にぶち込まれているらしい」

 草加「ここまで話せば理解できるはずだ」

 草加「オルフェノクの王は本能のままに人間を皆殺しにして、

 地球上のあらゆる生命の頂点に君臨するという事が」

 
  そして、と前置きした草加はハギヨシから聞いたiPS類と

 オルフェノクの真の狙いを俺たちに伝えた。

 草加「オルフェノクの王を蘇らせ、オルフェノクの王国を

    作り出すのがオルフェノクの真の目的」

 草加「iPS類の真の目的は、オルフェノクという人類の

   『進化』を完全に食い止めるために、世界中の人類を

    iPS類へと完全に変貌させる」

 照「そして私達旧人類のオルフェノク化という共通の問題を

   共有したスマートブレインの上層部と、今の原村政権は

   一時的に手を取り合った」

 草加「iPS側はオルフェノクを野放しにしては、旧人類、

    いや奴隷の数は減少を続け、オルフェノク側に次世代の

    覇権を奪われてしまう」

 草加「オルフェノクは、このままiPS類を放置し続けると、

 オルフェノクが生きる場所を失い、更には

 生きる権利すら剥奪される恐れがあると考えた」

 草加「だから奴等はそうならないように政府と水面下で

 秘密裏に熾烈な争いを繰り広げ、オルフェノクが
  
   この世界で生きる権利を勝ち取るために戦ってきた」  

  俺達の敵の真の目的の全貌がハッキリと見えてきた。

  iPS、いや原村和はオルフェノクの撲滅を足がかりに、

 日本が世界の中心に躍り出ることを考えている。

  そしてオルフェノク側からは、スマートブレインが全人類を

 オルフェノク化することによって、日本かアメリカに

 オルフェノクの帝国を作り上げ、全てのオルフェノクを

 絶対的な支配下に置く世界征服を考えている。  

  どちらも旧人類のことをこれっぽっちも考えていないのは

 火を見るより明らかだ。

  だからこそ、俺達はまず出来ることからやるしかない。
330 名前:名無し 投稿日:2016/07/23 01:56 ID:bjfzpFwl
 草加「俺達のやろうとすることはクーデターだ」

 草加「クーデターが失敗した時は、俺達が全員死ぬときだ」

 草加「今ならまだ引き返せる」

 草加「村上はあと三ヶ月で処刑される手筈になっている」

 草加「村上が俺達の提示する条件を全部承諾する保障は

    どこにもない。それでもやるか?」

  草加は多分、俺達が誰も賛成しなくても、たとえ一人に

 なってもこのクーデターを実行に移すだろう。

  小鍛冶健夜がオルフェノクの王にどんな力を授かったのかは

 未だに不明だ。

  もしかしたらフォトンブラッドもなにも効かないような、

 そんな不死身の正真正銘の魔物になっているかもしれない。

  村上よりいい条件を提示し、この先俺達に対して全面的に、

 サポートを惜しまないと言う可能性も捨てきれない。

  だから俺は正直に言えば...草加の意見には反対だ。

  しかし、この場における俺の意見はそこまで重要ではない。

 照「...」

  何故なら俺や草加、智葉と木場が戦う理由と大義は全て

 宮永照に集約されるからだ。

  それぞれが叶えたい夢や理想を持っている。

  しかし、それは一人では叶えることが難しく、
 
 かといって他者と協調することが限りなく不可能に近い。

 
  
