サトシ「さあ……いこうぜ相棒」

1 名前:名無し 投稿日:2017/01/09 07:44 ID:p3kkTtj5

鳴り止まぬ歓声……その中央には、古来からその姿を変えていない、完成された戦場がそこにはあった。



『さあ!始まりました、最高峰のポケモンチャンピオンを決める祭典!ワールド・ポケモン・グランプリ!この強者達が送る最高の協奏曲も、既に終盤に差し掛かってきました!



熱気の収まる様子を見せない、ポケモンリーグの最高峰、WPG。


司会者が叫び声を上げるかの様にマイクを握り、五万人以上はいるであろう観客達に言葉を投げかける。


『そして!ここで争うのは両者、最後の戦いの締めるに相応しい、この二人だ!!!


ド派手な炎の演出がなされて、戦場の対となるゲートに二人の男が姿を現した。


一人は帽子を深く被り、表情が伺えない、黒色のコートに身を包んだ男だ。


決して寒くはない、この気候の中でのかなりの厚着。


会場にいる観客達もこの男から感じる只ならぬオーラに飲み込まれそうになっていた。


もう一人は対照的に帽子は浅く、青色の明るい服装で、曇りのない真っ直ぐな瞳で会場全体を見渡している青年だった。


肩には愛らしい電気ポケモンのピカチュウを乗せて、屈託の無い笑顔で微笑んでいる。


そのピカチュウの背中には、イナズマの様な大きな傷跡があった。


「なあピカチュウ…
2 名前:名無し 投稿日:2017/01/09 07:46 ID:p3kkTtj5
ピカチュウを肩に乗せている青年が、小さくつぶやく様に言った。


歓声で掻き消されそうな声を、彼の小さい相棒は聞き逃さなかった。


「ピカ?


「やっとここまで辿り着いたのか……って感じだな。もっと感動するもんかと思ったけど……案外感慨深くはないもんだぜ


「ピーカ!


そんなもんだと言いたげにピカチュウは青年の頭にポンと手を乗せる。



青年は少しばかり苦笑しながら、向かい側にいる対戦者の顔を見た。



表情の窺い知れない、未知の相手だ。
青年はそっとピカチュウを撫でた。



「……さあ行こうぜ、相棒。



『遂に!遂に我々が待ち望んでいたバトルが始まります!このバトルは、史上初となるポケモンマスターの称号を与えられる、明確な証となります!


その様子は、今まで彼を支えてくれた者、敵だった者、ライバルだった者達が、全世界の同時中継によるテレビやラジオで、詳細を余す事なく伝えられた。


やがてバトルが始まり、伝説とまでになった攻防戦を出し惜しみ無く両者繰り広げる。




やがてそれも終わり、あまりの壮絶さに観客達は圧倒され、沈黙が漂う中……今大会の優勝者はサトシという少年で幕を下ろした。
3 名前:名無し 投稿日:2017/01/09 07:53 ID:p3kkTtj5
カントー地方、ラティアス空港126。



観光客や、帰省で人がごった返す中、人に揉まれながらゲッソリとした表情を浮かべる可憐な少女と、水ポケモンのポッチャマがトボトボと雑多なエントランスを歩いていた。



「な、長かった……カントーは人が多いのね……



「ポ、ポチャア……



可憐な少女の名前はヒカリ。



彼女はシンオウ地方をサトシと一緒に旅した仲間だった。


シンオウ地方在住の彼女が今回、カントー地方に居る訳は。


あれから六年の月日が流れ、最高峰のポケモンリーグを優勝したサトシがカントーのマサラタウンに帰省中だからである。



同じくカントーに在住の旅仲間、タケシから連絡があり、彼の激励パーティーを開くので来ないかと連絡があったのだ。



チャンピオンとして名実共にポケモンマスターとしての称号を手に入れたサトシには、ポケモンリーグ運営から一年間の休養が与えられるらしい。


警察組織と連携して、休養中の彼にポケモン勝負を挑むものは処罰の対象になるというのだから驚きだ。


一個人にそこまでの配慮が成されるのは異例中の異例である。


「高みに登っちゃったって事かあ……なんか、ちょっとサトシが遠い人になっちゃった気がして逢いづらいなあ……



「ポチャア!ポチャ、ポチャア!



寂しそうに呟いたヒカリに、ポッチャマが叱責する様に口を開く。




恐らく、お前がそんなんでどうする!と言っているのだろう。



付き合いの長い彼女にはポッチャマの言っている事がニュアンスで分かってしまう。



ヒカリは苦笑しながら、



「そうよね!浸ってるなんて私らしくないわ!何時もの大丈夫、大丈夫で行きましょう!そんでハイタッチよ!



「ポチャア!
4 名前:名無し 投稿日:2017/01/09 08:07 ID:p3kkTtj5

頷きあった二人は空港を後にし、マサラタウン行きのバスに乗って出発した。




流れていく外の景色をみながら、ヒカリは道中を歩くポケモントレーナーとおぼしき子供達を見て顔を綻ばせる。




「見て見て、ポッチャマ。トレーナーよ、サトシ達と旅に出たのが懐かしいね。



「ポチャア……



ポッチャマは昔を思い出す様に腕を組んでつぶらな瞳を瞑る。




その様子にヒカリはクスクス笑いながら、彼女も目を瞑って昔を思い出してみた。




ヒカリは自分達もトレーナーで旅をした時は、必要な時以外、徒歩で移動したもんだ、と振り返る。




トレーナーは基本、交通機関は使わない様にするのが常識だ。




森や山を越える時、道中で新たなポケモンに出会えるかもしれないし、バトルを挑まれたり、挑んだりして力量も磨ける。




森や山で野宿したりして、心身ともに体を鍛えるのだ。




ヒカリの中ではその時の事を鮮明に思い出せる。
嫌な事も沢山あったけど、楽しい事はもっと沢山あった。




まるでダイヤモンドやパールの様に、大切な思い出として心の中に残っている。




アレもコレもみんな、サトシやタケシ、ポケモン達のお陰だ。




彼らのおかげで今の私があるのだと、ヒカリは胸を熱くする。




「ポチャ?




ポッチャマを強く抱き締め、かつての旅の仲間達と早く逢いたい……。





ヒカリがそう思いを馳せていると……その思いを踏みにじるかの様に、期せずしてバスが勢いよく停車した。




「きゃ!




「ポチャア!
5 名前:名無し 投稿日:2017/01/09 08:12 ID:p3kkTtj5
あまりの勢いの停車に、ヒカリは前の座席に頭をぶつけそうになったが、ポッチャマが寸前で自ら前に出て、クッション代わりとなった。


「ポ……ポチャ……


「きゃあ!ポッチャマ大丈夫?


ポッチャマは顔を赤くしながら、フラフラと立ち上がり、


「ポチャア!ポチャ、ポチャ、ポチャア!


涙目で運転席に向かって抗議した。


「も、申し訳ありませんお客様!前にポケモンの群れが出てきて……



運転手がマイクを使って、車内にアナウンスする。

外を見ると、確かに何かのポケモンが砂埃を上げながら走り去っていた。
6 名前:名無し 投稿日:2017/01/09 08:18 ID:p3kkTtj5

「ちょっと!おばあちゃんが今ので頭を打って動かないの!


車内で悲痛な叫び声が上がった。


ヒカリは振り返ると、確かに後ろの座席でピクリともしないおばあさんが床に横たわっている。


それを確認した運転手は慌てて席に戻り、再びマイクを握ってアナウンスをした。



「すみません、お客様!緊急事態につき、先程出発した街へと引き帰らせて頂きます。何卒ご迷惑ご容赦下さい!



運転手はそう言ってバスをUターンさせ、元来た道を引き返す。



ヒカリは席を立ち上がり、床に横たわるおばあさんの元へと近寄ろうとして……


「何よ、アンタ!近寄らないでよ!


「きゃ!


横にいた女の子に突き飛ばされた。
ヒカリは頭を打たない様に、バスのポールに捕まり、態勢を立て直す。


「ちょっと、いきなり何すんのよ!


「ポチャア、ポチャア!


ヒカリとポッチャマは非難の声を女の子に投げかけると、女の子は引かずに鋭い目でヒカリを睨みつけた。


「医者でもない癖におばあちゃんに近寄らないでよ!下手にいじられたらこっちが困るの!


「医者よ!なんなら証拠見せたげる!


ヒカリはそう言うと、バッグから医者の証明書カードを女の子に見せつけた。


ヒカリは数年前に短期スクールを出て、医者の資格を取っていた。


まだ新人研修者扱いだが、それなりの知識はある。


「私が診るから、早く退いて!


ヒカリは鬼気迫る顔で女の子に迫ると、バツが悪そうにおばあさんの横をどいた。


ヒカリは跪いておばあさんの脈拍を見てみる。


……異常は見当たらない、次は突っ伏している状態の顔を少し持ち上げ、外傷を見てみた。


本来なら頭を打った場合、動かさない方が得策だ。


しかし、救急隊が到着した時、少しでも症状を伝える必要がある。


見てみると、軽いコブはあったが、脳内出血を起こしている風には見当たらなかった。


「脳しんとうの様ね……緊急性は無いけど、一応は病院で見てもらった方がいいわ。


ヒカリはうつ伏せのおばあさんを仰向けにして、頭の下に自分のバッグの中にある、小さいマットを敷いた。


と、その時。


再びバスが急停車して大きく揺れる。


「きゃ!


「ポチャア!


頭を打たない様に近くの座席に掴まりながら、ヒカリは今度は何だと運転席を見る。



「く、クソ!またポケモンが前に!


見ると、今度はポケモンがバスの前に出て、バリアの様な技で車体をせき止めていた。
7 名前:名無し 投稿日:2017/01/09 13:44 ID:z0btr4Tp

空間が大きく揺らめいて、存在を視認出来ないほどの強力なバリアだ。


並々ならぬオーラとパワーをヒカリは感じた。


「ポチャア!ポチャア!


ポッチャマに声をかけられ、ヒカリはハッと我にかえる。


ポッチャマは床に横たわるおばあさんを指差していた。このままじゃあ早く病院に行けないって事だろう。


ヒカリは意を決して運転席へと歩みを進めた。


「運転手さん!バスの扉を開けて!


「お、お客様!?今外に出るなんて無茶ですよ!


「大丈夫!私こう見えてもトレーナーだったんだから!ポッチャマと私であのポケモンを何とか引き付けるから貴方は早く町に向かって!


「で、でも……


なおも食い下がる運転手に、ヒカリは胸ぐらを掴んで叫ぶ。


「良いからお願い!私に任せて!


運転手はコクリと頷いて外へと出るドアのボタンを押した。


ピーッと音がして、扉が開く。


ヒカリは幾つかの小銭を料金入れに放り投げ、勢いよく外に出た。
8 名前:名無し 投稿日:2017/01/10 00:08 ID:bP7hQiuw
支援
9 名前:ジョー 投稿日:2017/01/10 00:33 ID:NALpbdma
ポケモンSS描いてるジョーと言います

主さんの作品面白いですね。支援させてください
10 名前:名無し 投稿日:2017/01/10 12:10 ID:YZUxHW7I

「ッ!このポケモンは……!?



それは真っ赤な瞳をした、ルカリオだった。
片手からバリアーの様な技を発生させ、バスをせき止めていた。



ルカリオは落ち着いた様子で、ヒカリとポッチャマを見つめている。



「ルカリオ!貴方何でこんな事を!怪我人がいるの!早く退いてよ!


「……



返ってきたのは返事では無く、強烈な悪の波動だった。



ポッチャマはヒカリを蹴飛ばして、悪の波動の軌道上から逸らさせた。



そして自らは蹴飛ばした反動でくるくると回転しながら技を避ける。



トライポカロンで鍛えたポッチャマの身のこなしは、既に完成されたレベルだった。



後ろからは悪の波動が炸裂し、岩の破片がパラパラと降ってくる。


「ポッチャマ!冷凍ビーム!


「ポッチャア!


そして、その動きをある程度予測していたヒカリが尻餅をついた状態で指示を出す。



ポッチャマはすかさず、ルカリオへと向けて冷凍ビームを繰り出した。



「!?


ルカリオは驚きながらも、大きくジャンプをしてそれを避けた。



せき止めてられていたバスが、動き出す。


ポッチャマの冷凍ビームが少しばかりバスの車体にかかったが、大きな問題は無かった。



運転手はヒカリ達に大きく頭を下げながら、猛烈な勢いで町へと向かって行く。



ルカリオはそうはさせまいと思ったのか、空中でまた悪の波動を作り出し、バスに向かって撃ち込んだ。



それをポッチャマが冷凍ビームで食い止める。
ルカリオはそれを受け、今度はヒカリ達に敵意の視線を向けた。



完全にターゲットが切り替わった様だ。
11 名前:名無し 投稿日:2017/01/10 12:13 ID:YZUxHW7I

大きく唸り声を上げながら地面に着地し、猛烈なスピードでこちらに向かってきた。



「ハハッ……ちょっと後悔。ポッチャマ!地面にバブル光線!



「ポッチャア!



ポッチャマがバブル光線を地面に放つと同時に、砂埃がもうもうと上がり、その場の視界がゼロになる。



ヒカリは立ち上がり、ポッチャマと一緒に近くの森へと駆け出した。



「グルァァアアア!!!



「る、ルカリオってあんな鳴き声だっけ!?



「ポ、ポッチャア!


違う気がする、とポッチャマは首を振りながら猛然と走る。



ヒカリもまた、息を切らしながら猛然と走りながら、新入した森の地形を見ていた。


「クッソォ……何でこんな日に限ってこんな目にあうかな!トラブルメーカーのサトシ達と別れて平穏な日々を過ごしていたのに!サトシの故郷に近づいたからかな!?


「ポチャ、ポチャア!


後ろから幾つもの悪の波動が飛んでくる。



近くの木々に命中し、とてつもない炸裂音が響き渡る。



木々の破片が飛び散り、それがヒカリの脇腹に一つ突き刺さった。



「カハッ……


「ポチャ!?


ヒカリはその場に倒れこむ。


ポッチャマが慌ててそれを受け止めた。
12 名前:名無し 投稿日:2017/01/10 12:15 ID:YZUxHW7I

後ろを見てみると、ルカリオがゆっくりとした歩みでこちらに近づいて来ていた。



心なしかその口元は笑って見える。



ルカリオは両の手から、轟々と燃える炎を出した。


「ウッソォ……あんな技ルカリオって使えたっけ?……ポッチャマ、私の事は良いから早く逃げてって……逃げる訳ないか、貴方の事だから。



「ポチャポチャ!!



当然だ、とでも言いたげにポッチャマは涙目で胸を張る。



ヒカリはこんな状況でありながら、クスクスと笑みをこぼしながら、小さな相棒を抱きしめた。



「じゃあ……アイツを倒して、一緒にサトシ達に会いに行こっか?



「ポチャポチャ!



望みはハッキリ言って薄い、だが、賭けるしか無かった。



ヒカリはポッチャマを放し、ルカリオと対峙しようとした時、ルカリオが一瞬ブレ、そして姿を消した。



「エッ?……



数瞬の時が流れ、突然ルカリオが目の前に現れる。



まるでエスパータイプのテレポートの様だった。
ルカリオはポッチャマを蹴り飛ばし、遠くへと吹っ飛ばす。



「ポチャア!!



「ポッチャマ!



ヒカリが叫ぶと同時に、ルカリオはヒカリに対し、拳を上げていた。



拳を天高く上げ、作り出しているのは悪の波動だ。



今まで見た事の無いくらい、大きい悪の波動だった。



「あーあ……サトシ達にもう一度……会いたかったな……



ヒカリは涙を浮かべていた。



そして覚悟を決め、ゆっくりと目を瞑ろうとした時……聞き覚えのある声と、見覚えのある黄色い小さな背中が見えた。
13 名前:名無し 投稿日:2017/01/10 12:18 ID:YZUxHW7I

「ピカチュウ、アイアンテール!



「ピッカァ!



ルカリオは横からの乱入者に思いっきり弾き飛ばされる。



凄まじい威力のアイアンテールだった。



あまりの衝撃に、ヒカリの体は少しばかり吹き飛んだ程だ。



「きゃあ!



「よっと、間に合ったみたいだな……



聞き覚えのある声。
吹き飛んだヒカリの体を優しく受け止めた人物から聞こえた。


ヒカリは自分でも無意識に涙を流しながら、その方向を向いた。



その人は……。



「サトシ!!



「ひ、ヒカリ。間に合って良かった。丁度、近くにいたら妙な爆発音が聞こえてさ……きてみたらこんな状況に……



サトシだった。



サトシは何故かヒカリの顔を見て赤くなりながら、自分の現れた経緯を説明する。



そして、サトシはヒカリをお姫様抱っこすると、妙に息を荒くしながら、ピカチュウに指示を出した。



「ピカチュウ、ルカリオがまた起き上がるぞ。適当に暫く動けなくしてやれ。



「ピッカァ



ピカチュウは倒れているルカリオに近寄ると、今度はエレキボールを作り出し、ルカリオの顔面に叩きつける。



もうそれは、爆発だった。
こんな技は……威力は見たことが無い、それ程の迫力だった。


「あ、あれがポケモンマスターのピカチュウ……



思わず呟くと、サトシは照れた様に笑いながら、静かに頷いた。


「ああ……最強で、最高の相棒さ。



爆煙が晴れ、ピカチュウの後ろ姿が見えた。



もはや世界中で知らないものはいない、背中に大きなキズのトレードマークを背負った最強のピカチュウ。



畏怖の象徴とまで言われたその背中は、とてつもなく、頼りに見えた。
14 名前:名無し 投稿日:2017/01/10 12:28 ID:YZUxHW7I
支援ありがとうございます。作者です。実を言うとポケモンあまり詳しく無くて、最近アニメにどハマりして書き始めた感じです。なので自分の想像で書いてしまう場合が多々あるかもしれません。何卒ご容赦ください。
15 名前:名無し 投稿日:2017/01/11 22:52 ID:x992BiqI
ゴォォォッと未だに爆煙が舞う森の中、ヒカリとポッチャマは無事サトシに救出され、近くの川のほとりで治療を受ける事となった。



先ほどのルカリオはサトシがモンスターボールで捕まえ、現在は彼のバックの中で眠っている。



「いてて……



「む、無茶しやがって……ほ、ほら。傷はどうだ?


「それが……まだ脇腹に突き刺さったまんまで……結構木片が大きいから病院に着くまでこのままにしとくわ……



「見してくれ



サトシは大きく息を吸い込むと、意を決した様にヒカリの服を捲って傷を見た。




ヒカリはお腹とはいえ、初めて男性に服を捲られた為に少しだけビクッとしたが、羞恥心より痛みが優っていた。




黙ってサトシに傷を見せる。




「やっぱりか……コリャまずいな



「えっ、どうしたの




気になってヒカリはサトシの顔を見ると、真剣な眼差しで傷跡を凝視していた。



暫くして目があうと、サトシは顔を赤くしながら顔を背ける。



ヒカリが首を傾げていると、サトシがハッと何かを思い出した様にヒカリに向き直った。



「な、なに?どうしたの?



「ヒカリ……あんま傷口痛くないだろ?



「ま、まあ……確かにこの傷ならもっと痛いかな〜と思ったけど、何でかそこまで痛くないわ。大丈夫よ。でも……どうして分かったの?



「ルカリオの毒技のせいだ、感覚が麻痺してるから今はあんま痛くないだろうけど……このままじゃあ毒が広がって死ぬぞ



「ええ!?毒技!?なんで……



ヒカリが驚くのも無理は無い、なんせ毒技など浴びた覚えは無いからだ。




しかも刺さっているのはルカリオの悪の波動で散った木片。確かな医療とポケモンの知識を持っているヒカリには到底信じられなかった。
なんせ……ルカリオには毒の特性は無い。



「サトシ……ルカリオには



「さっきのは遺伝子操作された改造ポケモンだ。最近ああいうのが多いんだよ



ヒカリは耳を疑った。
遺伝子操作?改造ポケモン?しかもそれが最近多いって?
ヒカリは困惑しながら口を開く。
16 名前:名無し 投稿日:2017/01/11 23:05 ID:x992BiqI

「その……遺伝子操作って本当?だ、誰が何の為にそんな事を……


「それより今は治療だ。ヒカリ、ポケモンに乗ってマサラタウンまで行くぞ



困惑するヒカリを他所に、サトシはモンスターボールを取り出してポケモンを出した。
そのポケモンは大きな翼を持った鮮やかな橙色のリザードンだった。



「わあ……



思わずヒカリ感嘆の声をあげると、リザードンは誇らし気に背中を見せた。
乗れという事だろう。



ヒカリはサトシに抱えられて、リザードンの背に乗り、あっという間に空高く天空へと飛び上がった。
17 名前:名無し 投稿日:2017/01/11 23:39 ID:x992BiqI

ここはマサラタウン。
人口も少なく、ポケモン研究の大権威のオオキド博士のいるオオキド研究所と、寂れた植物園くらいしか目新しいものは無い、静かな街だ。




その為か野生のポケモンも近辺に沢山垣間見え、のんびりとした空気感が漂っていた。




そこに、凶悪そうな古傷を沢山持つ、サトシとヒカリ、ピカチュウを乗せた(ポッチャマはヒカリのボールの中)リザードンがオオキド研究所のポケモン広場に降り立った。



サトシはリザードンをモンスターボールに戻し、ヒカリの手を取る。



「ヒカリ、少し持ち上げるよ……ハアハア



「サトシ?……どうでもいいけど何でさっきから鼻息が荒いの?




「えっえっ?……ご、ゴメン



ヒカリは赤面しながら謝るサトシを不思議に思いながら、言葉に甘えてサトシに身を預けた。
サトシはヒカリを軽々と持ち上げ、オオキド研究所の中に入っていく。




ヒカリは必死に鼻息を抑えて呼吸をするサトシを見ながら、背が伸びて、体もより一層逞しくなったサトシを頼もしく思っていた。


『……サトシ、何だか逞しくなっちゃって……





しばらく行くと、建物のキッチンの様な部屋に入った。
その部屋にはガッシリとした体型には不相応な、可愛らしいピンクのエプロンを着た男が鼻歌を歌いながら流し場で炊事をしていた。



周りにはその炊事を見届ける沢山のポケモン達の姿がある。



ヒカリにはその後ろ姿に、確かな見覚えがあった。




「よーし、みんな。もうすぐタケシ特製スペシャルポケモンフーズが出来上がるぞ!……はあ、たくっ、それにしてもサトシの奴、朝っぱらから外をほっつき歩いて……パーティーにちゃんと間に合う様に帰ってくるのか?




「聞こえてるぞタケシ。ちゃんとお客さんを連れて帰ってきたぞ!



ん?と振り向いた男は……ヒカリの思った通り、かつての旅仲間、タケシだった。
タケシはサトシを見ると、呆れた様な表情を浮かべて……




「あ!おい、サトシ。お前どこ行ってたんだよ?パーティーの主役がその辺ほっつき……って!その抱き抱えられているのはヒカリか!?その傷どうしたんだ!
18 名前:名無し 投稿日:2017/01/12 00:09 ID:sannKG9M
タケシはヒカリを見るなり、慌ててこちらに走り寄ってきた。


ヒカリ「タケシ……久しぶり


タケシ「久しぶりじゃないだろうヒカリ!……ああ、ひどい傷だ……サトシ!何があったんだ!?



サトシ「散歩してたらポケモンに襲われているヒカリを見つけたんだ、ヒカリは今そのポケモンのせいで毒状態になってる……タケシ、悪いけど研究所の倉庫から薬を持ってきてくれないか?




タケシ「何!?分かった、すぐ、持ってくる!



タケシはそういうと、キッチンを風の様に飛び出していった。



サトシ「さてと……ヒカリ、悪い



ヒカリ「えっ!?何?



サトシ「ちょっと痛むぞ



そういうとサトシは、ヒカリの脇腹に刺さった木片を勢いよく引き抜いた。




ヒカリ「っ!!?




あまりの痛みにヒカリは意識が遠くなり、すぐ様意識を失った。
19 名前:名無し 投稿日:2017/01/12 01:15 ID:sannKG9M
微睡みの中、ヒカリは夢を見ていた。
まだかなり幼かった、子供の頃の夢だ。



近所のスーパーで母親に連れられ、ヒカリは沢山の商品棚にキラキラとつぶらな瞳に星を浮かべて視線をめぐらしていた。



ヒカリは自分の好物を見つけ、母親の持っているカゴにお菓子を放り込もうとして怒られる。
それを数回繰り返して、見兼ねた母親にカゴの上に乗せられ、監視下に置かれた。



そんな夢。


今覚えば恥ずかしくも、思い出せば微笑んでしまう様なそんなエピソード。
そんな中で、ヒカリは誰かからの呼びかけで目が覚めた。



………………………………

……………


?「ヒカリ……ヒカリ……大丈夫?


ヒカリは意識が完全に覚醒し、自分に声をかけてきた人物へと視線を送る。
それはベリーショートの髪型をした、背の低い、とても可愛らしい同年代くらいの女の子だった。



ヒカリ「……え?あなた……だれ?



ヒカリの質問に女の子は目をパチクリさせ、ヒカリにおかしなモノを見る目を向けた。



?「何行ってんのさ?……ボクは……ってあれ?……またボクはいつの間にこの姿に……ま、いっか



女の子はピョコッと立ち上がり、ヒカリに背を向けて歩き始める。



ヒカリ「ちょっと!待ってよ、あなた一体……て、え?


呼び止めたヒカリは、女の子がスッポンポンの全裸な事に気がついた。
そして背中には、目立つ大きな傷が見えた。



ヒカリ「……



言葉を失っているヒカリを他所に、女の子はガチャリと音を立てて、部屋から出て行った。



……暫く放心してから、ヒカリは改めて自分が寝ていた部屋を見回してみる。



ポケモンのポスターやら、モンスターボールのレプリカやら、トロフィーなんかが飾ってある如何にも男の子らしい部屋だった。
ヒカリはその部屋のベッドで寝ていたのだ。



イマイチ状況が掴めずにヒカリは戸惑っていると、ガチャリと音を立てて部屋の扉が開いた。



「あら、起きてたの?



ドアノブに手をかけ、心配そうに声をかける女の子だった。




彼女はヒカリを見つめたままゆっくりと歩み寄ってきて、ヒカリの寝ていたベッドに腰をかけて座った。
20 名前:名無し 投稿日:2017/01/12 22:32 ID:KAClwio9
ユーチューブにopとed付きでアップしてみました。宜しければご覧下さい。
21 名前:名無し 投稿日:2017/01/13 00:02 ID:lzPYphSM
支援
22 名前:名無し 投稿日:2017/01/14 14:13 ID:lXBbwuZm
支援です
23 名前:僕◆K17zrcUAbw 投稿日:2017/01/18 15:52 ID:VwLtWKE1
支援
24 名前:名無し 投稿日:2017/01/19 01:04 ID:xJIuRuZw
支援
25 名前:名無し 投稿日:2017/01/20 00:34 ID:n1vvs5sG
ヒカリ「貴方は……誰?




少女は短めな髪を横に束ねただけのシンプルな髪型をしていた。
色は鮮やかな薄オレンジ色。

暗い色の髪型を持つヒカリからしたら、少し羨ましかった。




少女はヒカリを見つめたまま、にっこりと微笑んで口を開く。



カスミ「カスミよ。ハナダジムのジムリーダーやってんの。サトシとタケシとは昔の旅仲間って感じかな。




カスミ……聞いた事ある、と。
ヒカリは脳の淵に眠る、深層の記憶を呼び起こしてみる。




やがてヒカリは、夜の森で野宿をするときに、火を囲んで月明かりに照らされながらサトシとタケシから聞かされた、かつての旅仲間についてのエピソードを思い出した。




自称、おてんば人魚のカスミ。
少し強気な性格で、タケシの暴走を止める当時はいなかったグレッグルの役割を担当していたのだとか。



ヒカリ「カスミさん……あ!昔タケシから聞いた事あるわ!一番最初の旅仲間だって。





カスミ「まあ、そうなるのかな?久しぶりに会ってみたけど、サトシもタケシも随分変わってたわ。特にサトシはポケモンの事しか脳にないバトルマシーンみたいな奴だったけど……





ヒカリ「ああ、確かに!サトシってば旅してる時も休んでる時もポケモン、ポケモン言ってソワソワしてた!





カスミ「だ・け・ど……今はアイツも思春期真っ盛りの飢えたグラードン……いや、ヒコザルね。ヒカリさんも気をつけてね、貴方とっても可愛いから油断していると襲われちゃうわよ?





カスミはやれやれといった感じで肩をすくめながら言った。
対して、ヒカリは不思議そうに首をひねる。





ヒカリ「思春期……ヒコザル?……サトシが私を襲う?どういう事ですか、カスミさん?




カスミはずるっと体勢をオーバーに崩しながら、ヒカリを見つめる。




カスミ「まさか……気づいてないの?貴方、サトシに負けず劣らずの鈍感系ね?




ヒカリ「えっ?……どゆこと?
26 名前:名無し 投稿日:2017/01/20 01:30 ID:96xUC1X7
支援
27 名前:名無し 投稿日:2017/01/20 07:48 ID:IrCcCWzO


カスミは半ば呆れを含んだ溜息を漏らした。




カスミ「いい?サトシはね、今思春期真っ盛りなの。思春期にはね……男は女の子を意識してしまってしょうがなくなるのよ、それで毎日エッチな事しか考えなくなるの。




ヒカリ「ええっ!!あのサトシが!?……毎日エッチな事ばかり考えているの?



ヒカリはにわかに信じられなかった。
あのポケモンバトルばかりに傾倒していた、バトルマシーンのサトシが女の子を意識してしょうがなくなっているなんて。

しかも、今では日がなエッチな事を考えているのだとカスミは言うのだ。




ヒカリ「うーん……でもさすがにそれはないんじゃないの?



カスミ「タケシを思い出してみてご覧なさいな。アイツはいつも綺麗なおねぇさんを見ると、走り寄って愛の告白してたでしょ?アイツは当時十五歳、サトシも今は十五歳。年齢的に、タケシと同様の思春期を発動させてもおかしくないと思わない?男は十三歳から十八歳までにかけて思春期を爆発させて変態になるって言われているわ。





ヒカリ「そんなに長い期間!?変態に!?……でもやっぱりサトシはその……『思春期』なんかじゃないと思うなあ……だって今日も再開した時、目も合わしてくれなかったし。私、妙に避けられてるような感じがしたんだけど?タケシと同じとは思えないな。




カスミは目をパチクリさせた後……はあ、と溜息を漏らした。
そして、今度はヒカリに向け、諭すような口調で口を開く。
28 名前:名無し 投稿日:2017/01/21 13:47 ID:0qXxjUJX

カスミ「いい、ヒカリ?男の思春期には沢山の種類があるの。一つはタケシみたいな、ガッツリ女の子に擦り寄るタイプ。そして、もう一つは奥手で女の子と会話する事が出来なくなってしまうムッツリスケベ、タイプね。




ヒカリ「む、ムッツリ?




カスミ「そう。そりゃもうムッツリスケベタイプは厄介よ、ちょっと話しかけても恥ずかしいのか返事してくれないし、挙動不振になりがちなの。どう?サトシに当てはまるでしょ?





ヒカリ「ま、まあ……確かに。





半ば強引な説だと思ったが、顔を赤らめながら逸らすサトシを思い出し、ヒカリはなんだか納得した。
29 名前:名無し 投稿日:2017/01/21 20:40 ID:biwggiHC
それと同時に、ヒカリは自分がルカリオに襲われて深手を負ったのを思い出す。
ーーーーそうだ、私は脇腹に大きな木片が刺さっていたのだ。
あの後どうなったのだろうか?





ヒカリは恐る恐る脇腹を見てみるが……無かった。
無かったのだ。
ヒカリは混乱して頭を抱えた。
無い、無いのだ……あの深手を負ったハズの傷が。





カスミ「えっ?……ど、どうしたのよー?




ヒカリ「カスミさん……私、ここに運ばれてくるまでの記憶がないんですけど……何があったか聞いてますか?





カスミ「そ、そりゃ気絶してたから記憶がないのも当然よ。貴方はバスの旧ブレーキで頭を打って気を失っていたの。たまたま通りかかったタケシとサトシがオオキド研究所で脳に影響が無いか見たんだけど……何も異常は無かったみたい。それにしてもこんな日に限ってこんな事が起こるなんてね。




ヒカリ「ち、違う……





カスミ「へっ?





ヒカリ「る、ルカリオは?脇腹の傷は?私一体どうしちゃったの!?なんで……あれ全部夢だったって言うの?






カスミ「ちょっ、ちょっと落ちついてよヒカリ……。大丈夫?頭を強く打ったから混乱しているだけよ。


30 名前:名無し 投稿日:2017/01/21 22:37 ID:0qXxjUJX
ヒカリ「私……ちょっとサトシに聞いてくる!



カスミ「ちょっと!ヒカリ!?



ヒカリはそう言うとベッドから飛び起きて、カスミの制止を振り切りながら部屋の外に出た。




…………………………………

…………………



タケシ「まさかお前がこんなに女に興味を持つなんてな……俺は嬉しいぞサトシ!



現在、サトシの家の庭では香ばしい炭特有の匂いが充満していた。

サトシはバーベキューコンロの下を団扇で扇ぎながら、火力調整をしている。
タケシは上から炭を入れながら、大げさに涙を流していた。



今庭にいるのはこの二人だけだ。
パーティーが始まる時間は午後6時、現在は3時半。
パーティー開始までだいぶ余裕があるが、コンロを何台も設置している為、火起こしにかなりの時間を要するのだ。



サトシ「な、泣く事ないだろうタケシ。そりゃ俺も年頃の健康な男子だ。そりゃ……女の子とチョメチョメしたいと思わないハズがないだろう



タケシ「そうだろ!そうだろうなあ!……でもなあ……お前絶望的なまでに奥手になってるよな?バトルマシーンだった頃はよく女の子ともケンカしてたのにな。なんで今はそんなに女耐性なくなったんだ?



サトシ「う、うるさいな!誰がバトルマシーンだ!山に篭ったりしてたらいつの間にかこうなっちまってたんだよ。今じゃあ女の子と視線も合わせるだけで赤面しちゃうんだ……


タケシ「……重症だな


タケシは袖を捲り上げながらお試しで肉を網に乗せてみる。
ジュージューと音を立てながら、香ばしい匂いを漂わせて、近くで遊んでいたポケモン達までもがよだれを垂らしていた。

フードカンパニーが作ったジャガイモとコンニャクで合成された人工の肉だ。
古代人はポケモンの肉を食べて力を強めたなんて話もあるが、今そんな事をしたら死刑では済まされない。この世界ではポケモンを殺す事は殺人よりも罪が重いのだ。




ご家庭用の人工肉とは違い、かなりお高めの肉だが、ポケモンマスターとなったサトシには莫大な賞金が手に入っていた。
サトシが庭に噴水まで作ろうとしたくらいだからこれ位の出費は痛くも痒くも無い。




二人の作業しながらの談笑は続く。
タケシはサトシと男特有の会話ができるのが嬉しくて堪らないらしい。
ニコニコしながら話を続けていた。




タケシ「よーし!そんじゃあ経験豊富な俺が人肌脱いでやるか!サトシ、お前に女のなんたるかを教えてやる!



サトシ「ま、まじで!?



タケシ「ああ……ていうかお前、何たってポケモンマスターだし、ルックスも悪くないから世界中に女の子のファンがいるのを知らないのか?俺の所にも紹介しろって何人も来たしな。お前に必要なのは今は相手じゃない、女の子に対しての耐性だ!



サトシ「ええ、まじで!しかも具体的!さすがタケシ!……でも耐性って言ってもな……どうすりゃいいんだ?
31 名前:名無し 投稿日:2017/01/21 23:23 ID:xkizqGTQ
うえーい!
いい感じ メガ支援‼
32 名前:名無し 投稿日:2017/01/21 23:29 ID:0qXxjUJX
タケシ「そうだな、まずはーーーー



ヒカリ「サトシ!!



サトシ「ほえっ?



タケシとサトシは揃って声のした方向に顔を向ける。そこには裸足のまま、寝かせていたサトシの部屋から庭に出てきたヒカリの姿があった。



サトシ「ひ、ヒカリ!?



タケシ「おいおい……どうしたんだよヒカリ?いきなり動くと頭に響くぞ




ヒカリ「頭じゃ無い!!



サトシとタケシはヒカリの大きな声にビクッと身を震わせる。
そして、二人で顔を見合わせた。



タケシ「お前……なんかヒカリを怒らすような事をやったのか?




サトシ「そんな筈はないだろう?俺たち二人でバス事故から気絶しているヒカリを連れ出したから、怒らすどころか、一度も会話してないじゃないか。




タケシ「えっ?……バス事故?……そういやそんな気も……ああ思い出した。そうだったっけな。そうだよな。



サトシ「ひ、ヒカリ。どうしたんだよ?裸足で出てきて。



ヒカリ「サトシ、あの遺伝子操作されたルカリオは!?私の傷はなんで治っているの?



ヒカリが尋ねると、サトシは一瞬顔を強張らせ、直ぐに何時もの笑みに戻った。



サトシ「ははっどうしたんだよヒカリ、ルカリオってなんだよ。お前は多分気を失っている間に夢でも見たんじゃないのか?



ヒカリ「ゆ、夢?えっ……あれ?……どっから……夢だったの?


あんなにリアルで痛い思いをしたのに……全てが夢だったのだろうか?
確かにある筈だった傷は綺麗サッパリ無くなっている。ヒカリは混乱しながらサトシの至近距離に走り寄った。



ヒカリ「襲ってきたルカリオの事本当に覚えてないの!?サトシとピカチュウが助けてくれたじゃない



サトシ「ひ、ヒカリ……ち、近いよ。落ちつけって。だから俺はルカリオなんか知らないよ



33 名前:名無し 投稿日:2017/01/21 23:33 ID:xkizqGTQ
31からの引き続き支援
34 名前:名無し 投稿日:2017/01/22 00:13 ID:cfkYtvW2
ヒカリ「……本当に夢だったの?


サトシは赤面しながら後ずさって、ヒカリから離れた。大袈裟に呼吸を荒くし、ヒカリのまっすぐな視線から目をそらす。



サトシ「そ、そうだよ……なんならポッチャマとピカチュウにも聞いてみようか?おーいポッチャマ、ピカチュウ!!ちょっと来てくれ!!



ピカチュウ「ピカ?



ポッチャマ「ポチャ?



遠くの方で遊んでいたポッチャマとピカチュウがドドドドッと地響きを鳴らしながら走り寄ってきた。



ポッチャマはヒカリを見つけ、元気よく彼女の胸に飛び込んできた。



ポッチャマ「ポチャア!!


ヒカリ「ポッチャマ!……ポッチャマ、ルカリオの事覚えてない?毒技とか手から炎を出すルカリオなんだけど……



ポッチャマ「ポチャア?



お前は何言ってんだ、という様な瞳でポッチャマはヒカリを見つめる。
ヒカリはそれを受け、周りにいたサトシ、タケシ、いつの間にか庭に姿を現していたカスミの反応を伺う。


カスミ「毒技を使うルカリオ?


タケシ「手から炎?


ピカチュウ「ぴーか?


サトシ「ぶはっ


サトシが吹き出したのにつられ、タケシとカスミも豪快に笑い出した。
ポッチャマまでもが地面をバンバン叩いて爆笑している。
それを受け、ヒカリはだんだん頰が赤くなっていくのが自分でも分かった。



ヒカリ「ええー!全部本当に夢だったのー!?


カスミ「はっはっやばい、ヒカリ面白すぎ!初めて会った気がしないわ!ていうか寝ぼけ過ぎ!



タケシ「あっはっは!やっぱりお前は何かとやらかしてくれるよな?最高だ!最高のキャラだぞ!



ヒカリ「も、もう〜!やめてよ、恥ずかしいよ!



「おーい、みんな!!


ひとしきりみんなで笑い会っていると、遠くからサトシ達に呼びかける声が聞こえた。ド派手なロードバイクに乗った男女だ。
背の高い、女の方が運転していた。

彼らはサトシ達の家の前に止まると、赤と黒のフルフェイスヘルメットを脱ぐ。



ハルカ「ちょっと早く来すぎたかも



マサト「そうだけど世界初のポケモンマスターに会えるんだから待ちきれなくてね!久しぶり、サトシ、タケシ!



タケシ「おおーマサトか!デカくなったなあ……なあサトシ……ってあれ?



ハルカ「サトシはあそこにいるけど……なんで木陰からこちらを覗きこんでるの?



見ると、サトシは庭にある木陰からこちらをもじもじチラチラと盗み見ていた。
タケシはそれを見てため息を吐く。



タケシ「はあ……訳あって今サトシは人見知りなんだ。俺たち男衆はパーティーの準備で火起こししてるからカスミ達は暫くの間サトシの家で休んでてくれ。ママさんも勝手に入って勝手に使ってくれって言ってたから。



ヒカリ「えっ?手伝うよ、料理の下ごしらえとかあるでしょ?



ハルカ「私も手伝うよ



タケシ「そこらへんは抜かりない、すでに前日から仕込んであるからな!



タケシが胸を張って答えると、カスミがヒカリとハルカの背中を押しながらサトシの家へと誘導する。



カスミ「そうしましょ、料理なんて男の仕事なんだから!ハルカ、さっきヒカリがね、寝ぼけてーー



ヒカリ「もう〜!!その話は無し!



ハルカ「かなり気になるかも
35 名前:名無し 投稿日:2017/01/22 00:56 ID:cfkYtvW2
マサト「ていうかサトシが人見知りって……本当なの!?タケシ、あのサトシだよ!?



タケシ「あの木陰からこちらを伺うサトシを見たらわかるだろう?おーい、サトシ!カスミ達は家に入ったぞ、そろそろ出てこいよ!




サトシは辺りを見回した後、ため息を吐きながら出てきた。



サトシ「ふう……やばかった。ハルカのやつ、無駄に色々成長してやがったな……



マサト「さ、サトシ……久しぶり。


マサトは恐る恐るといった感じでサトシに喋りかける。サトシはマサトを見るなり顔をパァと、輝かせて近寄ってきた。




サトシ「おお!マサト!ポケモントレーナーになったんだってな?どうだ、強くなったか?




それを受け、マサトはホッと胸をなでおろすのと同時に、タケシに近寄って耳打ちをした。



マサト「……タケシ、本当にサトシは人見知りなの?何時ものサトシに見えるんだけど……



タケシ「男相手は平気なんだけどな……女の子を相手にすると奥手になってしまう心の病だ



マサト「な、成る程……思春期というヤツか。あのサトシがまさか女の子に臆病になるなんてね。



タケシ「理解が早いな……さすが頭脳系だ。思春期は事あるごとに気を持ってしまう恐ろしい病だ。今のサトシならハルカに気を持ってくっつくかもしれんぞ?



マサト「別に全然構わない、むしろ最高だよ!姉ちゃんなんかにはサトシは勿体無いくらいだと思うけど、もしそうなったらサトシが僕のにいちゃんになる訳だよね?ポケモンマスターが僕の兄か〜これは色々自慢できる様になるね。



サトシ「な、なんだよ二人とも……コソコソ喋りやがって
36 名前:名無し 投稿日:2017/01/22 11:34 ID:s3Q0hMYR
タケシ「お前の将来についてだ



マサト「そうだよ!



サトシ「なんだよ、俺の将来って……



タケシ「あ、談笑している間に炭の火が弱まってる!サトシ、マサト、ほらほら団扇だ。扇げ扇げ!



三人は慌てて団扇を持ってそれぞれ別々のバーベキューコンロの火力調整を行う。
三人は背を向けながら、談笑を再開した。



マサト「本当にサトシがポケモンマスターなんだよね?僕、未だに信じられないよ、世界一名誉で有名人が僕の目の前にいるなんてね。



タケシ「全くだ……長年一緒に旅した俺としても未だに信じられないな。あのガキでバトルマシーンだったサトシがな……



サトシ「お前ら褒めてるのか、けなしてるのかハッキリしてくれ!俺だって大変だったんだぞ?山に篭って2年ほど自給自足の生活してたりな……そりゃもう地獄だった。



タケシ「そうだ!お前二年も音信普通だったのは山に篭ってたからなのか!お前が連絡しなくなってから俺たちはどれだけ心配したと思ってるんだよ。何故かママさんだけは大丈夫でしょってケロッとしてたけどな。本当は心配で心配でたまらなかった筈だ。



サトシ「うっ……お説教は後にしてくれよ



マサト「ねえ、ねえサトシ。山に篭ってたって言ってたけど何でなの?修行なら街でトレーナーとバトルした方が強くなると思うんだけど。



サトシは困った様に頰をポリポリと掻いて、口を開く。
37 名前:名無し 投稿日:2017/01/22 18:41 ID:s3Q0hMYR
33さん、支援ありがとうごさいます!励みになります。今日の夜中も時間が空いているので8時くらいから書き始めようと思います。
38 名前:名無し 投稿日:2017/01/22 19:27 ID:dhdA2XEV
支援
39 名前:名無し 投稿日:2017/01/22 19:54 ID:UtYXO1C2
サトシ「どこまで話たらいいのか……うーん。まあ、成り行きってやつだな。ロケット団の三人組が深く関係してるんだ。今日あいつらが来るから詳しい事は奴らも交えて皆んなに話すよ。



タケシ「おお、アイツらも来るのか。楽しみだな。



マサト「へっ?ろ、ロケット団?



マサトは和気あいあいと喋るサトシとタケシを他所に、体を硬直させ、フリーズする。
それをサトシとタケシはおかしな物を見る様な視線を送った。



タケシ「マサト、まさか覚えてないのか?あの喋るニャースと男女の二人組だ。あんなキャラの濃い奴らを忘れる訳ないよな?



サトシ「一々丁寧に自己紹介する笑えるやつらだよ、本当に覚えてないのか?




マサト「わ、忘れる訳ないだろ!僕が驚いたのは何で敵のロケット団がパーティーに来るんだよ!



マサトが地団駄を踏みながら訴えると、サトシとタケシはお互いに顔を見合わせる。



サトシ「あれ……言ってなかったっけ?変だな……アイツらも結構巷じゃ有名人な筈だろ?



タケシ「まだカントーではの話なんじゃないのか?違う地方には知名度が行き渡ってないのかもな。
40 名前:名無し 投稿日:2017/01/22 20:14 ID:UtYXO1C2
マサト「もう何がなんだか……



マサトが混乱しているのを見て、サトシは慌てて説明を始めた。



サトシ「ロケット団の三人な、今は引退して飲食店を経営してんだよ。元々アイツら器用だから飯も美味いし店は綺麗で繁盛してさ。ホワイトホールって店なんだけど今やカントーに何店も店を構えるチェーン店にまで発展してんだよ。



タケシ「サトシが帰ってきてからカスミと三人で食いに行ったんだが……ありゃ俺も舌を巻くほど美味かったぞ。それに店員のニャースが喋りながら料理を運んで来るんだ。そりゃテレビにニュースで大騒ぎだったんだぞ?喋るニャース店員の店、ホワイトホールってな。



マサト「そ、そんな事が……



サトシ「そうだよ。アイツらとは成り行きで一緒に二年ほど山に篭ってたからさ、仲良くなってWPGに行くまで一緒にいたんだ。元々アイツら悪党の素質がなかったし、途中で組織を裏切っちまってロケット団はクビ。俺も関わったりして一悶着あったんだ。まあ……結構色々あったんだよ



タケシ「俺も最初聞いた時は驚いたが……店に行ったらサービスしてくれたしな。まあ、クーポンくれただけだけど。



サトシ「はっはっは!まあ、あの流れはタダにしてくれても良かったよな!セコイとこは本当に変わってなかったぜ。
41 名前:名無し 投稿日:2017/01/22 20:57 ID:UtYXO1C2
マサトはそうやって談笑する二人の姿を見て、確かな年月の経過を感じていた。
二人とも、以前とは比べ物にならない位、落ちついている。



そしてマサト自身は知らない事を沢山経験し、それを話して笑いあっているのだ。
年齢の壁、経験の壁。
それをマサトは寂しくも思い、昔との確かな違いをを感じた。



あれから六年ーーーーあの時の旅の思い出はマサト自身にとって人生で一番楽しい時期だった。
マサトも仲間を集めて旅に出た事がある。



しかし、意見の食い違いなんかでバラバラになり、何度もマサトは一人の孤独を味わった。
自分にはポケモンがいるからと言い訳しながら一人を貫いた。



結果、マサトは強くなったが、後には何も残らなかった。
周りで喜んでくれる仲間、叱ってくれる仲間、祝ってくれる仲間がいなかったからだ。




そこでようやくマサトは気がついた。
あの時の仲間達は僕にとって一番の仲間だったんだと。
笑い合い、喧嘩したり、遊んだり。



そうした事ができる仲間は他にいない。
だけどサトシやタケシは違っただろう。
僕との旅の思い出より、もっと楽しいことや、苦しい事を違う仲間達と経験した筈だ。




マサトはその事を脳裏に浮かべて、ブンブンと必死に振り払った。

ーーーーよそう。今は今で精一杯楽しむのだ。



なんせ憧れのポケモンマスター、サトシが目の前にいるのだから。



マサト笑顔を作り、火力調整を終えて二人の会話に加わった。
42 名前:名無し 投稿日:2017/01/22 21:27 ID:UtYXO1C2
なんじゃこりゃ
43 名前:名無し 投稿日:2017/01/22 22:37 ID:s3Q0hMYR



………………………

………………

ここはトキワシティーのほぼ中央に位置する最近流行りの飲食店『ホワイトホール』
テレビに紹介された事もあり、連日大勢の客で賑わっていた。




その厨房にいるスタッフは皆んな鬼気迫る表情で料理を作り、大きなコック帽を被った主任に指示を受けていた。



コジロウ「三種盛りとお子様ランチ追加!客は待ってくれないぞ、皆んな気合い入れろ!



スタッフ「「「うす!!」」」



この店の料理長はコジロウだった。
元ロケット団で行き場を失った連中やアウトローを従い、この店の炊事を担っている。
コジロウは誇らしげにスタッフ達の奮闘ぶりを眺めていると、不意に後ろからスパンと頭を叩かれる。



後ろを振り向くと、私服に着替えてコジロウを睨みつける、ムサシとニャースの姿があった。


ムサシ「ちょっとコジロウ、時計見て見なさいよ


ニャース「今日が何の日か忘れたのかニャ?


コジロウ「んあ?……しまった!もうこんな時間か!
44 名前:名無し 投稿日:2017/01/22 23:01 ID:UtYXO1C2

コジロウ「皆んなすまない!今日は俺達は先に上がるから、お前達任せたぞ!


スタッフ「俺達の事は心配しないで下さい!


スタッフ「いつも最後まで残って下さってるんだ、たまには羽を伸ばしてきて下さいよ、我らがボス!



コジロウ「お、お前ら……



コジロウがウルウルと感動していると、またもやムサシが後ろから頭を叩く。



ムサシ「いいからさっさと行くわよ!



ニャース「後はまかしたにゃ!


スタッフ「「「うす!!!」」」


ムサシとニャースはコジロウが着替えるのを待ってから、店の横に停めてある、ホワイトホールの名前が入った白いワンボックスカーに乗り込んだ。
運転はいつもコジロウの担当だ。
ニャースは後部座席、ムサシは助手席に座った。



ムサシ「今何時だっけ?



ニャース「4時半ニャ、120キロで飛ばせばギリギリ間に合う距離だニャ



ムサシ「まぁったく……コジロウのせいだかんね!久々にジャリジャリ軍団に会えるってのに、遅刻したら面目もクソもないでしょ。



コジロウ「わ、わかってるよ。でも安全運転だ。ここで捕まったら折角の苦労がパァーーー、



ムサシ「!?ッコジロウ、ブレーキ!!



コジロウ「!!なんだ!?



走り出そうとした車は勢いよく停車し、シートベルトをつけようとしていたニャースはフロントガラスに叩きつけられた。



ニャース「ニャース!!!



コジロウ「うわっ!だ、大丈夫かニャース!?ムサシ、いきなりなんだ?



ニャース「危ないニャ!一体なんだってんだニャ!



二人からの批判を浴びたムサシはそれを物ともせず、無言のままシートベルトを外して外に出た。



ムサシ「人がいんのよ……車の前に倒れてる。



コジロウ「ええっ!?……まじかよ!



ニャース「どこだニャ!?



慌てて二人も車から飛び出すと、十五歳くらいの年齢の赤い帽子を被った少年が、車の前で倒れていた。
45 名前:名無し 投稿日:2017/01/22 23:20 ID:UtYXO1C2

三人はとりあえず少年を車に乗せ、トキワシティーを軽快に走っていた。
ムサシはイライラとしながらダッシュボードに足を乗せている。


ニャースはパタパタと少年を団扇で扇いで介抱していた。


ニャース「おーい、生きてるかニャ?


少年「……う、うーん……め、メシ


ニャース「……どうやら行き倒れみたいだニャ


ムサシ「クッソ……面倒なことになったわね、あそこの病院ってまだ空いてるっけ?



コジロウ「おいおい、車に乗せたらまずくないか?ジュンサーが来るまで待った方が……。



ムサシ「私らただでさえ指名手配から一転、ジャリボーイと一緒に警察と取引して一般人の身になったばかりよ?目の敵にされてんだから、なっがい乱暴な取り調べなんか受けたらパーティーに間に合わなくなっちゃうじゃない。



ニャース「確かにそうだニャ、カントーのジュンサーにはニャー達かなり嫌われてるニャ……ニャーなんか胸倉掴まれて『繰り返してきた罪は消えないから覚えておきなさい』って言われたニャ



コジロウ「おお、こっわー。お前本当にそんな事言われたのか?そりゃ待たないほうが得策だぜ。



ムサシ「そうよ、だから病院にでも連れてって置いてった方が利口なの。
46 名前:名無し 投稿日:2017/01/22 23:50 ID:UtYXO1C2

少年「それは……困りますね。僕はこの世界の身分を証明する物は持ってません。病院にいって治療を受けてもその後は国営管理局に送られてしまいます……そしたら、僕は目的を果たせなくなってしまう……


ムサシ「んあ?


ニャース「ニャ?


コジロウ「えっ?