331 名前:名無し 投稿日:2016/07/23 01:56 ID:bjfzpFwl
 俺は原村和への復讐。

  智葉は世界を本来あるべき姿に戻し、世界の秩序を破壊した

 iPS類に償いをさせること。

  木場はオルフェノクと人間の共存。

  草加はオルフェノクの撲滅。

  心を交わし、仲間と認めた人間と同じ形の夢を持つ奴は

 この中には誰一人としていなかった。 

  それだけ、俺達の夢は今の自分を構成する上で重要な意味を

 持っているからだ。

  だからこそ、俺達には象徴が必要だった。

  たとえ見ているものや志が異なろうと、一致団結して同じ

 目的のために邁進する為のシンボルが...。



 
332 名前:名無し 投稿日:2016/07/23 01:58 ID:bjfzpFwl
  長い沈黙を破り、照が遂に口を開いた。

 照「木場さん...前にも言ってたよね?」

 照「オルフェノクにも人間の心を持った奴はいるって...」

 照「私もそう思う。iPS類になることを選んだ人間にだって

   それはきっと当てはまるでしょう」

 照「木場さんがスマートブレインタワーで言った、あの一言」

 照「貴方がオルフェノクとして生き、それでもその夢と理想を

   実現させる為に、人間を守るという大義名分を掲げても」

 照「スマートブレインを信じていたって...」



 照「オルフェノクもiPS類も人を家畜以下にしか見ていない」




 照「それが今の私達『人間』を取り巻く世界の真理」


  皆もよく聞いて、そう前置きした照は更に言葉を続けた。

 照「権利に保障された社会的弱者以下の存在が、これから先、

   スマートブレインの体のいい取引相手になったって...」


 
 照「私達には明日なんて来ない」




  普段とはかけ離れた激情に駆られた照の言葉に誰もが

 驚きを隠せなかった。

  まるで草加が乗り移ったかのような口調で滔滔と語り続ける

 照の目にはかつてないほどの熱がみなぎっていた。



 照「この五人を束ねるリーダーとして」

 