三者三様に三人は声を出し、急に起き上がって喋り始めた少年を見た。
少年はグキュルルルッと豪快に腹を鳴らしながらお腹をさすっている。



ニャース「ニャンだお前……身分を証明できないって……訳ありかニャ?



少年「まあ……そんなところですかね。



ムサシがダッシュボードに乗せていた足をバンッと鳴らした。
コジロウとニャースはビクッと身を震わせる。



ムサシ「なら尚更アンタに構う必要は無いわね。コジロウ、車を止めて。こんな身分も証明できないとか言うヤバそうなガキ……トラブルの元はほっぽり出して行くわよ。


コジロウ「えっ、いいのかよ?



ムサシ「こんだけペラペラ喋れるんなら大丈夫でしょ?私達は本物の飢餓を味わってきたから分かるはずよ。



ニャース「それもそうだニャ!おい、ガキ。さっさと降りるニャ!



少年「それが立つのもやっとで……。すみません、何か食べ物をくれませんか?食べ物をくれたら僕は貴方達の望む様に直ぐ消えます。



ニャース「がめついガキだにゃ……がめついのはキライじゃないニャ……



コジロウ「パーティー様に沢山料理が積んであったろ?ちょっと分けてやったらどうだ?



ムサシ「やらんでいい!


再びムサシはダッシュボードに足を叩きつける。
47 名前:名無し 投稿日:2017/01/23 00:08 ID:A3ldUxU5

ムサシ「アンタ達分かってんの!ポケモンにエサをやるのとは訳が違うのよ!相手は人間、しかもガキ!これ程厄介な事は無いわ。



少年「まあまあ……落ち着いて下さい。本当に食べ物をくれたら直ぐに立ち去りますから……。いいんですか?このままほっぽり出されたら僕はホワイトホールという店の店員三人から轢き逃げされて道中で置き去りにされたと証言するしかありません……。



ニャース「な、なんてガキだニャ。がめついのを通り越して悪党だニャ



ムサシ「アンタには身分を証明できるモノが一つもないんでしょう?なら警察の取り調べでフリになんのはアンタの方よ。カントーの不法滞在者は厳しく取り締まられてんだから、ガキであろうと豚箱行きよ。



少年「さっきから話しを聞いていましたが……あなた方は警察から良く思われていないんでしょう?例え僕が不法滞在者だとしてもフリになるのはお互いさまかと……



車内に沈黙が流れる。
それを破る様に、コジロウがピューッと口笛を吹いた。



コジロウ「こりゃガキに一本取られたな。どうすんだ、ムサシ?


ニャース「駆け引きの上手い奴は嫌いじゃないニャ


ムサシは体を持ち上げ、後部座席に振り返って少年の顔を見た。


ムサシ「アンタ……名前は?どっから来たの?



レッド「レッドです。こことは別次元の異世界から来た……って言ったら信じて貰えますか?
48 名前:名無し 投稿日:2017/01/23 01:16 ID:A3ldUxU5


……………………………

………………

サトシ「おっムサシからだ



サトシは懐に入れていたポケギアの揺れを感じとり、手にとって耳に当てた。



サトシ「もしもーし、何やってんだ?パーティーもう直ぐ始まるぜ。お前らが来たら皆んなビックリすと思うから早く来てくれよ。



ムサシ『……ちょっとトラブルでね、厄介事に巻き込まれたから少し遅れるわ……ああ、もう!そんなに食ったらパーティーで出すもん無くなるじゃないの!このクソガキ!



サトシ「はっ?



ムサシ『ああ、こっちの話よ。今300キロで飛ばしてるから十分くらいで着くわ。



サトシ「おいおい、ジュンサーさんに捕まるなよ?お前らただでさえ目の敵にされてんだから



ムサシ『分かっるわよ、それじゃあね



電話が切れると、サトシはポケギアを懐にしまい、パーティーの会場となる庭を二階のサトシの部屋から眺めていた。
タケシの計らいで、皆んなが到着して並べられたテーブルの席に着いてから、タケシの司会進行で登場する手筈となっている。

もう既に、ロケット団の三人以外は殆どの顔ぶれが揃っていた。


高鳴る鼓動を抑えながら、サトシは会場にいるかつての旅仲間の女の子達に視線を巡らしていた。
カスミ、ハルカ、ヒカリ、アイリス。


セレナ……は来てないか。
当然だよな、とサトシは肩を落とす。
あんか事があったのだ、来るはずが無い。


セレナを除く、カロスの面々は揃っていた。
シトロンにユリーカ。
ユリーカは身長が伸び、より女の子らしくなっていた。
サトシは三年後が楽しみだ、と下卑た笑みを浮かべる。


サトシ「ああクソっ!……なんてこった、俺はあんな可愛い女の子達と旅してたってのか。自分の愚かさが憎らしいぜ。



?「でもそれが分かった今でも手出しできないでしょ?絶望的なまでに奥手なんだから。


背後から声が聞こえ、サトシは一瞬で身構えた。
そこには……ヒカリの前にも姿を現していた、素っ裸でベリーショートの可憐な少女が立っていた。


サトシ「な、なんだ、何でまたその姿に!ってか前隠せよ!ち、乳首見えてんぞ!


サトシは目を瞑りながら、その女の子に布団のシーツを剥ぎ取って渡す。



?「別にいいよ、もう直ぐ元の姿に戻るし……ていうかいつも見てるじゃん



サトシ「す、姿が違うだろ!その格好は俺的にちょっとヤバイ!



?「はあ……サトシってば、全く。長年連れ添った相棒なのにさ……まあいいや。そんな事より、マズイんじゃないの?



サトシは女の子に背を向けながら、ピクリと反応した。



サトシ「あん……ヒカリの事か?


サトシは窓から庭の様子を伺ってみる。
ヒカリはカスミ達と固まって女子グループの輪の中で赤面していた。
今日の事でイジられているのだろう。


?「そうだよ……何でか師匠の力でも忘れてなかったじゃん。今回は夢だったとか言って何とか誤魔化したけど……。


サトシ「今日皆んなが寝静まった頃に聞いてみるよ……それより



サトシが言い切る前に、ドンドンと階段を登る音が聞こえた。
サトシと女の子は後ろを振り返り、顔を見合わせる。サトシは女の子の顔を見てボンッと赤面したが、振り絞って声を出した。



サトシ「か、隠れる場所は?



?「大丈夫だよ、もう戻るから



ダダダダッと廊下を走る音が聞こえた。
それはサトシの部屋の前で止まり、勢いよくドアノブを捻った。
49 名前:名無し 投稿日:2017/01/23 01:47 ID:A3ldUxU5


……………………………

…………

ユリーカ「サットシー!!タケシがもう降りてきていいだって、さあ行きましょ。主役のポケモンマスターさん!


ピカチュウ「ピッカァ!


扉を開けたのはユリーカだった。
ユリーカは扉を開けるなり、飛び出してきたピカチュウをキャッチして顔を輝かせる。
頬ずりしながら、甘えた声を出すピカチュウにうっとりしていた。



ユリーカ「久しぶり〜ピカチュウ!途中でいなくなったと思ったら此処にいたのね?ああやっぱ可愛い!これが世界中の猛者達を葬ってきた『ガーディアン』の異名を持つピカチュウとは思えない〜



サトシ「葬ってきたとか人聞きの悪い事言うなよ……それよりユリーカ……デカくなったなあ……


ユリーカ「バカね、女の子はデカくなったな。じゃあ、なくて可愛いくなったって言うの!はい、言い直し!



サトシ「ゆ、ユリーカ。可愛いくなったなあ。



ユリーカ「前は可愛いくなかったって言うの!?酷い、サトシ!

50 名前:名無し 投稿日:2017/01/23 02:46 ID:tWiBX00h
支援
51 名前:名無し 投稿日:2017/01/23 12:35 ID:Pzf2HXhi
主です。皆さん支援ありがとうございます。そして、誤字脱字が多くてすみません……他にも何か気づいた事や、気になる事があればドシドシ質問してください。因みに今日の夜から毎日睡眠時間を削って書き進めたいと思います!大分長くなる予定ですが、暇つぶしにでも楽しんでいただけたら幸いです。
52 名前:名無し 投稿日:2017/01/24 00:27 ID:DJJNZVkV
やっと仕事が終わりました、そろそろ書いていきたいと思います。
53 名前:名無し 投稿日:2017/01/24 01:32 ID:DJJNZVkV

サトシ「何でだよ!?


サトシが叫ぶと同時に、ユリーカはケラケラと笑い声を上げながら歩み寄ってサトシの腕を取る。
サトシは不覚にも成長して女の子らしくなっているユリーカにドキッとしてしまった。



ユリーカ「さあ、行きましょ。皆んな待ってるから



サトシはゆっくりと頷いて、ユリーカと腕を組んだまま、皆んなの待つ、会場の庭にと向かった。




……………………………………

……………………


タケシ「さあさあ、そろそろ登場してもらいましょうか!今現在、世界一のポケモントレーナー……ポケモンマスターとなったサトシ選手の入場です!


タケシの司会で、サトシは少々慌てながら庭へと続く窓をユリーカと共に、置いてあった靴を履いて外に出る。


サトシがユリーカに腕を引かれながら登場すると、直ぐ様仲間達からは歓声が上がり、田舎であるマサラタウンには隅々まで響き渡っているんじゃないかと思えてしまう程の声が上がった。



サトシは頭をさすって照れながら、ポケモン達とタケシが協力して作った簡易のステージに上がる。
ステージにはオオキド研究所から拝借した講義用のマイクとスピーカーが備えつけられていた。


サトシはマイクを握ると同時に、無性に緊張してきて手が震えてきた。
ポケモンリーグの世界大会時より、サトシはるかに緊張していた。


サトシ「あーあー……み、皆さん。こ、こんにちわ



シゲル「声が震えてるぞ!それでもチャンピオンか?サートシ君!



サトシはいつのまにか会場に現れていたシゲルに野次を入れられ、会場は笑い声に包まれた。
サトシ自身も思わず笑ってしまい、そのせいか、いくつか緊張がほぐれたのを感じてサトシはシゲルに感謝の視線を向ける。



シゲルは昔と変わらない、憎たらしい笑みを浮かべながらテーブルに座って踏ん反り返っていた。

隣にはニッコリと微笑むオオキド博士も居る。
後でアイツと博士とは久しぶりに話をしよう。

そう、サトシは心の中で誓いながらマイクを握る。
もう手が震える事は無かった。



擦り寄ってきたピカチュウの感触を足に感じ、確かな安堵感を覚えながらサトシは口を開く。
54 名前:名無し 投稿日:2017/01/24 02:07 ID:KnUi1F2j
支援です
55 名前:名無し 投稿日:2017/01/25 23:30 ID:c8qmXOsm
サトシ「皆さん……俺は……いや、俺達は皆さんの応援や叱責。そして返そうにも返せない様な数かずのご恩で……最強の称号……ポケモンマスターという、憧れだった大きな夢を叶えさせてもらいました。……そして今まで、いや、今でも支えてくれる仲間、家族、友達の前で、こうやってマイクを握っていると考えると……感無量です!本当にありがとう!



サトシがマイクを握り、一つ一つ噛み締める様に喋り始めると。
ずっと忙しなかった会場がシーンと、波打つ様に静まり返った。全員が全員、サトシと深い関わりを持っていた物達だ。
彼らは一様に深い喜びと賞賛の意を持って、サトシの語る心情に内心、大いに心震わせながら耳を傾けていた。



それからサトシは5分ほどでスピーチを終了させ、タケシの司会進行でパーティーの出席者達に乾杯の音頭をとった。



皆んながグラスを合わせて、入っていた飲み物をカラにすると、騒がしくも、とても楽しいパーティーがようやく始まりを告げた。
56 名前:名無し 投稿日:2017/01/27 12:05 ID:RMORDbXF
支援
57 名前:名無し 投稿日:2017/01/27 23:14 ID:kGzF4tZ5
しえん
58 名前:名無し 投稿日:2017/01/27 23:30 ID:pHsZBeOt




…………………………

……………

パーティーも始まり、集まっていた観客達も料理に手をつけ始めた頃だった。
サトシは旅で出会った旧友達に囲まれ、サトシは女の子に質問されると顔を赤らめたりもしながら、世界大会のWPGに出場するまでの音信不通だった二年間の経緯を質問され、簡単に説明していた。



サトシ「それがさ、俺とポケモン達で旅してる時にさ、悪さしてるロケット団を見つけて何時ものノリでそれを止めようとしてたんだよ『何してんだロケット団!悪さは辞めろ!』てな。




マサト「それでそれで!?




サトシ「するとアイツらさ、いつになく必死で『今度ばかりは止められる訳にはいかない!』っとか言い出すんだよ。あまりにも必死だったからピカチュウのボルテッカーでぶっ飛ばした後にさ、軽くわけを聞いてみたんだ。




ユリーカ「あはははっ!ぶっ飛ばした後にって!目に浮かぶー!




マサト「それで!?



アイリス「早く続き!




サトシ「アイツらが言うにはさ、今世界中の地下組織が集結してて、ソイツらは特に危険な集団だからロケット団が強い戦力を持たないとカントーが危ないってんだよ。俺は言ったよ『人のポケモン盗もうとする奴らも同じだろ?』ってさ。だけどアイツら一歩も引かなくて『今集まってるのはポケモンも人も殺す様な奴らだぞ、今までは強い力を持ったロケット団の庇護があったから助かってたんだ』何て言うんだ。



マサト「えっ!?そんな危ない奴らが居たの!?




ユリーカ「ど、どうなったの!?




サトシ「なら俺も協力してそんな奴らぶっ飛ばしてやる!ってロケット団と約束してさ。今まで旅してた中でも特に強いポケモンを博士に送ってもらってロケット団の三人と協力しながらそのヤバイ組織の連合とやらを倒して回ってたんだ。結構手強い奴らでさ、尚且つポケモンバトルじゃ敵わないってなったら普通に武器を使って襲ってくるんだ。それでピカチュウも背中に傷を背負っちまってさ………




話を聞いていた全員の視線がピカチュウに注がれる。ピカチュウは視線を感じると、何時もの愛らしい笑顔を見せながら、皆んなに見せる様にそっと振り向いて背中を見せた。




現在のトレーナー界隈での畏怖の象徴とさえされる、そのイナズマの様な傷跡が露わになった。



衝撃的な話に皆んな言葉を失う中、黙って話を聞いていたヒカリがピカチュウに近寄って、その傷跡にそっと触れる。




ヒカリ「……かなり深い傷ね……命に関わる様な。
59 名前:名無し 投稿日:2017/01/27 23:50 ID:pHsZBeOt

アイリス「ヒカリ、分かるの?



カスミ「ヒカリは看護スクール出だから医療の知識があるのよね?



ヒカリ「うん……資料で色んな患者を見てきたけど……こんな深い傷は初めて



シゲル「それ程悲惨な現場だったんだな……



サトシ「ああ……それでコイツは一回死にかけたんだ……そりゃ俺達も焦ってさ。戦ってたのがヒミダ山脈っていう未開の地で、組織の連合が集まってた本元の基地だったから……近くにポケモンセンターも無いし、居たのはロケット団の派遣したエリナっていう若い看護担当だけでさ、急遽ヒミダの敵の基地で治療を行なったんだ……。



誰かがゴクリと唾を飲む音が聞こえた。
誰もそれが誰かなど確かめず、サトシの語る真実に耳を傾ける。
60 名前:名無し 投稿日:2017/01/28 00:44 ID:BeP1e9GL
サトシ「ま、色々あったけど結果無事にピカチュウは助かったしな。皆んなもコイツが世界大会で強敵をぶっ倒していくのを見たろ?今じゃ元気有り余り過ぎて困ってる位さ。



ピカチュウ「ピッカピー♪



ピカチュウが陽気にジャンプして自分の姿を皆んなに見せつけた。皆んなはその愛らしさと、負ったであろう傷を感じさせない元気さに安堵して口元を綻ばせる。




マサト「それでそのヤバイ奴らの連合ってどうなったの?


マサトが尋ねると、サトシは表情を曇らした。



サトシ「それがな……




ムサシ「まだ残ってるわ、組織しての力は弱いけどね……一番生かしちゃいけない奴が逃しちゃったのよ……てーかあんたらパーティーだってのに何て話をしてんのよ。ジャリボーイもアンタ空気読めないわね。



コジロウ「おいおいおい、俺達が来たのはお通夜かよ?パーティーは呑んで騒いでだろ?



ニャース「シンミリしちゃって会場が陰気くさいニャ。ここらで一番美味いもん食わしてやるからニャーをもっと楽しませるニャ




皆んなが聞き覚えのある声に驚愕しながら声の聞こえた後方へと視線を向ける。
そこには、私服姿をした元ロケット団の三人組が立っていた。



アイリス「ろ、ロケット団!?




ユリーカ「ど、どうして此処に!?




他の皆んなが騒ぎ出す中、サトシや事情を知っている物達は柔らかな笑みを浮かべて彼らに声を掛けた。




サトシ「遅ぇーじゃねぇか!この落とし前どうつけるんだよ?




タケシ「お前らが来ないからパーティーの予定が大分狂ったんだぞ?




カスミ「こりゃクーポンじゃ済まされないわよアンタら。
61 名前:ジョー 投稿日:2017/01/28 09:50 ID:u3AehrB5
お疲れ様です

いつも楽しく拝見してます

ロケット団のソーナンスはまだみたいですね
62 名前:名無し 投稿日:2017/01/28 14:34 ID:T9qfQfl4


驚く面々にサトシは事情を説明し、ロケット団の三人とは既に和解して、彼らはもう一般人になった事を告げた。



最初は動揺していた皆んなも、次第に元ロケット団の三人の陽気な人柄と、持参した料理の美味しさに驚きつつも次第に受け入れていった。




パーティーは進む。
次第に暮れていった夕日は完全に姿を消し、会場はサトシ達によって設置された照明が明かりを照らし出していた。
もう数時間が経過していたが、皆んなは休む事なく、サトシやかつての仲間達との談笑を楽しんでいた。




サトシ「こいつらとは今までで一番長く旅したかもしれないな。だって最初の旅から六年間、ずっと俺のピカチュウを狙ってついてきたんだぜ?



タケシ「俺とサトシが別れてからも追い続けていたのか……よく飽きないなって感じだ。


ユリーカ「何でサトシのピカチュウをそこまで追いかけ続けたの?言っちゃ悪いけどピカチュウはカントーなら沢山いるんでしょ?


ユリーカが尋ねると、ムサシを一体何を言っているのか分からない、と言った表情を見せた。


ムサシ「はっ?何いってんのよチビジャリ?



ユリーカ「誰がチビジャリよ!



ユリーカが地団駄を踏みながら抗議すると、その様子を見ていたニャースが歩み寄り、近くのステージに上がって彼女を見下ろしながら口を開く。



ニャース「おみゃーの事だニャ。ニャー達がピカチュウ追い続けた理由聞きたいって?なら教えてやるニャ。実際、ジャリボーイのピカチュウはどうなったニャ?




ユリーカ「あっ!!……。



ユリーカが気づくと同時に、会場にいた者達も驚いた表情をみせる。
そうだ。
サトシは実際世界チャンピオンになった。



そしてその最強になるピカチュウを長年バカみたいに狙っていたのは間違いではなかった。
元ロケット団の三人はそう言いたいのだろう。



酒瓶を片手にコジロウがサトシにフラフラと近寄り、バンバンと背中を叩く。


コジロウ「今や世界最強ポケモンの一角……ジャリボーイ、ありがとな。



サトシ「……あ?なんだよ急に…



ニャース「決まってるニャ、ニャー達がピカチュウを追い続けていた意味を見出してくれたのニャ




サトシ「……




サトシが黙っていると、ムサシが酒の入ったグラスを揺らしながら、テーブル席の上で頬杖をつきながら喋りかけてきた。




ムサシ「あんたは誇りを持ちなさい。私達のピカチュウを追い続けた六年は、決して軽くなかったわ。私達が走ってきた道は、アンタを追い続けていた六年は、決して間違いじゃなかった。もっとよ……もっとそう思わせるくらい、デカくなんなさいよ、ジャリボーイ。



サトシ「……!ああ!



カスミ「ちょっとストーップ!!




会場にシンミリとした空気が漂っていた時、突然カスミが声を荒らげた。
当然、視線はカスミへと向けられる。



カスミ「なんかいい感じに終わらそうとしてるけど……タダのポケモンを狙った泥棒の話じゃない!!



コジロウ「おいおい、何とか正当化しようと思ってたけどやっぱりバレたか




ニャース「それは言わないお約束だニャ!




ムサシ「ジャリンコを世界仕様に鍛えてやってたのよ、感謝されんのはコッチだわ!




一転して言い訳を始めた元ロケット団の三人に、会場は大きな笑い声に包まれた。


パーティーの中心となって盛り上げてくれる三人を見ながら、アイツらを呼んでよかったとサトシは心から感謝していた。





………………………………

……………………



パーティーは続く。
そして夜も更けていく。


途中で、サトシとタケシが企画したビンゴゲーム大会やちょっとしたゲームも大いに盛り上がり、サトシ達は一様に時の流れを忘れて、今この瞬間を最高に楽しんでいた。


だが、楽しい事にも終わりはやって来る。
あっという間に時は過ぎ、午前の2時を過ぎた頃。皆んなにも確かな疲れが見え始め、サトシとタケシは頷いてパーティーのお開きを宣言した。



皆んな名残惜しそうにしつつも、疲労には勝てず、まだ遊びたい!と元気だったのはユリーカとアイリスだけだった。




もう、道も真っ暗な為、皆んなはサトシの家の前に設置された沢山の簡易テントに泊まっていく手筈となっている。
田舎のために空き地は豊富にあるのだ。




もうヘトヘトで眠る組と、シャワーだけは浴びたい組が別れ、解散となった。
63 名前:名無し 投稿日:2017/01/28 14:37 ID:T9qfQfl4
すみません、ソーナンスはナチュラルに忘れてました笑
また機会があったら出そうと思います。
64 名前:名無し 投稿日:2017/01/29 15:48 ID:RfnjVu0s
支援
65 名前:名無し 投稿日:2017/01/29 16:06 ID:RfnjVu0s
セレナの来ていない理由のあんなことの内容がが気になる…。
66 名前:名無し 投稿日:2017/01/29 18:58 ID:pSYqaGTF

セレナとのあんな事については今日の夜中に全貌を書き進めたいと思ってます。仕事の為、結構遅い更新になるかもしれません。
67 名前:名無し 投稿日:2017/01/29 20:07 ID:f9KN9yu8
皆んなが一時解散してから、サトシはタケシと一緒にパーティーの最低限の片付けをして、俺たちもそろそろ寝るかと話をしていた時。



不意に背後から元ロケット団の三人からサトシは声をかけられた。



ムサシ「ジャリボーイ、ちょっと良い?



サトシはタケシをチラリと見て、先にテントに行っててくれと目で合図する。
タケシは短く手を振ると、アクビをしながらテントに向かって行った。



サトシ「場所を変えるか。裏庭に行こうぜ



コジロウ「そうしたいが……他にもお客さんだ、サトシ



サトシはコジロウに言われてその方向を向くと、思い立って足を止めた様子のシトロンが居た。



シトロン「あっ……用があるようなら僕はこれで



シトロンが立ち去ろうとするとニャースが待つニャ、とシトロンを止めた。



ニャース「別にニャー達は急ぎじゃないニャ。明日でも構わないから遠慮するなニャ。



ニャースはそう言ってムサシとコジロウに目で合図を送り、背中を見せる。
不意にニャースは何かを思い出したかの様に振り返り、サトシに歩み寄ってA4サイズの茶封筒を手渡す。




ニャース「新メニューニャ、レシピありの企業秘密だから他の奴には見せるなニャ。ニャー達はバンで一晩明かしてから店に帰るから朝の8時までにコレを見とけニャ。




サトシ「……了解。



サトシは顔を曇らしながらそれを受け取ると、立ち去るニャース達を見送ってからシトロンに向き直る。



サトシ「どうしたシトロン?まあ、まだ俺もお前とは話し足りなかっから調度良いや。




シトロン「……僕もです、サトシ。
68 名前:名無し 投稿日:2017/01/29 20:24 ID:f9KN9yu8

サトシはシトロンを裏庭へと誘導し、設置された木製のベンチへと座る。
サトシはベンチの下から灰皿を取り出して、腕かけの上にそれを置いた。



サトシは懐からタバコを取り出して口に加えると、シトロンにも一本それを差し出す。



サトシ「吸うか?



シトロン「いえ……ていうかサトシ、タバコ吸うんですね。未成年のタバコは法律違反ですよ?



サトシ「人を殺さなきゃ何やっても可愛いもんさ……それで?まあ、だいたい何の話か分かるけど……



サトシはタバコを蒸かしながら、空を仰ぐ。
対してシトロンはサトシをジッと見ていた。



シトロン「ええ……ご察しの通り、セレナの事ですよ。彼女とはここ暫く連絡が取れませんでした。それで気になって、僕はユリーカと様子を見に行ったんですよ。そしたら……


サトシはそこまで聞いてからシトロンに止めろ、と手を差し出す。



サトシ「……聞きたくない。



シトロン「えっ?……何でですか?かつての仲間の事ですよ?サトシにとってはどうだっていいって事ですか?



シトロンが目に怒りを覚えながら、サトシを見る。
サトシはフーッとタバコの煙を吐き出してから、泣き笑いの様な笑顔を見せた。




サトシ「アイツに嫌われてっから……俺。
69 名前:名無し 投稿日:2017/01/29 21:08 ID:qZFNMOnw
シトロン「え?……嫌われてるって……どういう事ですか?サトシ



シトロンは呆気にとられた様にサトシを見る。
サトシはタバコを一気に吸い込むと、ため息と煙を両方吐き出して、口を開いた。



サトシ「セレナとは俺、結構頻繁に連絡取り合ってたんだよ……俺、どうもセレナにされたあの時のキスからアイツを意識し始めてさ……二年間、外部との連絡を絶って山に篭って修行を終えた後に、アイツの顔が見たくて小型のテレビ電話まで買ってさ、久しぶりに電話したんだよ……そしたら……。



シトロン「……そしたら?



サトシ「知らない赤髪のイケメンな男が出てさ……俺の女に何か用か?って言うんだよ。俺その時結構ショック受けてさ……ほら、アイツすっげぇ可愛いじゃん?二年間も音信不通だったら別にその間に彼氏がいてもおかしくはないけどさ……けどさ……




シトロン「……あの〜サトシ?



サトシ「俺はまあ、セレナに彼氏がいても元仲間なのは変わらないって自分に言い聞かせてさ……涙目を堪えながら『セレナ居ますか?』って聞いたんだよ……そしたらその男何て言ったと思う?『オメェがサトシか?オメェのヘタレっぷりはセレナからよ〜く聞いてるぜ。それと二年間も音信不通にするなんて有り得ない、仲間なんかじゃないともな。ま、そのお陰で寂しがってるアイツを俺の女に出来たんだ、ありがとな!』だとよ!結果、俺は怒りのあまり七万八千円したテレビ電話をポケモンセンターの二階からぶん投げてた。




シトロン「……サトシ、あの



サトシ「なあ、シトロン……二年間頑張ってピカチュウ達と血を吐きながら修行してさ……強くなった俺をセレナに見てもらおうとしたら……情けないもんさ……結果がこれ。笑ってくれ、この甲斐性もない俺を




シトロン「……そういう事でしたか……それでセレナにはパーティーの招待券を送らなかったんですね?



サトシ「……いや、招待券は送ったよ。結果はどうあれ、元旅仲間だしな。ご丁寧に彼氏さんもどうぞとまで書いたんだ。なのに来ないって事は……そういう事だろ



シトロン「サトシ……あなたはとてつもなく、大きな勘違いをしていますよ。
70 名前:名無し 投稿日:2017/01/29 23:53 ID:qZFNMOnw

サトシ「あ?……なんだよ勘違いって?


シトロン「それはーーー


ユリーカ「ああっ!サトシ、タバコ吸ってるー!!


シトロンが口を開こうとしたその瞬間、ベンチの裏から甲高いユリーカの声が聞こえた。
シトロンは驚きのあまり、ベンチから飛び跳ねて地面に尻餅をつく。
ユリーカはどうやら風呂上がりの様で、湯気を立てながら首元にタオルをかけていた。


サトシは灰皿にタバコを押し付けながら、ユリーカに向かって口元に一本指を立てた。


サトシ「皆んなには内緒な?


ユリーカ「え〜どうしよっかな〜?


ユリーカはそう言いながら、サトシの首元に手を回した。
サトシはユリーカの予期せぬ行動に顔を赤面させながら、腕を解こうとする。
ユリーカはそれを離そうとせず、サトシの耳元でシトロンには聞こえない様に、甘く囁いた。



ユリーカ「何〜サトシ?私の事少し意識しちゃってんの?


サトシ「ば、馬鹿野郎。十三歳のガキンチョに女なんか感じるかよ。



ユリーカ「じゃあ何で赤くなってんの?サトシかわいい〜


ユリーカはサトシの耳をカプッと甘噛みし始めた。
サトシは更に顔を赤面させ、ボフッと蒸気を放出させる。
ユリーカはその様子を面白そうに眺めていた。


シトロン「こ、コラ!ユリーカ!実の兄の前で何てことしてるんですか!?まだ十三歳でしょ?そんな不純異性交友、僕は認めませんよ!



ユリーカ「お兄ちゃんうるさーい。もうめんどくさいからテントで寝よーっと。



シトロン「ま、まだ、話は終わってませんよ!ユリーカ!



ユリーカはサトシを離し、二人に背を向けて立ち去ろうとする。
シトロンがそれを慌てて追いかけ様とした時、不意にユリーカが振り返ってサトシの耳元でこう囁いた。


ユリーカ「私達、明日は用事で朝イチで帰るんだ。今度また来るから……その時はデートしようよ、サトシ。



サトシ「えっ?


シトロン「ま、また何やってんですか!



ユリーカ「ふふっまたね!



ユリーカは追いかけてくるシトロンをかわしながら、急いでテント群の方へと走っていった。


残されたサトシはベンチから体をずり落として、地面に尻餅をついた。


サトシ「マジかよ……な、なんかヤベーぞ俺


?「何がヤバイの?


サトシ「おわっ!?


サトシはまたもや背後からの声に、一瞬で身を構えた。
そこにはヒカリの前にも現れた、ベリーショートの可憐な少女がサトシを見下ろしていた。
サトシは彼女を見るなり、安心した様に息を吐き、「なんだお前か……」とタバコを一本取り出す。


?「なんだお前か……って酷いんじゃない?ユリーカには赤面してた癖に僕には無反応ってなんか腹立つよ。ロリコンなの?


サトシ「暗いからな……顔がよく見えないから女子にも多少は平穏を保てる。……さっきあんなに赤面したのは幾つだろうと女の子にあんな事されたら、ああなるだろ、普通?



?「そうかな……ていうか、どうするのさ、サトシ。


サトシ「何が?



サトシがタバコに火をつけながら質問すると、可憐な少女は肩を落としながらため息を吐いた。



?「ユリーカだよ、明らかにサトシに気が合る様な感じだったじゃん



サトシ「やっぱ、あれってそう!?いや〜どうしたんだろ、俺。最近女の子とやたら接点あるし、遂に春到来か?
71 名前:名無し 投稿日:2017/01/30 00:04 ID:fNbFt1gO
そういうわけだったんですか。
引き続きメガ支援です。
72 名前:名無し 投稿日:2017/01/30 00:33 ID:KV3KV1ZC

?「はあ……呑気なもんだね、僕の相棒は。いいかい、ユリーカはシトロンとサトシが来てから直ぐ位に君達の後ろにいたんだよ?



サトシ「ん?それが何だよ?



?「ユリーカは狙いすましたかの様に、シトロンの『サトシは勘違いしてる』からの次の言葉を遮ったじゃん。まるでセレナの現状が知られるのを自分に不都合みたいにさ。その時のユリーカはスッゴイ女の顔してたよ。……もしかしたらセレナはまだ、



サトシ「止めろ、セレナの話は。……もうアレは終わった事だ、掘り返したくない……ていうかユリーカがスッゴイ女の顔してたって?女なんだから当然だろ?



?「……はあ、もういいよ。


サトシ「おう、もういいぜ相棒。それより俺は未来の事で頭が一杯なんだ。折角未来の彼女候補が沢山集まってんだ、この機会を逃す他ない。



サトシはそう言いながら、ニャースから受け取った茶封筒を開封し始める。
少女はそれを眺めながら、また呆れた様にため息を吐いた。



?「スピーチでは仲間達に今まで支えて来てくれてありがとう、とか立派な事言いながら、頭の中ではそういう事で一杯だったんだ?全く君は……あれ、それよりその封筒、ニャースからの?



サトシ「おう、『新メニュー』だとよ、嫌な予感しかしねぇな。おっと開いた。なになに……


?「仕事かな?


サトシ「……最悪だ『転移者』だとよ、名前はレッド。ヒカリの件といい、メンドくさい事が続いてるぜ。



?「こういう時は……大抵、大きな災いが起きるよね……尚更急いで師匠に伝えなきゃ。



サトシ「ああ……皆んなが寝静まってからな。それが一番だ。
73 名前:名無し 投稿日:2017/01/30 01:05 ID:KV3KV1ZC

………………………………

…………………

サトシがシトロン達と一悶着あった同時刻。
ヒカリはシャワーを浴び終えて、外にある簡易テントへと向かっていた。
傍らには水ポケモンのポッチャマが眠そうに目を擦りながら歩いている。



ポッチャマ「ポチャア……



ヒカリ「はあー今日は楽しかったな。明日はどうしようか、ポッチャマ?一応予定では3日くらい滞在する予定だけど……って、立ったまま寝てるし!



ポッチャマは花風船を膨らましながら、その場で眠っていた。
ヒカリは苦笑しつつ、ポッチャマを起こすのは忍びないと思ってモンスターボールの中に入れる。



ヒカリ「おやすみ、ポッチャマ。私も早く寝よーっと。


ヒカリは伸びをしながら、一つのテントに入ろうとした時、ポンポンと肩を叩かれた。
振り返ってみると、いやらしい悪巧みする様な笑みを浮かべたカスミが立っていた。


カスミ「なーに寝ようとしてんのよヒカリ、夜はこれからよ!女子会するわよ女子会!



ヒカリ「女子会?なんか楽しそう!



カスミ「でしょ!ハルカのテントに行くわよ、皆んな待ってるんだから。



カスミに案内され、ヒカリは一つのテントに入っていく。
中にはランプが一つ置いてあり、体育座りをしたハルカがにこやかに出迎えてくれた。



ハルカ「ヒカリ、カスミいらっしゃい。でもアイリスが寝ちゃったかも……


ハルカが自分の背後を苦笑しながら指さす。
その方向には寝袋の上で大の字で寝る、無防備なアイリスの姿があった。


カスミ「かもじゃないでしょ、完璧寝てんじゃない。ありゃりゃ〜……さっきまで起きてたのにお子ちゃまね。場所変えましょうか?アイリス起こしちゃったら悪いし。



ハルカ「そうね、どこのテントが空いてる?



カスミ「さっきヒカリが入ろうとしてた所が私とヒカリのテントよ、其処に行きましょう。悪いわね、ヒカリ。来た矢先に出戻りになっちゃった。



ヒカリ「全然大丈夫よ。でもアイリス、お腹出したまま寝てて風邪ひかないかしら?



カスミ「あんたは優しいわね〜。大丈夫よ、アイリスは屈強なアマゾネスなんだから、アンタ一時期この子と一緒に居たから知ってるでしょ?原住民よ原住民。腹立つからちょっと私達の女子会計画を狂わしたこの子にお仕置きしましょ?



カスミはそう言いながら、何処からか取り出したマジックでアイリスの顔に落書きを始めた。



ハルカは笑いを堪えながら、ポケギアに搭載されたカメラで写真を撮る。
74 名前:名無し 投稿日:2017/01/31 22:27 ID:lv886QHR

カスミ「こんな落書きしてるとプリンを思い出すわ〜


カスミはアイリスの瞼に新たな第三の目を書きながら、しみじみとそんな事を言った。
ヒカリとハルカは首をかしげる。


ヒカリ「プリン?……人?ポケモン?



カスミ「ポケモンよ。超強力な眠りの効果のある歌を、皆んなに聞いて欲しいから急に歌い出すの。そんで途中で寝ちゃったら不機嫌になって寝てる皆んなの顔に落書きすんのよ。私とか、サトシとタケシも何度も書かれちゃった。



カスミは第四の目を書き終え、マジックのキャップを締める。
そして満足そうに頷くと、振り返ってヒカリ達に向き直る。



カスミ「さあて、行きましょうか。今回は秘密の品も用意してるわ。



ヒカリ「秘密の品?



ハルカ「いいから、いいから。早く行くわよヒカリ。



半ば強引にテントから押し出され、ヒカリ達は主の居ない、二人用のテントへと足を運んだ。
75 名前:名無し 投稿日:2017/02/01 19:00 ID:rPJvt3XZ
支援
76 名前:名無し 投稿日:2017/02/01 23:08 ID:CRj5LcjZ



………………………………

………………

カスミ「デーン!これが私の用意した秘密の品よ!



カスミは背中に掛けていたバッグから瓶に入っている液体を取り出した。
ハルカは「わあ!」と歓声を上げ、ヒカリは首をひねってカスミに質問する。



ヒカリ「何これ?ジュース?



カスミ「アンタは本当に純情よね……私がわざわざジュースを秘密の品なんて言うわけ無いでしょ?お酒よお酒。




ヒカリ「ええっ!?私達、未成年でしょ?




カスミ「構いやしないわよ、今日ぐらい。法律が怖くて命を懸けた旅なんか出来ないわ。サトシなんてアイツ、久しぶりに会ったらタケシと一緒にタバコ吸ってたわよ?今日は猫被ってたから吸ってなかったけど。




ヒカリ「ええっ!?嘘でしょ?




驚愕するヒカリを他所に、ハルカは皆んなのコップを準備する。
カスミは酒瓶の蓋を開け、それをコップに注いだ。
77 名前:名無し 投稿日:2017/02/02 23:24 ID:YOgD4P4A

カスミは全てのコップに液体を満たすと、満足そうに頷きながら笑みを浮かべる。
彼女はそれを二人に手渡すと、コップを持ち上げて乾杯をしようと合図する。



ヒカリは戸惑いつつ、ハルカは迷いなくコップを合わせ、チンッと小気味良い音を鳴らした。
一気に飲み進める二人にヒカリは少々遅れながら、コップに入ったアルコールを口にする。



口一杯に広がる何とも言えない苦味にヒカリは顔をしかめつつ、それを時間をかけてゆっくりと飲み干す。
彼女は体内で何か熱いものが駆け巡るような感覚を覚えていた。
同時に頭にも血がのぼるような感覚が巻き起こる。
ヒカリは若干気分悪げに、二人の様子を伺ってみた。




二人は問題無さげにグングンと飲み進めていた。
それを見てヒカリは呆然としながらも、新たに注がれた液体に口をつける。
ヒカリは二人に負けまいと半ばヤケクソの様に飲み進めた。




ーーーー十分後、テントの中の三人はアルコールによって既に出来上がり、顔を著しく高揚させ、ハルカに至ってはもはや別人格と化していた。



ハルカ「ヒカリ〜呑んれるー?お酒はのんれものまれるにゃ……きいつけなはれ……ヒック。



ヒカリ「……ハルカ大丈夫?



カスミ「あんたは意外ね……ヒカリ。かなり酒強いわよ……アンタ。



ヒカリ「そうなの?飲んだ事ないからよく分かんないや。ハルカみたいな酔っ払う感覚ってどんか感じなの?



ハルカ「うっさいわね……ひとをよっはらいみたいにいうにゃ……このニット帽オバケ……



ヒカリ「……



カスミ「そうよ、このカオス感……これが見たかったのよ。



カスミは顔を高揚させつつも、ハルカより出来上がってはいない様だった。
彼女はニヤニヤしながら酔った様子のハルカを楽しんでいる。
カスミはヒカリに向き直ると、ハルカと肩を組みながら口を開いた。




カスミ「ハルカとはね、前にも一回飲んだ事があるんだけど、そりゃもうやばかったわよ。泣きじゃくりながらサトシ達との旅にもう一度戻りたい!とか、ジムリーダーなんかやだ、あの頃が一番楽しかった!とかね、もうそりゃ色々終わってたわ
78 名前:名無し 投稿日:2017/02/03 00:35 ID:veuerKyV
支援
79 名前:名無し 投稿日:2017/02/03 08:34 ID:Huz6H3pt

ヒカリ「へー、ハルカってジムリーダーもやってんだ。



カスミ「そうよ、家業を継いでジムリーダーとなったらしいわ。今はもうイヤイヤやってるらしいけど




カスミは新たに注いだ液体を飲み干し、更にコップに注いでいく。
注ぎながらカスミはヒカリを見ながら意味ありげにニヤリと笑みを浮かべた。
ヒカリは嫌な予感を感じながら、カスミの次の言葉を待つ。



カスミ「まあ、そんな話はどうでもいいか……ここからが本題よ。



ヒカリ「……本題?
80 名前:名無し 投稿日:2017/02/03 21:02 ID:SlYvGsLs

カスミ「そうよ……単刀直入に言うと、サトシについての事ね。



ヒカリ「……サトシについて?


ヒカリは何故かサトシという言葉で、自分の胸の中で何かが沸き起こる様な感覚がした。
それを見透かす様にカスミはニヤリと笑い、ヒカリに次の言葉をかける。



カスミ「サトシはこれからどんどんモテていくと思うわ……中身は思春期のアレだけど、何たってポケモンマスターだからね。収入的にも、人望的にも十六歳という若さで既にトップクラスよ?まあ、モテない訳ないわけよ。私は別にアイツに男としての興味は無いんだけどね〜もう彼氏いるし。




ヒカリ「へ、へ〜……そうなんだ。カスミの彼氏さんって、どんな人?



カスミはグラスに入った液体を見ながら返答する。



カスミ「私のこたぁ、どうでも良いのよ。もう、回りくどいのはめんどくさいから言うわね。私が聞きたいのは……ヒカリ、あんたはどうなの?って事。




ヒカリ「えっ……私?



ヒカリの胸のざわめきが大きくなった。
カスミは更に続ける。
81 名前:名無し 投稿日:2017/02/03 23:25 ID:SlYvGsLs

カスミ「ハルカはね……ずっと言い出せなかったらしいんだけど……サトシの事が、旅してた時からずっと、ずっと好きだったそうよ。



ヒカリの胸のざわめきが更に大きくなる。
彼女はそれを抑える様に、胸に手をやった。




カスミ「でもそれは心の内に隠して、旅仲間としての関係を崩したくないから、仲間達との関係を崩したくないから……それを胸の中に留めてきたそうよ。




ヒカリの中でサトシとの旅の思い出が駆け巡っていた。
喧嘩したり、笑いあったり、泣いたり、励ましあったり。
そういえば誰かに言われたっけ。
『サトシっていいよね……貴方はサトシをどう思ってるの?』って。
その時、私は何て答えたんだろう。
ヒカリは胸に当てた手を強く握りしめる。


カスミ「でも今日やっと踏ん切りがついたそうよ。サトシが今日皆んなの前でスピーチをするのを見て、堂々と話す姿を見て、心に浮かぶ感情を確かめて、やっぱりサトシが好きなんだって再認識して、それで絶対にこの恋を想いだけで終わらせたくない……ってね。可愛いよね、実はハルカは恋愛にはすっごい純情で乙女で、臆病なの。私は本気で人を好きになった事は無いから、少し羨ましいわ。



ヒカリはハルカを見てみると。
彼女はカスミにもたれ掛かったまま、スーッスーッと寝息を立てていた。
カスミは愛おしそうにハルカの髪を撫でている。



ヒカリ「……私にそんな事話しても、良いの?カスミ。


ヒカリが尋ねると、カスミは穏やかな笑顔を見せた。


カスミ「貴方だから言うのよ、ヒカリ。貴方はサトシの元旅仲間で、私達は友達じゃない。もし、ヒカリがサトシを好きじゃないのなら……私達、ハルカの応援をしてあげない?



ヒカリは目を閉じた。
今までのサトシとの思い出がフラッシュバックし、心に湧き上がる感情の正体を探る。
この感情は何なのだろうか?このざわめきは……。


……そうだ。
この感情はサトシのことを思う、一人の女の子がいる事への喜びに違いない。
あのサトシに遂に春がやって来るのだ。
しかも、友達のハルカ、これは喜ばしい事だろう。



ヒカリは笑顔を浮かべながら、カスミに向かって口を開いた。
82 名前:名無し 投稿日:2017/02/03 23:42 ID:SlYvGsLs

ヒカリ「勿論よ!サトシにも遂に春が来たわね、ハルカの為に私達が精一杯盛り上げてあげなくちゃ!



カスミはにっこりと微笑み、ヒカリとグッと硬い握手を交わす。
二人はそれから数時間ほど飲んで語り合い、ランプの光を消して、ぐっすりと就寝した。




……………………………

………………


数時間後、ヒカリは飛び起きる様にして目を覚ました。
と、同時に、彼女は慌てて辺りを見回してみる。
周りには寝ている筈のカスミとハルカが今ので起こしてしまったかもしれない、という配慮からだった。



幸い、二人は毛布を被ってまだスヤスヤと寝息を立てている。
彼女はホッとしながら、再び眠ろうとすると……理性だけでは抑え切れない、我慢できない程の猛烈な尿意に気がついた。



成る程、突然目が覚めたのはこのせいか、と彼女は苦笑しながら腕につけている時計を見てみた。
午前3時59分、まだあたりは真っ暗だ。
参ったな、と彼女は頭を掻きながらも、堪え切れない猛烈な尿意は彼女はテントから出して、サトシの家のトイレへと駆り立てた。
83 名前:名無し 投稿日:2017/02/04 00:08 ID:Ps4dVvQv

ヒカリ「ふーっ危なかった……



ヒカリはトイレを済ませ、サトシの家を出てテントへと戻ろうとする。
すると……見知らぬ少女と何処かへ行く、サトシの姿が目に入った。




ヒカリ「……えっ?サトシ?……あの隣にいる子は誰?……。



ヒカリはカスミとのハルカの恋を応援するという、約束を思い出し、咄嗟に二人の後をつける事にした。
84 名前:名無し 投稿日:2017/02/04 00:21 ID:xUUsP0T2
支援
85 名前:名無し 投稿日:2017/02/04 12:10 ID:613YoEfF

ヒカリ「……何処へ行くんだろう……あれ?あの女の子……何処でみた様な……あっ!?



ヒカリはサトシの部屋で目覚めた時、自分の名前を呼んでいた素っ裸の女の子のことを思い出した。




ヒカリ「あの時の女の子!?あれ夢じゃなかったんだ……でも、あの子……一体何者なの?




謎も深まり、ヒカリは草陰に隠れながら更に後をつける。
二人はどうやら近辺の山に向かっている様だった。



ヒカリ「……あんな所に行ってどうするつもりなの?
86 名前:名無し 投稿日:2017/02/04 13:11 ID:613YoEfF

ヒカリがサトシ達の後をつけ始めてから、15分。
既に三人は山のかなり深い所まで来ていた。時刻は午前四時を過ぎ、未だポケモン達の眠り声も山に響きわたっている。
ヒカリは息を切らしながら、必死について行った。



ヒカリ「はあ、はあ。……何処まで行くんだろう。




ヒカリが疑問を浮かべた瞬間、サトシと女の子は森の広場の様な所で停止する。
ヒカリはサトシ達の会話が聞こえる、ギリギリの地点の草むらで身を隠した。




サトシ「ここらで良いだろう……



サトシはそう言うと、腰に装着したモンスターボールを取り出した。
それを女の子が待って、と静止する。


?「気付いてると思うけど……良いの?サトシ。



サトシ「……まあ、師匠の力が通じない、アイツにはいづれバレる事だ。このままいく。



サトシはモンスターボールを空中に放り投げ、中に入るモンスターを出した。
そして、出てきたモンスターを見てヒカリは驚愕する。それは、明らかにポケモンと言えるには程遠いモノだったからだ。
それは……何処からどうみても、人間の女の子だった。



年齢はサトシと同じくらいか?
月明かりに照らされ、幻想的なまでに美しかった。
彼女は長い髪をたなびかせながら、切り株の上に立ってサトシ達を見下ろしていた。



??「ふむ……ワシを呼び出したって事は……相当な用事なんじゃろうな?サトシよ。



サトシ「はい……新たな転移者が現れました。



?「それにタケシ達に対して施した師匠の力が、ヒカリに対してだけは効いていませんでした。



ヒカリは自分の名前が飛び出た事に、ビクッと身を震わせる。
切り株の上の女の子は面白そうに目を細め、ヒカリの隠れている草むらの方向を向いた。



??「ほう……やはりあの小娘には効かなんだか。面白い、あやつは巫女の力を持っておるかもしれんのう……。のう小娘、そんな所に隠れとらんで出てきたらどうじゃ?ワシに顔をもっとよく見せい。



切り株の上の女の子は、ヒカリに対して手を伸ばして、人差し指でクイッと呼ぶ様な仕草を見せる。
すると草むらで隠れていたヒカリが空中に浮かび上がり、引力の様に引きつけられてサトシ達の前に放り出された。
87 名前:名無し 投稿日:2017/02/04 15:09 ID:613YoEfF

ヒカリ「きゃっ!?一体何がどうなっ……痛!



ヒカリは空中から地面に落とされ、尻餅をついた。
彼女は涙目でお尻をさすりながら、立ち上がると……無言でそんな彼女を見つめる三人がいた。




ヒカリ「あ、あはは……ど、どうも〜。ちょっと夜道を散歩してたら偶然……眠たいからテントに帰るね、サトシ……




サトシ「家からつけてたのは気づいてたよ、ヒカリ。そんなお前に話しかけなかったのは……大事な話があるからだ。



サトシ達に背を向けて帰ろうとするヒカリに対し、サトシはそう言った。
ヒカリは恐る恐るサトシに振り返ると、質問をする。



ヒカリ「は、話?何の?



サトシ「お前が今日茶化されたルカリオの事だよ。ゴメンな、あれ夢じゃないんだわ。



ヒカリは自分の心臓が早く脈打つのを感じた。




ヒカリ「えっ……でもタケシ達も気絶した私をバスから運び出したって。




サトシ「上書きだよ。この切り株の上にいる師匠に手伝ってもらって、全員の記憶を改変したんだ。……何でかお前だけ記憶を保持したままだったけどな。



ヒカリ「えっ、えっ?……か、かいへん?何でそんな事が……ていうか師匠って……その女の子の事なの?その女の子モンスターボールから出てきたよね?……い、一体何がどうなってるの?
88 名前:名無し 投稿日:2017/02/04 20:04 ID:613YoEfF

??「小娘、お前にはワシが何に見える?



唐突に尋ねられ、ヒカリはビクリとしながら、謎の女の子を見る。
どっからどう見てもヒカリには人間の女の子にしか見えなかった。



ヒカリ「人間……に見えます。



??「ほう……そうか、人間に見えるか。でもワシはいわゆるモンスターボールから出てきたのだぞ?それでも人間と言えるのか?




ヒカリ「……さ、サトシ。ど、どういう事なの?



ヒカリは助けを求める様にサトシを見た。
サトシは真剣な表情を浮かべたまま、口を開く。



サトシ「なあヒカリ……ポケモンと人間の違いって、何だと思う?



ヒカリ「ポケモンと人間の違い?……わ、分かんないよ、そんなの。技を使うとか?



サトシ「間違ってはいないな。でも明確に答えを出すとするならば……無いだ。答えは無い。人間とポケモンの違いなんか、名称だけだ。




ヒカリ「……
89 名前:名無し 投稿日:2017/02/04 22:12 ID:613YoEfF

??「ほう……サトシ。お前、中々いい事言う様になったの。じゃがの、お前ら人間が定めるポケモンと人の違いの定義など、ワシらにとってはどうでもいい事じゃ。別に勝手に区別や差別してもらってもこっちは一向に構わんし、それが間違いとも言わん。この世に生まれ落ちたからには正解なんか追い求める事自体が無意味じゃ。のう、ピカ娘よ。



?「師匠……ピカ娘はやめて下さいよ。せめてピカチュウって呼んで下さい。……まあ、そうですね。ボクらポケモンからしたら定義とかそういう概念はありませんね、あるとすれば敵か味方か……それ位の区別です。




ヒカリ「へっ?……ピカチュウ?



ヒカリが二人の会話にハテナマークを浮かべていると、それを察したサトシが説明を始めた。



サトシ「ヒカリ……俺の隣にいるショートヘアの女の子……実はコイツ、俺の相棒のピカチュウなんだよ。




ヒカリ「へっ……え?ごめん、何言ってんのかよくわかんない。
90 名前:名無し 投稿日:2017/02/04 22:28 ID:613YoEfF
一応分かりにくいから説明しときます。「」前に??二つがついてるのが、ジジイ言葉を使うロングヘアの女の子(師匠)
「」前に?一つがサトシがピカチュウと説明した女の子です。
91 名前:名無し 投稿日:2017/02/04 23:18 ID:WqkQTI2I

ピカチュウ「ヒカリ……ボクは正真正銘のサトシのピカチュウだよ。五年前、君と一緒に旅したのもボクさ。……今は姿が違うけど、ヒカリの事は大好きだから信じてほしいな。



ヒカリ「……一体どうなってるの?貴方がピカチュウなのを信じたとしても……どうして人の姿に?



サトシ「その辺も踏まえて全部説明するよ、皆んなに説明した二年間音信不通で山に篭って修行してたって話……アレは半分本当で半分は嘘なんだ。



ヒカリ「嘘……



サトシ「騙したみたいで悪いけど……こっからの話はお前らの命が危うくなるからしょうがないんだよ。だから俺が今からお前に話す内容も、危険が及ばない程度に大まかな内容だ。聞いてくれるか?



命が危うくなる様な話とは……一体どんな事をサトシは体験してきたんだろう?
ヒカリは緊張して胸が苦しくなるのを感じていた。
だが、それを振り払う様に彼女は自らの頬を叩く。
そしてヒカリは決心を固めた様に、口を開いた。



ヒカリ「うん……でも、私には大まかな話じゃなくて、全部聞かせてほしいな。だって私達……大事な仲間じゃーーーー



サトシ「ダメだ。全部は話せない。



切り捨てる様にサトシは言い放つ。
その事にヒカリはショックを受けていると、サトシはそれが分かっているのか、顔を歪めながら話を続ける。
92 名前:十五歳の早計 投稿日:2017/02/05 17:15 ID:uqfvGGLf
ペンネームを十五歳の早計として、また夜中に書いていきたいと思います。
93 名前:十五歳の早計 投稿日:2017/02/05 20:44 ID:uqfvGGLf

サトシ「すまない……俺だってヒカリは大事な仲間だし、全てを打ち明けたい。だけど、コレはそういう問題じゃないレベルの事なんだ。分かってくれ。




ヒカリ「……




??「やれやれ……そんな事言うなら初めから端折って喋れじゃええじゃないか、バカサトシよ。回りくどい言い方するからややこしくなるのじゃ。本当は小娘に心配して欲しくて堪らんのか?女々しい男じゃのう。なあ、ピカ娘よ?




ピカチュウ「……サトシは不器用ですから。でも、師匠もそんな言い方しないで下さいよ。サトシだって色々考えてるんです。




??「おお、ピカ娘を怒らしてしまったか。すまんのピカ娘や。おい、サトシ。お前の妾のピカ娘がお前を庇護しておるぞ、情けないから早く話を進めい。



ピカチュウがギリッと、師匠と呼ばれる女の子を睨みつけ、歯を噛みしめる。
師匠と呼ばれる女の子はそんなピカチュウを見ながら面白そうに挑発的な笑みを浮かべていた。


サトシ「いや……そうだな、多分そうですよ。俺はヒカリに心配して欲しくてこんな言い方をしたのかも……ゴメンな、ピカチュウ、ヒカリ。俺、情けないよな……本当は全部背負い込むのが怖いんだよ、それでこんな言い方して、ヒカリに心配して欲しかったんだ。




ピカチュウ「サトシ……




ヒカリ「……いいや、全然情けなくなんか無いよ。むしろ、嬉しい。私は何にも出来ないかもしれないけど……危険になったっていいから……そのサトシが背負ってるモノが何なのか分かんないけど、一緒に背負う位はしたいもん。
94 名前:十五歳の早計 投稿日:2017/02/05 22:59 ID:uqfvGGLf

??「ほら、小娘もこう言っておるぞ。バカサトシ、全部話てやったらどうだ?この世界の裏側がどうなっておるかなどな。



ヒカリ「……この世界の裏側?



??「そうじゃ、小娘。お前はこのマサラの反対側にある大陸の国の名前を知っておるか?その国の民がどんな事をしておるかとかな。



サトシ「師匠!



サトシが力強い声で師匠と呼ばれる女の子を制止する。
その女の子はサトシを見下した様に見つめ、肩をすくめた。




??「なんじゃ?話さんのならワシが代わりに話をしてやろうとしてやっただけじゃ。それが嫌なら早う決着をつけい。ワシはもうめんどくさくなってきたぞ。



女の子は切り株に座り、大きな欠伸をした。



サトシ「……そうします。ヒカリ。



ヒカリ「は、はい!




サトシ「やっぱり全部は話す事は出来ない、お前に今はそんな重荷を背負わしても俺たちにとってもプラスにはならないからだ。……すまないな、長くなって。今はこのヒカリが巻き込まれた現状の理由だけを聞いてくれ、ピカチュウが人の姿になった理由や、ルカリオに襲われた理由を。




ヒカリ「……分かった。




サトシは話し始めた。
それはパーティー会場で話していた、ロケット団と協力し、ヒミダ山脈の敵の基地でピカチュウが瀕死の重傷を負ってからの話だった。
95 名前:名無し 投稿日:2017/02/05 23:13 ID:uqfvGGLf




………………………………

………………

サトシ「ヒミダで敵にやられてピカチュウが段々冷たくなっていってさ……その背中の深い深いキズはロケット団の看護婦じゃ手に負えなかったんだ。それで俺は慌てて山を下るって言ってさ。血だらけのピカチュウを抱えて、制止するロケット団を振り払って転がる様に山を降りたんだ。




ヒカリはサトシの話に相槌を打ちながら、女の子の姿となったピカチュウを見る。
ピカチュウは満点の星空を見上げながら手を伸ばし、何か物思いに耽っている様子だった。



ヒカリはそんなピカチュウを見ながら、山を必死に駆けているサトシの姿を脳裏に浮かべた。



…………………………

……………

サトシ「頼む!しっかりしてくれ、ピカチュウ!



ピカチュウ「ピーカ……



ピカチュウは心配するなとでも言う様にさ、俺の頬にずっと手を当てていたんだ。
俺はそれをされて余計に助けてやろうって気になって、後ろから追いかけてくるロケット団の三人を無視してた。
96 名前:名無し 投稿日:2017/02/08 23:38 ID:ucAx98lo
支援
97 名前:名無し 投稿日:2017/02/09 00:45 ID:xAdmSebP

コジロウ「おいサトシ!そんな走って山を下りても1日は掛かるぞ。基地に戻って車両か何かを探そう、それしかない!



サトシ「うるせぇ!それで手遅れになったらどうする!?リザードンも負傷して動けねぇんだぞ!俺の勝手にやらせてくれ!




ムサシ「待ちなさい、バカ!そっちは崖よ!




情けなくてかっこ悪い話だけどさ、俺は焦って全然周りが見えてなかったんだ。
そのせいで優先度を見失って、挙げ句の果てにはロケット団諸共、崖から落ちてさ。




バカだろ?
そんな高くなかったから、俺たちは無事だったけどさ。
ピカチュウは息をしなくなるし、道に迷うしで、もう最悪さ。




狼狽してさ、ああ、ピカチュウはここで死ぬんだなって俺はなんと無く感じながら、歩き続けた。
ポロポロ男らしく無いけど、泣いちゃってさ。



そんな俺をアイツら三人は献身的に接してくれたっけ……。
傷に効きそうな木の実や薬草を探してくれたりさ。
ほんと、あいつらには感謝してる。




……そんでさ、終いには雨が降り始めて、死にかけのピカチュウの体を冷やさない様にアイツらの提案で近くの洞窟に入ったんだよ。
98 名前:名無し 投稿日:2017/02/09 01:12 ID:xAdmSebP

その時にはピカチュウは心臓も止まってたんだ。
毛並みが良いって自慢だったピカチュウの体もさ、ボロボロで……冷たくて……固まった血がこびり付いてて……。



もう、無理だ。
そう、思ったよ。
ロケット団も泣いてたっけ、俺は逆にその時は涙も枯れてさ。
ずっとピカチュウに、話かけてたよ。




やがて夜が明けた。
俺はずっとピカチュウを抱いたままだった。



そんで俺たちは無言だった。
言わなくても分かる、アイツらも何を思っていたか位は。




俺たち四人はそんな中、最悪な気分で山をくだろうとしてた時……。
洞窟を出てすぐ位に、急に笑い声が聞こえたんだ。
変だろ?秘境の山のど真ん中で。
しかも、甲高い女の子の笑い声なんだ。




俺は気になって振り返った。
ピカチュウが死んだのに、悲しいのに、苦しいのに、嘲笑うかの様な笑い声だったから。




その時は本気で殺してやろうと思ったよ。
99 名前:イッチ◆Whc/JdNwwk 投稿日:2017/02/09 17:23 ID:ngedzZgG

情景や状況が分かりやすくて、話も良いですね!
100 名前:十五歳の早計 投稿日:2017/02/09 18:45 ID:Fell7wGh
まさかあのイッチさんにコメント頂けるなんて……。
あなたのssを見て自分も書き始めました、光栄です。
101 名前:イッチ◆Whc/JdNwwk 投稿日:2017/02/09 19:11 ID:TdJ5Qj0X

いや、そんな大した事ないですよ私なんて笑


更新大変なのはよく分かります!
是非最後まで書いてください、楽しみに読んでます!

102 名前:ジョー 投稿日:2017/02/09 22:44 ID:ao1LXpN7
主さん、お疲れ様です。ss楽しく拝見しています

これからも支援続けますね
103 名前:名無し 投稿日:2017/02/11 01:33 ID:akiCT5ss

俺が振り向いた先には……声音通り、女の子が立っていた。
ロングヘアーでラフな白のワンピースを着ててさ、まあ、彼処で切り株に座って……寝ちまったか、寝息を立ててる師匠の事なんだけど。




師匠は殺気を出しながら睨みつける俺を気にしてない様に挑発的に笑って、ゆっくりと近付いてきたんだ。




えっ?
なんであの女の子を師匠って呼んでるかって?
まあ、もうちょっとしたら理由が分かるから少し我慢してくれ。



それでさ、師匠はピカチュウを抱いた俺を興味深そうにしばらく眺めた後、こんな事を言ったんだ。




??「ふむ……そのデンキネズミ、このレベルなら最終進化までいけるの。息を吹き返すやもしれん。

104 名前:僕◆K17zrcUAbw 投稿日:2017/02/11 09:37 ID:Vs3XCeyC
支援です‼
105 名前:名無し 投稿日:2017/02/11 13:05 ID:akiCT5ss

サトシ「ぴ、ピカチュウが……た、助かるのか?




??「うむ、ある条件を満たしたらだがな




俺は絶望の中の、あり得ない救いの一言に縋ろうとした。
頭では理解してた。
ピカチュウは心臓が止まっている。
冷たい、とても冷たい……モノみたいになってたから。
助かるわけがない……。
あり得ない……。



でも、でも、もしかしたら……。




何でもいいと思った。
コイツを助けてくれる少しの希望なら、悪魔でも、幽霊でも、謎の女の子でもいいって。
俺は言った、迷わずに言った。
何をすればいいんだ。





??「そうじゃの……ちょうどワシは今、長年連れ添った召使いを亡くして一人で不便にしておった所じゃ。お前が生涯を通して、ワシの召使いになればそこの小汚いデンキネズミを最終進化によって救ってやろう。





サトシ「ああ、なんでもする!頼むからピカチュウを助けてくれ!




ムサシ「ちょっと待ちなさい!




そこで沈黙を保っていたムサシが大声を上げた。
俺を止めようとしてくれたんだ、そりゃそうだろうな。
こんな秘境の地で一人、しかもピカチュウの命を救ってやるなんて言う女の子、怪しすぎるだろ?




しかも、その女の子の提案は俺に一生奴隷になれって言ってるのと同じだった。
106 名前:名無し 投稿日:2017/02/11 13:29 ID:akiCT5ss

でも、俺はそんなのぜんぜん構わなかった。
ピカチュウさえ、救えれば。
俺の命さえも差し出せた。




師匠は止めに入ったムサシを一瞥した後、嘲笑うかの様にロケット団に向けて手を振った。
するとさ、さっきのヒカリみたいにロケット団の体が突然持ち上がって、地面に叩きつけられたんだ。





俺は驚いて止めに入った。
奴らは一緒に命を懸けて戦った仲間だからな、酷いことをされるのは堪らない。
でも、不謹慎だと思うかもしれないけど、俺は俺でその時、期待に胸を膨らましていたんだ。




ミュウツーみたいな力を使う女の子だぜ?もしかしたらピカチュウも!……なんてな。
107 名前:名無し 投稿日:2017/02/11 14:09 ID:akiCT5ss

師匠は俺のそんな心情を読んでいたのか、ニヤリと笑って近づいてきた。
それで俺の体に触れて、




??「我が御心の元より命捧げし、一人の若者よ。彼の者を、祭壇の儀式へと召喚する。




呪文を唱える様に言った。
すると驚く事にさ、一瞬で周りの景色が変わったんだ。
気がつくと、森の中の神殿みたいな所に立っててさ。その神殿の中は天井が高くて、ポケモンが書かれた壁画があって、そして何かの儀式をする祭壇みたいなのがあった。




サトシ「こ、ここは!?





??「さてと、お主の気が変わらん内に契約をすませるかの。お前、今歳はいくつじゃ?




サトシ「じ、13歳だ。




??「ふむ……痛みに耐えきれるギリギリのラインかの。お主がこれからデンキネズミを救うにあたって、これから契約の儀式というものする。その儀式の内容は、今までのデンキネズミの記憶をお前の脳内に送り込む。対してデンキネズミにはお前の記憶を送り込む訳じゃ。簡単じゃろ?




サトシ「ああ!早くピカチュウをたすけてくれ!





??「まあ待て、若き人間よ。何事にも美味すぎる話など存在せんぞ。記憶の交換、それ即ち痛みの交換じゃ。




サトシ「……痛み?




師匠は悪魔の様な笑みを浮かべていた。




??「今まで感じてきたデンキネズミの痛みが、記憶となってお前の脳内に送られてくる。最終進化には他者との完璧な記憶の同一化を行わなければならん。それがより親密な関係であれば尚更良しじゃ。
108 名前:名無し 投稿日:2017/02/11 16:14 ID:33jmqFtV

そこで師匠はピカチュウを祭壇の上に乗せるように言った。
俺は言われた通りにしたら、師匠は満足そうに頷いてまた口を開いた。





??「お主をどうやらこの契約を甘く見ておる様じゃが……このデンキネズミが今まで感じた痛みが一気にお前に降り注ぐのじゃぞ?今までそれに耐えきれた人間は……前任の召使いだけじゃ。




サトシ「耐えきれなかった人間は?




??「死んだ。心底苦しんで止めてくれと血を吐きながらな!あれは実に愉快じゃったぞ?最初は勇ましい言葉を吐きながら、最後には自分の保身に走るのだからな!




サトシ「俺が死んでもピカチュウは助かるのか?




??「無理じゃ、最終進化を為すには他者との最後までリンクする事が不可欠じゃ。お前が死んでもただの無駄死にしかならん。どうじゃ?怖気付いたか?




サトシ「何言ってんだよ、上等だ!早くその儀式とやらを始めてくれ!





師匠はそこでニヤリと笑った。
そして、ピカチュウの頭に手をやって俺の頭にも手を乗せた。





段々と頭が熱くなってくるのが分かった。
俺は腰にあるモンスターボールからリザードン以外のポケモンを出して、心配そうに見つめる仲間達にお願いした。




サトシ「もし、俺が死んだらリザードンの入ったモンスターボールを持って山を降りてくれ……ゴメンな……これでお別れかもしれない。勝手な俺を許してくれ。
109 名前:名無し 投稿日:2017/02/11 23:24 ID:wpW57tNO

俺の仲間達は涙を流しながら、頷いてくれたっけ……。



??「感動しているところ悪いが、始まるぞ人間。デンキネズミの記憶を貴様に注入する。途中で耐えきれずワシの手から離れたりしたら、全ては終わりじゃ。こやつの魂は離れ、二度と現世にまみえる事は無いじゃろうな。お前もタダでは済ままい。





サトシ「わかってる、俺はぜったーーー





そこまで言ったところだった。
突然視界がシャットアウトされて、気がつくと俺は真っ暗な空間に立っていた。
暫くすると、突然シャボン玉みたいな物体が俺の周りに浮かび上り始めたんだ。




困惑しながら覗き込んで見たら……俺の顔が浮かんでた。
ちょうど俺の肩口くらいからの視線かな?
瞬時に理解したよ、コレはピカチュウの視線だ。ピカチュウの記憶だ、ってな。



そんな感じのシャボン玉が沢山あるんだよ。
俺は順番にそれを覗きこんでいった。




バトルしてる場面もあったし、一緒に風呂に入ってる時もあったな。
何でか分かんないんだけど、その時は涙が止まらなくなってた。




シャボン玉は次々と増えていく。
俺は涙を流しながら、それを一つ一つ、噛みしめる様に見て行った。




全部見終わったくらいの時、そのシャボン玉は不規則な動きを見せ始めたんだ。
まるで誰かを探す様に……。
110 名前:名無し 投稿日:2017/02/12 23:33 ID:aobtIhcN

サトシ「おれを……俺をさがしているのか?





ユラユラしていたシャボン玉の動きが止まった。
心なしかこちらを向いた様に思えた。
球体なのにな、変だろ?
探し物は見つかった様だった。





だけどそれと同時に、酷く迷ってる様にも見えたんだ。
俺は察した。
察して喋りかけた。





サトシ「俺はここだ、ここにいる!迷うな、ピカチュウ。お前が死ぬ時は俺も一緒だ、俺はお前を絶対に一人なんかにしないぞ!さあ、来い!お前の痛みを……お前の全部を受け止めてやる!





そう言った瞬間、周りのシャボン玉が一気に俺の体に入っていった。
俺は……ピカチュウの痛みと、全ての思いを、その時しっかり受け止めたんだ。





相棒の心に隠された、本当の思いもな。
111 名前:名無し 投稿日:2017/02/14 12:48 ID:j6GpEewH


……………………………

……………


ヒカリ「隠された……想い。



サトシはそこまで話すと、懐からタバコを取り出して火をつけた。
そらに浮かぶ満天の星空を見上げながら、ゆっくり噛み締める様にタバコの火をふかす。



その悲しげな表情は、ヒカリには思いつめている様に見えた。




サトシ「師匠の言う最終進化は成功した……そんでピカチュウが再び目を覚ましたのが、あの姿だ。




ヒカリはピカチュウに目を向けた。
ショートヘアーで目のパッチリとした可愛らしい美少女。あれが最終進化後のピカチュウ……。
ヒカリはそう考えると同時に、最終進化というモノの存在に疑念を持った。




ポケモンを人の姿へと帰変える最終進化……果たしてそれは一体何なのだろうか?
進化……なのだろうか?




ヒカリは答えを求める様に師匠と呼ばれる少女を見た。
少女はヒカリの視線を感じたのか、ゆっくりと目を開いてヒカリを見る。




視線が交錯する二人を見て、察したサトシは口を開こうとして、師匠と呼ばれる少女に遮られる。



??「最終進化が何か知りたいか?小娘。
112 名前:名無し 投稿日:2017/02/15 02:33 ID:u9k7fUU5
すごい展開…。
支援です。
113 名前:名無し 投稿日:2017/02/15 08:12 ID:BpafG8A0

ヒカリ「……そりゃ……ねぇ?




ヒカリは同意を求める様にサトシを見た。
サトシは戸惑った様に師匠と呼ばれる女の子を見る。




サトシ「師匠……それは……




??「小娘に危険が及ぶと?忘れたのか、そもそもワシと創造主しか知らん事じゃ、心配いらん。おい、小娘。この世界の真実というモノの一つを教えてやろう。お主は人間とポケモンの起源が同じというのを聞いたことはあるな?スクールでそれくらいは習うじゃろ?スクールすら通わず、のうのうと旅しとるサトシとかいうバカではあるまい。


ヒカリはその話は看護スクールで聞いた事があった。ポケモンと人間のDNA因子には無視できない程の類似点が存在するらしい。
その為、テレビの特番や学会では声高々に叫ばれるのだ。『ポケモンと人間の起源は同じ。人間だけが奇妙な進化を遂げ、文明という武器で地球での覇権を手に入れている』と。
ヒカリは何故その事を引き合いに出すのか、と少女を訝しみつつ、さらなる質問を口にした。



ヒカリ「……同一起源説の事ですか?でもあれは人間が現在の姿形となる理由に説明がつかず、否定された筈ですけど?




??「そりゃつかんじゃろうな。何故ならポケモンと人間の起源が同じなのでは無く、ポケモンの起源が人間だからじゃ。
114 名前:名無し 投稿日:2017/02/15 13:08 ID:BpafG8A0

ヒカリはガンと鈍器の様な物で頭を殴られた思いだった。
……彼女は何と言ったのだろうか?
ポケモンの起源は……人間?




あの多種多様な種類のポケモンの起源が……人間?
そりゃあ人間ならばDNA情報も類似してくるし、同一起源説なんて学説もでてくるだろう。





だが、ヒカリは彼女の口にした言葉を完全には理解できていなかった。明らかに正しい発音、言語で、尚且つシンプルに説明された筈なのにだ。



看護スクールで、医学的なリアリズム思考を持ち合わしたヒカリからすれば、それは未知の言語で喋る宇宙人の言葉と等しい程、陳腐なものだった。




ヒカリ「あの……お、仰しゃってる意味が
115 名前:名無し 投稿日:2017/02/16 00:30 ID:Z7HA4TB3
支援
116 名前:名無し 投稿日:2017/02/18 00:29 ID:vp5qiTzl

??「古来……気の遠くなる様な昔の話だ。まだポケモンならざる、力を持たぬ生物と人間が共存していた時代の話をしよう。人は科学という神秘を持って、その世界の覇権を為すがままにしていた。だが、天敵を失った生物の待つ末路はいつの時代も決まっている。気に入らない組織、国家、集団に難癖をつけて、始まるのはケンカならざる同族同士の領土、資源を求めた殺し合い……戦争だ。




ヒカリ「……




ヒカリは戦争、という言葉を聞いたのは看護スクールと幼少期の頃以来の事であった。
そして国家、という言葉も、ヒカリからしたら全くと言っていいほど聞き覚えがない。
国家という概念の無い、地方で分けられた世界に生きるヒカリからすれば馴染みの無いワードだ。
それもその筈。



この世界では徹底された幼少期からの反戦教育が成されている。
この世界で育った良識的な人格と社会を重んじる文明人であれば、戦争というワードを聞いただけで忌み嫌い、拒絶反応を起こしてしまうものだろう。
117 名前:名無し 投稿日:2017/02/18 19:18 ID:tDyJ33ZR
それに、ポケモンならざる力を持たぬ生物……とは、一体何のことなのだろうか?
ヒカリは脳裏に沢山の疑問符を浮かべたまま、少女の言葉に傾注する。




??「その国家に身を置く人間達は切り札として、大いなるもろ刃の剣を持っていた。自分達の首まで落としかねない代物じゃ。在ろう事か、愚かな人間達はそれで斬り合う事を選んだ。大地は荒れ、気候は変動し、都市は消滅した。一瞬の熱線を持って、世界の殆どは蒸発したのじゃ。




ヒカリ「……それは、もろ刃の剣とは……人間の生み出した兵器、の事ですか?そんな力を持った兵器なんて……私聞いたことありません。



それだけでない。
彼女の語る歴史はヒカリが幼少期より、聞き及んだ事とは全く違っている。
ヒカリの認知している歴史とは、古来、人とポケモンが争いの果てに共存して、今の形を成しているという事だけだ。



??「そうじゃろうな、この世界に統べる人間達のほとんどがその事を知らん。知っているのは私の認知しているだけで一人だけ、創造主だけじゃ。




ヒカリ「創造主とは……神の事ですか?



??「違う。神などと存在も確かでは無い戯けた存在と一緒にするでない、創造主は創造主。人間じゃよ。人間達をポケモンの姿に変え、変動した過酷な地に順応させた慈悲深き悪友の事じゃ。変動した地から逃げる様に地下に篭り、平穏となった世界に再びノコノコと現れた人間達は大層、驚いていたぞ。自分らの知らぬ内に、地上では未知の生物達が世界を支配しているのだからな





ヒカリ「……そ、その創造主とやらが悪友とは……どういう事なんですか?それとまるで……その場で、それを見てきたかの様に話されるんですね?




??「おお、見てきたとも。創造主とは幼馴染でな、姉妹の様に仲が良かったのじゃが……。ふむ、ところで小娘、貴様にはワシが何歳に見える?




ヒカリ「は?……えーと、じゅう……ろく?




??「ふむ……若く見られるのは悪く無い事じゃ。じゃが、話の流れで察して欲しいモノじゃのう。ワシも暫く眠っとったから定かでは無いが、二千を超える年はとっておる。




ヒカリ「にせっ!?え!?
118 名前:名無し 投稿日:2017/02/20 21:15 ID:C5G93ie8
早く続き書けよ
119 名前:名無し 投稿日:2017/02/22 08:44 ID:JqDtuDhX
支援です
120 名前:十五歳の早計 投稿日:2017/02/22 19:20 ID:deGHmRhZ
すみません、忙し過ぎて全然書けてませんでした。今日時間があれば書いていこうと思います。
121 名前:名無し 投稿日:2017/02/25 18:28 ID:bn9UB5lQ
面白い 支援
122 名前:名無し 投稿日:2017/02/25 21:04 ID:B2tdNNWP
驚愕するヒカリを他所に、女の子は眠気を堪えるように大きな欠伸をした。
女の子は目をしきりに擦りながら、サトシの方向へと向き直る。



??「今日はもうここまででエエじゃろ?なんか、眠うてかなわん。それに、いきなり詰め込みすぎても小娘は理解できんはずじゃ。こやつはこの世界に馴染み過ぎておる、常人には理解できんじゃろ、『試練』を積ませたお前と違ってな。



また新しい言葉が出てきた、とヒカリは顔をしかめた。
二人は構わず会話を続ける。



サトシ「そうですね……明日も早い事ですし、この辺で切り上げましょうか。ヒカリ、もうテントへ帰ろう、今日はもうゆっくり休め。




ヒカリ「えっ?……でも、まだ聞きたい事が




ヒカリは思わず、それを口に出していた。
それもその筈だ、ヒカリは数時間の間に世界の秘密とやらを聞かされ、驚愕に顔を何回引きつらせ続けた事か。
彼女の脳裏に巣食う知識欲の怪物が、ここで話を切られることを恐れていた。

そんな彼女に対し、女の子はめんどくさそうに肩をすくめる。



??「くどいぞ、全く。ふむ、まあ……構わんか。貴様に記憶操作系の技は使えんが、物理技なら聞くことはさっきのテレキシネシスで証明済みじゃ。




ヒカリ「えっ?それってどういう……



??「グッスリ眠れ、ワシもそうする。



サトシ「師匠!?やめーーー



サトシの声が聞こえた瞬間、ヒカリは気がつけば体は宙へと持ち上がり、草木の生い茂る地面に頭から落下していった。
凄まじい衝撃で気を失ったのは、言うまでもない。



………………………………

…………
123 名前:名無し 投稿日:2017/02/25 22:21 ID:Coe06fXl


カスミ「ヒカリ、ヒカリ。起きて、もう朝よ。



ヒカリ「う、うーん……あと、五分……



カスミ「サトシみたいな事言わないの!ほら、起きる!タケシが朝ごはんの準備してくれたから。



ハルカ「起きないとアイリスの二の舞にしちゃうかも。



ヒカリはその言葉に、昨夜のアイリスの顔の落書きをフラッシュバックさせた。
瞼の上にある間抜けな瞳の絵。



ヒカリ「それだけはカンベン!



ヒカリは気づくと跳ね起きるように目を覚まし、カスミとハルカを爆笑させていた。



カスミ「ははっ!早く行くわよヒカリ、アイリスの間抜け面を拝みに!




ハルカ「寝ぼけながら、ご飯食べにいったからそろそろ皆んな気づいてるかも。




ヒカリは二人に促され、テントから出てタケシが朝ごはんを準備しているという、昨夜のパーティー会場へと向かう。



彼女はその道中で昨夜、師匠なる人物とサトシから衝撃の事実を聞かされた事を思い出していた。
カスミとハルカが恋愛話で盛り上がる中、ヒカリは一人、感慨にふける。



ヒカリ『どうしよう……昨日、あの女の子に地面に頭から落とされてガンガン痛いし、信じられないくらい寝不足だし……やっぱり昨日の出来事は夢じゃない様ね。……』



カスミ「でも、やっぱりタケシは無いわよね?



ハルカ「どうして?家事万能だし、気配りがすごいし、頼りになるから凄くモテる気がするかも



ヒカリ『はあ……モンスターボールからサトシが師匠って呼ぶ女の子は出てくるわ、ピカチュウは人型の女の子だわ……もう訳わかんない。あれ、そう言えばサトシから女の子の事を師匠って呼ぶ理由まだ聞いて無いや……それにピカチュウの隠された想いってのも気になる……』



カスミ「逆ね、相手の方が家事万能で気配りされたら女のプライドはズタズタでしょ?付き合う分にはいいかも知んないけどね



ハルカ「うーん……そんなもんなのかな?




カスミ「そうよ、女からしたらちょっと相手がだらしなくて鈍感なサトシみたいなのが楽でいいのよ。その分、そういう男は浮気したりギャンブルにはまりやすいのが難点だけどね。



ハルカ「なんかすっごい経験豊富っぽい発言かも



カスミ「かもじゃなくて、そうなの。ハルカはプライドがないからそう思うだけよ。ね、ヒカリ?



ハルカ「聞き捨てならないかも!




ヒカリ『私ピカチュウはずっと男の子と思ってたんだけど……実は女の子だったとか……しかも、かなりの美少女じゃん……それじゃあ隠されていた想いってのは……恋ごころ?いや、でもまさか……』



カスミ「……さっきからずっとこの調子ね、この子




ハルカ「そう言えば目の下のクマが凄いかも……
124 名前:名無し 投稿日:2017/02/26 22:52 ID:HmnTXXJs

カスミとハルカは頷いて、考えを巡らすヒカリの耳に片方ずつ配置につく。
そしてーーーー



カスミ・ハルカ「無視すんなー!!



ヒカリ「わわっ!!?



ヒカリは突如耳元に聞こえた大音量に、思わず尻餅をついた。



カスミ「全く、さっきから変よ、アンタ。上の空っていうか……何かあったの?



ハルカ「クマが凄いし、夜中に何かコソコソしてたの?



ヒカリ「あわわわっそんな事してないって!




ハルカ「ふーん、なら良いけど




カスミ「……ヒカリ、あんたまさか



カスミは一瞬、意味ありげに呟いて、いつもの雰囲気とは違う、冷たい氷の様な表情を見せた。
ヒカリは背筋を凍らせながら、疑問を口にする。



ヒカリ「えっ?……な、何?



ハルカ「……どうしたの?何の話?




カスミ「……まあ、いいわ。それより今は朝ごはんよ、お腹減っちゃった。
125 名前:名無し 投稿日:2017/02/28 23:31 ID:ySs7fb5t

カスミは尻餅をついているヒカリの前で踵を返し、パーティー会場の方へと歩いていった。
ハルカは戸惑う様に彼女の後ろについていく。



ヒカリは暫く呆然としていたが、やがて立ち上がってそんな二人を小走りで追いかけた。




………………………

……………


ヒカリ「えーっ!?私以外、皆んな朝ごはん食べたら家に帰っちゃうの?




快晴、空は曇り空一つ見当たらない。
爽やかな朝の空気。
それと、香ばしい香りを漂わせる、パーティー会場に用意されたタケシの料理も相まって、素晴らしい休日の朝を演出していた。



それだというのに……と、ヒカリは声を大にしていて驚きを口にしていた。




ユリーカ「そうなんだよー。お兄ちゃんには3日位滞在できる様に予定を空けさせようしてたんだけど、運悪くどうしても外せないジム戦が入っちゃってさー。もー最悪




シトロン「しょうがないでしょう!視察という名目で、ある国の皇太子が来訪されて我がジムでバトルされていくというんですから……これを断ったら何をされるか……




タケシ「ほう……それは凄い!でも、中々難しいバトルになりそうだな




アイリス「?どうして相手のポケモンも見てないのにそんなことが分かるの?



タケシの言葉にアイリスが首をかしげると、朝一番にオーキド研究所からタケシの朝ご飯を食べに来ていた、シゲルが呆れた様に肩をすくめた。



シゲル「なんだ、本当にわからないのか?コレは非常に高度な政治的駆け引きが要求される問題だ



アイリス「……なに、どういう事よ?



呆れた様な態度を取られたアイリスは不機嫌そうに顔をしかめながら、シゲルに尋ねる。
シゲルは朝食のウィンナーをフォークに突き刺し、得意げに左右に振りながら答えた。



シゲル「相手国家にしてみれば国家の象徴である皇太子が負けても、勝っても国民の意識には我々、地方連合国家への印象が位置づけられてしまう。それによる政治操作も容易いものさ。例えば、完膚無きまでにジムリーダーシトロンが皇太子を倒したとする。すると皇太子のいる国家の国民感情はどの様なモノになると思う?



不意に尋ねられ、アイリスはポカンとした後、うーんと暫く思考する。
そして、何かを思いついた様に口を開いた。



アイリス「おこーーー



シゲル「不正解だ。答えは国民に我々に脅威の意識を持たせる事に成功する、だ。それにより、低コストの輸入物で国家の生計を立てている様な奴らに、国家総出の競争性を持たれると非常に厄介な事になる。
126 名前:名無し 投稿日:2017/03/05 12:44 ID:Wg1rwvhq
支援
127 名前:名無し 投稿日:2017/03/07 16:40 ID:ej8UAMSf
更新楽しみにしてます支援
128 名前:名無し 投稿日:2017/03/07 20:14 ID:UzJSbgO0

アイリスは自分の答えを語る前にシゲルに遮られ、更にほおを膨らまして睨みつける。
シゲルはそんな事もお構い無しと言わんばかりに続けた。



シゲル「奴らの国民はバトルを神聖視している。それを利用した狡猾な一石二鳥の国家政策さ。シトロンと僕はエライのに巻き込まれたって訳だ。



アイリス「何よ、あんたは関係ないでしょ!それなのにカッコつけちゃって



アイリスの反撃にシゲルは笑みを浮かべ、余裕をみせつけた。
コーヒーに口をつけてから、また口を開く。



シゲル「関係大アリさ。このバトルに僕はカロス委員会から召集を受けているんだ。僕は今、地方連合国家の対外部門で仕事しているからね。



その場にいた殆どの人間が「「「対外部門?」」」と首を捻る。
シゲルが得意げに説明しようとした時、そこで意外な人物が会話に加わって説明を始めた。
129 名前:名無し 投稿日:2017/03/07 20:32 ID:UzJSbgO0

サトシ「対外部門は地方連合の虎の子さ。連合に含まれない国家の監視、干渉、それを元に対外戦略を練るエキスパート集団だよ。それにしてもシゲルが対外部門にいるなんて驚きだぜ、まあお前は昔から頭は良かったしな……って、なんで皆んな口を開けて黙ってるんだよ?



突然博識な知識をさらけ出したサトシに一同は驚愕を覚えていた。
喋り始めた当の本人のシゲルでさえ、ポカンと口を開いていた。



カスミ「だって……今時スクールも行かずに修行してた様なバトル脳のサトシがそんな私達も知らない様な事を知ってるなんて……



シゲル「そのサートシ君から認知度の低い対外部門の説明が出てくるとは……君は実は何処かの国家がすり替えた偽物なんじゃないか?皆んな、逮捕するべきかな?



サトシ「お前ら俺を何だと思っているんだよ!



サトシの絶叫に一同は声を上げて笑い声を上げた。



………………………

…………
130 名前:名無し 投稿日:2017/03/09 12:53 ID:6SIxLhVW
支援
131 名前:名無し 投稿日:2017/03/10 00:24 ID:CM6Hk9Jg
朝食も終わり、帰参組の一同はサトシの家の前に勢ぞろいで集まっていた。
ハルカは大型バイクのエンジンを吹かし、マサトを後部座席に乗せていつでも発進できる様に準備を整えている。



他にはサトシとタケシが手配していた空港までのチャーターバスが少し前方で待機していた。



マサト「じゃあね!僕の憧れのチャンピオン!また近いうち絶対遊びにくるよ!



サトシ「やめろよ、照れるじゃねぇか



ハルカ「じゃあね、サトシ。一足お先に帰るわ



サトシ「お、おう……気をつけて帰れよ



サトシはハルカを一瞥すると、直ぐに顔を赤くしながら振り返り、後方の青々とした山を眺めながら答えた。
それを見ていた一同はクスクスと笑い声を上げる。


カスミ「別の意味で照れんじゃないわよ、この思春期変態ザル



サトシ「お、おう……すまん



尚も照れるサトシに、カスミは肩をすくめた。




カスミ「はあ、重症ね。こりゃ先が思いやられるわ。



カスミはそう言った後、一同の端で事の流れを見ていたヒカリに静かに歩み寄る。
ヒカリはカスミの冷たい表情を思い出し、ビクリと身を震わせたが。



ヒカリは自らの耳元に口を寄せるカスミを避けなかった。
カスミはヒカリに聞こえる様にだけ小さく呟く。
132 名前:名無し 投稿日:2017/03/14 15:06 ID:vrhXPN7P
しえん
133 名前:名無し 投稿日:2017/03/16 19:05 ID:oiEHHHBF
メガ支援
134 名前:名無し 投稿日:2017/03/16 22:50 ID:YXwAAd6X
ありがとうございます、今日は早く帰れたんで頑張って書きます。
135 名前:名無し 投稿日:2017/03/20 23:01 ID:H1EqrVZw
支援
136 名前:名無し 投稿日:2017/03/23 18:24 ID:ySerdl6O
書く書くといって、結局書けてませんでした。今日こそは必ず書きます!
137 名前:名無し 投稿日:2017/03/23 23:03 ID:gh50WmQI
年度末は忙しいですよね。
仕事も作品投稿も支援です。
138 名前:名無し 投稿日:2017/03/25 01:40 ID:pC1OxRmZ

カスミ「昨日……サトシに会ったでしょ?



ヒカリ「!?



ヒカリはその言葉に背筋が凍る様な感覚を覚えていた。
何故知っているのか?その疑問符だけがヒカリの脳内で飛び交って羅列を組む。




カスミ「その反応は……当たりみたいね、カマかけただけなんだけど……そうなんだ、ふーん




ヒカリ「カスミ……私は別に貴方が思っている様な事は……



カスミ「あら、私まだ何も言って無いわよ?そんな口ぶりじゃ、私との約束を破ってヒカリがサトシと逢引してたって、私が疑ってるみたいじゃない。まあ、それでも別に私は構わないわ。例えそうだとしても、所詮口約束を交わしただけの私にはとやかく言う権利は無いしね。




ヒカリ「……
139 名前:名無し 投稿日:2017/03/25 16:02 ID:uNMkP51A
ヒカリは弁解しようにも弁解できない状況に、軽く頭痛を覚えながら押し黙るしかなかった。
昨夜の事はカスミには言わない方が良いだろう、とヒカリは密かに心中に誓う。



瞼の裏のスクリーンに映るのはモンスターボールから出てきた女の子の姿。
他には衝撃の真実を語るサトシと人型のピカチュウだ。




話した所で余計ややこしくなるだけ、不本意だがヒカリはカスミに勘違いされた形でこのまま話を進めるしか無かった。
性格のキツイ、カスミの事だ。


この無表情の顔のまま、今度はどんな言葉を浴びせられるのだろうか?
ヒカリはそこまで想像した所で内心、恐怖を感じていると……。



ヒカリの予想に反して、カスミはいきなり表情を和らげて、穏やかな口調で語りかける様に話しかけてきた。

140 名前:名無し 投稿日:2017/03/26 00:48 ID:oIU6NIgQ

カスミ「なーんてね。心配しなくてもヒカリがハルカを裏切る筈が無いもの、信じてるから安心して。



ヒカリ「う、うん……



ヒカリはカスミの激変したと言っていい表情の変化に戸惑いつつ、首を縦に振る。
そして、脅す様な声音で言葉を吐く高圧的なカスミに恐怖を感じていると。
カスミは微笑みを浮かべながら、又もや口を開いた。




カスミ「寧ろ私はヒカリにもっと積極的に行動して欲しいと思っているのよ



主語の抜けたカスミの言葉に、ヒカリは首をひねる。



ヒカリ「……どういう事?



すぐ様聞き返すと、カスミは頷いて手早く説明を始めた。



カスミ「ヒカリは3日位ここで過ごすんでしょ?その間に女耐性の無いサトシと近い距離で接して慣れさせてやってくんない?どうせサトシと行動を共にするんだろうし、腕くらい組んでも大丈夫な位にはしときたいわね。それが将来的にハルカの為に繋がるわ、このままじゃ幾ら何でもね



ヒカリ「……
141 名前:名無し 投稿日:2017/03/26 12:50 ID:ZyrVrYoS
支援
142 名前:名無し 投稿日:2017/03/26 23:21 ID:zp2jBOv5

カスミ「あら、不服?



ヒカリ「いや……でも……うーん。……そういう事はカスミに言われてやる様な事じゃ無いと思う……



ヒカリの言葉にカスミは表情を崩して眉をひそめた。


カスミ「は?ならどういう事よ



ヒカリ「私がやるわ、私の意思で。ハルカの為になるかは分からないけど……少なくともサトシの重度の照れを少しは治してあげたい



先ほどの怯えた表情と打って変わり、意思の篭った口調と姿勢で答えるヒカリに、カスミは若干驚いた様子を見せる。
が、それもすぐに消え、いつもの不敵な笑みに戻った。



カスミ「そ、まぁ私としてはどっちでもいいわ。あんまり気張らずに3日間楽しんでね。……そろそろバスも出発しそうだし、サトシの相棒にも不本意ながら見られてるから行くわね



ヒカリ「え?



カスミの言葉にヒカリは振り返ると、背中に大きな傷を持つ愛らしいピカチュウが二人を見ていた。
ピカチュウは首を傾げて何のことだか分からない、という表情を見せている。



ピカチュウ「ピカ?



カスミ「とぼけた顔しちゃって、あんた絶対分かってるでしょ……まあ喋れないから良いけどね。……ねぇヒカリ、そういえばピカチュウって昔と比べてサトシと全然ベタベタしてないよね?


言われてみてヒカリはそういえば、と気がつく。
昔は常にサトシとベッタリで肩に乗せたり、じゃれあったりしていた。
でも今は……パーティー会場でも、普段の様子を見ていても、二人は一定の距離を保っている様に見える。
ヒカリは一瞬、昨夜にサトシから聞いた話を思い出し、それに原因があるんじゃないか?と思い至った。




だが、ヒカリはカスミにジーッと顔を見られているのに気がつき、思考を停止する。



ヒカリ「言われてみれば……そうね



カスミ「でしょ?まあどうでもいいか。こいつら付き合い長いし、そんなもんなんでしょうね。それよりもう皆んなバスに乗ったみたいだし、そろそろ行くわ。もう飽きたし、まだ落書きを顔に残して皆んなに笑われてる哀れなアイリスに、バスの中で盛大にネタバラシといこうかな。じゃあね、ヒカリ。近いうちまたパーティーがあるらしいからその時に逢いましょ


ヒカリ「うん、そうだね……またね、カスミ


カスミは軽く手を振って、バスへと乗り込んでいった。暫くして、出発して小さくなっていくバスとバイクのシルエットを見送ると。
その場に残されたのはサトシとヒカリ、ピカチュウだけとなった。
143 名前:名無し 投稿日:2017/03/27 00:42 ID:mjGwEZkU

ヒカリ「行っちゃったね?



ヒカリがサトシにそう促すと、サトシは山々を見つめながら挙動不審に答える。



サトシ「そ、そうだなぁー!……そ、それより、ヒカリ、これからどうするんだ?俺はちょっと野暮用が出来たからロケット団と一緒にトキワまで行くんだけど……



ヒカリ「私も行くわ、まだサトシには聞けてない事があったし……それとサトシ!



ヒカリはグイッとサトシの両頬を挟んで自分の顔へと向けさせた。



ヒカリ「喋る時はちゃんと目を見て話してね。そんなんじゃあこの先やっていけないよ?



サトシ「わわわ、ひ、ヒカリ!な、何を!



ヒカリ「私がいる3日間は直ぐ近くにいるから、女の子に少しは慣れてね。私もサトシが慣れる様に努力するから



サトシは赤面しながら、コクコクと頷いた。
ヒカリはサトシから手を離し、近くにいた別の方向を向くピカチュウを視界に入れる。
ヒカリは心なしか、一瞬ピカチュウの方から言い知れぬ殺気の様な何かを感じた気がした。
144 名前:名無し 投稿日:2017/03/28 05:48 ID:M6HkCl3H


……………………

………

カロス地方、アサメタウン。
閑静な住宅街と自然の草花が辺りを締め、その美しい相貌と風景からは、他地方や外国からも賞賛を贈られる程だ。



そんな町を一人、トボトボとキャリーケースを持って歩く一人の少女と一匹のポケモンが居た。



彼女の名前はセレナ。
彼女は五年前、サトシと共にカロスの地を旅した仲間である。
二年前から全寮制のスクールに通っており、彼女が実家に帰るのは久方ぶりの事であった。



セレナ「はあ……最近全寮制スクールは試験ばっかりだったからなぁ……逃げ場もないし、サトシとも全然喋れてないなぁ……疲れたよテールナー



テールナー「テーナッ



テールナーが呆れた様に返事をする。テールナーもまた、セレナと会うのは久しぶりだった。
その全寮制スクールは休暇期間以外はポケモンはもちろん、家族と会うことすら許されない。



セレナ「やっと家についた……久しぶりだなぁ。ただいまー……って誰も居ない?お母さん買い物かな……まあいいや。部屋に帰って着替えてからお風呂でも入ろ




セレナはキャリーケースを重そうに持ち上げながら階段を登る。
部屋の前にたどり着くと、勢い良く扉を開けた。



セレナ「ああ〜つい……た?……え、そ、ソーヤ?何で私の部屋なんかにいるの?



ソーヤ「せ、セレナ!な、何でだ……寮から帰って来るのは明日の筈だ!



その部屋に何故か居たのは……セレナの幼馴染、小さい頃はよく近所で遊んだ綺麗な赤髪を持つソーヤだった。
145 名前:名無し 投稿日:2017/03/28 06:02 ID:M6HkCl3H

ソーヤは慌てた様にサッと何かを隠す仕草をする。
セレナはそれを見逃さなかった。


セレナ「ソーヤ……今何を隠したの?



ソーヤ「何も隠してなんか……無いよ



セレナ「じゃあ手を上げて、何も持って無いことを証明して。いくら幼馴染でも勝手に部屋に入った挙句、何か悪さしてたなら許さないわよ



ソーヤ「い、いやだ!上げるもんか!



セレナ「……話にならないわね、もういい加減にしてよ、ソーヤ



ソーヤ「そんなに僕よりサトシって奴の方が良いのか!



セレナの動きが止まる、ソーヤはそれを見て笑みを浮かべる。



セレナ「……何でサトシを知ってるの?



ソーヤ「セレナの居ない時に電話がかかって来たからだ!俺の女になんか用か?って言ったら情けない顔してたぜ?



セレナ「えっ……う、うそでしょ?
146 名前:名無し 投稿日:2017/03/28 20:00 ID:XoC0lW4S
支援です。
147 名前:名無し 投稿日:2017/03/29 01:49 ID:k9LDc9aJ

ソーヤ「嘘じゃねぇよ……それとな、セレナ。サトシって奴を俺が知らない訳ねぇだろ。何たって世界チャンピオン様だ、世界一の超有名人だぜ?そんな奴が田舎娘のセレナには釣り合う訳がねぇよ。お前が傷付く前に俺が追っ払ってやったんだ



セレナ「な、あんた何言って……



ソーヤ「なあ、セレナ。それでさ、俺がチャンピオンと話してから数日経ってちょっとしてからよ、こんな面白いもんが届いたんだ、見ろよ、傑作だからよ



ソーヤはそう言いながら、懐からハガキの様な物を取り出してセレナに投げつけた。
セレナは恐る恐るそれを拾い、中身を確認する。



セレナ「なっ……



ソーヤ「笑えるだろ?彼氏さんもどうぞだってよ。楽しい楽しいパーティーの招待券だ。期日は来週の金曜日、お前は厳しい全寮制のスクールだから行けっこないよな?



セレナがストンッと床に尻餅をついた、その顔は呆然と手紙を見つめている。
やがて瞳から涙を流し始めたセレナに、ソーヤはニヤリと口角を釣り上げて笑みを浮かべる。



ソーヤ「なあ……セレナ。そんなに落ち込むなよ、俺がいるじゃねぇか?……俺結構モテるんだぜ?どうせチャンピオンはお前の事なんか相手にしないんだから、俺と……えっ?


ゆっくりとセレナに近づき、髪に触れようとしたソーヤの手には鋼鉄の冷たい棒が押し当てられていた。
その主の正体は……紛れも無く、セレナだった。



ソーヤは、しばらく鳩が豆鉄砲食らったかの様な表情を見せていた。
対するセレナは……怒りを浮かべた冷静な表情を見すいた。



セレナ「住居不法進入、他者の所有物隠蔽……これだけやれば現行犯逮捕のヤマのら
148 名前:名無し 投稿日:2017/03/29 07:20 ID:RLWNj9Op
すみません、寝ぼけながら書いたんで文章がめちゃくちゃになってました。147は見なかった事に……もう一度今夜、新しい文を書かせて頂きます。
149 名前:名無し 投稿日:2017/03/30 18:39 ID:cpn4ZTeY
支援
150 名前:名無し 投稿日:2017/03/30 20:37 ID:t1MLg4Qy

ソーヤ「嘘じゃねぇよ……それとな、サトシって奴を俺が知らない訳ねぇだろ。何たって世界チャンピオン様だ、世界一の超有名人だぜ?そんな奴と田舎娘のセレナが釣り合う訳がねぇよ。上手く付き合えたってどうせ捨てられるんだ。お前が傷付く前に俺が追っ払ってやったんだ



セレナ「な、あんた何言って……



ソーヤ「なあ、セレナ。それでさ、俺がチャンピオンと話してから数日経ってちょっとしてからよ、こんな面白いもんが届いたんだ。見ろよ、傑作だ



ソーヤはそう言いながら、懐からハガキの様な物を取り出してセレナに投げつけた。
セレナは恐る恐るそれを拾い、中身を確認する。



セレナ「なっ……



ソーヤ「笑えるだろ、彼氏さんもどうぞだってよ?楽しい楽しいパーティーの招待券だ。期日は来週の金曜日、お前は何処か知らないけど山奥の厳しい全寮制スクールだから行けっこないよな?



セレナがストンッと床に尻餅をついた、その顔は呆然と手紙を見つめている。
やがて瞳から涙を流し始めたセレナに、ソーヤはニヤリと口角を釣り上げて笑みを浮かべる。



ソーヤ「なあ……セレナ。そんなに落ち込むなよ、俺がいるじゃねぇか?……俺結構モテるんだぜ?どうせチャンピオンはもっとモテモテだ。お前の事なんか相手にしなくなるんだから俺と……って、えっ?



ソーヤはゆっくりとセレナに近づき、そのショートカットの髪に触れようとしたが……それは予想外の形で阻止された。
それを遮った物体があったからだ。



彼の手には真っ黒で鋼鉄の冷たい棒が押し当てられていた。
その棒を見てソーヤは顔を醜く歪める。
何故ならそれは……紛れも無く、スタンロッドと呼ばれる対人間用の防犯道具だったからだ。



本来、それは地方連合国家警察のジュンサーしか持つことを許されてない代物だ。
ソーヤはそれを見て、しばらく鳩が豆鉄砲食らったかの様な表情を見せていたが、棒を押し当てている当の本人は感情的に目をギラつかせて獲物を捉えていた。



セレナ「住居不法進入、他者の所有物隠蔽……法令第18条と23条の適用で……



ソーヤ「な、なに言ってんだよ。ていうかお前、何でそんなモン持って!それはジュンサーしか……



セレナ「ジュンサーよ。最近法律が変わってジュンサー教育寮生の私でも逮捕権を行使できる様になったの。私みたいな一般人がジュンサー教育を受けているのも同じ理由よ




ソーヤ「ジュ、ジュンサーだって!?だってジュンサーは……




バチッと鈍い音が部屋に響き渡り、ソーヤは頭から崩れ落ちる。
セレナはゆっくりと立ち上がり、バックから無線機と手錠を取り出す。



セレナ「ソーヤ……貴方、運がないわね。私の逮捕……いや、ジュンサー候補生全体の逮捕第1号だもん
151 名前:名無し 投稿日:2017/03/30 21:31 ID:R33zsNze
なんか読み返してみたらソーヤのキャラがいきなりヤンキーみたいになってました……気にしないで頂けたら幸いです
152 名前:名無し 投稿日:2017/04/01 23:53 ID:96NB4FqD

セレナ「サトシに会わなきゃ……


セレナは気づけば呟いていた。
ソーヤのせいでサトシは勘違いしたに違いない。
最悪だ、折角彼が少しばかり私意識しだしたのか、照れ臭そうにテレビ電話をかけて来るようになったのに……。
……いや、それも二年前の話か。

今のサトシがどんな感じなのか分からない。
テレビや新聞で顔を見たくたらいだ。
体を逞しくなって、顔は大人っぽくなっていた。


そんな彼が今、どんな考えを持って久しぶりに私に電話を掛けてきたのか分からない。

もしかしたら私のことを異性として気にしていたかもしれない。
もしそうだとしたら……したら……。

セレナは自分の机の上にあるテレビ電話を起動し、サトシの番号に掛けてみる。

……繋がらない、今度は自宅の固定電話に掛けてみるが結果は同じだった。
番号が変わっているのか、はたまた家に居ないだけか……まあ、いいか。どっちでも構わない。
とセレナは言葉を零す。

実際に会って説明すればいい。
どうせジュンサースクールは来週の木曜で卒業だ。パーティーのある来週の金曜日には距離的に飛行機を使っても間に合わないだろう。
だが、卒業してそのまま向かえばパーティーの次の日にはたどり着けるはずだ。

焦ることは無い、どうせ卒業したら会いに行くつもりだったし、その時に全部話せばいいか。
セレナはそう結論づけ、一人納得していた。

…………………

…………


セレナは無線で応援を要請し、それが来るまで一人ベッドに座り、思いに耽っていた。

今からちょうど二年前の事だ。
サトシと急に連絡が取れなくなってから、セレナは毎日不安感に苛まれていた。
聞けば故郷にも帰っていないし、連絡も取っていないらしかった。
完全に行方不明なのだそうだ。


しかし、彼女には確信めいた一つの事があった。
それは……サトシは生きている、という事だ。


セレナはサトシ程パワフルな人物を知らない。
トラブル体質で、様々な事件に巻き込まれやすいが彼は一歩も引かずに立ち向かうのだ。


彼は運にも恵まれている。
それも、ただの運では無い。それはサトシ自らが勝ち取る運なのだ。


サトシは何事にも全力で物事に挑む。
それが周りを感動させて、人なら応援をポケモンなら最高のバトルを引き起こす。
結果様々な出来事が奇跡を産み、サトシは成功するわけだ。
私もそんなサトシに魅了された一人だ……とセレナは頬を染める。


そんな彼を知っているセレナは確信していた。
彼が死ぬ筈が無い、彼は何処かで生きている。
153 名前:名無し 投稿日:2017/04/02 00:22 ID:VkFj2aVx
私が、私自身の力で見つけ出す。
彼女は心にそう誓った。

それから彼女は強くなって、技術を身につけてサトシを探そうと考えたのだ。
それが彼女を新設されたジュンサースクールへの道へと駆り立てる事になる。


………………………

…………


家のチャイムが鳴り、応援が来たのかと扉を開けたセレナは、予想外の訪問者に驚いていた。


セレナ「シトロン、ユリーカ、どうして此処に?