 照「私は草加さんの意見を採用します」

 照「どちらにしろ、私達の戦闘はスマートブレインに大きく

   左右されている」

 照「なら、手を差し伸べてくれる味方を一人でも多く

   味方につけて、確固とした立場を着実に確立させるため」



 照「私達はスマートブレインを手に入れる」

 照「いつまでも解放軍で燻っている訳には行かない」

 照「私達五人は、解放軍を近いうちに出て行く」
 
333 名前:名無し 投稿日:2016/07/23 01:59 ID:bjfzpFwl
  照の口から出てきた信じられない言葉のオンパレードに

 木場も智葉も、あの草加でさえ口をあんぐりとあけていた。

  しかし、俺達にとってそれ以上に衝撃的だったのが、照の

 解放軍を見捨てるという信じられない発言だった。


 智葉「照...お前、まさか解放軍を捨てるのか?」

 照「...解放軍のリーダーになったけど、やっぱり駄目だった」

 照「どのみちいつかは、こうすることを考えていた」

  更に驚いたことに、照はこのことを大分前から考えていた。

  俺も草加も口には出さなかったが、もうしばらくは解放軍に

 腰を落ち着け、政府の出方を伺う腹積もりだった。

  しかし、照の口ぶりだと二週間以内にここから全員が

 煙のように消える感じの意味合いに聞こえる。

  事実そうなのだろう。

  照の言うことは間違いなく正しい。

  俺達に残された時間が少ないことと、現時点で相手の

 真の狙いが判明し、なおかつ、その二大勢力が俺達の出方を

 慎重に伺っている以上、照の提案はまたとない正論だ。

  ここで旧人類の象徴である照がスマートブレインに就けば、

 俺達の個々の理想はともかくとして、オルフェノクの大半を

 味方につけることが可能になる。

  俺達が欲しくて欲しくてたまらなかった『軍事力』を

 ここにきて手に入れる絶好のチャンスだ。

  俺達のやろうとしていることは人として最も最低の行為だ。

  俺達を信じ、命を預けてくれた人間達、その全員の希望を

 粉々に打ち砕くからだ。

  だが、

  それ以上にそうやって戦い続ける強さを木場と智葉は持っていない。

  それでも、iPS類に勝つには...。
334 名前:名無し 投稿日:2016/07/23 01:59 ID:bjfzpFwl
 智葉「...後悔は、ないのか?」

 照「0×0は0にしかならない」 

  長年連れ添った智葉の問いかけに、照は懸命に涙と

 自分の心の中の感情を押さえ込みながら、敢えて私情を

 挟まず、非情に言い切った。 


 照「口だけの懺悔には、もううんざりした」

 照「解放軍のリーダーになっても、私は結局守られる側の

   草加さんに言わせれば、ただの女でしかない」

 照「私が智葉や草加さんみたいに強ければ、咲だって守れた」

 照「けど、その咲も私を裏切った」

 照「みんなのっ...リーダー、なのに...」

 照「咲を奪った...はらっ、むらに...情けをかけっ,,,」

  嗚咽とともに泣き出し始めた照を智葉抱きしめる。



  なにも知らない、心から大切にしている存在を失った

 喪失の痛みを知らない人間が、今のやり取りを見ていれば、

 きっと青臭い正論を振りかざし、なんとか翻意を求めるだろう。

  しかし、俺達は違う。

  草加はオルフェノクに愛する人を殺された。

  木場はオルフェノクの仲間を政府に殺された。

  智葉は政府に家族を殺された。

  照は守り続けてきた妹に裏切られ、また自分がいたせいで

 解放軍の多くの人間達を死に追いやってきた。

  俺は原村和に全てを奪われた。

  だからこそ、俺達が戦わなければならない。

  もう二度と、まだ見ぬ誰かが俺達と同じような目に遭う

 そんな世界が完成しないように抗わなければならないのだ。

  結論が出てるのに、どうしても躊躇するあたりが、きっと

 俺達が紛れもない人間であると言う証なんだろう。

  贅沢だな...俺達は。
335 名前:名無し 投稿日:2016/07/23 02:01 ID:bjfzpFwl
照「智葉、もう私...疲れたよ」

 照「ただの女が人類を背負う救世主のように祭り上げられ、

   そこから逃げられない自分に絶望しながら、心の奥で

   泣き叫ぶのに...」

 照「そんな出来もしないことを引き受けることで、

   今にも崩れ落ちそうな自分の心を騙すことに...」

 照「そして、今このときでさえ

   全身全霊を懸けているそんな自分がたまらなく大嫌い...」

 木場「照ちゃん...」

  照の涙。

  この解放軍に来て、ようやく分かったことがある。

  宮永がどうしてあまり感情を表に出さないのか?

  それはきっと、何かを捨てても何度でも立ち上がれる

 心の強さを追い求めた結果だと俺は思う。

  今に至るまで、宮永が捨ててきたものは俺の想像を

 絶する程あるのだろう。

  その中で取りこぼしてきたもの、なくしてきたものを

 たった一人で背負い続けると決心したその覚悟が宮永照を

 一人の女から『旧人類の希望』へと変えたのだ。

  人並みの幸せも、女としての夢も何もかもを失って、

 それでもなお、その苦悩を誰にも打ち明ける事無く、

 照はこの日々を生き抜いてきた。生き抜いてこられたのだ。

  そうでなければ、生きられるはずがなかったのだ...。
   
336 名前:名無し 投稿日:2016/07/23 02:02 ID:bjfzpFwl
 照の想像を絶する苦悩、今まで守ると誓ってきた解放軍、

 いや、力なき人々を見捨て、自分達の目的のために昨日の敵と

 手を結ぶのだ。

  俺を含めた全員が、良心と使命の板挟みになりながら

 苦しんでいる。

  誰も自分自身が抱える痛みを誰にも打ち明けられずに、

 言葉に出来ないほどの孤独が今も俺達を苛烈に苛む。
  
 

  

 京太郎「お前がが解放軍から出て行くことを...」

 京太郎「そこまで深刻に気に病む程、考える必要はない」

 京太郎「今の答えは、お前じゃなかったら出せなかった」

 京太郎「お前の出した答えだからこそ、価値があるんだ...」 

 照「やめてよ...そんな言葉を掛けられる資格は...」

  良心の呵責に耐えかね、草加の手を振り払って部屋から出て

 行こうとする照を智葉が引き止める。

  
337 名前:名無し 投稿日:2016/07/23 02:03 ID:bjfzpFwl
 草加「いいや、ある」 

 草加「確かにあるんだよ、お前には」

  照自身が分からないことを、絶対の自信を持って言い切った

 草加の表情はとても男らしかった。

  草加雅人はもしかしたら照を好きになりかけているのか?

  いいや、そんな邪推は余計だろう。

  人が人を好きになるのは、自由の中でも究極の部類に入る。

  誰かを受け入れることが、共存の第一歩だとしたら?

  きっと草加も心の底では誰かさんの理想を認め始めて

 いるのかもしれない。


 草加「忘れたのか?あの日のことを?」

 草加「正直に言えば、マンガのような青臭くて古ぼけた

センスの欠片も何一つ入っていない寒いものだが...」

 草加「信じ合うための絆とかいうやつなんだろう?」

 草加「だから、お前は後先を考えなくてもいい」

 草加「今しばらく俺達は馬鹿を見てやる」

 草加「お前らも、そういう腹積もりなんだろう?」


  この時、雅人は自分がどんな表情を浮かべていたのかを知らない。

  彼自身、どうして照を気にしているのかという理由を

 理解できていない。

  だけど、彼が今浮かべている表情は...