ユリーカ「やっほー!セレナ久しぶり!あの巷で、話題のチャンピオンからパーティーの招待券届いたでしょ?


シトロン「折角だから一緒に行きませんか?セレナは同じカロス組ですし



セレナ「そうなんだ……ごめん、私パーティーに行けそうに無いわ



ユリーカ「ええっ!?どうして?



シトロン「……よろしければ理由をきいても?



セレナ「いいわ、全部話す。上がって、折角だからお茶にしましょうか



セレナはそう言って二人を家に上げると、客間ではなく二階にある自分の部屋へと誘導した。
154 名前:名無し 投稿日:2017/04/02 08:07 ID:LCLa4OjZ

……………………

………

砂埃をあげてマサラの地を白いバンが駆けていく。
バンの側面にはホワイトホールという店の名前と、電話番号が書かれていた。

その車内には……運転手はコジロウ、助手席にムサシ、後部座席にヒカリとサトシが真ん中にいるニャースを挟むように座っていた。

静かな車内の中、流れ続けるラジオの音だけが響き渡る。

『……続いてニュースです。地方連合国家における警察組織、JPSN。その実働部隊、ジュンサーの愛称で呼ばれる女性警察官達の出生元が、クローンバイオ科学で知られる地方連合国家研究所でクローン生成されていた事が判明した問題について、地方連合委員会政府は認知していなかったと主張し、地方市民団体の代表のノダギシ委員長は非人道的だとーー』



ムサシが乱暴に車両内のラジオを消し、ダッシュボードに足を乗せる。


ムサシ「全く……この国は闇だらけね。そう言えばジャリガール、あんたの行ってた看護スクールって……ジョーイを養成する場所だっけ。あそこのジョーイもクローンだがなんかで騒がれていたわね?



ヒカリ「うん……。私はジョーイ養成所の卒業生だよ。全寮制で結構厳しかったっけ……。私達が旅をしていた時代、ジョーイさんとジュンサーさんは皆んな同じ顔だった。本人達は姉妹だって言ってたけど……それは試験管の中で作られた嘘の記憶。今、渦中のジョーイさん達は一目につかない場所で一般人から選抜された人々をジョーイに仕立てる教官として活動してる



ムサシ「やるわねジャリガール。ジョーイ試験て、すっごい難関なんじゃ無かったっけ?私も一応看護スクール行ってたんだけど、当時はラッキー育成場しかなくてね、私一人だけ人間だったんだから、直ぐに辞めちゃった
155 名前:名無し 投稿日:2017/04/02 20:45 ID:XFZIELJW
ヒカリ「ええっ!まさかあのラッキースクールに!?……そうか、あれはムサシさんの事だったんだ


ニャース「なんにゃ?その含みのある言い方は?


コジロウ「聞かせてくれ、ヒカリ


車内にいる全員の視線を浴び、ヒカリは戸惑いながらも説明を始める。



ヒカリ「うん……ジョーイ養成所で訓練している時にね、教官のジョーイさんからこんな事を言われたの『実は貴方達が初めての一般からの入校者じゃないの、実はもっと以前にスクールに入校した伝説の人が居たのよ』って



ニャース「で、伝説の入校者にゃ?
156 名前:名無し 投稿日:2017/04/02 21:00 ID:XFZIELJW

ヒカリ「そうよ。それでね、その話を聞いていた一人の同期が『でも当時は一般からの看護師枠すら無かったんじゃ無いんですか?』て尋ねると、ジョーイさんは『その人は何とラッキー看護学校に入校したとんでもない破天荒な人だったの。人間がポケモン枠で卒業するのはやっぱり難しくてやめちゃったらしいんだけどね』って教えてくれたの。厳しい訓練で挫折しそうな子がいたら、ジョーイさんはその事を引き合いに出して同期を勇気付けてたわ



コジロウ「そうか……そういやハピナスの件でそんな話を聞いたな。……だけどムサシが伝説の入校者になっていたとはなぁ


ニャース「ムサシらしいにゃ。でも若い世代達に勇気と希望を与えたのに、実際はその後ロケット団という悪の道に走ったなんて知られたら……



ムサシ「うっさいわね!悪の道も今を走る糧となってるじゃない。実際、ロケット団の時のノウハウはかなり役立ってるし
157 名前:名無し 投稿日:2017/04/02 21:11 ID:XFZIELJW
すみません、ややこしくなってしまいましたが、セレナの話はサトシ達がパーティーを企画して招待状を出した一週間前の出来事です。シトロンとユリーカがパーティーに一緒に行かないかと誘いに来たのはその為です
158 名前:名無し 投稿日:2017/04/02 21:46 ID:ZepMnLkR
支援
159 名前:名無し 投稿日:2017/04/02 22:15 ID:XFZIELJW

そんな感じで一同は会話を弾ませていった。
ヒカリも笑顔でロケット団と談笑する中、サトシだけは沈黙を保ち、外を眺めていた。


ニャース「……そうにゃ、サトシ。そう言えばおミャーに聞いときたい事があるにゃ



サトシ「うん?


見兼ねたニャースが口火を切った。


今まで会話に入らず、外を眺めながら肘をついていたサトシがニャースに呼ばれ、顔を向ける。
心なしか視線は斜め上の天井を向いている様だった。
顔が赤い。


ニャース「どこ向いてるのにゃ……まあいいにゃ。とにかく、ヒカリをこのバンに乗せたって事は全部話していいのかにゃ?



コジロウ「そうだぞサトシ、お前がヒカリを連れて行くって言った時は驚いたぜ。お前、仲間を巻き込みたく無いんじゃ無かったのか?


運転席のコジロウが若干不機嫌そうに口を挟む。
サトシは困り顔の様な微笑で答えた。


サトシ「事情が事情でな……ヒカリには師匠の力が通じなくてさ、隠しようも無いし知っても必要ない事だけ話す事にしたんだ



コジロウ「まじかよ!?



ニャース「まさかあの人の力が通じないんにゃんて……ひ、ヒカリは超能力者なのかにゃ?
160 名前:名無し 投稿日:2017/04/02 23:27 ID:sqyXTot3

ニャースが突然ヒカリを恐れるような目で見てブルブルと震え出した。
ヒカリが戸惑っていると、ムサシがダッシュボードを蹴って場を沈黙させる。



ムサシ「とにかく、サトシ。今から店に行って転移者とご対面な訳だけど、その時ヒカリも一緒に連れてくの?そんで合わしたとして、その後ヒカリをどうするのかちゃんとしたビジョンあるプランを示してくれないと私達も動けないわ。あんたが現状リーダーなんだからヒカリに照れてないでいつもの様にビシッとやってよね!


転移者とは何だろうか?
ヒカリは疑問に思ったが、話の流れ的にその人物には会えるらしい。
どうせその時に全部説明してくれるだろう。
ヒカリはそう結論づけ、グッと知識欲という化け物を押さえつける。


サトシ「ああ……分かったよ。取り敢えず転移者……レッドだっけ?ソイツと会う時はヒカリも連れて行く。その後はソイツの話次第で長引くか分からないけど、ヒカリとマサラタウンには必ず帰る予定だ。どのタイミングで帰るかは俺が判断する。



コジロウ「了解だボス。足はどうすんだ、送ってこうか?


コジロウのボス、という言葉にヒカリは戸惑う。
先ほどのムサシもサトシの事をリーダーと呼んでいた。
どういう事なのだろうか?
この元ロケット団の三人も全て知っている様だし……サトシが指示しているという事は。



サトシ「要らない。リザードンもいるし、バスもある、手段はいくらでもあるからな。お前ら三人はこっちで転移者を監視しつつ、引き続き情報網の構築に勤しんでくれ。敵が来るなら必ず通過点のトキワは通ってくる筈だ


まるでサトシを中心とした組織の様だと、ヒカリは心中に言葉を浮かべる。
どうやらその通りの様だが、話の内容から察するにロケット団の三人の他にも仲間が複数いる様だ。
結構なスケールで動いていると予想される。
161 名前:名無し 投稿日:2017/04/05 14:47 ID:oDD2br8q
支援
162 名前:名無し 投稿日:2017/04/06 00:50 ID:8lshtS5C

コジロウ「そう言えばサトシ、ピカチュウはどうした?



サトシ「へっ?



不意に尋ねられ、サトシは間の抜けた声を出す。
だが、直ぐにサトシはバックミラー越しに見つめているコジロウの問いに返答した。




サトシ「あいつならモンスターボールさ、人数も多いし窮屈だからそっちのがいいってさ……



ニャース「人間の姿でも普通に入れるのにゃ。何時もはモンスターボールが嫌で外を歩いてる癖に、ホワイトホールのスーパーカーを嫌がるにゃんておかしな奴だにゃ



サトシ「へっそうだよな……何考えてんだか



サトシはそう言うと、外を向いて黙り込んでしまった。
何となく車内には気まずい静寂が訪れる。
ヒカリはそれに耐えかねて口を開いた
163 名前:名無し 投稿日:2017/04/06 01:16 ID:8lshtS5C

ヒカリ「そういえば……パーティー会場でピカチュウはポケモンの姿だったけど、夜になると女の子の姿だったよね。ピカチュウって自由に人間になったりポケモンになったり出来るの?



サトシ「まあ……それが最終進化の特性らしいからな。……時間が経てば逆にポケモンの姿になる方が難しいそうだ



ニャース「いいにゃーピカチュウは。ニャーも最終進化してイケメンアイドルでもなろうかにゃ?



コジロウ「おいおい、笑わせるなニャース。お前が最終進化してもそのダミ声じゃアイドルなんかになれないぞ。その点ピカチュウは元の鳴き声と人間の姿の声も変わらないだろう?ルックスも良いし、アイツこそアイドルとか向いてると思うぜ
164 名前:ハック 投稿日:2017/04/06 01:21 ID:3LHadx80
追いついた!
とても面白いです。
しえーん
あと、一ページ目のヒカリのトライポカロンって奴あれ、カロスでしかないですよ。シンオウとホウエンはトライポカロンではなくポケモンコンテストです。ちなみにポケモンコンテストに出る人のことをコーディネーターと呼びます。

P.S.
僕もSS書いてます。タイトルは『ポケモンSSポケモンその後の物語』です。ぜひ見に来てください。

長文すみません
165 名前:名無し 投稿日:2017/04/06 12:16 ID:8lshtS5C
ご指摘ありがとうございます。ポケモンはほとんど素人な為、そういった意見を聞かせて頂くとありがたいです。
貴方も書いているんですね。
学生にしろ、会社員にしろ忙しい限りの時期ですが、一緒に頑張って書き切りましょう。
166 名前:名無し 投稿日:2017/04/07 01:33 ID:4aD35yv0

ムサシ「ピカチュウにフリフリな服でも着せたらどうよ?あの子今サトシのお母さんの服ばっか着てるじゃない。ヒカリ、その辺はあんたの得意分野でしょ?転移者との対面も終わったらどうせ時間も余るんだし服でも買いに行ったら良いじゃない。サトシは今金だけは持ってるから



サトシ「……



一同はピカチュウの話題で会話を弾ませる中、一人不機嫌に外を眺めているサトシに気がつかなかった。


ヒカリ「面白そう!ねぇサトシ、ピカチュウに……



サトシ「うるせぇんだよ!お前ら!!



突然怒鳴り声をあげたサトシに、一同は狭い車内で静まり返る。
声を上げた当のサトシはというと、逆に自分でも驚いた様な表情を浮かべ、気まずそうにポリポリと頰を掻く。



サトシ「あ……あ、ああゴメン。なんだか変だな俺、体調でも悪いのかなあ……ははは、は



ムサシ「そうみたいね。突然怒鳴り声なんかあげて、驚いたわ。……そういえばあんた最近ピカチュウの事になると……いや、まあ良いか……
167 名前:名無し 投稿日:2017/04/08 23:11 ID:TEsRboDm
メガ支援
168 名前:名無し 投稿日:2017/04/09 00:08 ID:IM8sTA6Q

ムサシは呟く様に言葉を吐いた後、無言で車内の窓を開けてタバコに火をつけた。
サトシも無言のまま窓を開けてタバコに火をつける。
結局、そこから一同は一言も喋る事なく、気まずいままトキワシティーへとたどり着いた。



…………………

………

一同を乗せたバンは、元ロケット団三人が運営する飲食店、ホワイトホールの車庫で停車した。
気まずそうに車を降りる全員に、サトシは申し訳無さそうに口を開く。



サトシ「みんな、聞いてくれ……さっきはすまなかった、雰囲気ぶち壊して悪かったな。俺、どうかしてたよ……



コジロウ「……ふむ、まあなんかよく分からんが気にしてない。俺たちホワイトホールのリーダーはサトシだ、怒鳴ろうが喚こうが俺たちは受け入れるぜ……だけどな、サトシ。ヒカリは違うよな?



コジロウの、悪戯をした子供を叱る親の様な目に、サトシはバツが悪そうに微笑する。



サトシ「すまなかった、ヒカリ。終わったらピカチュウの服、一緒に買いに行こうぜ。



ヒカリ「えっ?……うん、絶対だよサトシ



ヒカリはサトシの謝罪を受け入れ、同意を表す曇りの無い笑顔を向けた。



サトシがどんな理由で声を上げてのかをヒカリは何となく脳裏に想像させつつ、辿り着いしまった残酷な真実をヒカリは考えない様に必死に楽しい事だけを頭に浮かべる。



オシャレの大好きなヒカリにとって、美少女のピカチュウに何を着せるか楽しみなのは事実だった。
早速ヒカリは思案に耽っていると……一人不機嫌そうなムサシが会話に入ってきた。



ムサシ「ふん……何がアンタの琴線に触れたか知らないけど、理由も分からずいきなりヒステリックを起こされたらこっちだって敵わないわ。部下として、年上として、聞かせてもらいたいわね……納得のいく理由を。そんで私らに非があったんなら謝るし、対策するわ
169 名前:名無し 投稿日:2017/04/09 00:35 ID:IM8sTA6Q


駄目だーーーー一
ヒカリは一瞬、声に出していないか自分を疑っていた。
大丈夫だ……声には出してない……けど。
それは正しい選択だ、私が口を挟めるものじゃない。
けど……サトシには次の言葉を言わせてはならない気がした。



ムサシ「……どうなの?



サトシ「そうだな……


サトシは口に出していいのか迷っている様だった。
だが、ヒカリには直感的に感じ取れた。


ピカチュウだ。
ヒカリは確信していた。
原因はピカチュウに違いない、あの森でサトシから聞いたピカチュウの本当の想い、という言葉。
あれが関係しているとヒカリは導き出していた。
170 名前:名無し 投稿日:2017/04/09 00:42 ID:IM8sTA6Q

サトシは一瞬微笑み、ムサシを真っ直ぐと見据えながら、腰からモンスターボールを取り出した。
そこからボタンを押してピカチュウを出す。




何やら重苦しくなった場の空気に戸惑うポケモンの姿のピカチュウをサトシは見つめながら、迷いなく口に出した。



サトシ「言わない



ムサシ「……そ、どうして?



サトシ「俺じゃ無くなるからだ



ムサシ「えっ?



サトシ「俺が、俺で無くなるからだ
171 名前:名無し 投稿日:2017/04/09 12:25 ID:fy746Zlb

ムサシ「そう……なら仕方ないわね



サトシ「ああ……悪いな。……それよりもう行こう、転移者ってのは何処にいるんだ?



ニャース「それなら厨房にゃ、タダ飯食わせるのも何だから働かせてるにゃ



一同はニャースの引率で裏口から店内へと入っていく。
ヒカリは飲食店には不相応な万全のセキリュティに驚きつつ、一同の最後尾に自分を組み込んだ。



……………………

…………
172 名前:名無し 投稿日:2017/04/09 12:45 ID:fy746Zlb

「おい新入り、七番テーブルにサラダはまだか?



「五番もだ!来店したら水と一緒にテーブルに持ってけって言ったろ?



レッド「はい、直ぐにお持ちします



厨房では目まぐるしく熱気を発しながら店員たちが働いていた。
まだお昼前なのにこの忙しさは人気の証なのだろう。
怒号が飛び交うそんな中に、ムサシが靴音を鳴らしながら近づいていった。



ムサシ「悪いけどそれは別の人間に運ばせて、コイツをちょっと借りるわよ



「!!ムサシさん!分かりました。おい、誰か手が空いてないか?



コジロウ「代わりに行こう。ちょっと俺は抜けさせてもらっていいか?サトシ



サトシは微笑を浮かべながら口を開く。



サトシ「手洗って、コック服に着替えときながらよく言うぜ。別に構わないよ……だけどコジロウ、お前にしちゃウッカリしてるな、コック帽は忘れたのか?



コジロウはウィンクした後、近づいてくるレッドのコック帽を取って自分に被せた。



コジロウ「ボスのお許しが出た所で、馬車馬のように働くとしますか……
173 名前:名無し 投稿日:2017/04/09 16:23 ID:25cKuKXw
支援
174 名前:名無し 投稿日:2017/04/09 17:08 ID:fy746Zlb

ムサシ「レッド、大事な話よ。着替えて面談室に行きなさい



レッド「了解です。それにしても……さっきコジロウさんが貴方の事をボスって呼んでましたね



レッドがサトシの前まで行ってまじまじとつま先から足先まで眺め始めた。サトシは不快そうに眉を寄せる。



レッド「正直言って驚きです、貴方は僕と同じくらいの年齢じゃ……



ムサシ「ゴタゴタ言ってないで、早く行きなさい!



ムサシに怒鳴られ、レッドはやれやれと言いながら面談室へと向かう。
サトシはため息をついた後、ムサシに向き直った。



サトシ「おいおい、ムサシ。やけに態度の悪い店員サマだな



ムサシ「小間使いとして使ってるだけよ、私の店の洗練された店員たちと一緒にしないで



サトシ「そうかい。何にせよ……アイツが何の目的でここに来たのか、どんな対処をするかハッキリさせないとな。ヒカリ、行くぞ



ヒカリ「う、うん



サトシはヒカリを連れて面談室へと向かう。
その途中、サトシは何やら思いついた様に振り返り、ムサシに向き直った



サトシ「そういや……面談室って禁煙だっけ?



ムサシ「禁煙よ、吸うなら裏口を出てちょっと行った所に喫煙所があるわ



サトシ「了解
175 名前:名無し 投稿日:2017/04/09 17:22 ID:fy746Zlb

サトシは頷いてヒカリを面談室へと連れて行った。


……………………

…………


サトシ「ここに座ってくれ



サトシはそう言いながら、ヒカリを中央に設置された対面式のソファーへと座らせた。



ヒカリ「分かった



サトシ「……



ヒカリ「……



面談室に沈黙が、支すり。
ヒカリはどうしたもんか、と頰をポリポリ掻く。
ヒカリは車内で怒鳴り声を出したサトシ思い出しながら、なるべく当たり障りのない話題をサトシに向かって話しかけた。



ヒカリ「ねぇ……サトシ?



サトシ「……なんだ?



ヒカリ「もうそろそろ慣れて来たんじゃない?だって私に対してそんなに照れている様に思えないんだけど……



サトシ「……そう見える?



ヒカリ「う、うん


サトシ「実はめちゃくちゃ緊張してる……車内でタバコ吸いまくってたの、そのせいだったんだ



ヒカリ「そ、そうなんだ
176 名前:名無し 投稿日:2017/04/09 20:58 ID:deHEhzru
支すり、とは支配する、の事です。誤字すんません……
177 名前:名無し 投稿日:2017/04/09 21:57 ID:fy746Zlb

サトシは顔を赤らめながら、ヒカリの方を見ない様にしていた。
ヒカリは溜息を吐きながら理由を探ろうと口を開く



ヒカリ「そもそも……いつから女の子が苦手になったの?少なくとも五年前はそんな事全然無かったのに……何かキッカケみたいなモノがあるの?



サトシ「う、う〜ん……実は以前からその兆候はあったんだよ、ハッキリと意識し始めたのはアローラに行った頃からかな……



ヒカリ「アローラって……あのリゾートの?



サトシ「ああ、一番地方連合に加盟するのが遅かった国だ。半分外国みたいな国だったな



ヒカリ「そこで……何かあったの?



サトシ「俺はそこで初めてスクールに入校してさ……そこのクラスメートに三人女の子がいたんだけど……



ヒカリ「だけど!?



ヒカリはサトシに顔を近づけて、興奮した様子で目を輝かした。
サトシは顔から蒸気を出しながら、そっぽをむく。



サトシ「何、テンション上がってんだよ……



ヒカリ「えっ?……あはは、ゴメン。人の恋バナって面白いじゃない



サトシ「……まだ、恋バナとは言って無いぞ



ヒカリ「えっそうなの?流れ的にそうだと思ったんだけど……
178 名前:名無し 投稿日:2017/04/09 23:25 ID:fy746Zlb

サトシ「……どうだろうな、まあ恋バナっちゃ恋バナなのか?



ヒカリ「!早く続き続き



サトシ「わ、分かったよ……。それがさ、その三人は何というか……自分で言うのも何だけど、俺の事を好きになっちゃったみたいでさ……スクールの後半は結構な沙羅場になって……逃げる様に修行の旅に出た感じだ



ヒカリ「へ〜スゴイじゃんサトシ。モテモテだったんだね。で、問題の意識し始めたのは何時?



サトシ「お前……グイグイ来るな……まあ、卒業間近に俺が三人から誰が好きなのかって聞かれたてさ。俺は友達として皆んな大好きだって言ったんだけど……女の子達はそれじゃ納得できなかったみたいでさ……友達としてでは無く異性として好きになって欲しいって言われたんだ



ヒカリ「まあ、そりゃそうだろうね



サトシ「それで俺は訳わからなくなって……三人とその……付き合う事になった



ヒカリ「へっ……三人と?どういう流れなのかは分かんないけど三人はそれで良いって言ったの?



サトシ「三人から言われたんだ、俺に女の子との付き合い方を教えるとか言ってさ……無理やりキスされたり、過剰なボディータッチされたり……だんだんそれはエスカレートしていったんだ



ヒカリ「ふ、ふーん……当時11歳でしょ?……結構なオマセちゃん達だったんだね


サトシ「ああ、それで俺は逃げた。なんかその子達といるとさ……ポケモンマスターになるっていう夢もどうでも良くなってくるというか……段々俺の気持ちもおかしくなってくるのを感じたから、その気持ちを封印して修行の旅に出ようと思った
179 名前:名無し 投稿日:2017/04/09 23:43 ID:fy746Zlb

サトシはタバコを胸ポケットから取り出そうとする仕草をして、手を止めた。
ここが禁煙だというのを思い出したのだろうか、かなり動揺しているらしい。



サトシ「そんな矢先だよ、ロケット団の三人に出会ったのは。そっからはパーティーで話した通りさ、危険な組織に出会って、戦って、戦って、ピカチュウが死にかけて……師匠に出会った。


サトシはまた胸ポケットを漁る仕草をする。
今度はタバコを取り出して、ズボンのポケットにしまった。


サトシ「そっからは、ずっとがむしゃらだったから暫くそんな気持ちは忘れてたんだけど……夜寝るときに空を眺めながら今までの旅を振り返ってたらさ……そういや今まで旅した女の子達はスゴイ可愛いかったな……なんて



照れながらそんな事を言うサトシに、ヒカリはドキッとしてしまった。
照れ隠しにヒカリは腕を組んで、意地悪な顔でサトシに問いかける。



ヒカリ「……へ、へー。も、もちろんその中じゃ私が一番可愛いでしょ?



サトシ「あ、ああ……可愛いと思うぜ


不意にサトシは赤い顔をヒカリに向けながら、真剣な眼差しで見つめて来た。
ヒカリは不意打ちをくらい、思わず顔を赤くして顔を背けた。
180 名前:名無し 投稿日:2017/04/10 00:11 ID:XnQ1qUV6


ニャース「お前ら時と場所を考えるニャ……サトシ、おミャーはニャー達のボスなんだからそんなんじゃメンツが立たなくて舐められるにゃ。もう直ぐレッドが来るからビシッとしとけニャ


サトシ「わっニャース!


ヒカリ「い、いつから居たの?


ニャースはドア付近で呆れ顔をしてサトシ達を眺めていた。


ニャース「ついさっきにゃ……あいつは着替えるのおっそいから急かしてたのニャ。それにしてもあのジャリンコだったサトシがラブコメかにゃ……時が経つのは早いものニャ


ヒカリ「そ、そんなんじゃないって!


ニャース「しっ、もう来たにゃ


ニャースが指を立て、ドアから遠ざかる。
すると本当にドアが開閉し、厨房で働いていたレッドという少年が部屋に入ってきた。



レッド「お待たせしましたボスさん。えっと……座って宜しいですかね?


サトシ「ああ、座れ。先ずは簡単に自己紹介といこうか


サトシは先ほどとは打って変わって、真剣な表情を見せた。
それはヒカリがテレビ見たチャンピオンのサトシ、そのものだった。
大企業のトップのような凄み、オーラがある。



サトシ「つっても、名乗るのはお前だけだ。所属、年齢、目的を言え。持ちポケモンの数もな



レッド「なんで僕がポケモン持っているって分かったんです?



サトシ「格好見りゃ分かるよ、グダグダ言ってねーでさっさと言え



サトシは低い声でそう凄んでみせた。
ヒカリは思わず冷や汗を流してしまう、さっきのサトシは完全に別人だった
181 名前:名無し 投稿日:2017/04/10 00:45 ID:XnQ1qUV6

レッド「そうですね……まあご存知だとは思いますが、名前からいきましょうか。レッドです、所属は……根無し草のポケモントレーナーですかね。年齢は15、目的は……この世界で生きる事、ですかね



サトシ「前の世界はどうした、戻りたくないのか?



レッド「戻ろうにも、戻れないんですよ。とっくに僕のいた世界は隕石の落下で崩壊してしまいましたから。……それにしても、どうして僕が異世界の人間だって信じてくれたんですか?普通は信じないと思うんですけど


サトシ「はっ?じゃあお前、どうやってここに来たんだよ



レッド「えっ?……えっと、女の子です。隕石落下の瞬間に知らない女の子が突然僕をこっちに送ってくれたんですよ。何でも気に入ったからとか何とかで



サトシ「ほう……その女、肌は浅黒で名前はヒガナとか言わなかったか?



レッド「!……ご存知なんですか?名前は聞いてませんが……肌は浅黒かったです



サトシ「そうか……ちっ、あの野郎、面倒事増やしやがって


サトシはそこまで言った後、立ち上がってニャースの方へ向かって口を開いた。


サトシ「聞いたなニャース。コイツはあれだ、いい意味で期待ハズレだ。コイツは何も知らない様だし、単なるポッと出の転移者だな。席を外してるムサシとコジロウにも伝えといてくれ、俺たちは予定より早く帰るわ。四時くらいまではトキワにいるから何かあったら呼んでくれ



ニャース「……問題はコイツの処遇なのニャ。市民カードも持って無いし、外に放り出してニャー達の事をバラされたら終わりにゃ



サトシ「殺しちまうのが一番楽なんだけどな



ヒカリ「えっ!?



サトシはヒカリを見て我に返り、しまったという顔をした。
直ぐに誤魔化すように追加で口を開く。



サトシ「それはタバコ吸いながら考えるわ。ヒカリ、ごめん……ちょっとタバコ吸ってくるから待っててくれるか?結論が出たら直ぐに帰ろう



ヒカリ「え?……う、うん



サトシ「ちょっと席を外すからな、ニャース。コイツがヒカリに変な事したらぶっ飛ばしていいぜ



ニャース「あいニャ


サトシはそう言い残して部屋を出て行く。
途端、部屋は異様なまでの静けさが訪れた。
182 名前:名無し 投稿日:2017/04/10 01:19 ID:XnQ1qUV6


レッド「ヒカリさんって言うんですか?


レッドが突然話しかけてきて、ヒカリは戸惑いながらも頷いて見せた。


ヒカリ「……う、うん


レッド「いい名前だ、それに……美しい



ヒカリ「……


ヒカリは助けを求めるようにニャースを見た。
ニャースはソファに近寄って爪を光らせる。
ひっかくの攻撃の前兆だ、ニャースはいつでも動けるような体勢を取った。


レッド「妙な気は起こしませんよ……あのおっかないボスさんの彼女なのでしょう?手を出したらそこの喋るニャースさんに殺されるのは目に見えてますから



ヒカリ「か、彼女じゃないよ



レッド「!?そうなんですか!じゃあ……僕にも脈は多少あるって事ですよね?



ヒカリ「え、えーと



レッド「実は……さっき一眼見た時、僕は分かってしまったんです。ああ、なんて可愛い子なんだ、これが一目ボレってヤツか……ってね



ヒカリ「は、はあ……



レッド「よろしければ友達からで良いので、結婚を前提に付き合ってくれませんか?



ヒカリ「な、なんでイキナリ友達からそんな一足飛びするの。か、からかってるんでしょ



レッド「本気です、命賭けてもいいですよ。……僕はね、ヒカリさん。故郷も家族も失って……新しい自分に生まれ変わったんです……自分に正直で、可愛い女の子と結婚して、幸せな家庭を築いて……楽しい、楽しい人生を送ろうって……



ニャース「お前、そろそろ黙れニャ。キモいんだニャ



ニャースがレッドの首筋に爪を立てた。
レッドはそれでも言葉を止めない。



レッド「キモいのはお前だよ。ペラペラ喋りやがって、殺されたくなかったらその汚い垢だらけの爪をどけろ


ニャース「上等だニャ、短い人生だったって精々悔んどけニャ



レッドの首筋に血が流れ始めた、ヒカリは思わず止めようとすると、途端にニャースの体が何かの力によって吹き飛ばされた。



レッド「雑魚が粋がるんじゃないよ、お前は精々喋る事だけが取り柄のマスコットだろ?違うってんなら証明してみせろよ、コイツが相手してやる



レッドの後ろから、ニャースを吹き飛ばしたポケモンが姿を現した。
何もない空間から突然色が落ちた様に現れたポケモン……。
それを見て、ヒカリは思わず息を呑む。


ヒカリ「ゲンガー……


レッド「流石ヒカリさん、可愛いだけじゃなくて博識ですね。さあ行きましょう、僕が貴方を幸せにしてみせます
183 名前:名無し 投稿日:2017/04/10 23:56 ID:XnQ1qUV6

ヒカリ「い、いやだよ



レッド「……そうですか、無理やりは僕の流儀にそぐいません。残念ですが、今回は溜飲を下げるとしましょう



ヒカリはレッドの予想外の返答に驚いた。
てっきり流れ的に自分は無理やり連れていかれるものだと思ったからだ。

内心ホッと胸をなでおろすヒカリを見て、彼は残念そうな顔を浮かべたまま自らの後ろに位置するドアへと向きなおる。



レッド「やれやれ、そろそろ彼が来ますかね。……ヒカリさん、実は黙っていたんですけど、僕は前の世界ではポケモンマスターという称号を持っていたんですよ。そういえばいるんですか?この世界でもポケモンマスターは



ヒカリ「え!?



突然のレッドの宣言にヒカリは耳を疑った。


さっきのサトシ達の会話を聞いていたヒカリは、未だに信じられないが、彼は本当に異世界人なのだろうと薄々思ってはいた。
しかし、その世界でポケモンマスターだったとは……その話は到底信じられなかった。


もしそれが本当なら……世界初のポケモンマスターが一つの部屋に二人存在していた事になる。



レッド「あのサトシとかいう人も相当な実力者の様ですが、残念ながら僕には勝てません。力押しでこの店から出させて貰います



ヒカリ「……どうして?



レッド「どうやら此処はヤバイ組織の様ですし、多少なりとも組織体系を知った僕を彼らは外に出す気は無い様だ……一宿一飯の恩はありますが、変な事される前に逃げさせて貰いますよ。ああ、心配しなくても僕はヒカリさんを忘れたりはしません、いづれ僕の事を好きになった貴方をお迎えに上がりますよ

184 名前:名無し 投稿日:2017/04/11 17:46 ID:7n3OCcHh
今日は書けそうなので結構進めようと思います。
185 名前:名無し 投稿日:2017/04/12 06:42 ID:1UqXFHjI
支援
186 名前:名無し 投稿日:2017/04/12 18:05 ID:evSMTJHB

ニャース「なんか勘違いしてニャいか?おミャーは


気づけば後ろに吹き飛ばされていたニャースは、ソファーの後ろに位置してあった机の上に足を組んで座っていた。
ヒカリが起き上がってニャースの近くに寄ると同時に、レッドは余裕の表情で笑みを浮かべる。


レッド「?……おや、もう動ける様になったんですか、喋るニャースさん。手加減していましたが、貴方レベルのポケモンなら昏倒する位の力は加えたと思っていたのですが……多少侮り過ぎていた様ですね




ニャース「その発言自体が青臭いガキニャ。ポケモンマスターだかなんか知らないけど、この世界がそんな甘くない事を教えてやるニャ



レッド「それはそれは……是非とも教えて頂きたいですね



レッドの言葉で、ニャースの前に殺気だったゲンガーが立つ。
ヒカリがニャースを守る様に前に立とうとすると、ニャースが必要ないと、押しのける。



ニャース「言質は取ったニャ、後で泣いても許さないからにゃ。……ではテキスト35ページから、レッスンワン!



サトシ「全てがポケモンバトルで片が付くと思うべからずだ



レッド「!?


いつの間にかサトシがレッドの後ろに立ち、殺気めいた眼光で彼を睨んでいた。
レッドは慌ててサトシから離れようとするが、サトシは素早くレッドの頭を掴み、容赦の無い膝蹴りを喰らわす。



レッド「ガッ!?



血が室内に飛び散った。
サトシは膝蹴りを更に3発ほど食らわせ、レッドを床にひざまづかせた。



ニャース「レッスンツー!
187 名前:名無し 投稿日:2017/04/12 20:48 ID:2sUYhMjj
支援
188 名前:名無しのst 投稿日:2017/04/12 23:10 ID:NYrlFHss
おもしろい!今後に期待!
受験生なのに読みに来てるってマズイか・・・
189 名前:名無し 投稿日:2017/04/13 12:35 ID:Lv2LPuuu

サトシ「トレーナーが直接攻撃される様な異常事態に、正攻法なバトルしかやってこなかったゲンガーは放心状態に陥る。その間に更に一撃を加えるわけだ



グジャっという音と共に、レッドの方から何やら白いモノが飛んできた。
赤黒いモノに覆われたそれを歯だと気づくのに、ヒカリは数秒を有した。



それと同時に放心していたゲンガーがようやく動き出した。
顔を怒りに染め、猛然と突進していく。
それをみてサトシはにこやかに微笑んだ。
190 名前:名無し 投稿日:2017/04/14 19:10 ID:KFWzaT5z
支援
191 名前:名無し 投稿日:2017/04/15 23:40 ID:G4UDIvfZ

ニャース「レッスンスリー!



サトシ「ねぇよ……そんなもん



突然、猛然と突進していたゲンガーの体が強力な電撃に身を包まれた。
空間を切り裂く様な電撃と、目が焼けてしまいそうな程の閃光にヒカリは身動きを取ることも、目を開けて状況を確認する事も出来なかった。



やがて1分程の時間が経ち、恐る恐る目を開けたヒカリが目にしたモノは、地面に倒れ伏しているゲンガーを見つめるサトシとピカチュウの姿だった。



サトシ「ゲンガーお前は強いよ……けどな、殺す気で来なきゃ



サトシはそう言った後にモンスターボールを取り出して、空中に放り投げる。
中から赤い光線と共に、サトシとピカチュウが師匠と呼んでいた黒髪ロングの女の子が飛び出てきた。



ふてぶてしい事に彼女のモンスターボールから飛び出た出現場所はソファーの上だった。
赤い光線が完全に消える頃には、寛いだ姿勢でこちらを傍観している。



サトシ「師匠、こいつらの治療と記憶の改編をお願いします……そうですね……元々仲間だったって事で、こいつの手持ポケモンも全部お願いします



師匠「はっ?何でじゃ?話はモンスターボールの中から何となく聞いとったが、別に仲間だった設定じゃなくとも奴隷でも何でもええじゃろ?元々そういうーーー



サトシ「……



師匠は黙るサトシを見て、次に状況を注視しているヒカリを見た。
すると、師匠は何か納得した様に「なんじゃ、めんどくさいのう」と呟き、ソファーに体を埋めた。




師匠「分かったわい、後はやっとく。予定通り仕事を終えて、ワシは早くここのメシにありつきたいんじゃ。ニャース……準備は整っとるんじゃろうの?



ニャース「ば、万事抜かりなしですのニャ!



ニャースをそう言った後、机の上に飛び乗って内線電話をかけ始めた。
おそらく繋がった先は厨房だろう、ニャースが「予定より早く師匠様が出られたからいつでも料理を出せる様にしろにゃ!」と声を荒らげていた。
192 名前:名無し 投稿日:2017/04/16 00:14 ID:Nm8loSW6

サトシ「じゃあ……行こうかヒカリ



ヒカリ「えっ?……ど、何処に?



サトシ「?ショッピングだろ?



若干照れながら、にこやかにそんな事を言うサトシを見て、とても今はそんな気分では無いとヒカリは口が裂けても言えなかった。



サトシはこの状況を屁とも思って無いようだ。
ヒカリは少しばかり、サトシに対しての狂気と、恐怖を感じていた。



どんな体験をすればあの天真爛漫だったサトシがこんなマフィアのボスの様な感じになるのだろうか。
彼は躊躇いなく暴力をして、躊躇いなく殺すという言葉を吐いていた。



サトシは……どうやら変わってしまっていた様だ。
それに気がつくと同時に、ヒカリは強くサトシを抱きしめていた。



彼女の目からはいつの間にか涙が流れ、もう昔のサトシでは無いという寂しさと、彼を変えてしまった全ての要因をヒカリは憎らしく思った。



ヒカリは一瞬でも彼を恐怖した自分の愚かさに、胸が締め付けられる様な思いだった。
そうだ、違う。
彼は……サトシは……変わったんじゃない、変えられたんだ。
彼は残虐な組織と対立していたと聞いた、それ以外にも師匠という女の子の元で色んな辛い体験をした筈だ。


甘い考えではやっていけなかったのだろう……ジョーイスクールで一年半しごかれたヒカリには理解できた。



サトシ「ひ、ヒカリ……急にどうしたんだ



ヒカリ「辛かったんでしょ?……悲しかったんでしょ?……サトシは色んな体験をしたんだよね……苦しい世界を見たんだよね……私、サトシがどんなに変わっても……



ヒカリはサトシの胸に埋めていた顔を上げ、彼の瞳を真っ直ぐ見つめながら震える声で口にする
サトシは赤面しながらも、それを逸らさずにずっと見つめ続けていた。




ヒカリ「貴方の味方だから!




サトシ「ヒカリ……
193 名前:名無し 投稿日:2017/04/16 05:10 ID:52p2jiIz
支援です
194 名前:名無し 投稿日:2017/04/16 15:24 ID:cxcVsFW6

まるで二人の間だけ、時が止まってしまった様だった。
見つめ合うサトシとヒカリは、一言も言葉を発する事なくただただ、お互いを見つめていた。



それを殺意の篭った目で見つめる人物がいるとは……二人は知るはずもかった。



…………………………

………………


トキワシティー、トキワ警察署。
そこの署長室で不機嫌そうに来客用のソファーに座っているセレナの姿があった。


彼女は自分の腕時計と携帯をしきりに眺めながら、ソワソワとしていた。
そんな彼女はソファーから立ち上がって、自分を落ちつかせる様に並べてあるトロフィーを眺め始めていると、現署長である年老いたジュンサーが部屋に入って来た。



セレナは眺めていたトロフィーから、現れた六十代くらいのジュンサーに視線を移し、見事な敬礼を見せた。



年老いたジュンサーはそれに答礼し「ソファーに座りなさい」とセレナを促した。



暫く沈黙が支配する。
セレナは自分に引き起こっているこの状況に、戸惑いを隠せなかった。



何故なら……彼女がサトシに会いに、スクールを卒業して直ぐにマサラタウンに向かおうとトキワ空港に降り立った瞬間、トキワ警察署から出頭命令が下ったのだ。
タイミングの良すぎるこの命令……彼女は嫌な予感を脳裏に浮かべながら、



目の前に座る、トキワシティー警察署のトップの年老いたジュンサーを見つめていた。



老ジュンサー「セレナ巡査官……だったかしらね。ジュンサースクール、主席卒業おめでとう。かなり優秀な人物だったと聞いているわ
195 名前:名無し 投稿日:2017/04/16 15:35 ID:cxcVsFW6

ゆっくりとした口調で老いたジュンサーは口を開いていた。
セレナは背筋を伸ばし、凛とした表情で答える。



セレナ「身に余る光栄であります。ジュンサー捜査官として、恥の無い働きをしていきたい所存です



ジュンサー「ふふっ……そんなに堅くならなくていいのよ。貴女は初の一般からのジュンサー捜査官、尚且つ主席なんだから……そんなにいきなり気を張っていると、誰だって転ぶものよ。私達だってそうだったから



セレナ「ご忠告、感謝します



尚も姿勢を崩さないセレナに、老いたジュンサーはニヤリと嫌らしい笑みを浮かべた。
それにセレナは背筋をゾクリとさせたが、それを気取られない様に無表情を貫く。
196 名前:名無し 投稿日:2017/04/16 22:23 ID:cxcVsFW6

老ジュンサー「貴方みたいなタイプは嫌いじゃないわ……主席で卒業する能力がありながら、上にはとことん従順な姿勢を見せる。一番賢い生き方よ、セレナ巡査官



セレナ「お褒めに預かり、光栄です



老ジュンサー「そんな貴方に頼みたい事があるの



やはり来たか、とセレナは内心肩を落とした。
ただ褒めるためだけにこんな大物が来るはず無い事をセレナは重々承知していたからだ。


あるとすれば特別な任務の命令か、解雇の通告くらい……セレナは前者である事を半ば確信していた。



老ジュンサー「それは護衛任務であり、監視任務でもある……非常にレアで特殊なケースの捜査を担当して貰うわ。その為、貴方の希望していて在籍する筈だったカロス警察署交通課は申し訳ないけど破棄させて貰う事になった。原告をもってセレナ巡査官を地方連合国家、公安部特殊捜査官へと任命する。……異議があるなら聞くわ。元々無茶苦茶な人事異動だしね、上も多分貴方の要求を受理してくれる筈よ




セレナ「……いえ、もう少しお話を詳しく教えて頂いてもよろしいですか?
197 名前:名無し 投稿日:2017/04/17 04:01 ID:7MK9XoCy

老ジュンサーはニヤリと笑みを浮かべ、「いい心がけね」と、話を続ける。


老ジュンサー「監視対象者は少年一人。十五歳で貴女と同年齢ね。彼は現在、ポケモンマスターになった事で世界的にも有名人よ。名前は勿論知っていると思うけど……


老ジュンサーが差し出した写真に、セレナは嫌な予感を的中させ、微妙な表情を作った。
セレナが老ジュンサーの顔を見ると、彼女はまたしても嫌らしい笑みを浮かべていた。


セレナ「この任務は……私が昔彼と旅していたのを知っての事ですか?



老ジュンサー「任務自体は前々から構想があったわ。しかし、クローン問題で注目を集めているジュンサーが捜査官では根幹的な問題があったの。そこで今回実施されたジュンサースクールの卒業生から実行に移せる人材に適任がいるか選定していた所……貴女を発見したまでよ



セレナ「……それで、サトシを監視して何になるんです?
198 名前:名無し 投稿日:2017/04/17 10:20 ID:zNgeRiyo
支援
199 名前:名無し 投稿日:2017/04/17 21:35 ID:Beb4t2PS

老ジュンサー「彼はトキワシティーを統べる二大組織のうち、片方の勢力のボスをやっているの。名前はホワイトホール。構成員は主に解散させられたロケット団が主体となっている



セレナ「サトシがですか!?しかもロケット団!?


セレナは身を乗り出して反応したが、目の前の老ジュンサーは一つも身動きは取ろうとはしなかった。
彼女はゆっくりとした動作で、机の上に置いてあるティーカップを二つ取り出した。
カチャカチャとお茶を入れる作業をしながら話を続ける。



老ジュンサー「現在、この地方連合国家では様々な勢力が乱立し、日夜シノギを削って自分達の縄張りを巡っての争いが頻発している。グロバール化した社会では犯罪の多様性を産み、我々警察組織も手をこまねいているワケだ



老ジュンサーはティーカップに注ぎ終わった液体をセレナの方に押し出し、自らも口をつける。



老ジュンサー「その中でもサトシ少年を中心とする組織は凶悪な組織を武力によって牽制する様な動きを見せている。それによって街では多少の小競り合いが起きているが、均衡状態によって何とか平和が保たれているのだ。我々実働部隊からすれば大助かりなのだが……上層部、連合国家委員会はこの現状を宜しく思っていない様だ




セレナはティーカップの液体に口をつけた。
ハーブティーだ、後味は花を通り抜けるレモンの風味がした。
老ジュンサーはその香りを楽しむ様に、目を瞑りながら説明を続けていた。




老ジュンサー「委員会はこの国家に存在する組織自体を徹底的に駆逐したいらしい。目障りなハエは除去するのが連合国家の習わしだそうだ。私もそれには大いに同意する。部屋に入ってくる虫ポケモンを退治してくれる虫ポケモンには違いないが、虫ポケモンは虫ポケモンだ。害は無いが目障りなのは変わりない



老ジュンサーの眼光が一気に鋭くなった。
セレナは思わず息を飲む。




老ジュンサー「サトシ少年の動向……それが私達にとって吉と出るか凶と出るか。どっちにしろ、私達はサトシという少年を注視しなければならない。部屋に放った虫ポケモンは想像もつかない場所に入りこむものだ。それが寝室ならば……駆除の準備に入らなければならない
200 名前:名無し 投稿日:2017/04/19 12:25 ID:4uOK134n

セレナ「私がサトシの懐に潜り込んで……地方連合国家に都合が悪い事が判明すれば、逮捕しろって事ですか?




老ジュンサー「別に逮捕でなくても構わない。彼とその組織を機能停止に追い込める状況を作りだせれば問題はない



セレナ「……機能停止とは……具体的にどの様な方法か教えて頂いても?



老ジュンサー「詳しい事は貴女の直属の上司から聞く事になる。まだ貴女はこの任務を承諾していないから現時点では限られた情報しか与えられないわ



セレナ「受けます



迷いの無いセレナの返事。
老ジュンサーの口角がピクリと動いた。
まるで笑いを堪える様な仕草だ、セレナはそれが不快だった。



老ジュンサー「任務を承諾し、公安部への異動を受理するという認識でよろしいかな?セレナ巡査官




セレナ「はい、受けさせて頂きたいです。サトシの動向を探るのは、仲間だった私が一番適任かと




老ジュンサー「宜しい、いい返事だ。連合国家警察において、貴女の様な人材が任官された事を誇りに思う。では原告をもってセレナ巡査官を特別承認させ、特別捜査官の権限を与えます。これは公安部のバッチよ、大抵の事はコレを同胞に見せれば融通を効かしてくれるわ
201 名前:名無し 投稿日:2017/04/19 20:50 ID:ZmWg2o0x
支援
202 名前:名無し 投稿日:2017/04/19 23:22 ID:4uOK134n

セレナはバッチを受け取ると、立ち上がって一糸の乱れもない敬礼をした。
老ジュンサーは満足そうに頷いて席を立ち上がると、出入り口の前に立って電気スイッチの横にあった何の用途で使われるかセレナが疑問に思っていたボタンを押した。



セレナが不思議そうにしていると、老ジュンサーは微笑を浮かべながら口を開いた。




老ジュンサー「貴女が同意を示した事を別室にいた公安部の捜査官に伝えたの。もう直ぐ貴女の直属の上司がやってくるわ



??「もう、来てる。彼女が承諾する事は分かっていた



謎の声が聞こえ、唐突にドアが開いた。
そこから現れた人物に思わずセレナは息を呑む。



セレナ「あなたは!!
203 名前:名無し 投稿日:2017/04/22 04:29 ID:tfX2m1U3

スイレン「なんちゃって♪盗み聞してただけだけどね。……ていうかアレー?その驚いた様な反応……私の事知ってるの?



セレナ「……サトシとまだ連絡を取っていた頃、テレビ電話越しに見せてくれたスクールの集合写真の中に貴女を見ました



セレナは彼女に見覚えがあった。
確か名前はスイレンで、青色を基調とした髪と服、そして小柄な体。
サトシが一人、一人どういった人間か丁寧に説明してくれたのだ。



スイレン「ふーん……普通は何年も前にテレビ電話越しに見た写真なんか覚えて無いと思うんだけど……まあ、それだけ貴女が優秀だって事なんだね、期待しちゃうな




セレナ「……善処します



スイレンという少女はクスクスと笑うと、ドアを開け放ってクイクイとセレナを呼ぶ仕草をした。



スイレン「別室に行こう、渡したい物もあるし。ここじゃ話せない事も……あるしね!



スイレンは老ジュンサーにウィンクをした後、廊下をツカツカと先行して歩いていく。
セレナはそれを追いかけながら、心の中で誰にも口にしていない、ある事を誓っていた。



セレナ『……サトシが危ない、例え警察を裏切る事になろうと、どんな手を使ってでも彼を守らなきゃ。その為に、私はジュンサーになったのだから!』



セレナは拳を握りながら誓っていた。
誰にも気づかれない様に、平常心を保ちながらだ。
しかし、スイレンだけは全てを見透かした様に笑っているのをセレナは気づかなかった。



…………………

…………
204 名前:名無し 投稿日:2017/04/22 22:23 ID:tfX2m1U3

ヒカリ「サトシ、早く早く!こっちに可愛いのがいっぱいあるよ!



現在、サトシとヒカリはトキワシティー最大のショッピングモールで買い物に勤しんでいた。
服を見てはしゃぎ回るヒカリをサトシは必死についていきながら、眩しそうにヒカリの姿を目で追っていた。



サトシ「ああ可愛いなぁヒカリは……昔は女の子とショッピングなんてつまんない事この上無いと思ってたけど……こういうデートみたいのも、悪く無いもんだぜ



ヒカリ「?何か言った?



呟く様に言ったサトシの言葉に、ヒカリはハテナマークを浮かべて質問する。
サトシは手をバタバタと振って口を開いた。



サトシ「い、いやいやなんでも無いよ。それより良いのが見つかったって?




ヒカリ「うん、これなんか……ってサトシ、ピカチュウは?当の本人が居ないと服が合わせられないじゃない



ヒカリがそう尋ねると、サトシは露骨に表情を歪める。



サトシ「いや〜この状況にアイツは邪魔……じゃなくて、アイツは疲れたからモンスターボールで寝とくとかなんとか……言ってたような
205 名前:名無し 投稿日:2017/04/23 22:30 ID:3lVTVOEW

ヒカリ「え〜……合わせるだけだからちょっと出てもらってよ



サトシ「分かったよ……ちょっと人気の無いところ行ってくる



サトシはそう言うと、渋々その場を離れていった。
ヒカリが暫く服を物色していると、ピカチュウを連れたサトシが帰ってくる。
ピカチュウは店内に入るなり、キョロキョロと立ち並ぶ服を見て訝しげな顔をした。



ヒカリ「ピカチュウ、ゴメンね疲れているのに……ちょっと可愛い服があるから合わせさせて



ピカチュウ「?別に疲れてないからいいけど……



ピカチュウの言葉を聞き、ヒカリが疑惑の目でサトシを見ると、彼はヤバイという表情を浮かべて誤魔化す様に別のブースの方を眺め出した。



ピカチュウ「えっ!?……ヒカリは僕にこんな服を着させる気なの?



ヒカリの持っている服を見て、ピカチュウが驚きの声を上げ、ヒカリの意識はそちらへと移行する。
206 名前:名無し 投稿日:2017/04/23 23:12 ID:3lVTVOEW

ヒカリ「可愛いでしょ?絶対貴女に似合うわ



ピカチュウ「い、いいよそういうのは……僕、動きにくいのやだし



そう言って逃げようとするピカチュウの腕を掴み、ヒカリは無理やり着替え室へと押し込む。
ドッタンバッタンと音を立てる個室に、店内にいた客は何事かと視線を向ける。
サトシは呆れた様に頭を抱えていると、暫くして着替え室のカーテンが勢いよく開いた。



思わず、店内にいた客が声を漏らすほどそこにいた少女は可愛かった。
中には見惚れてしまってツネられるカップルの男がいる位、ピカチュウは完璧な姿をしていた。
207 名前:名無し 投稿日:2017/04/24 04:33 ID:Z12HykqK

ピカチュウ「さ、サトシは?



ヒカリ「え?……



ピカチュウはしきりに店内を見回し、サトシを探している様だった。
そんな彼女の彷徨う視線はやがて、ある一点で静止する。
ヒカリもその先を見つめてみると、泣き笑いの様な表情を浮かべたサトシの姿があった。




ピカチュウ「さ……ッ



ヒカリ「……



ピカチュウは顔を赤しながら何かを必死に尋ねようとしているみたいだった。
ヒカリはそれを瞬時に理解し、ピカチュウの背後からサトシへと声をかける。




ヒカリ「サトシどう?……すっごい可愛いでしょ!



サトシ「そうだな……すっげー似合ってるじゃん



照れるでも、驚くでもなく、ただ困った様に笑顔を浮かべてサトシはピカチュウへと言葉を贈る。
ピカチュウはサトシのそんな表情を読み取る事無く、盲目的に頬を染めて喜んでいる様だった。



ピカチュウ「やったぁ……
208 名前:名無し 投稿日:2017/04/24 23:16 ID:Z12HykqK

ヒカリはサトシの言っていたピカチュウの本当の想いという言葉を思い出していた。
薄々勘付いてはいたが……この一連でヒカリの考えていた仮説は確信へと変わる。



ピカチュウはサトシの事が好きなのだ。
だけどサトシはそのことに戸惑っている様だった。



ずっと相棒として一緒に過ごしてきた中で、そんな想いを密かに寄せられていた事に動揺しているのだろう。




ヒカリは笑顔を浮かべるピカチュウと困った様な笑顔を見せるサトシを見て、こう思った。



あまりにも儚く、脆い……今にも割れてしまいそうなガラスの様な関係だと。




………………………………

………………


ピカチュウ「……本当にいいの?ヒカリ



サトシ「そうだぜ、金なら俺が出すって。こう見えても俺稼いでんだぜ?



ヒカリ「いいの!一般人初のジョーイさんを舐めないで。教育を受けながら給料が出てたし、何よりピカチュウには私から買ってあげたいの。なんども危ない時助けてもらったし、この位安いわよ




ヒカリは会計を済ませて商品を受け取ると、それをサトシに渡してピカチュウの腕を取る。



ヒカリ「さあ、もう一軒まわったら次はアクセサリーよ。その次は……



ピカチュウ「えっ!?まだまわるの?



ヒカリ「貴女に色々着せるのが楽しいのよ。悪いけど私の趣味に付き合って!



ピカチュウ「ひ、ヒカリが楽しいならいいけど……



サトシ「悪いな、ヒカリ。今度は俺が出すよ
209 名前:名無し 投稿日:2017/04/24 23:47 ID:VjCdIRl0
面白い設定だなぁ
支援!
210 名前:名無し 投稿日:2017/04/25 22:07 ID:7cvJIwCK

ヒカリ「いいからいいから、これは私が好きでやってるんだから!サトシには譲らないわよ



そう言ってヒカリはピカチュウの腕を掴んで軽快に走り出した。
サトシは呆れた様に笑った後、二人の姿を追って駆け出していった。




…………………………

……………



ヒカリ「サトシ、全部持てないでしょ?私とピカチュウも持つよ



サトシ「なんのなんの、これくらい修羅場をくぐり抜けた俺にとっちゃ軽いもんさ


陽もすっかり落ちて、控えめな星々が姿を見せ始めた頃。
サトシ達一行は買い物を終え、ショッピングモールの駐車場を歩いていた。
山の様に抱えた荷物を持つサトシを見て、ピカチュウは呆れた様に口を開く。




ピカチュウ「ヒカリの前だからって張り切っちゃってさ……君は変な所で鈍臭いだから見栄を張ってないで荷物を渡したら?



サトシ「やかましいわ、そう言ってる間に着いたぜ



気付くとサトシ達は自分たちの車まで到達していた。
白のワゴン車だ。
この車は先日サトシが購入した物で、免許も世界大会終了後の短期合宿で取得していたそうだ。



ピカチュウの言葉通り、変な所で鈍臭い所のあるサトシの運転を不安に思っていたヒカリだったが。

難なくバック走行もこなす手慣れた感じにヒカリは安堵感を持って席に着く事が出来た。
後部座席にヒカリが座り、助手席にピカチュウが座る。




サトシ「じゃあマサラに帰るか……ピカチュウ、何か音楽つけてくれ



ピカチュウ「あの趣味の悪いロックはヤダよ、最近僕がニャースにダウンロードしてもらったクラシックでいいよね?



車が発進すると、ピカチュウはそう言ってダッシュボードからCDを一枚取り出してサトシに見せつける。サトシは露骨に顔を歪めて、拒否した。



サトシ「クラシックなんか聞いてたら寝ちまうよ……ロック一択だ、一択。



ピカチュウ「ヒカリが聞いたらドン引きすると思うよ、君の好きなあのロックは。あのサイコな歌詞をヒカリに聞かせていいの?



サトシ「……他にバラード系無かったっけ?



ピカチュウ「意地でもクラシックは聞かないんだね……まあ、あのロックよりマシだからいいや。ヒカリもいるし、有名所のバラード歌手の曲にしよう



そう言って掛け合う二人の会話を聞いて、ヒカリは思わず吹き出してしまった。
不思議そうに見つめてくる二人の視線を受けながら、ヒカリは笑いを堪えて口を開く。



ヒカリ「いや〜やっぱり貴方達は最高のコンビよね……お互いの事なんでも知ってるのが良く伝わったわ
211 名前:名無し 投稿日:2017/04/25 23:54 ID:7cvJIwCK
一瞬間が空いて、サトシは笑みを浮かべて口を開こうとした。
それを遮るように、唐突に喋りだしたピカチュウの声が車内に響き渡る。


ピカチュウ「そうだね……ヒカリ。僕とサトシはある意味では一番の理解者同士だと思うよ……なんせ感覚を共有してお互いの全てを曝け出したんだから……今となっちゃあサトシはもう一人の僕であり、僕はもう一人のサトシなんだ。素晴らしそうに聞こえるだろ?でもね、全てを知ってしまったその後の僕達は仲良しコンビでも相棒でもない。とても歪で理解しがたい関係となったんだ



ヒカリ「……



サトシ「おい……



サトシは低い声を出してピカチュウを静止しようとしたが、ピカチュウは言葉を辞めない。
ピカチュウは不敵な笑みを浮かべながら、ヒカリに向き直って言葉を続ける。



ピカチュウ「一番理解しているからこそ、分かるんだ。今この瞬間、人間の姿でいる僕はサトシにとって……不必要な




サトシ「オイッ!!!




サトシの悲鳴に近い声が車内に響き渡る。
ピカチュウが言葉を辞め、サトシの方を虚ろな目で見ると同時に。
サトシがピカチュウの襟を掴んで、驚いている彼女に向かって口を開いた。




サトシ「お前は相棒だ!それでいて俺の唯一無二の、かけがえのない家族だ!今度そんな事を言ってみろ、ぶっ飛ばすぞ!



サトシがピカチュウの襟を乱暴に放して、運転を再開する。



ピカチュウは少し伸びてしまった新しい服を見て、申し訳無さそうに笑いながらヒカリを見た。



ピカチュウ「ゴメンね……ヒカリ。折角楽しい雰囲気を壊しちゃって……



ピカチュウのその言葉に、ヒカリはクスッと笑う。
ピカチュウはヒカリの予想外の反応に驚いている様子を見せていた。



ヒカリ「サトシも同じ事言ってたわ、車内で雰囲気ぶち壊してすまないって



サトシ「……



ヒカリ「やっぱり貴方達……似てるわね
212 名前:名無し 投稿日:2017/04/26 20:11 ID:PusrGlhA
支援
213 名前:名無し 投稿日:2017/04/26 22:36 ID:T8ilKOEY

ピカチュウ「……



サトシ「似てるってさ……俺たち



ピカチュウ「うん……



サトシは運転しながら窓を開けた。
暗い車内に一瞬光が灯され、消えると同時にタバコの匂いが微かに広がる。




サトシ「実際そうだと思うぜ……俺たちは




ピカチュウ「……似てるから、何さ?



ピカチュウが泣きそうな目でサトシの方を向いた。
サトシは真っ直ぐにピカチュウの目を見据える。



サトシ「さあな……でもなんか……嬉しいよな



ピカチュウ「……



サトシ「ずっと一緒にいようぜ……俺たち。



ピカチュウ「うん……うん……



ピカチュウは涙を流しながら頷いていた。
ヒカリはそんな彼女の背中を強く抱きしめる。



抱きしめ返してきたその手は……余りにもか細く。
世界大会で強敵を倒してきた伝説のポケモンとは程遠かった。




………………………

…………


マサラタウンに到着した。
閑静な住宅街を走り抜け、サトシの家の前にワゴン車は停車する。
車を降りると、一同は満天の星空に迎えられた。
暫く無言で星空を眺めていると……ヒカリの直ぐ横にサトシが近寄ってきて、ピカチュウに聞かれない程度の小声で話しかけてきた。




サトシ「今日はありがとな……ヒカリ



ヒカリ「……なに?お礼を言うのはこっちよ。ピカチュウを着せ替えさせてもらって楽しかったわ



サトシ「アイツも楽しんでたし、久しぶりに笑ってるのを見た……実は最近アイツ、凄く不安定でさ。俺と二人きりの時もたまに泣き出したりするんだよ……あの姿の時はさ、元仲間でも結構緊張したりするんだよ、アイツ



ヒカリ「そうなんだ……



サトシ「でも今日はアイツ、ヒカリの側で凄くリラックスしてた様に感じた。それはヒカリがずっとピカチュウに態度を変えないで接してくれたお陰だよ



ヒカリはピカチュウの方向を眺めてみた。
ピカチュウは満点の星空をつかむ様に、手を伸ばしていた。
サトシから話を聞いた夜にもやっていた仕草だ。



サトシ「……今日の夜は……悪いけどアイツの側に居てやってくれないか?




ヒカリは無表情のままサトシのオデコにデコピンをする。
戸惑うサトシを横目に、ヒカリは不機嫌そうな表情で口を開いた。



ヒカリ「サトシなんかに言われなくとも、私はピカチュウの側にいるわ。サトシなんかより断然ピカチュウの事を考えてるんだから!




そう言って鼻を鳴らしながらヒカリは、ピカチュウの腕をとってサトシの家に入っていく。
サトシは暫くキョトンとしていたが、直ぐに「相変わらず人に何か言われんのは嫌いなんだな……」と笑みを浮かべ、ポケットからタバコを取り出して口に咥えた。




……………………

……………
214 名前:名無し 投稿日:2017/04/26 23:10 ID:T8ilKOEY

真っ暗な室内の中、ヒカリとピカチュウは唯一点けた電球が煌々と照らす脱衣場の前で向かい合っていた。
先ほどヒカリから出た言葉をピカチュウは戸惑った様に復唱する。


ピカチュウ「……お風呂?



ヒカリ「そうよ、お風呂



ピカチュウ「一緒に?



ヒカリ「もちろん



ピカチュウ「……別にいいけど



ヒカリはピカチュウと一緒に脱衣場で服を脱ぎ、洗濯機にそれを放り込んだ。
二人はお風呂場に入って小さい丸椅子に腰を下ろすと、シャワーの前に座ったヒカリが出す水がお湯に変わるまで、それをジッと眺めながら話をしていた。



ヒカリ「そう言えば……サトシのお母さんは何処にいるの?パーティーの時からずっと姿が見えないんだけど



ピカチュウ「リゾートにバリヤードと一緒に旅行に行ってるんだ。サトシが羽を伸ばしてきてくれってチケットを渡したんだよ



ヒカリ「そうなんだ、いつ帰ってくるの?



ピカチュウ「予定では後二週間だけど、多分後一ヶ月は帰って来ないよ



ヒカリ「えっ?……どうして?



ヒカリがお湯に変わったシャワーをピカチュウに浴びせる。
ピカチュウは気持ち良さそうに目を瞑ってそれを浴びながら、ヒカリの問いに答えた。



ピカチュウ「サトシがそういう風に裏工作したんだ。今ホワイトホールはカントーを占める裏組織の中でもトップクラスなんだよ、その為対抗組織に狙われる危険性がある内は遠い安全地帯でママさん達はのんびりしてもらってるのさ。



ヒカリ「そうなんだ……。でも、さっき帰ってくるのに一ヶ月くらいって言ってたけど……本当にそれくらいでサトシのお母さんは帰ってこれるの?



ピカチュウ「一ヶ月だよ。ホワイトホールがカントーの覇者となるのは……もしかしたらそんなに掛からないかもね



ピカチュウはそう言って、置いてある石鹸を泡立ててヒカリの背中につける。



ピカチュウ「今、サトシ主導で大規模な作戦が進行中なんだ。カントーのありとあらゆる裏組織はホワイトホールに度肝を抜かれると思うよ



ヒカリの背中を洗いながら、ピカチュウは楽しげにそんな事を言った。
215 名前:名無し 投稿日:2017/04/27 18:04 ID:BCsUishM

ヒカリ「……あんまり無理しちゃダメだよ?貴女は昔からそういう所があるから




ピカチュウ「サトシ程じゃないよ




ヒカリ「ふふっそれもそうね




ヒカリが笑うと、ピカチュウも追随して笑った。
しかし、その声もピカチュウは段々と暗くなる。
ヒカリが気になって首だけ振り向くと、少しばかり寂しそうな表情を浮かべた少女がいた。




ピカチュウ「そういえば……ヒカリはいつ帰らなきゃいけないの?




ヒカリ「……明後日には帰らないといけないの。地元で本格的にジョーイとして勤務するから




ピカチュウ「……また来れる?



ピカチュウの洗う手が止まる。
ヒカリは振り向いてピカチュウの手を強く握った。



ヒカリ「必ず来るわ。そしたらまた貴女を着せ替えさせてもらうけど



ヒカリがウィンクしながらそう言うと、ピカチュウは嬉しそうにはにかんだ。



ヒカリ「さあ、今度は私が洗うわ。背中を見せて




ピカチュウ「うん



……………………………

………………

体を洗い終え、そろそろ湯に浸かろうかと二人は腰を上げた。
二人が入るには少しばかり狭い湯船にすっぽりと収まったヒカリとピカチュウは、向かい合う形で様々な話をしていた。
昔の旅や出会った人々の話が大半だった。



ヒカリ「でもピカチュウと話せて本当に嬉しいわ、貴女とはずっと話したいと思っていたの



新たな話題に差し掛かり、ピカチュウの表情が変わるのをヒカリは見逃さなかった。
216 名前:名無し 投稿日:2017/04/27 18:11 ID:BCsUishM

ピカチュウ「本当にそう思うの?



ピカチュウの意味深い発言にヒカリは動揺しながら頷く。



ヒカリ「そりゃそうよ、トレーナーとしてポケモンと話せる様になるのは夢だもん



ピカチュウ「ふーん……じゃあポッチャマと話したいと思う?



ヒカリ「そりゃ思うけど……



ピカチュウ「ポッチャマが話せる様になって困るのはヒカリだよ



ヒカリ「……どういう事?
217 名前:名無し 投稿日:2017/04/27 18:38 ID:BCsUishM

ピカチュウ「だってポッチャマは……ヒカリの事が好きだから



ヒカリ「……私も好きよ



ピカチュウ「異性として?ヒカリの好きは違うでしょ。ポッチャマはオスだ、ポケモンのオスが求める好きっていうのは……生物としての繁殖欲の事だよ。ヒカリの事をメスとして好きなんだ



ヒカリ「……それはポッチャマから聞いたの?




ピカチュウ「いや、僕の直感だよ




ヒカリ「じゃあ……




ピカチュウ「分かるんだ、自分がそうだから
218 名前:名無し 投稿日:2017/04/27 20:18 ID:BCsUishM
ヒカリが複雑そうな顔をしていると、ピカチュウは申し訳無さそうに笑った。



ピカチュウ「ゴメンね、でも意地悪で言っている訳じゃないよ……僕はね……いや、僕たちポケモンは……人間とは根本的に考え方が異なるんだよ




ヒカリ「……



ピカチュウ「僕もただサトシが好きなだけだったら良かったんだ……でも僕が抱いていたのは純粋な恋愛感情じゃない、劣情だよ。サトシとそういう事をしたかったんだ……だから知られたくなかった。サトシも言ってたよね、僕の隠された本当の想いって。あの時僕は自分の命とひた隠しにしてた自分の劣情を知られる事を本気で天秤にかけたんだ。僕が隠す事を選べばサトシも死ぬかもしれなかったから選択肢は無かったけどね




ヒカリ「ピカチュウ……




ピカチュウ「一番傷ついたのはサトシの反応だよ。あれ以来サトシは……僕に触れるのを躊躇する様になった。サトシが僕に余所余所しいのをヒカリも気付いてたろ?……アイツのタチの悪い所はそれを認めないんだ。綺麗事ばっか言って……僕の気持ちなんて、本当は分かってないんだよ
219 名前:名無し 投稿日:2017/04/27 22:23 ID:BCsUishM

ヒカリは更に何かを言おうとしたピカチュウの言葉を遮って抱きしめた。
泣きそうなピカチュウに代わって、ヒカリは静かに涙を流す。




ヒカリ「貴女は真っ直ぐすぎるのよ……だからそういう言い方しか出来ないの



ピカチュウ「……真っ直ぐなんかじゃないよ



ヒカリ「……劣情とか、そんなの言い方の問題じゃない……本気で好きならそういう気持ちにもなるよ。それはポケモンだけじゃない、人間だってそうよ……貴女はそれ以前に……サトシを守りたいとか、独り占めしたいって気持ちがあるんでしょう?



ピカチュウ「……



ヒカリ「それが好きって事でいいじゃない……ただただキレイな恋愛なんか無いよ。無理にそんな劣情なんて言葉を当てはめる事無い……




ピカチュウ「……ヒカリに抱きしめられると何だか安心するよ……ありがとう……そうだね、僕はただ少しばかり卑屈になっていただけかも。……でもね、ヒカリ



ピカチュウが次なる言葉を吐こうとした瞬間、バスルームの照明が消え、あたりは闇に包まれた。
ヒカリが何事かと立ち上がろうとすると、ピカチュウがそれを遮って湯船に引き戻す。



ヒカリ「どうしたの?



ピカチュウ「……囲まれてる。今はサトシを待とう



サトシ「居るぞ、さっき確認してきた。電気線は切られてる、相手は暗視装置まで用意してたぜ



お風呂場から脱衣場を繋ぐ、すりガラスの先からサトシの声が聞こえてきた。
ヒカリはイマイチ状況が掴めず、混乱した様子で尋ねる。



ヒカリ「……何があったの?



ピカチュウ「敵だよ……ゴメンねヒカリ。本来は巻き込む筈じゃ無かったんだけど。……でも、いい機会だ



ヒカリ「えっ?



ピカチュウ「僕を見てて……ヒカリ、僕は君が思う程、純粋じゃないんだ。真っ直ぐなんかじゃないんだよ……ヒカリは大好きだから、本当の僕を見て欲しい
220 名前:名無し 投稿日:2017/04/27 23:12 ID:BCsUishM

サトシ「俺は先にポイントBで指揮を執る……ピカチュウ、ヒカリもそっちにいく様に誘導してくれ。その後お前は正面から奴等を蹴散らすんだ、支援するリザードンとゲッコウガは既に外で展開してある。久々の軍団バトルだ、連携を忘れるなよ?



ピカチュウ「了解……


すりガラスの先からしたサトシの声が終わると、足音がして遠のいていく。
ヒカリは段々と暗闇に慣れてきた目で、月明かりに照らされたピカチュウの表情を見た。



ピカチュウ「ヒカリ、急いで湯船から出よう。ポイントBっていうのは大げさな名前だけど、二階にあるただのサトシの部屋さ



ピカチュウはヒカリの手を取って湯船から上がると、急いで一緒に体を拭いて服を着た。



脱衣場を抜け、二階へと通じる階段のある廊下へと出ると、玄関の先の小窓から微かに炎の光と悲鳴が聞こえた。
サトシ達が何者達かと戦闘を始めたのをヒカリは察知した。



ピカチュウ「……サトシの部屋へは一人で行ける?予定より早く交戦状態に入った様だ。僕も参加するよ



ヒカリ「う、うん。行けるけど、敵なんでしょ!?貴女はその姿で……



ヒカリが言い切る前だった。
リビングの方からガラスの割れる音が聞こえ、ドカドカと誰かが入ってくる音が聞こえた。



ヒカリはその方向を見ると……真っ黒な服に同色のフルフェイスヘルメットを被った人間が三人ばかり、大きな杖の様な物を構えて立っていた。



??「ターゲットだ!!撃て!



その集団が杖の先端から電撃の様なものを発射する。それはヒカリとピカチュウに迫り、そして……



ピカチュウ「目障りだよ……



それはピカチュウの前で相殺された。
まるで電気で作られた様なバリアが、いつの間にかヒカリとピカチュウの間を覆っていた。


??「ッ!!プラズマガンが効かない!


ヒカリが謎の三人組同様に驚いていると、ピカチュウが手のひらから電気を放電しながら説明を始める。


ピカチュウ「ヒカリ、最終進化ってのはね……ポケモンからただの人間を生み出す代物じゃないみたいなんだ……。師匠は人間の姿のまま技を使うでしょ?僕もそれが出来るんだよ



ピカチュウは言い切った瞬間、腕を伸ばして放電していた電気を三人に放った。
目が焼ける様な閃光が三人のいた空間に広がり、断末魔の悲鳴が室内に響き渡る。
221 名前:名無し 投稿日:2017/04/27 23:23 ID:9DphQdYU
サトシとピカチュウにこんな関係があったなんて…笑 支援
222 名前:名無し 投稿日:2017/04/27 23:54 ID:BCsUishM

ピカチュウ「さ、早く今の内に……ヒカリはサトシの部屋へ行って。正直ヒカリがいると戦いにくいんだ




ヒカリ「ピカチュウ……




ピカチュウ「二階から見ててよ……本当の僕を



そう言って振り向いたピカチュウの表情は、ヒカリが驚く程に残忍な笑顔だった。




……………………

…………

トキワ警察署、公安事務室。
そこでは苛立ちを隠せない様子のセレナと、飄々とした様子でパソコンをつつくスイレンの姿があった。
セレナは不満たらたらの様子でスイレンのデスクの前で仁王立ちしていた。



セレナ「なんでトキワの公安捜査員が私とスイレン部長だけなんですか?これじゃあ捜査のしようがないでしょ!?



スイレン「仕方ないじゃん、無能な先代公安署長のおかげで対外部門に予算も人員も根こそぎ取られちゃったんだから。貴女はだって対外部門に引き抜かれそうなのを私が方々に土下座しながら頼み込んだんだよ。



セレナ「事の経緯なんかいりませんよ!じゃあ全く期待されてないお飾り部署に私は配属されたって事ですか?
223 名前:名無し 投稿日:2017/04/28 15:23 ID:ZOicoH3B

スイレン「君がなんで?って聞いたんじゃん……まあまあ、期待されてないって事はそれはそれで楽だし、その分成果を上げた時の反動はデカイよ?



セレナ「その成果を伴う為の人員が居ないから言ってるんです!



スイレン「何言ってるの、人員ならいるんじゃん、優秀なのが沢山



セレナ「は?……今この部署には私たち二人しか居ないじゃないですか



スイレン「隣にいるじゃん



スイレンの言葉に、初めはキョトンとしていたセレナが段々と表情を険しくする。



セレナ「まさか……



スイレン「そうだよ、対外部門。彼らの捜査資料を拝借すれば労せず捜査を進められる。一人でも二人でも変わらないよ



セレナ「横取りじゃないですか!



スイレン「あのねぇ、セレナ君。僕達は警察で目的は問題の解決だよ?違う部署と手柄を取り合っている場合じゃないんだよ。目的はあくまでスピーディーな解決、外の人は対外部門が解決しようが公安が解決しようがどっちでもいいでしょ?警察がやってくれた!って思うだけだよ



セレナ「くっ……なまじ説得力はある……でもどうやって対外部門の捜査資料なんて手に入れるんですか?



スイレン「今見てるのがそれだよ、彼らの対策プログラムは何重にもプロテクトされてるんだけど、私レベルのハッカーなら容易く入れるんだ




セレナ「……スイレン部長はハッキングが出来るんですか?



スイレン「出来るよ、見たい?最新の面白捜査資料がタダで見れるよ?



セレナ「……拝見します



スイレン「ふふ、君もすきものだね。うーむ、最近彼らのやり方は過激さを増してるな……あ、面白いの見つけたよ



セレナ「これは……動画?
224 名前:名無し 投稿日:2017/04/29 12:54 ID:czf3lQ5b

スイレンが表示した画面に現れたのは、何人もの人間の視点から撮られた動画だった。
おそらくヘッドセットに装着した視点カメラだと思われるそれは、現在リアルタイムで対外部門本部と中継されている様だった。



スイレン「対外部門の特殊部隊が遂に火を吹いたらしいね。場所は……おやおや、これは



セレナ「どうしたんですか?早く見ましょうよ



セレナがスイレンを見ると、彼女は無表情のままセレナを見つめ返した。



スイレン「絶対に君は勝手な行動を取らないと約束するなら、この動画を開こう。約束出来る?



セレナ「……どういう事ですか?



スイレン「いいから約束出来る?



セレナは訳も分からないまま頷くと、スイレンがマウスを操作して動画を開いた。
動画はいきなり、対外部門の特殊部隊が戦闘を繰り広げている所から始まる。



『退避しろ!後退しながら撃て!』


『あのポケモンは何だ!?何処から攻撃してきている!?』


『あのリザードンを黙らせろ!俺たちのピジョットを支援しながらプラズマガンで落とせ!』



セレナは絶句していた。
ポケモンはポケモン同士で戦うものだ。
そのルールは生まれた時から地方連合に住む住人たちの頭に擦り込まれたモノである。
それをあざ笑うかの様に対外部門の特殊部隊は対人用の制圧兵器を何の迷いもなくポケモンに向かって使用していた。



セレナ「これはまるで……



スイレン「戦争だね。知ってる?世界の裏側ではこれが日常で起こっているんだよ



セレナ「えっ?……



スイレン「君も公安なら知っておいた方がいいよ。地方連合の外がどうなってて、どんな事が起こっているのか……ずっと上が市民に隠し続けていた真実を
225 名前:名無し 投稿日:2017/04/29 13:05 ID:czf3lQ5b

セレナ「世界の……真実



スイレン「まあ、今はこの動画の真実だ。よーくこの対外部門の特殊部隊が戦っている舞台を見て



セレナが戸惑いながら画面を眺めて見ると、どうやらこの特殊部隊はある民家を強襲している様だった。
別の動画ではピジョットに乗った数人の特殊部隊員が民家の屋根に飛び乗り、ロープを括り付けて窓から突入していた。
そこはポケモンのポスターやモンスターボールのレプリカが転がる明らかに子供部屋の様な場所で……


その部屋の中央に立っていて、特殊部隊員に銃を突きつけられている少年にはセレナは確かな見覚えがあった。



セレナ「サトシ!?



思わず部屋を飛び出そうとするセレナをスイレンは腕を掴んで静止させた。



スイレン「勝手な行動を取らないと約束したよね?



セレナ「……スイレン部長は、この事を知っていたんですか?



スイレン「まあ、何となくわね。今日作戦決行なのはついさっき動画を見つけて知ったよ
226 名前:名無し 投稿日:2017/04/29 13:34 ID:czf3lQ5b

セレナ「じゃあどうして!?貴女は元サトシの仲間なんでしょう!?



セレナの言葉に、スイレンは不敵な笑みを浮かべた。



スイレン「それ以上だよ、恋人だった事もあるかな



セレナ「……えっ?



スイレン「まあ、見てなよ。どうせ対外部門の強行作戦は失敗に終わる。この部隊には優秀な指揮官が二人も出張で不在しているし、それに……



スイレンは画面のサトシを指差して言った。



スイレン「サトシの目を見れば分かるよ。これは狩られる側の目じゃない……狩る方の目だよ



セレナは言われて画面をもう一度覗き込んでみる。
そこには、不敵な笑みを浮かべて対外部門の特殊部隊を見るサトシの姿があった。
227 名前:名無し 投稿日:2017/04/29 13:57 ID:czf3lQ5b

………………

…………

サトシ「ようこそ我が家へ、歓迎はしないがちょっと遊んでいけよ



「撃て!!」



一人の特殊部隊員の号令で二人の銃口から圧縮されたプラズマ因子の塊が容赦なく発射される。



それは特殊部隊員が入ってきた別の窓から侵入してきた物体に阻止され、相殺した。



「コイツは……!?」


「ゲッコウガだ!制圧し……」


言い終わる前に、二人の特殊部隊員はゲッコウガの水手裏剣で吹き飛ばされ、窓から一階へと落下していった。
それを見届けたサトシはため息を吐きながらゲッコウガの肩に手を置く。



サトシ「よくやった……けど部屋がメチャクチャだな



ゲッコウガ「……コウガ



サトシ「気にすんな。ま、ホワイトホールのメンバーにやらせるとしよう……それよりピカチュウは何やってやがる。ヒカリがまだ来ねぇじゃねぇか……



ヒカリ「サトシ!!



サトシが呟いた瞬間、ヒカリが蹴破る様に部屋に入ってきた。



サトシ「ヒカリ!……ピカチュウは?アイツに誘導させる様に命令した筈だけど……ていうか、それ何持ってんの?



ヒカリ「ああ、これ!?さっきなんか二階の廊下の窓から突入してきたヤツがいたから投げ飛ばして奪ってきちゃった



サトシ「え、えええ!?け、ケガは無いか、ヒカリ!?



驚愕するサトシを他所に、ヒカリは窓から持っていたプラズマガンを外にいる特殊部隊員に向けた。



ヒカリ「大丈夫よ、ジョーイスクールでは室内戦闘一位の成績だったから!窓からコレでピカチュウ達を援護するわ!



サトシ「ほ、本当にそれはジョーイスクールなのか!?……く、何にせよヒカリに危険が及んだ事はペナルティーだ。ピカチュウにはキツイお灸をすえないとな
228 名前:名無し 投稿日:2017/04/30 00:32 ID:ONWisj8T
爪をかんで苛立ちを表していたサトシに向かって、ヒカリが声を上げた。



ヒカリ「私が一人で大丈夫って言ったの!ピカチュウには何の非もないわ!それより今は敵をどうするかでしょ!



サトシは一瞬面食らった表情をしていたが、直ぐに真面目な表情へと戻った。



サトシ「大丈夫だよ、ヒカリ。奴らがこの屋敷に……マサラタウンに踏み込んだ瞬間から勝敗は決してるんだ。そこの窓から外を見てみろ



ヒカリ「えっ?……



ヒカリはサトシに言われ、外を眺めてみる。
すると夜にも関わらず、真昼の様な明かりを照らし出す物体がゆっくりと移動していた。
ピカチュウだ、彼女は全身から電撃を発しながら周りにいる特殊部隊員を一掃していった。



圧倒的だった。
ヒカリが唖然としている間に、その場に立つ敵と思われる集団はいなくなっていた。




サトシ「ウチのエースだ。それを支援するゲッコウガとリザードン……それだけじゃない、他にも配置してある仲間達は二重にも三重にも包囲網を敷いてある。ここは俺たちのホームグラウンドだ、何人たりとも容易く落とせる城じゃない
229 名前:名無し 投稿日:2017/04/30 14:15 ID:TvZ5UKOk
ブラックだな 支援
230 名前:名無し 投稿日:2017/05/02 03:07 ID:Pb8ZqvPx


ヒカリはサトシの声を聞きながらピカチュウを見てみると、彼女は倒れ伏した特殊部隊員達を眺めながめて恍惚とした表情を浮かべていた。



サトシ「恐らくホワイトホールにも同時に攻撃を受けた筈だ。念のため師匠を残しといて良かった



気づくとヒカリの背後にサトシが立ち、彼女と同じ様にピカチュウを見つめていた



サトシ「アイツはぶっ壊れちまったんだ、もう元のアイツには戻りはしない



ヒカリは信じられないという表情を浮かべ、サトシを睨んだ。
そのヒカリの涙をこらえた様な怒りのこもった目をサトシは真っ直ぐ見つめた。



サトシ「俺もだよ。もう元には戻れない、引く事もない



ヒカリ「……貴方達は一体どうするつもり?



サトシ「うん?……そうだな、とりあえずピカチュウの電撃で気絶させた敵をホワイトホールまで運んで、師匠の記憶改編能力で仲間にする。俺たちは最強の切り札があるんだ、盤上の敵を全部味方に変えうる最強の……



ヒカリ「バカ!!



ヒカリはそう言ってサトシに思い切りビンタをした。
サトシが面食らった表情をしていると、ヒカリは涙を流しながら彼の服の襟を掴んで詰め寄る。




ヒカリ「そんな事聞いてるんじゃない!
231 名前:名無し 投稿日:2017/05/02 08:54 ID:bDgUBk2x
支援
232 名前:名無し 投稿日:2017/05/02 15:08 ID:Pb8ZqvPx

サトシ「えっ?



ヒカリ「こんな危険な戦いをずっと続けてつもりなのかって聞いてるの!!




サトシ「……降りかかってくる火の粉だ、俺たちが望んだ訳じゃない




ヒカリ「……



ヒカリは持っていたプラズマガンを二階から放り投げた。
ガシャンっという音が響いてプラズマガンは部品を散らしながら壊れる。
下にいたピカチュウが振り返ってそれを見た。



サトシ「ヒカリ……お前はもうシンオウに帰った方がいい。飛行機を手配させるから今日一番の便に乗れる様に調整しとくよ……都合の良い話かもしれないけど、今まで見た事は全部忘れてくれ。俺たちはお前の事を危険に晒したくない




ヒカリ「決めたわ……



ヒカリがつぶやく様に言った。
それを聞いてサトシは嫌な予感をさせながらヒカリの次の言葉を聞く。



サトシ「……何を?




ヒカリ「私は……シンオウには帰らない




サトシ「……どうしてだ!分かってくれ、これは……




ヒカリ「私も一緒に戦うわ!……嫌とは言わせない、こんな事忘れろって言う方が無茶よ。貴方達が何をしようとしているか知らないけど……私は元旅した仲間よ、絶対に全部終わるまで離れてやんないから!




サトシ「ヒカリ、お前……。




師匠「ほう……『私も戦う』とはな。それでは貴様はホワイトホールに入ってワシらの仲間になるという事か?



サトシ「師匠!?



気づけばサトシの机の上に師匠と呼ばれる女の子が座っていた。
彼女はニヤニヤと面白そうにヒカリの事を眺めている。
233 名前:名無し 投稿日:2017/05/03 00:28 ID:EFGNdaMp

師匠「それは貴様の生活全てを捨てる事を意味するぞ。ジョーイだか何だか知らんが折角手に入れた地位もゴミ同然に投げうる覚悟はあるのか?




ヒカリ「それでも構わない……私を応援してくれた沢山の人に迷惑をかけることになるけど……それでもこんな現状を知って知らんぷりで生活する事なんか出来ない!




サトシ「ヒカリ……お前は俺たちとは違う、お前は……



師匠「サトシ、黙っとれ
234 名前:名無し 投稿日:2017/05/03 01:17 ID:EFGNdaMp

師匠はヒカリの前に立ち、面白そうに彼女の眼前に顔を寄せる。
触れてしまいそうな程の距離まで近づくと、再び師匠は口を開いた。




師匠「ならば覚悟を見せてみよ、試練によってそれは試される



ヒカリ「試練?……それってサトシが受けたっていう……



サトシ「!?師匠、本気ですか!!



師匠「ワシはいつだって本気じゃ。さあ、小娘……お前の覚悟を見てやろう



師匠がヒカリの頭に手を置いて、何か呪文の様な言葉を呟き始めた。
段々と二人の体が淡い青色に発行し始める。



師匠「お前が今から見るのは世界の真実だ、堪能するがいい



ヒカリは師匠から聞いたその言葉を最後に、プツリと意識を失った。
235 名前:名無し 投稿日:2017/05/04 00:55 ID:kKG105oK
支援
236 名前:名無し 投稿日:2017/05/04 01:38 ID:i8zrYTEV

……………………

…………

微睡みの中、ヒカリは失っていた意識を取り戻している感覚を覚えつつ、近辺で複数人いるだろう人間の男達の声に気がついた。
耳鳴りがしてエコーのかかった様な声が聞こえるヒカリの鼓膜が、段々と元の機能を取り戻していく。



??「コイツは一体何者なんだ……急に空から降ってきたんだろ?



??「獣神が巣に運ぼうとして落っことしたんじゃねぇのか?



??「だけどコイツの肌……明らかに俺たちと違って白いだろ?……コイツは何処から来たんだ……まさか、北の奴らの……



??「どっちだっていいでしょう、バカ男達。この子は私が預かるわ



ペタペタと近づいてくる足音と共に、唯一らしい女性の声が聞こえた。
その声に周りの男達はうろたえている様だった。



??「シュ、シュカ!?オメェさんいつの間に!



ゆっくりと瞼を開けたヒカリの目に飛び込んで来たのは赤毛を三つ編みにした浅黒い肌を持つキレイな同年代くらいの女の子だった。



シュカ「あら、目が覚めたの?……可愛いわね……感謝して、貴女は今日から私の女にしたげる



ヒカリ「……へっ?



そう言って舌舐めずりした目の前の赤毛の女の子の言葉に、目覚めたばかりで状況の掴めないヒカリはただただ言葉を失っていた。
237 名前:名無し 投稿日:2017/05/07 00:04 ID:BN20iHVe
支援
238 名前:名無し 投稿日:2017/05/07 12:39 ID:dP9XXIRY
ゲームとアニメの混ぜ方が素晴らしい
支援
239 名前:名無し 投稿日:2017/05/07 15:34 ID:GDlBtMqT

………………………

………………

それから一週間程が経過し、ヒカリはようやく自分の置かれた状況を理解し始めた。
どうやらここは地方連合国家の外で、南方にある外国の様だった。



そして今ヒカリがいる場所は集落だ、そこに住む浅黒い肌を持つ人々はそれを王国と呼んでいた。
ジャングルの奥深くに集落を囲う様に塀を構え、その中に戦士と呼ばれるポケモンを引き連れた男たちが存在する。



どうやら彼らはこの小さい王国を守る兵士の様だった。
この王国は別の集落と戦争状態にあるらしい、24時間警戒を怠らない厳戒態勢をしいていた。



シュカ「ここの生活も大分慣れてきたって感じね、ヒカリ。どう、居心地は?



ヒカリに話しかけてくる少女がいた。
彼女の名前はシュカ。
現王国の最高権力者であり、王女なのだそうだ。
そのせいかこの集落は女性の地位が非常に高い、彼女はしかも戦士団のトップを務めていて優秀な戦士の一人でもあるそうで、尚更その地位を高めている。
240 名前:名無し 投稿日:2017/05/07 16:17 ID:GDlBtMqT

彼女は男より女の子が好きなそうで、ヒカリを一目見て気に入った彼女は。
突然空から降ってきたというヒカリを警戒する人々の追放すべきとの反対意見を押しのけて自分の側室に入れると言い放ったそうだ。



シュカ「……またポケモンの診断をしているの?アンタ本当にそんな豊富な知識何処で手に入れたんだよ?



シュカはポケモンの診察をするヒカリを見て呆れた様に息を吐いていた。
ヒカリはシュカから『貴女は私の側室なんだから何もしなくていいわ』と言われていた。



しかし、村人達が苦労して手に入れた木の実や野菜等を何の労力も惜しまずにタダ飯を食らうのは彼女の理念に反する為、ポケモンの診断や食事を作る事で集落の運営に貢献していた。



手際よく、ポケモンの治療を済ませて尚且つ豊富な知識を持っているヒカリに、最初は警戒していた村人達とも段々打ち解け。
今では重宝される存在となっていた。



ヒカリ「うーん……あんまり良く覚えてないの。でも役に立てて良かったわ
241 名前:名無し 投稿日:2017/05/07 16:35 ID:GDlBtMqT


ヒカリは地方連合に住んでいた事を隠していた。
単に記憶喪失で覚えてないという体でだ。
どうやら外の世界の住人は地方連合国家に対して極度な恐怖心を覚えている様だったからだ。



細やかな経緯は知らないがどうやら外の世界の認識では地方連合は事実的な鎖国をして以来、百年程経過してそうだ。
その間に地方連合を侵略しようとした様々な国家がいたようだが、地方連合の圧倒的な技術力によって祖国を焦土に変えられたらしい。




その歴史的観点から外の人間は地方連合の住民の事を『悪魔の民族』と呼び、畏怖の対象にしていたそうだ。
そんな経緯を知ってヒカリは自分が地方連合の人間だったなんて言えなくも無かった。



ヒカリも最初はその『悪魔の民族』ではないかと疑われていたが、覚えてないと嘘をつくと呆気なく信じて追求もしなくなっていた。
242 名前:名無し 投稿日:2017/05/11 00:21 ID:jgVzYDAj


シュカ「ふーん……覚えてないねぇ……まあ言いたくなったら教えてね



シュカのこの反応から察するに、彼女は何となくだろうがヒカリが地方連合の住人である事に勘付いている様だった。
多分集落にいる人間もそうなのだろう。
謎の多いヒカリに対して白々しいまでに無関心を装っている。



気を遣ってくれているのか、それとも単なる腫れ物扱いなのか……どちらにしろヒカリにしてみればそれはそれで有り難かった。
243 名前:名無し 投稿日:2017/05/11 00:40 ID:jgVzYDAj

…………………………

……………

また数日が過ぎ去り、ヒカリは気がつけば此処に来てもう一週間が経っていた。
その間に集落に大きな変化はなく、あるとすれば昨夜から村人の踊る雨乞いの儀式に参加したくらいだった。



ポケモンの技で雨を降らせないのかヒカリがシュカに尋ねてみると、天候の操作は昔から禁忌とされているらしく「そんな事を平気でするのは悪魔の民族くらいだ」とピシャリと返された。




ヒカリはそういうものなのか、と無理やり自分を納得させ、村での生活を続けていく。
その中で彼女は、自分がこの場所に来た理由について必死に考えていた。




『お前がこれから見るのは世界の真実だ、堪能するがいい』

『覚悟を見せよ』



師匠と呼ばれる女の子は確かにこう言っていた。
世界の真実とか、覚悟をみせろとかだ。




実際にヒカリはこの場所にきて、あの女の子が言う世界の真実とは一体どれ程のものだろうか?と内心不安をいだいていたが。
だが、此処にきてからは全くの危険にも遭遇しない、極めて平和な時間が流れていた。




あの師匠と呼ばれる女の子一体、何に覚悟を見せよと言ったのか。
試練とは何なのか?この生活自体が試練なのか?
世界の真実とはこの事なのか?




ヒカリは正直、ジョーイスクールの訓練時の方が過酷で追い詰められていた、と思考する。
244 名前:名無しのst 投稿日:2017/05/14 02:10 ID:EaTbfgR3
支援です!
245 名前:名無し 投稿日:2017/05/14 22:33 ID:QvXx9ZYL
焦土に変えた笑
支援
246 名前:名無し 投稿日:2017/05/14 23:30 ID:Y8f7EiI5

だが、そんな事を考えても何も変わらないとヒカリは分かっていた。
ヒカリは段々と自ら何らかの行動に移るべきかと模索し始めていた。

……………………………

………………




夜が来て、辺りが深淵に溶け込んでいくと同時に集落には松明の灯りが散発的に灯されていく。
空を巡回していた戦士達も帰投し始めていた。




ヒカリが食事の準備や洗濯、ポケモンの世話等をやってる内に夜も更けてくる。
最近ではこれがヒカリのルーチン化した日常であった。


他の住民達は夜の警戒をする戦士団を残して、それぞれの家に帰っていく。
同時にヒカリもシュカの家へと帰る事にした。



村一番の巨大な建物がシュカの家である。
一応側室扱いのヒカリは其処の客間に住まわしてもらっていた。



正門を抜けると、警戒をする槍を持った女戦士が2名頭を下げてくる。
ヒカリは申し訳なさそうに頭を下げ返して中に入る。



会議をする大広間を抜け、ヒカリは自分の寝床がある客間へと向かう途中で、いきなり口を塞がれて別の部屋へと連れ込まれた。


カウンターで投げ飛ばしてやろうかとヒカリは一瞬思考したが、自分の口を塞いでいるのがか細い女性の手であった為、それをやめた。



連れ込まれた部屋の内部は独特のデザインの布団が敷いてあるだけの質素な部屋だ。
ヒカリはその布団の上に放り投げられる。



真っ暗な部屋の中、ヒカリは目を凝らして自分を部屋に連れ込んだ人物のシルエットを凝視していた。



ヒカリ「……だれ?



シュカ「喋らないで、誰かに気づかれたら面倒だから



ヒカリ「えっ……シュカ?
247 名前:名無し 投稿日:2017/05/15 09:07 ID:2wp3fWxy
支援
248 名前:名無し 投稿日:2017/05/16 00:28 ID:Jw8Nerba

シルエットはヒカリの顔に触れるまで近づいてきた。ヒカリが反射的に離れようとすると、それを遮る様に顎を掴まれる。



シュカ「これでも自制したのよ……でも、もう無理だわ



シュカはそう言うと同時に、ヒカリの唇を乱暴に奪った。
貪る様に舌を絡めてくるシュカをヒカリは咄嗟に突き飛ばす。




シュカ「……私じゃ不満?




ヒカリ「……最初に側室にするとか言ってたから、いつかはこんな事をしてくると思ったけど……




シュカ「そう、なら話は早いわね。抵抗してもいいわよ?その方が私は燃えるから。




シュカは息を荒らげながらヒカリへと近づいてくる。ヒカリはどうしたものかと思考を巡らした。



この村に住まわせてもらっている以上、彼女に逆らうのは得策では無いだろう。
しかし、彼女にこのまま良いようにされるのはゴメンだった。



最初に側室にされると言われた時点でヒカリは覚悟はしていた。
彼女に従うか、それとも拒否するか……。



ヒカリが数瞬のうちに様々な思考を巡らしていた時だった。
村に響き渡る炸裂音が鼓膜を揺さぶる。
249 名前:名無し 投稿日:2017/05/16 00:36 ID:Jw8Nerba

「敵襲ーッ!!



戦士団の悲痛な叫びと共に、再び響き渡る炸裂音。
シュカは舌打ちをしながら立ち上がった。



シュカ「奥に隠れてて。音が終わるまで絶対に外に出ちゃ駄目よ



そう言うとシュカは勢いよく部屋を飛び出していく。ヒカリはそれを見届けると、辺りを見回して何か武器になる様なモノを探した。




ふと壁に立てかけてある弓を見つけ、数本の矢が入っている弓籠を背負いながらそれを手に取る。
謎の炸裂音はドンドン近づいてきていた。




ヒカリ「これが……試練?



ヒカリは誰に言うでもなく呟いていた。
250 名前:名無し 投稿日:2017/05/16 12:30 ID:Y73mS6t9

ふと、ドタドタと近づいてくる足音が聞こえてきた。ヒカリは膝をついて弓を引き、いつでも発射できる態勢で出入り口へと構える。



女戦士「あっ!ヒカリ様、私です。弓を下ろして下さい!




入ってきたのは門番にいた女戦士だった。
ヒカリは弓を下ろして彼女に近寄る。




ヒカリ「外はどうなってるの!?




女戦士「戦争態勢にある王国が攻め入ってきました!奴らは何故か連邦の兵器を持って民を惨殺しています、それに重装甲のドサイドンも……




ヒカリ「……連邦の兵器?重装甲のドサイドンって何なの?




女戦士「とにかく、此処は危険ですから抜け穴で……
251 名前:名無し 投稿日:2017/05/16 12:31 ID:Y73mS6t9
補足。
連邦の兵器と言っても白い悪魔ではありません。
252 名前:名無し 投稿日:2017/05/16 20:33 ID:9ynOT1HR
ガ○ダムを連想して次のページ開いてからの補足笑
支援
253 名前:名無し 投稿日:2017/05/18 00:32 ID:VVDSO8Lf

女戦士が言い終わる前だった。
広い邸内に轟音が響き渡り、ヒカリの鼓膜を揺さぶる。
足音の様な巨大な振動が彼女の体に伝わっくる。
ドシン、ドシンと音を立てるその何かは彼女達のいる部屋の隣から聞こえた。

音が止まる。
女戦士は慌てた様に立ち上がって、ヒカリの方へと走り出した。




女戦士「まずい、来ます!!



ヒカリ「えっ?



突如隣の部屋を仕切る土壁が崩壊する。
現れたのは鉄板などの装甲で覆われた重装備のドサイドンだった。
その背中には人間が一人立てる様な台が設置されており、そこからプラズマガンに似た兵器を持った男が見下した様に此方を見ていた。




?「女だ!殺すなよ、後で楽しませてもらうからな



?「駄目だ!一人弓を持ってる。リスクは要らん、殺せ



そのドサイドンの後ろから数人の男達が入ってきた。この集落の人間同様、民族衣装のような格好なのに持っているプラズマガンの様な物は明らかに雰囲気が違っていた。



あれが連邦とやらの兵器なのだろうか?
銃線に入らないようにヒカリは自ら倒れ込みながら弓を発射する。
254 名前:名無し 投稿日:2017/05/20 00:01 ID:qy1VYLdD

ヒカリが放った矢はヒュンと空間を切り裂きながら進み、ドサイドンに乗った男の肩に命中する。
男が悲鳴を上げながらドサイドンから落ちると、周りにいた人間達は慌てて陰に隠れた。



?「馬鹿やろう!一発しか撃てない矢に怯むな!



誰が発したのか、一人の号令で男達が一気に突っ込んできた。
女戦士は槍を振り回して威嚇をしながら、ヒカリの手を取って裏口のある方向へと走り出す。




女戦士「ヒカリ様、見事です!ですが敵は複数、しかも得体の知れない兵器を持っています。今は逃げる事だけを考えましょう!




ヒカリ「うん!……でも、何でその得体の知れない兵器を持ってたのに、奴らは突っ込んできたんだろう?敵の持っていた剣でも槍でもない、あの武器は明らかに近接戦闘を想定したものじゃ無いと思うけど……




女戦士「奴らは扱い慣れない武器を使っています!馬鹿な王国の兵士は扱い慣れた武器より、気味の悪い連邦の横流しした持て余す武器を選んだんですよ!誇りもクソも無い、どうしようもない連中です!




女戦士は走りながら興奮した様子でそう言い放った。その瞬間、遠くで聞こえてきていた連続する炸裂音が後方から鳴り響く。




羽虫の通り過ぎる様な音が彼女らの横を掠め、通り過ぎていった。
と、同時に。




彼女らの向かっていた前方の裏口近辺が弾け飛んで散乱した。
ヒカリはゾッとしながら背後を伺う。
男達の構える鋼鉄製の筒を見て、その凶悪性を悟った。




あれは何かを射出する道具だ。
非殺傷のプラズマガンとも違う、その存在意義は。




何かを破壊する事……つまり殺すことを前提とした武器なのだろう。
ヒカリはあんなものを平然と放ってくる敵の頭がおかしいとしか思えなかった。
255 名前:名無し 投稿日:2017/05/20 17:08 ID:HXOw3QtO
ヒカリがあんなことやこんなことにならない事を切実に願う笑
サトシの心が折れちゃう笑
支援
256 名前:名無し 投稿日:2017/05/20 21:23 ID:5SRydQ1V
支援!
257 名前:名無し 投稿日:2017/05/20 23:06 ID:DpqDK7Jo

女戦士「振り向かないで下さい!このまま逃げ切ります!



女戦士が叫ぶように言った。
ヒカリと彼女は全力の走りで、穴の空いた裏口を蹴破る様に転がり出た。
飛び出た先は集落の居住地区の様だった。



村民が暮らす家々が並んでいる。
その家々の先でも散発的な炸裂音と悲鳴が聞こえた。ヒカリと女戦士は走り出しながらそんな現状を目の当たりにした。




ヒカリ「ひどい……アイツらは人間じゃないわ




ヒカリが拳を握りながらそう呟くと、女戦士は何故かバツの悪そうな顔をしながら別の方向を向いた。
予想外の反応に驚いていると、女戦士は誤魔化す様に口を開く。



女戦士「……シュカ様達戦士団が戦っている間に私達は防衛戦の更に深い所に行く必要があります。我々の予想以上に敵の侵入を許してしまっているので、これから……



「おかあさん!……どこー!



女戦士の喋っている途中だった。
キーの高い、幼い声が家々の方向から聞こえてきた。ヒカリが振り向くと、そこには近所でいつも遊んでいる女の子がいた。




ヒカリは走りながらその女の子のところまで行き、抱きかかえて、再び走り始める。
女の子は一瞬驚いた表情をしていたが、ヒカリだと知ると目を潤ませながら抱きついた。



女の子「ヒカリおねぇちゃん……助けて



ヒカリ「大丈夫!?ケガとかしてない?おかあさんはどこに行ったの?



女の子「分かんない……さがしてた



ヒカリは抱きかかえた女の子の頭を撫でながら走り続ける。
女戦士は複雑そうに女の子を見ていた。
258 名前:名無し 投稿日:2017/05/20 23:32 ID:oI1Lm2Ig


女戦士「ヒカリ様……なりません



ヒカリ「……何が?



ヒカリは女戦士の渋い顔を見て、何を言わんとしているか察しつつも。
気づいてないふりをしながらヒカリは走り続けた。



女戦士「幼な子がいればヒカリ様の助けの邪魔になります、ここはどうか冷静になって頂きたい!捨ておくのもご自身の為です!



ヒカリ「私は私の為にやってるだけよ!大丈夫、貴女には悪いけど私の我が儘に付き合って!足手まといなんかには絶対させないから!




女戦士「ッ!貴女は何も分かっ……




それが女戦士の最後の言葉だった。
ヒカリの視界には何故か黒っぽいグロテスクな赤色のカラーが半分を支配した。
やがてそれが重力によって落下し、視界から外れると同時に……ヒカリはそれが血の赤だと知った。



女戦士の血の赤だ。
振り返ると、頭部の肉片を飛び散らした女戦士だったモノがそこにはあった。




ヒカリ「ッ!?



振り返った際に後方から鋼鉄製の筒を構える連中が目に入った。
ヒカリは飛び出しそうになる鼓動を必死に無視しながら女の子を強く抱きしめて走り続けた。




また羽虫の通り過ぎる様な音が聞こえてくる。
これは女戦士の頭部を散乱させた物体だ。
それが飛んできているのだと思うと、ヒカリは堪らなく恐ろしくなった。



とにかく、直線上にいてはダメだ。
そう結論づけたヒカリはシュカのいた屋敷を囲んでいた塀の角を曲がった。



その直ぐ先にいたのはーーー。
見慣れない民族衣装に身を包んだ敵だった。
彼らは急に飛び出してきたヒカリに気がつくと、驚きながらも機敏な動作で鋼鉄製の筒を向けてくる。




ここで軌道修正しても無駄。
逃げられないーー。



そう考えたヒカリは女の子に衝撃が渡らない様に背中を向けながら体当たりをした。
259 名前:名無し 投稿日:2017/05/21 00:16 ID:4zU64Dpp


男とヒカリは一緒に倒れこむ。
予想以上の衝撃でヒカリは掴んでいた女の子を離してしまった。



ヒカリが急いで起き上がると、もう一人いた男が鋼鉄製の筒を迷わず女の子に向けていた。
女の子はポカンとした表情を浮かべながら銃口をのぞいている。



ヒカリの心臓がかつてないほど速くなる。
同時に熱いものがこみ上げてくる様な感覚がした。
医学の知識があるヒカリはその正体がアドレナリンであることは予想できた。



湧き上がってくるどうしようもない怒りと闘争心。
ヒカリは自分が体当たりをした男が落とした鋼鉄製のプラズマガンの様な銃を拾いあげ、男に向ける。




迷いなくトリガーに指をかけ、女の子に銃を向けていた男の頭部めがけて物体を射出した。



轟音、反動、嗅いだことの無い異様な匂い。
それが連続する。



トリガーがスカスカと手応えが無くなる。
どうやら装填されていた物体は底をついたようだ。
……気づけばトマトの様にグチャッと頭を潰して男はたおれていた。
女戦士と同じ最後だ。
ヒカリは納得がいかなかった。




なんでこんな奴らの最後が女戦士と一緒なのだ……と。
ヒカリは頭を振りながら立ち上がろうとした、体当たりした男に蹴りをいれて昏倒させた。



?「コイツ!銃を持ってやがる!