  くじけそうな友に向ける優しい微笑みだった。


338 名前:名無し 投稿日:2016/07/23 02:05 ID:bjfzpFwl


 草加「ま、いい年こいた大人や人間臭いバケモノの青臭い

理想論には正直うすら寒さすら感じたが...」

 草加「俺達はあの時、お前を信じると決めた」

 草加「お前に力がなければ、補えばいいんだろう?」

 草加「俺達に出来ない事があれば、お前が代わりにすればいい」


 
 草加「救世主が一人だけでは駄目だと、一体誰が決めたんだ?」



 木場「草加君...君は」

 草加「いいじゃないか、救世主」

 草加「こんな世の中だ。君みたいな無責任なヤツが

    人類の希望の象徴にだってなれるんだ」

 草加「だったら、オルフェノク側に寝返った解放軍の

    用心棒が救世主を自称したって、別に構わない筈だ」

 草加「ついでに世界を救えば、万々歳。違うか?」

 草加「そういうことなんだよ。結局」

 草加「オルフェノクでも、ヤクザの娘でも、人生をiPS類に

    滅茶苦茶にされた奴でも、大切な人を奪われた奴でも」



 草加「世界を救う権利は、まだ誰にも奪われちゃいない」
 
  


339 名前:名無し 投稿日:2016/07/23 02:05 ID:bjfzpFwl

 
 草加「それでもお前が、解放軍を捨てたことを気に病むのなら

    裁判でも何でも開き、罪を問われればいい」

 草加「ま、こういうのは気にしてもどうしようもならない」

 草加「こういうのはきっと、自分で納得するしかない話だ」

 草加「お前達も俺が折角分かりやすく、わざわざ気の利いた

    言葉を考えて、精一杯気を使ってやったんだ」

 草加「さっさと答えを出せ」 


 智葉「草加、お前...本当に変わったな」

 草加「宮永照は頼りないからな」

 草加「しょうがなく、渋々変わってやったんだよ」

 京太郎「だよな」

 照「もう...」

 木場「でも、みんなもう答えは決まってるんだろう?」

 智葉「ああ、勿論だ」

 京太郎「スマートブレインを掌握し、この世界を歪めた元凶、

     原村和とその他諸々をとっちめる」

 京太郎「そして日本を元の姿に正しく戻す」

 木場「その通り」

 草加「だな」
340 名前:名無し 投稿日:2016/07/23 02:06 ID:bjfzpFwl
 道のりは長く、険しいだろう。

  この戦いが終わる前にこの五人が全員死ぬ可能性の方が

 高いのは目に見えている。

  iPS類の実力は未だに底が見えない。

  正面から挑み、俺は奴等に勝つことが出来るのだろうか?

  いや、勝つんだ!

  何を躊躇っているんだ、俺は?!

  あの時の恨みを忘れたのか?

  人を虫けらのように扱う連中が、幸せに生きていい

 道理なんかどこにもない。

  あの二人を生かすわけには行かない!