?「殺せ!!



後方から聞こえた。
女戦士を殺した追いかけてきた連中だ。
ヒカリはマズイと思いながら、急いで銃を後方へとむけようとする。




間に合わなかった。
男達は至近距離で炸裂音を連続的に鳴らす。
避けられるはずが無い、即死だろう。




ヒカリは覚悟を決め、目を瞑る。
今までの人生を噛み締めながら、数瞬で最後の時を迎えようとした。




……しかし一向に終わりは訪れなかった。
途切れない意識を不思議に思いながら、ヒカリは再びその瞳を開いた。




目に入ったのは……全てが静止した世界だった。
260 名前:名無し 投稿日:2017/05/21 00:33 ID:mLoyQGqU

静かだ。
ひたすら静かだ。
空中で静止するのは男達の持ってる武器から射出された金属の駒のような形の物体だ。
この様な形で更に、こんなに小さいのか……とヒカリは冷静に分析する自分に苦笑した。



そうではない、一体何が起こったのだろうか?
ヒカリはまるで時が止まったかの様に動きを止めている男達とポカンとした表情のまま固まっている女の子を見つめた。




師匠「触れてみろ



聞き覚えのある声が聞こえた。
ヒカリはそちらの方向へと顔を向ける。
そこにはサトシとピカチュウが師匠と呼ぶ女の子が不敵な笑みで立っていた。



何故ここに……疑問はさておき。
ヒカリは言われた通り、まずはポカンとした表情を浮かべた女の子に触れてみる。




すると、彼女はオレンジ色の細かい光の粒子となって消えていった。




ヒカリは驚いて師匠を見た。
師匠は顎をクイッと上げて他のものにも触る様にジェスチャーする。
261 名前:名無 投稿日:2017/05/21 19:40 ID:iN4sOk2Y
皆さん支援ありがとうございます、ニヤニヤしながら気持ち悪い顔で見させて頂いています。


唯一の楽しみです。
他にも質問や改善点があったら是非お願いします。


なんかこの話は頭で考えてた着地点まで到達するのに文章にすると途方も無い時間がかかりそう。
とりあえず明日は久しぶりの休みなんで話をかなり進めたいです。
262 名前:名無し 投稿日:2017/05/21 22:47 ID:thxt2WxJ
改善点なし
メガ支援!
263 名前:名無し 投稿日:2017/05/22 15:45 ID:s2s4Md1X

ヒカリは今度は近くにあった建物に触れてみた。
すると先程と同じ様に、光の粒子となって空中で散開する。




師匠「ここはワシの記憶を元に構築された創造世界だ。ワシは創造主のように現実に世界を創り変える事は出来んが、他人の脳に自分の意識をダイブさせて一度経験した事柄なら多少作り変えて他者に体験させることが可能だ。これを応用して記憶改編を行なったりもする




師匠がそう言いながら指パッチンをすると、今度は自動的に辺りにあった建造物や人が粒子となって次々と消えていった。

やがて数十秒程で 周りにあった物質全てが消えた様だ。
辺りを見回せばヒカリと師匠のいる空間は無機質な真っ白い空間に様変わりしていた。
どこまでも虚無的な白の地平線が続いている。
264 名前:名無し 投稿日:2017/05/22 16:10 ID:s2s4Md1X


ヒカリ「あの……し、師匠?



ヒカリが戸惑った様に師匠と呼ばれる女の子に話しかけると、彼女は忌々しそうにヒカリを見つめた。



師匠「なんだ小娘……ワシはお前に師匠などと呼ばれる筋合いは無い



ヒカリ「すみません……あの、試練は?




師匠「それなら心配するな、及第点で合格にしてやった



ヒカリ「え……合格……ですか?




納得して無いような表情を浮かべたヒカリに対し、師匠と呼ばれている女の子は意外そうに眉を動かした。




師匠「なんじゃ?何が気に入らん




ヒカリ「いえ……そういう訳では無いんですが……何故合格なのかが気になって
265 名前:名無し 投稿日:2017/05/22 16:33 ID:KPefcX4f
いやぁ新しいポケモンで好きですねぇ笑
レッドの登場は熱い
支援
266 名前:名無し 投稿日:2017/05/22 19:07 ID:YtM4oWut

師匠「お前は幼な子を守るために迷わず連邦の自動小銃を使って敵を殺した。他にも土壇場の咄嗟の判断では出来ないような事を迷わずやってのけた。それはぬるま湯に浸かっていた地方人には中々出来ん事じゃ、素直に評価してやろう




ヒカリ「……え、そんな事でいいんですか?



ヒカリが呆気にとられた様にそう言うと、師匠と呼ばれる女の子は驚いた様な表情を浮かべた。




師匠「そんな事だと?……貴様本気で言っておるの?




ヒカリ「は、はい



師匠「ククッ……



師匠と呼ばれる女の子は堪え切れない様に噴き出した後、大きな高笑いを始めた。
ヒカリが戸惑っていると、彼女は笑いを必死に抑えながら再び口を開く。



師匠「中々どうして……ククッ見どころのある小娘じゃな。サトシより随分根性が据わっとるのう、お前
267 名前:名無し 投稿日:2017/05/22 20:11 ID:YtM4oWut

ヒカリ「……そうですか?



師匠「まあ、サトシの場合はこんな紛い物の創造世界ではなく、実際に中東の紛争地帯に放り出してやったがな。お前もそうしたかったが我々には余り有用な時間が残されていない。今回は短期間の研修で許してやったんじゃ、感謝しろ




師匠はそう軽く言うと、懐から何やら一枚の紙切れを取り出した。
四つ折りにされたそれを片手でふってパンッと伸ばし、ヒカリの眼前へと向ける。
それはクレヨンで書かれた色付きの絵だった。



幼い子供が書いた様な乱雑な絵で、それはポケモンと思わしき生物が書かれていた。




ヒカリ「……コレは?



師匠「創造主の書いた絵じゃ、全ての始まりでもある



ヒカリ「……すみません、ずっと気になっていたんですが……貴女の口から出る創造主という存在は……一体何者なんでしょうか?
268 名前:名無し 投稿日:2017/05/23 22:07 ID:QRER7wP0
支援
269 名前:名無し 投稿日:2017/05/24 23:21 ID:JOy4KO4M

師匠「前にも説明してやったが……まあ、あれは抽象的すぎたからの。今回は頑張ったご褒美じゃ、今は気分がいいから特別に見せてやる




師匠がそう言いながら再び指をならすと、瞬きする間に辺りの景色が一瞬で変わった。
ヒカリと師匠は何処かの家の、風の吹き抜ける何の変哲も無いリビングルームにいた。



ヒカリ「……ここは?



師匠「後ろを見てみろ



師匠に言われ、ヒカリは素直に背後を伺う。
そこには床に座り込んで黙々と絵を描いている少女の姿があった。




それはどうやらポケモンの絵の様だった。
乱雑ながら、ハッキリとしたタッチのポケモンの絵が沢山床に散らばっている。
今の所、何ら違和感のある部分は見当たらない。
ヒカリは師匠が何を伝えようとしているのか必死に読み取ろうとしていた。




暫く思考していると。
ふと、ヒカリの耳に甲高い笑い声が響いた。
ドタドタと走りながら、リビングルームの床に座り込んでいる女の子と同年代くらいの子が部屋に入ってきた。
ヒカリはその子が師匠と呼ばれている女の子に少し面影があることに気がついた。




師匠「ワシじゃ、この頃はまだ5歳じゃった




ヒカリ「えっ!?
270 名前:名無し 投稿日:2017/05/25 00:20 ID:STUBRxbF
メガ支援
271 名前:名無し 投稿日:2017/05/25 03:58 ID:qsBs8DHw
師匠が5歳って何年前…笑
その頃にもリビングとクレヨンがあるのか笑
支援!
272 名前:名無し 投稿日:2017/05/25 07:34 ID:rd4E0aCU

ヒカリは師匠のその言葉に驚きつつも、二人の女の子を注視する。
師匠の面影がある少女は、床に座り込んで絵を描いている少女に近寄って声をかけた。




「また、へんな生き物の絵?ゆかちゃん好きだねぇ



「……変な生き物じゃないよ。これはモンスター、色んな技を使えて、人間の言葉が分かるの。頭がいいから一緒に闘ったりして友達になれるの




「モンスターって怪物って事でしょ?変な生き物に変わりないじゃん




「それは……そうだけど。だけど、私の描いたモンスターは友達なの!
273 名前:名無し 投稿日:2017/05/25 12:36 ID:rd4E0aCU

そんな会話を繰り広げる女の子達に、ヒカリは戸惑いを隠せない様に師匠を見た。




ヒカリ「えっと……この頃の貴女は……ポケモンを知らないんですか?




師匠「ワシだけじゃない。この頃……二千年程前にはポケモンなぞ存在していなかった。それに地方連合国家なる国も存在していない。今の国家形態になる以前に存在した国家、ニホンという国にワシと創造主は生まれ落ち、生きていた




師匠が手を振ると、リビングにあったテレビがついた。
そこに映し出されていたのは、慌ただしく速報を伝えるニュースキャスターの姿だった。



『続いてのニュースです!◯国が発射した核ミサイルによって、遂に世界を巻き込んだ核戦争が始まりました。日本では現在自衛隊が防衛活動を行っておりますが……




突如、ブツンとテレビが消える。
瞬きする間に一瞬の閃光。
気がつけば辺り一帯が焼け野原に変わっていた。




師匠「これが諸刃の剣だ
274 名前:名無し 投稿日:2017/05/25 22:03 ID:STUBRxbF
核が諸刃の剣か。
ポケモンの世界は2000年後の世界の設定か
275 名前:名無し 投稿日:2017/05/25 23:05 ID:qzY2Jd45

ヒカリ「……核という人間達の兵器によって、二千年前に地球はこうなってしまった……そういう事ですか?




師匠「サトシより理解が早くて助かる。そうじゃ、世界は核によって荒廃した。そして、その世界でワシと創造主は運悪く生き残ってしまった……創造主の目覚めた力によってな




師匠はそう言ってヒカリの背後を指差した。
ヒカリが振り返るとそこには、紫がかった球体の様なモノが荒廃した大地の上でうっすらと輝いていた。



その球体は段々と粒子となって空気中に消え、内部にいて隠れて見えなかった二人の女の子の姿が露わになった。
一人の女の子は興奮した様に叫びながら、もう一人の女の子は泣きはらした真っ赤な目をしながら恐る恐るといった感じに出てくる。
276 名前:名無し 投稿日:2017/05/26 01:20 ID:cPGC0XMb
なるほど…今から2000年後なのか…
深いなぁ。面白くなってきた!支援
277 名前:名無し 投稿日:2017/05/26 20:56 ID:BDRzesFt


「すごい!わたしがいまやった事を見た!?爆発からミカちゃんを助けたんだよ!?



絵を描いていたほうの大人しそうな女の子が、師匠が幼少期時代の姿である女の子にそう捲したてる。
戸惑った様に小さい師匠は絵を描いていた女の子に話しかけた。




「な、何が起こったの?……いきなり光って、それで気がついたらこんな場所にいて……ねぇ、ゆかちゃん、ミカのお父さんは?お母さんはどこにいったの?




「うーん、死んだんじゃないかなぁ




平然とそんな事を言った絵を描いていた女の子に、小さい師匠は泣きながら地面に蹲った。



「うそだ!!なんでそんな事を言うの!?



「嘘じゃないよ、分かるんだもん。わたし、多分いまなら何でも出来るよ
278 名前:名無し 投稿日:2017/05/27 14:43 ID:fkfFn7To
創造神コエーー笑支援支援
279 名前:名無し 投稿日:2017/05/27 22:45 ID:JxEJgtXh

師匠「なんなら世界を作り変えてみせようか?……奴はそう言った。それから地獄の始まりだ



師匠が言葉を発した瞬間、絵を描いていた女の子と小さい師匠の姿がブレて光の粒子となって消えた。
それだけで無く、地平線の先まで続く荒野も消えて再び虚無的な白の世界へと景色が変わる。




師匠「ユカ……いや、創造主は宣言通り世界を作りかえてみせた。荒廃した地上を緑の世界へと変え、地上で生き残っていた人間達を自らが想像した人間を食料とする凶悪なモンスターへと変貌させた。奴の力は当時圧倒的だった……



ヒカリ「……当時、ですか?




師匠「当時だ。力に目覚めたのは奴だけで無い、ワシも、他の生き残った人間達も力に目覚めた。……理由は知らん、核という脅威によって隠されていた人間達の力が解放されたのか……まあ、理由はどうでもいい。ワシとその他の能力者達は創造主に対抗する為、科学文明を武器とする人類と協力する事にした





ヒカリ「……その、科学文明を武器とする人類とは?




師匠「核が世界を包む前にシェルターに篭って難を逃れた奴等じゃ。奴等はいけ好かんかったが、創造主を倒す為に能力者達の力と科学文明、それらを結託させてワシらは戦争を起こした



ヒカリ「……



師匠「結果的にワシらは勝利を収める事に成功した。科学文明を持つ人類と、未知の能力を持つ人類。ワシらは創造主を封印し、その後、人間を食料とする奴の残した置き土産の凶悪なモンスター達を手懐ける研究を開始した。結果生まれたのが……




ヒカリ「ま、まさか……




師匠「そう、モンスターボールじゃ。高度科学技術の結晶、モンスターを従属させる魔法の様なアイテムじゃ。ワシらはそれを使ってある一定の地域のモンスターを手懐ける事に成功した




ヒカリ「……その地域とは?




師匠「今存在している地方連合の事じゃ。地方連合には様々な国から科学文明が結集し、ワシらは理想郷となる世界の確立を目指した。……しかし、予想外の出来事とは起こるものじゃ、ワシら能力者の力を恐れた科学文明サイドは突如ワシらに対して攻撃を始めたのだ。
280 名前:名無し 投稿日:2017/05/28 09:07 ID:oVFqeekP
ポケモンが元人喰い!?衝撃的…支援
281 名前:名無し 投稿日:2017/05/28 23:14 ID:Mv9foJb8



ヒカリ「……それで、どうなったんですか?




師匠「仲間は散り散りに、ワシも力の半分を失って暫く眠りについとった。それで目が覚めたら千年ばかし経っとってのう……。世界は完全に科学文明が支配し、モンスター達は大層大人しくなっとったわ




ヒカリ「私たちのいた世界にそんな裏があったなんて……




師匠「そうじゃ。そして、再び封印した創造主が蘇ろうとしているのをワシは気配で感じた。創造主は恐らく自ら封印を解きながら無意識下にこの世界とは違う別の世界を創っていた様じゃ。いわゆる平行世界……パラレルワールドというヤツかいの?大きな力の波動を別次元に感じた。レッドとかいうクソガキにお前も会ったじゃろ?奴は創造主の創った平行世界で生まれた副産物じゃ




ヒカリ「……何故創造主はそんな事を?




創造主「さあな……それは本人に聞いてみんと分からん。ただ、幼馴染として一つ言える事は……品定めしとるのかもしれん




ヒカリ「……品定め?




師匠「ヤツは……創造主は自らが想像したモンスターと一緒に旅をするのが夢だと言っていた。創造主は能力によって自らをなんの力も持たない人間の幼な子に姿を変えて、記憶改編で周囲の自分を取り巻く環境の設定まで加えていた




ヒカリ「つ、つまりどういう事ですか?




師匠「創造主は誰か分からんという事じゃ。お前かもしれんし、タケシかもしれん。ヤツはな、姿を変えて自らを一般家庭に生まれたと思い込み、周囲も記憶改編でそう思わせる。そして平凡に過ごして生涯を終えると……今度はゲームをリセットする様に次の人生を選択し、また能力を行使する。今までワシらはそれが行われてから創造主の痕跡に気づき、ずっと追ってきた。なんせ一般人に紛れ込んでいる時は常に無意識下で力を行使するからワシらも分からんのじゃ



ヒカリ「レッドって人が……自分のいた世界は隕石の落下で滅んだと言っていたのは……




師匠「品定めした結果、創造主はその世界が気に入らんかったのかもしれんな。ヤツは庭師の様に平行世界を選定しとる訳じゃ……何にせよ、そんな理から外れる様な勝手を許すわけにはいかん。ワシらの目的は創造主を見つけ出し、今度こそ息の根を止める事じゃ。それによって平行世界の膨張は止められ、世界は救われる
282 名前:名無し 投稿日:2017/05/29 12:33 ID:IGwR3ZF0

ヒカリ「……平行世界が膨張し続けるとどうなるんですか?



ヒカリが尋ねると、師匠は笑いながら「風船が膨らみ続けるとどうなるか知っとるじゃろ?」と返した。




師匠「さて……そろそろ時間じゃ。他にも話していない事があるが、それはサトシに説明させる




ヒカリ「時間ですか?




師匠「言ったろ。ワシは今、半分の力を失っとる。正直お前に見せた創造世界だけで手一杯なんじゃ。捕まえた対外部門の兵士達の記憶改編を後回しにしてまで見せてやったんじゃ、感謝しろ




虚無的な白の世界が、段々と黒に染まってきた。
それと同時に、ヒカリは眠気に似た感覚を覚え始める。




師匠「お前は見所がある。ワシがサービスした分、しっかり働く事だ




ヒカリは薄れゆく意識の中、師匠のそんな言葉を最後にゆっくりと瞼を閉じて眠りについた。




…………………………

……………
283 名前:名無し 投稿日:2017/05/29 12:35 ID:IGwR3ZF0
やっと世界観の説明が終わったんで、次回からはサトシ視点でいきます。
284 名前:名無し 投稿日:2017/05/29 18:24 ID:QEwXfsyg
こんな風にポケモンをファンタジー感漂わせつつブラックにするなんて筆者さんすげえ
285 名前:名無し 投稿日:2017/05/29 21:12 ID:hmYXY5jB


俺は……一体何やってんだ。
サトシはそう呟きながら、登り始めた朝日をぼんやりと眺めていた。
心を支配するのは罪悪感と込み上げてくる不安感。




床に敷いた布団に横たわるのは、5時間ほど前に創造世界で試練入りをしたヒカリと師匠だ。




サトシは師匠がヒカリに試練を受けさせると聞いて、本気で彼女が絶望の支配する外国へと飛ばされるのでは無いか……と心配したが。
死んだ様に安からかに眠る二人をサトシは見て、師匠は創造世界で試練を受けさせたのだと理解した。




少なくとも死亡することは無い……そう安心すると同時に、サトシの心中には抑えきれない不安感が込み上げてくる。
例え創造世界であろうと、試練で体験する世界で味わうのは絶望と残酷な真実だ。




何も知らないまま彼女には幸せに生きていて欲しかった。
しかし……自分達の都合でヒカリには僅かながらの真実を伝え、結果的にこちら側にくる決心をさせたのだ。




次に会う彼女はどう変わってしまっているのだろうか?
少なくともサトシとピカチュウは変わってしまったのだ。
戦闘で興奮し、世界の残酷さを知る歪な人間に。
あの天真爛漫で暗闇を照らす様な笑顔を振りまくヒカリも……自分達の様に変わってしまうのだろうか?
俺のせいで……。




サトシは自身を責め立て続ける。
震える手で何本目か分からないタバコを取り出そうとサトシは箱を傾けると……手応えの無い感覚にタバコが尽きたのだと理解し、舌打ちをついた。
286 名前:名無し 投稿日:2017/05/30 09:27 ID:O8ayDXgc


ピカチュウ「少し休んだら?……ずっとそんな調子じゃいざという時戦えないよ




サトシの背後からピカチュウの高い声が響いた。
サトシは虚ろげにそちらを向いて口を開く。




サトシ「お前もだ、ピカチュウ。戦闘が終わってから5時間ほどしか経過してない、俺はいいからゆっくり寝とけ




ピカチュウ「あんなの準備運動にもならないよ。……いいかい、君は僕らの頭脳なんだ。寝ぼけた頭で馬鹿みたいな指揮を出されたらこっちが困るんだよ





サトシは苦笑しながらピカチュウの横を通り過ぎる、廊下へと続く扉を開きながら再び口を開いた。




サトシ「相変わらずキツイな、お前は……。そうだな……師匠とヒカリはいつ戻るか分からないし、暫く仮眠を取るよ。一服したらすぐ寝るさ、俺が起きたらお前もすぐ寝ろよ?




ピカチュウ「ここで吸ったらいいじゃないか、守護対象に移動されたら困るよ




サトシは苦笑しながらクシャクシャに潰したタバコの箱をピカチュウにみせた。



サトシ「台所に虎の子がワンカートンあるんだ、取ってくる
287 名前:名無し 投稿日:2017/05/30 10:56 ID:LSiXFQD5
支援
288 名前:名無し 投稿日:2017/05/31 21:24 ID:NmOwCqCm
定期的に更新してくれるこのSS好き
支援
289 名前:名無し 投稿日:2017/05/31 23:12 ID:wQHB4JzX

サトシはそう言い残して部屋を出て言った。
一人残されたピカチュウは、腰を下ろして床で眠るヒカリの髪に触れる。
愛おしそうに暫く頭を撫でた後、彼女は小さく呟く様にこう洩らした。



ピカチュウ「ヒカリは変わらないでね……君まで僕らみたいに変わってしまったら……



ビリっとピカチュウの体に電流が流れる。
ヒカリはそれを受けて眠ったままビクリと体を震わした。



ピカチュウ「僕はもっと変わってしまうから……



…………………………

……………


サトシが部屋に戻ると、師匠が欠伸をしながら部屋の中央で胡座をかいていた。
隣には立ったままのピカチュウ、ヒカリはまだ床で眠ったままだ。




サトシ「師匠……試練は?



師匠「もう、終わった。合格じゃ、この小娘はお前より見所があるぞ、サトシ



師匠は眠そうにしながら不敵な笑みを浮かべる。
サトシは無表情のまま、師匠に近寄った。



サトシ「どうしてマサラタウンに居たんですか?ホワイトホールも同時に襲撃を受ける事を想定して貴方に残ってもらったのに……



師匠「まあな……じゃが、こっちの小娘に少し興味があった。あれくらいの規模の襲撃ならホワイトホールの連中で対処できる、ワシは一人寂しく力を行使してこっちに来たわけじゃ




師匠は大きく伸びをしてから再び口を開く。




師匠「ワシはこの小娘が創造主かと疑っておった。なんせ記憶改編は行使できんし、何重にも意識にプロテクトがかかっておったからのう……力を失なったワシに出来るのは精々創造世界を体験させる事くらいじゃった




サトシ「何となくそんな事だろうと思いました……しかし、疑っていた……という事は師匠はヒカリが創造主では無いと確定できたんですか?





師匠「ああ……コヤツは言わば創造主に能力を植え付けられた、カモフラージュじゃ。力が戻るまでに無意識化で活動する創造主が小娘に力を与え、ワシらが疑う事を期待したんじゃろうな……しかし、ククッ……これは大きな進歩じゃ、いや……大きすぎる進歩じゃ!



師匠は堪え切れないという様に笑い始める。
サトシとピカチュウは呆然とそんな彼女を見つめた。
師匠がこんなに感情を露わにするのは初めてだったからだ。
290 名前:名無し 投稿日:2017/05/31 23:43 ID:wQHB4JzX

師匠「ククッ……黙ってクソどもに埋もれていればいいものを……奴はわざわざ痕跡を残したのだ!これほど愉快なモノは無い!




サトシ「創造主は痕跡を残したんですか?まさか、もう奴の場所は特定出来てるんですか!?




サトシが興奮した様に師匠に問いかけると、急に冷めた様に師匠からは笑顔が消えた。
何度目かの欠伸をしたのち、その場に横になって眠る体制を取る。



サトシが戸惑っていると、師匠は目を瞑ったまま口を開いた。




師匠「サトシ、覚悟を決めろ




サトシ「え?……覚悟って……そんなのもう




師匠「小娘に植え付けられた能力はまだ芽吹き始めた新しいモノじゃった……ちょうどここで祝宴が開かれた頃と合致するの




サトシは目を見開いた。
サトシだけでなく、ピカチュウもだ。
師匠の言わんとしている事を瞬時に理解したからだった……その残酷な答えを前に、サトシは胸を締め付けられる様な感情に襲われた。


291 名前:名無し 投稿日:2017/06/01 21:44 ID:zJxGXS3N
まさか、黒幕がそんな身近に居たなんて…
支援支援支援支援支援
292 名前:名無し 投稿日:2017/06/01 23:35 ID:1Q1XTm66

師匠の言っている言葉はつまり、ポケモンマスターとなったサトシ……その彼を歓迎するパーティーの招待客の中に、創造主がいると言っているのと同義だった。



それは即ち、かつての仲間の誰かが創造主であるという事だ。




師匠「……ワシはもう眠る。今回は力を使いすぎた、モンスターボールに入れて最低でも3日は出すな。その間、お前の配下のホワイトホールを使って行動を起こせ……分かっておるの?




サトシ「はい……以前からの計画通り事を進めます




師匠「そうしろ……火を吹いた対外部門は少々予定より早すぎたが……まあ、ワシらに手を出した地方連合国家委員会には痛い目を見せておかねばならん。……ああ、それと、小娘にはタップリと教育を受けさせておけ、アイツは逸材だ





サトシ「予定を繰り上げて、委員会には報復を開始します……あとヒカリの事も……




師匠は満足そうに頷くと、目を瞑って寝息を立て始めた。
サトシは黙ったまま師匠をモンスターボールに入れ、眠ったままのヒカリを両手に持ち上げて抱きかかえる。
ピカチュウはそんなサトシをサポートする様に、廊下へと続く扉を開けて通りやすい様にした。




サトシ「因果なモンだぜ……どんだけ運をもたらす女神から見放されたら気がすむんだろうな?俺たちはよ……
293 名前:名無し 投稿日:2017/06/02 00:19 ID:0nleXU06

ピカチュウ「女神も奴らも創造主も……纏めて相手すればいいだけの話さ。僕らには今、それだけの力がある



サトシが自嘲げに言った後、ピカチュウの方からそう感情の篭っていない返答がなされた。
サトシは苦笑した後、ピカチュウの開けてくれた玄関を抜け外に出る。




そこには……朝日に照らされながら堂々とその姿を見せる、ホワイトホールの一団がいた。
沢山停められた車両の前に、白の戦闘服に身を包んだ人間達だ。
その手には地方連合ではお目にかかれない、自動小銃が握られている。



そんな人間達の一番手前で、サトシ達を待ち受けていた人物が3人いた。
ムサシとコジロウ、ニャースだ。
コジロウは不敵な笑みを浮かべながら口を開いた。



コジロウ「そっちは自分達で片付いたみたいだな……急いで来て損したぜ、ボス



ニャース「曲がりなりにもこの国一二を争う最強の特殊部隊……血と汗と涙の詰まった店は無事、蜂の巣にゃ




サトシはその言葉を受け「へっ、何が無事に蜂の巣だ」と笑ってみせる。
サトシはヒカリを抱きかかえた状態のまま、器用にタバコを加えた。




その様子を見たホワイトホールの人員2名が走ってきて眠っているヒカリを受け取ろうとしたが、サトシはそれを拒否した。



サトシ「いいよ、自分で運ぶ



「「はっ!」」



その2名はそう元気よく答えた後、再び自分達の持ち場に戻っていった。
サトシはピカチュウを見ると、彼女は察した様にサトシの胸ポケットから出したライターに火を灯し、咥えられたタバコに火をつける。




噛みしめる様に煙を吐き出した後、サトシはタバコをペッと地面に吐き出し、自分を見つめる人員達に向かってこう言った。




294 名前:名無し 投稿日:2017/06/03 12:28 ID:TNHHEfjz
無事蜂の巣笑
295 名前:名無し 投稿日:2017/06/03 15:32 ID:UrEEMUY9



サトシ「さてと……お前ら、今までお預けをくらわしてすまなかったな。少し早まったがそろそろ盛大にやってやろうと思うんだ




サトシの発した言葉に大きなどよめきが起こった。
先頭にいる三人も三様に驚きの声を上げる。




コジロウ「まさか……つ、遂に





ニャース「念の為、庭の苗を別の場所に移し替えとって良かったにゃ……




ムサシ「始まるのね……本当の戦いが
296 名前:名無し 投稿日:2017/06/03 23:38 ID:UrEEMUY9

サトシ「正直、俺たちの代のホワイトホールで創造主にたどり着けるとは俺は思ってなかった。だが……初代ホワイトホールであの悪魔を仕留めて英雄になれるんだ。これ程名誉な事はねーだろ?……二千年続いた追いかけっこに終止符を打つ時だ、今度こそ奴の息の根を止めてこの世界に平穏をもたらすぞ!




小銃を掲げてホワイトホールの一団は歓声をあげる。まるで臨んでいた戦争が幕を開けた戦闘狂の外国の兵士達の様に。





その一団を見て、自らも高揚して戦いを求める自分に気がついたサトシは……無意識のうちにヒカリを強く抱きしめていた。
297 名前:名無し 投稿日:2017/06/03 23:46 ID:UrEEMUY9
ポケモンssなのに、ポケモンバトル描写が極端に少なかった為、これからはそういったものも増やしていこうと思います。今のポケモンはあまり詳しくないので、詳しい友人のアドバイスを参考にしながら書いていきます。
298 名前:名無し 投稿日:2017/06/04 05:24 ID:tDx3s3Eh



…………………………

……………


シゲル「トキワの実行部隊は地方連合でも飛び抜けて優秀なんじゃ無かったのか?……まさかしてやられるとはな



カロス地方ミアレシティ、ラティアス空港。
そこに降りたったばかりのシゲルは顔をしかめながら、エントランスの少し先の休憩エリアで携帯を片手に電話をしていた。





シゲル「俺はまだそっちには行けない……ああ、カロスに来る皇子とやらが曲者だ、輸入して来るのが特産品だけでなくテロリストってのもありえる。……全くだ、超大国ってのは意外と脆い。デカければデカい程足元がグラつくもんさ……ああ、そっちは任せたぞ、マオ隊長。もうすぐトキワに着くんだろう?




シゲルは電話を切って前を見据える。
すると丁度エントランスを抜けて、荷物を受け取っていた為に少し遅れていたシトロンとユリーカの兄妹がシゲルの方に向かってきていた。




シゲル「やあ、荷物は無事受け取れたかい?




シゲルの問いにユリーカは全く表情を変えずに答えた。




ユリーカ「貴方はなんで手ぶらなのー?ひょっとしてバカなの?旅を舐めてるの?



シトロン「コラ、ユリーカ!知り合って間もない人に何て不躾な事を言うんですか!



そんな兄妹の掛け合いを受けて、シゲルは余裕の笑みを浮かべながら返答した。




シゲル「ハッ、構わないさ。お嬢さん、よく覚えておくといい。僕クラスともなると必要なモノは現地で揃えるのさ、その方がスマートで楽だろ?
299 名前:名無し 投稿日:2017/06/04 10:55 ID:tDx3s3Eh

ユリーカ「資源とお金の無駄使いだよ、もう少し考えを改めようね



ユリーカはそれだけ言うと欠伸をしながらさっさと自動ドアを抜けて外へと出ていく。
そんな彼女をシトロンはため息を吐きながら、シゲルはポケットに手を突っ込んでそんなシトロンを眺めながらついていった。




シゲル「何時もああなのかい?




シトロン「……すみません、あの子は最近反抗期みたいで……出会う人間に片っ端から牙を剥くんですよ




シゲル「ほー、ソイツは大変だな。でも安心するといい、ジムリーダーシトロン。反抗期なんて子供時代の一瞬の出来事さ。逆に終わってしまえば逆に歯ごたえがなくて寂しくなるようなもんだよ





シトロン「そんなもんですかね?






シトロンはシゲルに泣き笑いの様な表情を見せながら言った。
やれやれ、妹の事で相当参っている様だ……とシゲルは肩をすくめる。
これでは本来の目的の外国との親善試合で力を発揮出来ないのでは無いか……とシゲルが心配していると。
その意図を汲み取ったのかシトロンは心配しないで下さい、と言葉を繋げる。




シトロン「ジムリーダーとして、プライベートの事は表に出しません。僕の全力で皇太子とは対峙させてもらいますよ




シゲル「なるほど、やっぱり若くしてジムリーダー張ってる男はプロ意識が違うな。君の実力は対外部門では既に調査済みだ。まあ、まず負ける事は無いだろうね
300 名前:名無し 投稿日:2017/06/04 11:18 ID:tDx3s3Eh

シトロン「……シゲルさんは、なんで対外部門とかいう組織に入ったんですか?




シゲル「おや、唐突だな。どうしてそう思ったんだい?





二人は会話しながら、空港を出て歩いていると。
既にタクシーの助手席に乗って寝息を立て、運転手を困らせているユリーカを見つけた。
そのタクシーに近づいていくと、運転手が安心した様に声をかけてくる。




運転手「お嬢さんのお連れさんですか!?




シトロン「……そうです、ご迷惑おかけしてすいません




運転手「いやいや謝っていただかなくてもいいですよ。それよりこのお嬢さんは凄い肝っ玉ですね、タクシーを止めるなり『連れが来るからちょっと待って』と言って勝手に乗り込んで数秒で寝息を立て始めたんですから……いやぁ〜この豪胆さを家の娘にも見習わせたいです




運転手はそんな事を言いながらシトロンの荷物を受け取って二人を後部座席に乗る様に促した。
二人は乗車すると行き先を告げ、会話を再開する。




シゲル「さっきの話の続きを話そうか……僕がなんで対外部門に入ったか……だったよね?




シトロン「は、はい。昔はポケモン研究をしてたって聞いていたので




シゲル「うーん、そうだな。大した理由はあんまり覚えてないんだけど、確かな理由が一個だけあったな……





シトロン「それは一体?




シゲル「サートシ君が原因かな




シゲル「サトシですか!?
301 名前:名無し 投稿日:2017/06/04 12:28 ID:u0XwRQHv
そろそろ、大詰めかな?支援
302 名前:名無し 投稿日:2017/06/04 12:42 ID:tDx3s3Eh

シゲル「サトシ君とはずっとライバル関係だったんだ。最初は僕もポケモンマスターを目指していてね、彼なんかよりずっと強かった。だけどね……ある時気付いてしまったんだ。僕みたいな中途半端な人間は強さに限界がある。頭で考えている分、分かってしまうんだ。これ以上僕は強くなれないってね





シトロン「……




シゲル「でも奴は違った。ガムシャラにガムシャラにただ前だけ向いて突っ走って。最終的には大会では僕を打ち負かしてみせた。ポケモンの練度も技もパワーも計算上ではこちらが断然上の筈なのにさ……お笑いだよ。その時悟ったんだ、ポケモンマスターになるのはこういう計算とか科学を超越したバカだってね。彼がポケモンマスターになった時、僕はそんなに驚ろいてないよ。ああ、もうなりやがったのか?くらいなもんさ





シトロン「サトシは……




シゲル「うん?




シトロン「天才なんでしょうか?




シゲル「違うな……そんなものじゃ表せない、超越した何かだろうね。バケモノだよ。僕はそんなバケモノからこの地方連合を守る為に対外部門になったんだよ




シトロン「えっ?……それってどういう?




シゲル「どういう意味だと思う?




逆に聞き返してきたシゲルの表情は穏やかで、そして何処と無く楽しげであった。




……………………………

………………
303 名前:名無し 投稿日:2017/06/04 13:05 ID:tDx3s3Eh

トキワ警察署、公安事務室。
埃の被ったブラインドからは朝日が差し込み、穏やかな空気間が室内には満ちていた。
そこへスカーフを口に巻き、ホウキを携えたセレナが険しい顔で現れる。



彼女は無言のままブラインドに溜まったホコリを拭き取り、黙々と掃除を始めた。
窓を開け、掃除機をかける。



開始1時間ほどで部屋は見違える様に綺麗になっていた。
そろそろ掃除用具を片付けようか、と考えていたセレナの思考に甲高い女性の声が聞こえてきた。




マオ「スイレンいるー?あれ、見知らぬ顔だー新人さんかなぁ?




何処と無く楽しげでセレナはついていけなさそうなテンションの女性。
セレナは憮然とした態度でその女性の前に立った。




セレナ「何処の課の人ですか?スイレン部長はまだ出勤されていません、それにここは公安の人間しか入れませんので一度お引き取り願います




マオ「いいじゃん、いいじゃん。硬いこと言いっこ無しだよー。どうせ大事な資料は全部パソコンでしょ?机漁ったりなんかしないから、そこのソファーに座ってスイレンを待つくらい融通きかしてよー




セレナ「……一旦廊下に出てもらってもいいですか?



マオ「どうして?




セレナ「一旦、掃除用具を片付けてくるので……それまで廊下で待っていて下さい




マオはニヤニヤしながら「しょーがないなー」と素直に廊下へとでる。
セレナは無言のまま掃除機やらバケツやらを廊下に出すと事務室の鍵を閉めた。
その行動にマオは思わず吹き出す。




マオ「プッそこまでするの?新人さんなのにすんごい抜け目ないねー君




セレナ「……情報保全上の義務です
304 名前:名無し 投稿日:2017/06/04 13:20 ID:tDx3s3Eh


セレナは掃除用具を片付け、手を洗ってニヤニヤとしながらマオが待つ事務室の鍵を開けた。



セレナ「……どうぞ




マオ「失礼しまーす



マオがソファーに座って……いや、寝転んでくつろぎ始める。
セレナはそろそろ沸騰したであろう電気ポットでコーヒーを作り、ミルクと砂糖をつけてマオに差し出した。
それを見たマオは楽しそうにニヤつきながら、セレナに向かって口を開く。




マオ「私お子様だからミルクと砂糖一個じゃ足りないんだー、余ってたら欲しいなー




セレナ「……少々お待ちください




セレナは電気ポットの置いてある戸棚からミルクと砂糖を取ってきた。
念のため籠に入ったままのミルクと砂糖をゴッソリ出す。
マオはこれ以上ない程に機嫌良さげにミルクを三つもコーヒーにぶち込んでいた。



マオ「ありがとーセレナさん、気がきくんだねー。スイレンが枠をぶち曲げてでも君を欲しがった理由が分かる気がするよー
305 名前:名無し 投稿日:2017/06/04 13:43 ID:tDx3s3Eh

セレナ「私の名前……知ってるんじゃないですか



マオ「知ってるよー、スイレンとバチバチで取り合った仲だもん。やっぱり無理やりでも取っとくべきだったなー。貴女、生真面目で可愛いからすんごい面白い。気も使えるしね、知ってる?最近の若者はコーヒーの入れ方も知らないんだよ。気も使えない癖にいっちょまえに仕事は寄越せとか言ってくるし、もー最悪




マオはそんな事を言いながら今度は砂糖を三つコーヒーにぶち込んでいた。
そんな彼女にセレナは賭けに出るようにある名前を口に出した。




セレナ「マオさんは……何処の課の人でしょうか?




セレナの言葉にマオは思わず動きを止める。
マオはこれ以上ない程に嬉しそうに口を開いた。




マオ「君も知ってるじゃん私をー。まあ、これでおあいこだね〜、どうして私を知ってるの?まさかあのめんどくさがりのスイレンから聞いてたとか?




セレナ「まあ、そんな所です




マオ「へーあのスイレンも部下が出来て進歩したって事かな、なら話が早いねー




セレナは内心、当たっていて良かったと喜んでいた。スイレン同様、サトシが見せてくれた集合写真の中央辺りにいたグリーンの髪の少女とよく似ていたのだ。




スイレンの場合は特徴のある髪飾りをしていたので確信できたが、マオは特徴がグリーンの髪くらいだった為に確信が持てなかったのだ。
306 名前:名無し 投稿日:2017/06/05 13:14 ID:QPOJddiR
支援
307 名前:名無し 投稿日:2017/06/05 17:29 ID:5gTamkVk
名探偵セレナ現るw
支援
308 名前:名無し 投稿日:2017/06/05 23:18 ID:S6X2Auas


マオ「どう、今からでも対外部門に入る気は無い?貴女はジュンサー教育でも接近戦は大の得意だったんでしょ?私、直属の実行部隊でも普通にやってけるよ!給料も弾むしさ〜




マオが太陽の様な笑顔を浮かべながらセレナに提案してきた。
セレナはやはりマオは対外部門の人間だったか……と内心納得する。
彼女の言っていたセレナを取り合ったという言葉を受けて、薄々そうでは無いかと勘づいていたのだ。





スイレン「ちょっと、暫く出張して帰ってきたと思えば部下の引き抜きって非常識じゃないの?サトシにしてやられた落ち目の対外部門なんかにウチの子は出せないよ




セレナが沈黙を保っていると、事務所の入り口からバッグを携えて出勤してきたスイレンが現れた。
マオはそれを見て嬉しそうにソファーから身を乗り出す。





マオ「機材も人員も揃っていない、落ち目どころか落ちる所がない公安よりはマシだと思うけどね〜





スイレン「あー、ヤダヤダ。言うに事欠いて天下の対外部門様が公安なんかの悪口を言いだしたよ。これはトキワ警察も終焉が近いのかな?
309 名前:名無し 投稿日:2017/06/05 23:37 ID:S6X2Auas

スイレンはそんな事を言いながらバッグを自分の席に置いて、パソコンを起動する。
セレナはコーヒーを作って彼女の前に差し出した。



スイレンはニッコリと微笑んでそれを受け取ると、フーフーッと冷ましながら口をつける。
彼女は昨夜セレナがコーヒーを淹れた時にブラックを所望した為、ミルクと砂糖は無しだ。





スイレン「で、何しに来たの?トキワの特殊部隊はほぼ全滅したんじゃないの?実行部隊を指揮する貴女が来ても手駒がいないんじゃ話にならないでしょ




マオ「そうなんだよー、無能な部下が指揮した優秀な兵士達がサトシの所に行ったまま行方不明でさーもう参っちゃって




コーヒーを一口飲んで一息ついたスイレンのそんな言葉に、マオは事も楽しげに話しだした。
セレナはそれを奇妙に思いつつ、彼女達の繰り広げる会話に耳を傾ける。
どうやら話の内容的にマオは対外部門の特殊部隊の指揮を担当している様だった。





マオ「しかもサトシ達の対抗組織が諸外国の自動小銃まで持ち出してさー。サトシ達もそれを持ってるみたいだし、こりゃいよいよ私直属の対人部隊を引き連れてトキワに上陸したんだよー




自動小銃?対人部隊?と聞きなれない単語にセレナは疑問を浮かべる。
そんな彼女を察したのか、マオは満面の笑みで。




マオ「自動小銃は人を殺す道具だよー。対人部隊は私の指揮するそんな道具を持った人間達を制圧する部隊なの




そんな事を躊躇いも無く口にした。
310 名前:名無し 投稿日:2017/06/06 00:12 ID:Cwg9jo5d

スイレン「どうでもいいけどさ……何が言いたいの?




スイレンの言葉にマオは再び淀みの無い笑顔を作った。
セレナは段々とその笑顔に恐怖を覚えていた。




マオ「分かってるくせに……私の部下でインテリジェンスが出来るのが今トキワにいないんだよー。居るのは連れて来たバチバチの戦闘員ばっかり、そんな訳でスイレンー





スイレン「私らに手駒になれって?言っとくけど私らもそんなに暇じゃ無いから




マオ「水臭い事言わないでよー。貴女も常日頃から言ってたじゃない、対外部門だろうが公安だろうが解決するのは警察だってさ……ほら、対外部門の捜査資料を拝借しているのは黙っててあげるから





スイレンはため息をついた後、パソコンをゆっくりと閉じた。
コーヒーを持ってマオの寝転ぶソファーの対面へと座る。




スイレン「どうせ私達に例の発電所の件で動かしたいんでしょ?そんなに対外部門は首が回らない状況なの?




マオ「委員会のバカがサトシに手を出したせいでねー。パックリと口を開けた怪獣の口にそのまま部下を差し向けた様なもんだよ。話題の国際交流で皇太子が来る件で対外部門はテロ対策にてんやわんやだし、私が此処に対人部隊を引き連れて来るのも上層部からかなり止められたんだー





スイレン「ふーん……まあいいよ。だけでコレはかなり大きい貸しになるよ?





マオ「もう、無粋だなスイレンは。スクールの同級生のよしみでなんとかしてくれてもいいじゃん




スイレンはその言葉には答えずにコーヒーをくちにする。
その様子を見たマオは笑いながら「分かったよもー」と寝転んでいたソファーから立ち上がった。
311 名前:名無し 投稿日:2017/06/06 00:27 ID:Cwg9jo5d

マオ「じゃあ発電所の件は任したよースイレン。新人のセレナさんの活躍も期待してるから!




マオはそんな事を言いながら親指を突き立てる。
そして事務所を後にしようとして、何かを思い出した様に振り返るとセレナに近寄り、その耳元でこんな事を囁いた。




マオ「発電所でもしサトシに会ったら……またキスしようねって伝えといてくれるかな?




セレナ「えっ!?




マオ「フフッじゃあね




マオはそれだけ言い残して事務所を後にした。
セレナが思いっきり顔をしかめて沈黙していると、スイレンが気だるそうに顔を向けて口を開く。




スイレン「……最後なんて言ってた?




セレナ「……さ、サトシにまた会えたらキスしようねって伝えてくれと……




スイレン「はあ、あのバカは……地味な対抗心を燃やしちゃってさ



スイレンは頭を抱えながらそう呟いた。
そんな彼女が「おかわり頂戴」と空になったコーヒーカップをセレナに差し出すと、明らかに動揺した様子のセレナが新たなコーヒーを注ぎながら口を開いた。



セレナ「そ、そう言えばスイレン部長もサトシと恋人だった事があると言いましたよね!スイレン部長とマオっていう人はサトシとどういう関係なんですか!?





スイレン「あー……まあ、幼き日の淡い思い出とでも言っとこうか
312 名前:名無し 投稿日:2017/06/06 00:44 ID:Cwg9jo5d

セレナ「全然分かんないんです!もっとちゃんと説明して下さい!



セレナが金切声をあげる様に訴えると、スイレンは頭を抱えながら宥める様な口調で言った。



スイレン「……それは事件を解決してからでいいんじゃない?それよりさ、さっきの会話で疑問点があるなら答えるよ。これから初めての実戦的な業務に移行するから




セレナ「……分かりましたよ、じゃあ発電所がどうのこうの言ってたじゃないですか。発電所の件ってなんですか?





スイレン「そうだねー、まずはそれから言おうか。ちょっとこれを見てくれる?




スイレンはそう言うと机のパソコンを起動してカントーが映された地図を見せて来た。
その地図には赤い色に塗られた地域と青い色に塗られた地域が存在していた。
全体的に青い色に塗られた地域の方が多かった。





セレナ「これはもしかして……勢力図ですか?




スイレン「さすがジュンサースクールを主席で卒業する人間は違うね。その通り、サトシのいる組織、ホワイトホールが支配する地域と対抗組織の楽園協議会が支配する地域の分布図さ。青い色がホワイトホールで赤が楽園協議会




セレナ「楽園協議会?




セレナが尋ねるとスイレンは真面目な顔で頷いた。
313 名前:名無し 投稿日:2017/06/06 15:29 ID:cirdhjVg
今更ながらホワイトホールに笑った笑
314 名前:名無し 投稿日:2017/06/06 18:22 ID:NOH2hBOU
自分でも薄々ダセェかな……て思ってたんですけど。やっぱりダサイですねw
315 名前:名無し 投稿日:2017/06/06 23:57 ID:ATnArGyM


スイレン「楽園協議会はサトシ達の組織に唯一対抗できうる力を持つ勢力だ。狂信的で自分らの行う行為は全て神の代弁とか言って無茶苦茶する連中さ。奴らを取り調べすると決まって『悪の手から創造主を救う』とか何とか言ってさ、話にならないカルト集団だよ




セレナ「……創造主、ですか?




スイレン「うん、創造主とかいう独自の神を信じてるんだって。そいつらが言うには今の世界を形造ったのは創造主らしいよ。ポケモンも森もここではない異世界なんかも……なんてね、バカ過ぎて話にならない。それを実際に見ても無いのによく信じられるよ。これだから宗教は嫌いなんだ……っと、話が逸れたね。発電所の話をしよう




スイレンはそう言った後、パソコンをカタカタと操作してある施設の画面を表示した。
それは地熱で発電する最近できた最新の巨大な発電所だ。




そこには赤色の迷彩服を着たプラズマガンの様な武器を持った兵士達が闊歩していた。




スイレン「決して彼らが警備しているわけじゃ無いよ。その逆、昨日の夜にサトシと対外部門がやり合ってる間にまんまと発電所を楽園協議会の戦闘員に占拠されたのさ。それを奪還出来るのは現状トキワにはマオの指揮する対人部隊しかいない





セレナ「……マオさんは発電所の件は宜しくとか言ってましたけど、まさか




スイレン「察しがいいね、潜り込むんだよ。この発電所に……敵の人数、規模、兵站から指揮する人間まで、取れる情報は取れるだけ手に入れる。まあ、要するに偵察だね。それらの得た情報をマオの対人部隊に知らせて恩を売るのが今回の主任務だよ




セレナ「恩を売るのが主任務って……警察とは思えない言葉ですよ、スイレン部長。大体、そんなバチバチに敵の包囲網が固められた発電所に誰を送るんですか?




スイレンは目をパチクリさせた後、何言っているんだお前はという表情を浮かべた。
316 名前:名無し 投稿日:2017/06/07 14:40 ID:8UCkaSC0
まあ、ホワイトホールは随分長い事ロケット団の決めゼリフ?でしたし良いんじゃないですか?笑
確か他の有名SSは○ボリュー○ョンとかありましたし笑
317 名前:名無し 投稿日:2017/06/07 22:59 ID:nRtaRzD5

スイレン「君が一番適任じゃん、ジュンサースクールでは格闘も武器を使った戦闘技術もトップだったんでしょ?



その言葉にセレナは信じられない、と驚愕の表情を浮かべた。
直ぐに抗議する様に口を開く。




セレナ「私は着任してから2日しか経ってないんですよ!?そんな人間に重大な任務を任すんですか!?



スイレン「同期とは比べ物にならない程の修羅の道だね。でもよく考えてごらん?交通課に行ってジュンサーライフを満喫している温室っ子なんかには味わえない様な経験値を稼ぐ事が出来るんだよ?若い内からしか出来ないんだからさ、ちょっと頑張ってみようよ
318 名前:名無し 投稿日:2017/06/07 23:34 ID:nRtaRzD5



セレナ「何が若いウチからしか出来ないですか!スイレン部長だって見るからに若いじゃないですか!




スイレン「へー、幾つに見える?




突然そんな話題を切り出したスイレンにセレナは呆気にとられながらも、暫く考えてから答えた。




セレナ「十……九。十九歳くらいですか?




スイレン「わー、年上に見られたのは初めてだよ。新鮮な驚きだね。因みにセレナ捜査官とはタメだよ




セレナ「同い年ですか!?てっきり公安の部長なんて役職についてるから結構上かと……




スイレン「成る程ねー、まあ君の考えることも最もだね。じゃあそろそろ行こうか




セレナ「えっ何処へですか?




スイレン「発電所だよ?時間がないから急ごっか




セレナ「……




暫く、公安事務室に沈黙が支配した。




………………………

…………
319 名前:名無し 投稿日:2017/06/08 00:44 ID:uIpQtAnR


サトシは突然、ガタンと脳を揺さぶる強烈な揺れによって目を覚ました。
何が起こったか分からず、寝ぼけた頭を振りながら辺りを見回して、やっと自分の置かれた状況を思い出した。




サトシは今、白い戦闘服に身を包んだ男達数名と爆走するホワイトホールの改造車両の後部座席に居た。後ろにも連なってムサシ達の乗る車両がピッチリと間隔をあけてついてきている。




サトシ「そういやホワイトホールの一団と合流して車に乗って中継地点まで移動しているんだったな……おい、目的地まで後どれくらいだ?




サトシが隣にいた隊員に尋ねると、その隊員は背筋をピッと伸ばしてハキハキとした口調で返答する。




隊員「ハイ、3分もあれば到着するかと




サトシ「直ぐじゃねーか。どれどれ……




サトシが車両の窓から外を確認すると、車両は険しい山道を抜け、若干森の拓けた場所に位置する広場に到着していた。



其処には大小様々なテントが立ち並び、国外からでも通信可能な中型アンテナまで設置されている。
警備に当たっていたであろう数名の戦闘員に車両達は出迎えられて、その広場の中心近くで動きを止めた。
320 名前:名無し 投稿日:2017/06/08 15:25 ID:qM3rUXlp
ワクワクしてきたなw
支援
321 名前:医者の卵◆.q62eSB98M 投稿日:2017/06/08 23:18 ID:k2itb8YO
すみません、
ポケモン 「サトシとセレナのその後」という全然話が進まないssのライターを交代しました、新ライターの医者の卵といいます。

読み応えある作品にしようと思っているので、一回読みにきてください。

話を大幅に軌道修正したので、前よりはいい感じに仕上がってると思います。

レス451〜を読んでみてください。そこまでのあらすじは書いてあるので大丈夫です、読めるようになってるので、というか450もレスがあったのに全然話進んでませんでしたし。

こういう番宣的なレスは良くないと自覚はしていますが、読んでもらえないとssとしての存在価値がないので……


スレ主さん、このss、世界観がすごく素敵で大好きです!
これからも応援してるので、無理せず頑張ってください。
支援!!!支援!!!
322 名前:名無し 投稿日:2017/06/09 17:11 ID:aN2buYTR
あ、この人イッチさんの所にも居た…
スレ数減るから出来ればやめて欲しい…
主さん支援!
323 名前:名無し 投稿日:2017/06/10 10:33 ID:qleETL9F
続きが気になる
支援!
324 名前:名無し 投稿日:2017/06/11 10:44 ID:RSDMpmUg

出迎えられた戦闘員によって、サトシ達の乗っていた車両のドアが開けられる。
サトシは広場に降り立つと、一番近くにいた戦闘員に声をかけた。




サトシ「CPは何処に形成した?




戦闘員「指揮所なら目の前の大型テントです。ポケモンを使って一メートル地面を掘り下げ、更に土嚢を積んで防弾処理も施してあります




サトシ「グッドだ、教えた通りのいい仕事してるぜ




戦闘員「ありがとうございます!
325 名前:名無し 投稿日:2017/06/11 17:14 ID:YOyzw166
CPってキャンプの事ですか?
支援!
326 名前:名無し 投稿日:2017/06/11 17:18 ID:YOyzw166
すいません、過去スレ見てて思ったんですが、YouTubeにOPとED付きの上げったってやつなんて検索したら出てきますか?
327 名前:名無し 投稿日:2017/06/11 20:02 ID:RSDMpmUg
すみません、返答遅れました。
CPはコマンド・ポストと言って軍隊で言う指揮所の事です。
あと、ユーチューブの件なんですが……携帯一本で作成した為にあまり出来が良くありません。
題名は一応ポケットモンスターレイドって名前で出してるんですが、クオリティーはあまり高くないのでオススメできません。お試しで試験的に作ったモノなので。
また夜中にこの話は大分書き進めようと思います、皆さん継続的な支援ありがとうございます。
328 名前:名無し 投稿日:2017/06/12 02:39 ID:O5bDvwWg


サトシ「さて……幹部を全員指揮所に集めさせろ。あと、俺の乗っていた車両の後ろの車両に昏睡状態の女性が乗っている。丁重に空いているテントに運び込め




ムサシ「その必要は無いわ……



後方からムサシの声が聞こえてきた。
サトシは振り返って何故か尋ねようとすると、その前にムサシが顎をしゃくって自分の背後にいる人間を指す。
そこにいたのは……眠りから覚めたのか、太陽のような笑顔を浮かべていたヒカリの姿だった。





ヒカリ「ただいま……サトシ




サトシ「……おかえり




その太陽の様な笑顔を見て、心底安心した様にサトシは微笑む。
更に後方の車両に乗っていたピカチュウは、そんなヒカリに気が付くなり、走って彼女に近づいて抱きついていた。




………………………………

………………


サトシ「さて、幹部一同指揮所に集まってくれたな。これから始まる楽園協議会の発電所占拠の対抗措置の議題の前に、一人紹介しておきたい人物がいる。ムサシ、コジロウ、ニャースは既に知っていると思うが……元俺の旅仲間のヒカリというルーキーだ。彼女は何を隠そうあの師匠からの推薦で入った期待の新人だ、分からない事があれば色々教えてやってくれ




ホワイトホール所有のCP用大型テント内で、元ロケット団の3人以外からの幹部連中に大きなどよめきが起こった。
幹部は全員で7名、その中でもムサシ、コジロウ、ニャースは勿論ホワイトホールの幹部である。
幹部は発足時よりサトシの側近にいた歴戦の戦闘員であり、経験してきた修羅場もノウハウも一般隊員より段違いである。



その幹部があから様にサトシのヒカリの紹介で驚きを露わにしていた。



それも無理はない。
師匠という能力者に鍛えられて成長し、ポケモンマスターとまでになったサトシ自らが発足したホワイトホール。
そのサトシの師匠からの推薦となると、その意味合いも格別である。




師匠という少女は滅多にホワイトホールのメンバーの前に姿は見せないが、時折表れて姿を見せている時のオーラと殺気。
そして奇跡とまで表現できる、数々のエスパータイプの様な技と一般人を超越した知能と知識。
それらを併せ持つ超人の琴線に触れる人間は今までホワイトホールには存在しなかったからだ。
329 名前:名無し 投稿日:2017/06/12 16:45 ID:O5bDvwWg


サトシに紹介されたヒカリは慌てて立ち上がり、幹部一同に頭を下げる。
その垢抜けていない動作を見た幹部達は尚更驚きを隠せない様にサトシの次の言葉を待った。



サトシ「ヒカリ、座ってくれ。さて、紹介も終わった所で本題に入ろうか……以前から楽園協議会による発電所襲撃のネタを掴んでいた俺たちは、それを阻止する為にこの中継地点を形成していた訳だが……その前に予定より早く対外部門に襲撃され、まんまと発電所への襲撃を許してしまった訳だ。幾ら何でもコレはタイミングが良過ぎる。これらの特性を踏まえた上で……一体どんな事が予想される?



サトシの質問に若い女性の幹部がゆっくりと手を挙げた。
サトシは目で説明してみろと合図を送る。



幹部「対外部門に楽園協議会のスパイがいる……そういう事でしょうか?



その女性幹部の言葉に反論する様にコジロウが口を挟んだ。



コジロウ「違うな……恐らくもっと上の存在だ。対外部門は地方連合委員会の忠実な手足となる存在、独自の捜査で機密漏えいを防ぐ為に上層部にまで情報を渡さない公安を縮小させたのも委員会上層部の人間だ



追随する様にムサシも口を開く。
その表情はいつにも無く険しい。



ムサシ「つまり対外部門は委員会上層部の傀儡だから公安を押しのけて巨大組織になったのよ?裏で手を引いているのは対外部門の人間では無く、その上層部よ
330 名前:名無し 投稿日:2017/06/12 17:12 ID:O5bDvwWg



サトシは満足げに頷いてそれに同意を示した。



サトシ「その通り、これで委員会上層部にも楽園協議会の息のかかった人間がいると証明されたな。お前たちにはこれからその人間達の捜査と排除を主任務としてもらいたい



幹部「質問よろしいでしょうか?



今度は髭を生やした壮年の幹部が質問した。



サトシ「何だ?



幹部「この中継地点に戦闘員を集めたのは発電所を奪還する為では無いのですか?これから私達の主任務が捜査活動になるのは……多少ながら理解に苦しみます



幹部一同もその壮年幹部の言った言葉に納得する様に頷いた。
サトシは又もや満足気に頷いた後、説明を始める。



サトシ「最もな意見だ……だが心配するな。発電所の奪還に関しては……俺とヒカリだけでいい。ヒカリの教育も兼ねて現代の実践的な戦い方を教えておきたいんだ
331 名前:名無し 投稿日:2017/06/12 21:05 ID:CrH8R1vo
CPについて質問したものです。
詳しい説明ありがとうございました!
勧められない動画…笑
時間があったら見てみたいと思います。
これからも更新頑張って下さい!
支援!!
332 名前:名無し 投稿日:2017/06/13 01:22 ID:DplhUyk4


サトシの発電所奪還はヒカリと自分だけでいい、という彼の言葉に、等の本人であるヒカリは驚きを隠せなかった。




それもその筈。
ヒカリが見る限り机の上に並べられた資料には、試練でその凶悪性を思いしらされた自動小銃という兵器を持つ敵がダース単位で発電所に潜伏しているそうだ。




幾らポケモンマスターの称号を持つサトシでも無理があるとヒカリは思考に至る。
だが、サトシの言葉を聞いた幹部連中はアッサリと納得した様に首をコクコクと縦に振っていた。



壮年幹部「なるほど……教育を兼ねた軍団バトルでボス自らが発電所に行かれる訳ですか。それなら確実ですが……




サトシ「大将自らが出陣するのは良く無いってか?
サイラス、お前の言いたいことも分かるが俺たちホワイトホールの持ち味は何だ?と尋ねたい。さっきもボスである俺に対してお前は遠慮なく発言していただろう、俺がそういう風に教育したからだ。俺の言いたいことは分かるか?




どうやら壮年の幹部はサイラスという名前の様だった。
サイラスは申し訳なさそうにサトシに対して口を開いた。




サイラス「……幹部、ボス、関係なく作戦遂行の為には総動員で知恵を絞り、持てる力を行使し、尽力を尽くすべきである……という事でございますね?
333 名前:名無し 投稿日:2017/06/14 01:15 ID:2h0LYg9G


サトシ「そうだ、ホワイトホールに教科書があるなら満点解答だサイラス。さて、他に質問がある者はいるか?……いない様だな、では早速準備にかかってくれ。我らは己が力を持って勝利を




「「「勝利を」」」




幹部一同は席を立ってさっさとテントから出て行く。
その光景を目の当たりにしたヒカリは信じられない様にポカンと口を開けていた。




サトシ「……どうした、何か聞きたい事でも?



サトシが尋ねるとヒカリはブンブンと手を振りながら否定しようとするが、全てを見透かしたような穏やかな表情を垣間見せる彼に対し、ヒカリは観念した様に思った事を口に述べた。




ヒカリ「……あんなに重要そうな会議なのにもう終わりなの?それに話してた発電所を私達だけで対処するってのは……
334 名前:名無し 投稿日:2017/06/15 00:24 ID:JL1QP7DO


サトシ「心配するな、俺達が対外部門の特殊部隊を難なく撃退するのを見てただろう?アイツらは曲がりなりにもこの国で唯一実践的な戦闘を主目的とした精鋭だ、今発電所を占拠しているテロリスト共の方が数段劣る。俺は……いや、俺たちはこれから起こる戦闘を只の教育を兼ねた肩慣らし程度にしか考えてない





ヒカリ「肩慣らし……




サトシはタバコを咥えて火をつけた後、ヒカリにテントの外に出るように首を振って合図する。
戸惑いながらも素直にヒカリはテントから出る。
すると其処には……軽量だが耐久性も優れているのが一目で分かる、堅牢そうな見た事ないタイプのバイクがテントの目の前に置いてあった。




サトシ「二人乗りはした事あるか?




後から出てきたサトシが、タバコを咥えたままそのバイクにまたがる。
ヒカリは直ぐに首を横に振った。




ヒカリ「無いわ……ライドタイプのポケモンなら乗った事あるけど




サトシ「なら大丈夫。それより簡単、またがって俺にしっかり掴まるだけだ。足をタイヤに挟まれないように気をつけてくれ




サトシがバイクのエンジンボタンを押してアクセルを吹かし、音を鳴らす。
クラッチを掴みながらガコガコと足を動かし、ニュートラルからローギアへとギアチェンジをすると、スタンドを乱暴に足で払った。
サトシは自分の後ろを親指で指してヒカリに乗るように促した。



ヒカリは促されるまま後ろに乗ってサトシの背中にがっしりと掴まる。
それでも落ち付いているように見えたサトシに、ヒカリは恐る恐る質問した。




ヒカリ「ねぇ、こんな時に聞くのも何なんだけど……今は女の子平気になったの?




サトシ「あっ……




突如思い出したかの様にサトシの体が強張る。
発進しようとしたバイクは、サトシのクラッチミスによりプスンッ音を立ててエンストした。




…………………………

………………
335 名前:名無し 投稿日:2017/06/15 17:26 ID:aO1vrOXZ
サトシ…笑おんにゃのこダメなのね笑
336 名前:名無し 投稿日:2017/06/18 02:03 ID:HtAEqXUn

トキワ郊外の森林地帯、そこには最近建設された発電所へと続く道が三つほど存在する。
そこはいずれも、青と赤の蛍光ランプが数え切れないほど点灯し、慌ただしくトキワ警察の人間達が無線を鳴らしていた。




警察官「あー、現在発電所へと続くエリアを全て封鎖し、テロリスト集団を警戒中である。しかし、近隣には死体となったガードマンポケモンの姿があり、テロリストの凶悪性と強力な火器を有している事が………



警察官「応援は来れないだと!?対外部門はどうした!?



無線機に怒鳴り声を上げる警察官たち。
その様子を見ていた指揮官らしき警察官が半ば諦めた様に詰め寄ってくる部下に対し口を開いていた。



指揮官「ダメだ……本部に何を言ってもラチがあかない。ここは封鎖措置を取って対外部門を待つしか……



警察官「しかし、このままでは被害が拡大します!トキワ近郊のポケモンを殺されたんですよ!?あんな残虐非道なテロリスト達に好き勝手やられたらトキワ警察の名が廃ります!




警察官「行かせて下さい!小型のプラズマガンが何丁かあります!
337 名前:名無し 投稿日:2017/06/18 16:49 ID:j9ShkGYK
続きはよ
338 名前:名無し 投稿日:2017/06/18 20:01 ID:B6jxzAyV


スイレン「やあやあ、思った以上に賑やかだね。お仕事しに来たよ、貴方が指揮官のマークス?



部下に詰めよられ、困惑顔の指揮官が部下の後方から聞こえた高い声に視線を向けた。
詰め寄っていた警察官達も声の主を確かめる為に顔を向ける。



そこには……まだ幼さの残る少女二人が大型のプラズマガンを持って立っていた。
トキワ警察の職員ですら拳銃型のプラズマガンの所持しか許されてない。



警察官「な、何だ!ここは子供の来るところじゃないぞ!



スイレン「はい、公安でーす。ほら、その証明証




感情的に声を荒らげる警察官に対し、それをいなす様にスイレンは公安職員を証明するカードを見せた。
それを見て驚愕を隠せずに動きを止めた部下を押しのけ、指揮官である男が彼女達の前に立つ。

339 名前:名無し 投稿日:2017/06/18 20:56 ID:B6jxzAyV


マークス指揮官「どうやら証明証は本物の様だ……公安トキワ支部のスイレン……部長!?警視監ですか!?これは失礼を致しました!



スイレン「いいよ、別にそういうのは。所で……発電所の侵入ルートを突破した民間人はいなかった?




マークス指揮官「民間人……ですか?他のルートを封鎖している地域とも連絡を取っていますが……誰も通してはいない筈です



スイレン「空はどうなってる?



マークス指揮官「24時間体制でポケモンを使って巡回しています。抜かりはありません
340 名前:名無し 投稿日:2017/06/19 01:50 ID:TGbu6Rh5

スイレン「じゃあ多分来るのは……



警察官「なんだ!?突っ込んでくるぞ!?



スイレンが次の言葉を吐こうとした瞬間、アクセルを全開にして突っ込んでくるバイクのエンジン音が聞こえた。それは警察の行なっている検問をすり抜け、封鎖しているパトカーを踏み台にして空中を舞う。



スイレン「……やっぱり陸からかな



二人乗りをした中型バイクだった。
二人ともフルフェイスのヘルメットをかぶり、表情は伺えない。
しかしバイクで大ジャンプをかましたバイクのドライバーは少しばかり顔を傾け、スイレンと視線を交錯させた。



相手はフルフェイスだが、スイレンは確実に目があった事を確信して微笑を浮かべる。
見事に着地を決めたバイクはそのまま何事もなかったかの様に山道を走って、発電所のある方向へと向かっていった。




警察官「な!?追いかけろ!?




スイレン「その必要は無いよ、彼らはテロリストを排除する方の人間だ




バイクを追いかけようとした警察官をスイレンが止める。
すると指揮官である男が顔を輝かせながらスイレンに質問した。



マークス指揮官「彼らが本部からの応援でしょうか!?


スイレン「まあ……違うけど、そんな感じの捉え方でいいよ。今の所はね



スイレンはそう言うと茶目っ気たっぷりに微笑んだ。
341 名前:名無し 投稿日:2017/06/20 19:12 ID:0CG0nbiB
メガ支援
342 名前:名無し 投稿日:2017/06/21 19:01 ID:oMVzvKhn
最近メガ支援流行ってんのかな?w
ここはウルトラ支援だろ?ww
343 名前:名無し 投稿日:2017/06/21 23:35 ID:c785o4EG



……………………………

……………

サトシ「今のは……スイレン?公安も動いてやがるのか……そんで一緒に居たのは……まさかな



ヒカリ「え!?何か言った!?



サトシ「なんでもない!それよりちょっと険しい道に入るぞ、しっかり掴まってろ!



サトシはそう叫んだ後、発電所の道を脇に逸れて野山を駆け上っていく。
ヒカリは尋常じゃ無い揺れと、襲いかかってくる様に体を引っ掻く枝を受けて、「どこがちょっと険しい道!?」と呟いていた。




……………………………

………………


??「来た……奴らだ



薄暗い新型発電所の中央制御室。
その闇に溶け込む様に黒いフード付きのマントに身を包んだ少女がつぶやく様に言った。



立ち並んでいるパソコン、それに座って監視カメラの映像を確かめていた楽園協議会のメンバー達は少女の言葉に反応し、次々と定点カメラを切り替えて映像を確認するが、侵入者の姿は見えなかった。




?「誰が来たって?カメラに反応はないけど、まさか対外部門の対人部隊じゃないでしょうね?……流石に今来られたら私たちは終わりよ、尻尾巻いて逃げることも出来ないわ



不意に、強気な少女の声が聞こえた。
オレンジ色の髪を横に束ねた可憐な少女だ。
彼女はその制御室の指揮官を示す一番高所にある椅子に座り、踏ん反り返っていた。



そんな彼女の言葉を聞いて、下で大型のモニターを見つめていたフードの少女は忌々しそうに答える。



??「この世で一番感じ取りたく無い気配を感じた……ミカだ、私の大親友を殺そうとしている忌々しい幼なじみだよ……。カスミ、奴らは生かして帰すな。奴らにこの発電所を占拠した理由を知られたらオシマイだ。



その踏ん反り返っている人物は……カスミだった。
カスミは不敵に笑みを浮かべながら、腰に差していたアーミーナイフを勢いよく引き抜く。



カスミ「元からそのつもりよ。安心して、例え此処に来た敵が元旅仲間だとしても容赦しないから……私がそういう人間だって知ってるでしょ、マスター?



マスター「そうだな……信用しているぞ、カスミ。ユカは……創造主は私が守る
344 名前:名無し 投稿日:2017/06/22 00:14 ID:aZUvH4DZ


…………………………

……………


シゲルはカロス地方のビジネスホテルの一室で、占拠されたという地熱発電所の地図を机に広げて険しい顔を浮かべていた。
手には通話中の携帯が握られている。



シゲル「一体何が狙いだ……上層部の数人が勝手に我々対外部門を動かした事で、楽園協議会が兼ねてから地熱発電所を狙っていたのは分かった。しかし……そんな大それた事をすれば、委員会上層部に楽園協議会のスパイがいるのを知らしめる様なモノだ。その数人はいづれ粛正対象となって逮捕される……切り札を使ってまで奴らが発電所を狙った理由はなんだ?




マオ『動かした数人はもう私たち対人部隊が処分を下したよ〜。やっぱり狂信者はキライだね〜拷問しても一向に吐かないもん』



携帯から聞こえてきたのはマオの声だった。
シゲルは展開した地図をキレイに畳みながら口を開く。



シゲル「対人部隊を発電所に展開させないのか?この状況が続けば封鎖している警察官にもストレスを掛ける事になる



マオ『幾ら何でもそんな性急には動けないよ〜そもそもこの行動が地方連合最強の対人部隊を潰すための罠とも限らないじゃん。大丈夫、大丈夫。私達が残業返上で働いている間に、毎日定時上がりの暇で優秀なのを偵察に送ったから』




シゲル「定時上がり?優秀?そんなの今の半壊したトキワの対外部門にいるのか?




受話器の向こうのマオはふっふっふ〜とワザとらしく笑ってみせた。



マオ『お隣にスーパー新人を補充した化石部署があるじゃん?定時で上がらせて遊ばしとくのもなんだから使って上げる事にしたんだ〜』



シゲルは呆れた様に鼻を鳴らした後、口を開く。



シゲル「スイレンか……公安のアイツは何をしでかすか分からんぞ?公安は縮小されてからもどんな活動をしているのか、俺たちでさえ全く掌握できない程の機密性と技術を持っている。……しかもヤツはたった一人でトキワ支部の部長だ、不気味すぎる




マオ『私の幼馴染を不気味なんて酷いなぁ〜ただの素直じゃ無い女の子だよ〜
345 名前:名無し 投稿日:2017/06/22 00:45 ID:aZUvH4DZ



シゲル「フッ……まあいい。それよりマオ……さっき上層部の人間は始末したと言ってたな



マオ『?そうだけど……



シゲル「本当にそれで全員だとおもうか?



マオ『まあ、何にせよこれ以上はスパイ狩りに時間は割けないし。優秀な偵察からの報告で直ぐに出発出来るように準備しなきゃ




シゲル「頼む、それじゃあ切るぞ




マオ『待って、最後に一つだけ



シゲル「……なんだ?



マオ『シゲルはサトシが主催したパーティーに参加したんだよね?いいなあ〜楽しそう。偽りに満ちたパーティー……一人は警察、一人はテロリスト、一人は……その全ての中心にいるサトシ。お互いに自分の正体が分かっていながら、顔合わせして思惑を探り合った……



シゲル「……何が言いたい?



マオ『カスミだっけ?楽園協議会のその最高幹部に実際に会ったんなら、何か発電所を占拠した理由とかヒントがわかんないもんかな〜て思って



シゲル「フッ無茶言うな……
346 名前:名無し 投稿日:2017/06/22 21:41 ID:4v8QbdP2

シゲルはそれだけ言うと、携帯の通話を終了させる。
そして……座っていた椅子から立ち上がると、カーテンを開いて外を眺めた。
気づけば陽も落ち、外は夕闇に包まれていた。


シゲル「明日はいよいよ皇太子の来訪か……このタイミングで発電所を占拠した楽園協議会、関連が無ければいいが……なんてのは希望的観測か。……サトシ、お前はどう動く?お前は敵なのか、それとも……






……………………………

………………


「ねぇサトシ……発電所に向かうんじゃなかったの?どう見ても此処は……


ヒカリが困惑した様に言葉を放った。
伏せの状態で双眼鏡を覗き込んでいたサトシは振り方えって微笑を浮かべる



サトシ「この丘がベストポジションだ。この高所からなら発電所とその一帯が充分に見渡せる



そう言ってサトシが指差した直線上。
赤い稼働中のランプが煌めく地熱発電所だけが森林の中央で、妙な威圧感を放っていた。
陽が落ち、発電所の周り一帯は月も雲に隠れて辺りは静寂と闇が支配している。



ヒカリ「……ここからどうやって発電所を取り返すの?



サトシ「その手段が軍団バトルだ。軍団バトルってのは地方連合以外で使われる一般的な戦い方みたいなモンで、ポケモンも道具も無制限、持てる戦力を持って戦略的に戦う。そもそも一対一で正々堂々と戦うやり方なんて地方連合だけなんだ
347 名前:名無し 投稿日:2017/06/22 21:59 ID:4v8QbdP2


ヒカリ「え!?ポケモンも道具も無制限?それは……ポケモンの数も?



サトシ「そうだ、本来なら登録してある6っつのモンスターボールしか所持できないが、俺は海外のユーザー同様に未登録の改造ボールを持ってる。使えるポケモンは制限なしだ。今回は使わないがな




サトシはそう言うと一般的な赤白のボールでなく、OD色のヒカリが見た事ないボールを取り出した。
サトシの言う事が本当ならば、地方連合では重大な法律に違反して終身刑を喰らってもおかしくない行為である。
サトシは平然と言葉を続ける。




サトシ「そしてコレは競技じゃない。数ある戦い方の一つの手段なんだ。チェスはやった事あるな?それをイメージしてくれ。キングである俺は様々な特性を持った兵士……ポケモンを使い、相手を倒すために次々と変わる戦況を読んで指示を出す




ヒカリ「えっと……この丘から指示を出すんだよね?ここからあそこの発電所までざっと四百メートルはあると思うんだけど……



サトシ「いい質問だ。軍団バトルでは指揮者である人間が戦況を見渡すために、動くものを捉えるレーダーの役割を果たす専用のデパイスとポケモンに取り付けた通信機を使って指示をだす。自軍のポケモンには発信機を取り付けてあるからどのポケモンがどの位置にいるか分かる。相手のポケモンはレーダーで観測した大きさや速度、高度でどういったタイプかを判断して対処を決めるわけだ。倒しに行くかそれとも無視するか……てな
348 名前:名無し 投稿日:2017/06/22 22:00 ID:DPtGyQko
支援!
349 名前:名無し 投稿日:2017/06/22 22:23 ID:4v8QbdP2

ヒカリ「え……それってスゴイ難しい事じゃないの?



サトシ「俺だって最初はかなりやらかしたさ。だけどこんなのは慣れだよ



サトシはそう言うなり、腰からモンスターボールを一つ取り出して空中に放り投げる。
出てきたのは古傷を沢山持つリザードンだった。
リザードンはその特性上、ボールから飛び出した時に興奮して火を吹いたりするモノが多いが、サトシのリザードンは落ち着いた様子で翼も広げずに静かに待機していた。



サトシはリザードンに近寄ると、革製のベストっぽいモノを装着させる。
それには専用の金具の様な物が取り付けてあり、ボールが丁度はめ込められる様になっていた。
サトシは腰にある残りの五つのボールをそのベストに装着し終えると、リザードンの翼を優しく撫でた。



サトシ「プランD、何時もやってる通りだ。空中降下で発電所の屋上にピカチュウとベトベターを。正門には攪乱要員にゲッコウガのボールを落としてくれ。後の二つの切り札は……また指示を仰ぐ




リザードン「グォ……
350 名前:名無し 投稿日:2017/06/24 08:20 ID:AOLQE5Bq
懐かしのベトベター…支援
351 名前:名無し 投稿日:2017/06/25 10:25 ID:VEBGFn2R
支援
352 名前:名無し 投稿日:2017/06/25 16:51 ID:VEBGFn2R
今日はもう更新ないのかなー?
支援!
353 名前:名無し 投稿日:2017/06/25 17:31 ID:qkdE4JP0


サトシ「さあ……行動開始だ



リザードンはサトシの言葉を聞くなり、大きく翼を広げて丘から飛び立った。
サトシは満足気に頷くと、再び伏せの姿勢になってレーダーだと言うデパイスを見つめ始める。




ヒカリは自分も伏せの姿勢になってサトシの横に並ぶ。
サトシはそれに気がつくと、ヒカリに腰に装着していた双眼鏡を渡した。




サトシ「普通は指揮者と観測主がいるんだ。何時もは俺一人だけど今回は練習がてらヒカリに観測主をやってもらいたい




ヒカリ「観測主って……何をすればいいの?




サトシ「ポケモンの側で、相手がどんなポケモンなのかを指揮者に伝えるんだ。デパイスだけで判断するには相当な時間がかかるからな、外国の戦闘部隊は指揮者も観測主も数十人規模でいるんだ




ヒカリ「とにかく、リザードンの様子を双眼鏡で見てればいえのね?




サトシ「話が早くて助かる、そう言う事だ
354 名前:名無し 投稿日:2017/06/25 17:36 ID:qkdE4JP0

ヒカリが双眼鏡を覗いてみると、凄まじいスピードで飛翔するリザードンの姿が見えた。
レンズから見失わない様に、ヒカリは必死でそれを追いかける。




サトシ「さっそく反応だ……この反応、出現地点からして……野生のそれじゃない。ヒカリ、双眼鏡をリザードンじゃなく発電所の方に向けて見てくれ、俺の予想だと……



ヒカリ「え!?分かった……ん、アレは!?



ヒカリ・サトシ「カイリュー



驚くヒカリを他所に、サトシは平然とその名を口にする。
355 名前:名無し 投稿日:2017/06/25 17:50 ID:qkdE4JP0

それもそのはず、サトシはずっとデパイスを見つめたまま……肉眼ですらその姿を見ていない。



サトシ「スピードを上げたな……いきなりドラゴンダイブか、小手調べにしてはハシャギ過ぎだぜ。ヒカリ、間違いじゃないよな?



ヒカリ「……正解よ。確かにカイリューのドラゴンダイブだわ



ヒカリは再び驚愕を隠せなかった。
サトシが見ているデパイスは画面上に点表示されたリザードンとカイリューの姿だけだ。
スピードと高度で判断するとか言っていたが、そんなの常人ではこれだけの情報じゃ分かる筈が無い。



サトシ「目があるのはいいもんだな、助かるぜ。そんじゃ、まあ……リザードン、そのスピードを利用して地球投げだ、殺すなよ?




サトシが通信機のボタンを押してリザードンに命令した。
ヒカリは必死でリザードンの姿を捉えようとしたが、それは最後まで叶わなかった。




全てが早すぎた。
結局ヒカリは肉眼に頼ってそれをみる事にした。



双眼鏡から目を離した瞬間、眼球が捉えた光景は砂埃をあげる森林と何事もなかった様に飛翔するリザードンだった。




サトシ「小手調べに近接攻撃はバカがする事だ。命の取り合いをしてきた俺たちにとっては……カウンターを恐れてそんな事は出来ない。やるなら一発で仕留めなきゃな
356 名前:名無し 投稿日:2017/06/25 18:12 ID:qkdE4JP0



ふと、散発的な紙袋が弾ける様な音が聞こえた。
赤いランプだけが煌めいていた発電所から無数のサーチライトが伸び、リザードンの姿を捉えようと規則性のない動きを見せる。




ヒカリにはこの散発的に弾ける音には聞き覚えがあった。




サトシ「リザードン、旋回しながら機を伺ってベトベトンを屋上に落とせ。……それしても自動小銃による単発射撃か。フルオートでぶちかましてこないのを見ると……楽園協議会にしては中々に指揮官は理性的な様だな。もしかしたら指揮官は最高幹部のカスミか?




ヒカリ「……か、カスミ!?




ヒカリの耳元の叫びによって、サトシはキーンと鳴らして耳を抑える。
357 名前:名無し 投稿日:2017/06/25 19:09 ID:qkdE4JP0


サトシ「ひ、ヒカリ。いきなり耳元でなんだよ……てか、ちょっと……顔近い




ヒカリ「それよりカスミが楽園協議会の最高幹部ってどういう事!?サトシは……いつからそれを知ってたの?




サトシ「……パーティーの始まる前からだよ、カスミは楽園協議会のスパイなのを知ってて呼び出したんだよ。あのパーティーは……他にもいた組織の人間達と思惑を探りあう為でもあったんだ




ヒカリ「……カスミ以外にも……いるの?サトシみたいな組織の人間が……




サトシ「……非合法な稼業なのは俺とカスミだけだよ。すまん、ヒカリ……この話は終わってから改めてするから……今は軍団バトルに集中してくれ




ヒカリ「……分かったわ。軍団バトルに集中する




その言葉にホッと胸をなでおろすサトシの期待を裏切る様に、ヒカリはその場から立ち上がってサトシに背を向ける。
サトシは慌ててヒカリを追いかけた。




サトシ「ヒカリ!どこ行くんだよ!



ヒカリ「サトシは隠しているつもりな様だけど、観測主ってのは本来ポケモンの近くで指揮者に状況を伝えるモノでしょう?なら指揮者の隣で双眼鏡を覗いてても観測主の役割としては無駄よ



サトシ「ま、まさか……お前



ヒカリ「発電所で実際に状況を見て、確実な情報を送るわ。その為の観測主でしょ?



ヒカリはそう言うなり、乗ってきたロードバイクのエンジンを吹かした。




サトシ「お前、ライドポケモンしか乗った事ないんじゃなかったのか!?



ヒカリ「貴方の運転見て大体覚えたわ!大丈夫、しっかり観測主としての役割を果たしてくるから!



サトシ「駄目だ!ボスとしての命令だ、バイクから早く降りろ!
358 名前:名無し 投稿日:2017/06/25 19:55 ID:qkdE4JP0


師匠「ならそのボスの師匠からの命令じゃ。ヒカリを行かせ、言う通りにさせよ。お前もしょっちゅうワシの言う事を無視しておったからのう……お互い様じゃろ?



気づけばサトシの背後に、長い髪をたなびかせ月明かりに照らされた師匠が優雅に立っていた。
サトシは驚きながらも師匠に向き直る。




サトシ「師匠!?……しかし



師匠「お前の理論で行けばそうなるじゃろう?ほらヒカリ、さっさと行け。まさか、怖気ついたんじゃなかろうな?



師匠のその言葉に、ヒカリはニヤリと笑みを浮かべた。




ヒカリ「そんな訳無いわ、しっかり働いてきますとも!



そう言うとヒカリはエンジンを吹かせてバイクを発進させ、すぐに暗闇に消えた。




そんなヒカリを心配そうに見つめるサトシの肩を師匠がニヤつきながら叩いた。




師匠「あの小娘が撃たれん様に正門くらいは制圧しとかんと厳しいんじゃないか?



サトシ「分かってますよ!おい、リザードン!ゲッコウガはもう投下しろ!ピカチュウもだ!




半ばキレ気味に答え、指示を出すサトシの背中を見ながら、師匠はクックと笑って再び口を開く。



師匠「それにしても……一度運転を見たぐらいであそこまでバイクを使いこなすとはな。サトシ、お前は最初しょっちゅうコケとったじゃろ?



サトシ「……何が言いたいんすか?



師匠「アイツはモノになれば……お前レベルにはなるぞ、それとも超えるかもな?



サトシ「……



静寂が支配した丘で、暫くデパイスを見ながら指示を出し続けるサトシと、月を見ながら寝転がる師匠の鼻歌だけが響き渡っていた。
359 名前:十五歳の早計 投稿日:2017/06/25 19:57 ID:qkdE4JP0
今日はここまでです、皆さんいい夢みて下さい。ノシ
360 名前:名無し 投稿日:2017/06/26 21:54 ID:C7DABS1f
本当に15歳なら戦慄だなwww
高校生の俺、語彙力の無さが恥ずかしいwww
361 名前:名無し 投稿日:2017/06/27 10:35 ID:68I37J2E
十五歳の早計はペンネームでございます。四年前、当時十五歳だった私が早計な事ばかりしていたのが由来となっています。
362 名前:名無し 投稿日:2017/06/27 20:22 ID:68I37J2E


…………………………………

…………………

トキワシティー西部に位置する森林地帯。
暗闇の森の中で、何やら動く人影が二つある。
一人は腰に手を当て、呆れた様子。
もう一人はどうやら椅子に座ってリラックスしているのだろうか?呆れた視線を気にしない様にコーヒーカップを口に運ぶシルエットがあった。




セレナ「スイレン部長……これは?




スイレン「本部だよ、これから敵城を責めるのに指揮官のいる中継地が無かったら不安じゃない?




セレナ「……これはただ簡易テントを張っただけじゃないですか。それに……本当にスイレン部長は発電所まで行かないんですか?




スイレン「当たり前じゃん、私はひ弱だから戦闘には向かないの




セレナ「相手は殺傷力を持った武器を持ってるんですよ!?このプラズマガンだけで対抗できるんですか?




セレナの悲痛な叫びが真っ暗闇の森林に響き渡る。
スイレンは全く表情を変えず、コーヒーの味を楽しんでいた。




スイレン「それに関してはなーんにも心配要らないよ。寧ろ武器なんか必要ないから




セレナ「は?……一体どういう事ですか?




スイレン「まあまあ、もう暫く待機してればわかるって。発電所が騒がしくなってきたらのんびり動き出そうか



セレナ「?……だから一体どういう……




セレナが言葉を言い終える前だった。
スイレンの後方、十メートルくらいに巨大な物体が猛スピードで降下してきた。




猛烈な衝撃波と砂埃、セレナは思わず尻餅をついて防御の姿勢を取る。
……砂埃がやがて過ぎ去ると、セレナはゆっくりと立ち上がってスイレンと、降下してきた謎の物体を確認した。




スイレン「あちゃー……見積もりより大分早いや。セレナ捜査官、出動だよ




スイレンは何事も無かった様に、椅子に座ったまま砂の入ったコーヒーカップを逆さにしていた。
そして彼女は傍に置いていたカバンからパソコンを取り出すと、ノソノソとそれを持ったまま簡易テントの中に入っていく。




『セレナ捜査官、落下してきた物体を確認してごらん』




呆気に取られていたセレナの耳につけられたインカムから、スイレンの飄々とした声が鼓膜を揺さぶる。作戦前にセレナがスイレンから渡されていた無線機だ。



セレナはゆっくりとした動作で、スイレンの入った簡易テントの横を通り過ぎて物体を確認する。




カイリューだった。
目を回して戦闘継続不可能な状態になっている。
公式のポケモンバトルなら、完全に敗北だ。
363 名前:名無し 投稿日:2017/06/27 20:44 ID:68I37J2E


スイレン『開戦の狼煙だ、発電所はこれから戦場になる




セレナはその言葉を聞いて、スイレンの入った簡易テントのポリエチレン製の入り口を捲る。
スイレンは寝転んだ状態でパソコンをつついていた。



スイレン「行ってらっしゃい、初任務頑張ってね




パソコンから目を離さずにスイレンが口を開く。
セレナはこれ以上ないくらいに不機嫌そうな顔で返答した。




セレナ「だから……状況が読めません!説明してください!




セレナの怒鳴り声に、スイレンはちらりと視線を向けた。




スイレン「サトシに聞いたら?



セレナの動きがピタリと止まった。
その表情は驚愕と興奮が入り乱れた様な
スイレンはその様子を見て可笑しそうに話しを続ける。




スイレン「発電所を奪還しようとしているのはねぇ、私たち警察だけじゃないよ。サトシもだから。でも奴らテロリストは手強いからなぁ……無敗の戦歴を持つサトシも今回は……



スイレンが全てを言い切る前に、セレナはプラズマガンを持って走り出していた。
今現在、セレナの心中にあるのは……別れの日、元気な笑顔を見せていたサトシの姿だけだった。
一人の少年の事だけを思いながらただセレナは走る。
そんな様子を見ていたスイレンは不敵に笑いながら再びパソコンを見つめた。




スイレン「単純だなぁ……セレナちゃんは。ま、扱いやすくていいけど。さあて、サトシ……楽園協議会相手にどう対処するのか、見させて貰うよ




364 名前:名無し 投稿日:2017/06/27 21:18 ID:4FaoRDi3


…………………………

……………


暗い森林を駆ける一機のバイクがある。
ヒカリの乗る、サトシの特注ロードバイクである。


極限まで作動音を響かせない様に設計されたそのバイクは、まるで電気モーターで動いているかの様に静かだった。



ヒカリ「……いい乗り物ね、バイクって



ヒカリは呟く様に言った後、更にアクセルを回してスピードを上げる。
やがて、公道に乗り上げたヒカリのバイクは、風を切って一直線に戦闘の巻き起こる発電所へと向かっていった。



正門が見えた。
大きな爆発が起こり、正門の一部が破壊されて目に見えないスピードで青い残像が視線の先を通り過ぎていく。
あれは……ゲッコウガというポケモンだろうか?
ジュンサースクールに合格し、研修期間を卒業していたヒカリは一見しただけでどの様なポケモンか分かってしまう。
ヒカリは一般人を超越したポケモン知識を持っているのだ。



ふいに、屋上の方から電撃が見えた。
ピカチュウだろうか?散発的に自動小銃の射撃音が聞こえた。




ヒカリはバイクを近くの森林に乗り捨て、体制を低くしながら破壊された正門へと近寄る。
正門のガードマンがいたであろう詰所には、楽園協議会の重武装したテロリスト達が何人も倒れていた。
365 名前:夢幻のメロディー 投稿日:2017/06/28 14:14 ID:BMwfdtnj
質問です。
ケンジとデントはパーティーに来ていたんですか?
366 名前:十五歳の早計 投稿日:2017/06/28 16:31 ID:KtS2tY0W
来ていましたが、ストーリーの都合上で泣く泣く割愛しました。
367 名前:十五歳の早計 投稿日:2017/06/28 19:55 ID:KtS2tY0W
今夜2300より、頑張って書きますので完結するかもしれません。終わらなくとも近日中に完結させます。皆さん継続的な支援ありがとうございました。
368 名前:名無し 投稿日:2017/06/28 21:27 ID:7Oi6Mnv0

ヒカリは倒れている戦闘員に低い姿勢で近寄ると、首筋に手を当てて生死の有無を確認する。
気絶しているだけなのを確認すると、近くにある詰所まで引きずっていった。




ヒカリ「ねぇ、起きて



ヒカリは周囲を確認し、敵がいない事を確認すると、気絶している戦闘員を揺さぶって意識を覚醒させる。
やがて、揺さぶられた戦闘員は頭を振りながら気分悪げに状態を起こした。




戦闘員「いてーな……クソ……ハッ!?お、お前誰だ!!



意識を覚醒させるなり、戦闘員はヒカリを警戒する様に這って逃げようとする。
それをヒカリは押さえて話しかけた。
ヒカリはまず情報収集をすることにした。




ヒカリ「救助よ、最高幹部のカスミの命令で参戦したの。私は救護係、他の部隊は既に敵ポケモンの排除に展開しているわ




偽りの身分で相手の警戒心を解こうとする。
しかし、戦闘員は疑ぐる目でヒカリに返答した。




戦闘員「……最高幹部のカスミ司令の命令で?……司令を呼び捨てなんていい身分だな、所属は何処だ?



ヒカリは、案外慎重な戦闘員に驚きつつ、言葉を間違えない様に続ける。




ヒカリ「本人もいないのに名前に司令をつけるの?真面目ね、そんなんじゃ女の子にモテないわよ。所属は公式には無いわ、新設された秘密部隊だから。それよりほら、痛むところはない?私は救護係だから治療してやれるわよ



堂々としたヒカリの態度に戦闘員は疑いの目を徐々に解除する。
戦闘員はヒカリの言葉に、体のあちこちを触って外傷を確かめ始めた。



戦闘員「あ、ああ……外傷は無しだ。頭が多少痛むが問題は無い、ただの脳震盪だろう。それより他の仲間は?アイツらも一緒にやられた筈だ




ヒカリ「死んだわ、正門前の部隊の生き残りは貴方ただ一人よ




実際にヒカリは生死を確認していないが、適当に答えた。
どうせこの詰所内にいるのでは相手も確認しようが無いからだ。
出て行こうとすれば投げ飛ばして再び気を失って貰えばいい……ヒカリはその程度に考えていた。


戦闘員「そんな!?……重武装の兵士が11人も居たんだぞ!!ポケモン一匹にやられたってのか!




11人もいるのか、後でサトシに報告しないと……とヒカリは思考を浮かべる。
それと同時に、この戦闘員からもっと情報を引き出せないかとヒカリは模索していた。




ヒカリ「一匹じゃないわ、他にも数匹確認できてる。アイツらはただの斥候よ、ホワイトホールの重武装の大部隊が発電所に進行してるわ、急いで退避しないと私達は全滅するわ



ヒカリはハッタリをかましてみた。
慌てた相手がポロポロと情報を漏らすのを期待しての事だ。
これが大成功だった。



戦闘員「そんな筈ない!発電所の周りは警官達が封鎖していた筈だ!警察を敵に回す事を恐れているホワイトホールが大部隊を率いてくるなんて……ありえないとカスミ司令も言ってたぞ!
369 名前:名無し 投稿日:2017/06/28 21:53 ID:7Oi6Mnv0


ヒカリ「何言ってるの?既にホワイトホールは警察の対外部門とやりあったじゃない。だから私達が対外部門の特殊部隊を恐れずにこの発電所を難なく制圧出来たんでしょ?……枷が外れたホワイトホールはもう御構い無しに警察に攻撃を仕掛けてるわ。数時間もすれば奴等はここにくる




戦闘員「くそ!この事を司令に報告しないと……。部隊長に連絡を取って司令に繋いでもらう!




ヒカリ「私がやるわ、貴方は発電所の中にいる人員と合流して撤退する準備を進めて。途中まで私も同行するわ




ヒカリは其処まで言うと、戦闘員に銃を手渡した。
戦闘員は勢いよく立ち上がってガチャガチャと武器のチェックをし始める。




ヒカリ「本部、聞こえますか?……カスミ司令に繋いで下さい




ヒカリは耳に装着してあるインカムに語りかける。
暫くすると、全てを察した様なサトシの返答が聞こえてきた。




サトシ『……今、正門前の詰所にいるな。隣にいるのは敵か?……仲間を演じる必要があるのか?




ヒカリ「その通りです、外にいる11人の同志は全滅しました。現在、私を含めた救助部隊が展開中です




サトシ『……外にいる11人か……フッ人数の情報を引き出したのか?流石だ。補足としては2人発電所内部に逃げた、後は全滅させたがな




ヒカリ「左様ですか。ありがとうございます。それとお耳に入れときたい情報が……はい、ホワイトホールの大部隊が接近中です。数時間もあれば発電所奪還に来るかと……早期撤退が望ましいかと
370 名前:名無し 投稿日:2017/06/28 22:19 ID:7Oi6Mnv0


サトシ『……これからどうするつもりだ、ヒカリ



ヒカリ「生き残りの同志一名に同行して発電所内部に向かいます。……その間に敵のポケモンに襲われる可能性ですか?大丈夫です、西側で救助部隊が足止めしていくれているので




サトシ『ハーッ……どうせ止めろと言ってもお前は行くんだろうな……分かった。その戦闘員とヒカリが発電所に入るまでゲッコウガは待機させとく。危なくなったら直ぐに逃げるんだ、分かったな?




ヒカリ「了解です、では後ほど




戦闘員「伝達は終わったか?




ヒカリが通信を終えたのを見計らって戦闘員が話しかけてきた。
もう、その戦闘員はヒカリに疑いの目を一ミリも浮かべていなかった。




ヒカリ「ええ、行きましょうか



戦闘員「先行する、ついてきてくれ




戦闘員が銃を構えながら先行して詰所から出て、発電所の内部へと向かう。
ヒカリはその背中を迷いなく追っていった。




…………………………

……………
371 名前:名無し 投稿日:2017/06/29 00:28 ID:wxpBy3Ow
もうすぐ終わりだとっ!?
寂しいなぁ…
372 名前:名無し 投稿日:2017/06/29 00:34 ID:Pu3zyoth

屋内は外より騒がしかった。
聞き覚えのある音が断続的にヒカリの耳を揺さぶる。戦闘員は忌々しそうに銃を握りしめていた。


戦闘員「散発的に銃声が響いてるな……上階からの様だ



ヒカリ「敵は屋上からもポケモンを投下したみたいよ、こちら側もポケモン投入で対抗した方がいいんじゃないかと思うけど……




戦闘員「最初に一番戦闘経験の高いカイリューが投入されたんだが、一発でやられちまってな。司令の命令で最後の局面まで使うなだとよ。ホワイトホールの大部隊が迫っている今はもう投入されてんじゃねーのか?アンタが司令に直々に通信伝達したからな……そういやあれから命令は下ってねーのか?



ヒカリ「特に目立った命令下達は無いわ……それより貴方無線持って無いの?命令伝達はどうしてたの?




戦闘員「インカムが足りなくて通信係の奴が命令を伝えてたんだ。俺たちって意外と……



戦闘員がそこまで喋ったところだった。
突然彼の体が宙を舞い、地面に叩きつけられる。
ヒカリは何が起きたのか身構えながら一歩下がると、それを追尾する様に俊敏な人影がヒカリに迫ってきていた。



その人影はヒカリの腕をとり、一本背負いで投げ技を放ってきた。
ヒカリは空中で態勢を立て直し、地面に叩きつけられる前に壁を蹴って遠心力を増してキレイに着地してみせた。


ヒカリはその人影を蹴って距離を取ると、戦闘員の落とした自動小銃を拾って構える。



相手も同じ様に銃を構えていた。
しかしそれは自動小銃ではない、対外部門が使うプラズマガンだった。



そしてーーーそれを構える人物はーーー金髪のショートカットの髪を揺らめかせている、ヒカリと同年代くらいの少女だった。




ヒカリ「そのプラズマガン……貴女、対外部門?




セレナ「答える義務は無いわ、テロリスト。大人しく銃を下ろしなさい




その邂逅は誰にも予測する事は出来なかっただろう。
ヒカリとセレナ。
2人の最初のコンタクトは、最悪な形で幕を開ける事となる。
373 名前:名無し 投稿日:2017/06/29 00:47 ID:Pu3zyoth


………………………………

………………


ヒカリ『……聞こえる?ちょっと面倒な事になったわ



デパイスを見ていたサトシの耳に、インカムからヒカリの声が聞こえてきた。
サトシはインカムの通信ボタンを押して返答する。




サトシ「聞こえるぞ……デパイスでずっと見てたがお前の目の前にいる人間、外からの侵入者だ。何者か分かるか?




ヒカリ『分からない……けどプラズマガンを持ってる。少なくとも楽園協議会では無いと思うわ
374 名前:十五歳の早計 投稿日:2017/06/29 00:49 ID:Pu3zyoth
すみません、すっごく眠いんで今日はここまでにしときます。明日か明後日の夜には終わると思います。
375 名前:名無し 投稿日:2017/06/29 21:53 ID:KwoDgWOJ


サトシ「プラズマガンか……ソイツ、性別は?




ヒカリ『女よ、私と同年代くらい




サトシ「……髪は青いか?




ヒカリ『いや、ブロンドのショートカット。可愛い顔に反して格闘術は半端じゃないわ。私と同等か……それ以上よ




サトシ「ブロンドの……ショートカット?




思わず言葉に詰まる。
サトシの脳内のスクリーンに映し出されるのは、頬を染めながらエスカレーターを降りていく少女の姿だった。




サトシ「まさか……そいつはーーー




突如、耳をつんざく様な銃声がインカムから響き渡る。
サトシは慌ててデパイスを確認すると、ヒカリともう1人の人物を囲む様に敵が大勢迫っていた。



サトシ「クソ!!ヒカリ、応答しろ!




ヒカリ『大丈夫よ!今……




ぶつりと交信が途絶える。
サトシは思わずその場に立ち上がっていた。




サトシ「ヒカリ!!




返答は無い。
サトシは血が出るまで拳を強く握りしめながら、インカムで指示を飛ばした。




サトシ「ピカチュウ!最終進化だ、手加減なしでヒカリの救出に迎え!ゲッコウガも屋内に侵入しろ、それからリザードン……




師匠「サトシ……待て




か細い声が聞こえ、サトシがその方向を見ると……師匠もまた発電所を眺めながらその場に立っていた。
そしてその様子は……怯えた様に体を震わせている様な、今まで見たことがない程感情をあらわにする師匠の姿だった。




サトシ「何ですか!!今……師匠……どうしたんですか?



師匠「ユカだ……創造主が……あの発電所にいる




サトシ「……え?




師匠「奴だ、待ち望んだ創造主が目の前にいる……かつてないほどのエネルギーだ、創造主が目覚めようとしている!




……………………………

……………
376 名前:名無し 投稿日:2017/06/30 06:03 ID:ySIn8BHH
まじかよ…もう終わりか…
支援
377 名前:名無し 投稿日:2017/06/30 21:21 ID:WVlrzQyH



セレナ「アンタ奴らの仲間なんじゃ無いの!?なんで奴等本気で殺しにかかってきてるのよ!!



現在、廊下を支配しているのはおびただしい数の弾幕と轟音だった。
楽園協議会の戦闘員が撃ち込んでくる発砲音に掻き消されない様に、セレナが身を隠しながらヒカリに向かって叫びを上げる。



セレナとヒカリは同じ遮蔽物で弾幕を凌いでいた。
支柱が立っていて、僅かながらに凹凸している壁の箇所である。
2人は抱き合う様な形だった。



そんな中、セレナの至近距離の言葉にヒカリはむっとした顔で返答する。



ヒカリ「私は奴等の仲間なんかじゃ無いわ!ていうか貴女バカなんじゃ無い?なんでこんな廊下の真ん中でしかけてくるのよ!!早速囲まれて身動き取れないじゃ無い!




セレナ「私の投げ技をかわす貴女が異常なのよ!ていうか仲間じゃないなんて嘘でしょ、楽園協議会の戦闘員と仲良く発電所に入ってきたじゃない!ただ見捨てられただけでしょ!




ヒカリ「情報収集の為に仲間のふりをしたのよこのウスラトンカチ!折角もっと情報を集められそうだったのに全部パーよ!どうしてくれんの!
378 名前:名無し 投稿日:2017/06/30 21:57 ID:WVlrzQyH



ヒカリのその言葉に、セレナは急に表情を変えた。
落ち着いた、相手を品定めする様な顔だ。



セレナ「貴女……所属は?少なくとも対外部門じゃないわ、コード表に貴女みたいな女は見なかった。この状況からして楽園協議会でも無いのを信じたとして……残るは一つだけね



ヒカリはその変化に、セレナが只者ではない事を微弱ながら感じとっていた。



ヒカリ「ご察しの通り、ホワイトホールよ。それより婦警さん、この国じゃ禁止どころか禁忌とされている殺傷兵器を使っているテロリスト共が平然とのさばってるわよ?税金泥棒してないで早く捕まえたら?




ヒカリが薄ら笑いを浮かべながら言った。
セレナは無表情のまま、静かに同意する様に頷く。




セレナ「そんなの分かってるわよ、でもその後は……



ふと、セレナが急にプラズマガンを手にしたままヒカリから離れるように背中から倒れ込んだ。
セレナの体が、弾幕が支配する支柱の外へ放り出される。



ーーーーーーかと、思われた……が、ヒカリが気づくと支柱の外の銃声はやんでいた。



セレナは床に倒れこみながら、数発のプラズマガンを発射して全てをヒットさせ、戦闘員を一掃した。
完璧な射撃、尚且つ大胆な行動だ。
ヒカリは驚愕を隠せなかった。



倒れた敵を見れば数メートルの距離まで迫っていた。恐らく弾の消費と、顔を出さないセレナとヒカリに痺れを切らして突っ込んできたのだろう。




セレナ「コイツらを逮捕したら、次はアンタよ。発電所へ地方連合国家委員会の承認も得ずに無断進入……刑法124号の第4項の適用で貴女を逮捕するわ




ヒカリ「……そんな事言ってる場合?




セレナ「そうね、そんな場合じゃないわ。だから……



セレナはヒカリに向かって手を差し出した。
ヒカリが訝しげに彼女を見ると、セレナは悪戯っぽく笑いながらこんな事を口にした




セレナ「協力しよう、幾つか情報を仕入れたんでしょ?私にも教えてよ。そんで背中も任せるわ、流石に1人じゃこの場面を生き残るのは至難そうだから




ヒカリ「……私への見返りが無いわ



セレナ「あるわよ



ヒカリ「……何?
379 名前:名無し 投稿日:2017/07/01 08:43 ID:noC8Vmpt


セレナ「無事目的を果たせたら貴女を見なかった事にしたげるわ……これが見返り、十分すぎるでしょ?