  そうでなければ、優希に顔向けできない...。

  
 草加「宮永、今何時だ?」

 照「午前三時」

  智葉に脇腹を小突かれて、あわてて我に戻った。

 草加「ま、今日の話はここまでにしておこう」

  大欠伸をしながら、草加は手短に明日からの動きを

 話しはじめた。

  草加の話を聞きながら、俺はウクライナにいる優希と

 息子の事を考えていた。

  なぁ、優希。

  お前は今、元気にしているのか...。

  名前を付ける事無く、目を背け続けてきた息子のことが

 今になって脳裏に浮かびあがってくる。

 優希「京太郎...あのね...」

  懐かしい響きの一言が、ゆっくりと俺を眠りに誘う。

  
341 名前:名無し 投稿日:2016/07/23 02:06 ID:bjfzpFwl
幕間2  とある研究所にて


 研究者1「被験体・天江衣の様子は?」

 研究者2「状態は安定しています。完璧ですよ」

 研究者2「彼女はオルフェノクの激情態を制御できる、現状では

      世界でたった一人の『R-O-L-L』計画の成功体です」

 研究者2「もっとも、彼女の理性と性格は既にロストしていますが」

 研究者2「実際の所、我々に必要なのは彼女の血液だけですからね」

 研究者1「そうだな。我々の明日には彼女が必要だ」

 衣「.....」

 研究者3「主任、天江衣の量産型クローンのことですが...」

 研究者1「なんだ、また失敗したのか?」

 研究者3「はい。オリジナルに比べて血中のオーブ濃度が低く

      更にiPS細胞に耐えられないほど肉体が脆弱です」

 研究者2「チッ、またDNA解析のし直しかよ」

 研究者2「猫の首に一体誰が首輪をつけるってんだよ」

 研究者1「それが我々なのだよ」

 研究者1「ぐずぐずせずにとっとと実用化してしまおう」

 研究者1「石戸司令の期待に背けば、我々は処刑される」

 研究者1「早急に取り組みたまえ!」
342 名前:名無し 投稿日:2016/07/23 02:07 ID:bjfzpFwl
幕間3  スマートブレインにて


 ハギヨシ「LEO、遂に明日ですね」

 LEO「そうだな、ついに明日だ」

 LEO「ハギヨシ、小鍛冶の後釜は?」

 ハギヨシ「透華お嬢様に決まっているでしょう」

 LEO「一応、あのBITCHを殺す算段は付いた」

 LEO「だが、殺せたとしても..いや、なんでもない」

 ハギヨシ「でしょうね。まぁ、人の気持ちを踏みにじり続けた

      悪党には、お似合いの最後でしょう」

 LEO「わかっていると思うが、この一件が終わったら

村上社長の救出作戦に取り掛かるぞ」

 ハギヨシ「そのつもりですよ」

 ハギヨシ「ただ、政府側についている花形がどう動くかが

      今後の私達の最大の懸念ですが...」

 LEO「どちらにしろ、奴らとやりあえる頭の持ち主は、

    俺たちの側だと村上社長しかいない」

 LEO「だが、それもどれだけ彼が衰弱しているかが問題だ」

 ハギヨシ「言い換えれば、その為の小鍛治健夜なのです」

 ハギヨシ「彼女の心臓だけを残し、後は焼却して下さい」

 ハギヨシ「くれぐれも、失敗はしないでください」

 LEO「わかった」
343 名前:名無し 投稿日:2016/07/23 02:07 ID:bjfzpFwl
幕間4  首都 国会議事堂の一室で...


 霞「ふぅん、なるほどねぇ...」

 霞「アメリカが本腰入れて動くってことは、核の一つや

   二つを日本に落とすって事かしら?」

 霞「ま、それはそれでおもしろそうだけど...」

 はやり「はやや~、かすみんってば悪女の顔してる~」

 霞「アラサーのはやりんがここになんのようかしら?」

 はやり「次言ってみな、ブッ殺スぞ☆」

 霞「はぁ、憂鬱だわぁ」

 はやり「ん~?解放軍とスマートブレインのこと?」

 霞「そうなのよ。ねぇ、はやりん」

 霞「咲ちゃんと照ちゃんと...あとは解放軍の

   辻垣内さんだったら、誰を残したい?」

 はやり「はや~♪ガイトちゃんは残したいなぁ」

 はやり「あとは、宮永ちゃんたちは...ポイしてもいいや」

 霞「じゃあ、私は...あら?」

 霞「別に残さなくてもいい連中ばっかりね」

 はやり「ふーん、殺しちゃうんだ~」

 霞「最終的には、だけどね」

 霞「取り敢えず、はやりんにはアメリカに飛んでもらいます」

 霞「そうね、手始めにカナダ軍を陥落してもらおうかしら?」

 はやり「その後は、ホワイトハウスに『雨』を降らせるの?」

 霞「『原液』を特別に使いましょうか」

 霞「主要な軍事施設にもばらまきましょう」

 はやり「わ~、大変だー☆」

 はやり「核兵器落とされても知らないぞ?」

 霞「暫くの間、アメリカには動けなくなくなってもらわないと

   都合が悪いのよ...。ロシアの目を惹きつける為にね」

 はやり「うんうん。分かったよ」

 はやり「それじゃあ、まったね~」

 霞「カナダを手土産に帰ってきて頂戴ね?」

 霞「あそこがあるのとないのじゃ、結構響くから」

 はやり「はやや~☆」
344 名前:名無し 投稿日:2016/07/23 02:08 ID:bjfzpFwl
     <~とある諜報員の手記より抜粋~> 
 
 
  解放軍で私が成すべき仕事は終わった。

  恐らく、この手記が彼等に渡る頃、きっと私は死んでいる。

  後悔はない。

  世界が大きく歪められ、今もどこかで助けを求め、

 泣き叫んでいる人達がいるはずだ。

  せめてもの贖罪に、私の命を使って...もう一度世界を
 やり直す為の革命の導火線に火をつけたいと思う。

  希望の種は既に蒔かれている。

  信じることと疑うことは紙一重で絶望に変わる。

  だからこそ...

  人の心の闇を切り裂き、光を齎す救世主が必要なのだ。

  人々の欲望が結実し生み出された神々ではなく、人が人を
 導く為の救世主こそがこの世界には必要なのだ。

  どうか、後に残された人類が夢をみることを諦めませんように...。
 
 
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