ヒカリ「ふん……こんなテロリストに好き放題させてるくせによくそんな事言えるわね。貴女達警察はホワイトホールに戦線布告したじゃない、私達も楽園協議会同様に好き勝手やらせてもらうわ




ヒカリはそう言ってその場を離れようとする、それをセレナが正面に立って通行を遮る。



セレナ「何言ってるの、もう離れられないわよ?



ヒカリ「は?アンタこそ何言って……え?



ヒカリは気がつくと腕からジャラッとした鎖がセレナまで伸びていることに気がついた。
いつの間にかセレナは自分とヒカリの腕に手錠をかけたのだ。




ヒカリ「アンタ!何やってんのよ!
380 名前:名無し 投稿日:2017/07/01 09:09 ID:noC8Vmpt


セレナ「分かったわ、じゃあせめて情報くらいは渡しなさいな。ここに何人いて、奴らが何をしようとしているのか……そしたら手錠は外したげるわ




ヒカリ「何勝手な事!貴女なんかに情報を渡してたまるもんですか!




セレナ「じゃあ私達、運命共同体ね。鎖は長く設定してあるから銃も構えられる、ここを出るまでよろしくね犯罪者さん



セレナはそう言うとニッコリ微笑んだ。



…………………………………

………………


トキワの森林地帯。
深い森の中で簡易テントを張り、パソコンをつついてるスイレンは発電所の監視カメラをハックし、とんでもない映像を目の当たりにしていた。




スイレン「これは……地熱発電のエネルギーを電気に変換させる機械……この装置に機械を繋いで、何をする気?



スイレンは監視カメラの映像を拡大する。
そこにはエネルギー変換装置に人が1人入れるくらいのガラス状のカプセルをつける楽園協議会がいた。




スイレン「……このカプセルは医療にも使われるヤツじゃん、カプセル内に母体の乳幼児を守る羊水みたいな液体で満たして治療する人間を入れる……確かこれは治療者にエネルギーを与えるものだって聞いたことがあるけど……発電所のエネルギーなんか人間に与えたらパンクだよ。……ん?人間に与えたら?……人間じゃなかったら……成る程ね



監視カメラに映し出されているのは1人の少女を運び込む楽園協議会の姿だった。
その少女を見てスイレンは納得した様に頷く。
すると、スイレンは懐から携帯電話を取りだして誰かに電話をかけ始めた。




スイレン「もしもし……署長ですか?……はい、奴らの目的が分かりました。……はい、創造主です。奴らは発電所のエネルギーを利用して無理やりにでも創造主を眠りから覚まさせるつもりの様です。……大丈夫ですよ、可愛い後輩を送ったんでなんとか阻止させます。それに、サトシ達も動いてますから……ええ、はい……そうですね、創造主は貴方も一緒に旅したことがある人物ですよ、署長





………………………………

……………
381 名前:名無し 投稿日:2017/07/01 19:07 ID:TVHJ89bi


弾丸が飛び交う発電所内部。
ヒカリとセレナはそんな中を走りながら、襲い来る戦闘員から逃げ回っていた。



セレナ「妙ね……奴ら本当に私達を仕留める気があるのかしら



物陰に隠れ、プラズマガンを撃ちながらセレナは言った。
ヒカリは自動小銃の弾倉交換をしながら答える。




ヒカリ「……確かに、奴らは威嚇射撃だけで私達を殺す気は無いようね。それにさっきから電波障害が酷い、外部と連絡を取れない様に妨害電波を発してるなら、奴らもまたしかりよ。戦闘員達も上層部と連絡が取れていないはず



セレナ「それに所々シャッターが閉まってる……奴ら私達を追い詰めて何処かへ誘導しようとしている?




セレナがそこまで言った所で、無数の戦闘員が雄叫びをあげながら突っ込んできた。
二人は舌打ちをしながら後退する。




ヒカリ「このままじゃどんどん発電所の奥に追い詰められるわ!ここらで仕掛けるしかないわよ!




セレナ「そうね……ん?……ちょっとこれ見て!




ヒカリ「何よ、こんな時に!……これは!?




セレナが壁に設置された発電所内部の地図に指をさした。
ヒカリがその方向を見ると……地図に記されている情報が正確ならば、このまま行くと発電の中央制御室があるはずだ。
中央制御室といえば……楽園協議会の上層部が戦闘員に指示を出している部屋である。



セレナ「偶然だと思う?



ヒカリ「どうかしら……でも、もう後退する事はできない。行くしかないわ




ヒカリとセレナは銃を撃ちながら走り始めた。
その顔に、二人とも迷いは微塵も感じられなかった。
382 名前:名無し 投稿日:2017/07/01 21:23 ID:TVHJ89bi




……………………………

……………




カスミ「ようこそ……世界が始まる場所へ。歓迎するわよ、ヒカリ。それから、公安のメス犬




ヒカリ「カスミ……




セレナ「メス犬とはご挨拶ね、テロリスト。こんな所まで誘導して……世界が始まる場所ってどういう事?



現在、中央制御室内に突入したヒカリとセレナは椅子に座って踏ん反り返っているカスミに対し、銃を構えていた。
カスミは不敵な笑みを浮かべながら、椅子からゆっくりと立ち上がる。




カスミ「公安のメス犬には用はなかったけど……まあいいか、特別に教えてあげるわ。ヒカリ、ホワイトホールに入って創造主については習ったかしら?それともまだお勉強不足?




ヒカリ「……世界を崩壊させようとしている、貴女達の困った神様の事でしょ?




カスミ「はあ〜……それが間違いよ、あんたらは前提から認識を間違ってるわ。そもそも、創造主が世界を崩壊させるなんて誰が言ったの?本人?自分のいる世界を崩壊させる訳がないじゃない




カスミはそう言うとワシャワシャと髪を巻き上げながら、部下に命令させて前方に位置する巨大スクリーンにある映像を映し出す。



そこにはカプセルケースに入れられた……ヒカリもよく知る人物が入れられていた。




ヒカリ「ハルカ!?




セレナ「……何?奴らあの子に何をしようとしているの?




カスミ「ハルカこそが私達、楽園協議会の求めていた真の創造主。この世界を形作り、産み出したかけがえの無い神よ。この発電所を手に入れたのはその神にエネルギーを分け与える為……もうすぐエネルギー完全に復活させた創造主が復活するわ
383 名前:名無し 投稿日:2017/07/01 21:37 ID:TVHJ89bi


ヒカリ「そんな……は、ハルカが




ヒカリは思わず銃を取り落とし、その場に尻餅をつく。
セレナはその様子を困惑する様に見つめた。



ーーーーーーその時だった。
突如ドカン!とヒカリとセレナの後方から爆発が起こり、 二人は思わず吹き飛ばされる。


爆発が起こったのはヒカリとセレナが侵入した中央制御室への入り口だった。

そこからは電撃を発しながら入ってくる……血まみれの女の子の姿があった。



ピカチュウ「あー……突然通信も妨害されるし、もう面倒だなぁ……おや、カスミじゃないか。なら、ここが中央制御室?ちょうど良かった……そろそろ飽きてきたし、皆んな殺して終わりにしようかな




カスミ「……アンタ誰よ?その電撃……もしかして絶滅危惧種の能力者?




カスミのそんな言葉にピカチュウは残忍な笑みを浮かべた。




ピカチュウ「やだなあ、カスミ。僕じゃないか、一緒に旅した仲だろう?
384 名前:名無し 投稿日:2017/07/01 22:13 ID:TVHJ89bi



カスミ「私はアンタなんか知らないわよ



ピカチュウ「別にどっちでもいいけどさあ、殺すからね



ピカチュウは片腕を向け、カスミに対して目を覆わなければ神経が焼き切れてしまいそうな程の電撃を放った。
たちまち電撃は不規則な動きを見せながらカスミへと向かい、猛烈な爆風を巻き起こす。




ピカチュウ「あーあ、こんなもんかあ。楽園協議会も少しは歯ごたえのある相手だと思ったんだけど……て、あれ?……あはは、カスミなんで生きてんの?



爆発の煙が過ぎ去った後には、不敵な笑みを浮かべたままのカスミが立っていた。
カスミの周りには彼女を守る様に未知の力で形成された防御壁の様なものが浮いている。




??「この人間を殺されるのは困るぞ……電気使いの小娘、お前にはここで死んでもらう




カスミの横からいつの間にかいたフードを被った少女が現れる。
その少女が言葉を発した瞬間、ピカチュウの体が持ち上げられ、天井に叩きつけられた。



ピカチュウ「カハッ!!



凄まじい衝撃で叩きつけられたピカチュウは口から血を吐いた。
鋼鉄製の天井に、彼女の体が徐々に埋め込まれていく。




??「能力者を殺すのは勿体無いが……仕方ない、創造主復活の目的の為ーーーん?



ヒカリ「あああ!!



ピカチュウに向かって力を行使するフードの少女にヒカリが走りながら向かっていき、自動小銃のトリガーを引いて鉛で出来たおよそ7mmの弾丸を容赦無く発射する。



フードの少女は迫りくる弾丸に直前で気づき、バリアーを発生させてそれを止めた。




??「……目障りだ。カスミ



カスミ「わかったわよ。少し遊んだげるわ、ヒカリ



カスミはそう言った後、銃を撃ちながら走るヒカリに対し突進を繰り出して足をすくった。
体勢を崩して転んだヒカリに追い打ちをかけようとカスミが迫る。



しかし、それは電気警棒を振り放ってきたセレナによって阻止された。
ヒカリはその隙に立ち上がり、カスミに対して拳を向ける。
カスミは愉快そうに笑いながら腰に差していたアーミーナイフを抜き放った。




カスミ「二対一?いいわねぇ……ちょうどいいハンデだわ
385 名前:名無し 投稿日:2017/07/01 22:24 ID:P77iYVDW
支援
386 名前:名無し 投稿日:2017/07/01 22:27 ID:TVHJ89bi



ふと、セレナがヒカリと自分につけられた手錠を鍵で外す。


セレナ「ほら、これ



その後、セレナがヒカリに対して持っていた2本目の警棒を差しだしてきた。
ヒカリが驚きの目で彼女をみると、セレナは微笑を浮かべながら口を開く。



セレナ「相手はナイフを持っているわ、それにさっきの動きから見るに……相当な使い手よ。公安の私が公的に警棒で相手をボコボコにする権利を承認してあげるわ



ヒカリ「……貴女にそんな権限あるの?



セレナ「さあね、ダメだったらごめんなさいな



ヒカリが本気でセレナに対し呆れていると、ナイフを肩に乗せながら暇そうにしているカスミが声をかけてきた。




カスミ「ねぇ……いつまでくっちゃべってんのよ。もしかして怖気ついちゃった?
387 名前:名無し 投稿日:2017/07/02 09:27 ID:cWcHbnjV

セレナ「待たせてごめんなさいねテロリスト。でもいいの?これで逮捕までの時間が早まったけど?



カスミはその言葉には答えず、笑みを浮かべてナイフを構える。
ヒカリとセレナもゆっくりとした動作で警棒を構えた。



カスミ「少しは楽しませてちょうだいね……



…………………………

………………
388 名前:名無し 投稿日:2017/07/02 14:48 ID:cWcHbnjV
すみません、終わる終わるって言っていたんですがもう少しかかりそうです(汗)もう暫くお付き合い下さい
389 名前:名無し 投稿日:2017/07/02 16:39 ID:cWcHbnjV

発電所上空、リザードンを呼び寄せてその背中に乗ったサトシと師匠の姿があった。
発電所の屋上はすでにピカチュウ達によって制圧されており、対空砲火を浴びせる敵は居ない。



リザードンは悠々と飛行しながら屋上へと降下しようとしていた。




サトシ「師匠、確かなんですか!?創造主が発電所にいるって!



師匠「ああ……今まで力を消費していたせいか全く感じ取れんかったが……創造主がいるのは確かだ。桁違いのエネルギーを感じる、それに……創造主とは別に嫌な気配があるな……




サトシ「嫌な……気配?




師匠「クソ……生きていたか、ワシの忌々しい幼馴染第2号じゃ。奴は創造主側について二千年前に暴れ回ったメンバーの1人じゃよ




サトシ「じゃあ!奴らの目的は!?




師匠「発電所のエネルギーを応用した創造主の復活じゃろうな……クソ、奴らが理解不明なテロ活動を散発的に起こしていたのはこの為の布石か。わしらに疑問を持たせんように……どうやら今回は完全にしてやられたようじゃ



サトシは舌打ちをしながら屋上へと降りたち、リザードンをボールに戻す。
サトシは走りだそうとして、あることに気が付いて足を止めた。
師匠がその場に苦しそうにうずくまっていた。




サトシ「師匠!……やっぱりまだ力が



サトシが師匠をモンスターボールに入れようとすると……彼女はそれを遮るようにサトシの手を跳ね除ける。



師匠「大丈夫じゃ……それよりテレポートで創造主の元まで飛ぶぞ……飛んだらワシは完全に力を使い果たす事になる……そうなればサトシ、お前が創造主を殺せ。二度と甦れんように確実にだ……



スイレン「その必要はないんじゃないかな〜なんたって私がいるし



サトシの後方で鈴を鳴らした様な幼い声が聞こえた。サトシは腰に差していた拳銃を抜き放って、その方向に構えながらその存在を確かめる。



そこにいたのは……。



サトシ「スイレン……やっぱり公安も動いてやがったのか。戦闘員が大勢いたはずだろう……この屋上までどうやって来た?




スイレン「そりゃアレだよ、こうやって?




サトシが腰に拳銃をしまいながら言うと、スイレンがいきなり彼の視界から消える。
気がつくとスイレンはサトシの背後におり、指で拳銃の形を作って背中にそれを突きつけていた。




スイレン「バーン。テレポートだよ




師匠「能力者か……公安め、流星の民だけでなく、とんだ隠し球を持っておったか……
390 名前:名無し 投稿日:2017/07/02 16:55 ID:cWcHbnjV


サトシが驚愕の表情を浮かべていると、それを見たスイレンがケラケラと笑い始めた。



スイレン「そんなマヌケな顔しないでよーサトシ。男前が台無しだよ?




サトシ「スイレン……公安は……お前らは一体何が目的だ?



スイレン「やだなあ、私達はただの平和を守る警察だよ?世界崩壊を阻止するためならなんだってするよ。だから前回みたいに共同戦線を張ろう、タケシ署長もそれを望んでいるよ




サトシが意見を求める様に師匠を見ると、彼女は苦しそうに頷いていた。




サトシ「……そうだな、ここでウダウダ言っててもしょうがない。スイレン、ホントに創造主の所までテレポートで飛べるのか?




スイレン「もちろん、座標を間違えれば壁にめり込んでお陀仏だけどね。お師匠さんも連れて一気にいけるよ




サトシ「そうか……なら頼む




スイレン「うーんそうだなぁ……タダじゃなあ




サトシ「は?




スイレンのもったいぶる様な態度にサトシは呆気に取られる。
それもそのはず。
そもそも彼女の提案でテレポートをしてくれる事になったのだ。



サトシ「おい、世界存亡の時だぞ!勿体ぶってないで早くとんでくれよ!
391 名前:名無し 投稿日:2017/07/02 17:04 ID:cWcHbnjV


スイレン「これが終わったら……一日私の言う事をなんでも聞いてくれる?そしたら今直ぐにでも飛ぶよ



サトシ「はっ?



サトシが間の抜けた声を出すと、スイレンは頬を膨らませながらそっぽを向いた。



サトシ「……ああもう、分かったから早く飛んでくれ!



スイレン「オッケー、契約成立ね



スイレンがサトシと師匠に手を触れる。
すると、薄く青く光る閃光が巻き起こり、数瞬でその場からは誰もいなくなった。




………………………………

………………
392 名前:名無し 投稿日:2017/07/03 21:28 ID:DXjdvUZH



ガキィィンッと金属の擦れ合う音が響き渡り、摩擦によってあたりには火花が散る。
カスミとセレナ、ヒカリが繰り広げる接近戦の攻防戦は、熾烈をきわめていた。



カスミ「ほらそこ!



ヒカリ「くっ!



セレナ「はあ、はあ……コイツ……半端じゃないわね。本当に人間?



セレナが愚痴をこぼすように呟いた。
カスミの流れるようなナイフ術に、二人は翻弄されっぱなしだった。
彼女にはつけいる隙がまるで無い、ヒカリはまるで掴む事のできない雲を相手取っているような感覚だ、と感想を浮かべていた。



ヒカリ「カスミ……ハルカの……ハルカの話は嘘だったの?


ヒカリが警棒を構えたまま、カスミに対して口を開いた。
カスミは薄ら笑いを浮かべながらそれに返答する。



カスミ「ああ、ハルカがサトシの事好きって話?本当よ、だって本人から聞いたんだもん



セレナ「!?……サトシ?



セレナがサトシというワードを聞いて少しばかり反応する。
ヒカリはカスミのその言葉を聞いて、ギリッと奥歯を噛み締めていた。



ヒカリ「じゃあ……なんのつもりで私にそんな事言ったのよ!アンタはハルカが創造主って知ってたんでしょ!?



カスミ「そりゃあ……アンタがサトシと接近してホワイトホールに入る様に促す為よ。アンタがいる事でサトシの動きも活発化して対外部門とぶつける事が出来たし、ユカとかいう能力者に能力を行使させて弱らせる事に成功したしね、本当に感謝してるわヒカリ
393 名前:名無し 投稿日:2017/07/05 10:26 ID:gKNA7RJw

カスミが薄ら笑いを浮かべながらそんな事を平然と口にした。
ヒカリは怒りを抑え切れず、思わずカスミに向かっていこうとすると……。



突如中央制御室内部に青白い強烈な光が蔓延し、全員の視界を奪った。



カスミ「な、何よこの光!



カスミも例に違わず、光から逃れる為に視界を隠す様に腕を前に出した。
セレナはそんな最中、目を瞑りながらカスミへと突進した。



セレナの空間把握能力はジュンサー教育隊でもトップだった。
一度見渡した光景は目を瞑りながらでも闊歩できる。



そんな特技が、この緊迫した状況下でも多分にもれず、発揮された。
突進したセレナはドロップキックをかましてカスミの体を吹っ飛ばす。
カスミは受け身を取れず、司令椅子のある高台から落下し、下のホールへと体を打ちつけられた。


ヒカリは閃光が治ったのを恐る恐る瞼を開けて確認し、周囲を確認する。
ヒカリが見た光景は……息を切らしながら高台から下を見下ろすセレナと、閃光が起こった地点から姿を現した師匠とサトシ、青い髪をした少女の姿だった。
394 名前:名無し 投稿日:2017/07/05 10:47 ID:gKNA7RJw



ヒカリ「サトシ!師匠!



ヒカリの声を聞いたセレナは、ゆっくりと後ろを振り返ってその方向を確かめる。
そこには……驚いた表情でセレナを見ているサトシの姿があった。



セレナの胸が高まる……鼓動が早くなり、喉から声を絞り出そうとしても中々出なかった。
そうこうしている内に、サトシの方から言葉が発された。




サトシ「セレナ……か?



セレナ「……さ、サトシ?



サトシ「……なんでここに?



スイレン「私の可愛い後輩ちゃんだよ、トキワ支部公安の期待の新人さん。……やあやあセレナ捜査官、もしかしてもう最高幹部を倒しちゃった?流石だねぇ、私が頼んだのは偵察任務なのに楽園協議会のナンバー2をやっちゃうなんてさ



サトシ「……おい、スイレンどういう事だ?セレナが公安の新人だと!……いや、それより今は創造主だ……今そいつは何処にいる!




サトシが低い声を出してスイレンに言葉を放った。
スイレンは飄々とした態度でそれに返答する。




スイレン「ここにはいないよ、ちょっと後輩ちゃんの様子を見たかっただけだから寄り道しちゃった。後輩ちゃんもサトシに会いたがってたからねぇ……それにほら、サトシのお師匠様にも会いたがってる奴がいるみたいだよ



スイレンが上空を指をさしながらそう口にした。
全員がその言葉に中央制御室の高い天井を見つめる……そこには、ピカチュウの頭を鷲掴みにして、宙を浮いた状態のフードの少女の姿があった。
395 名前:名無し 投稿日:2017/07/05 11:12 ID:gKNA7RJw


サトシ・ヒカリ「ピカチュウ!?



サトシとヒカリの声が重なった。
フードの少女は空中を漂いながらニヤリと笑みを浮かべ、師匠に向かって口を開く。




??「大分弱っているようだなミカ……そんな事で私の親友を殺す事ができると思っているのか?




師匠「……アカリか。貴様はユカの事をまだ親友だと思っているのか?……救いようがないな、お前はただ利用されただけだ、現にユカは全てを忘れて楽しそうに一般人として暮らしておるだろう?無意識化に世界の理りを破って滅亡を早めながらな!




アカリ「ユカが望んでいるのは完璧な新世界だ、恨みも、絶望も、破壊も、復讐もない……そんな素晴らしい世界なんだぞ!それを実現させるためなら私は犠牲も厭わない、我が身が消滅しようともな!
396 名前:名無し 投稿日:2017/07/05 12:36 ID:h4DX0Y91
ピカチュウがかませいぬ化してて草
397 名前:十五歳の早計 投稿日:2017/07/05 13:38 ID:gKNA7RJw
ヤツはアニメでもかませですよ
398 名前:名無し 投稿日:2017/07/05 21:32 ID:QugkElsa


師匠「全く……これだから盲信の激しいクソは嫌いだ……サトシ、切り札を出せ。一瞬で終わらせろ




師匠が苦しそうに膝をつきながらそれを口にする。
切り札というその言葉に、その場にいた人間は様々な反応を見せていた。



ヒカリは未だ自分の知らないサトシの切り札という存在に疑問を浮かべ、セレナは状況を把握できてない様に困惑していた。
スイレンは興味深そうに笑みを浮かべ、空中に浮かぶアカリという能力者は下らない、と高を括っていた。



アカリ「切り札だと?……笑わせるな。まさかそれがポケモンだとか言わないよな?二千年前の戦争でお前と対等に渡り合ったのは私だけだぞ、ポケモンなどという人にもなりきれなかった不完全な存在で私を殺せると思うのか?





サトシ「おいおい、ポケモンが不完全だって?お前の大好きな創造主が生み出したんじゃねーか、それを不完全って言うことは創造主を罵倒してんのと同じじゃねーのか?




アカリ「フン……不完全だからこそ創造主は新世界を作ろうとしているのだ。お前らとは違う究極の生命体が生きる世界をな。それもわからん小僧が御託を並べるな




サトシ「分からんね……全然。究極の生命体?ふざけんじゃねーぞ、そんなのいてたまるか。俺はな……たった一つだけ創造主に感謝する事があるとするなら……コイツらだ。ポケモン、この存在を生み出してくれた事だけには頭があがらねー……




サトシはそう言った後、膝をついている師匠の耳元で「切り札なんか必要ありませんよ……任せて下さい」と、小さく囁いた。



師匠「……まあ、よいか……好きにしろ



師匠の言葉にサトシが頷いた後、一歩一歩アカリに近づいていった。
アカリは顔をしかめながらそれを見ていた。
その表情は切り札というモノを警戒している様だった。




サトシ「バカみたいに強くて、バカみたいに素直で、バカみたいに一緒にいて楽しい……仲間になったポケモンは血なんか通ってなくとも家族になれるんだ、本物の家族にな




アカリ「ハッ!家族だと?コイツは最高に傑作だ!従属させる機械を使って無理やり自由という権利を奪っている貴様ら人間がポケモンの家族?ハッハッハ!どの口がそれを言う!もしこれから奴らが人間達の呪縛から離れ、言葉を喋る様になったなら……お前ら人間はとっくの昔に殺されておるぞ!




サトシはその言葉を聞いて、穏やかな微笑を浮かべる。
そして、ゆっくりと口を開いた。




サトシ「そうなのか?……ピカチュウ?
399 名前:名無し 投稿日:2017/07/05 21:56 ID:QugkElsa



ピカチュウ「そうだね……でも一番殺したいのは……



ピカチュウが呟く様に言葉を発した。
アカリは驚愕の表情を浮かべながら、ピカチュウを地面に振り落とす様に投げた。




ピカチュウは地面から落下していく瞬間、片手で照準を合わせ……サトシ本人でさえも見た事がない程の、猛烈な電撃を放った。




ピカチュウ「一番殺したいのは……君だよ




アカリ「無駄だ!お前の電撃は私の防御壁を貫けん!



アカリがバリアを発生させ、ピカチュウの電撃を真っ向から受け止める。
余裕の表情を浮かべていたアカリは、なぜか猛烈を通り越し、痺れるような感覚に気がついて視線を自分の下部に向ける。
するとそこには……さっきまであった自らの下半身が吹き飛んでいるのが見えた。





アカリ「な!?……ガッ




ピカチュウ「……電気を一点に集中させたからね……鋭さは最初に放った電気の十倍さ。……トドメにもう一発
400 名前:名無し 投稿日:2017/07/06 14:56 ID:Dx8IusRe
終わる終わる詐欺ですか笑
読者としては終わらないのは嬉しいことですが笑
401 名前:名無し 投稿日:2017/07/08 07:40 ID:ot3FobeQ
しえーん
402 名前:名無し 投稿日:2017/07/09 19:26 ID:GGCPZ8E5
終わる終わる詐欺サーセン。
七月は何がと忙しく、またゆっくりと進めたいと思います。
とりあえず今日の夜中にまた書き進めたいと思います。
403 名前:名無し 投稿日:2017/07/09 22:11 ID:GGCPZ8E5


次の瞬間、ピカチュウの電撃が全てを貫いていた。
強烈な閃光、爆発、衝撃。



天井にピカチュウの放った電気が蔓延し、照明を容赦なく破壊する。
爆煙が起こり、それが完全にはれる頃には赤い霧となって宙を漂うアカリの姿があった。




師匠「……バカなヤツだ。ワシらは二千年の内に半分以上の力を失っているというのに……。老害が思想を持って張り切った所で残るのはただの残骸だけだ




施設全体が強烈な電撃で停電した様だった。
すぐさま赤い非常電灯へと切り替わり、あたりは赤い景色へと様変わりする。
師匠は息を荒らげながらゆっくりと立ち上がった。





辺りを見回すと、ピカチュウを抱き抱えるサトシの姿があった。





サトシ「おい……何あんな相手に頭を掴まれてのんびりしてたんだよ、寝てたのか?




ピカチュウ「その通りだよ……ちょっと働き過ぎたからね、休憩してただけさ




サトシ「ハッ……そうかい。……これから創造主狩りだ、ボールでしっかり休め





ピカチュウ「……いや、創造主が誰かまだ分かってない……最後まで見届けさせてよ




サトシ「……分かった
404 名前:名無し 投稿日:2017/07/10 00:17 ID:2P0sBfpd


サトシがピカチュウを抱き抱えながら立ち上がる。
その彼の瞳は、真っ直ぐとスイレンを捉えていた。



サトシ「さあ……行こうぜ



スイレン「ヒーローショーはもう終わり?




スイレンはおもしそうに微笑みながらそんなことを口にした。
それに対し、サトシは不機嫌そうに口を開く。



サトシ「何がヒーローショーだバカ野郎、ただの薄汚い終幕だ




スイレン「ふふっそうかそうか。私は楽しめたよ、君たちの薄汚い終幕。じゃあ……そろそろ創造主とご対面といこうか
405 名前:名無し 投稿日:2017/07/10 05:13 ID:Fandzphs
楽しい
406 名前:名無し 投稿日:2017/07/10 19:18 ID:2P0sBfpd

スイレンはそう言うと、警棒を握ったままこちらに歩み寄ってきていたセレナに気が付き、そちらの方向に向き直った。



セレナは困惑する様な、怒りを抑える様な何とも言えない表情を浮かべていた。



セレナ「……スイレン部長、さっきから私の理解が追いつかない事ばかり起こっていますけど……貴女は全部知っているみたいですね……それは一体いつになったらご説明頂けるんでしょうか



スイレン「そうだね、君にはいくつかというより、沢山隠している事があるよ。でもそれは一重に君が優秀すぎるからだ。創造主なんて神まがいの存在を公安がずっと排除しようとしていたなんて言っても常識人からしたら混乱するからね




セレナ「ッ!それがーーー



スイレン「はいはい、明日にでも全部話したげるよ。今日はもう業務は終了。ご苦労様、今度ご飯でも奢るよ



スイレンがそんな事を言いながらセレナに手をかざし、青い閃光を放つ。
セレナは何か言いかけた状態で閃光と共に姿を消した。



スイレン「さあて、そんじゃあ煩いのもテレポートで居なくなったし、 行くとしますか。紳士淑女のみなさま、ご覚悟の程は宜しいですか?



スイレンはそう言っておどけてみせる。
サトシと師匠はイラついた様子で彼女を見ていた。



その中でヒカリだけが……創造主の存在を認知しており、絶望に打ち震えていた。




…………………………

………………
407 名前:名無し 投稿日:2017/07/10 22:21 ID:zrxVTrli


トキワシティーの新たな光となるはずだった最新で最高峰の発電所、トキワパワープラント217。
その場所も温かみのある黄色い電気は消え失せ、残されたのは赤色の不気味な非常用電灯だけだった。



その最深部……電力供給が行われる心臓部。
そこに青色の強烈な閃光が舞い降り、現れた数人の人影があった。




スイレン「敵影は無しか、どうやら命令系統の完全な消失で撤退したようだね




サトシ「……




サトシはスイレンの言葉には答えず、ゆっくりと歩みを進めた。
サトシだけでなく、サトシに抱えられたピカチュウ、師匠、ヒカリ、スイレンもだ。
赤い、まるで地獄の景色を彷彿とさせる様な視界の悪い状況の中……ぼんやりとエネルギーを供給する巨大な装置と、その前に置かれたカプセルが見えてきた。



サトシは人の姿であるピカチュウを抱えたまま、片手で器用に腰の拳銃を抜き取る。
そして……カプセルの中に入っている人物を確認できる、数歩の距離まで近づいた。




サトシ「……ハルカ



ピカチュウ「……



サトシは抱えていたピカチュウをゆっくりと地面に下ろした。
彼はカプセルに近寄り、愛おしそうに中で眠っている少女の事を見つめる。



サトシ「……もう……コレで最後だよな?……俺の人生で最悪な事は



サトシは呟く様に言った後、カプセルを開閉するボタンを押した。
プシューという作動音と共に、中にいた少女が外へと倒れ込んでくる。
サトシは地面に落下しそうになった少女を優しく受け止めた。




サトシ「……




そしてサトシは……彼女をゆっくりと地面に横たわらせた。
彼は立ち上がる。
そして当然の様に静かに眠る少女に向けて拳銃を構えた。
彼の表情は決して一言では表せなかった。
絶望、憎悪、愛情、悲しみ……それら全てが合わさった様な……まるで感情そのものの様だった。
撃鉄をあげる。
トリガーに指をかける。
狙う。
…………。




その工程を噛みしめる様に彼は行う。
その最中……ここで、最も最悪と言えるべき事態が起きた。





ハルカ「ん……ん?……サトシ?
408 名前:名無し 投稿日:2017/07/10 22:38 ID:zrxVTrli



サトシ「ハルカ……



サトシは迷わずトリガーを絞ろうとする。
そこに、ハルカが泣き笑いの様な笑みを浮かべながらサトシに抱きついた。




ハルカ「サトシ!助けにきてくれだんだね!?……怖かったよ……サトシ……グスッ……いきなり訳のわからない集団に連れさられて……気づいたらこんな所に



涙を流しながらそう口にするハルカ。
その表情は安心しきった様に身を委ねる、一人の少女だった。



サトシ「ああ……もう心配すんな……ハルカ……お前は……お前は何も悪くない。全部悪いのは……悪いのは……




サトシはハルカを振り払った。
驚いている彼女を他所に、彼は拳銃をコメカミに突きつける。




サトシ「全部悪いのは……俺だ!俺なんだぁああああああ!!




銃声が響き渡る。
閉鎖空間のせいか……その音は何重にもこだまして、その場にいた者の鼓膜に焼きついた。

409 名前:名無し 投稿日:2017/07/10 22:52 ID:zrxVTrli




サトシ「……ダメだ、ダメだダメだダメだ!……俺がやらなきゃいけなかった!俺が、俺が手を汚さなきゃいけなかった!



サトシは膝をついてその場で絶叫していた。
視界の悪い赤暗い空間の地面には、非常用電灯の色か血の色か判別出来ない液体が水溜りとなっていた。




そして……サトシの側には……弾丸の発射されていない拳銃が一丁。
先程銃声を轟かせたのは……ヒカリの自動小銃だった。




サトシ「あああ!!ダメだ!なんで俺は撃てなかった!撃たなかったんだ!ヒカリに手を汚させた!俺は、俺はああ!!



ヒカリは自動小銃を地面に落とすと、絶叫するサトシの側に近寄った。
そして……背中から優しくサトシを抱きしめる。
その少女の目からは……涙は流れていなかった。




ヒカリ「……サトシは悪くないよ……サトシは色んなものを背負い過ぎたの……これ以上背負う必要は無いよ……




サトシ「違う!俺は!!



ヒカリ「後は任せて……私が、私がこれからはサトシに変わって全部背負うから……ゆっくり休んで

410 名前:名無し 投稿日:2017/07/10 23:06 ID:zrxVTrli



ヒカリは決意に満ちた表情を浮かべながら、そう口にする。




そして……ヒカリはサトシから身を引いて立ち上がり、ゆっくりと目を閉じた。
彼女は……銃を撃ってからこちらを品定めするかの様な視線を送る者の存在を確かに感じとっていた。




「おまえつよいね、びっくりした



生意気そうな舌足らずな声。
聞いただけでヒカリはその声の主が幼い年齢なのが分かった。
そして……その声の主がだれなのかも分かった。




ヒカリ「創造主……貴女の負けよ



ユカ「みたいだね……まさかほんとうにうつとはおもわなかった……もうすこしでパワーが、かんぜんふっかつでしんせかいをつくれたのにざんねんだなあ



ヒカリはゆっくりと目を開けると、目の前の空間が真っ暗になっているのが分かった。
そして……その空間で唯一光を発する……五歳位の女の子が楽しそうにこちらを見ていた。




彼女こそが今までの元凶、世界を作り、破壊しようとした……創造主本人だ……ヒカリはそう確信していた。


411 名前:名無し 投稿日:2017/07/11 10:38 ID:Kyuf7Yet


創造主「わたしはさいごのちからでおまえのこころにこうやってしんにゅうしたわけだけど……わたしがなんでそんなことしたのかわかる?



ヒカリ「……




創造主「おまえにちからをあげたのはわたしだよ?
それはなえどこ、おまえのからだにわたしがいどうしてのっとることもできるんだよ?




師匠「それはワシがさせん



聞こえてくる精神世界での、第三者の声。
ヒカリは声音からして師匠なのだという事を理解した。
412 名前:名無し 投稿日:2017/07/11 15:42 ID:GrMdMwSY
ハルカのコメカミにサトシが銃口を当てたけどサトシが撃つ前にヒカリがハルカを撃ったって事?
413 名前:名無し 投稿日:2017/07/11 15:57 ID:bfIQ1YuU
そうです、結局サトシはハルカを撃てませんでした。それで後ろにいたヒカリが手を汚した訳です。
414 名前:名無し 投稿日:2017/07/13 16:11 ID:EitNg4aL
支援
415 名前:名無し 投稿日:2017/07/13 20:41 ID:4jUEdHl4

ヒカリは振り返り、師匠の声がした方向へと顔を向ける。
そこには……ヒカリの予想だにしない光景が待ち受けていた。



ミカ「ユカちゃん……もうやめようよ。これいじょうやってもなにもかわらない……すばらしいせかいをつくろうとしたんだね?わかるよ……でもわたしは……このせかいがすきなの、こわしたりしないで、きらいになったりしないで



そこにいたのは五歳位の姿をした師匠の姿だった。
それは師匠から見せられた想像世界での幼少期の姿だ。
それをみて、ヒカリだけでなく創造主も驚いた表情を見せる。




ユカ「ミカちゃんがこのばしょにいるってことは……このこむすめのせいしんせかいはすでにはいりこむよちがないんだね……なんでわかってくれないの?わたしならかえることができるんだよ?けっきょく、まえのせかいはセンソウであれちにかわったじゃない……わたしがすべてをつくりかえても、なにもんだいないよ!




ミカ「そうだね……まえのせかいはみにくいヒトのせいで、ボロボロになっちゃった……だけどね、ユカちゃん……いますんでるヒトたちをころしてまでつくるせかい……あなたがゆめみるせかいはほんとうにそのぎせいにみあうせかいなの?そんなせかいなの?




ユカ「……わたしだって、わたしだってとちゅうでまちがってるってきづいたよ!
416 名前:名無し 投稿日:2017/07/13 21:29 ID:4jUEdHl4


創造主は涙を流しながら舌足らずな声を上げる。
その姿は癇癪を起こす年相応なただの幼児となんら遜色はなかった。
しかしその瞳に映る濁った色は……ナニモノにも染まらない、真っ黒な闇を抱えていた。




ユカ「ヒトがいるからせかいはしあわせになれない!だからわたしはヒトをモンスターにかえてコロシた!いきのこりのチカラをもったヒトもコロシた!チカにいそいそとにげてひなんしていたきたないオトナたちもコロシた!たくさんのヒトもモノもコロシてこわした!………そのケッカがこれなの?たのむからミカちゃん、わたしのツミをこのままのこさせないで!わたしはもうひきかえせないの!





ミカ「……そう、もうひきかえせない。ツミはうすまらないし、よけい大きくなるだけ。だけど……そこで……そのバショでたちどまるコトはできる!





師匠は創造主に抱きついていた。
微かに流れ始める両者の涙。
やがてお互いに肩を震わせながら、わんわんと泣き出し始める。
それはまるで……ケンカを終えて和解した仲の良い姉妹の様だ。
ヒカリはそれを見て、穏やかな感情を抱いている自分の存在に気が付き、驚いていた。





ーーーーーーやがて泣き止んだ二人は、暫くお互いに見つめあった状態のままだった。
泣きはらした涙をぬぐい、創造主は師匠の手を離して、一歩後ろへと下がる。



ユカ「わたし……もうやめる。このせかいをこわすことも……つくることも……いきることも




ミカ「……ユカちゃん




ユカ「わたしはたぶん、だれからもユルされることはないから……ジゴクでいっしょうぶんのツミをつぐなってクルしむとおもう……だけどまあ、それもわたしがえらんださいごのみちだから……ミカちゃん




ミカ「……なに?




ユカ「きづかせてくれてありがとう……わたしをとめてくれてありがとう……たぶんわたしは、だれかにとめてほしかったんだ……しかってほしかったんだ……せめてものツグナイといっていいのかわかんないけど……さいごのチカラをつかってハルカだけはたすけようとおもう




ヒカリは創造主のハルカは助けるという言葉に反応した。
同時に、疑問をもった彼女に対し、創造主は口を開く。




ユカ「ハルカはただのわたしのウツワ……チカラをつかってきずをしゅうふくさせれば、イレモノだったなにもしらないハルカだけはたすかる……わたしのソンザイをけすほどのエネルギーをつかえばかのうだよ




真っ暗闇な空間に突如光の穴が開いた。
創造主はそこに向き直ると、背を向けながら言葉を続けた。




ユカ「……ミカちゃん、ヒカリ。わたしは……ちょっとのあいだだったけど……ハルカとして……アナタ達といられてたのしかった、うれしかったよ……ゼツボウとシンネンがゆらぐほどに……つごうがいいとはおもう。けどさいごにひとつだけいわせて……ありがとう、そして
417 名前:名無し 投稿日:2017/07/13 22:53 ID:S9x0NE92



ユカ「さようなら



創造主はそれだけ言うと、光の穴に飲まれて姿を消した。




………………………………

…………………

真っ暗闇だった空間が白の世界で満たされていく。
ヒカリは気がつくと、師匠が元の姿に戻って創造主の消えた辺りを見つめていた。




師匠「クソが……散々好き放題やったクセに最後は楽しかったなどとほざきおって、精々地獄で苦しむがいい……しかし、まさかこんな呆気ない終わりだとはな……いかんな、千年を超えて殺し合いをしていると……どうも疑り深くなってしまう。ワシもそろそろ引退か?




師匠はそんな事を言うとヒカリに対し、穏やかな笑みを浮かべた。
ヒカリは無表情のまま口を開く。




ヒカリ「……師匠




師匠「何じゃ?




ヒカリ「これでもう……終わりですか?




師匠「……始まりだ。この世界に曲がりなりにも管理者足り得る神が消えた。世界崩壊は防いだが……これからは能力者でなく科学を持った人間の時代が到来する。神秘と科学の曖昧な狭間が消え……真実だけの世界だ




ヒカリ「……どういう事ですか?




師匠「つまりはだな……飽くなき闘争の時代。人間の世の時代じゃ。ワシらはこれから自分たちだけの力でやっていかねばならん。世界を作り変えた神は死んだ……どうなるやら想像もつかん




ヒカリ「……
418 名前:名無し 投稿日:2017/07/14 12:52 ID:l5TeGs5f
師匠のキャラが好きだなー
支援
419 名前:名無し 投稿日:2017/07/15 10:14 ID:xOOSks0J


師匠「楽園協議会以外にも凶悪な組織は他にもある……それだけでない、地方連合諸国近隣にある国々は狡猾で獰猛だ。地方連合の旗が陥落するのも遠くない未来かもしれん




ヒカリ「それを……




師匠「ん?




ヒカリ「それを止めるのは……勿論私達ですよね?



ヒカリが決意に満ち溢れた様に言葉を発する。
師匠は満足気に笑みを浮かべた。





師匠「その通りじゃ、地方連合だけでなく苦しんどる者は他にもおる。ワシらがそれらを救わんでどうする




師匠はそういうやいなや、目を瞑って精神世界を終わらせる為に力を行使しようとした。
すると、何故かそれをヒカリが焦った様に阻止した。




ヒカリ「待ってください、師匠!
420 名前:名無し 投稿日:2017/07/15 10:40 ID:xOOSks0J



師匠「……なんじゃ?




ヒカリ「……一つ、お願いがあります




訝しげに口を開いた師匠に対し、鋭い眼光でヒカリは言葉を続ける。




師匠「言うてみよ




ヒカリの口にしたその願いに、師匠を表情を歪ませた。




師匠「……アイツは曲がりなりにもワシの最高傑作じゃ。そうやすやすと首を縦に降る事を出来ん
421 名前:名無し 投稿日:2017/07/16 05:46 ID:e5NiQ43p
支援
422 名前:名無し 投稿日:2017/07/16 21:12 ID:QSRfLUM6



ヒカリ「それでも!……私は……彼にもうこれ以上背負わしたくない!



師匠「貴様の感情はどうでもいい……ふむ、という事はなんだ、お前はヤツの代わりに全てを背負おうとでも言っているのか?ワシらのこれからやる事は地方連合だけでなく諸外国も巻き込んだ世界浄化だ。生半可な覚悟では……いや、覚悟を持ってしても次の瞬間には塵となってこの世界をユラユラと漂う事になるぞ




ヒカリは黙ったまま笑みを浮かべる。
その力強い笑みに、師匠は全てを納得した様に口を開いた。




師匠「全く……ワシはとんだ拾い物をしたようじゃな。最初は有能なただの小娘と思っておったが……ククッ、サトシより向こう見ずの大馬鹿者じゃった様じゃな。よかろう……お前の願いを承諾してやる。しかし、条件じゃ




ヒカリ「何ですか?




師匠「三ヶ月でサトシと同等に強くなれ。それが出来なければお前との約束も反故だ。そして……ホワイトホールを今より強大にしてみせよ、なんせお前は……ホワイトホールの新たなボスとなる訳だからな、期待しているぞヒカリ





ヒカリ「はい……お任せ下さい




………………………………


…………………



朝日が昇る、憂鬱な朝だ。
いつもと変わらない。
ピピピッと鳴った目覚ましが俺の鼓膜を断続的に揺らし、不快感を膨張させる。



サトシ「クソッ……こんな早くに設定したの誰だよ。……て、俺か
423 名前:名無し 投稿日:2017/07/16 21:18 ID:QSRfLUM6


俺は伸びをすると、目覚ましのアラームを乱暴に止めて自分のベッドから起き上がった。
欠伸をしながら階下の洗面所へと向かう、その途中で世界大会を優勝した時の額縁を見つけ、俺は足を止めた。




サトシ「……



俺と優勝したポケモン達が写っている写真だ、眩しい笑顔を向けてカメラに向かってピースをしている。
俺はそのポケモン達の中の、ある一匹に指を触れ……呟く様に言った。




サトシ「何処に行ったんだよ……ピカチュウ
424 名前:名無し 投稿日:2017/07/16 21:49 ID:QSRfLUM6



…………………………

…………


俺はこのマサラタウンで、世界大会を優勝してから仲間達を呼んで盛大にパーティーを開いた……らしい。
らしいというのは、どうやらその後に俺は交通事故に遭い……頭を強く打って数日間の眠りについていた様だった。
気付けば病院のベッドにいて、事情も説明された。



その事故の影響か、ここ数日間の記憶が曖昧だ。
昨日病院から家に帰ってきて色々思い出そうとしてみたが……パーティーの時の事も正直あまり覚えていなかった。

でもまあ、一生涯の記憶を失った訳じゃ無いので生活になんら問題は無い……そう思っていたが。



俺は自分の腰に装着されたボールに手で触れてみる。一つ、二つ、三つ、四つ、五つ……空のボールが一つ、ピカチュウだけ姿が消えていた。




事故後からあいつの姿が見当たらない、俺は慌ててトキワ警察に届け出たりもしたが……一向に事態は進展していなかった。



警察は窃盗団の可能性があるとして捜査を始めようとしてくれていたが……しかし俺は窃盗団なんかちっぽけな存在が原因とは違うと確信していた。
なんせアイツは世界最強も名高い俺のパーティーのエースだ。
窃盗団では手に余る強さだろう。
それに……ピカチュウは最近何か元気が無かった気がする。
思えば俺とアイツは昔と比べてスキンシップも減っていた。
長年連れ添えばそんなもん位に思っていたが……。



もしかしたらそれが原因で家出?
俺はそんな事を頭に浮かべると、ナイナイと苦笑しながら脳内で否定する。
アイツとは長く一緒にいすぎた、何か不満があったならそれを表明する位はしてくるだろう。



なら他に何か理由があったのかもしれない、アイツが黙って俺の前から姿を消すなんてよっぽどの事だ。少なくとも第三者による事件性はないと俺は確信づけていた。




………………………………

…………………



俺は自分の足でピカチュウを探してみる事にした。
家に置き手紙を置いて旅行から帰ってきた母さんに心配をかけないように事情を綴った。



アテはない、だが幸いな事に俺は旅に関してはベテランだ。
先ずは近隣の山から、そして……今まで旅したルートをもう一度歩いてみようと思う。
425 名前:名無し 投稿日:2017/07/17 18:32 ID:05ETexIp
まじでこの流れ!?
支援
426 名前:十五歳の早計 投稿日:2017/07/17 19:38 ID:hYGszvWM
今夜書き進めていきたいと思います。
427 名前:名無し 投稿日:2017/07/18 04:53 ID:lWIr7iQp



……………………………………

……………


出発の朝、少し不思議な事が起こった。



それは俺が靴を履いて、玄関から幸先よく飛び出た時だった。
……何故だろうか。
他人の気がしない、ショートカットの髪をした美少女が悲しそうな表情を浮かべながら俺の家の前の道に立っていたのだ。




サトシ「えっと……君は?




??「……ピカチュウからの伝言。全部終わったら必ず帰るから……お願い、待っててね……それまでさようなら




サトシ「!?なっ!!




俺はその言葉を聞いた瞬間、その内容の真意を問いただそうと彼女になかば突進する様な形で向かっていた。
すると、彼女から青い閃光が煌めき始め……俺が彼女に到達する前に鮮やかな閃光と共に姿を消したのだ。





サトシ「うわっ!?




強烈な光に思わず俺は尻餅をついた。
俺は暫くして……視界が悪くなった瞳をしごいて、ゆっくりと立ち上がる。
俺は訳がわからなくなって、その場で暫く呻いていた。





サトシ「クソっ……どうなってんだよ……何処にいるんだよ!ピカチュウ!




428 名前:名無し 投稿日:2017/07/18 06:36 ID:lWIr7iQp



………………………………

…………………


トキワ警察署、会議室。
そこには地方連合を代表とする名だたる組織の代表が集まっていた。
対外部門トップのカナダ。
対外部門実行部隊指揮官、シゲルとマオ。



そして……公安警察署長のタケシ、部長であるスイレン、捜査官のセレナである。




カナダ「さてと……今回の件について、対外部門に言うべき事があるんじゃないですかな?……タケシ署長




タケシ「さあ、皆目見当がつきませんね




コメカミにシワを寄せ、怒りを表していたカナダの言葉をタケシは涼しい顔でいなす。
カナダは感情的に言葉を続けた。
429 名前:名無し 投稿日:2017/07/18 06:49 ID:lWIr7iQp


カナダ「発電所での事だ、ウチに連絡もよこさずに勝手に解決しおって!しかもホワイトホールとの共同作戦を行なっただと!?奴等は立派なテロリストだ、義賊も貴族もクソもあるか!私達は法の番人だぞ!




タケシ「なるほど、その事についてでしたか。いいでしょう、ご説明致します。部長、スクリーンの用意をしてくれ。用意した資料映像を対外部門に本邦初公開だ




スイレン「だって、セレナ捜査官




セレナ「……




セレナは貴女が言われたんじゃないのか?と不満気な顔を浮かべながらスクリーンの用意を始める。
映し出された映像を怪訝に見つめる対外部門の面々に穏やかな表情を浮かべながらタケシは口を開いた。





タケシ「皆さんは創造主という者についてご存知でしょうか?


430 名前:名無し 投稿日:2017/07/18 06:57 ID:lWIr7iQp



…………………………

……………


ホワイトホールの一台の改造車両が中継地点である基地の中央で停まった。
出迎えるのは全隊員の総勢50名である。
非武装の幹部、重武装の戦闘員が一糸乱れぬ隊列でその車両を出迎えていた。




一人の隊員によって車両のドアが開けられる。
そこから現れたのは……長い髪にニット帽を被った少女の姿だった。




サイラス「お待ちしておりました、ボス。地方連合委員会のスパイについて、ご提案させていただきたい事があります




ヒカリ「……そう




ヒカリは短く答えると、誘導する幹部に付き従ってCP用テントの中に入っていった。




431 名前:名無し 投稿日:2017/07/18 07:10 ID:lWIr7iQp



……………………………

……………

トキワの森、西部に位置する小高い丘。
そこに青い閃光と共に現れた二人の少女の姿があった。
一人は髪の長い、幻想的なまでに美しい少女。もう一人はショートカットの髪をしたこちらも美少女だ。髪の長い少女は愉快そうにショートカットの少女に話しかける。




師匠「貴様はヤツの元に戻っても良かったんじゃぞ?何故戻らん



ピカチュウ「……サトシは今、全てを忘れてるんですよね?……血の匂いも、硝煙の香りも、戦場の景色も……




師匠「だから相容れぬという事か?案外細かいヤツじゃのお前




ピカチュウ「それに……ポケモンのフリして自分を騙すなんて……そんなの死んだ方がマシですよ




師匠「ほう……おい、ピカ娘や。お前はヒカリが憎くないのか?サトシに記憶を無くさせる様に懇願したのはヒカリだぞ?




師匠の言葉に、ピカチュウはこれ以上ない程の苦笑を浮かべた。




ピカチュウ「さあ……どうでしょうね。ただ……




ピカチュウは天空を仰いだ。
どこまでも高い空、流れる雲。
それを噛みしめる様に見つめてから……ゆっくりと口を開く。




ピカチュウ「壊れたヒカリを見てると……思ったより心が安らぐんですよ


432 名前:十五歳の早計 投稿日:2017/07/18 07:33 ID:lWIr7iQp
プロローグ終了しました。
新しいスレを立てて、いよいよ本編をスタートさせようと思います。

次スレのタイトルは
サトシ「何処いったんだよ……相棒 です。

次からサトシの完全な一人称で物語が進みます。
分かりにくい部分や改善点があれば教えて下さい。
今まで読んでくださった方、支援くれた方ありがとうございました。



勘違いボーヤの僕もやっぱり支援があるとモチベーションが断然違います。
敬愛するイッチさんも言っているので間違いないです。
433 名前:名無し 投稿日:2017/07/18 08:17 ID:lWIr7iQp

後半は少し展開を急ぎすぎてハチャメチャになってしまった節がありました、なので次スレではそれがない様にじっくりゆっくりと進めようと思います。
434 名前:名無し 投稿日:2017/07/18 10:35 ID:hK7MGob3
プロローグ!?
衝撃過ぎる…
後、書き始めたなら次スレのURL貼ってください!これからも頑張ってください!
435 名前:名無し 投稿日:2017/07/18 19:29 ID:jVUwNjpB
まだプロローグなんですか!?
もう本体に入っていたのかと...
続編期待しています!
436 名前:名無し 投稿日:2017/07/18 22:53 ID:N72X4Zji
続き

http://sssoukovip.com/thread/404/
437 名前:ミラクル1 投稿日:2017/07/29 14:04 ID:C3kAPU3n
プロローグなげーな笑

爆笑だよ~笑
438 名前:十五歳の早計 投稿日:2017/08/06 23:38 ID:4YuSefp3


本来はこのプロローグはやる筈ではなかったのですが……。
本編でいきなり創造主とか出てきても訳わかんないだろうと思ったのでやっちゃいました。
多分やったとしても伏線回収でヒーヒー状態になるのが目に見えているので、結果的にやってよかったと思っています。

このプロローグでも……結構伏線を張ったのを皆さんはお気づき頂けたでしょうか?
最初のカスミとヒカリのファーストコンタクトの時に、カスミが喋る内容が矛盾していたり、中盤くらいでサトシとレッドの会話で出てきたヒガナという人物。
そして最後らへんの師匠の「能力者か……公安は流星の民だけでなくとんだ隠し球を持っていたか……」というセリフ。
この辺の伏線をバッチリ本編で回収していきたいと思っているので皆さんよろしければ暇つぶしにでも読んで下さい。
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